備忘録(2025/6/19)
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米当局者らは、数日以内にイランに攻撃する可能性に備えている。事情に詳しい複数の関係者が明らかにしたもので、米国がイランとの直接的な軍事衝突に向けた体制整備を進めている兆候となる。
匿名を条件に語った同関係者によると、状況が変わる可能性はある。週末に攻撃するシナリオを指摘する向きもある。関係者1人によると、複数の連邦機関の上層部も攻撃の準備を始めているという。
イランから発射されたミサイルは19日、イスラエル南部のソロカ病院に着弾した。両国の民間人に被害がおよぶ危険があらためて浮き彫りになった。イスラエル保健省によると、この攻撃で複数の軽傷者が確認された。同国のネタニヤフ首相は、イラン政権に「完全な代償」を支払わせると述べた。
イスラエルのカッツ国防相は、「国家への脅威を排除し、イランの体制弱体化を図るため」、戦略的および政府関連の標的への攻撃を強化する方針を示し、イラン最高指導者の「ハメネイ師は責任を問われることになる」と言明した。
こうした発言は、イスラエルがイランの核開発阻止にとどまらない目標を掲げていることを示している。イスラエル軍は夜間にイラン西部アラクにある稼働停止中の原子炉を含む数十の軍事目標を攻撃した。
紛争激化を抑えるための努力が続くなか、米国も対応策を検討している。アラブ首長国連邦(UAE)の大統領外交顧問であるアンワル・ガルガシュ氏はXで、イランとイスラエルの戦争について「両国と地域にとって重大な転換点であり、広範な影響を及ぼす局面だ」と述べ、戦闘停止と対話再開を呼びかけた。
イランのアラグチ外相は、欧州連合(EU)代表団と20日にジュネーブで会談すると、国営イラン通信(IRNA)が報じた。
トランプ大統領はここ数日、イランへの攻撃の可能性を示唆する発言をしてきた。イランとイスラエルの交戦は、1週間近く続いている。
トランプ氏は18日、ホワイトハウスで記者団に対し、「何をすべきか考えがある」とした上で、中東情勢は流動的であることから「最終判断は期限の1秒前」に下すのが好ましいと語った。
これに先立ち、イランを攻撃する方針に傾いているのか問われた際、「やるかもしれないし、やらないかもしれない」と同氏は述べていた。
ホワイトハウスの当局者はあらゆる選択肢が引き続き議論の対象となっていると述べた。
米当局者がイラン攻撃の可能性に備えていると伝えられたことを受け、アジア株の指標は一時0.7%下落した。
トランプ氏の姿勢は、核問題でのイランとの合意に向け外交交渉を働きかけていた1週間前からの方針転換となる。
攻撃を数日間待つことでイランの指導者に対し、攻撃回避のため一部のウラン濃縮能力を放棄する用意があるという意思をトランプ氏に伝える猶予を与えることになる。
トランプ米大統領がイスラエルと共にイランの核施設攻撃に加わる決断を下すかどうか世界が見守る中、多くの専門家はイスラエル単独ではこの任務の完遂は困難だと指摘している。
イスラエル軍は、山中深くに位置するイラン中部フォルドゥの地下ウラン濃縮施設を貫通するために必要とされる大型爆弾やステルスB2爆撃機を持たない。イランの核開発を阻止するには、フォルドゥ施設の破壊が作戦の成否を握ると考えられている。
だが、これに異議を唱える向きもある。あるイスラエル高官は匿名を条件に、米軍が持つバンカーバスター(地中貫通爆弾、MOP)を使わずとも「多くの選択肢が残されている」と語った。
外部専門家もこうした見方に賛同しており、米科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト所長もその一人だ。
同氏は「タブレット・マガジン」の質問に対して、イスラエルが単独で核施設を破壊できるとの見解を表明。「特殊部隊による襲撃で地雷を仕掛けることもできる。天井を破壊したり、構造体を弱体化させたりすれば、施設に入ることが極めて困難になる。数カ月の作業を要するようであれば、それは実質的な破壊だ。仮に中に入れても、大半の遠心分離機はすでに破損している可能性が高い」と述べた。
特殊部隊による襲撃については、中東研究所のケネス・ポラック氏らも注目しており、昨年9月にイスラエル軍がシリアで実施した作戦を事例に挙げる。この作戦は、アサド前政権の崩壊前に実行されたものだ。
イスラエル軍は作戦実施から4カ月後に、作戦中に撮影された映像とともに詳細を明らかにした。軍報道官によれば、特殊部隊120人が数十機の航空機とともにシリア奥深くに侵入し、山中にあったイランのミサイル製造施設を破壊したとしている。
映像からは、イスラエル軍兵士がコンクリートで覆われたトンネル内を進む様子と、それをイスラエルの司令部内で監視する軍幹部の姿が映し出されていた。
この作戦は大胆な行動としてイスラエル国内で広く称賛され、フォルドゥ核施設へのモデルケースとしても言及されている。
別の選択肢として、イスラエルがフォルドゥ周辺のイラン防空システムを排除すれば、イスラエル空軍の戦闘機F35やF15が3万ポンド(1万3600キロ)ではなく、2000-4000ポンド級の爆弾を搭載して同施設を繰り返し攻撃し、最終的に貫通させることも可能とされる。
