2025年4月3日木曜日

備忘録(最新)

備忘録(2025/4/4-6
●海外企業決算
●海外企業
トランプ米大統領による2日の相互関税発表前、スイスは負担が軽く済むと予想していたかもしれない。同国は規制が比較的緩いほか、欧州連合(EU)に懐疑的な見方を示しているためだ。
しかし、ふたを開けてみるとスイスにはEUや英国よりも高い関税が課されることになり、主要産業に懸念が広がっている。
スイスの関税率は32%と、EUの20%を大きく上回る。また、同じくEU非加盟国である英国の10%の3倍余りとなる。
スイス政府は今回の措置について「理解しがたい」とコメント。企業は対応策や事業防衛を急がざるを得ない。
工作機械部品メーカーのレゴフィックスでは、パスカル・フォアー最高経営責任者(CEO)が米子会社の社員と夜中に電話会議を開いた。スイスで商品を製造しており、同CEOは顧客との難しい値上げ交渉の準備を進めている。
フォアー氏は「関税そのものより米経済の減速を懸念している。米国の業界が投資を止めれば、その影響は当社の売上高にも表れ始めるだろう」と述べた。
今のところ医薬品は相互関税から外れるが、精密機器やチョコレート、高級品などさまざまな製品が関税対象となる。
相互関税によって米国の腕時計需要は大幅に減少し、各ブランドが価格の見直しを迫られる可能性があると、オッドBHFのストラテジストらは指摘。そうなれば、ロレックスやパテック・フィリップ、スウォッチ・グループなどが影響が受ける見込みだという。
スイス政府は、経済成長が先月見込んだばかりの水準を下回る可能性を指摘。ケラーズッター財務相は記者団に対し、現時点では報復措置を計画していないと述べた。
スイス株の指標、SMI指数は3日に2.5%安。電子機器メーカーのロジテック・インターナショナルがストックス欧州600指数の構成銘柄で最大の下げとなった。同社は売上高全体に占める米国の割合が大きい一方で、中国やベトナム、タイ、メキシコなどから製品を調達している。
米銀キャピタル・ワン(COF.N), opens new tabはクレジットカード大手ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズ(DFS.N), opens new tabの買収案について司法省から承認を獲得した。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が3日、事情に詳しい関係者の話として報じた。
この後、米通貨監督庁(OCC)と連邦準備理事会(FRB)が、司法省の意見を聞きながら合併について検討する。
報道によると、司法省はFRBとOCCに書簡を送り、調査を終了し、取引を差し止めるほどの懸念は見当たらないと判断したと伝えた。
キャピタル・ワンの広報担当はロイターに対し「ディスカバー・ファイナンシャルとの取引は銀行の合併に関する法律を順守しており、承認を得るための態勢は整っている」と述べた。
合併計画は総額350億ドル規模で、2024年2月に発表された。実現すれば資産残高でクレジットカード会社として全米首位、銀行では6位になる見通しだ。また、キャピタル・ワンはディスカバーの決済ネットワーク(全米第4位)の支配権も手に入れることになる。
ドナルド・トランプ米大統領が半導体を相互関税の対象から除外したことは、歓迎すべき一時的な救済のように聞こえた。しかし、半導体を組み込んだ消費財は増加の一途のため、業界としてはほとんど安心できない状況にある。
この「救済」も長続きしない可能性がある。トランプ氏は3日、大統領専用機「エアフォースワン」の機内で、半導体に対する措置が間もなく取られる可能性があると述べた。
少なくとも現時点では、昨年約820億ドル(約12兆円)に上った米国の直接的な半導体輸入は相互関税適用の対象外となっている。
しかし、半導体輸入の大半は間接的だ。半導体は通常、米国外で製造され、そこでパッケージングされ、世界中に出荷される電子機器に組み込まれる。米国に輸入される際には最大49%の関税が課される。米国製の半導体でさえ、多くは最終組み立てのために台湾や中国、東南アジアに送られてから、最終顧客に再輸出される。
こうした間接性があることから、関税が半導体業界にもたらす影響を正確に把握するのは難しい。確実なのは、打撃が大きいということだ。
バーンスタイン・リサーチの分析によると、米国は昨年、機械を約5210億ドル、電子機器を約4780億ドル、自動車を約3860億ドル輸入した。これらの製品には大量の半導体が使用されることが多く、価格上昇を受けて消費者が購入を控えれば半導体の売り上げは落ち込む。最終的に半導体メーカーの収益と成長率の低下につながり、利益や株価を圧迫する可能性がある。
バーンスタインのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏は「全体として、半導体グループ(あるいは率直に言ってどの分野でも)にポジティブな感情はあまり見られない」とメモで指摘した。
大手半導体株が3日に急落したのも無理はない。フィラデルフィア半導体株指数は10%近く下げた。主要な半導体購入企業の株価も下げ、アップルは9.3%安、デル・テクノロジーズは19%安で終えた。
明るい材料を見つけるのは難しい。関税は半導体メーカーにとって、米国内での製造を増やす新たなインセンティブとならない。半導体メーカーの製品は通常、アジアのサプライチェーン(供給網)に輸出された後、関税対象品の中に組み込まれて米国に戻ってくるからだ。
テキサス・インスツルメンツやアナログ・デバイセズなど、すでに米国内に大規模な拠点を持つ企業も優位性を得られない。外国の競合他社が半導体関税の適用除外となるためだ。両社の株価は3日に大幅に下げた。
ウルフ・リサーチのアナリスト、クリス・カソ氏はメモで、半導体メーカーとその顧客が価格上昇による消費者需要の低迷を見込み、サプライチェーンを通じて発注キャンセルの波が起きる可能性が高いとの見方を示した。これは2020年の新型コロナウイルス流行時のロックダウン(都市封鎖)で起きた状況と類似している。
カソ氏は、家電製品が最も大きな打撃を受ける可能性が高いとした上で、関税は、米半導体大手エヌビディアが提供する需要の高い人工知能(AI)サーバーのコストも引き上げると指摘した。結果として、業界全体の第2四半期の業績見通しに疑問が生じる可能性が高い。
「これらの影響から逃れられる場所は単純にないと考えている」と同氏は述べた。エヌビディアの株価は3日に7.8%安となった。
半導体企業は今のところ業績見通しを下方修正していない。どの程度の影響が及ぶのかはっきりしないためだ。業界は影響を抑えるためにトランプ政権と交渉し、最も打撃の大きい分野での関税引き下げや、半導体が組み込まれる電子機器などの製品に対してさらなる適用除外を求める可能性がある。
最良のシナリオは、トランプ政権が最も打撃の大きい関税の多くを撤回することで対応し、3日の株価下落が買いのチャンスとなるというものだ。
しかし、トランプ氏が譲歩するのではなく強硬姿勢を強める傾向があることを考えると、逆のシナリオ――さらなる関税の追加――の可能性が高いように思われる。
トランプ米大統領が打ち出した相互関税により、アップル(AAPL.O), opens new tabの「iPhone(アイフォーン)」の価格が間もなく急上昇する可能性が出てきた。
相互関税の詳細を分析した複数のアナリストによると、最も影響が大きいのはアイフォーンなどの消費財で、アップルがコストを消費者に転嫁するつもりなら、価格は30─40%程度上昇する可能性がある。
年間で2億2000万台以上が販売されているアイフォーンの大半はなお中国で生産されており、中国に適用される税率は54%。この水準が続けば、アップルは追加コストを自ら吸収するか、顧客に転嫁するのか厳しい選択を迫られる。
ローゼンブラット・セキュリティーズのアナリストチームが試算したところでは、最新機種の「16」は米国での最低価格は799ドルだが、アップルがコストを消費者に転嫁できるとすれば、43%上がって最高で1142ドルになる恐れがある。
高価格機種の「16プロマックス」も現在の1599ドルから2300ドル弱に高騰してもおかしくないという。
トランプ氏は1期目にも中国からの幅広い輸入品に関税を発動したが、アップルは幾つかの製品で適用を免除された。しかし今回そうした例外措置は今のところ講じられていない。
ローゼンブラットのアナリスト、バートン・クロケット氏は「中国(製品)全部に関税が課すという展開は、米国の象徴であるアップルは前回同様に優遇されるというわれわれの想定とは完全に違っている」と述べた。
2月に発売された生成人工知能(AI)機能搭載の低価格版「16e」も43%の値上げになれば、599ドルから856ドルになる。
カウンターポイント・リサーチ共同創業者のニール・シャー氏は、アップルは少なくとも平均で30%値上げして関税コストを相殺する必要が出てくるとみている。
サムスン電子(005930.KS), opens new tabがある韓国は、米国で販売する全てのアイフォーンが生産されている中国よりも米国が適用する関税率が低いため、サムスンがアップルに対して競争面で有利になることもあり得る。
医療研究者は世界的なパンデミックの抑制に貢献した。しかし、ワシントンから急速に広がる経済的な問題には対応が難しいかもしれない。トランプ政権の大幅な予算削減は、研究資金を提供し新薬を承認する機関も直撃している。これには、ワクチン接種に懐疑的なロバート・ケネディ・ジュニア氏が率いる保健福祉省も含まれる。直近の影響は小さく見えるが、長期的にみて治療法の開発が遅延したり進まないリスクは大きい。
米国は他のどの国よりも多くの資金を研究開発に投入している。国立科学財団によると、2021年のその額は8000億ドル(約120兆円)を超え、これは第2位の中国より約20%多い。米国政府が直接負担したのは約1600億ドルだが、その責任ははるかに大きい。営利を追求する資金提供者は、短期的な見返りが不明瞭な基礎研究や初期段階の研究への投資には消極的だ。米国の納税者はこの支出の40%を負担している。
米国の保健機関で計画されている1万人の解雇には、食品医薬品局(FDA)や疾病対策センター(CDC)のトップ科学者が含まれる。トランプ政権はさらに、研究助成金の承認をほぼ停止したほか、科学的発展を支えるための国立衛生研究所(NIH)の予算の10%にあたる40億ドルの凍結に動いた。州や大学、その他の団体はこの決定を阻止するために訴訟を起こしている。
初期の犠牲者は実験器具や備品の販売業者だ。遺伝子配列解析機器の専門企業であるイルミナ(ILMN.O), opens new tabは、11月の大統領選挙以来、軟化する実験への需要と貿易戦争の激化による中国の制裁の影響で市場価値の半分を失った。バイオ関連企業サーモフィッシャーサイエンティフィック(TMO.N), opens new tabのような多角化した企業も影響を受けたが、それほどではなかった。医療テクノロジー企業のベクトン・ディッキンソン(BDX.N), opens new tabは、売却しようとしている大規模なバイオサイエンスおよび診断事業の価格を割り引かざるを得ないかもしれない。
しかし、より広範囲にわたる痛みはこれからだ。米国政府の基礎研究支援が枯渇すれば、その多くは補填されないだろう。最近の研究によると、2010年から19年の間に販売が承認された医薬品の99%以上にNIHの資金が投入されていた。
