2025年3月1日土曜日

備忘録(25/3)

備忘録(2025/3/31
●海外企業決算
●海外企業
米資産運用大手ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は31日、トランプ米大統領による一連の関税導入を控え、投資家に対し「保護主義が勢いを増して戻ってきた」と警告した。
フィンク氏は株主に対する年次書簡の中で、富裕層がさらなる富を築きそれ以外がさらに困窮するという二極化した経済において、現在、あまりにも多くの人々が繁栄を逃していると指摘。この分断が保護主義政策の台頭を助長したとした。
自身が話したほぼ全ての顧客らが「近年のどの時期よりも」経済について不安を抱いているとしたが、長期的には市場は好調を維持するとの見通しを示した
ただ、約1万語に及ぶ書簡の中でトランプ氏については一言も触れていない。
トランプ氏は4月2日に相互関税について発表するとし、この日を「解放の日」と位置づけている。
モデルナ<MRNA>を始め、ワクチンメーカーが下落。先週金曜日にFDAのワクチン責任者である生物製剤評価研究センター(CBER)のマークス所長が突然辞任したことが嫌気されている。マークス氏は、米保健福祉省のケネディ長官が予防接種の安全性に関する誤情報を広めようとしていると主張して、突如の辞任を表明した。同氏はかつて、新型コロナウイルスのワクチン接種イニシアチブ「ワープスピード作戦」で中心的役割を果たしていた。
アナリストらは、マークス氏の辞任は同分野にとってマイナスであると見ており、同氏は細胞および遺伝子治療薬のFDA最大の擁護者の1人であったと述べている。
ケネディ長官は長年に渡り、ワクチンの安全性に公然と疑問を呈してきた。長官就任当初には、外部のワクチン専門家の会議を延期・中止したほか、ワクチンと自閉症の関連性を研究する計画を発表し、ワクチン忌避行動研究への資金拠出を取り消した。
●日本企業
トヨタ自動車(7203.T), opens new tabのハイブリッド車(HV)の需要が急増しており、米国、日本、中国、欧州などの主要市場で在庫が逼迫していることが関係者の話で明らかになった。納入まで数カ月待ちとなるケースも見られる。
LMCオートモーティブによると、プラグインハイブリッド車(PHV)を含むHVの世界販売台数は、過去5年間で570万台から1610万台へと約3倍に増加した。
欧州のある関係者は新型HVの納車期間が平均60─70日と、2020年の約2倍に延びていると語った。トヨタによると、欧州では特に「ヤリスクロス」HVや「RAV4」PHVの需要が強く品薄となっている。
トヨタのウェブサイトによれば、日本では多くのモデルで納車まで2─5カ月かかっている。
別の関係者は、米西海岸のあるディーラーでは「プリウス」が2月中旬に完売し、「カムリ」HVも在庫が数台しか残っていないと明らかにした。
また、トヨタにとって重要な成長市場であるインドでは、納車期間は昨年より改善しているものの、車種によっては依然として2─9カ月かかると別の関係者は語った。
トヨタは声明で、HVの需要が「過去1年間に全地域で大幅に増加」しており、生産を拡大するために全力を尽くしていると説明した。過去1年間で納車までの期間を短縮したと述べた。
自社およびサプライヤーのHV部品の生産能力は、トヨタの年間生産計画と車両組み立て能力に見合ったものであるとしている。
<供給の混乱>
関係者2人は、HVのパワートレインに使用される部品の供給逼迫が納入遅延の原因だと指摘する。HVのパワートレイン部品は主に日本で生産され、海外の組み立て拠点に供給されている。
ある関係者によると、アイシン(7259.T), opens new tabに納入する部品に使われる磁石の不足が課題となっている。アイシンはサプライヤーからローターとステーターを確保できず、トヨタへのハイブリッドモーターの納入が遅れたという。
またデンソー(6902.T), opens new tabでも、2次、3次サプライヤーから部品供給が滞った影響で、インバーターの納入が遅れていると別の関係者は語った。トヨタはインドでデンソー以外のサプライヤーに目を向ける可能性があり、インドでインバーターを製造することを検討しているという。
トヨタのインド法人、トヨタ・キルロスカ・モーターのバイスプレジデント、バリンダー・ワドワ氏は声明で、サプライチェーンのボトルネックが解消され、納車までの待ち時間が「大幅に」短縮されたと明らかにした。
同社は最近、年間3万2000台の車両を生産できる能力を増強し、さらに10万台を追加生産するための投資を行っていると述べた。
日本生命保険の朝日智司社長は、日本銀行の利上げに伴う利回りの上昇(価格は下落)を受けて含み損が膨らんでいる保有国債について、損失を計上してもさらに入れ替えを進めたいとの考えを明らかにした。金利変動局面でも安定した運用利回りを確保する狙い。
1日に社長に就任した朝日氏はインタビューで、円金利の「リスクマネジメントをもう少し強化していきたい」と強調。満期保有による償還を待たずとも、含み損を抱えた国内債券の適切な入れ替えなどにより「最終的な利回りが向上するようなポートフォリオが築けるよう対応していく」と述べた。
日銀の金融政策について朝日氏は、2025年度中に2度にわたり、それぞれ0.25%ずつの追加利上げがあると見込んでいる。1度目は6月から9月の間、2度目は12月から3月の間を想定し、政策金利は同年度内に1%に到達するとみている。
日本生命の国債入れ替えも、こうした見方に基づく。長期金利の指標である新発10年債利回りは先週、17年ぶりの高水準となる1.59%を記録した。
同社では利上げ前の低金利時代に購入した超長期国債などで含み損が拡大しており、22年度から入れ替えのため国内債を年間1兆円規模(簿価)で売却してきた。24年度は9カ月間ですでに1兆3000億円分を売却するなど入れ替えペースを加速している。
日本生命の有価証券残高(一般勘定)は24年12月末時点で約70兆4000億円。そのうち30兆7000億円と約4割を占める国内債の含み損は、2兆5311億円と同3月末の1兆116億円から2倍以上に膨らんでいる。
生命保険会社の場合、保有債券の多くは会計上、「責任準備金対応債券」に区分され、原則として時価評価は求められない。ただ、含み損を抱えたままだと減損処理が必要になる可能性があるほか、資産配分でリスクを取りにくい要因になる。
●先進国政治動向
ドナルド・トランプ米大統領は、米国の近代史においてかつてない規模の規制緩和を推進するという公約を実行に移している。環境保全に関する規制や銀行に対する監視の大幅緩和、暗号資産(仮想通貨)に絡む障壁撤廃、バイデン前政権が導入したエネルギー生産に対する規制の撤回などが迅速に進められている。
規制緩和の規模が最大ともいえるのが環境保護局(EPA)で、わずか1日で米国の環境政策に関する31件の緩和措置を発表した。これには発電所や石油・ガス産業、電気自動車(EV)、廃水に関する規則が含まれる。
液化天然ガス(LNG)輸出企業の米ベンチャー・グローバルは3月初旬、ルイジアナ州のプロジェクトに180億ドル(約2兆7000億円)を投資すると発表した。トランプ政権がバイデン前政権によるLNG輸出許可停止を解除したことを受けた動きで、これにより新規プロジェクトや拡張計画への道が開かれた。ダグ・バーガム内務長官はルイジアナ州の施設で働く労働者を前にした演説で、トランプ政権は「官僚主義や連邦政府という重荷を労働者や企業から取り除く」と述べた。
規制緩和を巡っては、トランプ一族の積極的な関わりが目立つ暗号資産業界ほど早くから活気づいた分野はないだろう。米大統領選以降、暗号資産の取引は急増した。ここ数週間では、トランプ一族が暗号資産取引所バイナンスの米国部門への投資を巡り交渉したことが報じられた。別の暗号資産取引所、クラーケンは米先物取引プラットフォームを15億ドルで買収することで合意した。
トランプ氏の規制緩和の動きは広範囲に及ぶ。証券取引委員会(SEC)はバイデン政権時代の気候変動関連の開示規則から後退する姿勢を示し、連邦預金保険公社(FDIC)は大手銀行の合併に対する監視を強化したバイデン政権時代の政策を撤回した。また、内務省と住宅都市開発省は連邦政府所有地での住宅建設を促進するため、規制の合理化を目指している。
トランプ氏の一連の動きは「規制緩和政策という点において、新たな次元」を示している。第1次トランプ政権で働き、現在はリバタリアン(自由至上主義者)系シンクタンクのケイトー研究所でエネルギー・環境政策研究ディレクターを務めるトラビス・フィッシャー氏はそう指摘する。同氏はトランプ氏について、「ロナルド・レーガンよりも大胆に動いている」と述べた。
大統領選を受けトランプ氏の規制緩和政策への期待から強気になった投資家は、米国株急騰の原動力となった。投資家調査を行うマクロポリシー・パースペクティブズの創設者ジュリア・コロナド氏は、市場参加者は「トランプ氏の政策全体による力強い成長」を期待していたとし、「顧客と話をすると、規制緩和政策の話がよく出てきた」と語った。
エコノミストらの指摘によれば、ウォール街や企業経営者の間ではここ数週間、トランプ政権の関税政策に対する懸念によって規制緩和への期待がしぼみ始めた。米連邦準備制度理事会(FRB)は最新の見通しで、関税は物価を押し上げる一方で投資や景況感、経済成長を抑制する可能性があることを示した。規制緩和を巡っては法的障壁やトランプ氏が進める政府縮小が逆風になっており、貿易を巡る不透明感によってその勢いはさらに増している。
第1次トランプ政権で幹部を務めたミック・マルバニー氏は「関税は経済に対して直ちにマイナスの影響を及ぼしやすいのに対し、規制緩和の取り組みは効果が表れるまでに時間がかかる」と述べた。
トランプ氏は相互関税を導入する予定の4月2日を「解放の日」と呼んでいる。その日をもって、米国に不利益をもたらしてきた世界貿易システムは終わりを告げるという意味だ。同氏はまた、全ての輸入車に関税を課すと表明。中国からの輸入品や鉄鋼・アルミニウムに対してすでに課している新たな関税に加え、さらなる関税発動の可能性はここ数週間、市場を動揺させている。
企業の最高経営責任者(CEO)らは当初、トランプ氏が約束する減税と規制緩和を歓迎していたが、次第に悲観的になってきている。だが多くのCEOは政権からの報復を恐れ、公の場では発言を控えていることをウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は報じている。
ムーディーズのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は「世界的な貿易戦争の激化による経済的ダメージは、規制緩和によるいかなる利益よりもはるかに大きくなる。少なくとも近い将来においては確実にそうだ」と述べた。
政府高官らは「過剰な心配」は無用との認識を示す。スコット・ベッセント財務長官はNBCニュースの番組「ミート・ザ・プレス」のインタビューで株式市場の乱高下を重要視しない態度を見せ、「良い税制や規制緩和、エネルギー安全保障政策を実施すれば、市場は素晴らしい結果を出すだろう」と話した。
トランプ氏による規制緩和の取り組みは、関税以外にも政権自らが作り出した障害に直面することが考えられると専門家は指摘する。
EPAが3月に入り発表した一連の措置について、EPAのリー・ゼルディン長官は「わが国が目にした最大の規制緩和の日」と称賛した。一方で、EPAは支出を65%削減する見込みだとも述べた。その結果として職員が減れば、複雑な環境規制を撤廃したり修正したりすることが困難になる可能性がある。
どのような機関であれ、規則の変更は意見公募期間や訴訟の可能性を含む長いプロセスであり、それは何年も続くことがある。コンサルティング会社キャップストーンのエネルギー担当バイスプレジデント、ウォーカー・リビングストン氏はそう指摘し、EPAは「こうした規則を打ち出す上で実務的な課題に直面するだろう」と述べた。
政権にとって障害の一つとなっているのは1946年制定の行政手続法(APA)で、同法は連邦機関が規制を導入または撤回する前には通知を出さなければならないと定めている。
実業家のイーロン・マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)はトランプ氏の規制緩和政策を推進する役割を果たしてきたが、法的問題にも直面している。
DOGEは大手金融機関を監視していた消費者金融保護局(CFPB)の解体に乗り出した。また、連邦機関全体で支出や契約の削減・見直しを行い、数万人の政府職員の解雇につながる命令を作成し、各機関の規制執行能力を制限した。こうした動きに対して、多くの訴訟が起こされている。
暗号資産に関しては、SECはここ数週間で業界企業に対する十数件の訴訟や調査、異議申し立てなどを却下または中止した。経営幹部は政権の動きを歓迎しているものの、市場関係者の間では、十分な保護措置なしにこのセクターを開放すれば投資家が損失を被ることになるとの懸念もある。
ハーバード大学ケネディスクール(公共政策大学院)の研究員で、オバマ政権時代に商品先物取引委員会(CFTC)の委員長を務めたティモシー・マサド氏は「『SECが自分を標的にすることはない』と考える人々が出てくるだろう」と述べた。
トランプ米政権は、新たな通商政策の詳細を決定しようと奔走している。ドナルド・トランプ大統領が一連の新たな関税で米国経済を作り直すと約束する中、さまざまな選択肢を検討している。
事情に詳しい複数の関係者によると、議論の焦点の一つは、トランプ氏がここ数週間で示唆してきたように米国の貿易相手国ごとに個別の関税率を課すか、あるいは選挙活動中の公約に立ち返り、事実上米国と取引する全ての国に影響を与える一律関税を課すかだという。
トランプ氏は先週の大半を、4月2日に発表する「相互関税」計画への期待を抑えることに費やした。他国が課す関税と米国の関税を同等にするという以前の公約よりも「優しく」なるだろうと繰り返し述べ、一部の国を関税から完全に除外することを検討するとも語っていた。
だが、ここ数日でトランプ氏は側近らに対し、より攻撃的になるよう要求しており、より広範な国々に対してさらに高い関税率を適用する計画の立案を働きかけていると、協議内容に詳しい関係者らは話す。
具体的にどのように実施されるかは依然として不明だ。ここ数日、側近らは事実上全ての米国の貿易相手国に影響を与える最大20%の関税導入を検討してきた。トランプ氏と側近らは選挙活動中、数カ月にわたってこうした計画を推進していたが、トランプ氏は公の場でこれを放棄し、「他国がわれわれに課す関税と同じものをわれわれも課す」という相互関税計画を支持するようになった。
政権高官によると、この相互関税計画も依然として選択肢に入っている。トランプ氏は米国が貿易赤字を抱える全ての国に関税を課す意向で、各国に対して「明確な数字」を望んでいるが、最終決定はまだだという。
最終的な計画がどのようなものになるにせよ、トランプ氏は政策が「大規模でシンプル」であることを望んでいると、この高官は述べている。これは最終的な措置が、米国の主要貿易相手国(世界の国・地域の約15%)に関税を課すことを優先するという初期の計画よりも広範なものになる可能性が高いことを意味する。スコット・ベッセント財務長官はメディアに対し、これらの国・地域を「ダーティー15」と呼んでいた。
相互関税計画を巡る議論に加え、トランプ氏の側近らは重要鉱物やそれらを含む製品など、他の産業の中でも特定の産業を対象とした新たな関税の導入も検討していると、協議に詳しい複数の関係者は明らかにしている。これらの関税が4月2日に発表されるかどうかはまだ不明だが、発表前日の1日にトランプ氏に提出される予定の米国通商代表部(USTR)の通商政策レビュー文書に含まれる見込みだという。
相互関税は、米消費者が負担するコストを大幅に増加させることなく米国の貿易関係を再調整する方法として、ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長が支持していた。だが、ここ数日間で側近らは、政府の歳入を増やし、共和党が議会で推進している減税を相殺する方法として、事実上の一律関税のアイデアも議論してきた。
ハセット氏は30日、関税と議会共和党が策定中の税制法案が米経済を後押しすると述べた。
同氏はFOXニュースの「サンデー・モーニング・フューチャーズ」で、「今週から来週にかけての変動に少し神経質になっている反対論者らは間違っていると証明されるだろう」と述べた。
トランプ氏も29日のNBCニュースのインタビューで、新たな関税に対応して外国の自動車メーカーが米国の消費者向け価格を引き上げても「全く気にしない」と述べた。
トランプ氏は「全く気にしない。外国製自動車の価格が上がれば、米国製自動車を買うようになるからだ」とし、「価格を上げてくれることを望む。そうすれば、人々は米国製の自動車を買うようになる。米国製自動車はたくさんある」と述べた。
トランプ氏の側近らは、国際緊急経済権限法(IEEPA)を用いて相互関税または一律関税を課すことを検討していると、計画を知る複数の関係者は話している。これはトランプ氏が合成麻薬フェンタニル取引における役割を理由にカナダとメキシコに関税を課すのに使用したのと同じ法律だ。関税を課すためにこの法律が使用されたのは初めてだった。ホワイトハウスの一部の弁護士は、トランプ氏が現在検討しているような広範な関税にこの法律を使用することに対して警告しており、関税が裁判所で覆される法的リスクが高まる可能性があると指摘している。
一方、新たな分野別関税は、国家安全保障上不可欠とみなされる製品に関税を課すことを大統領に認める、1962年に成立した通商拡大法232条に基づいて課される可能性が高い。これはトランプ氏が最近、自動車産業と鉄鋼産業を対象とした関税に使用した条項だ。
生活費への米国民の不満がトランプ氏をホワイトハウスに送り込む一因となり、政権はインフレを抑制しようとしてきた。自動車メーカーと部品メーカーは追加コストの一部を吸収できるが、全てを吸収することはできず、一部の値上げを消費者に転嫁する可能性が高い。モルガン・スタンレーのアナリストらは、関税を相殺するために車両価格が平均で11~12%上昇する可能性があると指摘している。
マイク・ウォルツ米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、軍事攻撃を協議・実行するためのグループチャットにジャーナリスト1人を含めていたことが明らかになったが、ドナルド・トランプ大統領は現時点で同氏を解任しない決定を下した。しかし、米政府高官らによると、ウォルツ氏の評判は傷つき、ホワイトハウス内での立場が不安定になっている。
トランプ氏は繰り返し支持を表明しているものの、ウォルツ氏はトランプ氏からの信頼と、ホワイトハウスの上級補佐官らの支持を失っているという。政権が和平合意の仲介に苦心し、中東でのさらなる戦争の脅威に直面している最中のことだ。
当局者らによると、トランプ氏にとってウォルツ氏の最大の過ちは、イエメンの親イラン武装組織フーシ派への攻撃を調整するために民間の通信アプリ「シグナル」上でやりとりを始めたことでも、イスラエルから提供された情報を機密情報向けではないネットワークに投稿したことでもない。米誌アトランティックのジェフリー・ゴールドバーグ編集長の電話番号を自身の電話に登録し、誤って会話に加えてしまったことだという。
トランプ氏の怒りは先週、複数の同盟国との電話会談を含め、多くの非公式な話し合いにも波及した。トランプ氏は同盟国に対して汚い言葉を使い、ウォルツ氏を政権初の大きな国家安全保障上の危機を招いた責任者と非難した。26日にはウォルツ氏を解任すべきかどうかについて、JD・バンス副大統領、スージー・ワイルズ大統領首席補佐官、大統領人事局長のセルジオ・ゴア氏と話し合った。
しかし27日、トランプ氏はウォルツ氏と一対一で面談し、解任しない方針を伝えた。政権当局者2人が語ったところによると、トランプ氏はその話し合いの中でウォルツ氏に猶予を与えることを決めた。トランプ氏に近い人物によれば、2期目の政権発足直後にメディアや民主党に成果を与えたくなかったためで、それは不正行為を認めることになるからだという。ある人物は、シグナル上でのチャットに関するニュースが保守的なメディア、例えば「ブライトバート」などで最初に報じられていたら、ウォルツ氏は解任されていただろうと話した。
ただ、ジョージ・W・ブッシュ政権の元当局者でフロリダ州選出の元下院議員のウォルツ氏は、依然として難しい立場に置かれている。米当局者2人によると、ウォルツ氏は閣僚らとシグナル上で他にも複数の機密性の高い国家安全保障に関する会話を作成・主催しており、ロシア・ウクライナ間の和平仲介や軍事作戦に関する別のスレッドもあるという。これらのチャットで機密情報が投稿されたかどうかについては言及を避けた。
最近の出来事以前から、ウォルツ氏は横柄な態度を取ったり、トランプ氏の政策と一致しない見解を表明したりして多くの同僚の反感を買っていたと、政権当局者2人は語った。
2024年の大統領選でトランプ陣営の副広報部長を務めたキャロライン・サンシャイン氏は「ウォルツ氏を留任させるのは弱腰であり、トランプ氏を選出した有権者を裏切ることになる」と述べた。
フロリダ州でウォルツ氏の議席を共和党が失う可能性があるという世論調査も示されたが、共和党関係者は選挙戦に自信を示している。
批判に対し、国家安全保障会議(NSC)のブライアン・ヒューズ報道官は「匿名の情報源のおしゃべりは、名前を明かす誠実さのない人々のゴシップとして懐疑的に扱われるべきだ」と述べた。
ホワイトハウスのスティーヴン・チャン広報部長は「スージー・ワイルズ氏とスタッフ一同は、マイク・ウォルツ氏と国家安全保障チーム全体に信頼を表明したトランプ大統領を強く支持している」と述べた。
ドナルド・トランプ米大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して「とても腹を立てた」、「むかついた」と述べた。アメリカはここ数週間、ウクライナでの戦争について、同国とロシアとの停戦交渉を仲介しようとしていた。
30日に放送されたNBCニュースのインタビューでトランプ大統領は、プーチン大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の信頼性を攻撃したことに立腹していると発言。プーチン氏が停戦に合意しない場合、ロシア産石油を購入する国々に対して50%の関税を課すと脅した。
「もしロシアと私が、ウクライナでの流血を止めるための合意に至らず、それがロシアのせいだと思った場合(中略)私はロシア産のすべての石油に対して2次関税を課すつもりだ」と、トランプ氏は述べた。
この発言は、トランプ氏のプーチン氏およびロシアに対する態度の変化を示している。
欧州各国の指導者たちは停戦交渉が続く中、トランプ氏がプーチン氏に接近していることを懸念していた。
この6週間でトランプ氏は、ホワイトハウスの大統領執務室でゼレンスキー大統領を叱責し、多くの譲歩を要求してきた。一方で、プーチン大統領を称賛し、ロシア大統領の要求にはほぼ応じてきた。
そのため今回の発言は、これまでの関係性から外れた様子を示すものとなった。アメリカが、停戦交渉で足踏みするロシアに対して、それは深刻な結果をもたらすと初めて脅したことで、ロシアの反応を引き出そうとしたようにも見える。
NBCニュースは10分間の電話インタビューの内容として、プーチン氏がゼレンスキー氏の指導力の信頼性を批判した際、トランプ氏が非常に怒り、「腹が立っている」と述べたと報じた。ただし、トランプ氏自身もゼレンスキー氏を「独裁者」と呼んだり、選挙を実施するよう要求している。ゼレンスキー氏は昨年5月に任期を終えるはずだったが、ウクライナではロシアの全面侵攻開始によって戒厳令が出されており、選挙が実施されていない。
「プーチンがゼレンスキーの信頼性に言及し始めたとき(中略)私はとても腹が立ったし、むかついたと言える。正しい方向に進んでいないので」とトランプ大統領は述べた。
「(ウクライナの)指導者が新しくなるなら、もうしばらくは合意が得られないことになる」ともトランプ氏は話した。
トランプ氏は、自分が怒っていることをクレムリン(ロシア大統領府)は承知しているとする一方、プーチン氏とは「非常に良い関係」なので、「(プーチン氏が)正しいことをすれば、怒りはすぐに消える」とも述べた。
ただし、ロシアが停戦を履行しない場合、それがプーチン大統領の責任だと思ったなら、さらにロシア経済を標的にするとトランプ氏は脅した。
「アメリカで販売される石油やその他の製品に25%の関税、つまり2次関税を課す」とトランプ氏は述べ、停戦合意がない場合、1カ月後にロシアに対する関税が発動されると話した。
2次関税とは、ある国と取引を行う第三国に対する制裁を指す。今回の場合、ロシアから石油を購入し続ける国々からアメリカに輸入される製品に対し、最大50%の関税が課される可能性がある。ロシア産石油の最大の購入者は中国とインドだ。
ゼレンスキー氏はこのインタビューの放映後、「ロシアはこの戦争をさらに長引かせるための言い訳を探し続けている」とソーシャルメディアに投稿した。
また、ロシアが違法に併合したクリミア半島に言及し、「プーチンは2014年から同じゲームを続けている」、「これは全ての人にとって危険なことだ。アメリカやヨーロッパ、そして平和を求める世界中のパートナーが、適切に対応する必要がある」と述べた。
トランプ大統領は、今週中にもプーチン大統領と話す予定だと述べた。
ロシアは2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始し、現在はウクライナ領土の約20%を支配している。
BBCロシア語とロシア独立系サイト「メディアゾナ」、および2022年2月から死者数を数えているボランティアたちが分析したデータによると、ウクライナでの戦争が4年目に入る中、ロシア軍で戦っている10万人以上が死亡している。
ウクライナは2024年12月に最新の死傷者数を更新。ゼレンスキー氏は、4万3000人が戦死したと認めた。西側のアナリストはこの数字は少なすぎると考えている。
3期目排除せず、イランにも再び脅し
このほかトランプ氏はNBCニュースでのインタビューで、3期目の大統領就任はあり得ると発言し、「これは冗談ではない」と強調した。アメリカでは、3選は憲法で禁止されている。
トランプ氏は、「多くの人が私にそれを望んでいる」と述べた一方、「けれども、その人たちには要は、まだ長い道のりがあると話している」とした。
また、イランについて、核合意に同意しない場合には爆撃すると再び脅した。トランプ氏は今月初め、核合意に向けた交渉を要求する手紙を、イラン政府に送った。
「イランがこれまでに見たことのないような爆撃になるだろう」とトランプ氏は述べ、2次関税の可能性も示唆した。
イランのマスード・ペゼシュキアン大統領は30日、核プログラムに関してアメリカとの直接交渉には応じないが、間接的な交渉は可能だと述べた。
「我々は交渉を避けているわけではない。これまで我々にとって問題なのは、約束が破られてきたことだ」と、ペゼシュキアン大統領は述べた。
「アメリカは信頼を築けると証明しなくてはならない」
米国のトランプ大統領が、合衆国憲法で禁じられている3期目について、実現する「手段はある」と述べ、「冗談ではない」と強調した。
トランプ氏は30日に放送されたNBCの電話インタビューの中で、3期目について「私にそうしてほしいと思う人はたくさんいる。だがそうした人たちには先は長いと言っている」と語り、「私は現在(2期目)に集中している」と言い添えた。
3期目を追求する戦略はあるのかと質問されると、「それができる手段はある」と言明した。
トランプ大統領は現在2期目。合衆国憲法修正第22条は大統領の3選を禁じているが、トランプ氏はこれまで何度も3期目を口にしてきた。
NBCのインタビューでは「私は冗談は言っていない」と述べる一方で、「それを考えるにはあまりに時期尚早だ」と話している。
トランプ氏は1月にもネバダ州の集会で、「1回ではなく2回、あるいは3回、4回務められれば人生で最大の栄誉だ」と発言。その後「いや、2期目を務めることだ。次の4年間は休まない」と付け加えた。
数週間後にホワイトハウスで開かれた黒人歴史月間の行事では、支持者に向かって「私は再出馬すべきか?」と問いかけ、支持者らは「あと4年!」と声をそろえていた。
ヘグセス米国防長官は2度の外遊を通じ、米国の同盟国に大きく異なるメッセージを発した。
2月の訪欧時には北大西洋条約機構(NATO)の欧州勢は防衛力に十分な予算を充てず、米国の軍事力を頼りにロシアをけん制していると強く非難。ヘグセス氏はブリュッセルで、「米国はもはや、依存を助長する不均衡な関係を容認することはできない」と欧州各国の国防相に伝えていた。
対照的に、3月のアジア歴訪では、中国の軍事的圧力に抵抗する日本とフィリピンを称賛。同氏はミサイルシステムや兵力を含むリソースを提供し、中国の拡張主義を抑止すると約束した。
来日したヘグセス氏は30日に中谷元防衛相と会談。「戦闘能力や破壊力、即応性を向上させるに当たり、緊密に協力していきたい」と述べた。
トランプ大統領のディール(取引)重視や、ロシアや中国との取引を求めるスタンスに対する懸念が拭い切れないものの、ヘグセス氏のアジア訪問は、この地域での米国の軍事増強方針を明確に示すものとなった。
ハワイとグアムにも立ち寄ったへグセス氏は、米国はアジア太平洋地域における軍事力を強化し、同盟国による同様の取り組みを支援することで、中国に対する抑止力を「再確立」する必要があると主張した。
同氏はマニラで、米国は今後実施される合同軍事演習のためフィリピンに艦船攻撃ミサイルシステムと無人水上艇(USV)を送り込むと述べたが、詳細はまだ不明だ。
東京では、米国は日本に新設する司令部に人員を追加する方針だと説明。同司令部は、地域の危機に対する米軍の初動を指揮するほか、日本側で陸海空3自衛隊を一元的に指揮する新組織「統合作戦司令部」と緊密に連携するとヘグセス氏は話した。
帝京大学の松岡美里准教授はヘグセス氏のアプローチについて、米国が中国を主要な戦略的競合相手として優先的に対応していることを示すものだと分析。
「米国は欧州の同盟国が自国の安全保障により大きな負担を担うことを期待しており、そうすることで米政府は他の地域に資源を配分することができる。一方、日本とフィリピンは米国が中国を封じ込める取り組みの中心だ」と述べた。
台湾外交部(外務省)の31日の声明で林佳竜外交部長(外相)は、「台湾海峡の平和と安定への日米両国の確固たる支持と世界の秩序に対する中国の挑戦に対する懸念を評価し歓迎する」とコメントした。
シンガポール国立大学(NUS)の荘嘉穎准教授(政治学)は、中国が「黄海から東シナ海、台湾海峡、南シナ海、さらにはオーストラリア周辺に至るまで、現在の軍事および準軍事活動を継続するのではないか」と想定。「中国政府は米国の決意を試そうとしているのかもしれない」と語った。
ヘグセス氏の訪日で驚くべきことは、在日米軍の関連経費を含め、日本に対する防衛費増額要求が全くなかったことだ。
トランプ、ヘグセス両氏が欧州のNATO加盟国に対して、国内総生産(GDP)の少なくとも5%を国防費に充てるよう求めていたことから、日本にも同じような要求が示されると予想されていた。
米国が日本の防衛支出に何を期待しているかという記者の質問に対し、ヘグセス氏は「同盟国として、肩を並べて立つために同盟内でどのような能力が必要か、日本が正しい判断を下すものと確信している」と答えた。
日本は現在、GDPの約1.4%相当を防衛費に費やしており、2027年度までに2%に引き上げるという公約がトランプ政権から一定の評価を得ているようだ。
ヘグセス氏によると、米国が後れを取っているのは、アジアにおける自国の存在感と中国の強硬姿勢に立ち向かう姿勢だ。「ご存じのように、米国は力によって平和を再構築するとトランプ大統領は述べている」とヘグセス氏は東京で強調した。
●先進国中銀、金融当局
●先進国経済指標
ドイツの2月の小売売上高は予想を大きく上回った。一方、輸入価格は大幅に上昇し、今後インフレを加速させ消費を冷やす可能性を示唆した。
ドイツ連邦統計庁が31日発表した2月の小売売上高指数は前月比0.8%上昇。ロイターがまとめたアナリスト予想(0.2%上昇)を大きく上回った。1月は0.2%上昇から0.7%上昇に上方改定された。2月の輸入価格は前年比3.6%上昇。食品の値上がりで2年超ぶりの大幅上昇となった。
予想を上回る小売売上高の伸びについて、VPバンクのチーフエコノミスト、トマス・ギツェル氏は、昨年第4・四半期に縮小したドイツ経済が第1・四半期に拡大に転じる可能性を示唆する良いニュースだと述べた。
ただエコノミストは消費の先行きを楽観していない。ハウク・アウフハウザー・ランペ・プライベートバンクのチーフエコノミスト、アレクサンダー・クルーガー氏は、消費者心理は停滞し、支出意欲を削いでいると指摘。3月の失業者数が10年ぶりに300万人の大台目前に増加しており、「雇用への不安が消費に一段とブレーキをかけている」と述べた。
小売業協会HDEのマネジングディレクター、ステファン・ゲント氏は「貯蓄性向が依然高く、家計は支出を控える傾向にある」と述べ、現段階で小売売上の一段の回復は見込みづらいと述べた。
●金融市場、先進国トピックス
トランプ米大統領が相互関税や分野別関税に関する詳細を公表するとした4月2日が迫ってきた。しかし、今年の金融市場に大きく影を落としてきた不確実性がこの日で完全に払拭されると予想する投資家はほとんどいない。
トランプ氏の関税政策を巡る懸念からS&P総合500種は3月に一時、最高値と比べて10%下落した。2025年に入ってから約3%下落し、第1・四半期の下落率としては22年以来、3年ぶりの大きさとなりそうだ。
シーバート・ファイナンシャルのマーク・マレク最高投資責任者(CIO)は「私は永遠の強気派だが、今から4月第1週、そして決算発表シーズンの始まりにかけて株価は上振れよりも下振れの可能性が大きいと思っている」と語った。
4月2日には実際の関税率や、どの国、どの分野が標的にされ、相手国が報復に動くかどうか次第で株価が激しく変動すると予想される。
ただステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのチーフ投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏は「4月2日以降もボラティリティーが高まる余地がある」と警告した。
エドワード・ジョーンズのシニア投資ストラテジスト、アンジェロ・クーカファス氏は、4月2日の関税計画発表は「1日だけで消化されるイベント」になりそうにはないと予想。「重要な節目だが、2日が終わった段階でも全ての不確実性が解消されず、尾を引きかねない」と付け加えた。
<上下双方向にリスク>
エバーコアISIのシニアストラテジスト、マシュー・アクス氏は、4月2日の市場の反応は将来の関税、とりわけ分野別の関税が発動されるタイミングと、相互関税に相手国がどれだけ素早く対抗するかにかなり左右されるとの見方を示した。