いずれの選択肢も大きなリスクが伴い、米軍機による大型爆弾による攻撃であっても例外ではない。だがイスラエルは、最大のリスクはイランの核施設が温存されることであり、かつ現政権の管理下にあることだと主張。その上で、米国の決定にかかわらず、イスラエルは目標達成まで作戦を継続すると明言している。
ロイター/イプソスの世論調査で、民主党支持者の多くが指導部交代を求めていることが分かった。現指導部は経済問題に十分焦点を当てておらず、トランスジェンダーの権利や電気自動車(EV)などの問題に重点を置きすぎていると感じている人が多いことが示された。
民主党は来年の中間選挙で共和党による議会支配の打破を目指すが、支持者は議員らが家計支援といった有権者にとって重要な問題に注力していないと考えている。
調査では、民主党支持者の約62%が「党指導部は新しい人材に交代すべき」という意見に賛成。反対は24%にとどまった。
共和党支持者のうち、党指導部を交代させるべきと答えたのはわずか30%だった。
調査は11─16日に全米各地およびオンラインで4258人を対象に実施。うち民主党支持者は1293人だった。
調査結果を閲覧した民主党ストラテジストは、支持者のメッセージは明確だと指摘。民主党系調査会社フューチャー・マジョリティのマーク・リドル代表は「有権者はしびれを切らしている」とし、「彼らは選挙で選ばれたあらゆるレベルの公職者が生活費、日々の基本的な問題、物価高といった問題に取り組むことを望んでいる」と述べた。
経済政策を巡る党の優先事項に対する不満は、若年層の間でより顕著だった。
一方、トランスジェンダーの権利などの問題を党が重視しすぎる傾向があるとの見方も示された。トランスジェンダーのアスリートによる女子スポーツ参加を認めることを優先すべきと答えたのはわずか17%だったのに対し、党指導部がこの問題を優先課題と考えていると思うとの回答は28%に上った。
米国がイランへの軍事攻撃に動くべきかどうかを巡り、トランプ大統領の支持層に深刻な亀裂が生じ始めた。これまでトランプ氏を強力に応援してきた米国第一主義運動「MAGA」(米国を再び偉大に)推進派の中から、イランに対する軍事介入に猛反対する声が出てきているからだ。
MAGA推進派の有力者の1人でトランプ氏元側近のスティーブ・バノン氏は18日、外交交渉もなく米軍がイスラエルに合流してイランの核開発プログラムを壊滅させようとするべきでないと警告。米紙クリスチャン・サイエンス・モニター主催のイベントで記者団に「米国を引き裂くことになる。イラク(戦争の)二の舞をやってはいけない」と語った。
与党共和党内の反介入派の間でも、トランプ氏が外交的解決から大型の地下貫通特殊爆弾(バンカーバスター)使用を含めた軍事介入へと急速に軸足を移しつつある状況に警戒感が生まれている。
トランプ氏が実際に軍事介入に乗り出せば、同氏が日頃口にしている外国に対する関与への消極姿勢を転換させることになる。またこれは同氏が進めてきた中東湾岸諸国との関係親密化や、ウクライナでの停戦に向けた取り組み、各国との関税交渉にも影響を及ぼしかねない。
何よりトランプ氏は、MAGA推進派の離反という事態に直面する。MAGA推進派は2016年と24年の選挙で同氏を大統領に当選させる原動力になっただけでなく、現在も重要な支持基盤であるのは間違いない。
その支持基盤が動揺すれば、トランプ氏の人気が後退し、2026年の議会中間選挙で共和党が上下両院の多数派を維持できなくなるかもしれない。
<根強い保守派のイスラエル支持>
トランプ氏は18日、支持層の亀裂について聞かれると、一部が離れる可能性を心配していないような様子を見せた。
同氏は「私の支持者たちは現在、これまで以上に私を愛してくれているし、私も選挙期間中以上に彼らが好きになっている。私が望むのは1つ、イランは核兵器を持てないということに尽きる」と語った。
また一部の支持者は「いささか不快」だろうが、ほかの支持者はイランが核兵器を持てないという自身の考えに賛同していると強調。「私も戦争は望まない。だが戦争するか、核兵器を持たせるかという選択なら、それ相応の義務を果たさなければならない」と付け加えた。
ペンス元副大統領の盟友で、第1次トランプ政権時にホワイトハウス高官を務めたマーク・ショート氏は、イラン問題に関する共和党内の分断はかなり大きいと分析。ただトランプ氏支持層の大半は最終的に同氏についていくだろうと予想した。
ショート氏は、イスラエルに味方することはトランプ氏にとって政治的プラスにもなると指摘する。伝統的な保守派有権者はイスラエル支持に賛成するからだ。3月のロイター/イプソス調査によると、共和党員の48%は、やってくる脅威がどこからであろうとイスラエルを守るために米国は軍事力を行使すべきだとの意見を肯定し、否定派の28%を上回った。
<MAGAの主張>
人気ポッドキャスト「ウォールーム」の司会者も務めるバノン氏は「イスラエルは自分たちで始めたことに自らけりを付ける必要がある」と切り捨て、トランプ氏は米軍の関与という考えにブレーキをかけなければならないと訴えた。
別の有力なMAGA推進派で元FOXニュース司会者のタッカー・カールソン氏や、長年トランプ氏と緊密な関係にある共和党のマージョリー・テーラー・グリーン下院議員も、イランへの軍事攻撃反対を唱えている。
グリーン氏は15日のソーシャルメディアへの投稿で「米国はイスラエルとイランの戦争に全面的に関与すべきだと吹聴する向きは誰であれ、MAGAではない。われわれは外国の戦争にうんざりしている。全ての戦争に」と述べた。