科学界からの警告も厳しい。元FDA長官のロバート・カリフ氏は、FDAは空洞化が進み、「我々が知っていた組織はもはや存在しない」と警告した。ワクチン承認部門を率いたピーター・マークス所長は辞表の中で、ケネディ長官は単に「自身の誤情報と嘘をそのまま受け入れてもらいたいだけ」だと書いた。
彼の辞任とコメントだけで、メッセンジャーRNA技術の開発を主導するバイオ医薬品会社モデルナ(MRNA.O), opens new tabの市場価値は9%減少した。しかし、より重大なリスクは、資金難が常態化してライフサイエンス業界全体が衰退してしまうということだ。
米国の消費者は、カクテルやシャンパン、外国産ビールの価格上昇に直面し、バーのメニューからリキュールブランドが消える可能性がある。その結果、大西洋を挟んで米国と欧州の両方で雇用が失われるだろう。飲料業界団体やアナリストは、トランプ米大統領の相互関税政策の影響をこう予測している。
トランプ大統領の最新の関税措置の対象は、イタリアのカンパリ(CPRI.MI), opens new tabをベースにした人気のネグローニカクテルから、世界最大の蒸留酒メーカーであるディアジオ(DGE.L), opens new tabが製造するギネススタウトにまで広範に及んでいる。また、すべてのビールの輸入に25%を課税し、既存のアルミニウム関税の対象にビール缶を追加したことで、メキシコ製のコロナ(STZ.N), opens new tabやオランダのハイネケン(HEIN.AS), opens new tabのブランドが影響を受ける。しかし、メキシコ産テキーラやカナダ産ウイスキーに25%の関税を課すとの宣言は実行されなかったため、ディアジオやカンパリなど一部の酒類会社の株価は上昇した。欧州のアルコールに対する200%の関税も当面は先送りされた。
それでも業界団体によれば、米国の消費者に大きく依存しているこのセクターにとって、3日に発表された関税は深刻な影響を与えるのに十分な水準だという。
欧州の酒造メーカーでつくる業界団体スピリッツ・ヨーロッパによると、欧州の蒸留酒の米国向け輸出額は2024年だけで29億ユーロ(4770億円)に達し、この貿易が米国で多くの雇用を生み出している。
フランスの団体や当局は、主に米国と中国に輸出されるコニャックなどの産地では、売上高が20%減少し、大量解雇が発生すると警告。スペインワイン協会は、米国での売上減少は、他の市場では補えないだろうと表明した。
<勝者と敗者>
イタリア業界団体フェデルヴィーニのミカエラ・パリーニ会長は声明で、「消費地であるアメリカ現地の生産では代替できない多くの銘柄が米国の消費者の食卓から消え、イタリアと欧州には深刻な生産・雇用危機が迫っている」と述べた。
日本の飲料メーカー、サントリーホールディングスは、関税の影響の対応として、蒸留酒を生産した国での販売に注力すると述べた。
その他の大手酒類・ビール製造会社はコメントを控えたり、影響を評価中だと述べた。
金融機関UBSのアナリストらは、上場している大手酒類メーカーは関税を賄うために価格を2%から5%引き上げるか、あるいはコストを自ら負担して、その分営業利益が減少する可能性があると推定した。
米国大手酒類販売会社リパブリック・ナショナル・ディストリビューティング・カンパニーの商業金融担当上級副社長タミー・カーティス氏は、関税率が公表されたことを受け、価格に関する真剣な議論が行われていると述べた。
「勝者と敗者が生まれるだろう」と彼女は述べ、サプライチェーン全体でより多くの関税を吸収できる製品はよりうまく対応できるだろうと付け加えた。
米国ではワインやコニャックなどの製品の売り上げがすでに落ち込んでいる。フランスとスペインのワイン生産者はロイターに対し、米国の消費者は関税コストの一部を負担しなければならなくなるだろうと語った。米国ワイン貿易連盟は、これは外国のワイン業界よりも米国のワイン業界に打撃を与えるだろうと付け加えた。
<どこへも行けない>
ボルドーワイン業界団体の会長アラン・シシェル氏は、トランプ大統領の最初の任期中に試みられた、ワインを大量輸送するような関税緩和戦略は、今回の包括的な関税には役立たないだろうと述べる。
製造やその一部、例えば瓶詰め作業を移転できる生産者もいるかもしれないが、フランスのシャンパンやスコッチウィスキーのような製品は特定の国や指定された地域で製造されなければならず、生産を移転することはできない。
アイルランド・ウイスキー協会のエオイン・オ・キャセイン会長は、アイルランドのウィスキーセクターは、生産の40%を米国に輸出しており、これが成長を促進し、他の市場での拡大を支えると述べる。企業は今、特に不確実性が高まる中で、事業の焦点を他の地域に移すかもしれないと彼は続けた。
欧州はトランプ大統領が課すと脅した200%の関税を免れたが、欧州の報復措置がバーボン・ウイスキーなどの米国産酒類に及んだ場合には、それが課される可能性もある。
「もし200%まで上昇したら、ゲームオーバーだ。米国市場は終わりだ」。シャンパンメーカー、ルクレール・ブリアンのCEO、フレデリック・ザイメット氏は語った。
●日本企業
千代田化工建設は4日、オーストラリアの石油ガス開発会社、パイロットエナジーが計画する二酸化炭素(CO2)サプライチェーン(供給網)構築に向けた調査事業を同社から受注したと発表した。中間原料のアルミナ生産時に排出されるCO2の回収から輸送、貯蔵までの供給網構築への実現性を検討する。
パイロット社が主導し、西オーストラリア州のアルミナ生産設備から排出される年約70万トンのCO2を回収・貯蔵する計画の実現性を検討する。CO2を液化し、輸送して海上の枯渇油田に埋めることを目指す。必要なエネルギーを削減できる効率的な手法を検討する。
千代田化工がCO2の圧縮設備、パイプライン、液化装置の費用や設計について検討する。海上輸送については日本郵船関連会社のクヌッツェン・エヌワイケイ・カーボン・キャリアーズ(KNCC)が担当する。調査期間は2025年1〜5月で受注額は非公表。
●先進国政治動向
トランプ米大統領は4日、自身のソーシャルメディアへの投稿で「私の政策は決して変わらない」と言明。米国からの関税に中国が報復措置を発表したことを強く非難した。世界貿易戦争に発展する見通しが経済を混乱させている。
中国はこれより先、米国からの輸入品全てに34%の関税を課すなど、一連の報復措置を発表。トランプ氏がしかけた貿易戦争が報復の応酬でエスカレートし、世界経済にリセッション(景気後退)が迫る恐れが生じている。
「中国はしくじった。パニックに陥ったからだ。彼らにとってやってはいけないことをやってしまった」とトランプ氏はトゥルース・ソーシャルに投稿した。
トランプ氏はさらなる措置で中国に対応する計画は発表しなかったが、報復で米国への関税が引き上げられれば米国もそれに応じると過去に公言している。
別の投稿では、「米国に来て大量のマネーを投資する多くの投資家に告ぐ。私の政策は決して変わらない。今はお金持ちになる好機だ。これまでにない富が手に入るだろう!!」とトランプ氏は述べた。
一連のコメントは関税の規模や範囲を巡り外国政府や企業経営者と交渉するトランプ氏の意欲について、首尾一貫しないメッセージの最新例となった。つい3日には、「驚くべき」ものが提示されれば、関税引き下げにオープンであると語ったばかりだ。
米共和党は、富裕層に課す所得税の最高税率を引き上げることを検討している。2017年に成立した減税の恒久化など、現在取りまとめている税制法案の一部コストを相殺することが目的。増税に長年反対してきた同党にとって大きな方針転換となる。
事情に詳しい複数の関係者が匿名を条件に明らかにしたもので、年間課税所得100万ドル(約1億4600万円)以上を対象に新たな税率区分を設け、39-40%前後を適用する案が検討されているという。
また、現行の最高区分である年間課税所得62万6350ドル超の単身者に適用される税率37%を39.6%に引き上げる案も検討している。これはオバマ政権下で定められた税率に戻ることを意味する。この案についてはニュースサイトのアクシオスが先に報じていた。
関係者によれば、増税案は確定しておらず、今後変更される可能性がある。トランプ政権当局者と、政権に近い議員らは向こう数カ月以内の議会通過を目指し、包括的税制法案の草案策定に着手している。
財務省の声明によると、ベッセント長官は議会に対し、第一次トランプ政権下で成立した減税の恒久化に向け、税制法案に迅速に取り組むよう促している。
ホワイトハウスの担当者にコメントを求めたが、すぐには返答はなかった。
富裕層が対象だとしても、増税案は共和党内で論争を引き起こす可能性が高い。共和党はかつて党員に増税反対のスタンスを事実上義務付けていたが、トランプ政権下でよりポピュリスト的立場を受け入れるようになった。
上院は数日内に、税制法案の大枠を定める予算決議案を採決する予定。同案は4兆ドル規模のトランプ減税の延長に加え、1兆5000億ドルの追加減税に道を開くものとなる。
欧州連合(EU)加盟国のうちフランスなど11カ国が3日、南米の関税同盟メルコスル(南部共同市場)とEU加盟国間の自由貿易協定(FTA)の締結に向けて協議に入った。11カ国は従来、FTAに反対していたが、トランプ米大統領が2日に発表した相互関税措置の影響を相殺する手法として、一転して締結の検討に乗り出したシグナルとも読み取れる。
フランスのバンジャマン・アダッド欧州担当相が3日、オンライン会議を呼び掛け、10カ国政府高官が参加した。
アダッド氏の事務所の報道担当者はロイターの取材に「参加者全員が貿易パートナーシップの多様化がいかに重要かという点で意見が一致した」と話した。
EU欧州委員会は昨年、ブラジルやアルゼンチンなどが加盟するメルコスルとFTAを締結することで最終合意したと発表していたが、フランスなどが農家保護のため反対していた。オランダやオーストリア、アイルランド、ポーランド、ハンガリーなどはFTAに反対するフランスを支持していた。
だが今回の協議では、フランス主導で計11カ国がFTA賛同に向けて建設的な妥協点を探り始めたとみられる。トランプ氏の関税措置を踏まえた現在の状況下では、EU域内の輸出業者には南米が米国に代わる有望市場となる可能性が出てきた。
フランスなどは従来、ブラジルやアルゼンチンなど環境規制がEUよりも緩い国で生産された牛肉や穀物など農産物が国内に流入するのを警戒。このためFTA交渉は農家保護を巡ってEU内で長く意見対立が起きていた。
3日のオンライン会議でアダッド氏は、輸入量が規定上限を超えた際に自動的に発動するセーフガード(緊急輸入制限)条項をFTAに盛り込む案を支持した。
ただ、ある政府高官はロイターの取材に「協定案には既に一般的なセーフガード条項が含まれているものの、発動条件が厳しすぎるため危機発生時には役に立ちそうにない」と述べた。さらに「農家を保護しない不均衡な協定は受け入れられない」と話した。
1月の就任以降、矢継ぎ早に関税措置を出してきたトランプ米大統領。米国の同盟国も容赦しない措置に、すでに世界は十分振り回されているが、トランプ氏は自身の政策実現のためにさらなる難題を貿易相手国・地域に突きつけると専門家は予想する。
金融の中心地があり基軸通貨を発行する国の統治者として、トランプ氏にはクレジットカード、外国銀行へのドル供給など、切り札はまだある。こうした非伝統的な「武器」の使用は、米国自身が多大なコストを負い裏目に出る可能性もあるが、究極のシナリオも排除すべきでないという。