アクス氏は「他国が報復に動けば(関税引き上げ合戦が)エスカレートするリスクを生み出し、安心感に水を差す恐れがある」と話す。
バークレイズのストラテジストチームは26日、S&P総合500種の今年の目標値を6600から5900へ引き下げた。関税によって米経済活動が大幅に鈍化し、企業収益が打撃を受けるとの想定に基づいている。
S&P総合500種構成企業の25年の1株当たり利益見通しも271ドルから262ドルに下方修正し、一般消費財分野が最も弱くなると見込んだ。
ただ、リスクは下値方向だけではない。公表される関税の詳細が市場の想定していた最悪ケースより穏当な内容だった場合は、安値拾いの買いが入ってもおかしくないからだ。
ハリス・フィナンシャル・グループのマネジングパートナー、ジェイミー・コックス氏は「株式市場にとって下値方向のサプライズが出てくるとは思わない」との見解を示し、新たな下落局面は買い場と見なす考えを明かした。
トランプ氏は4月2日で関税政策に一区切りをつけ、軸足を減税など市場に追い風となる政策に移行させるのではないかとの期待感も出ている。
ダコタ・ウエルスのシニア・ポートフォリオマネジャー、ロバート・パブリク氏は「関税から完全に手を引くことはなくとも、税制の話題がより強調されるだろう。それが私の望む展開だ」と述べた。
それでも関税を巡る懸念を背景に3月の消費者信頼感を4年余りぶりの低水準に落ち込み、投資家の間では景気後退やインフレに対する不安が強まっている。
シーバートのマレク氏は「このような消費者信頼感の動きが(実体経済の)どこかにマイナスの影響を及ぼさなかったためしはない」と語る。
オックスフォード・エコノミクスの首席アナリスト、ジョン・カナバン氏は、最近の株式市場を覆う不安感は主として関税が米経済の勢いを著しく弱めるのではないかとの見方に基づいていると分析し、ある程度の弱気地合いは第2・四半期まで継続する可能性があると見ている。
ステート・ストリートのアローン氏は「状況がより明確になれば株価上昇余地が出てくる。(しかし)そうした明確性が得られるのかどうか依然として懐疑的だ。期待はしているが、本当にそうなるかどうか見定めていく」と述べた。
トランプ米大統領は米国に輸入される乗用車やスポーツ用多目的車などのライトトラックに最大25%の関税を課す計画を発表したが、これにより最も大きな打撃を受けるのは労働者層の自動車購入者となるだろう。米国で販売される低価格の新車のほぼ全てが米国以外で生産されているからだ。
中古車市場においても、需要が急増して供給が減少するため価格高騰が予想され、低所得層の購入者にとってはさらなる打撃となるだろう。
米国では新車の平均価格が5万ドル(約750万円)に近づく中、3万ドル以下の新車はすでに希少となっている。アナリストらは、自動車メーカーが低価格車の販売で利益を生むには、製造コストの低い国で生産するしかないと指摘する。
ロイターが2つの自動車調査会社のデータを調べたところ、平均価格が3万ドル未満のモデルはわずか16台で、うちトヨタの (7203.T), opens new tabカローラだけは米国で組み立てられているが、その他は全てメキシコ、韓国、または日本で製造されている。
業界アナリストらは、こうした低価格車に25%の関税を課すと、価格が上昇して想定購買層にとって手が届かなくなるか、あるいは一部の自動車メーカーがこれらの車の製造を完全に中止する可能性があると指摘している。
「新車は全体的に値上がりするだろう」と調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズの副社長サム・フィオラニ氏は言う。「その結果、中古車市場に買い手が流入し、中古車の価格も上昇するだろう」
ルイジアナ州モンロー在住のバーニス・キャリントンさんは、関税による価格上昇を懸念し、新車ではなく中古車を購入する考えだ。
「ファミリーカーを必要としているほとんどの家庭は、車に、自宅の価値のほぼ半分に近い価格を支払っている」と、キャリントンさん。「根本的な問題は、国内で製造された車をより手頃な価格にするための対策がまだ何も講じられていないことだ」
輸入関税の矢面に立たされるのは、トランプ氏の支持基盤である地方の住民かもしれない。エジソン・リサーチの出口調査によると、2024年の大統領選では、世帯年収5万ドル未満の有権者の約半数がトランプ氏を支持し、大学卒業資格のない有権者では56%が支持した。
トランプ大統領は3月29日、NBCニュースに対し、自動車メーカーが値上げしても「全く気にしない」とし、「外国車の価格が上がれば、彼らはアメリカ車を買うだろう」と語った。
課税の対象となる輸入車の多くはアメリカの自動車メーカーが製造している。ゼネラルモーターズ(GM)の3万ドル以下の車、ビュイック・エンビスタ、シボレー・トラックス、トレイルブレイザーの3台は韓国製だ。GMはまた、メキシコで数十万台の売れ筋の大型トラックを製造している。
トランプ大統領は関税が米国の自動車産業の景気を刺激すると主張しているが、一部の専門家は逆効果だと主張している。
保守派で供給側に注目する経済学者アーサー・ラファー氏は3月の報告書に、「価格上昇により自動車が購入しづらくなると、世帯は予算の他の部分を優先し、旅行や外食などの支出を削減したり、大きな買い物を延期したりする可能性がある」と記した。
<低価格車のビジネスモデルは崩壊>
デトロイトに本社を置くGMのほか、フォード (F.N), opens new tab、ステランティス (STLAM.MI), opens new tabは近年、エントリーレベルのモデルの大半を生産中止し、利益率の高いトラックやSUVに注力している。その結果、低価格車市場はほぼ完全にアジアの自動車メーカーに委ねられている。
車の検索サイト、アイシーカーズドットコムのエグゼクティブアナリスト、カール・ブラウワー氏は「彼らが本当に低価格帯のマーケットに戻るとは思えない」と述べた。
フォードは、最も安価な車種である小型トラック「マーベリック」と中型トラック「ブロンコスポーツ」をメキシコで生産。コックス・オートモーティブのデータによれば、1月と2月に販売されたモデルは、平均で3万ドル以上で販売されている。ジープの手頃なモデルであるコンパスもメキシコで生産されている。
自動車の事業予測やコンサルティングを行う会社オートフォーキャスト・ソリューションズによると、日産、マツダ、ヒュンダイ、キア、トヨタ、SUBARU、フォルクスワーゲンが製造する3万ドル以下のモデルは、ほぼ全てメキシコか韓国で製造されている。
ホンダは、最も売れているシビックをカナダと米国で、コンパクトなクロスオーバー車HR-Vはメキシコで生産している。コックス・オートモーティブによると、両モデルの平均価格は3万ドルをわずかに上回っている。
これらの車両の利益率は低く、購入者は価格に敏感だ。ブラウワー氏は、関税が高ければ、これらの車両は全く売れなくなる可能性があると指摘。25%の関税によって、低価格車の製造・販売で利益を生み出すビジネスモデルは崩壊するだろうと述べた。
コックス・オートモーティブは、25%の関税により米国製車両のコストが3000ドル、カナダまたはメキシコ製車両では6000ドル上昇すると見積もる。
フォードは、関税が低価格の車両価格に及ぼす潜在的な影響についてはまだ評価中だと述べた。この記事で言及した他の自動車メーカーはコメントしなかった。
<中古車価格の上昇>
一部の業界専門家は、高関税の潜在的な影響を、パンデミック中に新車や中古車の価格を高騰させたサプライチェーンの不足と比較している。
パンデミック以来、中古車価格は落ち着き、平均掲載価格は2万5006ドルで、前年比1%下落した。
しかし、コックス・オートモーティブによると、より手頃な中古車の供給は依然として比較的不足している。ディーラーは1万5000ドル以下の中古車を約30日分在庫しており、これは中古車全体の供給量より約12日少なく、供給不足であることを意味する。
フィオラニ氏は、「1万5000ドルから2万5000ドルの範囲の中古車が最も需要が高まるだろう」と述べた。なぜなら、自動車メーカーが生産を中止するだろうからだ。
アリゾナ州フェニックス在住のエリック・フェンスターマッハーさん(44)は、トランプ大統領が関税導入をちらつかせ始めたため、車を買いに急いだ。IT業界で働く同氏は、3万ドル以下で気に入った新車を見つけるのに苦労し、3月中旬に2022年型ホンダ・アコードを購入した。
「とてもほっとした」とフェンスターマッハーさんは語った。「このタイミングで買えてよかった。遅れていたら価格は上昇していただろう」
トランプ氏が昨年11月の米大統領選で勝利した後、企業の間では楽観の度合いと設備投資に関する見通しが急激に高まった。しかし、それから4カ月が経過し、経営陣は様子見姿勢に転じた。
全米を対象とした調査によれば、トランプ大統領が打ち出す関税措置が次々と変わることに加え、議会が税制法案をどのように、またいつ成立させるか不透明なことが投資に関する見通しを後退させている。
経済成長の主要な原動力である投資計画を、多くの企業が保留している。エコノミストらが今年の経済成長予測を下方修正している理由の一つがこれだ。
企業による投資(住宅を除く)は、米国内総生産(GDP)の約7分の1を占める。金額ベースでは約4兆ドル(約600兆円)だ。全米製造業者協会(NAM)などの業界団体や地区連銀が実施した設備投資に関する調査は、トランプ氏当選後には投資意欲の高まりを示していたが、ここ数カ月は低下している。
31日に発表された3月のダラス連銀製造業指数によると、向こう6カ月の設備投資に関する指数は2022年6月以来の大きさで低下した。
また、フィラデルフィア連銀が実施した製造業の見通しに関する最新調査によれば、年内に設備投資を増やす見込みの企業は23%にとどまった。昨年10月時点では51%あった。
リッチモンド連銀のバーキン総裁は27日、関税を賦課された国にサプライチェーンを持つ製造業者は不確実性の度合いが最も高いとし、企業の投資環境を「濃霧」に例えた。
特に中小企業において、問題は深刻だ。全米自営業連盟(NFIB)の調査によれば、向こう6カ月に設備投資を計画している中小企業の割合は3カ月連続で低下した。
NFIBのチーフエコノミスト、ビル・ダンケルバーグ氏は「不確実性が非常に大きく影響している」と指摘。「われわれが望んでいるのは、この状況が速やかに解消されること、長く待つ必要がないことだ。待つことは当然ながら、利益と売り上げを失うことを意味する」と話した。
JPモルガン・チェースのエコノミストによれば、トランプ政権1期目のより小規模な関税対立でも貿易政策を巡る不透明感が深まり、2019年終盤に設備投資の縮小が見られた。
当時、トランプ政権は既に大型減税を実現させていたが、2期目の今回はそうした状況になっていない。
税収予測が減少する一方、納税者への還付金は増加している。これは米政府の歳入を減少させる要因で、これが続けば、連邦議会が債務上限を引き上げる期限が早まる可能性がある。あるいは、連邦政府の支払いが不能に陥るリスクもある。
この傾向が続くと、債券市場ウオッチャーや経済全体にとって、潜在的に憂慮すべき兆候となるだろう。 ほとんどの予測では、米国は夏の終わりから秋の初めにかけて、すべての義務を期限内に履行するための資金が底をつくとみられているが、一部の予測では、税収の低迷により、早ければ5月か6月には債務不履行に陥る可能性があると警告している。
財務省の最新データによると、27日に同省の現金残高は2810億ドル(約42兆円)に減少。それ以外では、金融債務を履行し続けるための特別措置として残された調整余地があるが、26日時点で2070億ドルほどしかない。
イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」による内国歳入庁(IRS)職員の削減や、消費者と企業の景況感を悪化させている関税政策など、政治的な混乱が予測を下回る税収の一因になっている可能性があると専門家は指摘している。
米議会予算局(CBO)は26日、「債務上限が変更されない場合、特別措置を活用した政府の借り入れ能力は2025年8月または9月に尽きる可能性が高い」と声明で指摘。「政府の借り入れニーズがCBOの予測を大幅に上回る場合、財務省の資金は5月下旬か6月中にも底をつく可能性がある」とした。
確定申告の統計によると、IRSが受け取った申告書の数は、2024年の同時期と比較して1.1%減少。追加で納税する義務のある申告者は、できるだけ遅くまで納税を先延ばしにする傾向があるため、4月15日の締め切り直前の数週間に税金の支払いが急増する傾向がある。一方、還付金の総額は昨年よりも4.6%多くなっている。
共和党の駆け引き
財務省の資金が枯渇するいわゆる「Xデー」が予想よりも早く訪れた場合、議会には債務上限に関する計画がまだない。
スーン共和党上院院内総務は現在、トランプ大統領の減税案とともに、少なくとも4兆ドルの債務上限引き上げを含む共和党主導の予算決議案の推進に取り組んでいる。しかし、議会共和党は時間がかかり政治的に複雑な交渉の初期段階にあり、2カ月でまとまる可能性は低い。
5月に支払い不履行になるリスクが高まるようであれば、共和党は減税法案を一時的に保留し、債務上限の問題だけに集中するよう圧力がかかるだろう。減税とセットにならないのであれば、債務上限の引き上げを支持する共和党議員が十分に集まる可能性は低く、民主党に頼らざるを得なくなる。そうなれば、債券市場を不安にさせるような、政治的に危険な「チキンゲーム」が再び始まることになる。
ベッセント財務長官は、税収の大半が入り始める5月初旬に債務上限に関する最新情報を提供すると述べている。
最大の未知数は、DOGEによるIRSの人員削減が、税金の徴収能力と納税者の納税意欲に悪影響を及ぼすかどうかだ。エール大学予算研究所の最近のリポートによると、IRSの人員削減は「違反の劇的な増加」を招く可能性がある。
同研究所の政策分析ディレクター、リチャード・プリシンザーノ氏は「税金の申告に関して態度が変わるかもしれない。税金を回避しようとして、控除をより積極的に利用するようになるだろう」と指摘。「納税額の増加が見られなければ、納税者の態度が変化した可能性が高い。納税者は『IRSが監査を行う立場が弱くなるだろう』と見越している」と続けた。
不良債権投資に強みを持つクレジット投資会社、ストラテジック・バリュー・パートナーズ創業者のビクター・コスラ氏は、人材採用を計画している。現在はここ10年間で最も投資機会に恵まれた環境にあると考えているからだ。
「当社のような投資家にとって、新型コロナウイルス流行の最初の6カ月を除けば、経済が不況に陥っていない状態でこれほど投資の好機があふれている環境はここ10年間なかった」とコスラ氏はインタビューで語った。
同氏は24日にブルームバーグテレビジョンとの別のインタビューで、クレジット市場は投資家が安心し過ぎていた時期を経て「審判の時」を迎えていると語っていた。
コスラ氏は、貿易戦争のリスクが広がる中、変化する投資環境を最大限に活用するため運用部門の人員を増やす計画だ。オフィスや集合住宅の差し押さえが表面化し始めたことを受け、不動産に焦点を当てた業務を行うために、米国と欧州で12人の既存のグループに4人を追加採用した。
不動産業界では「大規模な整理が進行中だ。人々はいつかは諦めて抵当流れ物件を売却する」と言う同氏は、今後数年間、資金の25%を不動産に投資する可能性があると語った。従来は10-20%だったという。
ストラテジック・バリュー・パートナーズは最近、ロンドンの金融街シティーのオフィスビルを当初の提示価格から約60%割引で購入することに合意した。ダブリンにあるアイルランド最大のショッピングモール、ブランチャーズタウンセンターも取得した。
また、ドイツでは経済がリセッション(景気後退)に近く、金利が金融緩和時代よりもはるかに高い水準にあるため、不動産以外にもチャンスがあるとコスラ氏は考えている。
ブルームバーグ・ニュースがまとめたデータによると、3月21日時点でドイツの企業債務の約63億ドル(約9400億円)相当がディストレスト水準にあり、前週から5億4300万ドル増加していた。金利とエネルギー価格の上昇が企業に重くのしかかり、破産件数は増加している。
金利がゼロだった時にドイツの社債に投資した投資家は、今まさに「しっぺ返しを受けている」とコスラ氏は語った。
近年エネルギー価格高騰に苦しめられている化学品業界は注目に値するとも述べた。
金価格が31日の取引で再び過去最高値を更新し、心理的節目である1オンス=3100ドルの大台を突破した。トランプ米大統領の関税措置などを巡る不確実性が上昇の勢いに弾みをつけた。
金のスポット価格は一時、3128.06ドルの最高値まで上昇した。
金価格は年初来ですでに最高値を19回更新。四半期ベースでは1986年9月以来最大の上昇幅となる見込みとなった。
ヘレウスプレシャスメタルズの貴金属トレーダー、アレクサンダー・ツンプフェ氏は、金価格上昇の背景には、地政学的緊張の高まりやインフレ懸念、投資家の強い需要があると指摘。その上で「現在のマクロ経済環境、とりわけ貿易戦争の不確実性と米連邦準備理事会(FRB)の政策を考えると、短期的にみてこの傾向は持続可能と思われる」と述べた。
米国人は長らくエネルギー安全保障と言えば石油のことだと考えてきた。米国は戦争や災害、政情変化による供給停止が引き起こすかもしれない大混乱に備えるため、可能な限り、多くの石油を確保しようとした。
だが数年以内に、エネルギー安全保障は電力を意味するようになる。
電力需要は何十年も停滞していたが、今や急速に伸びている。人工知能(AI)や他のデジタルサービスを運用するデータセンターが大量の電力を必要とし、将来的には輸送や建物での需要拡大が見込まれる。
電力に依存する経済は、石油に依存する経済とは様相が異なる。まず発電や送配電に巨額の投資が必要だろう。また電力の供給および価格が、ガソリンの場合と同様の政治的重要性を持つため、規制当局や政治指導者にとっての課題となる。
米バージニア州グロスター郊外で、そうした電力経済の影響が見て取れる。同州の主要電力会社ドミニオン・エナジーは2年弱前、かつて育苗園に使われていた約71万平方メートルの土地に太陽光発電所を完成させた。
ロス・ミリカン氏(38)がドミニオン・エナジーの再生可能エネルギー部門に入社した2015年当時、同社のサービス地域に稼働中の太陽光発電所はなかった。現在はミリカン氏率いる80人の従業員がグロスターの施設を含め58の施設を管理している。
「以前はいわば老舗電力会社の社内スタートアップのように捉えていた」とミリカン氏は話す。「今や会社にとって主力ビジネスとなっている」
電力需要は1950年代から60年代に最盛期を迎えた。電力分野のコンサルティング会社グリッド・ストラテジーズによると、当時は家電製品とエアコンの普及によって年間需要が年平均8%前後伸びていた。
2000年代には人口の伸び鈍化や、新たな技術応用分野の枯渇、効率性向上により、需要の年平均成長率は1%を割り込んだ。だが昨年は3%に急回復し、今後5年間はこのペースを維持するとグリッド・ストラテジーズは予想している。
2022年以降、電力各社は29年夏のピーク需要予想を12%引き上げ、101ギガワットとしている(同社の推計)。これを後押しする要因は、データセンター(AI、クラウドコンピューティング、暗号資産向け)や新工場、それに電気自動車(EV)やヒートポンプ、水素生産の段階的な普及だ。
ドミニオン・エナジーは今後15年間で発電能力を倍増させ、56ギガワットに引き上げる計画だ。その多くはバージニア州北部の「データセンター集積地」に供給される。太陽光発電が45%を占める見通しで、毎年多数の新施設を建てる必要がある。
米国をはじめとする世界はこの先何十年も石油と天然ガスを大量に必要とするだろう。米国はシェール革命のおかげで石油・ガス双方の主要生産国となる。
だが米国の国内需要における石油・ガスの重要性は低下している。ガソリン、ジェット燃料、暖房油といった石油の消費量は20年間横ばいが続き、発電用を除く天然ガスの消費量は2018年以降横ばいだ。米エネルギー情報局(EIA)は今後2年間の石油・天然ガス消費量の伸びが年1%に届かないと予想する。
変わるエネルギー安全保障の意味
石油の場合、世界のどこかで供給が中断されると米国にもその影響が波及する恐れがある。米国が純輸出国になった今でさえ状況は変わらず、そのため米国の外交・安全保障政策に長年影響を与えてきた。
電力はほぼ全てが国内のエネルギー源(石炭、ガス、原子力、水力、風力、太陽光、地熱)で賄われるため、外国の影響や単一のエネルギー源の供給停止からは守られている。夜間にはグロスター発電所の太陽光パネルからの電力は途絶えるが、ドミニオンが運営する原子力発電所やガス火力発電所から供給され、将来的には蓄電池も活用される予定だ。「単一のエネルギー源では全ての顧客に確実にサービスを提供できなくなる」と広報担当者のアーロン・ルビー氏は言う。「原子力も天然ガスも再生可能エネルギーも必要だ」
電力安全保障にとっての脅威はさまざまだ。極端な気象をはじめとする災害、暗号資産マイニングなどが引き起こす需要の大幅な変動、太陽光・風力発電を落ち込ませる気象条件などが挙げられる。
電力経済には資本が必要
石油・ガスの場合、燃料代がコストの大半を占める。電力の場合は発電・送電・蓄電・配電のインフラがそれにあたる。石油・ガスの採掘や精製は、国内総生産(GDP)に電力業界の2倍寄与している。一方、電力会社の方が設備投資額(工場、機械、技術)は50%多い。
電力経済には多くの不動産と設備が必要だが、両方とも供給が追いついていない。グリッド・ストラテジーズのロブ・グラムリッチ社長は「数年前の10倍の電気設備を購入している。変電所に必要な変圧器といった基本的機器が大幅に不足している」と述べた。「5~9年前にこれらを製造していた企業は、あまりに需要が弱かったため、人員を削減したり、別の分野へ転換したりした」
供給不足はコストを押し上げ、場合によっては電気料金に転嫁されるだろう。仮に需要が予測に到達しない場合(例えば、データセンター「バブル」を警戒する声もある)、不要になった生産能力のコストも顧客に転嫁されるだろう。
規制がより大きな足かせに
石油と異なり、電力は自治体・州・連邦レベルで厳しい規制がある。電力会社が新たな発電エネルギー源を送電網につなげる際には許可が必要で、ローレンス・バークレー国立研究所によると、そうした「相互接続」申請後の待機期間は2023年には5年(中央値)だった。
一方、インフラ新設に許可を得るのは困難になるばかりだ。「送電のニーズに関して共通認識はあるものの、その壁を乗り越える具体的な解決策はほとんどない」。調査会社クリアビュー・エナジー・パートナーズのマネジングディレクター、ティモシー・フォックス氏はこう述べた。
電力も石油と同様、政治色を強めている。米民主党や進歩派は天然ガスのフラッキング(水圧破砕法)やパイプライン建設に障壁を設ける一方、再生可能エネルギーに対する補助金や義務化などの支援策を打ち出す。これに対し、共和党や保守派は逆のことをしている。
トランプ政権は化石燃料を巡っては温室効果ガス規制を緩和し、天然ガスのパイプライン建設を後押しする一方、洋上風力発電への許可を停止し、クリーンエネルギー補助金の廃止を検討している。フォックス氏によると、共和党寄りの州の多くが自治体に再生可能エネルギー事業を中止する権限を与えており、ドナルド・トランプ大統領の下で米連邦エネルギー規制委員会(FERC)が州の反対を押し切って送電線を承認する可能性は低くなっている。
米国経済は電力の新時代によって変革されつつある。その一方で、政治はさほど大きく変わらないようだ。
●中東情勢
●エマージング
香港の複合企業CKハチソン・ホールディングス(長江和記実業)(0001.HK), opens new tabがパナマ運河の重要港湾の運営権を米企業連合に売却する計画について、親中派の香港紙が31日、CKハチソンに売却の再考を促し、中国当局による調査を支持する、香港政界や中国法曹界の声を含む全面記事を掲載した。4月2日までに予定されている合意締結が延期される見通しとの関係者情報も伝わり、31日の香港株式市場でCKハチソン株は急落した。
この計画は、中国国営メディアも批判し、中国の市場規制当局は、独禁法に則って調査する方針を示すなど政治色を帯びてきている。
親中派の香港紙、大公報の全面記事によると、中国の法律事務所、康達律師事務所のシニアパートナーは、中国当局は独禁法以外にも、国家安全保障やデータセキュリティー関連の法律に基づき港湾システムデータに対するセキュリティーリスクを売却計画を評価する可能性を指摘した。
関係筋によると、合意の締結は遅れるが中止になったわけではないという。
JPモルガンはアナリストリポートで「地政学的な影響の高まりにより遅延が生じても驚きはない。CKハチソンは7月27日に予定する取引完了までに、さまざまな利害関係者との対立の解決に努めるだろう」とし、取引完了が先延ばしされても驚きはないと述べた。
一方、CKハチソンは31日、通信事業の分離上場に関する一部観測報道について、決定した事実はないと述べた。
予想に反して、ロシア経済は戦争を乗り切っている。経済面で差し迫った次の嵐は和平だ。
ウクライナ紛争の間中ずっと、政府の巨額な軍事支出がロシアの生産を支え、西側諸国から科された制裁の影響を弱めてきた。兵器工場は増産し、衣料品ブランドからパン屋までがそろって目出し帽やドローンを生産するために設備を一新した。こうした変革によって、ロシアの経済は雇用・賃金・成長を戦争に依存するようになった。ドナルド・トランプ米大統領が推し進めている和平合意によってロシア経済を軍事的な支えから切り離すことは、ロシア政府には経済的なリスクだ。
戦時体制から後退すれば、ロシア経済は非常に危険な状況に置かれると、エコノミストらはみている。3年にわたる戦闘で劣化したロシア経済は、根強いインフレや労働力不足に直面し、戦争以外には成長の手段がほとんどない状況にある。
和平が合意された場合、その結果としてロシアの軍事支出が削減されれば国家財政に大きな穴ができ、それを埋めるのは難しくなるだろう。フィンランド銀行新興経済研究所の上級エコノミスト、ヘリ・シモラ氏の推計によると、昨年のロシアの経済成長の少なくとも40%は戦争関連の生産によって直接生み出されたものだ。これには給与や戦争関連の支払いの増加で生じた消費拡大の波及効果は含まれていない。
さらに、ウクライナで戦っているロシア兵の家族への支払いによって、ロシアの最も貧しい地域の幾つかでは経済状況が改善された。そうした刺激策をやめれば、国内消費が落ち込むとエコノミストらは指摘する。
英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の在ベルリン上級研究員マリア・シャギナ氏は「ロシア政府の問題は、経済全体が戦争の取り組みを支えるために動員されている中で戦争経済から民間経済へどうやって移行するかだ」と述べた。
シャギナ氏によると、ロシアは頭脳流出、技術力低下と景気停滞に見舞われている。このような状況で、「何が経済成長の新たな源になるのか」と同氏は付言した。
戦争のための支出と安定した石油輸出収入は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシア経済が崩壊するとの予想を覆すのに役立ってきた。2022年2月時点で大半のエコノミストは、ロシアが長く深刻なリセッション(景気後退)に陥ると予測していたが、公式統計によると、同国の国内総生産(GDP)伸び率は2022年に1.4%のマイナスにとどまり、2023年と2024年はいずれも4.1%のプラスとなった。
ドイツ国際安全保障研究所(SWP)のロシア専門家ジャニス・クルーゲ氏は「ロシア政府が経済の崩壊を避けたいのなら、戦争終結後も長期にわたって現行水準の支出を続ける必要がある。軍事支出が削られれば、国内の多くの地域で雇用が失われ、市民に幻滅感が広がるだろう」と述べる。
ロシア経済が戦争終結から利益を得るのも確かだ。一部の制裁が解除され、通商関係や企業の景況感が回復する可能性などがあるからだ。
一方で、戦争自体が経済問題を引き起こした面もある。ロシア中央銀行は、戦時の経済対策によるインフレ圧力に対抗するため、金利を過去最高水準に引き上げた。
ロシアはまた、ウクライナで大規模な戦力を喪失したことで、その回復のために防衛産業に資金を注入し続ける必要がある。このため戦争がどのように終結するとしても、景気は軟着陸する可能性があると述べるアナリストもいる。
ロシアの元中銀当局者で、現在はカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターの研究員を務めるアレクサンドラ・プロコペンコ氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「武器を補充する必要があるため、戦争終結後の数年間は軍事支出の水準が高く維持されるだろう」と指摘し、「和平合意は経済にとって新たなショックになるが、対応可能なショックだ」と話した。
しかし、平時に軍事支出を現在の水準に維持することは困難だろう。今年の連邦予算では、13兆5000億ルーブル(約1600億ドル=約24兆円)が国防費に割り当てられている。これはGDP比で6%を超え、ソ連時代の高水準に匹敵する。ロシアはウクライナ戦争の期間中一貫して財政赤字を抱えており、ウクライナ侵攻開始以降、ロシアの政府系ファンド(SWF)「国民福祉基金」の流動資産の3分の2が取り崩された。
キャピタル・エコノミクスは顧客向けメモの中で、支出水準の低下は短期的に景気減速をもたらすかもしれず、リセッションにつながる可能性さえあると分析した。
軍事生産への予算の集中は、民生部門がないがしろにされてきたことも意味する。軍事支出と国家安全保障支出は合わせて歳出の40%超を占め、医療、教育、社会政策への支出の合計を上回っている。
フィンランド銀行新興経済研究所は最近の報告書で、ロシアの経済指標は「軍産活動への重点の移行と、それに伴い長期的な消費者福祉や社会的セーフティーネットが犠牲になっていることを示している」と指摘した。
戦時経済への移行に時間と資金を費やしてきた企業は、平時に向けて再調整する時間も必要とするだろう。
ロシアの衣料ブランド、グロリア・ジーンズを展開する企業は最近、赤字の国内2工場を閉鎖することを決めた。同社は地元メディアに対し、従業員が最前線に赴くか、より高い給与を求めて転職することから、労働力の確保に苦労していると語った。先月には、グロリア・ジーンズの他の2工場が軍服を製造する企業に買収された。
戦争が長引くにつれて、軍事関連の製造業はロシア全土で工場やオフィススペースを押さえる動きを強めている。あるドローンメーカーは昨年、以前はITやエネルギー関連の企業が入居していたサンクトペテルブルクのビジネスセンターを丸ごと賃借した。
何十万人もが前線で戦死したり、国外に脱出したりしている中で、ロシアの産業には空洞化が起きており、プログラマーやエンジニア、溶接工、石油掘削工などあらゆる人材が不足している。和平合意後は労働力不足に対処する上で帰還兵がある程度の助けになるだろうが、エコノミストらは、特に高度な技能を要する職の人材補充には困難が伴うと予測している。戦闘員は学歴と所得が低い層から採用されていることが多く、必要な資格や能力が不足しているためだ。
エコノミストらが「デスノミクス(死の経済)」と呼ぶ現象の規模が縮小すれば、平時の経済にはさらなる足かせとなるだろう。ウィーン国際経済研究所のエコノミスト、ワシリー・アストロフ氏によると、兵士への高給、戦死者の遺族や負傷者への補償金などに支払われた金額の合計は、2024年半ば時点でロシアの国内総生産(GDP)比で1.5%に上っていた。
また、これらの金額は個人消費全体に対する比率は3%を超えるという。
アストロフ氏は「戦争関連の支出は昨年下半期にさらに増えており、ロシア経済に対するこれらの重要性は高まっている可能性が高い。つまり、この金額の削減は、個人消費とGDPの伸びに対するマイナスのショックを意味する」と述べた。
ロシア政府当局者は、米政府との関係が融和的になれば米国企業がこぞってロシアに戻ってくると予想しているが、和平が合意されてもそうした動きが現実のものになるとみるアナリストはほとんどいない。
IISSのシャギナ氏は、ロシアに再び投資するには、地政学や風評のリスクに加え、官僚主義や財産権の弱さといった慢性的な問題があるため、米国の投資家は慎重姿勢を取る公算が大きいと述べる。
和平合意の枠組みに関しては多くの部分が不透明だが、その詳細はロシア経済の今後の道筋を決める基盤になるだろう。恒久的な和平が合意され、最終的にはロシアが世界経済とのつながりの強化から利益を得るようになるとしても、この戦争はロシア経済の見通しに長期的な影響を及ぼすというのがアナリストらの見方だ。
キャピタル・エコノミクスは顧客向けメモの中で、「ロシアの長期的な成長見通しを改善するには、欧米諸国との関係だけでなく、ロシアの政治・ビジネス環境の根本的な転換が必要になる」とした上で、「今のところ、そのようなことは起こりそうにない」と指摘している。
先頃開催された中国の輸出業者向けの展示会で、特に人気を集めたイベントは、ロシアで商品の売れ行きを伸ばす方法を指南するセッションだった。
ロシアの電子商取引(EC)企業の従業員がオンラインショッピングに関するロシア消費者の傾向を説明し、何百人もの参加者が熱心に聴き入った。登壇者によると、あるプラットフォームでは常夜灯や香りつきキャンドル、知育玩具などが人気商品で、価格は安ければ安いほどよいのだという。聴衆はプレゼンテーションの様子を写真に撮り、QRコードを読み取って情報交換のためのチャットグループに参加した。
世界最大の消費者市場である米国にここ何十年も狙いを定めてきた中国輸出業界にとって、それは目を見張る光景だった。だがエスカレートする関税などで米政府から圧力を受ける中国の工場経営者は、存亡に関わる問題に直面している。米国への販売で利益を上げられなければ、一体どこに輸出すればよいのか。
中国製造業の中心地である深圳で年2回開催される「全球跨境電商展(世界越境EC展示会)」の登壇者たちは多くの答えを提示した。だがいずれも、米国の消費者を基盤にビジネスを構築してきた輸出業者を完全に安心させることはなかった。目に見えて不安が広がっていた。
「基本的には米国市場に代わるものはない」と、中国東部の輸出拠点である義烏に本社を置くクリスマスツリーメーカー、Union Tree(ユニオンツリー)のブースにいた販売マネジャーのマイク・ワンさん(37)は述べた。
約800社のメーカーが出展した同イベントは、輸出に意欲的な中国の工場と、バイヤーや貿易業者、ECプラットフォーム担当者をつなぐ場となることを目指している。今年のブースでは、電動工具からキッチン用品、双眼鏡、化粧品、宝飾品、テーブルクロスに至るまで、ありとあらゆるものが展示された。
一部の業者は、東南アジアや南米といった他の市場が米国市場の埋め合わせになることを期待していると述べた。カンボジアやベトナムなどに工場を移転し、米国の対中関税を回避する方法を検討中の企業もある。中間業者やコストを排除しながら、米消費者に直接販売する方法を依然として模索する企業もある。あと少し工夫すれば、利益を何とか確保できるのではないかと。