カールソン氏が17日に配信した共和党のテッド・クルーズ上院議員のインタビュー番組でも、亀裂が浮き彫りになった。
この番組でカールソン氏は、クルーズ氏がイランの体制転換を目指していると強く批判し、そのクルーズ氏はトランプ氏支持を表明した。
カールソン氏がクルーズ氏に「イランのことを何も分かっていない」と食ってかかると、クルーズ氏が「私はタッカー・カールソン流のイラン専門家ではない」と反論。カールソン氏が再反論するなど両氏は激しい言葉を投げつけ合い、この動画はSNSで広く拡散された。
トランプ氏は18日、イラン問題に対応する幾つかの考えがあると明かしたが、なお最終的な決断は持ち越したままだ。
イタリアのエネルギー会社ENI(ENI.MI), opens new tabのクラウディオ・デスカルツィ最高経営責任者(CEO)は18日、原油市場の動きはイスラエルとイランの緊張激化やホルムズ海峡封鎖の可能性は低いことを示唆していると述べた。
「原油価格が1バレル=80ドル─90ドル以上に上昇していない状況は、市場がホルムズ海峡の封鎖を含む、より極端な事態は起きにくいとみていることを示している」と指摘。
ホルムズ海峡が封鎖されれば、まずイランの原油輸出に影響が現れ、おそらく米国の介入を誘発すると述べた上で、「極めて不安定な状況下だが、世界の指導者らはあらゆる事態の回避に向け懸命に尽力するだろう」と述べた。
米国の大手銀行の各種レバレッジ規制の見直し論議を巡り、警戒感が出始めている。規制緩和を待ち望んでいた米国債市場参加者にとっては、金融規制当局がレバレッジ比率の算出基準から米国債を対象外とせず、自己資本要件の緩和を選択すれば、失望する可能性があるためだ。
米連邦準備理事会(FRB)は今週、米銀大手向けのレバレッジ要件の緩和案を25日の会合で検討すると発表し、銀行規制全体の見直しに発展する可能性が高い議論はキックオフを迎えることとなった。議題には「補完的レバレッジ比率(SLR)」の見直しが含まれている。このルールは、銀行は保有するすべての資産に対して、リスクの有無にかかわらず、一定の自己資本を充てなければならないというものだ。
ロイターがこれまで報じた経緯によると、FRBのほか、連邦預金保険公社(FDIC)や通貨監督庁(OCC)などがレバレッジの計算式を調整して、大手銀行の負担を軽減したり、米国債のような非常に安全な投資に対して救済措置を講じたりするかどうかを検討してきた。
現在、全ての銀行は、資産とデリバティブ(金融派生商品)のようなオフバランスシート項目であるレバレッジ・エクスポージャーに対し、自己資本の3%を充てることが義務付けられている。さらに、グローバルなシステム上重要な銀行(G―SIBs)は「強化補完的レバレッジ比率(ESLR)」として2%の上乗せが必要だ。
業界関係者2人の話では、FRBは米国債のような資産を幅広く要件の対象から除外するのではなく、ESLRを微調整し、全体的な負担を軽くしようとしているとみられている。ただ、FRBは対象除外の検討対象の一部については銀行関係者に意見を求める可能性がある。FDICは26日に協議の場を持ち、比率変更案についても議論する予定だ。
ブルームバーグは17日、規制当局が大手銀行のESLRを最大1.5%ポイント引き下げ、3.5―4.5%の範囲に修正することを念頭に置いていると報じた。
米金融大手ウェルズ・ファーゴのアナリストは「われわれの見解では、今回のニュースはやや期待外れだ。市場参加者の多くは、米国債をSLR(計算式の)分母から除外する措置を期待していたと思われる」と指摘した。
長期ゾーンの米国債利回りとスワップ金利の差であるスワップスプレッドは年初、拡大していた。銀行資本規制の変更が米国債需要を増やすとの期待が要因だった。ただ、18日は縮小し、マイナス幅が一段と拡大した。
この動きについてドイツ銀行の米国金利ストラテジストのスティーブン・ゼン氏は、規制当局がESLR引き下げを計画しているとの報道に対する市場参加者の失望感を反映している可能性が高いと述べた。
10年物スワップスプレッドは17日、マイナス53ベーシスポイント(bp)だったが、足元ではマイナス54bpとなった。30年物スワップスプレッドはマイナス86.5bpだったのがマイナス88bpへとマイナス幅が広がった。
イスラエルがイランに対して前例のない攻撃を開始した13日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はイラン国民に直接語りかけた。「邪悪で抑圧的な政権」に対して立ち上がるときが来たと、英語で呼びかけたのだった。
ネタニヤフ氏は、イスラエルの軍事作戦が「あなたたちの自由実現の道を切り開く」とした。
現在、イランとイスラエルの軍事対立は激しさを増し、攻撃の範囲も広がっている。そうした状況で、多くの人が知りたいと思っているのが、「イスラエルの真の最終目的は何なのか」だ。
ネタニヤフ氏が攻撃初日の13日未明に宣言したように、「現在のイスラム政権の核と弾道ミサイルの脅威」を終わらせることが、最終目的なのだろうか。
それとも、アメリカとイランの協議を終わらせることも含まれているのだろうか。この協議では、アメリカが厳しい制裁を解除するのと引き換えに、イランは核開発計画を抑制するという、新たな合意が検討されてきた。