特に警戒しなければいけないのは、関税が米貿易赤字の縮小につながらない場合だ。労働力不足のためあり得ると多くのエコノミストが考えている。「トランプ氏がいら立ちを募らせ、論理的根拠がなくても突飛なアイデアを実行しようとすることは十分考えられる」とカリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授(経済学・政治学)と話す。
<マールアラーゴ合意>
トランプ米政権の「公然の秘密」の計画は、ドルを弱くして貿易の不均衡を是正することだ。その方法の一つが、外国の中央銀行を巻き込んでドルの価値の再評価をすることだ。
米経済諮問委員会(CEO)委員長に指名されたスティーブン・ミラン氏による昨年11月の論文によると、これはトランプ氏のフロリダ州の私邸と1985年のプラザ合意にちなんで名付けられた「マールアラーゴ合意」の一環で起こる可能性がある。ミラン氏は論文で、米国が関税賦課と安全保障支援などをテコに諸外国に自国通貨の対ドル相場押し上げを促すという考えを示した。
しかし経済学者は、現在の経済的・政治的状況は40年前とは大きく異なるため、欧州や中国が応じる可能性は低いとみる。
ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、モーリス・オブストフェルド氏も「ありそうにないシナリオ」と述べた。すでに関税は発動されているため新たな交渉カードにはならず、安全保障についても、ウクライナ問題を巡る対応で分かるように国際的な枠組みから米国は後退していると指摘。ユーロ圏、日本、英国の中央銀行は、金利を引き上げて不況のリスクを取らされる「取引」に応じる可能性は低いとも述べた。
TSロンバードのチーフエコノミスト、フレイヤ・ビーミッシュ氏は、中国当局にとって人民元の押し上げはリフレの取り組みに反すると指摘した。
円買い介入を実施してきた日本も、最近ようやく終了宣言した25年にわたるデフレの記憶が円高への意欲を弱める可能性がある。
<ドルの後ろ盾>
要求が通らない場合、トランプ政権は、ドルの基軸通貨としての地位を利用するなどして、より攻撃的な戦術を試みる可能性がある。
オブストフェルド氏や中央銀行関係者が挙げるのが「ドル資金の融通」だ。危機時にドル流動性を供与する、米連邦準備理事会(FRB)と外国中央銀行の通貨スワップ協定の打ち切りを交渉カードに使う可能性があるという。非常時にドルの融通を受けられないとなれば、米国外のドル調達メカニズムが機能不全を起こし、英国や欧州、日本の銀行が大打撃を受ける。
通貨スワップ協定を所管するFRBを掌握したいとトランプ氏は示唆していないが、最近の規制当局での幹部人事などの例があり不安視されている。
コンサルティング会社シン・アイス・マクロエコノミクスの創業者スピロス・アンドレオポウロス氏は「より大きな交渉の中で、これが核の脅威のように機能する可能性はもはやゼロではない」と述べ、そのような動きは長期的には、信頼できる国際通貨としてのドルの地位を下げるとの見方を示した。
<クレジットカード>
米国にとってもう一つの切り札は、資金決済だ。日本や中国では独自の電子決済が浸透しているが、ユーロ圏ではビザ(V.N), opens new tabとマスターカード(MA.N), opens new tabがカード決済の3分の2を占める。アップル(AAPL.O), opens new tabやグーグルなどが提供するスマートフォンアプリによる支払いは、小売り決済の約1割に相当する。
ビザとマスターカードは、ロシアがウクライナに侵攻した直後にロシア向けサービスを停止した。欧州が同様な脅威に直面すれば混乱は必至だ。
欧州中央銀行(ECB)は、トランプ政権を念頭に欧州が「経済的圧力と威圧」リスクにさらされており、デジタルユーロがその解決策になる可能性があると指摘しているが、導入を巡る議論は進んでいない。トランプ政権の不合理な措置に、米銀の欧州業務の規制などで対抗することも可能だが、逆に欧州銀行の米国業務で報復される可能性があり、強硬な措置は取りづらいのが実情だ。
米上院共和党は、トランプ大統領が掲げる減税方針と債務上限引き上げの実現に向け前進した。大統領の関税政策で混乱に陥っている金融市場に、わずかながらも確実性をもたらす可能性がある。
上院は5日早朝、長時間に及ぶ修正案の採決を経て、予算決議案を賛成51、反対48で可決した。全民主党議員に加え、共和党からコリンズ議員とポール議員の2人が反対票を投じた。
この決議により、議会共和党は、第1次トランプ政権下の2017年に成立した個人・法人減税を延長する法案を策定することが可能となる。同減税措置は2025年末に期限切れとなる。
また、今後10年間で1兆5000億ドル(約220兆円)の追加減税を認めるとともに、財務省が今夏に債務上限に達する事態を回避できるよう、連邦政府の借入限度額を5兆ドル引き上げることも盛り込まれている。
共和党は、減税措置を関税に続くトランプ大統領の経済政策第2段階と位置づけている。大統領に近い関係者らは、新たな減税で市場が活性化し、確実性を与えることで企業の投資を後押しすると主張している。ただ、この税制パッケージの規模が、投資家の間で広がる関税への懸念を相殺できるかどうかは不透明だ。
議会共和党は、トランプ政権1期目に導入された減税措置のうち期限を迎える部分を延長することが、来年の米家計の税負担増を回避する上で不可欠だと訴えている。
トランプ米大統領は2期目に入って以来、ビジネス界や政界、メディアから同盟国まであらゆる方面で「敵対勢力」と見なす個人や団体に対し、自身の意思に従わせようとさまざまな権力を行使してきた。こうしたやり方をした近代の米大統領は前例がない。
トランプ政権は、抗議行動に参加した学生の拘束と強制送還、大学への連邦予算拠出停止、政敵とつながりのある法律事務所の排除、裁判官への脅迫、報道関係者への圧力行使などを進めている。連邦政府のリストラを通じて同氏の意向に従わない可能性がある職員も解雇した。
このような措置の中心的手段になったのは大統領令だが、政敵を標的にして大統領令を出す例は今までなかった。トランプ氏は堂々と、訴訟や公然とした脅し、連邦政府の予算配分によって相手を服従させようとしている。
ニューヨーク大のピーター・シェーン教授(法学)は「あらゆる取り組みに共通するのは、MAGA(米国を再び偉大にする)政策課題と自らの権力にとって抵抗源になりそうな全ての勢力を黙らせたいというトランプ氏の欲求だ」と指摘した。
標的になった人々の一部は急いでトランプ氏の怒りをなだめにかかった。敢然と立ち向かおうとする向きもわずかにいるが、大多数はまだどう対応すべきか思案を続けている。トランプ氏の行動のスピードがあまりに速く、範囲も広いため、野党民主党や公務員労組、各企業トップ、法曹界などは一様に不意打ちを食らった形になっている。
一方、トランプ氏の支持者らには、一連の動きは同氏が選挙で掲げた公約を達成するために大統領としての権限を全面的に行使しているに過ぎないと映っている。
<社会秩序変革も狙う>
トランプ氏の狙いは政治の分野にとどまらず、強力な行政部門を頂点に米国社会の秩序を再構築したいという願望がうかがえる。議会上下両院は与党共和党が支配し、連邦最高裁判事も保守派が多数を占めるだけに、他の大統領に比べてトランプ氏はブレーキをかけられずに権力を行使できる余地が大きい。
そしてトランプ氏はこれまでに、コロンビア大や大手法律事務所、メタやウォルト・ディズニーといった巨大企業などから譲歩を引き出すことに成功している。彼らはいずれも圧力に耐え忍ぶより政権と和解する道を選び、その代わりにある程度の独立性を放棄し、「悪しき」と評価され得るような前例を作った。
トランプ氏の怒りを先んじてかわそうとする動きも広がっている。ゴールドマン・サックスやグーグル、ペプシコを含めた20を超える大手企業・金融機関は、トランプ氏が目の敵にしている多様性プログラムを撤回している。
3つの大手法律事務所は、所属弁護士が機密文書や連邦政府の建物へのアクセスを遮断されないように政権側と取引した。
トランプ氏の大統領令は、ベネズエラの犯罪組織のメンバーとされる不法移民に対する厳密な審査なしの強制送還や、貿易相手国への関税発動にも使われている。
さらに同氏は複数の米メディア企業を提訴し、政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」を所管する組織の規模縮小を指示。博物館や研究施設などを運営するスミソニアン協会に「反米的思想」の排除も命じた。
ウクライナ政府に対しては軍事支援の停止をちらつかせて米国が権益を持つ形の鉱物資源開発協定の締結を迫り、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する同盟国デンマークには、自治省グリーンランドを売り渡せと脅したほか、カナダの併合を主張したり、パナマ運河の管理権奪還を訴えたりしている。
<権力の使い方を学習>
連邦政府に対する内部告発者の代理人で、自身もトランプ氏から機密情報へのアクセスを禁止された弁護士のマーク・ザイド氏は、30年仕事をしてきてトランプ氏のような振る舞いは見たことがないと話す。
「大統領令が報復ないし復讐目的で個人や非政府関係者を明確な標的として策定されたことはこれまで一度もなかった」と強調した。
ホワイトハウスやトランプ氏の側近らは、トランプ氏の行動は復讐が動機ではないと反論する。
フィールズ大統領報道官は「非伝統性こそ、まさにトランプ氏を大統領に当選させた国民が票を投じた理由だ。大統領は根を張った官僚組織をひっくり返そうと強く決意している」と述べた。
1期目のトランプ氏は、2016年の大統領選へのロシア介入疑惑に関する調査や、側近の経験不足、議会で野党民主党の力がより大きかったことなどさまざまな足かせに悩まされてきた。
しかし、それらが一掃された今、トランプ氏は就任直後からどうすれば自分の望みをかなえる上で権力手段をより効果的に駆使できるのか学習済みであることを証明して見せた。
共和党ストラテジストのリナ・シャー氏は「トランプ氏は1期目に比べて、権力の使い方がよく分かっている」と話す。
チャールストン大のクレア・ウォフォード教授は、トランプ氏が大統領令を政策課題実現だけでなく、支持者へのメッセージとして有効利用しているとの見方を示した。トランプ氏の戦略性のみならず、大統領令の新しい使い方をしている点に強い印象を受けるとしている。
●先進国中銀、金融当局
トランプ米大統領の輸入関税強化による世界経済へのリスクなどを背景に、世界の中央銀行が外貨準備高に占める米ドルの割合を低下させる一環で金を購入し、価格上昇を支えるとの見方が強まっている。
ロシアによる2022年のウクライナ侵攻は、中銀による金購入の大きなきっかけとなった。それ以降に年間1000トンを超える金を購入しており、10年代の年間平均の約2倍で推移している。
3日の取引で金スポット価格は1オンス=3167.57ドルと過去最高値を更新した。25年に入ってから19%上昇し、22年末と比べると71%上がった。
産金業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の推計によると、トランプ氏が米大統領選で勝利した24年第4・四半期に中銀の金購入量は前年同期比54%増の333トンに膨らんだ。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のコモディティー(商品)ストラテジスト、マイケル・ウィドマー氏は「新興国の中銀は現在、資産の約10%を金で保有している。本当は資産の30%を金で保有すべきだ」と指摘。そのためには中銀の金保有を1万1000トン増やす必要があるとした上で、米経済政策の不確実性は今後数年間続くとして「中銀の観点からは、(不確実性は)国債をポートフォリオに加える動機を弱め、実際にドル離れを進める動機を強めることを意味する」と言及した。