懸念されるのは、もしドナルド・トランプ米大統領が国内調達を増やすよう自国企業に迫るために関税を今後も引き上げ続けた場合、これらの選択肢がどれも十分機能しないかもしれないことだ。トランプ氏の関税で今のところ、中国製品のコストは20%上乗せされている。関税を支払うのは輸入業者だが、多くの米小売企業はコスト増を相殺するため、中国の納品業者に値下げを迫っている。その結果、ごく薄い利幅で経営している中国の工場の一部が脱落する可能性がある。
トランプ氏は4月2日に一連のいわゆる「相互関税」についても発表する予定だ。中国の工場経営者が関税回避のために拠点を作ることを検討している国々さえも、その標的になる可能性があり、移転先をどこにするのか判断しにくい状況となっている。
外国に販路を求める場合、米国に肩を並べる単一市場は他にない。中国の対ロシア輸出はウクライナ侵攻開始後に急増し、2023年は前年比47%増、24年は同4%増となったが、成長の余地は限られている。ロシアの人口は約1億4600万人と米国の半分に満たず、1人当たり所得ははるかに低く、経済はインフレなどの圧力に苦しんでいる。
すでにロシアは安い中国製品の流入に反発し始めている。一部の中国製品に関税を発動したほか、輸入車両のリサイクル費用を引き上げ、実質的に中国車の価格を上昇させている。
一方で、東南アジア市場は細分化している。国の数が多く、それぞれに異なる言語や文化、規制がある。中国国内での販売拡大も有望な選択肢ではない。巨大な市場ではあるものの、非常に競争が激しく、経済が低迷して消費の伸びが鈍化している。
クリスマスツリーを製造するユニオンツリーは、売上高の約半分を北米市場(主に米国)が占める。同社の製品は伝統的な深緑色のツリーの上に星形のオーナメントを載せたものやカラフルな電球が輝く赤いツリーなど、米国の家庭やオフィスに置かれたところを想像しやすいものだ。
ワンさんによると、今のところ関税の影響は大きくない。大口顧客は関税が課される前にすでに注文を済ませているためだ。
だが関税が今後もなくならなければ、痛みは避けがたい。ユニオンツリーの利益率は約5%~10%に過ぎず、トランプ氏の関税を吸収するにはあまりに薄利だという。
約150人の従業員がいる同社は、進むべき明確な道筋を見いだせていない。東南アジアなどに拠点を設ける方法は、部品の大半を中国から輸入する必要があるため、たとえ他の経費が比較的安くても、コストがかかり過ぎると考えている。
だが先行きを心配する参加者ばかりではない。高齢者向け移動車両の製造・販売を手がける台州市増輝車業(Taizhou Zenghui Auto)のオーエン・フーさんは、米国では関税対策の値上げが可能だと自信を見せた。競合他社の数が少ないことが背景にある。またこうした車両は米国の健康保険でカバーできる場合が多い、と彼は言う。
フーさんによると、現在約2300ドル(約34万5000円)で販売しているモデルを約2500ドルに値上げする予定だという。ただ、消費者がより安価なモデルに乗り換える一定のリスクがあることも認めた。
他の参加者の中には、米国市場へのアクセスが狭まることを、恋愛の終わりのように感じる人もいた。この関係は大勢の中国人を豊かにするのに役立ったが、今や修復不可能かもしれない。
別のクリスマス装飾品メーカー、恵州市鉅宝実業(Huizhou Cyberich Industrial)のブースで、営業担当のヤン・ジャンジュンさんは同社の売上高の約90%を米国市場が占めるとし、米小売り大手のウォルマートやターゲットなどの店舗で販売されていると述べた。だが彼は米国に対しうんざりした気持ちになりつつある。
「最初は米国と中国の単なる関税問題だと思っていた。だが今や問題の本質が変わり、中国を抑圧することが目的だと感じる」とヤンさんは言う。
顧客からの提案を受け、会社はカンボジアでの生産拡大を検討していると彼は述べた。一方で、東南アジアではコストが上昇し、一部地域では労働者のストライキが起こる可能性があることも理解していると言う。
また中間業者を排除し、利益率を改善することを目指し、ECプラットフォームへの出店も調査中だという。イベントではこれに焦点を当てた発表セッションにも出席したいとヤンさんは語った。
中国の工場経営者は負けん気が強く、商売を続けるためなら何でも試すだろう。「彼らを葬り去ることは不可能だ」と彼は言う。
世界の自動車産業が中国に支配されていない未来を思い描いていたとしたら、その夢には別れを告げるべきだろう。
なぜなら、トランプ米大統領が26日発表した輸入自動車に対する25%の関税措置は、電気自動車(EV)サプライチェーンのうち、中国がまだ支配していないわずか部分を破壊してしまうからだ。
この関税措置が発動すれば、最大の敗者となるのは日本と韓国だろう。両国の自動車は米国に輸入される自動車の3分の1を占めており、北米以外からの輸入車に限れば、その割合は3分の2に達する。日本と韓国はEVの開発にとっても極めて重要だ。両国の企業は昨年、世界のEVバッテリー全体の25%余りを生産し、中国がほぼ独占している市場に唯一対抗し得る存在になっている。一方で米国や欧州の企業は存在感が極めて薄い。今月に入ってスウェーデンのノースボルトが破産申請したことで、その傾向はさらに顕著になった。
製造業の雇用を米国に取り戻したいと考えているなら、このアジアの同盟国2カ国に打撃を与えるというのは奇妙なやり方だ。韓国は2023年、米国内のプロジェクトへの投資規模が215億ドルに上り、初めて最大の対米投資国となった。日本も過去数十年にわたって米国での投資を積み上げてきており、対米直接投資残高は2023年末時点で約7830億ドルと全体の約15%を占めた。
バイデン前米大統領が中国に依存しないクリーンエネルギーのサプライチェーン構築を推進したことによって、この関係は急速に加速していた。韓国のLGエナジーソリューション、サムスンSDI、SKオンの3社は、ミシガン州からジョージア州にかけて15カ所のEV用バッテリー工場を建設するため、計540億ドルの投資を約束している。リショアリング・イニシアチブによれば、2021年以降、米国への外国直接投資およびリショアリング(製造拠点の国内回帰)の約半分がEV電池関連だった。
ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、ステランティスの各社は、それぞれ韓国の3社のうちいずれかと提携してEVバッテリーの生産を進めている。一方、テスラは日本のパナソニックホールディングスと協力している。もし米国の自動車産業が、経営幹部たちの主張するような電動化された未来を目指すのであれば、これらアジアの企業の成功が不可欠だ。
新型コロナ禍とその後の混乱で明らかになったように、グローバルなサプライチェーンは極めて細い糸でつながっているにすぎない。今回の関税措置によって、トランプ氏はその繊細な糸の真ん中にモンスタートラックを突っ込ませたのだ。
韓国のバッテリーメーカーは、単に米国の自動車メーカー向けにカソードやアノードを製造しているわけではない。むしろ、輸出なしでは生き残りが難しい国内自動車産業と一体化している。現代自動車と起亜自動車は韓国よりも米国でより多くの利益を上げているが、両社の米国工場で組み立てられるのは、昨年に北米市場で販売した200万台のうちの3分の1程度にすぎない。
韓国と日本の自動車メーカーの利益が壊滅的な打撃を受ければ、そこから収益を得ているバッテリーメーカーも次に苦境に陥るだろう。これら企業の利益率は通常、良くても1桁台にとどまる。さらに、寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)など中国勢はコストパフォーマンスに優れ、EV業界で急速に普及しているリン酸鉄リチウムイオン(LFP)系バッテリーでもリードを広げつつある。BYDは先に、5分で充電可能なEVシステムを発表した。
思慮に欠ける貿易制限は、仕掛けた側に必ずと言っていいほど手痛いしっぺ返しをもたらすものだ。トランプ氏が2018年3月に導入した鉄鋼・アルミ関税は、その年の終わりには米国に毎月46億ドルの追加コストや税収損失を発生させていた。オバマ政権が2012年に中国の太陽光パネルメーカーに課した関税は、中国側の報復措置を招き、米国企業がかつて市場を支配していた太陽光パネルの重要原料ポリシリコンの米国内生産を壊滅させる事態を招いた。われわれは今、再び同じシナリオが繰り返されるのを目の当たりにしようとしている。
トランプ氏にとって、バイデン政権の看板政策だったクリーンエネルギー政策の残骸を叩き壊すことは、むしろ意図したものなのだろう。トランプ氏がホワイトハウスに返り咲いて最初に行った行政措置には、自動車メーカーに電動化を促すルールの撤廃、EV充電設備への資金供給停止、排ガス規制の緩和などが含まれていた。
アナリストや米自動車メーカーの株主は、短期的にはこの変化を歓迎するかもしれない。電動化に向けて今後も必要とされる数十億ドル規模の設備投資や研究開発を縮小すれば、今後約3年間は投資家により多くの資金が還元されるだろう。保護貿易主義は、短期的な利益を上げるにはうってつけの手段だ。
しかし、それは長期的な競争に勝つための道筋では決してない。現在、世界の自動車産業が電動化へと進む中で、米国とその同盟国は大きく後れを取っている。トランプ氏は、中国以外で構築された繊細なサプライチェーンのつながりを破壊することで、中国が自動車産業を支配する未来を自ら保証しているようなものだ。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場:**  
ドルは円とユーロに対して上昇したが、トランプ政権の関税措置を巡る不確実性から、四半期ベースでは2024年7月以来の大幅な下落となる見通し。円は対ドルで一時148.7円まで上昇したが、その後下落し、終盤では149.95円。ユーロ/ドルは1.0816ドルに下落。  
**債券市場:**  
10年国債利回りは序盤に低下したが、その後横ばい(4.255%)。トランプ大統領の「相互関税」の発表を控え、市場は慎重な姿勢を維持。  
**株式市場:**  
S&P500とダウは反発し、3月を上昇して終了。一方、AI投資への懸念からハイテク株は軟調で、ナスダックは続落。金融株が市場の上昇を牽引し、規制当局の承認期待でディスカバー・ファイナンシャルとキャピタル・ワンが大幅高。  
**金市場:**  
安全資産としての需要が高まり、金先物は続伸。6月物の清算値は1オンス=3,150.30ドルで、3営業日連続の最高値更新。  
**原油市場:**  
ロシアとイランの供給懸念を背景に、原油先物は反発。WTI5月物は1バレル=71.48ドルに上昇。
**ロンドン株式市場:**  
続落。トランプ米大統領の関税発言を受け、リスク回避の動きが強まった。FTSE100は月間で2.58%安だが、第1四半期では5.01%上昇。FTSE250は1.96%安。銅価格下落で鉱業株が3.71%安、旅行・娯楽株も3.35%下落。  
**欧州株式市場:**  
4営業日続落。トランプ政権の関税発言で景気減速懸念が強まり、STOXX600は月間で4.18%安。資源株が3.29%安と下落が目立つ。投資家の不安心理を示す指数(V2TX)は3週間ぶりの高水準。ゴールドマン・サックスは米国・ユーロ圏の成長率予想を引き下げ、FRBとECBの利下げ予想を増やした。  
**ユーロ圏債券市場:**  
ドイツ国債が買われ、安全資産需要が増加。10年債利回りは2.709%(5日以来の低水準)。ドイツの3月CPIは市場予想を下回り、ECBの追加利下げ期待が強まった。イタリアとフランスの国債利回りも低下。

備忘録(2025/3/28-30
●海外企業決算
●海外企業
●日本企業
米国では新車は既に高根の花になっているが、今後は手の届く価格の車を見つけるのがさらに難しくなりそうだ。
トランプ大統領が来週発動すると表明した自動車関税は業界全体のコストを押し上げ、店頭小売価格は数千ドル上昇する見通しだ。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、起亜自動車、現代自動車などの低価格モデルの多くは米国外で生産されているため、特に低価格帯の市場で顕著な影響が予想される。
一方、ホンダとトヨタ自動車の低価格モデルは消費者にとって掘り出し物となる可能性がある。約2万8000ドル(約420万円)のホンダ「シビック・ハッチバック」はインディアナ州で、エントリーレベル価格が約2万3000ドルのトヨタのコンパクトカー「カローラ」はミシシッピ州でそれぞれ生産されている。
調査会社コックス・オートモーティブのエグゼクティブアナリスト、エリン・キーティング氏は「購入者にとっては本当に難しい状況になるだろう。われわれが予想できるのは価格が上昇し、販売奨励策がなくなるということだけだ。一部の車種は姿を消すかもしれない」と語った。
新車は住宅とともにアメリカンドリームの対象の一つだが、米国の新車平均価格は5万ドルに迫っており、ますます手に届きにくくなっている。物価高で逼迫(ひっぱく)している家計に高金利が追い打ちをかけている。
コックスによると、市場に出ている3万ドル未満の20モデルのうち少なくとも半分が自動車関税で大きな打撃を受ける見込み。同社は直近の調査リポートで、カナダないしメキシコで組み立てられた車は平均で5855ドルのコスト増になると推定し、「その影響により手頃な価格の車の多くは米市場にとどまることができなくなる可能性が高い」と分析した。
トランプ氏は、関税によって自動車価格が上昇する可能性を認めているが、短期的に打撃を受けるとしても国内製造業が長期にわたって受ける恩恵によって相殺されると主張している。
JPモルガン・チェースのアナリスト、ライアン・ブリンクマン氏は調査リポートで、関税が消費者に全て転嫁された場合、米国の自動車価格は平均で11.4%上昇する可能性があると分析した。
米国では価格高騰により、新車を長年購入してきた人が中古車市場に流れており、さらなる値上げはこうした動きを加速させる可能性がある。
しかし、コックスのキーティング氏は中古車市場にも問題があると指摘。新型コロナウイルス禍で自動車生産が打撃を受けた結果、人気の高い1-3年落ちの中古車在庫が減少し、4-6年落ちのモデルの価格に上昇圧力がかかっていると説明した。
●先進国政治動向
欧州の首脳らは、JD・バンス米副大統領が欧州に対して敵意をむき出しにしているのは、米国内で支持を得るための単なる政治的パフォーマンスであることに期待していた。しかし、米政権高官のグループチャットでバンス氏が欧州を軽蔑したことを受け、当局者らは、欧州への嫌悪感が根深いように見える声高な副大統領の存在を受け入れざるを得なくなっている。
バンス氏は米国によるイエメンの親イラン武装組織フーシ派への攻撃計画に関して、「また欧州を助けるのが嫌なだけだ」と述べた。これらのやり取りは米誌アトランティックが公表した。バンス氏は米政権高官らに対し、紅海での船舶攻撃により世界の海運ルートを混乱させているフーシ派を攻撃することは「間違い」だと語った。
バンス氏は「米国の貿易の3%しかスエズ運河を通過しない。欧州は40%だ」と述べた。ピート・ヘグセス米国防長官はバンス氏のコメントに対し、「欧州のただ乗りを嫌う気持ちに完全に同意する。情けないことだ」と返答した。
バンス氏は米欧間の緊張を高める中心的な存在となっており、トランプ氏以上に欧州蔑視の姿勢を露骨に示している。2月には独ミュンヘンでの演説で欧州の民主主義を痛烈に批判し、欧州連合(EU)当局者らを「コミッサール(旧ソ連の人民委員)」と呼んだ。かつてウクライナを「私が気にしない国」と呼んだこともある。2月末には米大統領執務室で、トランプ氏と国際メディアが見守る中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を叱責(しっせき)した。
バンス氏に近い関係者らによると、同氏の姿勢は、米国の利益を念頭に置いて欧州を強化したいという願望から来ている。
米下院外交委員会の委員長を務め、バンス氏の友人でもあるブライアン・マスト下院議員(共和、フロリダ州)は「外から見ると悪く見えるかもしれないが、強くなるために必要な厳しい話し合いをしているのだ」と述べた。自身とバンス氏は、欧州が安全保障面で十分な役割を果たしていないことに「ある程度の不満」を持っているが、米政権からの圧力のおかげで欧州も役割を果たし始めた、と語った。「われわれが欧州に求めているのは、米国を必要としない欧州だ」
バンス氏の親しい友人で非公式アドバイザーのクリフ・シムズ氏はバンス氏について、「明確に考え抜かれ、完全に形成された世界観を持っている。それらは心からの信念だ。多くの欧州人が彼の発言に怒るが、その根底にあるものに反論できない」と述べた。
欧州の指導者の多くはバンス氏の軽蔑的な発言について沈黙を保っているが、一部は声を上げている。
フランス国民議会(下院)外交委員会の委員長のブルーノ・フックス委員長は、(欧州の)パートナーであるなら、バンス氏が抱いている以上の「敬意と配慮」を示すべきであり、それができないなら、米政権は「米国と欧州の歴史的関係が進化し、欧州はもはや米国の特権的なパートナーではない、と明確に表明すべきだ」と語った。
バンス氏は物議を醸すことを恐れていない。ホワイトハウスは23日、バンス氏のウシャ夫人と政権高官らが今週デンマーク自治領グリーンランドを訪問すると発表し、デンマーク人の怒りを買った。バンス氏は25日、自身も同行すると表明し、デンマーク人をさらに怒らせた。
バンス氏はXに投稿した動画で、「ウシャが28日にグリーンランドを訪れるという話が非常に盛り上がっていたので、彼女だけを楽しませるわけにはいかないと思った」と述べた。ホワイトハウスはその後、訪問はグリーンランドの米軍基地のみになると発表した。
元上院議員でイエール大学法科大学院卒のバンス氏は、欧州の経済・軍事データを具体的に挙げて、欧州のパフォーマンスがいかに低く、米国にいかに依存しているかを示す。それに加えて、欧州はロシアよりも「内なる脅威」ーー言論の自由などの基本的価値観からの後退、と同氏が表現したものーーによって危険にさらされている、といった強硬な見解を述べる。
欧州人は長年、官僚主義や短い労働時間、弱い軍事力など、さまざまな問題で米国から嘲笑や批判を受けてきたが、バンス氏の敵意むき出しの発言は、このような高官からの発言としては前例のないものだ。
米欧関係を重視する米国と欧州の人々の間では、バンス氏の見解がホワイトハウスの政策立案で影響力を持つようになれば、米国の最も深く価値のある国際関係が深刻な打撃を被る恐れがある、との懸念が高まっている。
ベンチャー投資家として5年間過ごし、サンフランシスコのベイエリアのテック起業家とも仕事をしたバンス氏の欧州観は、テック業界の他のトランプ派指導者のそれを彷彿(ほうふつ)とさせる。その中でも目立つのは、現在政権高官となっているイーロン・マスク氏だ。マスク氏はバンス氏と同様、自身にとっては「自由な言論」に過ぎない意見を罰することや移民に門戸を開いていることについて、欧州を批判している。
今のところ、バンス氏はトランプ氏の取り巻きの一派の中で最も大きな声を上げている。バンス氏がトランプ氏に対してどれだけの影響力を持っているかは不明だが、トランプ氏には周囲の人間を互いに対立させる傾向がある。
最近までリトアニアの外相を務めていたガブリエリウス・ランズベルギス氏によると、第1次トランプ政権では、トランプ氏周辺の人々は平静を保つよう努めていた。今では側近たちが不安定さをあおっているように見えるという。
欧州への関与を減らすことを支持する、バンス氏などの当局者は、「トランプ氏を大砲として使い、米欧をつなぐ橋を破壊しようとしている」とランズベルギス氏は言う。「もしこれがイデオロギー的なものであれば、われわれ全員が欧州における『ポスト米国』の世界に備える必要がある」
トランプ氏も欧州に対して優しくはなかった。米国の支援にただ乗りしていると欧州を批判し、欧州製品に関税をかけた。北大西洋条約機構(NATO)からの米国脱退もちらつかせている。それでも欧州の当局者らは、トランプ氏と何らかの取引的な合意を目指せると信じていた。
バンス氏のアプローチは、欧州の民主主義の仕組みに対する根本的な嫌悪感に動機づけられているように見えるため、欧州人は困惑している。多くの欧州当局者は、非公式な会話ではバンス氏を友好的で協力的、前向きだと感じているだけに、公の場で欧州に敵対心を示すバンス氏の姿に戸惑いは大きくなるばかりだ。数年前に初めてバンス氏に会った欧州高官の1人は、ウクライナなどの問題について同氏と意見の相違はあっても、有意義な会話はできたと述べた。
欧州人が初めてバンス氏の敵意を理解したのは、2月のミュンヘン安全保障会議での演説だった。同氏はその際、西洋の価値観を放棄したとして欧州を痛烈に批判した。
米シンクタンク、欧州政策分析センターのアリナ・ポリャコワ所長は会場でバンス氏の演説を聴いた後、「憎しみがにじみ出ている感じがした」と述べた。欧州にとっては、政治を契約交渉のようなものと見なし感情をあまり入れないトランプ氏のアプローチよりも、バンス氏のアプローチの方がはるかに危険だという。
「バンス氏は欧州を感情的に嫌っている。それを打ち破るのは難しい」とポリャコワ氏は述べた。
トランプ政権が発足した際、欧州の首脳らは、ここ数年で多くの人が会ったことのあるベストセラー作家のバンス氏と協力できると期待していた。トランプ氏の就任数日後、2月中旬のミュンヘン安保会議の前に、ドイツの中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」を率いるフリードリヒ・メルツ氏は、このイベントで予定されていたバンス氏との対話について期待感を示していた。
メルツ氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、「彼に会うのを楽しみにしている」とし、「5~6年前に彼の本を読んだ。その著者がやがて米国の副大統領として自分と対面することになるとは想像もしなかった」と語った。メルツ氏はその後、ドイツ総選挙で勝利し、次期首相に就任する見通しとなった。
メルツ氏に近い当局者はミュンヘン安保会議の後、多くの人が困惑していたと述べた。バンス氏の演説は、欧州の主流政党が極右勢力を政権入りさせないことを非難し、そうした状況が続けば欧州は米国の軍事的保護を失う可能性があるとほのめかしていた。
しかしこの当局者によると、メルツ氏との非公式会談では、バンス氏の支持する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」との連立をメルツ氏が断固として拒否したにもかかわらず、バンス氏は終始笑顔だった。
ドナルド・トランプ米大統領が自国の関税を、他のすべての国に関税を引き下げさせるための交渉手段と見なしているという見方は、もはや通用しない。この考えは常に非現実的だった。トランプ氏が26日、米国に輸入されるすべての乗用車とトラックに25%の関税を課す大統領令を出したことで、この幻想は消えた。トランプ氏は関税自体を望んでいるのだから、それに慣れるしかない。
トランプ大統領は関税の発表に際し、「わが国でビジネスをし、われわれの雇用を奪い、われわれの富を奪っている国々に対価を請求するつもりだ」と述べた。誰も米国人の昼食を盗んでいないし、貿易は双方にとって有益になり得るということを、彼に納得させようとしても無駄である。だが読者は、近いうちに自分の車の価格が上がり、おまけに選択肢が減りそうだということを知っておくべきだ。
トランプ氏は1962年通商拡大法232条に基づく「国家安全保障上の」脅威があるとして、自身が課した自動車関税を正当化している。トランプ氏が2019年にこの策略を試みた際にわれわれが論説で書いたように、彼はトヨタ車による攻撃を恐れているように見える。
米国にとっての「国際的脅威」であるカナダとメキシコは、米国の自動車輸入の約半分を占めている。残りのほとんどは、韓国・日本・欧州といった米国の同盟・友好国から輸入されている。米国で販売されるすべての自動車が国産でなければならない場合よりも、輸入車がある方が、米国民により多くの選択肢がより低価格で与えられる。そのため米国民は、数十年前に比べてより多くの、より良い車を買えるようになった。これはいったい誰にとっての安全保障上の脅威なのだろうか。
トランプ氏は大統領令の中で、「米国で販売される自動車のうち、国産車は約半分しかない。こうした国産車の減少が国内の産業基盤と国家安全保障を危険にさらす」と嘆いた。米国産車の販売台数は新型コロナウイルス流行前よりも減少しているが、それはインフレによって多くの車が中間層にとって手が届かないものになったからだ。
ウェドブッシュ証券によると、関税によって自動車価格はさらに上昇し、1台当たり最大1万ドル(約150万円)も値上がりするとみられている。これにより販売台数は減少し、国内の自動車ディーラーや自動車業界の労働者は打撃を受けるだろう。最も打撃を受けるのは、国内での販売の比率が比較的高い米自動車メーカーだ。利益率の縮小により、自動車業界の労働者に分配される利益も少なくなるだろう。
ゼネラル・モーターズ(GM)の株価が27日に7.4%安となった理由の一つがこれだ。例外はテスラで、同社は米国で販売する車を国内で生産している。これで、政府の後押しによってテスラが競合他社に対して持つ優位性がまた一つ増える。
トランプ氏は1期目に、自動車関税が及ぼすこうした打撃について警告を受け、実施を見送った。その代わりに、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を交渉によって取りまとめた。USMCAには米国内の自動車生産を増やすための条項が含まれている。一例は、自動車部品・部材の少なくとも45%を、時給16ドル以上の労働者が製造したものにすることを義務付けるものだ。
今や、トランプ氏の関税はUSMCAやその他の貿易協定の破棄を目的としているように見える。トランプ政権はUSMCAの再交渉を計画していると述べているが、トランプ氏が気まぐれで約束を破棄できるなら、カナダやメキシコが再交渉に応じる理由はあるだろうか。一方で、他の米国企業は貿易相手国から報復関税を課されることが不可避であり、罪のない傍観者のように打ちのめされるだろう。
トランプ氏のアドバイザーや友人の一部は、同氏が関税を公平にしたいだけだとの主張を広めてきた。しかし世界銀行によれば、米国が輸入品に課している関税率の平均(2.7%)は、カナダ(1.8%)、日本(2%)、欧州(2%)のそれを上回っており、メキシコとほぼ同等だ。他国は非関税障壁を設けているが、それは米国も同じだ。
米投資銀行パイパー・サンドラーのアンディー・ラペリエ氏は、トランプ氏の自動車関税に対中関税、鉄鋼・アルミニウム関税を加えると、米国の実行関税率が約8%に上昇し、75年ぶりの高水準になると推測している。下に掲載した米シンクタンク「タックス・ファンデーション」のデータを参照してほしい。しかもこれは、来週発表予定の、トランプ氏がかねて主張してきた「相互」関税が課される前の話だ。それは全く相互的にはならないだろう。トランプ氏は今週、関税率が自身の判断次第になるだろうと述べた。つまり、大統領の思い付きでいつでも変わる可能性があるということだ。
トランプ氏は26日、自動車関税が恒久的なものなのか問われた際に「100%そうだ」と答えた。また適用除外はないとしている(ただし、外国製自動車に使われる米国製部品については、米国の部品メーカーに打撃を与えないために、少なくとも当面は関税が免除される)。トランプ氏は、米国で販売されるすべての車が国内で製造されることを望んでいる。その台数は年間1600万台に上る。たとえこの目標に経済的合理性があるとしても、その実現には長い年月と何千億ドルもの新規投資が必要になるだろう。
自動車メーカーはこれまで、米国の中間層にとって手頃な値段の車をつくるために、効率的なサプライチェーン(供給網)の構築に何十億ドルも投資してきた。各社は何千億ドルもの追加投資を迫られることになるが、その資金はもっと生産的な目的に投じることもできたはずだ。こうした弊害はすべて、トランプ氏が「輸入代替」という幻想に基づく経済開発モデルを信じていることから生じている。インドが過去数十年間にわたり貧しい国であり続けているのは、この経済モデルのせいだ。
ジョー・バイデン前大統領は、独自のビジョンによる産業政策によって米経済を変革しようとした。トランプ氏も自身の工業化ビジョンによる経済改革を目指している。トランプ氏は、自ら導入した関税の打撃が自身の主導する規制緩和と税制措置によって相殺されるのを期待するしかないだろう。それがかなわなければ、バイデン氏と同じ運命をたどりかねない。
ピート・ヘグセス米国防長官は初のアジア公式訪問で心強いメッセージを発信した。中国の強硬姿勢や北朝鮮のミサイル実験などさまざまな課題に直面するアジアの同盟国に対し、トランプ政権は同盟国の安全保障に尽力すると伝えた。
ヘグセス氏はハワイと米領グアムに立ち寄った後、28日にフィリピンを訪問。中国を抑止するという米国の決意を反映した訪問だと位置付けた。
ヘグセス氏は首都マニラでフィリピン国防相と共同記者会見を開き、「トランプ政権は世界のこの地域を優先し、前例のない形で重視していく」と表明した。アジアの利益を守るという米国の決意を疑うべきではないと付け加えた。
インド太平洋諸国との連携を強調するヘグセス氏の姿勢は、欧州の同盟国が防衛面で米国に依存し過ぎていると非難した2月の欧州訪問時とは一線を画した。
ヘグセス氏はこの日、フィリピンで来月実施する米比両軍の年次合同演習に、対艦ミサイルシステムを含む米国の軍事装備を追加導入すると約束した。フィリピンは米比相互防衛条約を結んでおり、南シナ海の中国との係争海域では両国の船舶が衝突を繰り返している。
インド太平洋地域では、対米関係の行方に不透明感が広がっている。日本、韓国、台湾といった主要同盟国・地域は巨額の対米貿易黒字を上げている。鉄鋼、アルミニウム、自動車に追加関税を課すというドナルド・トランプ米大統領の政策は、そうした輸出主導型経済の打撃になる。
ドナルド・トランプ米大統領が国内トップの自動車メーカー最高経営責任者(CEO)らに対し、関税を理由に自動車価格を引き上げないよう警告していたことが分かった。
事情に詳しい関係者らによれば、トランプ氏はCEOらとの電話会談で、値上げが実施されればホワイトハウスはこれを好ましくないと受け止めるだろうと述べ、このため、一部の幹部らは動揺し、値上げによって制裁の対象となることを懸念している。
トランプ氏はジョー・バイデン前大統領が電気自動車(EV)義務化を打ち出したと述べ、これを自身の政権が撤廃したことに感謝すべきだとも言及。バイデン氏はEV生産を促すために補助金や排出規制を行っていた。
電話会談に参加した2人によると、トランプ氏は関税が実際には自動車メーカーの利益になるとの説明を長々と行い、製造業を米国に呼び戻し、歴代大統領よりも自動車業界にとって良い政策を打ち出していると主張した。
関係者の1人によると、トランプ氏は関税が「素晴らしい」ものになるとも述べた。
トランプ氏は26日、4月2日から輸入車と部品に25%の関税を課すと発表。この措置により、米国の自動車メーカーはほぼ確実に顧客向けの価格を引き上げざるを得なくなる。ほとんどの自動車メーカーは米国内で組み立てる車を含め、他国からの部品や材料に依存している。
特にデトロイトの自動車メーカーやサプライヤーはすでに、関税に直面すれば価格を引き上げる以外に選択肢はないと明言している。トランプ氏は関税戦略の柱として、工場の米国回帰を目指しているが、自動車メーカーがこれを実現するには何年もかかる可能性がある。
自動車部品サプライヤーの米リアのレイ・スコットCEOは、「関税はどのレベルであれ、相殺したり吸収したりすることはできない」と25日の従業員向け電子メールで指摘。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認したメールでは、「その影響を緩和するには、業界全体の包括的アプローチが必要になるだろう」とも述べている。
各自動車ディーラーは現在、2~3カ月分の新車在庫を抱えており、関税の影響は5月まで顕在化しない可能性がある。モルガン・スタンレーのアナリストはその時点で、関税を相殺するために車両価格が11%~12%上昇する可能性があると27日に述べた。
自動車メーカーが価格を引き上げた場合、トランプ政権がどのような対応を取ることができるかは不明。トランプ氏は好ましくない法律事務所を大統領令で標的にしている。また、自動車メーカーは重要な承認を連邦規制当局から得る必要がある。
トランプ米大統領は28日、米国の関税を回避しようとする国々と協定を結ぶことに前向きだが、4月2日の相互関税発表後に交渉する必要があると述べた。大統領専用機内で記者団に答えた。
また、製薬業界を対象にした関税も近く発表すると語ったが、時期や税率については明言を避けた。
トランプ氏は英国を含む国々が相互関税を回避するための取引を打診していると発言。「彼らは取引を望んでいる。われわれが何かを得ることができれば可能だ」とし、協議に前向きな姿勢を示した。
ただ、そうした取引は4月2日の発表より「おそらく後だろう。それがプロセスだ」と語った。
バンス米副大統領は28日、トランプ大統領が「購入」に関心を示すデンマーク自治領グリーンランドを訪問した。
到着後、バンス副大統領はビドフィク米宇宙軍基地を訪れ、「ご存じの通り、トランプ大統領は北極圏の安全保障に非常に関心を持っており、今後数十年でその関心はますます高まる」と語った。
デンマークはグリーンランドを中国やロシアの侵略から守る上で十分な仕事をしていないと非難するとともに、グリーンランドの主権を尊重すると誓い、住民に米国との協力を求めた。
米国はグリーンランドの地上での米軍のプレゼンスを当面拡大する計画はないが、ロシアや中国などが北極海航路や鉱物資源に「並外れた関心」を示す中、米国は海軍艦艇や軍用砕氷船などにより多くの資源を投入すると述べた。
トランプ氏の「購入」意欲については詳細を語らなかった。
気温マイナス19度の中、「ここはめちゃくちゃ寒い。誰も教えてくれなかった」と述べ、周囲の笑いを誘う場面もあった。
トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し、「われわれにはグリーンランドが必要だ。国際安全保障のために、グリーンランドを有する必要がある」と改めて表明。近辺の水域には「中国やロシアの船舶が至る所にいる。われわれはデンマークや他国にその状況の管理を任せておくことはできない」と述べた。
トランプ米大統領の規制凍結により、収益性の高い米国漁業の多くに混乱と不確実性が広がっている。東海岸でのタラやハドックを獲る漁船団の漁期開始の遅れが懸念され、大西洋クロマグロ漁でも乱獲が起きている。漁業団体や連邦政府当局者へのロイターの取材で明らかになった。