ネタニヤフ氏がイランの人々に向けた発した「自由実現の道を切り開く」というメッセージは、イランにおける宗教指導者の支配を終わらせるという、さらに大きな目的を暗示したものなのだろうか。
誰の言葉に耳を傾けるのか
イスラエルで最も長く首相を務めているネタニヤフ氏の政治的キャリアを特徴づけているのが、イランがもたらす危険性を世界に警告するという、彼個人の使命感だ。爆弾の漫画を国連で見せたり、中東で戦争が続くこの20カ月間、イランは最大の脅威だと繰り返し発言したりするなど、さまざまなことをしてきた。
ここ何年かで、ネタニヤフ氏がイランの核関連施設への軍事攻撃を命じようとし、アメリカの何人かの大統領やイスラエル軍の将軍たちがそれを思いとどまらせたことが、一度ならずあったことも知られている。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イスラエルの攻撃に青信号を出さなかったと述べている。だがネタニヤフ氏には、少なくとも黄色信号と思われるもので十分だったようだ。
「今や彼は入り込んでいる、完全に没入している」。西側政府当局者の1人は、ネタニヤフ氏についてそう話した。この当局者はまた、イスラエルの主な目標は、イランの核開発計画をだめにすることだとの見方を強調した。
イスラエルのそうした決意は、中東各国や国際原子力機関(IAEA)から非難されている。IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、「核関連施設は決して攻撃されてはならないと、私は繰り返し訴えてきた。いかなる文脈や状況であってもだ」と強調した。法学者らも、核施設への攻撃は国際法に照らして違法だとしている。
多くの人はいま、ネタニヤフ氏が側近や支持者らと同じ目標を追求しているのか、疑問に思っている。
「ネタニヤフが個人的に体制転換に賭けている一方で、イスラエルの政治と軍事の有力層はイランの核開発計画を大きく後退させることに力を入れている」。英シンクタンク「チャタムハウス(王立国際問題研究所)」で中東・北アフリカプログラムのディレクターを務めるサナム・ヴァキル博士はそう説明し、次のように続けた。
「後者は、難しいかもしれないが、ある程度は実現可能だ」、「前者は、短期の激しい紛争で実現するのは難しそうだ」。
イランの核計画を破壊
ネタニヤフ氏は、イスラエルの今回の作戦を、同国の存亡の危機を打開するための先制攻撃だと位置づけた。そして、イランによる核爆弾開発は「目前」に迫っているとした。
イランに一線を越えさせてはならないという同氏の思いは、西側の友好国も共鳴するものだ。ただ、同氏の切迫感を疑問視する人も多い。
イランは繰り返し、核爆弾の製造を決定してはいないと主張している。アメリカのタルシ・ギャバード国家情報長官も3月、「(米情報機関は)イランが核兵器を製造していないとの見方を維持している」と証言した。
国際原子力機関(IAEA)は最新の四半期報告書で、イランが純度60%まで濃縮したウランを、核爆弾9個分保有しているとした。この純度は兵器級(90%)の一歩手前だ。
イランの膨大な核関連プログラムで重要な役割を担う3施設(ナタンズ、イスファハン、フォルド)は、イスラエルの攻撃の最初の数日間で標的にされた。IAEAは、ナタンズの地上にあるパイロット燃料濃縮プラントが破壊されたとしている。
IAEAはまた、イスファハンで「重要な建物」4棟が被害を受けたと報告している。イスラエルは、イランの施設に「重大」なダメージを与えたと主張。これに対しイランは、被害は限定的だとしている。
イスラエルは「知識の源」を攻撃するとして、これまでに少なくとも9人のイランの核科学者と、何人かの軍トップ級の司令官らを殺害している。攻撃対象の施設は、軍事基地、ミサイル発射台、工場だったが、今では経済や石油関連の施設にまで広がっている。
イランもまた、標的を拡大しながら反撃している。民間人の犠牲者が、両方の国で増えている。
イランの膨大な核開発計画に決定的な打撃を与えようとすれば、同国で2番目に大きく、最も厳重に守られているフォルドの核関連施設に大きなダメージを加えなければならない。一部の専門家は、山の地下深くにあるこの複合施設に、兵器級に近い濃縮ウランの多くが備蓄されているとみている。
イスラエルのメディアは、この施設へのアクセスを遮断することが、イスラエルの現在の目標だと報じている。
山岳部の岩を大規模に粉砕するには大型貫通爆弾(MOP)が必要だが、イスラエルはそれを保有していない。一方、米空軍は持っている。MOPは精密誘導式の3万ポンド(1万3600キロ)級の大型爆弾だ。それでも、大きなダメージを与えるには、何日もかけ何度も攻撃する必要があるだろう。
「シナリオとして最も可能性が高いのは、ネタニヤフがトランプに電話し、『他のことは全部やって、B-2爆撃機や米軍への脅威がないことは確認したが、それでも核兵器開発計画を終わらせることができない』と訴える、というものだと思う」。元米政府高官で、米コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターのイラン専門家のリチャード・ネフュー氏は、BBCの番組「ニュースアワー」でそう述べた。
ある西側政府関係者は私の取材に、「トランプ大統領がどちらに飛ぶのか、まだわからない」と言った。
交渉の頓挫狙いタイミングを計った?