米国債と、購入のために必要となるドルは、これまでは安全資産の地位を金と争ってきた。
しかしながら、トランプ氏が打ち出した関税政策と世界的な貿易戦争、ウクライナでの戦闘へのアプローチ、数十年来にわたる欧州との同盟関係の軽視と懐疑は世界秩序を根底から覆した。
中銀への金売却に携わっている情報筋は「金の保有量が(少ない)中銀は、さらに金を増やそうとするだろう」とし、「今年の中銀からの需要は過去数十年間で最高になるかもしれない」と言及した。
企業が利幅を守るために米国の輸入関税の増加分を消費者に転嫁することや、労働者の賃上げ要求によってインフレ圧力が急上昇するとの懸念も、金が価値と富を蓄える役割を後押ししている。
マッコーリーのアナリストらは最近の顧客向けのメモで「今日までの金価格の強さと、それが今後も続くとの私たちの予想は、主に投資家や公的機関が信用リスクや、取引相手の信用リスクの対策として金を購入する意欲が高まっていることに起因している」とコメントした。
金の需要部門別で中銀は首位の宝飾品部門、投資部門に次いで3番目となっており、世界の消費量の23%を占めている。通常ならば中銀は価格に敏感で、価格が下落すると購入し、価格が上昇すると購入を抑える。
アナリストらは金価格が着実に上昇するとの見通しの中で、中銀が金の購入を先延ばしする可能性は低いとしている。
一方、トランプ氏はドル離れを積極的に進めているとみられる国々に関税をかけると脅しているため、中銀は購入量を公表しない方法を選ぶかもしれない。
国際通貨基金(IMF)に報告された中銀による24年の金の総需要量は、WGC推計の34%しか反映されていない。
WGCによると、中銀は今年1―2月に金保有を正味44トン増やしており、国別ではポーランドと中国が最大となった。
米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、ドナルド・トランプ大統領が今週発表した関税率が予想より高かったため、米国経済は数週間前に予測されていた以上に物価が上昇し、成長ペースが鈍化する期間に直面する可能性が高いとの見方を明らかにした。
4日の講演原稿で、FRBは様子見姿勢に満足しており、関税強化後に見込まれる物価上昇ペースは和らぐと国民に請け合うことを最優先する意向を示した。
経済成長が減速する「下振れ」リスクが増したことを認めつつも、世界貿易の縮小による打撃を緩和するために、FRBが政策金利をどのように調整するかを語るには時期尚早だと述べた。
「不確実性は高いままだが、関税の引き上げ幅が予想よりかなり大きいことが明確になり始めた」とした上で、物価上昇と成長減速による経済への影響も予想より大きくなりそうだと述べた。
トランプ氏が2日発表した関税措置を踏まえ、今年はインフレ率が少なくとも1ポイント上昇すると、エコノミストらは予測している。パウエル氏は、物価がいったん上昇し、その後もある程度は高止まりするリスクに言及した。
「関税は少なくとも一時的にインフレを上昇させる可能性が非常に高い。また、その影響が長引く事態もあり得る」と指摘。そうした事態を避けるための対策は、物価の上昇幅や、それを経済が吸収するのにかかる時間といった要因に左右されるとした。
「われわれの責務は、長期的なインフレ期待を十分に安定させ、一時的な物価上昇が持続的なインフレ問題にならないようにすることだ」と語った。
インフレに焦点を当てた講演内容からは、関税がもたらす景気低迷を未然に防ぐことは難しいとのFRB当局者の見方が透ける。つまり、当局者は失業率が悪化したり、消費が冷え込んだりしてから、その打撃をいかに和らげるかに焦点を当てる可能性がある。言い換えれば、FRBはいかなる景気低迷にも対処するが、先回りして対策を講じることはあまりできないということだ。
●先進国経済指標
米労働省が4日発表した3月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は22万8000人増加し、エコノミスト予想の13万5000人増を大幅に上回った。しかし、トランプ米大統領の関税措置によって企業や消費者の信頼感は揺らいでおり、労働市場が今後も勢いを維持できるかが注目される。
失業率は4.2%と前月の4.1%から上昇、予想は4.1%だった。
2月の雇用者数は15万1000人増から11万7000人増に下方改定された。
フィッチ・レーティングスの米経済調査責任者オル・ソノラ氏は「不確実性の大海に落とされた一滴の朗報だ」としつつも、トランプ大統領の相互関税発表前のデータであることを踏まえ、「来月の雇用統計がより重要な意味を持つ」と述べた。
業種別では、病院や介護施設など医療関連が5万4000人増、社会福祉関連で2万4000人増。
小売は2万4000人増、運輸・倉庫は2万3000人増。
春に向けて寒さが和らぐ中、建設は1万3000人増。レストラン・バーも2万9800人増。
製造は1000人増、金融は9000人増。
ストを行っていたスーパーマーケットの従業員約1万人が職場に復帰したことも雇用者増に寄与した。
政府部門は4000人減。2月の1万1000人減から減少幅は縮小した。実業家イーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」が連邦政府職員の大規模削減を実施しているものの、有給休暇中もしくは継続的に退職金を受け取っている場合は雇用状態とみなされることが背景にあるもよう。
サンタンデール米国キャピタルマーケッツのチーフ米国エコノミスト、スティーブン・スタンリー氏は、DOGEによる政府職員削減が騒がれているものの、「実際には、連邦政府職員の規模は今後1─2年で緩慢なペースで縮小する見通しで、労働市場全体の軌道を根本的に変えるほどの影響はない」という見方を示した。
時間当たり平均賃金は前月比0.3%上昇。2月は0.2%上昇していた。前年比では3.8%上昇と、前月の4%から伸びは鈍化した。
3月は23万2000人が労働市場に参入した。
トランプ大統領は2日、貿易相手国に対する相互関税を発表。全ての輸入品に一律10%の基本関税を課した上で、各国の関税や非関税障壁を考慮し、国・地域別に税率を上乗せする。
相互関税の影響は、来月発表される4月の米雇用統計で明らかになる可能性があると見込まれている。シティグループのエコノミスト、ヴェロニカ・クラーク氏は「すでに減速しつつあった労働市場が、新たな不確実性の増大や関税コストの上昇、政府の支出・人員削減、企業や消費者の信頼感低下といった新たな衝撃に耐えるには不十分であることを示す証拠が相次いでいる」と指摘。「4月のデータは少なくともやや軟調となり、5月以降から夏にかけ、より顕著なぜい弱性が示されることになるだろう」と述べた。
●金融市場、先進国トピックス
米大統領選直後、親ビジネスとみられるトランプ大統領への期待にウォール街が沸いていた頃、BCAリサーチのチーフ・グローバル・ストラテジスト、ピーター・ベレジン氏は警鐘を鳴らしていた。
ベレジン氏のチームは昨年12月、第2次トランプ政権では一方的に広範な関税が導入され、第1次政権を上回る規模になるとみていた。相互関税の発表を受けた今週の金融市場の動揺は、ベレジン氏に先見の明があったことを示している。この先の予想についても同氏が正しいとすれば、米国株はまだ底入れから程遠いことになる。
S&P500種株価指数については、年末までに4450まで下落すると同氏は予想。これは現在の水準を約18%下回る。一方で、原油価格は「需要の減少」という悪い理由によって、現在の1バレル=約63ドルから50ドルに下がり得ると述べた。
米国は早ければ4-6月(第2四半期)にもリセッション(景気後退)に陥る可能性があると同氏は話す。米経済はすでに今年に入る前から弱含んでおり、具体的には、求人件数の減少、コロナ禍の貯蓄枯渇、空室率の上昇、自動車ローンや学生ローンの延滞増加といった兆候に表れていたという。そこにトランプ氏による関税拡大が「とどめを刺す」と同氏はみている。
「リセッションは経済が脆弱(ぜいじゃく)になり、その後にショックが加わることで起こる傾向がある」とベレジン氏。「状況は良くなるどころか、むしろ悪化する。今後は報復が起こり、貿易戦争は激化する」と続けた。同氏はリセッションに陥る確率を75%とみている。
ウォール街は年初の段階で、米国株と米経済に強気だった。当時ブルームバーグが調査した19人のストラテジストのうち、S&P500種が6000を割り込むとの予想はゼロだった。
ベレジン氏はまた、トランプ政権が財源の裏付けのない減税を実施するかもしれないとし、今後数カ月にわたり米国債利回りは高止まりする可能性があると述べた。
「我々は目下、極めて悲惨な負の連鎖に陥る瀬戸際にある。雇用見通しへの不安が買い控えを招くという自己実現的な悪循環だ」とベレジン氏は説明。「消費が落ち込めば、企業は採用を控え、雇用が減少。所得が減って、さらに支出が減るという流れになる」と続けた。
米関税を巡る懸念が米国株を直撃する中、伝説的な投資家ビル・グロース氏は、押し目買いを狙う投資家に対し、様子見を続けるよう勧めた。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の共同創業者で最高投資責任者(CIO)も務めたグロース氏は3日にS&P500種株価指数を大きく押し下げた今回の売り浴びせについて、解消の兆しが見えない「深刻な市場イベント」だと指摘。
「投資家は『落ちるナイフをつかもう』とするべきではない。これは即座に悪影響が表れたという点を除き、1971年の金・ドル本位制の終焉(しゅうえん)に似た壮絶な経済・市場イベントだ」と電子メールで述べた。
トランプ大統領の相互関税発表を受け、3日にはS&P500種の時価総額約2兆ドル(約291兆円)が消失。米10年債利回りは一時、節目の4%を割り込んだ。
エコノミストはトランプ氏の政策が短期的に米国内の物価上昇と成長鈍化に加え、リセッション(景気後退)を招く可能性が高いと指摘している。グロース氏は「トランプ氏は当分撤回できないだろう。マッチョ過ぎるからだ」と述べた。
また、利下げ環境において比較的安全な配当を提供するAT&Tやベライゾン・コミュニケーションズなどの国内企業だけにチャンスがあると指摘。ただ「これらの銘柄にも注意が必要だ。『買われ過ぎ』の領域に近づいているからだ」と述べた。両銘柄ともプラスで3日の通常取引を終えた。
JPモルガン・チェースは、トランプ政権が米国の貿易相手国に対して課すと発表した相互関税が変更されることなくこのまま発動されれば、2025年に米国、引いては世界経済をリセッション(景気後退)に陥れる可能性が高いとの見方を示した。
チーフエコノミストのブルース・カスマン氏は「世界経済が今年リセッションに陥るリスクは、40%から60%に上昇した」と3日のリポートに記した。関税は米国内の家計および企業に対する1968年以来の大幅増税に相当すると指摘した。
「この増税効果は報復措置、米企業の景況感悪化、サプライチェーン混乱などによって増幅される可能性が高い」と、「There will be blood(血を見ることになる)」と題したリポートで分析した。