米国漁業の規模は3200億ドル(約48兆円)。沿岸漁業を管理しているのは、連邦政府機関である米国海洋大気庁(NOAA)だ。1976年制定の法律に基づき、NOAAの海洋漁業局は、連邦政府所属の科学者や各地の漁業従事者との協議を通じて、45カ所の漁種について管理計画を策定し、漁獲割当量と漁期の開始・終了時期を決定している。
ロイターの取材によれば、トランプ大統領が1月20日に60日間の規制凍結を宣言したため、複数の漁種においてこのプロセスが中断し、重要な会合が延期され、新たなルールの発表をめぐって混乱が生じたという。
マサチューセッツ州選出の連邦議会議員、漁業団体、連邦政府職員によれば、規制凍結はノースカロライナ沖漁場での大西洋クロマグロの乱獲に道を開いてしまった。今年の夏、クロマグロがさらに北上しても、ニューヨーク州とニューイングランドの漁業従事者にとっては漁獲枠が減らされる恐れがあるという。「協会内外で大混乱だ」と語るのは、メーン州沿岸漁業協会のベン・マーテンス事務局長。「漁師からは、これからどうなるのかという問い合わせの電話がひっきりなしにかかってくる」
解雇されたNOAA上級職員の1人によれば、先月には、漁業関連の業務を担うNOAAの試用職員の約5%に当たる163人が解雇された。事務方スタッフ、魚類学者、漁業管理専門家などが含まれる。こうした職員は、資源の健全性監視や年間漁獲量に関する規制の協議といった規制プロセスに関わっていた。
NOAAの広報担当者レイチェル・ヘイガー氏は、メールで、規制凍結に関する大統領覚書に従っていると述べたが、運営や人事面の問題についてはコメントを控えた。一方、ホワイトハウスからの返答は得られていない。
規制凍結が解除され新たなルールが発表されたとしても、漁期の遅れにより、特に回遊魚を対象とする漁師や小型漁船で操業する漁師に影響が及ぶ可能性がある。
<「死活問題」>
「出漁機会が減少したり時期がずれ込んだりすれば、漁業にとっては死活問題だ」と語るのは、全米の商業漁業従事者や団体にアドバイスを提供するコンサルタント会社ホマラス・ストラテジーズのノア・オッペンハイム代表だ。
ロイターは、アラスカから大西洋にかけての漁期規制の遅れや人員削減による影響について、2つの業界団体とNOAAの13人の職員に取材した。
解雇されたNOAA職員のうち12人は、裁判所命令により3月17日に復職したが、休職処分のままだ。トランプ政権は、すべての連邦機関に対してさらなる人員削減計画を提出するよう指示している。
規制凍結が漁期に及ぼす影響や、NOAAの水産業担当部門における人員削減の範囲については、これまで報道されていなかった。米国で商業漁業で生計を立てている漁師は3万9000人。NOAAの事例は、現在進められている連邦政府の規制の凍結や人員削減が、米国経済に実際にどのような影響を及ぼすのかを示す例の一つだ。
マサチューセッツ州選出のビル・キーティング民主党下院議員がNOAAに送った2通の書簡によると、今月、中部大西洋でクロマグロが漁獲量を超過したのは、1月中旬に漁獲割当量に到達した後もNOAAが漁期終了の規制を発動しなかったためだという。
キーティング議員の事務所によれば、NOAAの議会連絡担当者に連絡したが、担当者は解雇さて連絡がつかず、暫定的な管理者にも連絡を入れたが回答がなかったという。
クロマグロの漁獲割当量の125%相当量が水揚げされた後、NOAAは2月28日にようやく中部大西洋での漁期終了を宣言した。だがニューヨーク州でクロマグロ漁に従事するジョン・マクマリー氏は、同州の漁場で漁期が始まる6月頃に、この希少種がどれだけ獲れるかは確信が持てないと述べている。
「ニューヨークやニューイングランドの私たちにしわ寄せがくるのは間違いないだろう」
第1期トランプ政権では漁業と狩猟は規制凍結の対象外とされたが、現政権のもとではそうした例外は発表されていない。
ホワイトハウスは、規制緩和がインフレ抑制と雇用成長を促進すると主張している。
<「魚を獲れなければ仕事はない」>
1990年からロードアイランド州沖でイカなどを獲る商業漁業に携わってきたジョン・エインズワース氏は、漁業に対する無秩序なアプローチが水産資源を壊滅させるのではないかと懸念している。
「イカ漁を担当する連邦機関の当局者は解雇されるらしいが、彼らなしに漁期の開始をどう知ればいいのか、漁獲割当量の残りがどれぐらいあるかいつ分かるのか」とエインズワース氏は憤る。
ニューイングランド漁業管理協議会によると、規制プロセスの遅れにより、ニューイングランド州の一部漁場では漁期の開始が遅れる見込みだという。
メーン州沿岸漁業協会のマーテンス氏によれば、タラやハドック、ヒラメを含む北東部の4100万ドル規模の底引き漁業は、NOAAや商務長官が緊急措置を取らない限り、通例の5月1日の開業に間に合わないと述べた。4億ドル規模のニューイングランドのホタテ産業は、4月1日から一部でしか操業を開始できない。新しい規制の発表は4月下旬までかかる可能性があると、マーテンス氏は指摘する。
アラスカ延縄漁業協会のリンダ・ベンケン事務局長は、解禁が遅れれば漁期が短縮され、漁船乗組員の仕事も減り、市場に出荷される魚も減ってしまうと懸念する。
「魚を獲れなければ仕事がなくなってしまう」
アラスカのクロダラ(またはギンダラ)とオヒョウの漁業は、3月20日に予定通り開業できた。アラスカ州のリサ・マカウスキ共和党上院議員のXの投稿によれば、これは議員がラトニック商務長官と直接話した後に決まったという。NOAAのスタッフは、予定通り漁場を開けるために週末を通して働いたとベンケン氏は語った。
NOAA職員の1人は、規制凍結に伴い、漁業管理協議会の会合が中止されたため、太平洋沿岸のサケ漁シーズンに向けた準備も遅れているという。
魚類生態学者のレベッカ・ハワード氏は、貝類やスケトウダラ、タラなど底引き漁の対象となる種について個体数調査の準備を進めていたが、2月27日にアラスカ水産科学センターから解雇されてしまった。こうした調査データは、漁獲量が持続可能な範囲に収まるよう魚やカニの漁獲割当量を設定するために活用される。
こうした資源量評価は、クリストファー・ウィリ氏をはじめとする漁師にとっては不可欠だ。漁師による自主規制は難しいとウィリ氏は言う。
ロードアイランド州沖のブロック島でチャーター漁船のガイド業やレストランを営むウィリ氏は、「漁獲量を規制するには連邦政府が必要だ」と語る。「NOAAの資源量評価に基づいて漁獲割当量を維持・規制・監視しなければ、無法状態になり、既存の資源は枯渇してしまうだろう」
トランプ米大統領は29日、輸入車への関税で国内の自動車価格が上がっても「一向に構わない」と語り、むしろ値上がりは望ましいとの考えを示した。
トランプ氏は来月3日以降、米国へ輸入される自動車や部品に25%の関税を課すと発表している。27日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、トランプ氏が今月、自動車メーカーの最高経営責任者(CEO)らとの電話協議で、関税を理由に値上げした場合はさらに高い関税を課すことを警告したと伝えた。
しかしトランプ氏は米NBCニュースとの電話インタビューで、この件についての質問に「そんなことは決して言っていない」「値上げしても一向に構わない」と答えた。さらに、関税が価格上昇につながればいいとの考えを示し、そうすればメーカーが米国内で車両や部品を生産し、消費者は国産車を買うようになると語った。
メーカーCEOらとの協議で伝えたのは、生産拠点を米国内に戻すよう促すメッセージだとも主張。「メッセージはこうだ。おめでとう、米国内で車を生産する皆さんは大きな収益を上げるだろう。そうでない場合は米国に移す必要がある。国内で生産すれば関税はないからだ」と述べた。
生産拠点の移転には膨大なコストと時間がかかるため、メーカー各社は今のところ慎重な姿勢を示している。トランプ氏が現在の方針を長期にわたって維持するかどうかを疑問視する声もある。だが同氏はこの点について、関税は「もちろん恒久的」だと強調した。ただしその後、「相手が何か大きな価値のあるものをくれるなら」、関税引き下げの交渉に応じるとも語った。
●先進国中銀、金融当局
米国が4月2日に相互関税を発動する見込みであることに加え、3月のフランスとスペインのインフレ率が予想を下回ったことを受け、28日の短期金融市場で欧州中央銀行(ECB)が4月に利下げに踏み切るとの観測が強まった。
ECBが4月に25ベーシスポイント(bp)の利下げを実施する確率は80%となり、1週間前の約50%から上昇した。預金ファシリティー金利も1.9%に低下すると予想されている。27日終盤は1.95%だった。
コメルツ銀行のストラテジスト、クリストフ・リーガー氏は、米国の関税が金融政策に与える影響について、「ECBは貿易摩擦激化による下振れリスクが現実味を帯びてきたと判断する可能性が高い」と分析した。
ユーロ圏の指標となる10年物独連邦債利回りは一時6bp低下し2.708%、3月5日以来の低水準となった。
欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのナーゲル独連邦銀行(中銀)総裁は28日、ユーロ圏諸国でみられる足元のインフレ率データに勇気づけられているとの認識を示した。同時に、ECBがインフレ2%目標への回帰に取り組む中、過度の楽観論には注意が必要との見方を示した。
ナーゲル氏はフランクフルトでのイベントで、「(インフレ対策の)ラストマイルは慎重さを要する区間でもある」と指摘。
その上で、目標が手の届くところにあると、過度の楽観主義に陥る傾向がよく見られるとし「こうした見方に警告を発したい」と警戒感を示した。
●先進国経済指標
ドイツ連邦雇用庁が28日発表した3月の失業者数(季節調整済み)は前月比2万6000人増の292万人と、昨年10月以降で最大の増加を記録した。
長期的な労働力不足にもかかわらず、景気低迷が労働市場の重しとなった。
ロイターがまとめた市場予想は1万人増だった。
失業率(季節調整済み)は前月の6.2%から6.3%に悪化。ロイターがまとめた市場予想をわずかに上回った。
連邦雇用庁のナーレス長官は「労働市場の『春の回復』は例年3月に始まるが、今年は景気低迷で労働市場の回復が著しく遅れている」と述べた。
ドイツ経済は昨年まで2年連続でマイナス成長を記録。産業の低迷と構造的な逆風が続いている。
3月の求人件数は64万3000件で、前年同月を6万4000件下回った。労働需要の鈍化が浮き彫りになった。
同国では自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)などが需要低迷を理由に人員削減を実施。トランプ米大統領は26日、輸入車に25%の関税を課すと発表した。
ムーディーズ・アナリティクスの経済調査ディレクター、ガウラブ・ガングリー氏は、ドイツが直接的なターゲットになっていると指摘。「この政策が続けば、自動車部門だけでなく、他の部門でも消費者信頼感や雇用に深刻な影響が及ぶ」と述べた。
●金融市場、先進国トピックス
(サマリー)貿易摩擦と関税導入の高まりの中、「相対的に短期的には、欧州は米国ほど影響を受けないだろう」とサンタンデールのアナ・ボティン氏はCNBCに語った。
関税が米国に与える悪影響について警告しているのはボティン氏だけではない。多くのアナリストも、関税は最終的にインフレ率の上昇を引き起こし、米国消費者の財布に負担をかける可能性があると指摘している。
ボティン氏は、最近の予測不能な状況により、欧州中央銀行の次の金融政策措置が不透明になっていると述べた。「金利が下がる可能性はあるが、おそらくそれほど急速ではないだろう」と同氏は述べた。
ドナルド・トランプ米大統領が登壇し「米国の黄金時代が正式に始まった」と宣言すると、熱狂的な拍手が沸き起こり、無数の携帯電話が同氏に向けられた。
就任から1カ月後のマイアミでは、サウジアラビアが支援する投資家向け説明会が楽観的な雰囲気に満ちていた。トランプ氏は経済指標を列挙し、「ナスダックはわずか数カ月で10%近く上昇した」「ダウ工業株30種平均は2200ドル上昇した」などと述べた。この日(2月19日)S&P500種指数は過去最高値を更新した。
だが、トランプ氏が主要貿易相手国と矢継ぎ早に関税合戦を繰り広げると、それも帳消しになった。S&P500種はわずか数週間で4兆ドル(約601兆5200億円)目減りした。めまぐるしく変わるトランプ氏の通商政策や、人工知能(AI)ブームを巡る楽観論の後退、物価上昇と成長鈍化への懸念による消費者心理の悪化が要因だった。全米産業審議会(コンファレンスボード)が3月25日に発表した同月の消費者信頼感指数は4カ月連続の低下となり、2021年1月以来の低水準となった。
株価はその後やや持ち直したものの、トランプ氏が放った次のショックが待ち構えている。米国製品に関税などの貿易障壁を課している貿易相手国に対し、4月2日の「解放の日」から相互関税を適用すると述べた。
場当たり的のように見えるやり方に不安を抱く企業経営者やロビイストからは、詳細を尋ねる電話がトランプ氏のチームに殺到している。政権関係者が明らかにした。ホワイトハウスは企業の懸念に耳を傾けていると話す関係者もいる。ただ、より穏健で的を絞ったやり方を求める声にトランプ氏が従うかどうかは分からないという。
また、トランプ氏が昨年の大統領選挙では話題になっていなかったカナダに敵意を向けたことは、投資家にとって想定外だった。その後トランプ氏とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の会談が激しい口論に発展すると、世界の市場に動揺が広がった。
これを受け、ドイツはかつては考えられなかった1兆ユーロ(約162兆円)を国防費に充てる財政支出を瞬く間に承認した。これでドイツ国債の利回りが上昇したため、欧州から見た米国債の妙味が薄れる可能性がある。
コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツのグローバル金利ストラテジスト、エド・アルフセイニ氏は、昨年末には非常に成長志向の政策が明確な方法で実施されるとの大きな期待があったが、全て逆方向に行ったと述べた。
トランプ氏は選挙運動で関税導入を繰り返し称賛し、「辞書の中で最も美しい言葉」と呼んだ。だがウォール街の投資家や大手企業は、同氏が最終的には発言のトーンを和らげ、成長促進に重点を置き、関税は中国に対象を絞って重要産業を支援する1期目に近い政策になると考えていた。
トランプ氏の減税と規制緩和を歓迎していた経営者らは現在、悲観を強めている。だが政権から批判されるのを恐れ、多くは発言を控えている。
米連邦準備制度理事会(FRB)当局者は、物価上昇圧力が幅広く緩和したことで自信を強めていた昨年とは一転、今年は関税が物価を押し上げ、成長が鈍化すると予想している。
悪いニュースには見向きもしないことで知られるトランプ氏でさえ、景気後退入りの可能性を否定していない。これまでの貿易体制を覆して国内製造業を再興するための過渡期だとし、FOXニュースに対し「どんなことも起こり得る」と述べていた。
政府関係者は、トランプ氏は選挙公約を実行しているだけで、相場が変動するのはいつものことだと指摘。関税を巡るカナダやメキシコとのやりとりは、国家安全保障や移民問題、合成麻薬「フェンタニル」対策とつながっていると説明した。安定している失業率や大幅増となった住宅着工件数などを挙げ、好調な経済指標もあると述べた。
米大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長はインタビューで、「ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)はかなり良好だ」と述べた。トランプ氏の減税と規制緩和政策の成果が出始めるとの見方を示し、関税は効果があると主張した。「われわれは米国史上最高かつ最強の経済と大統領の黄金時代をつくり出すことに注力している。それにはもう少し時間がかかる」
「100年を視野に入れる」
トランプ氏はすでに中国からの輸入品に20%、既存の貿易協定の対象外であるメキシコとカナダからの輸入品に25%、鉄鋼・アルミニウムに25%の関税を課している。銅と木材への追加関税も計画している。
トランプ氏が引き継いだ経済は、成長は堅調ながら住宅セクターの冷え込みや労働市場の軟化、割高な株価、数年にわたる物価高の影響といったぜい弱性を抱えていた。投資家は年初の時点では、新政権が成長加速に注力するとの思惑から、こうした難点を気に留めていなかった。
新政権が発足後すぐにカナダ、メキシコ、コロンビアへの関税措置を一時的に見送ったことで、トランプ氏にとって関税は譲歩を引き出すための脅しにすぎないとの誤った安心感が広がった。マイク・ペンス元副大統領の顧問を長く務めているマーク・ショート氏はそう述べる。
トランプ氏がマイアミで株式市場を称賛した数日後、株価は一段安となった。小売り最大手ウォルマートは、利益がアナリスト予想を下回るとの見通しを示した。米消費者信頼感指数は低下した。
ポイント72アセット・マネジメントのスティーブ・コーエン最高経営責任者(CEO)はマイアミで開かれた別の会合で、「しつこいインフレ、成長鈍化、政府の緊縮財政が同時進行している。これほど悲観的になっているのは久しぶりだ」と述べた。
その後トランプ氏と顧問らが、ここ30年間の消費財値下がりに寄与した世界貿易体制を再編するため、目先の痛みを容認する姿勢を示唆すると、市場では2週間にわたって売りが加速した。
トランプ氏は3月9日のFOXニュースのインタビューで、中国は「100年を視野に入れている」と述べた。米主要3株価指数は翌日までに、トランプ氏再選以降の上昇分を全て失った。
ビジネス界の大物が顔をそろえた3月11日のワシントンで開かれたイエール大学のイベントでは、トランプ氏がカナダから輸入する鉄鋼とアルミニウムへの関税を2倍に引き上げることを検討していると伝わると、嘆息と苦笑が広がった。米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO、富豪のマイケル・デル氏、米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラCEOらが出席していた。
ここ数年は株高と着実な所得増が経済成長をけん引してきた。市場が暴落して高所得層が支出を控えれば、米経済は息切れする可能性がある。
3月に入ってトランプ政権が関税の脅しを強め、景気後退リスクを気にかけない態度を示すと、投資家は震えあがった。JPモルガンのマイケル・チェンバレスト氏は3月12日のリポートで「興味深いことに、株式市場は起訴も逮捕も国外追放もされない。脅しも威嚇もいじめも受けない」と述べた。このリポートはウォール街のトレーディングデスク中に拡散した。
M&Aブームへの期待
ディールメーカーや金融機関の幹部らは、トランプ氏にとりわけ大きな期待を寄せていた。
大統領選前の昨年10月、米投資会社アポロ・グローバル・マネジメントのマーク・ローワンCEOはサウジアラビアで聴衆を前に、バイデン政権が取引に弊害をもたらしていたと述べた。「現在の政策の結果、M&A(合併・買収)活動は間違いなく不振だ。政権が交代すればそれも解消されるだろう」
ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータによると、年初から3月24日までの米国のディール総額は前年同期比0.7%減少した。経営者らが予想していた大幅増には程遠い。グーグル親会社アルファベットによるサイバーセキュリティー対策新興企業ウィズの買収(320億ドル)を除くと、ディール総額は9%余り減少したことになる。
プライベートエクイティ企業のディール担当者は、幹部らのようにトランプ氏の再選がすぐにもM&Aブーム再来につながるとは考えていなかった。金利低下の方が規制緩和以上にディール件数を左右すると主張した。
だがFRBは、トランプ政権の政策の影響を見極めるため、利下げを見送った。
FRB当局者は、インフレ率を長期的に低位安定させる責務があると考えている。ジェローム・パウエル議長は3月19日の記者会見で、関税が持ち出されるまではこれをほぼ達成していたとの考えを示唆した。同氏は「関税インフレ」に5回言及した。
同氏が言いたかったのは、今年もし物価が上昇したら原因はホワイトハウスの政策であり、経済の基礎的条件ではない、ということだろう。
トランプ氏は25日、米国が正しい方向に向かっているとする一方、金利低下を望んでいると述べた。ホワイトハウスで記者団に対し、「数十億ドル、さらには数兆ドルが、関税という形で近く米国に入ってくるだろう」と述べた。
米自動車大手フォード・モーターのジム・ファーリーCEOは2月の投資家向け説明会で、「メキシコやカナダからの越境に25%の関税を課せば、米国の産業に穴が開くだろう」と述べた。
トランプ氏は今月に米3大自動車メーカーのトップとリモート会議を行い、規制と電気自動車(EV)促進策を縮小する意向を明言し、不安の払しょくに努めた。会議の内容を知る関係者が明らかにした。
メキシコとカナダへの関税が発動されればそれも助けにはならない、との声が上がると、気まずい空気が流れた。国境をまたぐ複雑なサプライチェーン(供給網)に関税を課せば、コストは数十億ドルに上り、規制緩和のメリットが帳消しになる。
米ゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラCEOは関税に反対を示す一方、国内製造への自社の投資もアピールした。
関係者によると、トランプ氏は話題を関税から投資と雇用の拡大に変えた。
同氏は関税発動を1カ月だけ先送りすると述べた。ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官はこの時、トランプ氏は3社のCEOに「これを受け入れて投資を始め、行動に移るべきだと伝えた」と述べた。
バーラ氏はその後トランプ氏に直接会い、米国事業に600億ドル投資する計画を説明した。対談について説明を受けた人物が明らかにした。
「無力感」
だが、多くの企業は採用や投資に慎重になっている。経済や政権の政策を巡り不確実性が高まっているためだ。
フィラデルフィア地区連銀の3月の調査によると、今後6カ月間の新規受注が増加すると予想するメーカーは3分の1で、1月時点の3分の2から減少した。2カ月間の減少幅としては、1968年の調査開始以降で最大だった。
経営者の間に「圧倒的な無力感がある」。ソフトウエア会社ヘンス・テクノロジーズの共同創業者ショーン・ウエスト氏はこう話す。「経営者たちはぼうぜんとしている。うまい手立てがないというのは、彼らには不慣れな感覚だ」
トランプ氏が予測不能にならないよう経済チームが動いてくれると投資家が考えたのには理由がある。ヘッジファンド投資家だったスコット・ベッセント財務長官は1年前、貿易に関するトランプ氏の強気発言は交渉術と考えていいと顧客に指南していた。ベッセント氏は24年1月のメモで「関税はインフレ要因で、ドル高をもたらす。米国に産業ルネサンスを興すのに良い出発点とは言えない」と述べていた。
その後ベッセント氏は発言のトーンを変え、関税が企業の利益と成長に打撃を及ぼすとの懸念には耳を貸そうとしなくなった。今月、米CNBCとのインタビューで「MAGA(Make America Great Again、米国を再び偉大に)は『M&Aを再び偉大に(Make M&A Great Again)』の略ではない」と述べた。さらに、米経済は高水準の財政支出が続いたため、「デトックス(解毒)期間」が必要かもしれないとの考えを示し、関税を巡る不安を一蹴した。
トランプ政権高官らの主張は時に矛盾している。関税が物価を押し上げる可能性は低いと話す一方で、衣料品やおもちゃ、電子機器といった安価な輸入品はそれほど重要ではないと言っている。
第1期トランプ政権の関係者はいくぶん懸念を抱いている。3月4日のトランプ氏の議会演説の前、同氏の元経済顧問ラリー・クドロー氏はFOXニュースに対し、経済政策の出し方は「この順番ではない方がよかった」と述べた。「まず減税し、次に関税に取り組むべきだったと思う」
ベッセント氏は今月、ウォール街幹部らとの昼食会で、アメリカンドリームとは単に「安価な商品にアクセス」することではないと断言した。ペンス氏はこれに反論し、自由貿易が米国民の生活水準を高めたと主張した。
ベッセント氏も反論し、「人々は中国の安物を欲しがってはいない」とポッドキャストで語った。
有権者はジョー・バイデン前大統領の経済政策に不満を抱いていたが、トランプ氏のチームはこの不満について、抜本的変化を求めているものと読み違えている可能性がある。ペンス氏の顧問であるショート氏はそう指摘する。「(ベッセント氏は)日用品の価格を気にしていないかもしれないが、多くの米国民は気にしている」
ある経済学者は、関税で経済が痛手を負えば、輸出が輸入を上回らなければ国は豊かになれないとの考えに基づいて政策が変わることになりかねないと指摘した。
「(トランプ)大統領は真の重商主義者で、これがどれほど悪化し得るかという予測を信じようとしない」。米保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマイケル・ストレイン氏はこう話す。「(トランプ氏は)熱いコンロに手を置き、限界まで耐えてみるべきだ。問題は、どれだけもつかだ」
暗号資産(仮想通貨)の投資家に忠告したい。不注意は高くつく、ということを。
暗号資産の人気が高まるにつれ、サイバー犯罪者は投資家から資金をだまし取るためにますます巧妙な手法を用いている。人工知能(AI)を活用して、より説得力があり、標的ごとにカスタマイズされた詐欺の仕組みを作っている。そして、暗号資産を扱う際に特に被害を受けやすい、単純な人為的ミスもある。
油断をすれば暗号資産投資家は全てを失いかねない。以下で六つのパターンを紹介する。
間違った取引所を利用する
暗号資産はブローカーを通じて売買できるが、取引所で直接取引する人が多い。取引所は数多く存在する。残念ながら、過去に一部の取引所は破綻し、暗号資産投資家の資産も失われた。
信頼できると考えられていた取引所でさえ問題が明らかになることがあり、取引所の利用に関しては「必ずしも完璧な計画というものはない」。ブロックチェーンや暗号資産に関連したデータや調査などを提供するニューヨーク拠点の企業、チェイナリシスでサイバー犯罪調査リーダーを務めるエリック・ジャーディン氏はそう語る。
ただ、トラブルを回避する確率を高めることはできる。
業界団体の米国ブロックチェーン・暗号資産協会(ABCA)のハワード・グリーンバーグ会長は、投資家はニューヨーク州金融サービス局に登録された取引所を通じて暗号資産を購入すべきだと主張する。同局には厳格な報告要件と規則があるためだという。投資家は利用を検討している取引所が登録されているかどうかを同局のウェブサイトで確認できる。同局は取引所のサイバーセキュリティー体制も審査しており、ハッキングのリスクが軽減される可能性がある。
「そこで承認されたものを選べば、私からすればそれが最も信頼できる基準に近いものになる」とグリーンバーグは語る。
保管リスクを無視する
暗号資産にアクセスするには、投資家は「秘密鍵」と呼ばれる長い数字と文字列のコードを必要とする。秘密鍵は暗記するには長すぎるため、投資家は何らかの方法で保管する必要がある。オンライン上で保管する方法はいくつかあるものの、最も安全な選択肢ではないと指摘する専門家が多い。オンライン上のものは常にハッキングのリスクがあるためだ。
こうした専門家は「ハードウエアウォレット」、あるいは「コールドウォレット」と呼ばれるデバイスを推奨している。これは秘密鍵をオフラインで保管するもので、さまざまな種類がある。大きさはUSBメモリやクレジットカード程度のものが多い。
ペンシルベニア州立大学ディキンソン法科大学院の教授で、暗号資産に関するオンラインコースを教えているトーニャ・エバンス氏は、コールドウォレットなどオフライン上での保管であるコールドストレージについて、「最小限の保有以外では、強く推奨される」とし、インターネットに接続されているものはハッキングされる可能性が高くなると強調する。
エバンス氏は投資家に対し、複数の異なるコールドウォレットに資産を分散させることを提案している。資産クラス間および資産クラス内の分散は常に話題になるとした上で、「テクノロジーの分散も重要」と話した。
マスターキーの保管を怠る
「シードフレーズ」は一種のマスターキーであり、暗号資産ウォレット内の全ての秘密鍵にアクセスするための長い文字列を指す。ウォレットを紛失したり破損したりした場合に鍵を復元するために使用できるため、暗号資産投資家にとって命綱となり得る。ただ、他人がシードフレーズを入手すると、ウォレット内の全ての鍵にアクセスでき、暗号資産を盗むことができる。そのため、シードフレーズを安全に保管することは極めて重要となる。
チェイナリシスのジャーディン氏は、人々はシードフレーズを紙に書いて保管し、それを紛失したり誤って破棄したりすることがあると話す。また、そのフレーズをノートパソコンやスマートフォンのデジタルファイルに保存した場合は、ハッカーの標的になりやすくなる。
ABCAのグリーンバーグ氏は自身のシードフレーズを自宅の紙にメモしておいたり、銀行の貸金庫に保管したり、家族に管理を頼んだりしているという。また、ハードウエアデバイスに電子的にも保存している。相続人はシードフレーズの保管場所を知っておく必要があるとも同氏は話す。
詐欺師に鍵を渡す
暗号資産を盗もうとする詐欺師は、常にシードフレーズを盗む方法を探している。例えば、技術サポート担当者を装い、ある問題の解決を手伝うためと称して暗号資産所有者のシードフレーズを尋ねることがある。
「いかなる状況下でも、シードフレーズを他人に教えてはいけない」。ワシントン州スポケーンでオルタナティブ資産の取引を手がけるAETインベストメント・サービシズのスティーブ・ラーセン最高経営責任者(CEO)はそう話す。
自分が所有する物理的なデバイスに暗号資産が保管されていても、シードフレーズを詐欺師に渡せば盗まれる可能性がある。
よくある手口にひっかかる
暗号資産を盗むために詐欺師は典型的なソーシャルエンジニアリング戦術を用いることもある。例えば、暗号資産を獲得しそれを請求できるとして、リンクをクリックするよう求める電子メールやテキストメッセージを送ってくる可能性がある。油断した暗号資産所有者がリンクをクリックすると、知らず知らずのうちにサイバー犯罪者がウォレットから全てを持ち去るというパターンをラーセン氏は指摘する。
メールやテキストメッセージで届く暗号資産関連の勧誘に応じたり、リンクをクリックしたりしないようラーセン氏は呼びかける。「暗号資産取引所がメールやテキストメッセージで行動を促すことはないが、人々はそうした内容のメッセージを頻繁に受け取っている」と同氏は話す。
ラーセン氏はまた、偽の暗号資産サイトに注意するよう人々に警告している。同氏の潜在的顧客の1人が、暗号資産取引所大手の米コインベース・グローバルだと思って口座を開設したが、実際には非常によく似たURLの偽サイトだったという。その投資家は50万ドル(約7400万円)以上を失った。
間違った取引を行う
ディキンソン法科大学院のエバンス氏は以前、コールドストレージから取引所に暗号資産を送金したが、取引所はその暗号資産を取り扱っていない、ということがあった。取引所がいつかその暗号資産の取り扱い開始を決めない限り、返金も資金へのアクセスもできないと告げられたという。この出来事は教訓になったと同氏は話す。「取引所が対応していない限り、取り戻すことはできない」
コールドウォレットから別のコールドウォレットに暗号資産を送金する際も、受取人のウォレットアドレスを二重確認せずに間違えると問題が生じる可能性がある。ミスをすると暗号資産を永久に失う結果になりかねない。多くの暗号資産プラットフォームはユーザーのミスを最小限に抑えるためQRコードやコピー・アンド・ペースト機能を備えているが、十分注意を払わなければミスは簡単に起こり得るとエバンス氏は話す。
ドイツのルフトハンザ航空(LHAG.DE), opens new tabなど欧州航空大手の最高経営責任者(CEO)が27日、欧州連合(EU)が義務付けた温室効果ガス対策を批判する声明を発表した。欧州の大手航空会社を代表する業界団体エアラインズ・フォー・ヨーロッパ(A4E)の同日のイベントでもCEOらが改めてEUに見直しを求めた。
批判の対象となったのは二酸化炭素(CO2)排出量を従来燃料より大幅に削減した代替燃料である「持続可能な航空燃料(SAF)」の扱い。EUは2030年までに航空燃料の6%をSAFにするよう求めているが、CEOらは高コストと供給不足を挙げて達成不可能と表明した。
声明に賛同したのは、ライアンエア(RYA.I), opens new tabのほか、ブリティッシュ・エアウェイズを傘下に持つインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)(ICAG.L), opens new tab、ルフトハンザ航空、エールフランスKLM(AIRF.PA), opens new tabのCEOら。
前日に協議の場を持って声明をまとめていた。27日のイベントには欧州委員会のアポストロス・ツィツィコスタス委員(持続可能な運輸・観光担当)も参加したが、発言ではCEOらの声明や発言に対し直接触れなかった。
CEOらは、欧州の航空業界がEU規制のため世界の競合他社に遅れを取るリスクがあると指摘。欧州委員会に対し、SAFプラント建設への財政支援の拡充を引き続き求めた。
また、トランプ米大統領が化石燃料推進派という立場を踏まえ、EUの規制当局はグローバルな持続可能性の議論をより強く意識する必要があると指摘した。
IAGのルイス・ガジェゴCEOは「競争力のある価格でSAFを確保するため、EUが直ちに航空業界向け戦略を構築する必要がある。今、行動に移さないなら、30年までのSAF(の燃料含有率)義務化目標を後ろ倒しにするしか現実的な解決策はない」と述べた。
国際航空運送協会(IATA)のウィリー・ウォルシュ事務局長もイベントに飛び入り参加した。ロイターの取材に対し、CEOらの声明に賛同する考えを示し、「この目標が実現可能で有意義だと見せかけることはできない。そもそも達成できるはずもなかった」と話した。
SAFのコストは従来のジェット燃料の3―5倍。世界のジェット燃料供給量のわずか0.3%にとどまる。欧州の航空会社は今年、燃料の2%をSAFにする予定だが、EUが30年までの達成を義務付けた割合は6%と高い。
CEOらの見解表明に対し欧州委員会は「現在のSAF達成目標は現実的で実現可能だと考えている」との声明を出し、CEOらの見解は事実上無視される形となった。
トランプ米大統領が米国の敵と味方の双方に対して関税戦争を仕掛ける中、世界の基軸通貨として「王座」にある米ドルの将来に再び懸念が浮上している。中国は、強大なドルを失脚させたいと切に願っている。トランプ政権の主要メンバーも同様の考えを持っているようだ。しかし、半世紀超にわたってドルは破滅論者を押し返しており、今後もそれが続く可能性が最も高い。