トランプ氏は行ったり来たりを繰り返している。先週初めの時点では、イスラエルに対し、イランを軍事的に脅すのをやめるよう求めた。攻撃すれば、イランとの核交渉が「台無しになる」というのが理由だった。トランプ氏は常に、交渉のほうが望ましいと公言していた。
ところが、いったんイスラエルが攻撃を始めると、トランプ氏は「素晴らしい」と称賛。「まだ続く、まだまだだ」と警告した。一方で、イランを合意に向かわせることができるかもしれないともつぶやいた。
そして15日には、自身のプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に、「イスラエルとイランの間に、まもなく平和が訪れるだろう! 多くの電話や会議がいま行われている」と書き込んだ。
イランの交渉担当者らは現在、オマーンの首都マスカットで15日に再開されることになっていたアメリカとの核協議について、緊張が高まっていた中で、イスラエルの攻撃は差し迫ってはいないとイランに思い込ませるための策略だったのではないかと疑っている。イスラエルの13日未明の激しい攻撃に、イランは不意を突かれた格好になった。
このタイミングに大きな意味を見いだす人は他にもいる。「イスラエルのこれまでなかった規模の攻撃は、トランプ大統領がイランの核開発計画の封じ込めで合意に至る可能性をつぶすために行われた」と話すのは、欧州外交問題評議会の中東・北アフリカプログラムのエリー・ゲランマイヤ副代表だ。
「イスラエル政府関係者の一部は、これらの攻撃はアメリカの外交における影響力を強めることが目的だったと主張するが、そのタイミングと規模の大きさからは、交渉を完全に頓挫させるのが狙いだったのは明らかだ」
これらの交渉に詳しい関係者らは先週、「合意は手の届くところにある」と私に言っていた。だがそれは、すべてのウラン濃縮を終わらせるようイランに求める最大限の要求から、アメリカが離れるかにかかっていた。アメリカは、民生プログラムで利用されるウランと同等の、1桁台という非常に低純度のウラン濃縮も認めない立場だった。イランはこれを「レッドライン(越えられない一線)」と見ていた。
トランプ氏は大統領1期目に、ネタニヤフ氏から度重なる働きかけもあって、画期的な2015年の核合意からアメリカが離脱することを決めた。その後、イランは、ウラン濃縮を純度3.67%(商業用原子力発電所の燃料生産に使われるレベル)に制限する決まりを守らなくなり、備蓄も始めた。
トランプ氏は今回、合意までに「60日間」の猶予をイランに与えた。この分野における経験と知識を持つ調停者らは、このような複雑な問題における猶予としは短すぎると見ていた。
そしてイスラエルは、61日目に攻撃を実施した。
「オマーンのチャンネルは当分の間、使えなくなった」と、前出のチャタムハウスのヴァキル博士は言う。「だが、事態がエスカレートするのを緩和し、出口を見つけようという地域的な努力はなされている」。
ネタニヤフ氏の「チャーチル的なムード」
イランから見れば、事態のエスカレーションは、備蓄や遠心分離機、超音速ミサイルだけが問題なのではない。
「イランはイスラエルが、イランの国家としての能力や軍の機構を徹底的に低下させ、イランとイスラエルのパワーバランスを決定的な形で変え、できればイランを総体的に転覆させたいと望んでいると考えている」。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院の教授(中東研究・国際問題)で、著書「Iran's Grand Strategy」(イランの大戦略)を今年出したヴァリ・ナスル氏は、そう主張する。
イラン国民がどう反応するかは不明だ。
人口9000万人のこの国は、長年にわたり、国際的な厳しい制裁と組織的な腐敗に苦しんできた。 毎年抗議デモが起きており、内容は高いインフレ、低い就労率、水や電力の不足、女性の生活を制限する道徳警察などさまざまだ。2022年には自由の拡大を求めて、かつてない規模の抗議デモの波が起こり、厳しい弾圧にあった。
ナスル氏は、現在のイラン社会の雰囲気について、「非常に不人気だった将軍4、5人が殺された当初は、人々はほっとしたかもしれない。だが今では、自分たちの集合住宅が攻撃され、民間人が殺され、国のエネルギーと電気のインフラが攻撃を受けている」と言い、こう続ける。
「イラン国民の大半が、自分たちの国を爆撃している侵略者を支持し、それを解放とみなすようになる、などといったシナリオは考えられない」
ネタニヤフ氏の発言は、より広範な標的をほのめかし続けている。
ネタニヤフ氏は14日、「アヤトラ政権のあらゆる場所、あらゆる標的」をイスラエルは攻撃すると警告した。
15日に米FOXニュースに出演した際には、イスラエルの軍事努力の一環としてイランの体制転換もあるのかと具体的に問われると、ネタニヤフ氏は「もちろんそういう結果にはなり得る。イランの政権は非常に弱いからだ」と答えた。
英誌エコノミストのイスラエル特派員で、ネタニヤフ氏の伝記を著したアンシェル・フェファー氏は、「イスラエルは心理戦の一環として、イランの体制の、権力を失うことへの恐怖をあおろうとしている」と話す。
「イスラエル情報機関の一致した考えは、イランの体制崩壊の予測や工作は無意味だということだ。それはすぐに起こるかもしれないし、20年後に起こるかもしれない」