トランプ米大統領が世界各国からの輸入品に大幅な関税を課すと発表した後、3日にはウォール街の複数の企業が米国の景気後退を警告し、何社かはそれを基本シナリオとした。
JPモルガンは、関税の影響は大きいとしながらも、経済予測を修正する前に様子を見る姿勢を示している。
トランプ氏は3日、貿易相手国が「驚くべき」ものを提示することができれば、関税引き下げにオープンだと発言した。
カスマン氏はリポートで「予測を即座に変更するつもりはなく、まずは初期の実施と交渉プロセスを見守りたい」としている。
リポートは「発表された政策が完全に実施されればマクロ経済への大きな衝撃になるとみられ、その場合は米経済、引いては世界経済が今年中に景気後退に陥る可能性が高い」と強調している。
トランプ米政権が発表した「相互関税」に対して、ドイツでは各種業界団体から産業への影響を懸念する声が相次ぎ、一部ではドイツ経済への打撃を2000億ユーロとする試算も出ている。
ドイツ連邦統計庁によると、米国とドイツの財の貿易高は2024年に2530億ユーロで、米国はドイツにとって最大の貿易相手国。
ドイツ卸売・貿易業連合会(BGA)のディルク・ヤンドゥラ会長は「率直に言って、(米相互関税の)影響を感じることになるだろう。関税分を価格に転嫁せざるを得ず、多くの場合、それは売り上げの減少を引き起こす」と述べた。
また、ドイツ産業連盟(BDI)のウォルフガング・ニーダーマルク理事は「発表された相互関税は、国際的な貿易システム、自由貿易、グローバルなサプライチェーンに対する前例のない攻撃だ」と世界貿易への影響を危惧した。
独自動車工業会(VDA)のヒルデガルト・ミュラー会長は「ルールに基づく国際貿易秩序の拒絶であり、世界の価値創造、成長、繁栄の基盤が崩れる」と指摘。「これは『アメリカ・ファースト(米国第一)』ではなく、『アメリカ・アローン(米国孤立)』」であり、関税の影響は全世界に波及し、雇用の喪失につながると警告した。
ドイツのIW経済研究所はトランプ氏の4年間の大統領任期中に今回の関税措置によってドイツ経済が被る損害を2000億ユーロと試算した。
「景気後退(リセッション)」のつづりは今やT-A-R-I-F-F(関税)なのか。
ドナルド・トランプ米大統領が2日発表した関税によって世界的な貿易戦争の脅威が高まったのを受け、市場のムードは景気後退懸念一色となった。米国債利回りは急低下、米国株先物とドルも急落した。
これは単なる市場の行き過ぎた反応ではない。3日、S&P500種株価指数は4%超下落し、ドルも1%超下落した。これは過去に6度しか起きていない現象だ。投資家は通常、資金の安全な避難先となるはずのドルがその役割を果たさなかったことに衝撃を受けた。
だが市場の修羅場はまだ始まったばかりかもしれない。少なくとも1950年代以降で最大となる米国の「増税」が景気を冷え込ませるならば、米国株と米国債利回りはまだ大いに下がる余地がある。
景気後退が本格化すれば、消費が落ち込み、貯蓄者はより安全な資産に切り替えることになり、株価は利益減少とバリュエーション低下の両面から打撃を受ける。食品や生活必需品などのディフェンシブ銘柄は売上高が落ち込みにくいため、高級品や自動車といった裁量的支出に関わるシクリカル銘柄(景気敏感株)をアウトパフォームする。
S&P500種指数が2月半ばにピークを迎えた後、投資家は景気敏感株を売り、ディレンシブ株に乗り換える動きを加速させている。筆者が用いる景気敏感セクター指標(超大型株によるゆがみを避けるため、各セクター内で均等加重したもの)は、2020年3月の新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)以降、これほど短期間でディフェンシブ株に大きく差をつけられたことはない。
景気の悪化で債務不履行(デフォルト)の可能性が高まる、最も格付けの低いジャンク債も大きな打撃を受けており、米国債に対するスプレッド(上乗せ金利)は2ポイント以上も拡大した。同様の短期間にこれほど急拡大したのは、エコノミストが景気後退は間近だと確信していた2022年以来のことだ(この時結局、景気後退は起こらなかった)。
だが、市場は景気後退確率の高まりを急速に織り込んでいるものの、完全に備えができている状況ではない。S&P500種指数は過去最高値から12%下落し、昨年9月の水準に戻ったに過ぎない。通常の景気後退局面では、株価は最終的に20%以上下落し、7カ月よりはるかに長期間の上昇分を失うことになる。またS&P500種指数の予想PER(株価収益率)は依然として20倍近くある。景気後退時にこのような水準を維持できないのは確かだ。
ジャンク債にも同じことが言える。発行額の大半を占める質の高いジャンク債は、今のところほぼ影響がなく、デフォルトに最も近いCCC格以下の債券でさえ9月の水準に戻った程度だ。スプレッドはさらに拡大するだろうが、実際の景気後退時にはデフォルトが急増するとみられ、スプレッドが現在の2倍に達することもあり得る。そうなれば多大な損失を生じかねない。
より詳細に見てみよう。ピムコが用いる指標によると、株式オプション市場が織り込む1年先の景気後退確率は約15%となり、2日の関税発表前の10%から上昇している。この指標はPERが15倍を下回る確率を尺度とする。金利デリバティブ(金融派生商品)は2年後の金利が1.75%を下回る確率を尺度にすると、景気後退確率を約18%と見込む。どちらも確実な指標ではない。ドットコム・バブル崩壊後、景気後退を経てバリュエーションが正常な水準に戻るまでには数年を要した。関税に誘発されたインフレが、景気悪化に際した米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ余地の足かせになる可能性もある。
米国債利回りは実際それほど大きく低下していない。10年債利回りは今年の高水準から0.76ポイント低下した。これほど短期間に今回より大幅に低下したことは過去2年間に3度あり、そのうち2度は下げ幅が最終的に1ポイントを超えた。
通常、景気後退局面では3ポイントかそれ以上の利下げが行われる。景気後退が確実視される場合、利回りのはるかに大幅な低下が必要となる。もちろん、景気後退と物価上昇が同時進行するスタグフレーションがFRBの利下げを妨げなければ、の話だ。その場合は米経済と米株市場、米社債市場がさらなる痛手を被るだろう。
市場は今のところ、FRBが今回の関税を静観し、たとえ物価を押し上げたとしても利下げを行うとみている。ジェローム・パウエルFRB議長が2022年のインフレに使った「一時的」という表現を繰り返すとは思えないが、インフレ期待が大幅に上昇しない限りは、関税を1回限りの出来事として扱う可能性は十分にある。
市場が予想するシナリオは次のようなものだ。CMEのFedWatchツールによると、新たな関税発表を受け、来月の利下げ確率は2倍の24%に上昇。また年内利下げは3回以上を見込んでいる。
1930年のスムート・ホーリー関税法を超える高関税への回帰が景気後退を招くと考える投資家は、年内のさらなる大幅な株価下落と債券利回り低下に身構えるべきだろう。
他の国々が真剣には報復せず、トランプ氏が関税率引き下げ交渉に直ちに応じると考える投資家は、物価が依然として高止まりしても平気かもしれない。ただそうした投資家でさえ不透明感が長引くことで経済に悪影響が及ぶことを警戒する必要がある。
ドナルド・トランプ米大統領は、自身が課した関税で「ちょっとした混乱」が起きるだろうと述べたが、「ちょっとした」の定義は何なのだろうか。株式市場は3日、米政府がロックダウン(都市封鎖)を実施した2020年3月以来のひどい1日を経験した。心配は無用だ。関税には最終的にその痛みに耐えた分の見返りがあると、ホワイトハウスは述べている。しかし、それで安心できるのか。
トランプ氏が2日に1世紀ぶりの大規模な関税引き上げを発表したことに反応して、S&P500種指数は4.8%、ナスダック総合指数は6%それぞれ下落した。市場で最大の犠牲者となったのは、アップル(9.3%安)、ナイキ(14.4%安)、ギャップ(20.3%安)といった小売業者や製造業者だ。原油相場や米ドル相場、10年物米国債利回りも下がっており、経済成長が鈍化するとの見通しを示唆した可能性が高い。
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世界各国市場の3日の動きは、トランプ氏が貿易に課した税の歴史的な大きさを反映するものになった。エバーコアISIの推計では、2日に発表された関税により、米国の実行関税率は24%に上昇し、さらにトランプ氏が医薬品、銅などに課すと約束している分野別関税の実施に踏み切った場合は27%になる。この税率は1930年の「スムート・ホーリー関税法」施行後の税率を上回る。
さらに悪いのは、個々の国・地域に対する関税率を米政府が奇妙でいいかげんな方法で計算したことだ。すべての国・地域に一律10%の関税を課した上で、米政府はそれぞれに上乗せする税率を算出する際に、その国・地域に対する貿易赤字額を対米輸出額で割る手法を使ったように思われる。そして、ほとんどの国・地域に対してこの税率を半分にした。トランプ氏によると、半分にしたのは、「ディスカウント」だという。このため、イラン(10%)やベネズエラ(15%)など米国の敵対国への税率が、欧州(20%)や日本(24%)、台湾(32%)といった友好国より低くなるという不協和音を生みそうな結果になっている。
トランプ氏は以前から貿易赤字に固執しており、それが「ゼロサムゲーム」だと考えている。米国に貿易赤字をもたらしている国や地域は、何かずるいことをしているはずだ。だがそれなら、対米貿易赤字を計上している英国やオーストラリアはどうなのだろう。なぜ両国に10%の関税を課すのか。
貿易収支は国の比較優位など多くの要素を反映している。米国は、得意分野であるサービスやハイテク製品を販売し、国外でより安く作れるものを購入している。また、米国では貯蓄額より支出額が多い。これは資本収支が流入超になっていることを意味する。このことは国際収支において貿易赤字を埋めているのが何かを示している。そのため、貿易赤字が縮小すると、資本の流入は減る。
だがトランプ氏は、自身が導入する関税がきっかけとなって新たな投資が殺到すると主張している。それならなぜドル相場は下落し、1日の下げ幅が過去2年間で最大となったのだろうか。われわれの推測では、投資家が米国の経済政策決定を信頼しなくなっているからだ。
大統領は外国による為替操作や消費を抑制する税制、非関税障壁に不満を示している。だが、他国に米国の輸出品をもっと受け入れてほしいと思うのなら、交渉は可能だろう。環太平洋連携協定(TPP)から離脱しなければ、日本の非関税障壁は低減されていたはずだった。
トランプ氏の関税は皮肉にも、中国から東南アジアの国々に生産拠点を移した企業を罰することになる。第1次トランプ政権は企業に対し、そうした移転を促した。ナイキの靴のおよそ半数は今やベトナムで製造されている。中国での生産比率は18%だ。
トランプ氏はベトナムに46%の関税を課す。これは、ナイキが利益率の低い靴の生産拠点見直しを迫られることを意味する。トランプ氏はそうした靴を米国で生産すべきだと考えているようだ。トランプ氏の関税は、米国がAI(人工知能)に投資すべきときに、靴生産分野の雇用創出に投資を振り向けることを強いる可能性がある。こうした資本の不適切な配分は、中国に対する米国の競争力向上につながらないだろう。