ジャーナリストのポール・ブルスタイン氏の新著「キング・ダラー:世界の支配通貨の過去と将来」には、長きにわたって支配的な地位を築いてきたドルの耐久性が描かれている。1960年代にベルギーの経済学者ロバート・トリフィン氏は、第2次世界大戦後の通貨秩序の主軸としてのドルの役割は、米国が負債を膨らませるにつれて失われていくだろうと予測していた。70年代序盤にブレトンウッズ体制での為替管理制度が崩壊した際、トリフィン氏の主張の正当性が証明された。米国でインフレが本格化すると、経済史の大家のチャールズ・キンドルバーガー氏は「ドルの国際通貨としての役割は終わった」と宣言した。だが、この説は間違っていた。
過去数十年間、ドルは幾多もの試練を乗り越えてきた。80年代終盤の日本の台頭、99年の通貨ユーロの誕生、金融危機、世界の製造大国としての中国の浮上、そして22年のロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻後のロシア外貨準備の差し押さえなど、敵対国に対して「ドル兵器」を使用する米国政府の一連の対応だ。
1945年以来、米国の国内総生産(GDP)が世界経済に占める割合は半減した一方、ドルは依然として世界の外貨準備の約60%を占める。米国の輸出入額は世界貿易の10%に満たないが、国境を越えた商取引の4分の3にはドルが活用される。世界金融でのドルの役割はさらに顕著で、通貨スワップの85%、国際的な銀行間取引でドル建てが占めるシェアはさらに高い。ブルスタイン氏は「それぞれの局面でドル終焉の予測は間違っていることが証明された。ある時は対抗する通貨の弱さによって、またある時はドルの驚くべき回復力によってだ」と指摘した。為替トレーダーの言葉を借りれば、ドルは「最も汚れていないシャツ」であり続けている。
この優位性は米国の軍事的覇権、米国での法の支配に対する広範な信頼、そして独立した米連邦準備理事会(FRB)がドルの価値貯蔵機関としての役割を維持するという信頼に負うところが大きい。より分かりやすく説明すると、ドル建ての取引が全ての当事者にとって都合が良いということだ。
世界での貿易や金融には、取引の決済に使える勘定単位が必要だ。ドルは他のどの通貨よりもはるかに流動性が高い。中国は世界最大の輸出国かもしれないが、人民元が使われる貿易はごくわずかだ。国際的な金融取引の大部分はニューヨークを拠点とし、毎日2兆ドル(約300兆円)弱相当の取引を扱うクリアリングハウス銀行間支払いシステム(CHIPS)を通じてドルで決済される。ブルスタイン氏によると、CHIPSを経由するほぼ全ての決済は米国外で始まり、米国外で終わる。
ドルが世界の金融システムで果たしている橋渡しの役割は、世界最大級のIT企業に利益をもたらす力になるようなネットワーク効果を生み出す。米マイクロソフト(MSFT.O), opens new tabは長年にわたって多くの失策を犯してきた。ブラウザーやスマートフォン、タブレット端末、基本ソフト(OS)のアップグレードなどの失敗だ。
同じようにフェイスブックを傘下に抱える米メタ・プラットフォームズ(META.O), opens new tabは世界で使われるデジタル通貨の導入で失敗し、仮想現実(VR)市場を立ち上げる試みも、今のところ不発に終わっている。
しかし、両社とも支配的な地位を維持して生き延びてきた。米国の敵は、不満を抱えたマイクロソフトの顧客のようなものだ。たとえドルに代わる通貨を見つけたいと思っても、切り替えるためのコストが高すぎるのだ。
一方、ドルが世界の基軸通貨としての役割を果たしていることで、米国人も代償を払うことになる。トリフィン氏が1960年代に指摘したように、世界経済の拡大にはより多くのドルが必要となる。しかし、世界の基軸通貨を外国に供給することで、米国の負債はさらに膨らむことになる。米国が世界最大の対外債務国であり、対外負債が対外資産を26兆ドルも上回っている事実は、ドルの国際的地位のバグではなく特色だ。トリフィン氏は、遅かれ早かれ基軸通貨の発行国が債務を返済できなくなる転換点に達すると予言した。その瞬間がまだ到来していないとしても、この問題を無視すべきではない。
トランプ政権のメンバーは、基軸通貨としてのドルの役割について別の問題を指摘している。バンス副大統領は米国の貿易赤字が恒常化していることに関し、ドルが基軸通貨の座を維持するための代償になっていると考えている。バンス氏はこうした貿易赤字は、米国の製造業の空洞化を招いていると主張する。バンス氏は、ドルが基軸通貨の地位にあることは「米国の生産者に対する巨額の税金」だと受け止めている。北京大のエコノミスト、マイケル・ペティス氏も同じような結論に達している。
大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン次期委員長は、ドルの世界的覇権によってドルへの過大評価が継続し、結果として米国の貿易競争力に悪影響を及ぼしていると考える。ミラン氏は昨年11月に発表した論文で、米国債を保有する外国政府への利子支払いに米国が課税すれば、ドルの国際的な需要が減る可能性があるとの案を示した。ハンガリー系米国人のエコノミスト、ゾルタン・ポザール氏はさらに踏み込み、ドル建ての外貨準備を利息がない100年国債という事実上無価値な資産に交換すべきだと提案している。
ミラン氏は、米国による安全保障の傘の恩恵を受けている国々はドルが基軸通貨であることによる負担をもっと分かち合うべきだと主張する。問題は、日本を除く米国の軍事的な同盟国は外貨準備に多額のドルを保有していないことだ。外国人が保有する国債の条件を強引に変更することは米国が債務不履行に陥ることに等しく、世界の金融システムを根底から覆すことになる。「マール・ア・ラーゴ合意」といわれるドル安誘導は白紙となった。少なくとも当面、王座にあるドルの支配は続くだろう。
ドイツ銀行のアナリストは、米連邦準備理事会(FRB)が金融ストレス下で同盟国へのドル資金供給を留保すれば、世界がドルへの依存を大幅に減らし、米国にとって「諸刃の剣」になりかねないとの見方を示した。
ロイターは22日、市場の緊急時に米連邦準備理事会(FRB)がドル資金を供給してくれるかどうかを欧州の中央銀行や監督当局が疑問視していると報じた。
ドイツ銀のアナリストは、FRBのバックストップがなければ、短期的に「ドルの流動性争奪でドル資金調達コストが上昇し、ドルの急騰につながる」と指摘。
米金融システムにもストレスが波及し、「米国資産の投げ売り」が起きる可能性があるとした。
また、FRBは独立機関だが、「米政権は道徳的説得や理事指名を通じて間接的に影響力を持つことができる」とし、「米国は理論上、他の政策目標と引き換えにスワップ枠を選択的に利用する可能性がある」との見方を示した。
その上で、FRBのスワップ枠撤回が懸念されるようになれば、世界がより急速に脱ドル化を進める圧力になるとした。
ラボバンクの為替戦略責任者ジェーン・フォーリー氏は「トランプ米大統領の貿易・外交政策により、欧州は米国への依存を下げる方向に向かっており、ドルへの依存低減を模索することを示唆している可能性が高い」と指摘。
「トランプ氏は脱ドル化を試みた国に追加関税を警告したが、皮肉なことに、同氏の孤立主義政策が(脱ドル化の)流れを後押しするかもしれない」と語った。
米連邦準備理事会(FRB)の直近の経済見通しでは「軽度のスタグフレーション」が想定されている。こうした見方は、コロナ禍以来、諸外国に比べて米経済が堅調に推移してきた局面が近く終了するかどうかを見極めようとしている他のエコノミストの間でも広がっている。
<1970年代のスタグフレーション>
高いインフレと高い失業率が併存するスタグフレーションは、1970年代の米国で起きた事例が有名だ。当時の米国の経済運営は、世界大恐慌以降で最悪だったか可能性がある。FRB当局者はデータと政策を見誤り、政府もインフレ対策に失敗した。当時のフォード政権は「今こそインフレを倒せ(WIN)」キャンペーンを展開したが、今では不適切だったとみられている。
エコノミストはここ数週間、トランプ米大統領の下での劇的な経済政策の転換を受けて経済見通しを下方修正し、インフレ見通しを上方修正し、70年代が再来するか否かを巡る議論が高まっている。
理論的には、景気低迷局面で失業率が上昇すればインフレは抑制されるため、景気悪化と高インフレは共存しないはずだ。だが1970年代に物価を押し上げたオイルショックのように、トランプ氏の通商政策による「関税ショック」の可能性が取りざたされている。
トランプ政権の言い分では、関税は規制緩和、減税と相まって多くの雇用を創出し、インフレを低下させる。
現在の経済見通しで想定されているスタグフレーションは、1970年代ほど悪い状況ではない。当時は失業率とインフレを組み合わせた「悲惨指数(ミザリーインデックス)」が戦後で際立って大きく上昇した時期だった。
それでもエコノミストは経済の方向性を注視している。FRB当局者がここ1週間でこの先のリスクを検証した際、全員がインフレと失業率のリスクは上振れ方向とした。
「軽度のスタグフレーション」は、RSMのチーフエコノミスト、ジョー・ブルスエラス氏が先週の連邦公開市場委員会(FOMC)に関する分析リポートに付けたタイトルだ。同氏は「通商面のショックの規模と強度を巡る不確実性が広がっている」と指摘、FRB当局者の見通しは「成長が鈍化してインフレが上昇するのに伴い、目先は穏やかなスタグフレーションが起きることを意味している」と述べた。
<最も居心地の悪い環境>
FRBのパウエル議長はFOMC終了後の記者会見で、マクロ経済のハードデータは依然としてしっかりしていると述べた。実際、悲惨指数は比較的低い水準にとどまっている。
だが景況感といったソフトデータは悪化している。このためFRB当局者は、関税の影響で物価が上がり続けても、企業は投資と雇用を見合わせ、家計は支出を削減する可能性があると考えている。
FRB当局者は、調査先企業の間で懸念が広がっていると指摘。雇用を維持しつつ物価を制御する任務を負うFRBが、スタグフレーションによって難しい選択を迫られる可能性を議論し始めた。
シカゴ地区連銀のグールスビー総裁は21日、CNBCに対し、「スタグフレーションほど居心地の悪い環境はない。スタグフレーション局面では(物価安定と雇用最大化の)2大責務の両面で、状況が悪い方向へ進み始める。包括的な解答はない」と述べた。「関税の引き上げは物価を押し上げ、生産を減少させる。これこそがスタグフレーション的な動きだ」と語った。
<たかをくくらず>
仮にFRBが板挟みになれば、彼らの優先事項は明確だ。それはインフレだけでなく、インフレ期待を確実に制御し続けることだ。
1970年代の主な過ちは多分、一般市民の心理が将来のインフレに及ぼす役割を当局が十分に理解していなかったことにある。
その結果、ポール・ボルカー議長指揮下のFRBが1980年代から90年代にかけて信認を回復し、インフレ期待をリセットするには、懲罰的な高金利と2回の景気後退が必要となった。
パウエル議長は、この教訓を心に言い聞かせており、二の舞は避けると表明している。
パウエル氏は先週の記者会見で「70年代の再来や、それに似た事態が起こると考える理由は見当たらない。基調的インフレは依然として2%台で推移しており、関税に関連して若干上振れする可能性がある」と説明した。 
それでもインフレ期待の安定は「われわれの政策の心臓部」に当たり、「全ての指標を極めて慎重に注視する。何事もたかをくくらない」と述べた。
ドナルド・トランプ氏の米大統領就任にあたり、トレーダーの戦略は明らかだった。米電気自動車(EV)メーカー、テスラや暗号資産(仮想通貨)など「米国第一」に関連した勝者に全てを賭けるというものだ。
しかし、政策の急転換や経済指標の悪化が続く中、ごくわずかの大胆な賭けに絞り込むことはトランプ時代において最悪の選択肢であることが判明した。
このようなアプローチを取る投資家のほか、マーケットタイミング戦略や集中的なポートフォリオで運用する投資家にとって、これは悪い知らせだ。ウォール街は今週、またもや大荒れの展開となった。
貿易摩擦が激化する中、トランプ氏が言う「解放の日」を前に米消費者マインドの落ち込みが判明。インフレ期待の上昇も示され、リスク選好派は打撃を受けた。ナスダック100指数が2.6%下落し、米国債は急上昇。信用リスクを示す指標は上昇し、金は最高値を再び更新した。
全体的に「米国第一」トレードや相場を主導した大型ハイテク株など限られたテーマに大規模な資金を投じてきた投資家にとって新たな打撃となった。無傷で済んだ投資家はほとんどいないが、今回もまた、長期にわたって分散投資の利点を主張してきたプロの機関投資家が最もうまく切り抜けた格好となった。
投資運用会社ヴァンエックのマルチアセット・ソリューションズ責任者、デビッド・シャスラー氏は「われわれは持続的な高インフレ、地政学的リスク、日々高まるリセッション(景気後退)リスクに直面している」と指摘。「投資資金を分配する上で最悪なのは、自身のポートフォリオで二者択一的な賭けをすることだ。分散投資は絶対に必要不可欠だ」と述べた。
システマチックな取引、コモディティーなどのインフレヘッジ資産、割安株などを含む多角的なポートフォリオが新たにアウトパフォームし始めている。市場の勝者は多種多様だが、これらが真の「トランプ・トレード」、すなわち政策が不透明な時代において市場の変化に応じて投資を調整するリスク管理戦略と呼べるだろう。
成長鈍化の兆しと粘り強いインフレを背景に、これまで信頼性の高かった取引が負け組に転じている。S&P500種株価指数は今週1.5%安となり、1-3月では5%安となる見込み。ブルームバーグ・マグニフィセントセブン・トータル・リターン指数の第1四半期のパフォーマンスは少なくとも過去10年間で最悪となる勢いだ。
一方で、資産クラス全体にわたって配分する戦略にとって、2025年初はここ数年間で最高の期間として記録されるだろう。代表的な指標であるS&Pリスク・パリティ指数はS&P500を7パーセントポイント強上回っている。これは18年以降で最も大きい。
シンプリファイ・アセット・マネジメントの資産配分ストラテジスト、ペーズリー・ナーディニ氏は「不確実性が注目される中でこの市場環境が維持されるのであれば、分散投資家にとっては強気相場だ。25年初はローテーション取引に重点が置かれ、市場で敬遠されていた一部が恩恵を受けた」と語った。
●中東情勢
●エマージング
ロシアとウクライナの間の和平合意を迅速にまとめるのが今後いかに難しくなるかを理解するには、黒海に関して合意に至った今週の取り組みに注目するだけでよい。
米政府には、ロシア・ウクライナ間の黒海に関する合意のより迅速な成立を望む理由があった。もともと双方が戦争の1年目に、この問題について広範囲にわたる協議を行っていたからだ。しかし、米国とロシアは今週の協議終了後に全く異なる内容の声明を出した。ロシア側は、米単独では応じることができない制裁緩和を要求した。
一方、エネルギーインフラへの攻撃を一時停止する合意が履行されている形跡はほとんど見られない。ロシアとウクライナは毎日、互いの領土を攻撃し続け、攻撃の一時休止合意に違反していると互いに非難し合っている。
ロシアは戦いを有利に進めながら厳しい譲歩を迫っており、今後の協議はさらに難しくなる一方だろう。
ドナルド・トランプ米大統領にとって、「問題はこれらのステップをいかに成功として描き続けるかということだ」。米外交問題評議会の特別研究員で、ジョージ・W・ブッシュ政権でロシアに関する国家安全保障顧問を務めたトーマス・グラハム氏はこう語った。「よくよく見ると、この合意は見かけより内容が薄い」
米国側の声明は、停戦と貿易に関して米ロ両政府がいかにして合意したかを強調した。ロシア側は、協議で成立した多数の合意に言及した上で、いずれかが実行されるための条件を多数列挙した。その一つは欧州から科された制裁の解除だ。
マルコ・ルビオ米国務長官は26日、対応の難しさを認めた。黒海での停戦を巡る協議がまだ予備的なものだとした上で、米国はロシアの要求の一部に応えられないと述べた。
ジャマイカの首都キングストンを訪問中のルビオ氏は「それらの条件の一部には、われわれのものではない制裁(の解除)が含まれている。それは欧州連合(EU)のものだ」と述べた。
欧州の当局者はもっと露骨な表現をしている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は27日、ウクライナの安全の保証について話し合う欧州有志国の首脳会合を主催した後、トランプ氏の和平への取り組みを称賛した一方で、サウジアラビアでの協議を真剣な和平交渉と表現するのは困難だと述べた。
マクロン氏は記者団にこう述べた。「平行線をたどった協議が三つの異なる内容を述べる三つの異なる声明につながっているため、和平交渉が行われたと結論付けるのはかなり困難だ。ウクライナと米国の共同声明、ロシアと米国の共同声明、それにロシアの声明があり、ロシアの声明は前の二つと異なっている。こうした状況から多くの不透明感が生じている」
ルビオ氏は、トランプ政権が向こう数日間で提案を精査し、ロシアの立場のより完全な理解を目指すと述べた。同氏によると、トランプ氏にロシアの要求が伝えられ、トランプ氏が「次にどんなステップに進むかについての最終判断を下す」ことになるという。
サウジでの協議に関するルビオ氏のこうした説明は、ロシアとウクライナの敵対関係の終了に向け広範な進展があったとするホワイトハウスの公式声明とは対照的だ。
トランプ政権はこれまで、戦争終結に向けた段階的アプローチを通じて、幾つかの容易な成果の達成を目指してきた。トランプ氏の側近らはエネルギーインフラと黒海を巡る暫定合意について、世界最高のディールメーカーが実現した成果だと宣伝しているが、実際にはこれらの措置はロシアとウクライナの間で以前に協議されていたものだ。
国際政策分野の非営利シンクタンク「ランド研究所」の上級政治学者サミュエル・チャラップ氏は「これらの措置は、ほぼ完成した状態で棚から取り出したものだ。このため、一定レベルでの実施が容易であってもおかしくないが、依然として極めて困難だ」と語った。
米国とロシアの最初のディールは、ウクライナとロシアが両国のエネルギーインフラへの攻撃を互いに停止することを目的としていた。これは昨年のカタールでの広範な協議を引き継いだものだ。当時は合意の詳細を詰めるための協議が何週間も続けられたが、ウクライナ軍がロシアのクルスク州に進攻したことを受けて、ロシア側が協議を打ち切り、あらゆる合意を拒否した。
同様に、黒海の安全確保についても戦争1年目に長い時間をかけて協議された。トルコと国連の仲介により、ロシア、ウクライナ両国間で「黒海穀物イニシアチブ」という商船の安全確保に関する合意が成立した。しかし、ロシア側が自国の穀物輸出拡大に寄与しないと主張して合意から離脱したため、最終的に合意は無効となった。
当時、ロシアの農業銀行ロスエルホーズバンクへの制裁解除の可能性が浮上し、国連はそのための措置を提示したとさえ述べていた。ロシアは最終的に合意から離脱したが、ウクライナはロシアの黒海艦隊を無力化できたことで、比較的妨害されずに港からの穀物輸送を継続できるようになった。
米国は今回、ロスエルホーズバンクに対して自国が科した制裁を解除し、ドル取引を再開させることはできる。だが、ロシアの銀行を国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」に一方的に復帰させる権限は持っていない。首都ワシントンにあるジョージ・ワシントン大学欧州連合研究センターのディレクター、シェーラザード・S・レーマン氏はそう指摘する。ロシアは黒海における安全な航行の確保を約束する前提条件として、SWIFTへの復帰を要求している。
レーマン氏は「トランプ政権は、ウクライナでの戦争終結の仲介を試みる中で、一連の経済制裁の緩和について協議に入ることに前向きな姿勢を示している」と述べた。だが、「米国単独でSWIFTに関する制裁を解除することはできない」
ウクライナにおける過去の停戦合意が戦闘中止につながらなかったことを考えれば、敵対関係を止めるにはゆっくりとした進展しか期待できないと米国は想定しておくべきだ。だが、トランプ氏が早期の合意成立を目指しているため、交渉担当者はロシアの要求に屈しやすくなっており、しばしばウクライナの立場を犠牲にしてきた。
チャラップ氏は「ここに至るまでは困難だった。そして、この件も決着したわけではない」と述べた。「ここからはさらに困難になるだろう」
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
トランプ大統領の相互関税発表を控え、市場は経済成長の懸念を強めた。これにより、安全資産の円が買われ、ドルが下落。米国の経済指標ではインフレ懸念が高まり、個人消費の回復が鈍かった。米国債利回りは急低下し、株式市場も大幅安。特にテック企業が売られ、S&P500、ナスダック、ダウが下落した。一方、金先物は史上最高値を更新し、産金株が上昇。原油先物は景気不透明感から反落した。
ロンドン株式市場は下落。米関税措置への警戒や世界経済の減速懸念から投資家のリスク回避姿勢が強まった。FTSE100は0.08%安、FTSE250は0.25%安。航空宇宙・防衛株や鉱業株が特に下落した。  
欧州株式市場も続落し、STOXX600は週間で1.38%安。ドイツのDAX指数は0.96%下落し、ドイツ銀行の株価も2.9%安となった。ドイツの雇用指標が悪化し、景気低迷が労働市場に影響を与えた。  
ユーロ圏債券市場では、短期国債の利回りが低下。欧州中央銀行(ECB)の利下げ観測が強まり、4月の利下げ確率は80%に上昇した。ドイツやイタリアの10年債利回りも低下した。

備忘録(2025/3/27
●海外企業決算
●海外企業
トランプ米大統領が26日に発表した輸入自動車への25%関税発動で、ポルシェとメルセデス・ベンツグループが計34億ユーロ(約5510億円)と、業界でも最も大きな打撃を受けることになりそうだ。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によると、4月3日から徴収を始めるこの関税で、ポルシェとベンツが2026年に予測した営業収益の約4分の1が消滅する可能性がある。影響を相殺するため、自動車メーカーは価格を値上げするか、米国での生産をさらに増やす必要に迫られる可能性がある。
関税の導入で、欧州自動車業界では、利益率の高い米国市場への輸出に依存したスタンスが覆る可能性がある。ポルシェのスポーツカー「911」やメルセデス・ベンツのセダン「Sクラス」など、利益率の高い内燃エンジン搭載モデルが多くあるドイツの自動車メーカーは、米国向けの自動車輸出台数が最も多いことから、最も大きなリスクに直面している。
ポルシェの株価は27日のフランクフルト株式市場ではポルシェが5.7%、メルセデスが5.2%、BMWが4.9%、それぞれ一時下落した。アウディやランボルギーニを傘下に持つフォルクスワーゲン(VW)は4.3%下落し、英アストンマーティンはロンドンで8.9%急落した。
ドイツ自動車工業会(VDA)は、トランプ氏の今回の措置が「自由でルールに基づいた貿易にとって致命的な兆候」であるとして、欧州連合(EU)に米政府との交渉を促した。ドイツの大手自動車メーカーだけでなく、ロバート・ボッシュやコンチネンタルなど部品メーカーも影響を受ける恐れがある。
ほとんどの独自動車メーカーは米国に工場を構え、米国内外向けに自動車を生産している。EUが対応を検討している中、貿易戦争がさらにエスカレートすれば、すでにコスト上昇と需要低迷に苦しむ業界に、さらなる打撃を与えることになる。
中国での販売減少に苦しむポルシェは、最も大きな打撃を受ける可能性がある。高級車メーカーであるポルシェは、過去15年間、米国で着実に成長を遂げ、ついには中国を抜いて世界最大の市場となった。しかし、ポルシェは米国に工場を持たないため、米国のディーラーは輸入に完全に依存している。
VDAのヒルデガルト・ミュラー会長は「関税は企業と、複雑に絡み合ったグローバルな供給網を持つ業界に大きな負担を強いる」と述べ、米国の措置が「特に北米の消費者にとって、負の影響をもたらす」と強調した。
●日本企業
日本生命保険は2026年度から、企業から預かる資金で運用する団体年金保険で、上乗せ利率を導入する。新規引き受けを実施している商品の場合、予定利率(契約者に約束する利回り)と合わせた利回りは現行の0.5%から1.45%に高まる。同様の仕組みを導入した明治安田生命保険に追随する。
上乗せ分は利回りを6年間保証し、その後は1年ごとに見直す。新規引き受けを実施している商品では、26年度から28年度までは0.95%、29年度から31年度までは0.75%の利回りを上乗せする。利回りは上振れする可能性があり、毎年5月に6年分の上乗せ利率を公表する。
これまでは予定利率と配当で最終的な利回りが決まる「2階建て」の商品設計としていたが、上乗せ利率を導入して「3階建て」構造とする。6年間の期限つきではあるものの、利回りが保証されることで企業側は年金運用の見通しが立てやすくなる。
日本生命は企業の団体年金で業界首位の約6兆円の資産を運用し、契約団体数は約5000に上る。上乗せ利率の導入で商品の魅力度を高め、導入後10年で団体年金の残高をさらに1兆円超積み上げることを目指す。
長引く低金利環境で団体年金の予定利率は下がり続けてきた。足元では、日銀によるマイナス金利解除や追加利上げで金利には先高観がある。24年4月には明治安田生命が同様の仕組みを導入して実質的な利回りを引き上げると発表している。競合他社が日本生命や明治安田生命に追随すれば、年金運用の安定が進みそうだ。
●先進国政治動向
ロイターとイプソスが米国で実施した世論調査で約49%がトランプ大統領の移民政策を支持し、うち共和党支持者は約86%に上った。トランプ氏の国政進出以来、米国人は移民に対するタカ派的な姿勢を強めていることが改めて浮き彫りになった。
一方、移民政策と並んで2024年の大統領選で大きな争点となった物価高対策を評価したのは38%にとどまり、共和党支持者でも約69%だった。経済を最優先課題に挙げたのは移民問題の約2倍となり、トランプ氏に警鐘を鳴らした格好だ。
今回の調査は3月21―23日に実施。メキシコから米国へ不法入国しようとして捕まった移民は今年2月に過去数十年間で最低水準まで減り、米税関・国境取締局(CBP)の職員2人は3月も横ばいか、さらに減少するペースだと、内部データに基づいて明らかにした。
共和党の世論調査担当者ウィット・エアーズ氏は、トランプ氏が不法移民の流入阻止、経済成長の促進、物価高の抑制、人種と性別を多様化するリベラルな政策の否定という4つの核心的な課題に焦点を当てることで大統領に返り咲くことができたと指摘。エアーズ氏は「これらの4つの課題の中で、移民問題が最も成功しているのは明らかだ」とした一方で、関税によって経済を脅かしている「インフレ率は上昇を続け、さまざまな経済指標は移民の指標に遠く及ばない」との見方を示した。
トランプ氏の就任後の支持率は全体的にほぼ安定しており、今回の調査では45%が評価した。これは第1次トランプ政権中の大方の評価より高く、バイデン前大統領の評価を上回っている。
調査では、国内での生活費を評価するとの回答は34%、外交政策を評価するとしたのは37%にとどまった。
今回の調査では、米国に不法滞在している移民の強制送還を増やすことを支持するとの回答は約60%に上り、第1次トランプ政権時の約半数から上昇した。
野党民主党は第1次トランプ政権では移民政策に猛反発していた。一方、トランプ氏が1798年に制定された「敵性外国人法」を適用し、ベネズエラから犯罪組織のメンバーらをエルサルバドルの収容施設に送還した措置を含め、第2次政権下ではあまり声を荒げていない。
今回の調査では、米国に不法滞在している移民は「逮捕され、強制送還の審理を待つ間は収容所に入れられるべきだ」という意見に賛成するとの回答は39%にとどまった。反対するとの回答は48%に達した。
移民支援団体「移民ハブ」の共同エグゼクティブディレクター、ベアトリス・ロペス氏は「米国民は反移民ではなく、反カオスなだけだ」との見方を示す。ロペス氏は、トランプ氏が犯罪者でない移民法違反の逮捕者を増やし、既に米国にいる人々から法的地位を剥奪しようとすることで世論の反発を受ける可能性があるとして「(トランプ氏は)明らかに犯罪者ではなく、自分たちの考える米国に適さない人々を狙い撃ちしている」と批判した。
●先進国中銀、金融当局
欧州中央銀行(ECB)のクラウディア・ブーフ銀行監督委員長は27日、年次報告書を発表し、ユーロ圏の銀行は耐性があるが、地政学的ショックやマクロ金融の脅威に対処する準備が必要との認識を示した。
トランプ米政権による主要分野での政策転換は金融市場を不安に陥れており、ロシアのウクライナ戦争とそれに続く欧米の制裁によって生じた金融的・政治的ストレスが悪化。政策当局者らは現在、これが成長、安定、金融リスクにどのような影響を与え得るかを評価している。
ブーフ氏は報告書で「地政学的紛争や金融制裁の影響による資産の質の悪化や経済の混乱が予想される場合、銀行には細心の注意、十分な資本、強固なガバナンスとリスク管理体制が求められる」と指摘した。
また銀行はサイバーセキュリティーの脅威に備える必要があり、レジリエンスやリスク管理で判明した弱点に対処する必要があるとした。
銀行の破綻により良く対処し、預金者を保護するために、危機管理と預金保険の枠組みの承認に向けて前進するよう議員らに呼びかけた。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
欧州中央銀行(ECB)が27日発表したデータによると、ユーロ圏の2月の銀行融資はさらに伸びが加速した。低迷していた与信が、金利低下によって回復している。
企業向け融資の伸び率は2.2%で、1月の2.0%を上回り2023年半ば以来の高水準となった。家計向け融資も1.3%から1.5%に伸びが加速した。
マネーサプライM3の伸び率は4.0%で1月と市場予想の3.8%を上回った。
ドイツの経済相と自動車業界団体は27日、トランプ米大統領が発表した輸入自動車に対する25%の関税について、欧米経済に悪影響を及ぼすと批判し、貿易戦争の激化を回避するための緊急協議を呼びかけた。
ハーベック経済相は「欧州連合(EU)は今、関税に対して断固とした対応を示さなければならない。米国に屈しないという姿勢を明確にすべきだ」と主張した。
ドイツ自動車工業会(VDA)は、新たな関税は自由でルールに基づいた貿易にとって「致命的なシグナル」であり、企業だけでなくグローバルなサプライチェーンにも悪影響を及ぼすと警告。ヒルデガード・ミュラー会長は「米国とEUの二国間協定について早急に交渉するよう求める」と述べた。
ただ、FAZ紙が報じたキール世界経済研究所(IfW)の調査によると、ドイツは米国の関税で最も打撃を受ける国ではなさそうだ。
IfWは、関税導入後1年間のドイツの国内総生産(GDP)は実質ベースで0.18%押し下げられると試算。押し下げ幅は、メキシコの1.81%、カナダの0.6%と比べて相対的に小さい。
実業家のイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」のインターネット技術者チームのメンバーとして知られるエドワード・コリスティン氏がかつて、盗難データの取引を手掛けたり、米連邦捜査局(FBI)の捜査官に迷惑行為を行ったりするなどしたサイバー犯罪組織とつながりを持っていたことが分かった。ロイターがデジタル化された記録を確認した。
政府のダウンサイジングを目指すDOGEは公的ネットワークへの広範なアクセス権を与えられている。コリスティン氏についてはこれまでにもわずか19歳であることや、自ら「ビッグボールズ(度胸のあるヤツ)」と名乗っていたことが報道の中心だった。
しかし企業の記録やデジタルデータおよび元関係者6人への取材によると、コリスティン氏は2022年頃の高校在学中に「ダイヤモンドCDN」というネットワークサービス会社を運営し、この企業のユーザーの一つに「EGodly」と名乗るサイバー犯罪集団が運営するウェブサイトが含まれていた。コリスティン氏とEGodlyの関係が明るみに出るのは初めてだ。
EGodlyは23年2月15日に秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」への投稿で、コリスティン氏の会社がサイバー攻撃からの防御などのサービスを提供したことに対して感謝の意を表し、同社の技術力を賞賛していた。
またロイターが確認したデジタル記録によると、EGodlyが運営していたウェブサイト「dataleak.fun」は22年10月から23年6月にかけて、ダイヤモンドCDNおよびコリスティン氏が所有する他の事業体に登録されたインターネット・プロトコル(IP)アドレスに紐付けられていた。さらにこの期間中にEGodlyのサイトにアクセスしようとした一部のユーザーはダイヤモンドCDNの「セキュリティーチェック」に誘導されることもあった。
コリスティン氏はコメント要請に応じなかった。DOGEにコリスティン氏について問い合わせるメールを送ったが返信はなかった。
コリスティン氏は米国務省と米国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティー・インフラストラクチャー・セキュリティー庁(CISA)の「上級顧問」になっている。両機関の関係者1人ずつが職員録でコリスティン氏の名前を確認したと証言した。
一方、ビジネス向けSNSのリンクトインにおけるコリスティン氏のプロフィールは「米政府のボランティア(インターン)の配管工」となっている。
国務省はコリスティン氏に関する問い合わせに返答せず、CISAもコメントを控えた。EGodlyのテレグラムチャンネルは過去1年間にわたり更新が止まったまま。また、EGodlyに関与した、または関わりのあった8人にコメントを求めたが、いずれも回答は得られなかった。
<彼らは悪い連中>
インターネット情報分析会社のドメインツールズによると、ダイヤモンドCDNのウェブサイトは22年半ばに登録され「優れたセキュリティーツール」を提供するとともに「インフラコストの削減」を支援すると謳っていた。
一方、EGodlyは23年に自社のテレグラムチャンネルで、電話番号の乗っ取り、中南米や東欧の法執行機関のメールアカウントへの侵入、仮想通貨の窃盗を行ったと自慢げに説明していた。同年初めには自分たちを捜査しているとするFBI捜査官の個人情報を拡散し、電話番号や家の写真などをテレグラム上で公開。さらにこの捜査官へのいたずら電話の音声記録や、車内から撮影した動画を投稿した。この動画にはデラウェア州ウィルミントンにある捜査官の家の前を通り過ぎる車内から「おれたちはEGodlyだ。お前はクソ野郎だ」と叫ぶ様子が映っていた。
ロイターはEGodlyのサイバー犯罪について独自に検証することはできなかった。しかし記録された動画については、ウィルミントンの住所を訪れて真正性を確認した。