ただ、ネタニヤフ氏の考えは違うのではないかと、フェファー氏はみている。「スパイの長官らとは違い、ネタニヤフはこのメッセージを実際に信じている可能性が高いと思う。彼はいま、チャーチル的なムードの中にいる」。
アメリカのメディアは15日夜までに、それぞれの情報源からの話を基に、イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師を殺害するというイスラエルの計画に、トランプ氏が反対したと報じた。ロイター通信が匿名の米政府関係者2人の話から、このニュースを最初に報じると、大きな話題となった。
イスラエルのギデオン・サール外相やツァヒ・ハネグビ国家安全保障顧問ら同国の要人は、イランの政治指導者に特に注目しているわけではないと強調。ハネグビ氏は、「だが『現時点では』という概念は、限られた期間だけ有効だ」と付け加えた。
結局のところ、この最終局面の輪郭は、危険で予測不可能な対立の行方と、予測不可能なアメリカ大統領によって形作られることになる。
「成功か失敗かは、アメリカを引きずり込めるかどうかで圧倒的に決まる」と、アメリカ中東プロジェクトの代表で元イスラエル政府顧問のダニエル・レヴィ氏はみている。「アメリカだけが、結末と着地点を決定することで、近い将来、これをタイムリーに終結に導くことができる」。
イスラエルとイランの緊張が高まり、中東は再び危険な岐路に立っている。今回の敵対行為は、この地域を新たな長期紛争に陥らせる恐れがあり、その恩恵を受けるのは不安定な状況から利益を得る者たちだけだろうか。外交よりも武力行使が優先される状況では、事態が制御不能になる前に、理にかなった意見が介入することが不可欠である。
サウジアラビアは迅速な対応を取り、激しい外交活動を通じて、この地域の平和に対するコミットメントを表明している。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、世界中の首脳と直接連絡を取り、緊張の緩和と、さらなる暴力の防止に向けた国際社会の取り組みの統一の緊急性を強調している。リヤドは、軍事的な対立を放置すれば、各国の安定が損なわれるだけでなく、進歩、発展、暴力的な過激主義との闘いにも支障が生じることを認識している。
王国は、イランへの攻撃とイランの主権侵害を、国際法に明らかに違反する行為として断固として非難している。しかし、サウジアラビアは、言葉だけでは不十分であることを理解している。状況のさらなる悪化を防ぐため、積極的な措置を講じる必要がある。リヤドは、緊張を緩和するため外交ルートを動員し、無謀な軍事化よりも安定を優先した戦略的決定が下されるよう努めている。
サウジアラビアのアプローチの最も重要な側面の一つは、自国の空域が軍事作戦に利用されるのを防ぐことだ。リヤドは、いかなる当事者も自国の領土を敵対行為に利用することを許さないことを明確に表明している。王国は、自国民を保護し、サウジアラビア国民および居住者が戦争の影響から確実に守られることを最優先課題としている。国家安全保障は引き続き最優先事項であり、サウジアラビアの指導部は、その維持のために必要なあらゆる措置を講じる。
サウジアラビアは、イスラエルによるイランへの攻撃を最初に非難した国のひとつであり、状況の深刻さとその潜在的な影響を強調してきた。リヤドは、国際社会、特に国連安全保障理事会に対し、中東全域におけるイスラエルの主権侵害のパターンに対して断固たる措置を講じるよう繰り返し要請している。世界はこれらの侵略を無視することはできない。イスラエルにその行動の責任を問うことは、世界の大国の責任である。
当面の軍事衝突だけでなく、そのリスクはより広範なイデオロギーの領域にも及んでいる。中東での戦争は戦場にとどまらず、暴力的な過激主義を煽る。紛争が長期化すれば、過激派組織がそれを利用し、この地域の不安定さをさらに深めることになるだろう。サウジアラビアは、そのような結果を断固として拒否する。王国は、この地域が混乱に陥ることを防ぎ、国民が安全で繁栄した未来に向かって前進できるよう、引き続き全力を尽くす。
戦略的な要素も考慮する必要があります。イスラエルの繰り返される攻撃は単なる反応ではなく、計算されたものである。混乱はさらなる違反の便利な口実となり、イスラエルは安全保障を口実にして立場を強化することができる。中東の諸政府は、この戦術を認識し、国家主権を脅かす努力に対抗するために積極的に取り組む必要がある。安定は単に国境を防衛することではなく、不安定を糧とする地政学的謀略を拒否することだ。
サウジアラビアの外交は、危機が修復不可能なまでにエスカレートしないよう確保する上で、引き続き重要な役割を果たしている。リヤドの外交チャンネルへの関与は、広範な紛争の緩衝材となっている。衝動的な戦争ではなく、合理的な交渉への揺るぎないコミットメントにより、サウジアラビアは不安定さがピークに達する中で、安定化要因としての地位を確立している。
しかし、責任の重さはサウジアラビア一国に負わせるものではない。グローバルな大国は、関与するリスクを認識し、成熟した判断と知恵を持って行動する必要がある。躊躇は選択肢ではない——迅速で戦略的な介入のみが、この紛争がさらに悪化するのを防ぐことができる。仲介に向けた努力は支援され、強化されるべきで、理性的議論が無謀な攻撃に勝るよう確保する必要がある。これらの外交努力の成功は不可欠で、失敗は計り知れない代償を伴うだろう。