われわれに見える唯一の希望の光は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠している場合、カナダとメキシコからの輸入品は関税対象から除外されることだ。それでも、両国で組み立てられた乗用車とトラックは、米国製でない部品に25%の関税を課されることになる。
***
また、非常に小さな問題とは言えない、法の支配に関する問題もある。トランプ氏は、1977年に成立した国際緊急経済権限法(IEEPA)の緊急事態を宣言する権限を根拠に今回の関税を正当化した。この法律を使って関税を導入した大統領は、トランプ氏を除き誰もいない。トランプ氏が法律を拡大解釈する度合いは、ジョー・バイデン前大統領が学資ローンを帳消しにした際と同程度だ。
米議会は、関税に関する(通商法上の)大統領の権限を制限してきた。このため大統領権限で関税を課せるケースは、輸入品が国家安全保障上の脅威になっている場合(根拠法は通商拡大法232条)か、「巨額で深刻な」貿易赤字への対応が必要な場合(通商法122条)、輸入の急増が米国の産業に被害を及ぼしている場合(同201条)、相手国の貿易慣行が差別的な場合(同301条)に限られている。
この条項はどれも、すべての国からのすべての輸入品に対し、勝手な計算方式による関税を課す権限をトランプ大統領に与えていない。通商法122条は、貿易赤字への対処策として最大15%の関税を課す権限を大統領に与えているが、関税導入の150日後に議会による承認が必要となる。トランプ氏の権力乱用を止めるため、誰かが訴訟を起こすべきだ。
トランプ氏が課した一連の関税は世界の貿易システムにとって、リチャード・ニクソン大統領が1971年にブレトンウッズ体制を崩壊させて以来最大の、米国の政策に伴うショックとなった。ニクソン氏が決断を下した時と同様に、トランプ氏は自身の関税政策がもたらす打撃についてほとんど理解せずに行動している。トランプ氏が言う関税による「混乱」は、彼が想定しているほど小さくないかもしれない。
ドナルド・トランプ米大統領は常々、ドル安が望ましいと主張してきたが、投資家の間では同氏の政策はドル高を招くとの見方が大勢だった。結果的にトランプ氏は正しかったが、ドル安になった理由は恐らく最悪だった。
トランプ氏が「解放の日」に一連の懲罰的関税を発表したことを受け、3日に米国・欧州・アジアで株価が急落した。もっと予想外だったのは、ドルが大半の主要通貨に対して急落したことだ。主要16通貨のバスケットに対するドルの価値を示すウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ドル指数は年初来で5.9%余り下落しており、米大統領選後にドル高に振れる前の昨年11月5日の水準を下回っている。
これはウォール街のアナリストたちのひどい無能ぶりを示している。彼らの大半は2日の関税発表のまさにその瞬間まで、保護主義的な政策はドル相場を押し上げるとの見方を投資家に伝えていた。これは、国外の物品の購入が減れば貿易赤字が縮小し、米国の外貨需要が機械的に減るという考えだ。また、米国の経済成長率はユーロ圏の成長率を上回っており、これが歴史的にドル高要因になってきた。
ところが米商品先物取引委員会(CFTC)のデリバティブ(金融派生商品)取引データによれば、投機筋のポジションはドルの大幅な売り越しに転じている。
この急激な変心の理由が、関税によってリセッション(景気後退)のリスクが高まったことであるはずはない。ドル相場は通常、好景気の時だけでなく、不況期にも上昇する。投資家がドルに資金を逃避しようすることで、いわゆる「ドル・スマイル」の状態が生じるからだ。
市場はなぜ、誤った理解をしたのだろう。ドルはインフレ調整後ベースでかなり割高な水準にあったため、いつ下落してもおかしくない状態だったのかもしれない。もしくは、一部の投資家が主張しているように、米国の同盟諸国に対する経済的攻撃によって、ドルの「世界の準備通貨」としての立場が損なわれているのかもしれない。
後者なら、トランプ政権にとっての勝利となる。現在大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めるスティーブン・ミラン氏は2024年、米国に資産を置いている外国の中央銀行と財務当局を罰することで、貿易赤字に対処する必要性を強調した。これは、逃避先としての需要によってドルが過大評価され、米経済に「法外な負担」がかかっているという考え方に合致している。
だが、それには経験に基づく裏付けがない。なぜなら、外国当局によるドル購入の増加は、ドル安と同時に起こる傾向にあるからだ。国際通貨基金(IMF)のデータによると、ドルが2018年以降に16%上昇する中、世界のドル準備高は横ばいで推移した。
より良い答えは、トランプ氏にとってうれしい言葉ではないが、米国経済の長期的な潜在成長力への信頼が失われつつあるというものだ。
為替トレーダーは、債券利回りの差を短期的に追い求めるかもしれない。だが、5年という期間で見ると、米国株と欧州株の株主資本利益率(ROE)の差は、2001年以降のドル・ユーロ相場の変動と70%の相関を示している。
こうした状況は、ドルの強さのかなり部分が、経済の生産性の伸びを反映した投資に支えられていることを示唆している。そしてその生産性の伸びの大半は、シリコンバレーのハイテク企業が巨額の利益を稼ぎ出し、米国をハイテク分野の製品とサービスの一大輸出国にしていることによるものだ。その中でも特にサービスの輸出が大きい。
市場は現在、もう一つの構造的変化を予想しているのかもしれない。米国の成長ストーリーが、保護主義と、人工知能(AI)分野で競争相手となる中国企業の台頭によって損なわれる一方、欧州では軍備増強の動きが経済再生への期待を高めている。
中国の台頭そのものが、教科書通りの自由貿易の欠点を浮き彫りにしているのは確かであり、米政府が主要産業の育成に努めるべきだということも間違いないだろう。コストカットを目的とした生産施設の国外移転は、労働者の不利益となり、サプライチェーン(供給網)の弱体化を招き、企業の技術革新への意欲をそぐことが多い。インテル、ボーイングといった巨大企業の苦境がその証明だと言えるかもしれない。
問題は、トランプ氏による関税導入の決定が突然で、一貫性に欠けることだ。2日に示された貿易相手国別の「相互関税」リストは、そうした問題の典型例と言える。それは、このリストが何らかの経済的合理性のある計算に基づいていないからだ。こうした政策は、目的に応じた段階的アプローチによる生産拠点の移転を企業に促すのではなく、企業の投資意欲をそぐ可能性が高いだろう。こうした政策は、アジア諸国に経済発展の奇跡をもたらしたものよりも、中南米での欠陥だらけの「輸入代替工業化」実験に似ている。
確かに、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターには、組み立て作業をメキシコから米国内に戻すメリットがあるかもしれない。だが、繊維製品やワイヤーハーネスといった安価なものを含む全ての部品で同じことをすれば、米国の自動車産業が極めて非効率的になるだけだ。それ以前に、他国からの報復関税の可能性や、バイデン前政権から引き継がれた中国の電気自動車(EV)に対する100%の関税がある。
米自動車メーカーは、国内消費者の目が特に肥えているトラックやスポーツタイプ多目的車(SUV)といったセグメントを得意とする。だが、米自動車メーカーは価格が2万5000ドル(約365万円)未満の車の生産には苦戦しており、それは関税が課される前からの話だ。テスラも高級車ブランドの一つだ。
もし米国市場が孤立すれば、トヨタ自動車や現代自動車のような低価格モデル市場を支配する外国企業は、米国工場での技術革新を他国の工場よりも減らすかもしれない。
これは1950年代~80年代にブラジルとアルゼンチンで起きたことだ。両国は国内自動車産業を育成しようとして、外国との競争から企業を保護した。そしてこれは、保護主義と外国市場での競争の両方によって世界トップクラスの自動車メーカーを作り上げた日本・韓国・中国のやり方とは対照的だ。
貿易赤字に焦点を合わせ過ぎると、貿易の対象となる米国製品の競争力と収益性がドル相場を大きく左右してきたという事実を見落としてしまう。今まさに、それが問題になろうとしている。
米国の新規株式公開(IPO)市場が近く復活するとのかすかな期待が打ち砕かれている。事情に詳しい複数の関係者によると、チケット販売サイト運営のスタブハブと、後払い決済(BNPL)サービスを手掛けるスウェーデンのフィンテック企業クラーナが、来週開始する予定だったIPOロードショー(投資家向け説明会)を延期した。
関係者によると、フィンテック企業の米チャイム・ファイナンシャルも規制当局への財務情報の提出を先送りしており、IPOを延期した。ヘルスケアサービスの米ヒンジ・ヘルスは、4月下旬に予定しているIPOを前に、市場の動向を注視している。
ステーブルコイン「USDコイン(USDC)」を発行するサークル・インターネット・フィナンシャルは、IPOを巡る次のステップに近づいていた。だが関係者によると、現時点では状況をみてから対応を決めようとしている。
米株式相場は3日に急落し、4日も大量の売りが出ている。そのため上場を控えていた企業が続々とIPO計画を延期している。
米国への全輸出国に基本税率10%の関税を課す措置が米東部時間5日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)に発動された。トランプ大統領が2日、世界の貿易相手国に対する相互関税として発表していた。輸入関税を回避したい企業に米国への投資を促す戦略を突き進めるものだ。
対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域を対象とした上乗せ税率については、9日午前0時1分(同日午後1時1分)に適用される。日本への関税率は24%となる。
各国は新たな関税にどのように対応するか検討している。今回の措置によって、米国の関税はこの100年余りで最も高い水準に引き上げられる。トランプ氏が不公平だと長年批判してきた第2次世界大戦後の世界貿易体制への大きな打撃となる。
トランプ氏の2日の発表を受け、S&P500種株価指数は11カ月ぶりの安値を記録。週末までの2営業日で5兆4000億ドル(約793兆円)の時価総額が消失した。2日間の下げは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が米国を直撃した2020年3月以来の大きさだった。
諸外国の首脳や企業幹部の対応を困難にしているのは、関税の規模縮小に向けた交渉について、トランプ氏自身がまちまちなシグナルを送っていることだ。トランプ氏は3日、他国が「何か驚くべきもの」を提示すれば、関税を引き下げる用意があると示唆した。
石破茂首相は5日の読売テレビの番組で、トランプ大統領との電話会談を「来週のうちにはやりたいと思っている」との考えを示し、トランプ氏が掲げる米国の製造業復活のために日本の貢献がどれほどプラスになるのか、「きちんと理屈で話していかないといけない」と語った。
報復関税の可能性に関する質問には「あらゆる選択肢はある」としながらも、「日本の利益を考えれば報復関税よりも、どうすればもっと米国の雇用が作れるか、どうすればそれが日本の利益にもなるのかを話していく」と述べた。
一方、中国国営中央テレビ(CCTV)に関連する微博(ウェイボ)アカウント「玉渊谭天」への5日の投稿によると、中国は国際ルールに反する一方的ないじめ行為に対して断固として最後まで戦う方針を示した。