EGodlyの標的になったFBI捜査官によると、EGodlyが法執行機関の目にとまったのは、虚偽の緊急通報を行って武装した警察部隊の出動が必要になるような「スワッティング」と呼ばれる行為と関係があったため。今は退職しているこの捜査官は「彼らは悪い連中だ。絶対にまともなグループではない」と述べた。ただ、それ以上は迷惑行為についてのコメントを拒否し、EGodlyがFBIの捜査対象であったのか、あるいは現在も捜査が続いているのかについても明言しなかった。FBIは、EGodlyに関するコメント要請に応じなかった。
EGodlyによる嫌がらせを受けた人物やEGodlyを追跡しているサイバー犯罪研究者は、グループの構成員などからEGodlyは熟練した犯罪者で構成されていると見ている。
バイデン前政権下でCISAの副長官を務めたニティン・ナタラジャン氏は、たとえコリスティン氏とEGodlyの関係が短期間だったとしても、わずか2年前にEGodlyにサービスを提供していた人物が現在、政府のネットワークに広範なアクセス権を持つグループの一員になっていることは憂慮すべき事態だと指摘。「これは遠い過去の話ではない。最近の活動や、彼が関与していたグループの性質を考えると、間違いなく懸念すべきことだ」と眉をひそめた。
ブラックロック・インベストメント・インスティテュート(BII)のジャン・ボアバン氏は、欧州株の明るい見通しは防衛や銀行などの部門に限られているとして、米国株が近く、欧州株に対する長年の優位性を再び取り戻すとの見通しを示した。
ここ数年の傾向とは逆に、ストックス欧州600指数は今年1-3月期、ドル建てでS&P500種株価指数を記録的なパフォーマンスで上回っている。ウクライナでの停戦合意への楽観的な見方と、ドイツが防衛・インフラ支出増加のため、財政拡大政策へ転換したことなどを背景に、防衛関連株が過去最高値を更新したことが主な要因だ。ストックス欧州600銀行株指数も、堅調な収益を背景に、今年に入って28%上昇している。
ボアバン氏はインタビューで「今後6-12カ月の期間で、米国よりも欧州の方が優れているという確信はまだない。防衛以外の分野でもっと財政的な刺激策が必要であり、その実施が鍵となる」と述べた。
一方の米国では、景気減速の兆候とテック大手の高い評価額に対する疑念が、市場を混乱させている。トランプ米大統領が主要貿易相手国に対し「相互関税」を発動するとしている4月2日を前に、世界的にボラティリティは上昇している。
ボアバン氏は、米国株市場は「多少の関税が存在する世界でも乗り切れる」と述べ、関税に関する不確実性が解消されれば、米国の収益見通しの下方修正は短期間で終わるとの見方を示した。同氏は「10%の関税が適正な着地点になる可能性が高いと考えている。米国はそれに適応できるだろう。ただ、それ以上の関税が課された場合は話は別だ」としている。
同氏の見解は、UBSグループやシティグループなどの予測とは異なる。UBSのチーフストラテジスト、バヌー・バウェジャ氏は今週、消費の低迷が企業収益を圧迫し、S&P500種株価指数がさらに8%下落すると予想した。また、シティグループのベアータ・マンシー氏は、昨年10月時点で欧州の株価上昇を予測していたが、さらなる上昇を見込んでいる。
ボあバン氏は欧州株に対しては中立的な推奨を行い、戦術的には米国株をオーバーウエートとしている。
同氏は「今、最も重要なのは、不確実性がまひ状態を引き起こす可能性があるということだ。関税の正確な内容が明らかになれば、一部の部門に悪影響、他の部門には好影響を及ぼす可能性があるが、市場はそれに対応していくだろう」と述べた。
トランプ米政権の包括的な関税政策の目的を特定するのは簡単ではない。ドナルド・トランプ大統領は、貿易相手国を威嚇し、それらの国々への影響力を強めるための脅しとして関税を利用することがある。一方、減税や他の優先事項の財源となる新たな税収を得ることが、主要な動機のように思われることもある。
しかし、トランプ政権当局者が目的に挙げることが最も多いのは、製造業の雇用を米国内に戻すこと、つまり米国の再工業化だ。JD・バンス副大統領は今月、ミシガン州での演説で、「見返りを得たいなら米国内に(工場を)建てることだ。ペナルティーを与えられたいなら米国の外に建てればいい。それほど単純なことだ」と述べた。
関税が幅広く不人気であることは、トランプ政権にこの政策の推進を断念させる要因にはなっていない。株式投資家は明らかにおびえている。トランプ氏が新たな関税の導入や関税の引き上げを発表するたびに株価は急落し、その発動を延期あるいは取りやめにすると株価は上昇する。消費者景況感指数は最近、29カ月ぶりの低水準となった。将来の状況についての期待指数は今月15%低下し、コロナ禍後で最大の落ち込みを記録した。中小企業経営者を対象とする2月の調査では、事業拡大を計画しているとの回答が2020年4月以来の大幅な減少となった。
ハワード・ラトニック商務長官は、たとえ関税がリセッション(景気後退)を引き起こしたとしても「それだけの価値がある」と述べている。どのような痛みがあったとしても、その先に大きな利益が待っているからだという。だが、これは疑わしい。われわれの分析では、大規模な再工業化が起こる可能性は極めて低いことが示されている。貿易黒字幅が大きな国でも、雇用全体に占める工場労働者の割合は縮小している。米国も同じ道をたどると考えるべき理由がある。
あらゆる証拠に反して、トランプ政権内の再工業化論者らは二つの基本的なメカニズムの作用を信じているようだ。第一に、関税によって貿易がより均衡の取れたものになる。第二に、より均衡の取れた貿易によって、製造業の就業者比率の低下という長期トレンドが反転する。
一つ目の作用を信じることの問題点は、貿易戦争によって貿易赤字は縮小しないということだ。関税は輸入を減少させるかもしれないが、貿易相手国からの報復関税(既に進行している)によって輸出も減少する。関税はまた、貿易相手国の通貨に対するドルの価値を高め、米国の輸出競争力を低下させる傾向がある。第1次トランプ政権が貿易戦争をしていた期間の貿易赤字の国内総生産(GDP)比が3%前後で推移し、現在とほぼ同じ水準だったのはそのためだ。
第二に、世界中の先進国で工場労働者の割合が減っており、持続的に多額の貿易黒字を計上しているドイツも例外ではない。ドイツの貿易収支は2000年から24年の間に、GDP比で1.5%の赤字から5.8%の黒字に転換した。同じ時期に、同国の工場労働者の割合は20%から16%に低下した。21年の調査によると、国の貿易収支に明確な違いがあるにもかかわらず、主要な工業国である米国とドイツでの製造業のシェア縮小度合いは同程度だった。
米国の輸入品の約45%が自国での製造に使われる原材料だと認識することも重要だ。これらの原材料に関税が課されると、国内製造業が打撃を受ける。米国の自動車メーカーが政権に対し、鉄鋼に関税を課さないよう懇願していたのはなぜか。また、米アルミ最大手のアルコアが関税の免除を求めていたのはなぜか。
極めて可能性は低いが、米国の製造業の輸出が貿易赤字を解消できるほどに増え、それに応じて雇用が増えたとしても、米国の製造業労働者の割合は8%から9%にしか上がらないとみられる。これを変革的とは呼べない。
トランプ氏が思い描く、米国の本格的な再工業化に向けた確固たる道筋は、われわれには見えない。しかしわれわれは国内生産の促進策は強く支持する。特に再生可能エネルギーとクリーンエネルギー関連製品の国内生産だ。この分野の製品には、変動が大きいクリーンエネルギーを蓄えるための電力網規模の蓄電池から、電気自動車(EV)、ヒートポンプ、風力発電用タービンまでさまざまなものが含まれる。戦略的・国家安全保障上の理由から、半導体製品の国内生産も重要だ。短期的な収益性が不透明なことから、これらのエネルギー源や製品への民間部門の投資は歴史的に不十分だった。
歴史は二つのことを明確に示している。第一に、われわれが先に指摘した類いの国内投資の促進は、単に可能であるだけではなく既に行われている。それは、インフレ抑制法や米半導体支援法(CHIPS法)、超党派で可決されたインフラ投資法に基づく税額控除や補助金付き融資、助成金に支えられている。工場建設の投資額は、2019年から24年の間にインフレ調整後で2倍超になっている。
第二に、トランプ氏のチームは関税引き上げは米国のためになると信じているが、われわれが知る限り、先進諸国の歴史の中で広範な関税がプラスの影響をもたらした例は一つもない。政権当局者が失敗に気付くための時間は、まだ十分に残されている。しかし彼らが失敗に気付かず、不人気な政策を強化し続けるなら、景気後退にはそれだけの価値があるというラトニック氏の主張が試されることになるかもしれない。
開かれた貿易に対する障壁が、ここ数十年なかった速さで世界を席巻している。こうした保護主義の連鎖は、1930年代に世界中を巻き込み、大恐慌を悪化させた孤立主義的な熱狂を思い起こさせる。
それはドナルド・トランプ米大統領が新たに発動する広範な関税だけの問題ではない。同氏の関税は欧州や中国、カナダから多数の米国製品を標的にした報復措置を引き起こした。
トランプ氏が政権に返り咲く前から、多くの国が貿易障壁を引き上げていた。大抵は中国を標的としており、電気自動車(EV)や鉄鋼などの外国製品が流入し、自国産業を圧迫するのに対抗するためだった。
このような取り組みは目下、各地に広まっている。米国が関税の壁を高めることで、世界中に押し寄せるだろう新たな製品の波に身構えているのだ。欧州連合(EU)は今月、トランプ氏の25%の鉄鋼・アルミニウム関税発動によって米国から振り向けられる輸入品の増加に備え、域内の鉄鋼・アルミメーカーの保護措置を強化する方針を打ち出した。
経済学者や歴史家によると、最近の一連の動きは、米国で1930年に施行された「スムート・ホーリー関税法」以来の大規模かつ広範な保護主義的活動の急速な高まりに世界が向かっている可能性を示唆する。世界中の国々が同法をきっかけに関税の壁に隠れて閉じこもるようになり、それが第2次世界大戦後まで続いた。
ただ、経済学者らは1930年代の大恐慌やその当時の世界貿易崩壊を再現する状況に世界が向かっているとは見ていない。世界的な関税率の平均は1930年代~40年代と比べ、依然としてはるかに低い。
とはいえ関税やその他の貿易障壁が高まるにつれ、長く続くダメージが経済にも外交にも及びかねないと彼らは警告する。それに伴うリスクには、景気減速やインフレ高進、世界的な協力欠如により長年の同盟関係がさらに分断される可能性などがある。
世界貿易機関(WTO)は第2次世界大戦後の先進国間の合意にルーツがあり、1930年代の近隣窮乏化政策を封じ込める狙いがあった。だが最近は紛争を仲裁し、統合を促進する役割をほぼ失っている。
トランプ氏は自由貿易のせいで米国の雇用や産業が他国に奪われたと主張し、自ら仕掛ける貿易闘争を全く新しいレベルに持ち込む構えだ。それはさらに大がかりな報復の嵐を招く恐れがある。同氏は26日、各国から米国に輸出される自動車に25%の関税を課すと発表した。
カナダが米国製コンピューターやスポーツ用品に新たな関税を課すなど、ここ数週間に発動された米国への対抗措置だけでなく、多くの国々は中国への圧力も強めている。
2月には韓国とベトナムが、値引き競争に関する地元メーカーの苦情を受け、中国から輸入する鉄鋼製品に厳しいペナルティーを科した。同様にメキシコは中国製の化学物資とビニールシートに対する反ダンピング(不当廉売)調査を開始。インドネシアは中国などから輸入する包装用ナイロンフィルムに新たな関税を課す準備をしている。
経済制裁下にあるロシアでさえ、ウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席の良好な関係にもかかわらず、中国車の流入を食い止めようとしている。ロシアはここ数週間に輸入車の処分に対する課税額を引き上げ、実質的に輸入車の保有コストが跳ね上がるようにした。ロシアで新たに販売される自動車の半分以上を中国車が占めている。2022年のウクライナ侵攻前は10%にも満たなかった。
「われわれは今、全面的とは言わないまでも、はるかに広範な貿易戦争の入り口にいるようだ」。国際通貨基金(IMF)の元職員で、現在はコーネル大学教授(貿易政策)のエスワー・プラサド氏はこう述べた。この新たな敵対的状況において「どの国も自国のために行動している」と指摘した。
開かれた貿易を推進するスイスの非営利団体(NPO)グローバル・トレード・アラートによると、20カ国・地域(G20)で実施されている制限措置は3月1日時点で4650に上った。ここには関税や反ダンピング税、輸入割当制、その他の輸入規制が含まれる。この数は2016年に第1次トランプ政権が始まってから75%増加しており、2008年末時点で実施されていた同様の輸入制限のほぼ10倍に拡大した。
米国の場合、5200の製品カテゴリーのうち90%以上が輸入制限の対象となり、第1次トランプ政権直前の約50%から拡大している。課税政策を調査するシンクタンク、タックス・ファンデーションによると、米国の平均輸入関税率は現在8.4%と1946年の水準に戻り、トランプ氏の1期目がスタートした2016年の1.5%から上昇している。
格付け大手フィッチ・レーティングスの試算によると、トランプ氏が警告している関税を全て実行すれば、米国の平均輸入関税率は18%に達する可能性がある。そうなれば90年ぶりの高水準だ。
1930年代をほうふつ
1930年代の関税は、世界貿易の終焉(しゅうえん)を告げるものだった。当時、米国など主要経済国が不況と大量失業に見舞われる中、世界貿易はすでに衰退しつつあった。米国の農業や製造業を外国との競争から守るスムート・ホーリー法が施行され、米国の輸入関税を約20%に引き上げる道を開いた。他の経済国はこれに対抗し、貿易障壁を引き上げた。
終戦後の1947年、米国など二十数カ国が「関税と貿易に関する一般協定(GATT)」に署名した。国際貿易への障壁を引き下げ、崩壊した世界経済を立て直すためだった。主要経済国の平均関税率は1947年の約22%から1964年には14%、1999年には3%まで下がった。1995年にはWTOが発足し、GATTを引き継いだ。
関税率の低下は世界貿易の急増をもたらし、消費者物価を押し下げた。だが中国などの低コスト国に雇用が移ったことで、先進国の産業を空洞化させたとの非難も起きた。そうした反発の声が、最初のトランプ政権下での新たな関税につながっている。
世界経済の変化を踏まえると、いま拡大する貿易戦争の影響は1930年代ほど大きな痛みではないかもしれない。多くの富裕国にとってモノよりサービスの重要性が高まり、各国の中央銀行と政府は景気刺激策による経済安定化について貴重な教訓を学んできた。
オーストラリアや日本など一部の国々は自国経済に悪影響が及ぶことを理由に、トランプ氏の新たな関税に報復するのを控えている。このような現実主義的な姿勢が、貿易戦争を制御不能の悪循環に陥らせるのを防ぐかもしれない、とHSBCのアジア担当チーフエコノミスト(香港在勤)のフレデリック・ニューマン氏は話す。
経済的な代償
それでも貿易紛争の拡大は企業にも消費者にも不確実性をもたらし、支出や投資、雇用に影を落としている。米国では消費者信頼感が低下し、株式相場は下落し、企業の投資意欲に関する調査は弱含んでいる。
ドイツの自動車メーカーBMWは最近、関税の影響で業績が10億ユーロ(約1620億円)下押しされるとの予想を示した。
「関税が行き過ぎると、全ての市場参加者がマイナスのスパイラルに陥る」とBMWのオリバー・ツィプセ最高経営責任者(CEO)は述べた。「そのゲームに勝者はいない」
フィッチ・レーティングスは先週、世界の経済成長率が2024年の2.9%から今年は2.4%前後に減速すると予想。米国内外で激化する貿易戦争が影響する可能性を理由に挙げた。
一度引き上げた貿易障壁を下げるのは難しい、と米国通商政策史の著書があるダートマス大学のダグラス・アーウィン教授(経済学)は指摘する。通商制限は交渉の切り札となる可能性があり、誰も「一方的な武装解除」をしたくないからだという。
地政学的な(特に中国との)ライバル関係や、産業立て直しや再軍備といった国内の優先課題を考え合わせると、今広がっている保護主義の熱を冷ますのは難しそうだ。
「緊張緩和シナリオは一筋縄ではいかない。それが心配だ」とアーウィン氏は言う。
米国の銀行にとって急成長が著しい事業がある。それは自分たちの市場シェアを奪おうとするライバルへの融資だ。
プライベートエクイティー(PE、未公開株)ファンドやヘッジファンド、プライベートクレジット投資会社といったノンバンクに対する銀行融資は、この5年間で2倍を上回るペースで伸びたことが、ブルームバーグが分析したデータで明らかになった。年率16%の増加は農業やクレジットカード、商業、製造業、外国政府といった他のカテゴリーでの融資をはるかに上回る。
この現象が裏付けるのは、米金融界で起きている地殻変動だ。金融危機をきっかけに銀行が特定タイプの融資から撤退し、その空白を比較的規制の緩い金融機関が埋めている。そうしたノンバンクの業績が上がると、銀行は資金を貸し出すことで自分らも収益を得ようとする。いわゆるシャドーバンクへの銀行貸し出しは、昨年1兆ドル(約150兆円)に達した。
トゥルイスト・セキュリティーズで銀行株を担当するブライアン・フォーラン氏は「銀行は奇妙なダンスを踊っているようだ」と語る。「実際のところ、自分らの競争相手に銀行は資金を融通している」と述べた。
住宅ローン業者や学生ローン業者、不動産投資信託(REIT)も含むノンバンク金融機関に資金を貸し出すことで、銀行は新たな収入源を期待できる。銀行の多くは預金獲得競争の激化で収益が圧迫されている。理論上はこうした仲介機関に貸すことで、銀行は個別企業のデフォルト(債務不履行)による貸し倒れリスクから部分的に守られる。
ロードアイランド州プロビデンスに本社を置く商業銀行シチズンズ・ファイナンシャル・グループでは、PE顧客数が2014年から2倍余りに増えたと、ブルース・バンソーン最高経営責任者(CEO)がインタビューで述べた。これら顧客の多くはシチズンズからの資金を活用してプライベートクレジット事業を拡大したという。
「直接的な競争で失う分よりも、プライベートクレジットの成長から得る利益の方が大きい」と同CEOは述べた。
しかしこうしたノンバンクへの銀行融資増加に、業界監督機関はかねて目を光らせている。
ボストン連銀のリポートから、急速に展開している現状が垣間見て取れる。昨年に連邦準備制度理事会(FRB)のストレステストを受けた大手31行は、2023年にプライベートクレジットおよびPEファンドに約3000億ドルの融資をコミットした。13年の100億ドルから30倍に増えている。
連邦預金保険公社(FDIC)と通貨監督庁(OCC)、FRBは最新の措置として、対ノンバンク融資の詳細開示を銀行に要求し始めた。融資額の急増とリスク上昇をその根拠としている。新たなルール順守は今年初めに義務付けられた。
FDICの規制対象となっている推定4500行のコールリポート(財務健全性報告)に基づくデータをブルームバーグが分析したところ、ノンバンクへの融資残高は昨年末の時点で全ローン残高の8.5%を占めていた。2010年には1%に満たなかった。
ムーディーズ・アナリティクスで銀行業界調査を率いるクリス・スタンレー氏はプライベートクレジット市場の大きさを指摘し、「今は離陸が始まった段階であり、着陸ではない」と述べた。
●中東情勢
●エマージング
フィリピンに配備された新たな米国のミサイルシステムは中国の重要な軍事・商業拠点を射程圏内に置く。これはドナルド・トランプ大統領にとって、米国はアジアの同盟諸国に対する中国の攻撃を抑止するというコミットメントの試金石となる。
米陸軍は昨年、1200マイル(約1930キロメートル)先の標的まで届くミサイルを発射できる「タイフォン」ミサイルシステムをフィリピン北部のルソン島の基地に移動させた。米軍がこれほど長射程の地上発射型システムを国外に配備するのは冷戦以降初のことだった。
米軍は太平洋地域における中国の中・長距離ミサイルの大規模な増強に対抗しようとしており、軍事専門家は米軍がタイフォンを広範な戦略的再配置の一環と位置付けていると指摘する。
中国との紛争が起きた場合、タイフォンのような陸上配備型ミサイルシステムは米国がフィリピンや台湾などの同盟相手を防衛する上で中心的な役割を果たす可能性がある。フィリピンは南シナ海のほぼ全域において領有権などを主張する中国と対立している。台湾については、中国は必要であれば武力行使も辞さない姿勢を示す。
中国政府はタイフォンの配備に警戒感を示し、米国とフィリピンは軍拡競争をあおっているとして非難した。
タイフォンはバイデン前政権時代にフィリピンに移設された。米国の同盟国の間では現在、中国との紛争が起きた場合にトランプ政権は防衛支援を行う意思があるのかどうかについて懸念が高まっており、その点においてタイフォンは重要な試金石として浮上している。ピート・ヘグセス米国防長官は今週、フィリピンと日本を訪問する予定となっており、米政権のインド太平洋戦略がこれまでよりも明確に示される可能性がある。
タイフォンは2種類のミサイルを発射できる。通常弾頭を搭載した「トマホーク」の射程は約1200マイルで、中国南東部の大部分や南シナ海、台湾海峡が射程圏内に入る。中国が台湾に侵攻すれば、こうしたミサイルは中国沿岸の防空システムやレーダーシステム、さらに広州や南京にある中国軍の指揮統制拠点を標的にできる。
トマホークよりも射程の短い「スタンダード・ミサイル6(SM-6)」は、中国やその他の敵対する艦船や航空機を標的にし、米国の権益を狙って発射された巡航ミサイルや弾道ミサイルを迎撃できる。陸軍関係者はSM-6について、中国とロシアが実験している極超音速ミサイルを、少なくとも飛行終盤で迎撃できる米国の唯一のミサイルだと語る。
中国との緊張
フィリピンで米陸軍は1年前、両国の合同軍事演習のためにタイフォンの発射機2基と作戦センター、支援車両をルソン島に移した。2022年後半に初めてこのシステムを引き渡された陸軍は、インド太平洋地域の高温多湿な気候下でテストを行う意向を示していた。
米陸軍はその後、配備の無期限延長に同意した。それ以来、フィリピンの司令官らは自国の軍隊のためにタイフォンを購入したいと述べており、同国の部隊は現在、このシステムを使用する訓練を受けている。
配備による即時の軍事的価値は限定的だった。完全なタイフォンの砲台は4基の発射機で構成され、ミサイルは用意されていなかった。それにもかかわらず、中国は強硬に反発した。
中国外務省はタイフォンの撤去を要求し、報復措置を取ると警告した。同省は2月、「中国は自国の安全保障上の利益が損なわれたり脅かされたりした場合、傍観することはない」と述べた。
中国と緊密な関係にあるロシアも非難に加わった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はタイフォンの配備を1983年の西ドイツにおける「パーシングII」ミサイルの配備になぞらえた。当時のソ連指導部は、この配備を西側のソ連に対する先制攻撃の準備だとみなした。
パーシングIIの配備は欧米で大規模な抗議を引き起こし、結果的に1987年の米国とソ連の中距離核戦力(INF)全廃条約締結につながった。同条約は射程300~3400マイルの地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有・製造・飛行実験を禁止した。
ただINF条約に含まれなかった中国は条約が対象とするようなミサイルを大量に蓄積することができた。トランプ政権1期目の2019年に米国は同条約から離脱し、陸軍は新たな中距離ミサイルシステムの整備を開始した。
トラックのトレーラーに搭載されたタイフォンは比較的容易に移動できる。軍用輸送機での移動も可能だ。艦船搭載型ミサイル発射装置と比較して、地上配備型ミサイルシステムは紛争の初期段階で発見・破壊されにくい。米国は将来的に、インド太平洋地域で各地にタイフォンを配備したり、同地域の同盟国に売却したりする可能性がある。そうなれば敵対勢力は、どこから攻撃されるかを推測するという難題に直面することになる。
軍備管理不拡散センターの研究アナリスト、ショーン・ロストカー氏は「米国は集約化された大規模な基地への依存から、弾力的な分散した戦力態勢へとシフトしている」と述べた。
潜在的な交渉カード
フィリピンでのタイフォン配備は、バイデン政権下でフィリピンの戦略的重要性が高まっていることを示していた。フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領は国内の軍事基地への米軍のアクセスを拡大した。世界の海上貿易の約3分の1が通過する南シナ海では、フィリピンの船舶や航空機は中国軍への対抗姿勢を示してきた。
日本を含むアジアの他の同盟国は、中国を攻撃できる米国のミサイルの配備を受け入れることにこれまでのところ難色を示しているが、それに匹敵する能力を独自に開発しようとしている。
トランプ政権もタイフォンをインド太平洋戦略における鍵と見なしているようだ。
米陸軍の新長官、ダン・ドリスコル氏は今月にX(旧ツイッター)への投稿で、「われわれはフィリピンでのダイナミックな展開を通じてMRC(中距離ミサイル発射システム)の抑止力を証明した」と述べた。MRCはタイフォンを指す。
一方、このような強力な米国のミサイルシステムを中国の近くに配備すれば事態がエスカレートして制御不能になり、偶発的に二つの核超大国の間で戦争が勃発することにもなりかねないと警告する向きもある。
「システムの存在自体がエスカレーションのリスクにつながる。これは紛争においてシステムを使用した場合に何が起こるかを考える以前の話だ」。米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」の軍事分析ディレクター、ジェニファー・カバナー氏はそう指摘する。同シンクタンクはリバタリアン(自由至上主義者)寄りで、抑制的な米外交政策を支持する。
同様の見解は、トランプ氏が任命した幹部の間にもみられる。南・東南アジア担当の国防副次官補、アンドリュー・バイヤーズ氏は、中国との関係においては対立を抑制することが望ましいとみている。就任前に同氏は、中国海警局(沿岸警備隊)が南シナ海の係争海域でのパトロールを減らす見返りとして、米国によるフィリピンからの資産引き揚げを提案していた。
マルコス大統領自身は、中国が南シナ海での攻撃的な行動をやめればタイフォンを撤去する考えを示している。
ウクライナを巡るトランプ氏とプーチン氏の協議を受け、フィリピンではタイフォンがトランプ氏と中国の習近平国家主席とのディール(取引)の一部になる可能性があるとの懸念も出ている。フィリピン大学アジアセンターの国際関係学講師、リチャード・ヘイダリアン氏は、そうした取引はフィリピンの利益を犠牲にする可能性があるとの見方を示す。
「フィリピンが(タイフォンを)どうするか、そしてトランプ政権がどうするかが、この先数カ月、数年にわたる抑止力ゲームの行方を決定づける」とヘイダリアン氏は述べた。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
米ハリウッド富裕層の子息が通うロサンゼルスの名門私立校が、米プロバスケットボールNBAのスター選手一家にちなんで名付けられた新たなスポーツ施設の建設費を調達するため、5500万ドル(約83億円)規模の起債を行った。
26日にカリフォルニア・エンタープライズ・デベロプメント・オーソリティーを通じ、米地方債の一種である「レベニュー債」を発行。格付けはS&Pグローバル・レーティングから「A」が付与された。募集要項によると、幹事会社はスティーフル・ニコラウス。
資金は、スポーツのトーナメントや大会を開催できない状態となっている築35年の体育館の建て替え費用に充てられる。新たな施設「ホリデーセンター」は、卒業生でプロバスケットボール選手のアーロン、ジャスティン、ドリューのホリデー3兄弟らにちなんで名付けられた。同兄弟の母親であるトーヤさんは、1999年から同校に勤め、現在は多様性・公平性・包括性・正義部門のディレクターを務めている。
1944年開校のキャンベル・ホールは、エンターテインメント業界幹部や有名NBA選手、投資家などの子息が通っていることで知られる。幼稚園から高校3年まであり、小学部の授業料は年間4万6100ドル、高学年では5万4100ドル。今年度の生徒数は1162人で、入学希望者の約30%を受け入れた。
同校の理事会には、ユニバーサル・ピクチャーズのドナ・ラングレー会長などが名を連ねているほか、卒業生には映画監督のポール・トーマス・アンダーソン氏や俳優のジョン・デービッド・ワシントン氏などがいる。
ホリデーセンターには、900人収容可能な観客席のほか、屋内・屋外の座席エリアを備えた食堂や教室スペースが設けられる予定だ。
キャンベル・ホールのジュリアン・ブル校長は電子メールで配布した声明で、「これまでに慈善活動で集めた3300万ドルに加え、免税債市場で調達した資金により、来年にはホリデーセンターの建設に着工することが可能となり、競争の激しい南カリフォルニアのスポーツ界で引き続き成功を収めることができるだろう」と説明した。ホリデー家が慈善活動の主要な寄付者だった。
ブル氏によると、債券発行で得た資金の一部は、同校が米地銀ファースト・リパブリック・バンクから借り入れた1260万ドルの借り換えにも活用される。ファースト・リパブリックは学校への融資でリーダー的存在だったが、同行の破綻を受けて、私立各校は地方債市場での資金調達にかじを切った。これにより、昨年は同部門向けの債券発行が急増した。
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場:**  
ドルはまちまち。トランプ米大統領の「相互関税」詳細を見極める動きがあり、カナダドルとメキシコペソは米自動車関税の影響で下落。  
- メキシコペソ:1.03%安(1ドル=20.329ペソ)  
- カナダドル:0.33%安(1米ドル=1.43カナダドル)  
- ドル/円:0.35%高(151.1円、3週間ぶりの高値)  
- ユーロ/ドル:0.38%高(1.0793ドル)  
**債券市場:**  
米長期債利回りが上昇。10年債利回りは4.37%、30年債は4.755%と約1カ月ぶりの高水準。  
**米国株式市場:**  
続落。自動車関税を受け、GM(7%超下落)やフォード(3.9%安)など自動車関連株が下落。EV大手テスラは0.4%高。S&P500は下落したが、アップルの上昇(1.05%高)が下支え。ダラー・ツリーは事業売却発表で11%急伸。  
**商品市場:**  
- **金先物**:安全資産需要が高まり、1.27%上昇(1オンス=3061.00ドル)。  
- **原油先物**:供給懸念を背景に0.39%高(1バレル=69.92ドル、1カ月ぶりの高値)。
ロンドン株式市場は反落し、鉱業株と自動車・部品株が下落。トランプ米大統領の輸入車関税発表やポンド高が影響した。FTSE100種指数は下落し、FTSE250種指数は0.62%安。鉱業株や自動車関連株が特に売られた。一方、小売りのネクストは利益見通し引き上げで10.5%上昇。  
欧州株式市場も続落し、自動車・部品株や資源株が下落。VWやBMW、ポルシェが下落し、部品大手ヴァレオは7.8%安。DAX指数は0.70%下落。  
ユーロ圏債券市場では、短期債利回りが低下。ドイツ2年債利回りは一時2.07%に低下し、ECBの利下げ観測がやや高まった。ドイツ10年債、イタリア10年債、フランス10年債の利回りも小幅に低下した。

備忘録(2025/3/26
●海外企業決算
●海外企業
資産運用大手の米ブラックロックは複雑なプライベート資産投資を既製ポートフォリオにまとめて個人投資家に提供する。同社はオルタナティブ資産のメジャープレーヤーになるべく、280億ドル(約4兆2000億円)を費やして複数のディールをまとめたばかりだ。
上場株と債券に複雑なPE資産とクレジットファンドを組み合わせたモデルポートフォリオは、資産運用業界では初の試みだとブラックロックは説明。いずれは他のオルタナティブ投資もこれに加える可能性があるという。
ファイナンシャルアドバイザーは26日にローンチしたこの運用モデルを用いて、プライベート市場の投資経験が乏しい顧客にオルタナティブ資産投資を提案しやすくなる。
ブラックロックで富裕層向け事業の共同責任者を務めるジェイミー・マジェラ氏は「アドバイザーは長年、プライベート市場へのアクセスを求めていた」とインタビューで指摘。「従来はファミリーオフィスや極一部の超富裕層向けだったプライベート市場で、より広い富裕層にアクセスを拡大することが目標だ」と語った。
同氏はアドバイザーからの引き合いが「非常に強い」と述べ、「毎日のように問い合わせがある」と話した。
このポートフォリオ中にプライベート資産が占める比率は平均15%で、カスタマイズが可能だという。手数料は開示されていない。
株式と債券の低コストファンドを提供することで知られるブラックロックは、1年前から手数料の高いプライベート市場への進出を加速させている。125億ドルでグローバル・インフラストラクチャー・パートナーズを、25億5000万ポンド(約4900億円)で英データ会社のプレキンを買収したブラックロックは、120億ドルを投じてプライベートクレジット会社のHPSインベストメント・パートナーズ買収を完了する過程にある。
ブラックロックは個人投資家にさまざまなプライベート市場へのアクセスを単一のポートフォリオを通じて提供するため、スイスのプライベート資産管理会社パートナーズ・グループ・ホールディングと昨年提携した。
米国の大手食品スーパー、クローガー(KR.N), opens new tabとアルバートソンズ(ACI.N), opens new tabの2社が、250億ドル規模の合併計画の破談を巡って訴訟合戦を繰り広げる展開になっている。
先に訴えを起こしたのはアルバートソンズで、裁判所が合併は反トラスト法(独占禁止法)違反だという米連邦取引委員会(FTC)の主張を認めて差し止めを命じた後、クローガーに重大な契約違反があったとして昨年12月に賠償金と6億ドルの違約金支払いを請求した。
これに対してクローガーが25日、アルバートソンズを提訴。「不正行為」があったと主張し、合併の承認を得るために行った投資の損害を支払うよう求めている。
クローガーによると、裁判所の差し止め命令が出されるずっと前からアルバートソンズは合併計画推進よりも、クローガーとの法廷闘争に注力していたという。
しかしアルバートソンズはこの日発表した声明で、同社は当初から合併を成功させる強い決意を有していた半面、最後まで取引する姿勢を放棄したのはクローガーの方だと反論している。
またアルバートソンズはロイターに向けた電子メールで「クローガーの根拠薄弱な主張は経営陣が抱える問題や、合併協定に基づく契約履行義務を明らかに果たせなかったという事実から関心をそらし、賠償金支払いを免れるための意図的な戦術だ」と述べた。
独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の筆頭株主である持ち株会社のポルシェSE(PSHG_p.DE), opens new tabは26日、投資の拡大と保有株の多様化を図る方針を示した。
投資管理を担当する取締役のルッツ・メシュケ氏は、継続的に有望な投資機会を模索しており、大規模な投資を行うための資金力も有していると述べた。