サウジアラビアの地域紛争に対するアプローチは、常に明確だ。外交が鍵だ。王国は軍事的なエスカレーションを固く拒否し、代わりに平和と安定を確保する外交的解決を提唱している。戦争は解決策ではなく、真の目的である進歩から目をそらすものなのだ。
これは単なる政策ではなく、原則だ。そして今日、これまで以上に、世界がこの原則を堅持しなければならない。
トランプ大統領が、イスラエルのイラン戦争に米軍を投入するという違憲の命令を出すことを検討していると報じられる中、新たな世論調査では、2024年にトランプに投票した人々の間でさえ、アメリカによるイラン攻撃に対する国民の支持が非常に低いことがわかった。
6月13日から16日にかけて行われたエコノミスト/ユーガブの世論調査によると、 「米軍はイスラエルとイランの紛争に介入すべきだ」と考えるアメリカ人はわずか16%でした。さらに注目すべきは、 2024年にトランプ氏に投票した人のうち、米軍の介入を支持するのはわずか19%だったことです(共和党支持者と自認する人のうち、戦争への介入を支持する人は23%です)。 同様に、全アメリカ人の56%は、米国はイランとの交渉に臨むべきだと考えています。この方法はトランプ氏支持者の間でさらに支持が高く、63%が交渉を支持しています。
一方で、世論調査の結果の中には、数十年にわたるイランに関する政府のプロパガンダの有効性を浮き彫りにするものもあり、それは既成メディアにも反映されています。例えば、アメリカ人の61%は、イランの核開発計画が米国にとって「差し迫った深刻な脅威」または「やや深刻な脅威」をもたらしていると回答しています。2007年、米国の情報機関は国家情報評価(NIE)を発表し、イランは核兵器を開発していないと「高い確信度」で結論付けました。この結論はそれ以来、情報機関によって定期的に繰り返されており、わずか3か月前もその例です。同様に、アメリカ人の50%とトランプ支持者の68%は、イランを米国の「敵」と分類しています。アメリカ人の4分の1は、イランを「非友好的」と分類しています。
興味深いことに、この世論調査では回答者にイスラエルを同様に描写するよう求めました。この結果では、回答者の10%がイスラエルを非友好的だと回答し、6%がイスラエルを敵と見なしました。また、61%がイスラエルを同盟国または友好国と回答し、23%はどちらとも言えないと回答しました。イスラエルを「非友好的」または「敵国」と回答したアメリカ人は全体の16%にとどまりましたが、 イスラエルに対する否定的な見方が平均を上回ったグループには、ヒスパニック系(21%)、18~29歳(21%)、30~44歳(20%)、年収5万ドル未満(18%)、リベラル派(22%)などがいます。
中東における米国の新たな戦争に対する広範な不人気が明らかになると同時に、米国憲法の規定に従い、議会による決定を求める声が高まっている。月曜日、共和党のトーマス・マシー下院議員と民主党のロー・カーナ下院議員は、米軍による「イラン・イスラム共和国における無許可の敵対行為」を禁じる「イラン戦争権限決議」を提出した。また月曜日、民主党のティム・ケイン上院議員も、イランに対するいかなる武力行使にも先立ち、議論と採決を義務付ける 決議案を上院に提出した。
「憲法は、米国を攻撃していない主権国家に対して、行政府が一方的に戦争行為を行うことを許していない」とマッシー氏は述べた。「イランに対する宣戦布告の権限は議会のみにある。イスラエルとイランの間で現在進行中の戦争は、我々の戦争ではない。たとえそうであったとしても、議会は憲法に従ってそのような問題を決定しなければならない」。決議を支持するために、イデオロギーの枠を超えた連合が形成されつつあり、ロン・ポール氏と関係のある自由のためのキャンペーンは、 市民が下院議員や上院議員に迅速かつ容易に署名を促す
ランド・ポール上院議員は、バックネル大学のオープン・ディスコース・コアリションが4月に主催したイベントで、アメリカの建国者たちがなぜ戦争遂行の権限を議会に与えたのかについて 詳しく述べた。
最も重要なのは――あまり面白そうには聞こえないかもしれませんが―― プロセスです。投票が必要です。代表者を通して投票権を得ます。これは権力の分散です。権力が一つの権力に集中するのを防ぐことであり、その中でも戦争行為はおそらく最も重要なものです。マディソンは「連邦党員論文」の中でこの点について次のように述べています。「行政府は最も戦争に陥りやすい機関である。したがって、我々は慎重に検討した結果、その権限を立法府に付与した。」
トランプ大統領は月曜日、熱心なキリスト教シオニストで、常にイラン強硬派であるマイク・ハッカビー駐イスラエル米国大使から送られてきた、宗教色を帯びた不穏なメッセージを投稿した。ハッカビー氏はメッセージの中で、トランプ大統領の立場を、1945年のトルーマン大統領の立場になぞらえている。トルーマン大統領は、アメリカ軍最高幹部の信念に反して広島と長崎への原爆投下を命じた年で ある。さらに、トランプ大統領の自尊心に訴えかけるように、「あなたの肩にかかっている決断は、他の誰にも下してほしくない」とも述べた。
その点に関して彼の誠実さに疑いの余地はない。イスラエルの戦争への米軍介入に対する国民の支持が全般的に低いことを考えると、ハッカビー氏もイスラエルも、議会における国民の代表者によってそれらの決定がなされることを望んで いない。