株式や債券、商品などあらゆる市場からトランプ米大統領に明確なメッセージが同時に発せられている。大統領が仕掛けた貿易戦争は世界的なリセッション(景気後退)を引き起こす恐れがあり、しかもそれは急速に現実になりつつあるといったものだ。
トランプ氏による2日の関税発表から48時間もたたずに中国は報復措置を発表。トランプ氏が引き下がる様子を見せないことから、トレーダーは悪循環を織り込み始めている。
トランプ氏の決定で引き起こされた2日間の激しい売りでアジアや欧州、新興国の株式も大きく下落。投資家は国債など安全資産への逃避を急いだ。
影響は特に米国市場で顕著で、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が4日、「関税引き上げは想定よりもかなり大幅になることが明らかになりつつある」と発言し、インフレが加速する可能性もあると言及したことで懸念はさらに強まった。成長鈍化とインフレ加速の同時進行は、利下げによる米金融当局の対応を難しくする恐れがある。
S&P500種株価指数は4日に6%下落。この2日間の下げは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が米国を直撃した2020年3月以来の大きさで、約5兆ドル(約730兆円)の時価総額が消失した。ハイテク株比率の高いナスダック100指数も大きく下げ、2月中旬のピークからの下落率が20%を超えた。
影響は株式市場にとどまらない。原油価格は需要が減退するとの観測で急落。投資適格債のデフォルトリスクをヘッジするコストは、23年の米地銀危機以来の大幅上昇となった。その一方で国債には買いが集中した。
アカデミー・セキュリティーズのマクロ戦略責任者、ピーター・チア氏は「われわれは急速にリセッションに向かっている」と分析。「世界は『相互関税』をある程度想定していた。ローズガーデンで発表されたものは大惨事だ。主に米国にとってだが、世界経済に対してもだ」と述べた。
関税計画はトランプ氏が示唆していたほど過激なものにはならないとの観測で、米株式市場は週初、堅調なスタートを切っていた。
しかしそうした期待は2日に打ち砕かれた。トランプ氏は米国への全輸出国に基本税率10%を、中国や欧州連合(EU)など対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域を対象に上乗せ税率をそれぞれ適用すると発表。国際貿易の拡大は数十年にわたり世界経済を支えてきたが、大きな後退することになる。
米国が世界中のほぼ全ての国と対立することを意味し、膨張し続ける米国債の供給を海外投資家に吸収してもらう必要がある同国にとって重大なリスクとなる。
ウォール街のストラテジストやエコノミストは、これまで驚くほど堅調だった米経済に衝撃を与える可能性があると指摘し、経済成長率などの予測を下方修正。4日発表の米雇用統計では雇用者数が予想を上回る伸びとなったが、こうした好材料も無視された。
かつてはトランプ氏の保護主義政策の恩恵を受けると期待されていた小型株さえも、景気後退懸念が高まる中で売られた。恐怖指数として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は急騰し、20年以来の高水準で終了した。
「VIXが示すように市場に恐怖があるときには全てが売られる」とフリーダム・キャピタル・マーケッツのジェイ・ウッズ氏は指摘。「空が落ちてきそうな感覚だ」とし、米政権の「気まぐれに振り回されているため今回は非常に異なるシナリオだ」と述べた。
トランプ氏は株価急落を重大視しない姿勢を示している。4日には自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、米国に巨額の投資を行う外国人投資家に対し「私の政策は決して変わらない」との考えを示し、今はかつてないほど富を築く絶好の機会だと述べた。
その後の投稿ではパウエルFRB議長に非難の矛先を向け、「金利を引き下げるには今が絶好のタイミングだ。議長はいつも『遅れて』いるが、今ならそのイメージを覆し、素早く行動できる」と主張した。
トランプ氏は4日、ベトナムの最高指導者共産党書記長との電話会談に言及し、同氏から「米国と合意できるのであれば、ベトナムは関税をゼロまで引き下げたいと言われた」と投稿。これを受け、ベトナムに主要生産拠点があるナイキとルルレモン・アスレティカの株価は急伸した。
●中東情勢
●エマージング
中国で屋外用家具メーカーを経営するジン・チャオフェンさんは、米国の関税引き上げに備えて昨年7月にベトナムに工場を設立したが、今ではこの工場を閉鎖するつもりになっている。トランプ米政権が中国ばかりかベトナムなど多くの国に高い関税を課したためだ。
「これまでの努力が全て水の泡になった」と語るジンさんは、輸出事業は需要不足に苦しむ国内市場と同じように「非常に利益の薄い」ビジネスになりそうだと不安を隠せない。
トランプ米大統領は、対米輸出が年4000億ドル強と世界最大の中国に34%の相互関税を上乗せすると発表。中国の輸出業者が貿易戦争の影響を和らげるために採ってきた2つの主要な戦略――生産の一部海外移転と米以外の市場の販売てこ入れ――の根幹が直撃を受けた。
米相互関税は世界的な需要に長期的な打撃を与える恐れある。中国は経済成長を輸出に依存しているだけに、他のどの国よりも貿易縮小のリスクが大きい。開源証券は米相互関税によって中国は対米輸出が30%、輸出全体が4.5%以上それぞれ減少し、経済成長が1.3%ポイント押し下げられる可能性があると試算した。
「これは中国に対する全方位的な封じ込めだ」と、瀧滔資産(ウォーター・ウィズダム・アセット・マネジメント)のユアン・ユウェイ氏は指摘。中国株と香港株についてはショートポジションにし、金は強気見通しだと話した。
中国メーカーの多くはトランプ氏が昨年11月の選挙で勝利する前から東南アジアなどに生産拠点を移し始めていた。しかし相互関税の税率はベトナムが46%、タイが36%で、その他の国でも最低10%に設定された。
トランプ氏が2月と3月に対中関税を20%引き上げた際に中国メーカーの営業チームはアジア、中南米などで新たな輸出市場の獲得競争を繰り広げた。しかしこうした経済圏も相互関税の影響にさらされ、購買力が低下して中国製品の需要が減退する可能性が高まっている。
アナリストは米相互関税によって、経済成長を図りデフレを抑える中国の取り組みが頓挫しかねないと見ている。香港大学ビジネススクールのチーウー・チェン教授(ファイナンス)は「これでは5%の成長目標の達成は不可能だ。中国は今のデフレ状況からすぐには抜け出せないだろう。今回の関税引き上げは間違いなく状況を悪化させる」と悲観的だ。
中国では外需の衝撃が国内にも波及し、生産者はコスト削減圧力にさらされている。
中国で鋳鉄製バスタブ製造工場を経営するジェリー・ジャオ氏は既に「従業員の一部を解雇し、管理コストを削減しながら、さまざまな支出を抑えている」
広州にある衣料品工場の責任者、リー・ジャオロン氏も国内受注に頼る必要があるとしつつ、需要の低迷を懸念。「以前は1人で1つのケーキを食べていたが、今は5人が欲しがる状態」だという。
<貿易障壁高まるリスク>
ジェフリーズの調査によると、2023年には対中貿易が対米貿易を上回った国が約145カ国となり、2008年からほぼ50%増加した。これは中国が数十年にわたり、米国が築いた世界貿易秩序のもとで競争力ある産業を育ててきた成果だ。しかし米国は今ではこの貿易秩序を「不公平で米国の安全保障を脅かすもの」と見なしている。
中国の貿易政策顧問は「われわれは引き続き輸出市場の多様化を進めつつ、輸出を支援し、企業が国内販売にもっと注力するよう促す必要がある」と述べた上で「全世界が不況に陥るリスクは現実のものだ」と警戒感を示した。
中国にとってもう1つのリスクは貿易相手国が、中国の輸出業者が価格競争を強めていると受け止め、自国産業保護のために貿易障壁を設ける可能性が高まること。S&Pグローバルのアジア担当チーフエコノミスト、ルイ・クイーズ氏によると「これは欧州だけでなく多くの新興市場国にも当てはまる」という。
さらに中国の対外貿易てこ入れ策にとって国内要因も課題になる。多くのアナリストは、中国の輸出力は政府政策によって家計が不利な立場に置かれてきた結果でもあり、それが製造業の生産能力過剰、低調な国内消費、無駄なインフラ建設などの不均衡を招いたと指摘している。
ファゾム・コンサルティングの上級顧問のシャミク・ダー氏は「中国の重商主義は家計を金融面で抑圧し、貯蓄に対して低いリターンしか与えず、産業を優遇して安価な資金を供給する仕組みを生み出した。こうした政策は急速な経済成長を促した一方、誤った資本配分、不動産バブル、金融セクターの脆弱性も生んでしまった」と分析した。
<追加刺激策は不可避か>
アナリストは中国政府が追加の景気刺激策を打ち出すと予測し、その際には政策金利の引き下げや流動性の注入、輸出業者向けの税還付、不動産市場の支援のほか、3月の全国人民代表大会(全人代)で示された水準を超える財政赤字と国債発行が導入される可能性もあるとみている。
トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所の中国専門家、ルビー・オスマン氏は、中国が先月発表した景気刺激策が控えめだったのは計算されたもので「中国政府は意図的に余力を温存した」と述べた。
中国の別の政策顧問も第2・四半期には銀行の預金準備率の引き下げや貸出金利の低減が優先され、第3・四半期により積極的な財政刺激策が打ち出される可能性があると述べた。その上で「この『プランB』なしでは中国が今年おおよそ5%の成長目標を達成するのは難しいだろう。さらに言えば、もしトランプ氏が対中関税をさらに引き上げた場合に備えて、財政省は『プランC』も準備すべきだ」と付け加えた。
しかし中国が成長とデフレのリスクを緩和する鍵は消費喚起策にあるとアナリストは見ている。中国は10年余りにわたり投資主導から消費主導経済モデルへの転換を公言。先の全人代でもこの方針が強調されたが、具体的な構造改革の道筋は示されなかった。
世界的な貿易の混乱で内需型経済への転換は一段と差し迫った課題になっているが、その困難さを考えると大規模な構造改革への期待は薄いというのがアナリストの見立てだ。
エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのアジア担当主席エコノミストでグローバル貿易担当責任者のニック・マロ氏は「中国政府は外需の衝撃に備えて国内需要を促す取り組みを倍加させるだろう。しかしできることには限界がある」と懐疑的だ。
中国では毎年夏、数百万人が4年制大学を卒業するが、最近では大学を出ても良い仕事に就けない若者が多い。配達ドライバーやライブストリーマー、あるいは実家に戻って両親に小遣いをもらいながら家事を手伝う新卒者も珍しくない。
一方、製造業やIT(情報技術)、医療などの分野では有資格者の不足により、数千万ものポストが今年、埋まらない見通しだ。
「単純労働の製造業の仕事は自動化できるが、コードを書いたり、工作機械を操作したりできる熟練したブルーカラーの働き手は深刻な人手不足だ」とユーラシア・グループの中国担当ディレクター、ダン・ワン氏は言う。
このミスマッチにより、中国指導部は若者たちに大学進学を目指す代わりに職業訓練校に通うよう強く勧めている。