ポルシェSEは保有するVW株の減損により、200億ユーロ(215億7000万ドル)の税引き後損失を計上した。
取締役会はVWからの配当金が減少したことを理由に、優先株の配当金を昨年の1株当たり2.56ユーロから1.91ユーロに引き下げることを提案した。
ポルシェSEは傘下のVWとポルシェ(P911_p.DE), opens new tabが進めているコスト削減プログラムについて、収益性を大幅に高める可能性があるが、「厳格な実施」に注力する必要があると指摘した。
●日本企業
●先進国政治動向
米トランプ政権には挑発的な言動をする人々がそろっている。彼らはケーブルテレビのニュースに頻繁に登場し、ソーシャルメディア上で攻撃的な姿勢を取ることで著名人になった。
ビンス・ヘイリー氏(58)はそのような人物ではない。
ホワイトハウスの国内政策会議(DPC)を率いるヘイリー氏は、脚光を浴びることを好まない。ほぼ休眠状態になっている自身のX(旧ツイッター)アカウントに投稿したのは1度だけで、インタビューにもめったに応じない。インターネット上には彼の写真がほんのわずかしかない。
しかしヘイリー氏を知る20人余りへの取材によれば、知名度の低さとは裏腹にその影響力は大きい。彼は2016年の大統領選以来トランプ氏のために働いてきた一握りの信頼されているアドバイザーの1人だ。トランプ氏のスピーチライターを長年務めており、トランプ氏の考えを伝えるとともに保守的な有権者を取り込む政策案を見分けるすべを身に付けている。
人工妊娠中絶などの問題についての共和党の立場を形作り、24年の大統領選期間中に暗号資産(仮想通貨)や反DEI(多様性・公平性・包摂性)に関するトランプ氏の取り組みの基盤を築いたとして、同僚から評価されている。また「フリーダム・シティー(自由都市)」「国立英雄公園」といった型破りなアイデアをトランプ氏が生み出すのを手助けしてきた。
トランプ政権1期目にDPCのディレクターを務めたジョー・グローガン氏は「トランプ大統領の思考過程や、彼に受ける政策、彼が好きなもの、彼が好きにならないものを、これほど見抜いている人物を他に思い浮かべることができない」と話す。
トランプ大統領は2カ月前の就任以降、数十件の大統領令に署名してきたが、ヘイリー氏はDPCのトップとして、政策担当の大統領次席補佐官を務めるスティーブン・ミラー氏と緊密に連携し、これら大統領令の作成を支えてきた。ヘイリー氏はトランプ氏が選挙活動中にした公約が確実に守られるようにする任務を負う。DPCはホワイトハウス西棟内で、非公式に「Office of Promises Kept(公約順守室)」とさえ呼ばれている。
政権1期目でトランプ氏の上級顧問を務め、今もホワイトハウスと緊密な関係を保っているケリーアン・コンウェー氏は「ビンス(ヘイリー氏)やスティーブン・ミラーは政策通だ。これら政策通の人々には勢いがあると感じている」と話した。
政権当局者によると、ヘイリー氏は医療政策、薬価の透明性、エネルギーと住宅に関する問題や、米国の建国250周年の祝賀計画、信教の自由に関する委員会といった、大統領にとって重要なプロジェクトで中心的な役割を担っている。
トランプ氏は移民・国境問題など大統領の看板政策の監督をミラー氏に任せる一方で、歳出削減のための広範な権限をイーロン・マスク氏に与えた。その結果ヘイリー氏は、DPCの任務を確実に果たすため、影響力を持つ人々で混み合う状況をうまく切り抜けないといけない。
バラク・オバマ元大統領の下で同じ役職に就いていたセシリア・ムニョス氏は、同じ領域にミラー氏とマスク氏がいることに触れ、「料理人がたくさんいる状態だ。このため仕事はかなり複雑になるだろう」と話す。
ギングリッチ氏の下で知識を吸収
共和党の政策に関するヘイリー氏の深い知識の一部は、元下院議長のニュート・ギングリッチ氏の下で長年働いた経験と、さまざまな保守系グループとの関わりから得られたものだ。
ヘイリー氏は2008年、ギングリッチ氏と共に、油田開発の拡大を求める内容の「Drill Here, Drill Now, Pay Less(ここで掘って、今掘って、負担を抑えよう)」と題した本を執筆・出版した。この本は「drill, baby, drill(掘って、掘って、掘りまくれ)」というスローガンの下でエネルギー生産拡大を重視する共和党の取り組みの一環だった。トランプ氏と彼の有力アドバイザーらは今日まで、このスローガンを活用している。
ヘイリー氏は2016年からトランプ氏の下で働いており、3回の大統領選、2回の大統領任期、数え切れないほどのスタッフの入れ替えに関わってきた。選挙運動の元担当者によると、昨年の選挙戦では、トランプ氏がプライベートジェットを使う際にしばしば隣にヘイリー氏が座っていたという。
ヘイリー氏は長年、ロス・ワージントン氏と緊密に協力してきた。ワージントン氏もギングリッチ氏の側近だった人物で、現在はトランプ氏の演説原稿作成の責任者となっている。ヘイリー氏の現在の仕事場は、以前ミラー氏が使っていたホワイトハウス西棟のオフィスだ。隣にはワージントン氏のオフィスがある。
第1次トランプ政権と選挙集会では、ヘイリー氏が演説原稿を執筆し、トランプ氏が演説する際にテレプロンプター操作係の隣に立って、トランプ氏が原稿から逸脱する様子を見ていたこともあった。トランプ氏が参加したイベントで、トランスジェンダー選手の女子スポーツ参加の禁止といった特定の政策に対する支持者の反応を見極めるために、ヘイリー氏が会場を見回していたことも知られている。こうして、最も人気のある政策がトランプ氏の2期目の政策課題の中心に据えられた。
トランプ氏の選挙陣営で世論調査を担当したトニー・ファブリツィオ氏は、ヘイリー氏について「トランプ政策の歩く百科事典のような存在だ」と語る。「彼は大統領の考えや、物事の表現の仕方を非常によく理解している」
昨年の大統領選期間中に、トランプ氏が民主主義に戦争を仕掛けているという民主党の主張を逆手に取る策を発案したのはヘイリー氏だった。トランプ氏の選挙で共同責任者を務めたクリス・ラシビータ氏はそう明かす。ヘイリー氏はトランプ氏のために、民主党による司法制度の武器化こそが真の「民主主義への戦争」だと訴える演説原稿を作成した。このフレーズは選挙集会のポスターにも使用された。
ヘイリー氏はロバート・ケネディ・ジュニア氏がトランプ陣営に参加するかなり前から、子どもの慢性疾患患者数の増加はトランプ氏が焦点を当てるべき問題だとみていた。子どもの慢性疾患に取り組む関係者と会った後、この問題に関する演説原稿を書き、トランプ氏がそれを2023年6月に発表したという。トランプ陣営が「アメリカを再び健康に(MAHA)」というキャッチフレーズを作る1年以上前のことだった。ヘイリー氏と緊密に協力して仕事をしていた人物が明らかにした。
トランプ氏は演説の中で、自閉症や自己免疫疾患などの増加について調査する委員会の設置を約束した。ケネディ氏の厚生長官への起用が承認された直後に委員会の設置が発表された。
ヘイリー氏は、トランプ氏が暗号資産を政策に取り入れる上でも中心的な役割を果たした。少なくとも1人の暗号資産業界幹部と面会した。面会相手のデービッド・ベイリー氏は、テネシー州ナッシュビルで開催される暗号資産関連の会議でトランプ氏のために1500万ドル(約22億6000万円)の資金調達と演説を行うことを提案した。トランプ氏は夕食会と演説の場に参加することに同意した。
ヘイリー氏はまた、昨年の共和党政策綱領に盛り込まれた暗号資産に関する文言を作成するとともに、どうすればトランプ氏がこの分野をより積極的に支援できるかについてアイデアを求めた。
ドイツでの2月の総選挙で第1党となった保守系のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と、ショルツ首相の中道左派、社会民主党(SPD)は26日、連立政権樹立に向け、次の段階の交渉に入ることで合意した。
移民関連などの政策では依然隔たりはあるものの、CDU・CSUを率いるメルツ氏らが28日から最終文書の策定作業に着手すると表明した。
次期首相への就任が見込まれるメルツ氏は、4月末までに連立政権を樹立したい意向だ。
CDU・CSUとSPDはこの2週間、16分野の政策草案に関して議論。26日には「われわれは、強力で政策遂行能力のある政府基盤を築くという目標を共有している」との声明を公表した。
トランプ氏が米大統領に返り咲き、ロシアがウクライナ侵攻を続けるといった対外的な要因に加え、ドイツ経済は低迷が続いており、早期の政権の樹立が待たれる状態となっている。
ドイツ国内で多くの死傷者を出した事件が複数発生したことを受けて、警察と情報機関の監視権限を大幅に拡大する必要性については、草案で一致している。ただ、不法移民への対応を巡って温度差があるなど、主要政策を巡って隔たりが残っている。
一方、総選挙で第2党に躍進した反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、世論調査で支持率を伸ばしている。
ドナルド・トランプ米大統領は26日、各国から米国に輸出される自動車に対し、25%の関税を課すと発表した。他国製の自動車やトラックに関税を課すとする公約を実行に移すことになる。
トランプ氏は大統領執務室で、「米国外で製造される全ての自動車に25%の関税を課す予定だ」と説明。米国と自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコなどは対象外となることも期待されていたが、その可能性を否定するような発言となった。
25%の関税がいつ発動されるか、また自動車部品なども対象となるかは不明。トランプ氏の通商政策担当チームはここ数日間にわたり、自動車部品を関税対象から除外することを検討していた。
トランプ氏は数カ月前から4月2日に相互関税を発動し、米国の関税を他国が課している関税と同水準にすると述べていた。だがここ数日間で一部の国に対しては、その国が課している関税と同水準の関税を課さない可能性があることを示唆。ホワイトハウスは各国にある程度の寛容さを示す計画を検討していると政権高官も述べていた。
トランプ氏は25日、「おそらく相互主義よりも寛容になるだろう。なぜなら、もし相互主義を取れば、人々にとってはとても厳しいものになるからだ」とニュースマックスとのインタビューで述べていた。
トランプ氏の経済チームは税金や規制などの障壁に基づいて貿易相手国の関税率を算出し、相互関税措置の準備を進めているとも政権高官は述べた。ただし算出された各国の関税率を全額適用しない可能性もある政権高官は述べている。
ドナルド・トランプ米大統領は、ウクライナ戦争の早期終結に向けた自身の取り組みが思うように進んでいないことを認めた。その上で、ロシアが西側諸国からさらなる譲歩を引き出そうと、米国が仲介する停戦交渉を意図的に遅らせているように見受けられると指摘した。
トランプ氏のコメントは、ホワイトハウスが25日に黒海での停戦合意を取り付けたと発表した数時間後に出された。ホワイトハウスが合意を発表すると、ロシアは直ちに、停戦条件として西側諸国からの一段の制裁緩和を要求した。
トランプ氏は、ロシア政府が合意の履行を先延ばしにしていることを問われると、ロシア政府は「時間稼ぎをしている」可能性があると述べた。不動産交渉における自身の過去の戦術になぞらえた。
トランプ氏はニュースマックスのインタビューで、「私が長年やってきたことだ。契約書に署名したくない、ゲームにとどまりたい気持ちもあるが、そこまで乗り気ではない心境かもしれない」と語った。
ロシア政府にコメントを求めたが、現時点で回答は得られていない。
●先進国中銀、金融当局
英金融行動監視機構(FCA)は25日に公表した向こう5年間の戦略文書で、成長を促すために金融機関のリスクテークに対する姿勢を見直す方針を示した。
労働党政権は金融サービス業の成長を加速することで低迷する経済を活性化させようとしており、FCAの新たな戦略を歓迎しそうだ。
FCAは先に、「消費者を支える」、「犯罪との闘い」、「成長の支援」、「より優れた規制当局になること」の4項目を優先課題に掲げた。アルダー長官は戦略文書で、この一環として「リスクに対する組織としての姿勢を見直す」と表明。「これまでは決定に伴うリスクばかりに焦点が当てられ、決定を下さなかったことによる機会損失が軽視されてきた。そうした状況を変えたい」と意欲を示した。
戦略文書はリスクテーク評価の変更について具体的な施策にはほとんど触れていないが、「適切な行動を取ろうとしている企業に対しては監視を軽減する」とした。
金融業界から寄せられた意見に基づき、「広範な見直しは避ける」と言明。適切なバランスを取るために業界と対話を続けると強調した。また金融機関の作業を簡素化するために、時代に即さなくなっている大量の指針や監督関連の文書を廃止する方針も示した。
米民主党のウォーレン上院議員は、トランプ米大統領が政府職員大量解雇の一環としてパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長を解任する可能性があると警告。市場を混乱させる恐れがあると述べた。
ウォーレン氏(マサチューセッツ州)はトランプ氏が主張する、独立機関の当局者を解任できるという広範囲な権限に触れ、「誰も安全ではない。FRB議長ですらもだ」と26日のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで発言。
「トランプ氏が全ての公務員を一掃できるのなら、米消費者金融保護局(CFPB)を一方的に廃止できるのなら、それは一種の無法状態で、全ての権力が『王』に集中することになる」と指摘。トランプ氏のこうした行動は違法だと続けた。
ウォーレン議員はパウエル氏が金融規制の緩和を支持しているとして、バイデン前米大統領による同氏のFRB議長再任に反対した。しかしウォーレン氏はこの日、FRBや米連邦取引委員会(FTC)といった機関の独立性を支持する立場を明確に表明。
その上で、資産家イーロン・マスク氏やトランプ氏による連邦職員の大量解雇を「無法行為」だと批判した。
投資家を保護する規制を弱めることは、米資本市場の魅力を損ない、最終的に米経済を弱体化させるリスクがあるともウォーレン氏は警告。「われわれの株式市場がこれほど価値ある理由の一つは、厳格に執行されている公平で透明なルールが存在するからだ」と論じた。
さらに、トランプ氏が米証券取引委員会(SEC)次期委員長に指名したポール・アトキンス氏について、2008年の金融危機前に規制緩和に賛成票を投じたとして厳しく批判。アトキンス氏は金融危機とそれに続く公的資金による救済措置から教訓を学ばなかったと、ウォーレン氏は示唆した。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
パリにも春が訪れた。カフェは活気にあふれ、経済も改善の兆しを見せている。バリアフリーの地下鉄拡張工事により、15分で市内を移動できるようになった。
しかし、富裕層が去っていく足音も聞こえる。2人のフランス人が、1人はドバイへ、もう1人はスイスへ移住する計画を私に打ち明けた。
「ノンドム(英国非永住者)」向け優遇税制見直しで富裕層がロンドンから逃げ出す動きや、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)による銀行脱出と似たような流れで、パリでも税金の重荷が感じられつつある。大企業や富裕層に対して増税が実施される予定だ。
パリはユーロ圏における投資銀行の拠点として選ばれ、100万ユーロ(約1億6000万円)以上を稼ぐフランス人金融関係者の数は4年間でほぼ倍増したが、パリでの採用計画は凍結されつつある。
ピークオイルならぬ「ピークパリ」とでも呼ぶべきこの状況は、グローバルな人材獲得競争で欧州が後れを取っていることを浮き彫りにする。
プライベートエクイティー投資会社やヘッジファンドの人材獲得競争では、所得税がなく、規制も少なく、大規模ファンドが急成長しているアラブ首長国連邦(UAE)のドバイのような都市に、パリとロンドンはかなわない。
ヘッジファンド会社を経営するポール・マーシャル氏によると、ドバイに隣接するアブダビも税制面で「完璧」だという。 
ロンドンに拠点を置くコンサルティング会社ヘンリー・アンド・パートナーズによると、昨年6700人以上の富裕層を引き付けたUAEにはマドリードやミラノも太刀打ちできない。
私は以前にも、UAEとの競争は侮れないと主張したことがある。UAEは金融センターの創設、石油収入からの多様化、観光事業の拡大に真剣に取り組んでいる。
ヘッジファンドだけではない。オンライン金融サービス会社レボリュートのニコライ・ストロンスキー最高経営責任者(CEO)は、自社に投資しているUAEでより多くの時間を過ごしている。
勝手に出ていけばいいと言うこともできるが、納税者の流出は将来的に大きな影響を及ぼし得る。
フランスでは、所得上位10%の世帯が所得税の75%以上を支払っている。英国では60%余りだ。フランスのある議員が指摘したように、政府が課税に深く関与すればするほど、税基盤がさらに侵食されるリスクが高まる。
JPモルガン・チェースのフランス責任者、キリル・クールボワン氏は、ブレグジットに伴う最初の移住者たちに対する8-9年間の減税措置の期限が切れる2030年が、人が出て行くかどうかの「試金石」になると予想しているが、時間的余裕があると考えるのは楽観的過ぎるかもしれない。
出口税のような流出を防ぐ策は「ピークパリ」の痛みを和らげる可能性がある。また、中東地域の地政学的な緊張が高まりUAEの輝きが失われるのを待つという手もある。
しかしパリは、観光、高級品、政府に結び付いた企業という従来のイメージを超えた新たな魅力を打ち出す必要がある。
一つの選択肢は欧州だ。欧州がばらばらの市場を統合し、何兆ユーロもの貯蓄を解き放つという真剣な取り組みを行うのであれば、フランスは依然として金融の中心地となる可能性を秘めている。
もう一つの選択肢は、パリをより住みやすい街にして、国外に流出した若い世代が家族を持ちたいと思った時に戻ってくるようにすることだ。フランスには保育料税額控除制度があり、子育て支援は得意分野だ。
オフィスビルの住宅への転用やインフラ投資、教育とエンジニアリング人材への重点的投資は、非課税都市との競争よりも有効に思える。 
しかし当面は、税金の重荷が続くことを覚悟しよう。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)の金利ストラテジストらは、今年末の米国債利回り予想を全年限にわたって引き下げた。短期的な米経済の軟化と、米金融緩和の可能性に対する市場の織り込みが進んでいることを理由に挙げた。
BofAのマーク・カバナ氏らは「市場が景気下振れリスクの高まりを織り込むことを反映した」と26日付リポートに記した。
同社の2025年末までの利回り予想は以下の通り。
2年債:4.00%(従来予想4.50%)
5年債:4.20%(同4.65%)
10年債:4.50%(同4.75%)
30年債:4.80%(同5.05%)
BofAはまた今回の予想について、「米国債供給を巡る懸念や財政赤字リスク、金融規制緩和に対し高まった期待が失望に変わる可能性」に沿ったものだと説明した。
●中東情勢
●エマージング
ウクライナは2022年のロシアによる侵攻開始以来、激動の政治情勢を切り抜けてきた。ウクライナの戦略は、直接交渉や軍事攻撃、ますます複雑化する外交の裏ルートの間で変化してきた。
バイデン前政権下の米国は、「(ウクライナが)必要とする限り」同国を支援すると約束し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からの軍事援助・支援のおかげでウクライナは持ちこたえられるように思われた。しかし、2024年の米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利したことで、ウクライナ当局者らは彼の次の措置を推測するようになった。バイデン前政権から受けた支援が新大統領の下では継続されないかもしれないという危険な状況に順応する必要があったのだ。
当初、ウクライナの外交官はトランプ氏になかなか適応できなかった。同氏の外交政策はウクライナの願望と食い違っているように見えた。トランプ氏がロシアの侵略行為を巡る複雑な問題に特段の関心を持っておらず、和平合意の実現に全神経を集中させていることをウクライナ政府が理解するまでには、何カ月もかかった。
このことを理解するのは、ウクライナの多くの人々にとって難しかったが、時間の経過とともに、ウクライナの戦略は進化した。英国とフランスの外交官からの助言を得て、ウクライナ当局者は、ある重要な理解に至った。それは、彼らがトランプ氏の外交に向き合い、協力する姿勢を示して、停戦・和平交渉の際には、ロシアが先に拒否するのを待つ必要があるということだ。このアプローチによってウクライナは、交渉決裂が避けられない場合に非難をかわせるようになる。
だが、この戦略はトランプ氏次第だ。トランプ氏が自らを和平の仲介者と位置付けるための試みにおいて、今後の道筋として二つの可能性があるが、いずれも単純なものではない。一つ目は、厳しい条件内での迅速な解決を求め、紛争当事国であるロシアとウクライナのいずれかに反対され、計画の失敗をその国のせいにするというものだ。
二つ目は、双方に譲歩を求めるなど、より長引くことが予想される道筋だ。これには課題がある。米国はロシアに対してある程度の影響力を持っているが、期限切れが間近に迫る新戦略兵器削減条約(新START)についての重要な核問題協議や、イランの核兵器保有を阻止する取り組みには、ロシアの協力が必要だ。ウクライナに圧力をかける方がより簡単だが、特に2026年に中間選挙を控える状況では、裏目に出る可能性が高い。非営利調査団体モア・イン・コモンが3月9日に公表した世論調査結果によれば、米国人の67%、共和党員の65%が、米国は戦争終結までウクライナへの支援供与を続けるべきだと答えた。
ウクライナ指導部が感じているのは、米国は戦争の早期解決を求めるつもりであり、そこから逸脱する余地はほとんどないということだ。当事国の一方が譲歩を拒否した途端、その国は和平の障害という烙印(らくいん)を押されるだろう。そうなればウクライナは、米国からの支援を是が非でも必要とする一方で、ウクライナ政府の対応能力をはるかに超えるスピードで進んでいる交渉で結果を出すよう迫られるという、どうしようもない立場に置かれることになる。
欧州からの支持は強固なままでも、それはこれまでウクライナの継戦能力を支えてきた米国による軍事・情報面の支援の代わりにはならないという認識が、ウクライナの不安をさらに高めている。欧州の首脳らは非公式な場ではウクライナに対し、米国を怒らせたり、トランプ氏の和平への取り組みの障害になったりする事態を避けるべきだとアドバイスしている。トランプ政権の要求がまだ固まっていない段階では、特にこうした注意が必要だという。ウクライナ政府が目指すべき対応は、はっきりしている。それは障害になってはならないということだ。
ウクライナは、極めて難しい立場に置かれている。トランプ氏が主導する外交の進行ペースは速く、それについていけなくなるリスクは高い。欧州の当局者らはウクライナ政府に迅速な対応を求めているが、トランプ氏の戦略に従う際には失敗がほとんど許されない。ウクライナがちゅうちょすれば、同国が和平の障害になっていると見なされるリスクがその分だけ高まる。
トランプ氏について言えば、彼は交渉カードを慎重に使っている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領それぞれとの最近の電話会談でトランプ氏は、偏見のない仲介者の立場を取ろうと努めているように見えた。こうした状況は、絶えず変化する米政府の優先事項に応じて、ウクライナが対応の修正を強いられることを意味する。苦難が待ち受けているのは、軍事力の分野よりも、外交の機敏さという点だ。ウクライナ政府にとって重要なのは、和平の障害になるという落とし穴にはまらないことだ。
●プロファイ、インフラ、自然災害
米マイクロソフトは、米国と欧州で計画されていた2ギガワット規模の新しいデータセンタープロジェクトから撤退した。人工知能(AI)を動かすコンピューター類の供給過剰が理由だとして、TDカウエンのアナリストが26日付のリポートで指摘した。
TDカウエンによると、今回の動きは、対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」の開発元オープンAIとの、130億ドル(約1兆9600億円)を投じた新規事業の一部を断念するとの決断を反映しているという。マイクロソフトとオープンAIは今年、複数年契約を変更し、マイクロソフトが事業自体を望まない場合は、オープンAIが他社のクラウドコンピューティングサービスを利用できるようにしていた。
TDカウエンは2月のリポートでも、マイクロソフトが米国でデータセンターのリースを解約したと指摘し、投資家を驚かせた。
リポートによると、マイクロソフトのここ6カ月の事業縮小には、リース契約のキャンセルや延期も含まれている。アナリストは、アルファベット傘下のグーグルが、マイクロソフトが欧州で放棄したリース契約の一部を獲得し、メタ・プラットフォームズが欧州で開放されたデータ容量の一部を獲得したと記している。
マイクロソフトは、6月までの本会計年度中に約800億ドルを投じてAIデータセンターを構築するとしているが、それ以降は成長ペースが鈍化するとの見通し示している。同社幹部らは、オープンAIやその他のAIプロジェクトを支援する急激な拡大の後、支出は新規建設から、データセンターへのサーバーやその他の機器の設置へとシフトすると述べている。
TDカウエンのリポートについて、マイクロソフト、メタ、グーグルの広報担当者はすぐにはコメントしていない。
今週、アリババグループの蔡崇信(ジョー・ツァイ)会長は、新規プロジェクトがAIサービスへの需要を上回る可能性があるとして、データセンター建設バブルの可能性を警告した。
TDカウエンのアナリスト、マイケル・エリアス氏らは「現在の需要予測に比べてデータセンターの供給過剰が続いているため、リース契約のキャンセルやキャパシティーポイントの延期が続くと考えられる」としている。
本日の米株式市場でIT・ハイテク株に売りが強まる中、マイクロソフト<MSFT>も下落している。同社は米国と欧州で計画されていた2ギガワット規模の新しいデータセンタープロジェクトから撤退したと伝わった。AIを動かすコンピューター類の供給過剰が理由だという。アナリストがレポートで指摘した。
今回の動きは、チャットGPTの開発元であるオープンAI社との、130億ドルを投じた新規事業の一部を断念するとの決断を反映しているという。
同社とオープンAIは今年、複数年契約を変更したが、同社が事業自体を望まない場合は、オープンAIが他社のクラウドコンピューティングサービスを利用できるようにしていた。
レポートによると、同社のここ6カ月の事業縮小には、リース契約のキャンセルや延期も含まれている。アナリストは、アルファベット<GOOG>傘下のグーグルがマイクロソフトが欧州で放棄したリース契約の一部を獲得し、メタ<META>
が欧州で開放されたデータ容量の一部を獲得したと記している。
マイクロソフトは、6月までの本会計年度中に約800億ドルを投じてAIデータセンターを構築するとしているが、それ以降は成長ペースが鈍化するとの見通し示している。
同社幹部らは、オープンAIやその他のAIプロジェクトを支援する急激な拡大の後、支出は新規建設から、データセンターへのサーバーやその他の機器の設置へとシフトすると述べている。
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
ドルは対ユーロで3週間ぶりの高値を付け、対円でも上昇。トランプ米大統領が自動車関税に関する発表を控え、市場は警戒感を強めた。米耐久財受注の予想外の増加もドルを押し上げた。  
米国債利回りは小幅上昇。FRB当局者は利下げに慎重な姿勢を示し、関税がインフレ圧力を高める可能性を指摘した。株式市場は関税を巡る不透明感で反落し、テスラや半導体株が大幅安となった。  
金価格は小幅下落し、原油は米国の制裁強化を受け反発した。
ロンドン株式市場は続伸し、原油価格上昇を受けて石油・ガス株が買われた。英政府の春季財政報告に注目が集まる中、財政目標達成への懸念があるものの、歳出削減方針の発表で市場は一定の安堵感を示した。  
欧州株式市場は反落し、ヘルスケア・ハイテク株の下落が影響。一方、原油高を受け石油・ガス株は上昇。トランプ米大統領の関税措置を巡る警戒感が市場の重しとなった。  
ユーロ圏債券市場では、国債利回りはほぼ横ばい。米関税措置の影響を見極める動きが広がる中、ドイツ10年債利回りはわずかに上昇した。英10年債利回りは低下し、英消費者物価指数(CPI)の鈍化が確認された。

備忘録(2025/3/25
●海外企業決算
●海外企業
●日本企業
●先進国政治動向
トランプ米政権幹部による非公開のやり取りが流出したことで、イエメンの親イラン武装組織フーシ派に対する攻撃計画を策定する様子が垣間見えた。明らかになったのは、欧州の同盟国に対する露骨な軽蔑だ。
このやり取りはバンス副大統領とヘグセス国防長官らによるメッセージ通信アプリでのグループチャットで、米誌アトランティックの編集長に接続リクエストが送られた。同誌が24日に一部を記事で明らかにした。これによると、バンス、ヘグセス両氏は米国によるフーシ派掃討の取り組みに欧州同盟国が「ただ乗り」していると考えている。
バンス氏を名乗るユーザーはフーシ派攻撃に懸念を表明し、「自分はただ、また欧州を救うことになるのが気に入らないだけだ」と説明。「サウジアラビアの石油施設に対するリスクを最小化するために事前にできることがあれば、それをやるべきだ」と主張した。
これに対し、ヘグセス氏は「副大統領、欧州のただ乗りを嫌悪するあなたの気持ちはよく分かる。自分も完全に同じだ。全く情けない」と応じた。
このやり取りは、トランプ政権幹部のグループチャットに誤って追加されたアトランティック誌のジェフリー・ゴールドバーグ編集長が受け取ったメッセージの一部だ。グループチャットでは、1年余りにわたり紅海を通過する船舶に危害を加えてきたフーシ派への攻撃計画が話し合われていた。
フーシ派攻撃作戦はこのやり取りがあった後、すぐに実行に移された。
欧州諸国の防衛費や対ウクライナ支援拠出が十分でないと非難するトランプ大統領に対し、欧州の不安は既に深まっていた。トランプ氏はまた、欧州連合(EU)数カ国の経済を揺るがすほどの大規模な関税を導入する意向も示している。
バンス氏は2月のミュンヘン安全保障会議で演説し、極右をドイツが検閲していると批判。米国に対する欧州の疑念をいっそう強めた。ヘグセス氏も北大西洋条約機構(NATO)会合で、米国は「欧州の安全保障を最優先する」ことはできないと発言し、さらに波紋を広げた。
今回のやり取りはこうした公の発言からさらに踏み込んだ内容だ。ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)はフーシ派攻撃に関連する費用を集計し、トランプ氏の要請によって「欧州の連中に請求する」とチャットで述べた。
アトランティック誌の記事について、スウェーデンのビルト元首相は「驚くべき話だ」とX(旧ツイッター)に投稿。「深い反欧州感情に突き動かされているバンス副大統領の姿が、再び明らかになった」とした。
国家安全保障会議(NSC)会議のヒューズ報道官は欧州との関係について、コメントの要請には応じなかった。同報道官は前日、チャットメッセージのやり取りは「本物であると思われる」と声明で発表した。
トランプ政権から敵対的な発言が続いているため、欧州の同盟国は米国と機密情報を共有することの影響を考え直すかもしれない。
「情報の受け手が最善の手法を用いていないことが示唆されるのは、それが何であっても懸念すべき事態だ」と元情報機関幹部で現在は米戦略国際問題研究所(CSIS)バイスプレジデントのエミリー・ハーディング氏は述べた。
ドナルド・トランプ米大統領は史上最も透明性の高い形で政権を運営すると主張しているが、今回のような状況は想定していなかったかもしれない。政権の高官チームは民間メッセージングアプリ「シグナル」のグループチャットでイエメンでの米軍の攻撃計画を共有したが、そのチャットに誤って1人のジャーナリストを加えていた。やりとりには標的や兵器、攻撃手順など作戦の詳細が含まれていた。
国家安全保障会議(NSC)の報道官は24日、米誌アトランティックに掲載された記事の内容が正確であることを認めた。「一連のメッセ―ジは本物のようだ。どのような経緯で想定外の者がチャットのメンバーに加えられてしまったのかは調査中だ」と語った。
注目すべきは、各高官が世間に知られたキャラクター通りの行動を取ったことだ。マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は米国のリーダーシップの重要性を指摘し、大統領の政策を断行すべきだと主張した。これに対しJD・バンス副大統領は、大統領の指示に反して、米国の関与を減らすべきだと主張した。
トランプ氏の次席補佐官を務めるスティーブン・ミラー氏と思われるユーザー「SM」は、イエメンの親イラン武装組織フーシ派への攻撃について、「私が聞いたところでは、大統領の考えは明確だ。青信号だ」と書き込んだ。その上で、イランの代理勢力が米海軍の艦船や航空機を攻撃し、イラン・ロシア・中国以外のすべての国にとって重要な水路を封鎖するのを、ジョー・バイデン前大統領のように見過ごしていいのかと述べた。
重要なやりとりは、米軍がフーシ派を攻撃する前日の3月14日に始まった。「マイケル・ウォルツ」というユーザーが、「チームよ、大統領の指示に従って結論と任務の文書を用意すべきだ」と書き込んだ。だが、全員がその指示を受け入れているわけではなかった。「JD・バンス」というユーザーは、「われわれは間違いを犯しつつあると思う」と返答した。フーシ派の攻撃で封鎖されている「スエズ運河を経由するのは米国の貿易全体の3%」である一方、「欧州の貿易の40%だ」と書いた。
彼はこう続けた。「大統領は、これが現在の対欧州メッセージと矛盾していることに気付いていないのではないか。原油価格が中程度ないし大幅に上昇する一段のリスクもある」。要するに、「これを1カ月延期し、これがなぜ重要なのかというメッセージを発信し、経済状況などを見極めることには強い根拠がある」。
決して来ないかもしれない経済ニュースを待つという、この延期の勧告に、ジョー・ケント氏が賛同した。ケント氏は、トゥルシー・ギャバード国家情報長官がチャットの中で自身の連絡先として名前を挙げた有名な孤立主義者だ。
それに対し、ピート・ヘグセス国防長官は待つことのリスクを指摘し、イランが現地で果たす役割を強調して作戦の妥当性を主張した。「私は二つの点から見る」とし、「1)航行の自由の回復。これは重要な国益の一つ。2)抑止力の再構築。これはバイデンが崩壊させた」と述べた。トランプ氏は後に公の場で同様の主張をした。