●プロファイ、インフラ、自然災害、不動産
ひびきウインドエナジー(北九州市)は19日、北九州市の響灘地区で建設中の「北九州響灘洋上ウインドファーム」について、発電用風車の設置工事を報道陣に公開した。あわせて2025年度中に運転を開始する計画に変更がないことを表明した。年間発電量は約5億キロワット時の想定で、完成時点では国内最大級となる。
この日は施工用クレーンを搭載したSEP船(自己昇降式作業台船)に、風車のブレードや支柱となる「タワー」を港で積み込む様子を公開した。SEP船には一度に3基分の部品を積み込み、同日夕方に設置する海域へ移動。夜間に風車を支える土台となる黄色い「ジャケット」に部品を取り付ける作業を行う。
風車は25基設置する計画で、風車本体の設置工事は5月から開始。現在は支柱となる「タワー」や風車のブレードを取り付ける工事を進めており、6基の設置が完了した。風車の取り付け工事は9月にも終了する見込みだ。
風車は海面からの高さがブレードを含めて200メートルとなる。50階建てのビルに相当し、大きさでは国内最大級だ。同社の笠原覚建設所長は設置工事が予定通りに進んでいるとの見方を示したうえで「2050年のカーボンニュートラルに向け、ウインドファームが大きく貢献できると考えている」と報道陣に語った。
国土が限られる日本において洋上風力は再生可能エネルギー導入の切り札と位置付けられるが、資材コストの高騰などで開発環境は厳しい。欧州では関連企業の撤退が相次いでおり、国内でも秋田県能代市沖など3カ所で事業を進める三菱商事が2月に522億円の減損損失を計上した。
笠原建設所長は資材の高騰に関して「資材高騰や円安は事業費に織り込んでおり、採算性に問題はない」としている。
Jパワーや九電みらいエナジーなどが出資して17年にひびきウインドエナジーを設立。23年にウインドファームを着工し、総事業費は1700億円。風車1基あたりの発電出力は9600キロワットで、風車25基合計の最大出力は22万キロワットに上る。
年間発電量では北九州市の世帯数の4割に当たる一般家庭約17万世帯分の電力をまかなえる計算になる。発電した電力は九州電力送配電に売却する。20年間発電する計画で、20年間の売電収入は3600億円を見込んでいる。
北九州市は響灘地区を洋上風力発電の総合拠点として整備する。北九州港が西日本で唯一、洋上風力の「基地港湾」に指定されていることから、市は製造業の基盤を生かし、風車の組み立てから運転、保守までを担う拠点としたい考えだ。
●その他
マクドナルドの売り上げは減少し、航空会社も旅行需要の減退を懸念している。消費者のクレジットカード支払い延滞率は約10年ぶりの高水準に達している。それでも、米国の裕福な郊外や都市部の高級コンドミニアムに住む人々には、こうした景気減速の影響はまだ及んでいないようだ。
そうした富裕層をターゲットに、JPモルガン・チェースは高級クレジットカード、チェース・サファイア・リザーブの年会費を45%引き上げ、795ドル(約11万5000円)とした。これは現時点で市場最高水準になる。アメリカン・エキスプレス(アメックス)も、同社のプラチナカードの大幅な改訂を予告しており、現在695ドルの年会費の引き上げが予想されている。
カード会社各社は、米経済の新たな現実に対応しつつある。大多数の世帯が倹約を迫られる中、富裕層は景気後退への懸念を意に介さず、消費を継続している。年収25万ドル超の上位10%の世帯が、米国全体の消費の約半分を占める。
国内総生産(GDP)の約3分の1をこのごく一部の富裕層が支えているという推計もある中で、この層を顧客として囲い込むことの重要性はかつてないほど高まっている。
年会費が高額でも、空港ラウンジの利用や人気コンサート・試合の先行予約、予約困難なレストランへのアクセスなどの特典が付帯するため、富裕層にとっては価値ある出費だとみなされている。また、専門家によるとこれらのカードには旅行関連のポイントや特典も付帯しており、その価値が年会費を上回ることもあるという。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)の調査によれば、年会費250ドル超のプレミアムカード保有者の9割が、「追加特典なしでも100ドルの値上げを容認する」と回答。アメックス、チェース、キャピタル・ワンの顧客が特に高い忠誠心を示しているという。
カード会社は近年、ローン金利や延滞料はあまり払わないが安定した収入をもたらす富裕層に軸足を移している。富裕層は延滞せず日常的に高額を消費する。消費額の一部は決済処理手数料としてカード会社の収入になる。また、富裕層はデフォルト(債務不履行)の可能性も低い。
カード発行プラットフォームを運営するマルケタの元最高経営責任者(CEO)、サイモン・カラフ氏は「米国における富の集中を考えると、富裕層向け市場は魅力がある」と述べた。
アメックスは何十年もかけて富裕層を取り込んできた。2016年に登場したチェースのサファイア・リザーブは、そうしたアメックスの牙城を徐々に侵食。21年にはキャピタル・ワンもベンチャーXを投入した。
アメックスとチェースの担当者はコメントを控えた。
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