職業訓練校では3年で修了証を取得でき、機械技術者やオペレーター、ロボット工学エンジニア、看護師など、さまざまな職業に必要な技能を習得できる。
中国指導部は工場を稼働させ続けるため熟練労働者を確保する必要に迫られている。一方で、若者の6人に1人が失業していることから、社会的な不満の高まりにも直面している。
就職情報サイトの智聯招聘によると、ほとんどの企業が新卒採用を終了する4月までに内定を得た2024年度の大学新卒者はわずか45%だった。
職業訓練校卒業生の場合、その数字は57%に上昇する。多くの職業訓練校は企業と提携し、インターンシップの受け入れや就職あっせんを行っている。
パンテオン・マクロエコノミクスのアナリスト、ケルビン・ラム氏は「労働市場と教育の間に構造的なミスマッチがある」と指摘し、「新卒者は工場に戻りたくない」と話す。
中国では義務教育の一般的な最終学年である初級中学の3年生になると、進学を目指す多くの学生らの視野には大学受験が入る。就職組は実習に重点を置き、多くの場合、職業訓練校に進むことになる。
中国当局は3年前、技能を重視する教育の評判を高めようと両方のコースの学生が高等教育や就職において平等な機会を得られるべきだと呼びかけた。しかし実際には、多くの企業が依然として、より地位の高い役職には学士号を求めている。
中国の大学1300校には約2000万人の学生が在籍しており、1500校以上の職業訓練校では1700万人が学んでいる。
政府は職業訓練校を増やそうとしており、この分野で35年までに「世界トップレベル」に立ちたい考えだ。2つの教育コースの学費にはほとんど差がなく、公立校では年6000元(約12万円)程度で、私立校では通常、その倍以上だ。
職業訓練校は、成績の良くない生徒が選ぶ選択肢という汚名を長年着せられてきた。そのため、子どもを職業訓練校に通わせるよう親たちを説得するのは難しい。
中国では数千年もの間、学問の目的は「科挙」に合格して公務員になることだった。現在、大学進学を目指す十代の若者たちは、「高考」と呼ばれる試験に備え高校時代のほとんどを過ごす。高考は数日続く過酷な大学入試だ。
高得点者は一流大学に進学するが、得点の低い学生はあまり名が知られていない大学、あるいは職業訓練校に入ることになる。
また収入の面でも差が出てくる。教育コンサルティング会社マイコスによれば、大学卒業後3年目の平均月収は23年には1万168元で、職業訓練校卒業生より3割程度多い。
中国共産党の習近平総書記(国家主席)は1990年代に福建省福州市の党委員会書記として職業訓練校を監督していたこともあり、より多くの志願者を集めるために技能教育を推進している。 習氏は職人を国家の礎と呼び、職業訓練校の権威を高めるよう努めてきた。
しかし、考え方の変化は遅々として進んでいない。中国政府は2021年、営利目的の学士号取得機関の一部を職業訓練校と統合することを提案したが、この動きに対し、大学生らは各地で抗議活動を行った。南京のある大学では、学生たちが統合により学位の価値が下がると恐れ、学部長を30時間拘束。警察が出動して、救出に動いた。
国内で一流の4年制大学に匹敵するほどの評価を得ることに成功している職業訓練校もある。香港に近い深圳職業技術大学は、「小さな清華大学」という愛称で呼ばれることが多い。北京にある清華大は、習氏をはじめとする多くの中国指導者が卒業した名門校だ。
華為技術(ファーウェイ)など地元企業との緊密な関係を築いていることや学生の起業を支援しているという評判が、一流大学を選ぶこともできた学生を呼び込み、深圳職業技術大の成功の一因となっている。
同校の学生ゾエ・チェンさんは「ここの学生は起業し、教師は独自の研究プロジェクトに取り組んでいる。最終的に自分が望むような人生を送るためには、高度な学位は必要ないことに気付いた」と述べ、大学で修士号を取得するという計画を考え直していると明かした。
●プロファイ、インフラ、自然災害
米マイクロソフトが、世界各地でデータセンタープロジェクトから撤退しつつある。人工知能(AI)を動かす高性能サーバー群の計画について、同社がより厳しい見方をし始めたことを反映した動きだ。
事情に詳しい複数の関係者によると、マイクロソフトはこのところ、インドネシア、英国、オーストラリアのほか、米イリノイ、ノースダコタ、ウィスコンシン各州で、データセンタープロジェクトの検討を停止したり、開発を延期したりしている。
対話型AIのChatGPT(チャットGPT)を開発した米オープンAIと関係が深いことから、マイクロソフトはAIサービス商業化を主導する存在とされてきた。投資家は、クラウドやAIサービスへの消費者の長期的需要を見極めようと、同社の支出計画を注視している。
このところの計画後退が、どれほどの需要縮小を反映しているのか、または建設資材や電力の不足といった一時的な課題によるものなのかを判別するのは難しい。投資家の中には、現状のAIサービスの購入予測では、マイクロソフトのサーバー施設への巨額支出を正当化できないことを示していると解釈する向きもある。
こうした懸念がここ数週間、データセンター関連支出の大半を占める半導体を手がける米エヌビディアのような、大型ハイテク株の重しになっている。マイクロソフトの株価も、今年に入り2日までに約9%下落している。
マイクロソフト広報は「AIの需要が引き続き拡大し、当社のデータセンターの存在が拡大し続ける中で実施した変更は、当社の戦略の柔軟性を示したものだ」と強調する。
交渉に詳しい関係者によると、マイクロソフトは最近、ロンドンとケンブリッジ間の用地を借りる交渉から撤退した。エヌビディアの先端半導体を設置できる環境として売り出されていた土地だ。この関係者は、非公開情報であることを理由に匿名を条件に語った。
別の関係者によると、マイクロソフトは米シカゴ近郊のデータセンター用地の交渉も中止した。
AI向けクラウドサービスを手がける米コアウィーブのマイケル・イントレーター最高経営責任者(CEO)はインタビューで、マイクロソフトがクラウドコンピューティングのリース拡大を取りやめたと明かした。影響を受けたプロジェクトの数や所在地については言及しなかったが、コアウィーブは別の新たな買い手を見つけたという。
ジャカルタでは、データセンター建設に遅れが見られる。事情に詳しい関係者によると、ジャカルタから1時間ほどの距離にある、マイクロソフト所有のデータセンター・キャンパスの一部で作業が中断されている。
別の関係者によると、同社はバイデン前大統領が在任中に訪問したウィスコンシン州マウントプレザントの複合施設の一部でも、計画されていたセンター拡張工事を保留している。ブルームバーグが入手した資料によると、同州のプロジェクト開発の最初の6カ月で、マイクロソフトは建設に2億6200万ドル(約384億円)を費やした。コンクリートだけで4000万ドル近くが使われている。
マイクロソフトは、6月末までの本会計年度中に約800億ドルを投じてデータセンターを構築することに引き続き取り組んでいるとしている。同社は以前、今年7月から始まる会計年度には新規インフラへの投資を減速し、新規建設から既存の施設へのサーバーやその他の機器の設置に重点を移すとしていた。
中国のAIスタートアップ企業DeepSeek(ディープシーク)が1月、米国の大手企業よりも少ない資金で競争力のあるAIサービスを開発したと発表して以来、アナリストらはデータセンターへの投資をより厳しく精査するようになった。長期的に見れば、新しいエンジニアリング技術により、AIの処理は以前考えられていたよりも少ない演算量で済むようになる可能性がある。
マイクロソフトが米国と欧州で計画していた、計約2ギガワット規模の新データセンタープロジェクトを断念したというTDカウエンの先週のリポートも、大手ハイテク企業の投資計画を巡る懐疑論に拍車をかけた。同社のアナリストは、この動きは「現在の需要予測に比べてデータセンターが供給過剰になっている」ことを示している可能性が高いと指摘した。
業界情報会社データセンター・ホークのディレクターであるエド・ソシア氏は、クラウド企業はコストの削減と、より早くに稼働できるプロジェクトの優先化を目指して、サーバー施設の計画を微調整していると述べた。
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
### ■為替市場
- **ドルが主要通貨に対して反発**:パウエルFRB議長の講演が材料視される。
- **パウエル議長発言**:トランプ大統領の新関税措置は「予想以上に大きく」、インフレや成長への影響も大きい可能性に言及。
- **為替の動き**:
  - ドル指数:0.98%上昇(103)
  - ドル円:0.58%高(146.92円)
  - ユーロドル:0.95%安(1.10947ドル)
  - 豪ドル・NZドルともに急落(豪ドルは5年ぶり安値)
### ■債券市場
- **米国債利回りが大幅に低下**:中国の報復関税で「安全資産」需要が高まる。
- **雇用統計の影響で低下幅はやや縮小**。
- **10年国債利回り**:3.972%(8.3bp低下)
- **2年債利回り**:3.605%(8.3bp低下、2022年9月以来の水準)
- **BEI(期待インフレ率)**:5年物2.383%、10年物2.168%
- **市場予想**:FRBは年内に91bpの利下げを織り込み
### ■株式市場
- **米株急落(2日連続)**:貿易戦争激化懸念でパニック売り
- **ダウ**:2231ドル(5.5%)安、調整局面入り
- **ナスダック**:5.8%安、ベアマーケット入り(最高値から22.7%下落)
- **VIX(恐怖指数)**:8カ月ぶり高水準に急上昇
- **取引量**:過去最多(約268億株)
- **中国関連株やエネルギー株が特に大きく下落**
### ■商品市場
- **金先物**:2.76%安(1オンス=3035.40ドル)、換金売りが加速
- **原油先物**:7.41%安(1バレル=61.99ドル)、4年ぶり安値、需給緩和懸念
### ■ ロンドン株式市場
- **続落**:中国が米関税への対抗措置として34%の追加関税を発表し、景気後退懸念が強まった。
- **FTSE100**は4.95%下落(2020年3月以来の大幅下落)、週間では6.97%安。
- 銀行、エネルギー、鉱業、防衛株などが軒並み大幅下落。
- **BP**は経営改革を求める動きで売られた。
### ■ 欧州株式市場
- **全体的に続落**。**STOXX欧州600種指数**は12%下落し調整局面入り、週間では8.44%安。
- **DAX**は4.95%、**スペインIBEX**は5.83%、**フランスCAC40**は4.26%、**イタリアFTSE MIB**は6.53%下落。
- 銀行株や中国依存度の高い企業(LVMH、ケリングなど)が特に下げた。
- **ユーロ圏の景気後退懸念**と中国のレアアース輸出規制が重しに。
### ■ ユーロ圏債券市場
- **債券利回りは大幅に低下**:安全資産への逃避が進行。
- **ドイツ10年債利回り**は2.555%(-8.6bp)、**2年債**は1.822%(-12bp)と低水準。
- **フランス、イタリアの債券利回りも低下**。
- 米関税政策が**欧州の成長見通しを圧迫**。
- ECBは今月の理事会で**利下げが予想される**(25bp、確率70%超)。

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