これはヘグセス氏の評判を高めるものだが、彼が連絡先としてダン・コールドウェル氏の名前を挙げていることは注目に値する。コールドウェル氏は孤立主義的な組織「コーク・ネットワーク」の出身だ。トランプ氏はコーク・ネットワークを政権から排除したいと述べていた。
ウォルツ氏は世界貿易へのダメージと欧州海軍の限界について説明し、「今であれ数週間後であれ、これらの海上交通路を再開させるのは米国になるはずだ」と述べた。
バンス氏はようやく現実を受け入れ、「また欧州を助けるのが嫌なだけだ」と書いた。ヘグセス氏は同意し、「欧州のただ乗りへの嫌悪は完全に共有する。本当に情けない。だが、マイク(ウォルツ氏)が正しい」と述べた。大統領の政策は実行された。トランプ氏は、どの側近が自身の政策を阻止しようとしたか、誰が実行しようとしたかを知ることになった。
トランプ米政権発足からわずか9週間のうちに、複数の連邦機関が解体され、230万人を数える連邦政府職員のうち、数万人が解雇されるか早期退職に同意した。トランプ米大統領は、政府効率化省(DOGE)を事実上率いてこうした政府機関の「縮小」を主導した大富豪イーロン・マスク氏を称賛しているが、批判派は、DOGEがトランプ氏から絶大な権力を与えられ、何の監督も受けずに秘密裡に行動していると主張している。
DOGEによる措置に対して起こされた複数の訴訟からはその活動の一部垣間見えるが、さらに多くの疑問も浮かんでくる。マスク氏が実際にDOGEの責任者なのかという点も明確ではない。ホワイトハウスが提出した訴訟書類ではマスク氏にはDOGEに関する権限がないとしているが、トランプ氏はマスク氏が責任者だと述べている。
<「DOGE」とは何か>
DOGEは、トランプ氏が就任初日の1月20日に署名した大統領令によって創設され、「連邦政府の技術とソフトウェアを近代化し、政府の効率と生産性を最大化する」ことを目的としている。
「Department(省)」を名乗るものの、連邦議会が制定する法律に基づき創設される連邦政府の「省」ではない。ホワイトハウス内の既存部門「米国デジタルサービス」を改組した期間限定の組織だ。
2026年7月4日までの期限付きのDOGEの任務は、今や当初の大統領令における表現の範囲を大幅に超過し、そのメンバーはあらゆる連邦政府機関に立ち入り、削減できる歳出や職員を探している。
ホワイトハウスによれば、世界一の資産家であるマスク氏は、政府から給与を受け取らない任期130日以内の「特別政府職員」であり、連邦政府官僚組織の再編を担うという。だがマスク氏は3月にフォックスニュースに対し、さらにもう1年この仕事を続ける可能性があると述べている。
DOGEの厳密な責任者は誰なのかという裁判官からの質問に対し、ホワイトハウスは、医療テクノロジー企業幹部の経歴を有するエイミー・グリーソン長官代行の名を挙げた。
グリーソン氏は3月19日付けの訴訟書類の中で、マスク氏はDOGEで勤務していないと述べている。「私はマスク氏の部下ではないし、マスク氏は私の部下ではない。私の知るかぎり、マスク氏はホワイトハウスの上級顧問である」とグリーソン氏は述べている。
ところがトランプ氏は3月4日、連邦議会での演説で「(DOGEを)率いているのはイーロン・マスク氏である」と述べている。またマスク氏は、トランプ政権の閣議に少なくとも2回参加し、大統領執務室での記者会見でもDOGEの業務に関する説明を担当している。
訴訟書類におけるグリーソン氏の説明では、DOGEチームは小規模で、任用職員が約79人、他の省庁からの出向組が10人いるという。
グリーソン氏は、「DOGEのチームメンバーは全員、DOGEに雇用されるか、(他省庁からの)派遣された者だ」と述べている。さらにグリーソン氏は、DOGEのメンバーは各省庁の上長の指揮に従い、同氏やDOGEの別のメンバーの指揮で動いているわけではないとしている。
スタッフの多くはマスク氏経営の企業の現・元社員である若手ソフトウェア技術者だ。連邦政府内での経験はほとんどない。
マスク氏は、連邦支出の1兆ドル削減が目標だと述べている。今年の連邦政府予算は約7兆ドルに達している。
<DOGEによる「支出削減」の現実>
DOGEの唯一の公式窓口であるウェブサイトによれば、DOGEは連邦職員の削減や資産の売却、契約の停止といった一連の活動により、3月24日の時点で米国納税者の負担を1兆1500億ドル削減したと試算している。
だが削減総額は検証不可能で、削減額の試算にはエラーや訂正が多い。
DOGEはウェブサイトの「レシート」セクションにおいて、納税者にとって最大の節約と主張していた項目の削除を繰り返している。たとえば打ち切りにより80億ドルを節約したと報告されていた契約は、後にわずか800万ドルの価値しかなかったことが判明している。
マスク氏は、間違いが発見された場合には修正すると述べている。
<DOGEがやってきたこと>
マスク氏率いるチームは連邦官僚機構の各所で削減を進めており、一部の政府機関は閉鎖され、多くの連邦政府職員のあいだでパニックの気配が生まれている。
現時点までにDOGEメンバーは20以上の政府機関に立ち入り、現・元連邦政府職員だけでなく、何百万人もの米国民に関する個人データを含むコンピューターシステムへのアクセス権を取得している。
DOGEは2月、連邦政府の人事部門である人事管理局(OPM)を通じ、連邦政府職員に早期希望退職を促す通知を送った。ホワイトハウスによれば、約7万5000人がこの勧奨に応じたという。
またDOGEはこれ以外に、少なくとも2万5000人の政府職員を解雇または停職処分とした。まず標的となったのは、法的保護の弱い試用期間中の職員だった。
トランプ政権は24日、試用期間中の職員数千人の復職を求めた連邦地方裁判所判事の命令を阻止するよう、連邦最高裁判所に要請した。
トランプ氏は2月、連邦省庁のトップらに、3月13日までに連邦政府職員を「大幅に削減する」DOGEの計画に協力するよう求める大統領令に署名した。関係者によれば、ホワイトハウス当局者は現在、こうした計画の見直しを進めているという。
<DOGEの標的となった政府機関>
世界各地の困窮者にとって生命線となる援助を提供してきた国際開発局(USAID)は閉鎖され、数千人の職員が休職となった。
もう1つ、悪徳金融業者から米国民を保護する消費者金融保護局(CFPB)も閉鎖された。CFPB職員の多くは解雇通知を受け取った。
CFPBはマスク氏が経営する電気自動車メーカー、テスラ(TSLA.O), opens new tabのローン契約に関する苦情を審査しており、利益相反の疑いが生じている。またDOGEは、マスク氏が経営する複数の企業が数十億ドル規模の政府契約を結んでいる連邦航空宇宙局(NASA)にも介入している。
3月17日、DOGEチームは連邦議会が資金を提供する非営利機関の米国平和研究所(USIP)に立ち入った。DOGEスタッフが強引に施設内に乱入しワシントン警察が呼ばれる事態を招いたとして訴訟となっている。ホワイトハウスは、USIP職員が大統領に反抗的であったと非難している。
天気予報や気象データを提供している海洋大気局(NOAA)、定年退職者や障害者への給付を担う社会保障局(SSA)、徴税を担う内国歳入庁、退役軍人への恩給を管理し医療を提供する退役軍人省といった連邦機関でも、数万人の職員が人員整理の対象となっている。
●先進国中銀、金融当局
●先進国経済指標
独IFO経済研究所が25日発表した3月の業況指数は86.7と、前月の85.3から上昇した。ロイターがまとめた市場予想と一致した。
企業が景気回復を予想した。ドイツ経済は昨年まで2年連続でマイナス成長を記録していた。
現状に対する企業の満足度は上昇。期待値も大幅に上昇した。
IFOのクレメンス・フュースト所長は「ドイツ企業は回復を期待している」と表明した。
調査責任者のクラウス・ホールラーベ氏は「ドイツ企業は安堵している」と語った。同氏は第1・四半期の経済成長率を0.2%と予想した。
産業界では輸出への期待が高まり、希望が一部戻りつつあるとし、企業は新政権がさらなる安定と投資拡大をもたらすことを期待していると述べた。
キャピタル・エコノミクスの欧州担当シニアエコノミスト、フランツィスカ・パルマス氏は「財政刺激策の見通しが信頼感を押し上げており、現時点では米国の関税に対する懸念を上回っている」と分析した。
しかし、経済活動はもはや縮小していないかもしれないが、依然としてかなり弱いとも述べた。
INGのマクロ部門グローバルヘッド、カルステン・ブルゼスキ氏は、独経済は間もなく循環的な景気回復局面に入るとの見方を示した。ただ、回復の持続性や、構造的な回復につながるかは、連立協議が真の構造改革を実現できるかにかかっていると述べた。
経済はまだ完全には回復していないが、発表された財政政策の影響で活気が生まれているようだと指摘した。
ドイツ連邦統計庁が25日に発表したデータによると、2024年第4・四半期のドイツの住宅価格は前年同期比1.9%上昇し、22年以来の下落に歯止めがかかった。
しかし、今後の見通しは依然不透明で、最近の借り入れコストの上昇が先行きを曇らせている。
ドイツの住宅価格は22年第3・四半期に下落に転じた。欧州中央銀行(ECB)がインフレを抑えるために急激な金利引き上げを開始したことから、ドイツは過去数十年で最悪の不動産危機に陥った。
価格下落のペースはこの1年で鈍化したが、オフィスを含む不動産セクター全体の見通しはさえない。
●金融市場、先進国トピックス
ドイツ次期首相就任が確実視されるフリードリヒ・メルツ氏は、長期間維持されてきた政府の財政規律を緩める決断を下し、国際的に高く評価されるものの、国内では政治的反発の広がりに直面している。
メルツ氏が党首を務める保守政党キリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が長く財政拡張に厳しい姿勢をとってきただけに、メルツ次期首相が公的債務の拡大容認に舵を切ったことで驚きが広がった。
23日発表のINSAの世論調査によると、メルツ氏の財政拡張政策について全有権者の73%、CDU・CSU支持者の44%が「裏切られた」と感じていることが明らかになった。CDU・CSUの支持率は1ポイント下がって27%となり、一方で、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は1ポイント上がって23%を確保した。支持率の差は総選挙が行われた2月23日時点の8ポイントから4ポイントに半減した。
メルツ氏は選挙戦で「財政支出を拡大しない」と約束していたが、選挙後に方針を大きく転換した。
INSAのヘルマン・ビンクェルト代表は「CDU・CSUは公的債務対策に関する選挙前の公約を果せなかった。失望した一部の有権者が支持政党をAfDに切り替えている」と述べた。
連邦参議院(上院)は21日、財政規律を緩和する憲法改正案を承認した。数十年にわたる「財政保守主義」の放棄により、経済成長の回復を図ることに加え、トランプ米政権が欧州防衛に後ろ向きの姿勢を示すことを受けた新たな欧州集団防衛体制に向け、防衛費増加の道筋を付けた。
しかし、CDU支持者の間では賛否が真っ二つに分かれている。
第二次世界大戦末期の1944年生まれのユルゲン・フェダーセン氏は防衛費増額に伴う財政拡張を甘受した支持者の1人。過去50年間、CDUに投票し、アンゲラ・メルケル前首相が導入した「債務ブレーキ」の熱烈な支持者だった。
しかしフェダーセン氏は「米国がもう助けてくれないなら、自衛するしかない。ロシアは強硬姿勢を崩さないだろう。私は(ロシアのプーチン大統領)を信用していない」と話した。
調査会社フォルシュングスグルッペ・ヴァーレンのアンドレア・ヴォルフ氏はロイターの取材で、ドイツと欧州を取り巻く(安全保障への)脅威の環境変化を受けて、軍事力と防衛システム向け歳出増加に幅広い支持が広がっていると述べた。
だが、CDUの若年者支持層では財政拡張への反発が根強い。歳出急増の負担が自分たちに降りかかると恐れているためで、従来の財政政策でさえ既に住まいのステップアップに苦しんでおり、将来の年金受給や福祉給付が危うくなると警戒心が渦巻いている。
世論調査会社Forsaのマンフレッド・ゲルナー代表は「発足する連立新政権が再び国民の期待を裏切ることになれば、次の総選挙ではAfdがドイツ東部だけでなく全国で最大議席数を獲得する可能性を排除できない」と話した。
消費者金融会社シンクロニー・ファイナンシャル(SYF.N), opens new tabによると、米国の消費者が物価高や経済見通しの悪化を受けて消費を抑制しつつある。
ニューヨーク連銀の先月の発表によると、米国の家計債務残高は増加しており、自動車ローン、クレジットカード、住宅担保融資では延滞がやや増えている。
フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁も、消費にストレスの兆候が見られ、インフレ見通しにリスクが存在するなど、問題が差し迫っていることを示唆する危険信号が出ているとの認識を示した。
シンクロニーのマックス・アクスラー最高信用責任者は、家計はおおむね健全だが、今後の負担増加に備えて支出を抑制していると指摘。大半の顧客はローンの返済を続けていると述べた。
アクスラー氏はロイターに「全ての所得層が以前に比べて支出に慎重になっており、業界全体で購入量が減少している」と語った。
ミシガン大学が発表した3月の消費者信頼感指数は約2年半ぶりの低水準。5年先の期待インフレ率は1993年以来の水準に上昇した。
一部のエコノミストはトランプ大統領の関税が物価上昇と景気抑制につながる恐れがあると予測。
ターゲットやウォルマートといった小売業者も、買い物客が支出に慎重になっており、安売りを待ったり、低価格品への切り替えを進めていると指摘している。
アナリストは、家計支出の削減がローンの延滞や債務不履行の増加の前兆になり得るとし、債務不履行率はおおむね安定しているものの、家計悪化の先行指標として支出の動向に注目しているという。
<金融機関に影響も>
消費者が借り入れに慎重になれば、融資が減り、銀行の収入を圧迫する恐れもある。HSBCのアナリスト、ソール・マルティネス氏によると、2月の融資の伸びは業界全体で前年比5─12%鈍化した。
同氏は「鈍化は明らかで、消費が脆弱であることを示している」とし「銀行は融資の伸びが鈍化すれば、純金利収入や収入が減少する可能性がある」と指摘した。
マルティネス氏によると、家計に対する懸念は消費者金融株の重しとなっており、アメリカン・エキスプレス、キャピタル・ワン、シンクロニー、ディスカバーの株価は過去1カ月間で15─22%下落している。
また、新型コロナウイルス流行時に猶予されていた学生ローンの返済が再開され、延滞が増加するリスクも指摘されている。
世界的な「自動車帝国」を築く試みは、1910年代から20年代をほうふつとさせる。当時、米フォード・モーターの創業者ヘンリー・フォード氏はモデルT生産のために英国とドイツに工場を設立し、米ゼネラル・モーターズ(GM)も対抗して外国の自動車メーカーを相次ぎ買収した。この野望は100年を経てなお、脱輪するリスクを抱えている。
米電気自動車(EV)大手テスラはある意味、21世紀版のフォードと言える。画期的な新技術による先行者利益のほか、カリスマ性のあるリーダー(この場合はイーロン・マスク氏)がおり、生産拠点のグローバル化を目指している。テスラが最初の工場を開設したのは中国が2019年、ドイツが22年と最近だが、ファクトセットの推計によると、既に昨年の売上高は北米50%、アジア太平洋地域30%、欧州13%と分散している。
独BMWのような高級車ブランドほど分散化していないが、自動車業界で世界的リーダーの座に最も近いトヨタ自動車の背中はそう遠くない。大衆市場との距離を縮めるテスラの狙いを考えると、こうしたデータは好ましい。
だがテスラ株は過去3カ月でほぼ半値になった。理由の一つは、マスク氏のトランプ政権への関与が国内外で消費者の反発を招き、特に欧州での販売落ち込みにつながったことだ。同氏の政権関与はヘンリー・フォード氏が政界進出を試みたことを想起させる。
だが、グローバル化した自動車メーカーという既に危うい夢はついえてしまうかもしれない。その理由は、二つの根深い傾向にある。
一つは保護主義だ。中国では長年こうした政策が国産車を支援し、西側のメーカーが犠牲とされた。それが今度は、欧米当局者に中国車の自国市場へのアクセスを禁じるよう求める激しい抗議を引き起こしている。ドナルド・トランプ米大統領は、欧米自動車メーカーがカナダとメキシコで展開するサプライチェーン(供給網)にまで関税をかけると警告している。
それと同時に、EVの普及ペースが国によって大きな差があることが判明し、多様な市場に同時に対応することの難しさが浮き彫りとなっている。
実際に投資家は、かつて競争力不足とされていた規模の小さい地域プレーヤーに本当は強みがあるのではないかと考え始めている。仏ルノーはこの6カ月間に株価が25%上昇。規模ではなく、パートナーシップに基づく再建計画が好感された。電池生産を外部調達に転換し、サプライチェーンを域内に集約する一方、研究および製造コストについては長年の提携先である日産自動車と資金を共有している。また中国のパートナー企業と低価格車を共同で開発し、販売台数を伸ばしたい考えだ。ルノーは新型EV「トゥインゴ」を2万ユーロ(約320万円)を切る価格で発売する予定で、EVとしては最安値水準となる。
一方、欧州ステランティスの株価は16%下落している。2021年に欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と、ルノーの国内ライバルだった仏グループPSAとの合併で誕生したこの巨大企業は、14ブランドを擁することで規模の経済を取り込んだ。
当初のコスト削減効果は予想を超えたものの、2024年には主要モデルが販売不振に陥った。車両価格が急上昇したため、「ジープ」とピックアップトラック「ラム」の在庫がディーラーに積み上がり、昨年12月にはカルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれた。その直後、電動ピックアップトラック「ラム1500 REV」の発売を2026年まで延期した。その一方で、競合するフォードの「F-150ライトニング」が人気を得ていた。
単一ブランドを世界展開するテスラの戦略が昔のフォードを思い起こさせるのに対し、複数の地元メーカーを通じて事業を拡大するステランティスの戦略は、1920年代にGMを率いたアルフレッド・スローン氏にまでさかのぼる。
歴史が示すように、後者は成果を出すのがさらに難しい。GMは最初の試みで英ボクスホールと独オペルを買収したが、保護主義と大恐慌のあおりを受けて失敗した。GMは1980年代から90年代に再挑戦し、スウェーデンのサーブを傘下に収め、複数の地域で販売するための共通プラットフォーム「Jボディー」を開発した。シボレーの「キャバリエ」やオペルの「アスコナ」、いすゞの「アスカ」は全てこのプラットフォームの派生形だった。フォードも同様のことをモンデオで試みる一方で、英ジャガーやスウェーデンのボルボ・カー、英アストン・マーチンを買収した。
結局のところ、買収したブランドの管理は困難で、Jボディーは性能の低さが酷評された。モンデオは欧州でしか売れなかった。今や欧州市場でフォードとGMの存在感は大幅に低下している。
問題は、一つの大きな製品ラインを維持し、刷新していくのは驚くほど骨の折れる作業だということだ。消費者の嗜好(しこう)は地域によって異なるためなおさら難しい。ステランティスの場合、傘下の「ランチア」や「マセラティ」など一部のブランドは息を吹き返すのに多大な労力を要する可能性があり、「クライスラー」などは過去の遺物と化している。他のブランドは市場を奪い合わずには成長できない。例えば「フィアット」は、欧州の都市生活者に適したシックな小型車「500」シリーズに強みを持つ。
確かに、モジュラープラットフォームを共通化することは自動車業界の標準となり、国境を越えた成功に役立っている例はいくつかある。
トヨタはその筆頭に挙げられる。手頃な価格の単一ブランドへの注力と、信頼性をめぐる評判、製造方法の現地化、ハイブリッドと互換性のある共通アーキテクチャーを組み合わせている。これにより、例えば欧州向けには小型のヤリスを生産し、米国向けにはより大型のカローラの生産を続けるといった柔軟な切り替えが可能になった。
最近苦境にあるとはいえ、独フォルクスワーゲン(VW)はブランドを超えてこれをどう実現するかという範を示す。同じプラットフォームで製造された車が、実質的に材料の品質によって低価格のシュコダか、高級車のアウディか、その中間のVWかに決まる。
だがステランティスに欠落する製品の連続性を保っているこれらの企業でさえ、あらゆる場所のあらゆる人のために全能ではいられない。米国の購入者はVWのスポーツタイプ多目的車(SUV)「ティグアン」や大型SUV「アトラス」、セダン「ジェッタ」を好む一方、より手頃な価格のモデルは控える傾向にある。
トヨタは欧州市場でのシェアが比較的小さく、中国でも苦戦している。ハイブリッド車へのこだわりがその一因だ。かつて不振だったEVモデル「bZ4X」がノルウェーで販売台数首位を記録したことで、トヨタはついにバッテリー式EV(BEV)に軸足を移している。
だが結局は、EV販売台数が中国と北欧諸国で予想を上回る一方で、欧州の他地域では予想を下回り、米国ではハイブリッド車に取って代わられた事実は、これら全ての国々に進出しながら共通性と一貫したパフォーマンスを維持したい自動車メーカーにとっては大きな頭痛の種だ。特にプジョーやシトロエン、オペルの多くのモデルがそうであるように、同一ブランドのEVモデルと内燃機関モデルの双方に対応できるプラットフォームから、専用アーキテクチャーの使用へと業界がシフトしていることを考えるとなおさらだ。
投資家は長らく、電動化によって少数の世界的勝者が生まれると予想していた。だがそうではなく、地域特化型の優良企業に有利に働くもう一つの歴史的な力になるかもしれない。
ドイツ自動車大手BMW「3シリーズ」はかつて世界のベストセラー高級車ランキングで首位だった。現在、このスポーティーセダンは関税の犠牲者という、あまり望ましくないリストに入っている。
スポーティーで比較的手頃な価格のBMW3シリーズなど十数種ほどの外国製モデルが、ドナルド・トランプ米大統領の仕掛けた貿易戦争に巻き込まれている。メキシコ工場で生産されるこのドイツ製セダンは、自由貿易に関する米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の要件を満たしていないからだ。この要件を満たした多くの自動車メーカーは、今月新たに発効した25%の関税の適用を一時的に猶予された。
3シリーズには最近まで、米国に輸入される際に2.5%の関税が課されていただけだった。3シリーズのメーカー希望小売価格は4万7000ドル(約700万円)前後だが、BMWは系列販売店に対し、これからは27.5%の関税がかかるため、販売価格に1万ドル余りが上乗せされる可能性があると通知した。
BMWは今のところ、追加コストを顧客に押しつけるつもりはない。BMW北米部門は販売店に、5月1日までは同社が25%の追加関税分を全額負担すると伝えた。
ニュージャージー州イートンタウンで販売店「サークルBMW」を共同経営するトム・デフェリス3世氏は、BMWが追加関税分を負担すると約束しているため、少なくともしばらくは安心だと語った。
「今後2カ月間については、大きな確実性が得られている。その後どうなるかは誰にも分からない」と同氏は述べた。
10億ドル規模の工場
BMW3シリーズのスポーティーバージョンは、映画「ミッション:インポッシブル」のカーチェースシーンで使われた。近年はセダンよりスポーツ用多目的車(SUV)が好まれる傾向にあるが、それ以前には、このモデルの人気が非常に高く、米国内のBMW車販売の40%以上を占めるほどだった。
2019年には、3シリーズの組み立てのために総額10億ドル以上を投じて建設したメキシコ新工場が操業を開始した。その1年後、トランプ大統領が交渉を主導したUSMCAが発効した。同協定では、加盟国で生産される自動車の部品の一定割合が北米製であることなどが、関税免除の条件とされた。
生産や輸入面での調整の可能性に関して、BMWの広報担当者はコメントしなかった。
同社はサウスカロライナ州スパータンバーグにSUVの組立工場を持っている。だがバーンスタインのアナリスト、スティーブン・ライトマン氏によると、同工場には3シリーズの生産設備の移転を受け入れられるスペースはないとみられる。欧州からの輸入が選択肢になる可能性もあるという。
BMWは2024年、乗用車約15万台を欧州連合(EU)から米国に輸入した。その中にはドイツ製の3シリーズも含まれていた。しかしこうした同社の輸入は新たに、トランプ氏がEU製品にかけると警告している追加関税のリスクにさらされることになる。
ニュージャージー州のBMWディーラーのデフェリス氏は、以前は顧客への納車までの時間だけを気にして生産国がどこになるのかに注目していたが、最近は気にする内容が変わったと言う。
「BMW車のサプライチェーン(供給網)の複雑さを、これほど強く認識したことはかつてなかった」
利益への打撃
BMWは先週、追加関税の影響で今年は約10億ドルの減益を見込むと明らかにした。同社はまた、USMCAの要件を満たすことなどを目的に、北米工場での作業量を増やす可能性を探るかもしれないと述べた。
アウディのメキシコ工場で製造されているSUV「Q5」もまた、25%の追加関税の影響を早々に受けている。最低価格が4万ドル台半ばのQ5は、アウディが米国市場で販売するモデルの中で売り上げトップで、昨年は同社の米販売台数全体の3分の1近くを占めた。
フォルクスワーゲン(VW)傘下の高級車ブランドであるアウディは、複雑な状況の中で次に取るべき措置を検討していると広報担当者は述べた。これとは別に、アウディは17日、コスト削減と生産性向上のため、今後数年で7500人を削減すると発表した。
トランプ政権は多くの自動車メーカーに対する追加関税の導入を4月2日まで保留したが、その際、約12のモデル――昨年の米国内での販売台数は約30万台に上る――は保留されなかった。業界データによると、これは米国市場全体の約2%に相当する。
中国に絡む難題
これまでのところ、トランプ氏の関税枠組みによって桁外れに大きな打撃を受けているのは高級車メーカーだ。
メキシコとカナダからの輸入品に対する関税とは別に、中国からの輸入品に対する20%の追加関税が段階的に実施されている。中国の吉利汽車(ジーリー)傘下にあるスウェーデン車ブランドのボルボは、この関税の対象となった。ボルボはセダン「S90」と電気自動車(EV)「EX30」を中国から輸入している。
ボルボの広報担当者によると、EX30は既にバイデン前政権が昨年、中国製EVに課した100%の関税の対象となっており、現在はさらに20%の追加関税の打撃にさらされている。
ボルボはベルギー工場から車両の輸入を年内に開始する予定だと、この広報担当者は明らかにした。そうすれば対中関税を回避できる。ただ、トランプ政権は欧州から輸入される自動車への関税を近々導入することを示唆している。
中国に拠点を置くロータス・テクノロジー(路特斯科技)は、歴史ある英スポーツカーブランド「ロータス」の「オールエレクトリックハイパーSUV」(価格23万ドル)を販売している。広報担当者によると、同社は関税を織り込み済みだという。
業界データによると、フォード・モーター、ゼネラル・モーターズ(GM)両社の昨年の高級ブランドの売り上げは、中国からの輸入に下支えされていた。中国で製造されたフォードのSUV「リンカーン・ノーチラス」は、ここ数カ月の「リンカーン」ブランド売り上げの約3分の1を占めている。GMの「ビュイック」ブランドは、中国で生産されたSUV「エンビジョン」に売り上げの約4分の1を頼っていた。
フォードはコメントを控えた。GMの広報担当者は、中国への関税は同社のビジネス全体に「有意な財務的影響」をもたらすものではないと述べた。
格付け会社ムーディーズは25日公表したリポートで、米国の財政状況が悪化の一途をたどっていると警鐘を鳴らした。
現在主要格付け会社で米国のソブリン格付けを最上級の「AAA」に維持しているのはムーディーズだけ。ただ同社は2023年11月に米国の格付け見通しを引き下げた。
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は2011年の債務上限問題を巡る危機を受けて「AAA」格付けを引き下げ、フィッチも23年に「AAA」から「AAプラス」に変更している。
ムーディーズはリポートで「実現する確率は低いが非常に明るい経済・財政シナリオの下でさえ、(米国の)債務余裕度は他のAAA格付けや高格付けの国と比べて格段にぜい弱だ」と分析。今年見込みで100%弱の米国が抱える債務の国内総生産(GDP)比は、35年までに約130%に上昇し、21年に9%だった歳入に占める利払い費用は35年には30%に達すると予想した。
こうした債務余裕度の低下により、米国のAAA格付けを支える上では、ドルと米国債市場が国際金融資本市場で果たす中心的な役割の意味合いがより大きくなってきたという。
しかしトランプ政権の関税政策が実体経済に及ぼす悪影響や、財源手当てのない減税が実施される見通しなどが事態を難しくしている。
ムーディーズは「ドルと米国債市場が持つ強みが、財政赤字拡大と債務余裕度低下のマイナスを相殺し続けるという期待感は薄れてきた」と述べた。
またムーディーズは、米議会で超党派の合意を必要とする大規模な歳出削減の実行が政治的に困難なことや、関税が長期的には成長を妨げ、歳入増の効果を希薄化してしまう点なども指摘した。
あの頃の企業は今どうしているのか?
新型コロナウイルス禍による5年前の弱気相場の底からほぼ全ての米国株が持ち直した。「勝ち組」銘柄を選ぶのはたやすいことだった。政府による景気刺激策と、世界は終わりを迎えるわけではないという認識が株価を押し上げた。
一部の企業では、コロナそのものが株価上昇の原因になった。そうした状況は長続きしなかったものの、投資熱をあおる米国市場の仕組みについての教訓は残された。
人工知能(AI)、量子コンピューター、3Dプリンターといった分野における技術革新は「FOMO(Fear Of Missing Out)=取り残される恐怖」を引き起こし、多くの銘柄を急騰させる。専門家には新しい話題を、ブローカーには次の売り込み文句を、資産運用会社には新たなファンドを立ち上げる口実を提供する。
コロナが恩恵になった銘柄はテーマ株を極端にしたようなもので、後から振り返ればばかばかしく見えるほど一斉に急伸した。投資家は2020年と21年の売上高の伸びがその後も続くかのように扱った。仮にそれが可能だったとしても、競合他社も同じ機会に飛びついた。コロナという非常事態下で需要の高い現物商品を販売していた企業は、自社の将来の需要を食いつぶすことにさえなっていた。
家具ネット通販のウェイフェアを例に挙げよう。コロナ流行下で人々は自宅で過ごす時間が大幅に増えると同時に、意図せず増えた貯蓄と政府からの給付金で資金に余裕ができた。ウェイフェアは対応しきれないほどの需要に直面した。コロナを受けた底打ちから1年で同社の株価は1367%急騰した。だがウェイフェアの2024年の1株当たり売上高は、コロナ前の年の水準を下回った。
フィットネス機器メーカーのペロトンでは、コロナ流行に伴い家庭用の同社製品への需要が急増した。株価は758%上昇し、時価総額は約500億ドル(7兆5000億円)に達した。だが上昇分はやがて帳消しになった。株価はピーク時から96%下落している。「ソーシャルディスタンス (他人との距離確保)」が過去のものとなり、他のフィットネスブランドがオンラインサービスを開始したことが背景となった。ほとんど使われなかった多くのペロトン製品が現在はオンラインで売りに出されており、新製品はそれらの既存製品と競合しなければならない。ペロトンはこれまで年間利益を上げたことがなく、ファクトセットの調査によると、アナリストは売上高について4年連続で減少すると予想している。
ペット用品のネット通販を手がけるチューイーの株価の変動はそれほど極端ではなく、コロナによる事業の押し上げ効果もそこまで短くなかった。結局のところ、コロナをきっかけに飼い始めたペットの多くはまだ健在だ。ただ、チューイーの売上高が横ばいであることを考えると、2021年当時の株価収益率(PER)が4000倍を超えていたことは今振り返ると異常に思える。
ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を運営するズームの株価の上昇率は700%を超え、時価総額は1600億ドル超に達した。だが実績ベースのPERが3000倍だったということは、他社が無料で提供するビデオ会議サービスの分野でズームは独占的な地位を維持し続けることを示唆していたことになる。
一部の企業は短期的な売り上げ急増を超えた恩恵を受けた。手芸品などのオンライン市場を運営するエッツィーは、フェースマスクの数少ない供給元だった時期がある。同社はマスク需要が急減した後も知名度は高まり、新規顧客を獲得した。同様に、電子署名サービスのドキュサインでは、住宅ローン市場の活況やソーシャルディスタンスに関連した一時的な追い風はやんだものの、電子署名は社会で広く受け入れられるようになった。両社の売り上げは急増とは言わないまでも伸びている。株価はコロナ期のピークからエッツィーが85%、ドキュサインは71%下落している。
企業の運命が一夜にして変わることは確かにある。幸運にもその株を保有している投資家は、何が株式に価値を与えているのかという基本、つまり数十年にわたる将来のキャッシュフローに立ち返る必要がある。ビジネスチャンスが十分に大きく、持続可能であることが株価上昇に反映されていると断言するのが難しい場合、次にすべきことは明らかだ。他の人々が同じことに気付く前に、利益を確定して逃げたほうがよい。
●中東情勢
トルコ最大都市イスタンブールの市長であり、汚職容疑などで拘束、収監されたエクレム・イマモール氏(54)に対し、エルドアン大統領(71)が主要な政敵だと見なすようになった出来事は約6年前にさかのぼる。イマモール氏はこの時、市長選での初当選を取り消した当局者らをののしり、有罪判決を受けた。
今月のイマモール氏の拘束、収監を巡って反発した市民らが起こした抗議デモは10年超ぶりの規模に発展している。
イマモール氏は今月19日に警察に拘束される前、短文投稿サイト「X」に投稿した動画で、これは国民の意思に反する「クーデター」だと主張。「我々は大きな圧政に直面しているが、私は決してあきらめないということを知ってほしい」と訴えた。そして「私はあの人物と闘い続ける」と、エルドアン大統領への闘志を燃やした。
エルドアン氏は、自身が司法を動かすのに一役買ったとの野党の主張を否定し、司法は独立していると反論した。
イマモール氏は2019年3月のイスタンブール市長選で勝利したが、当局は5月に投票結果の文書への無記名や、投票箱を管理する係員が無許可だったといった理由で結果を無効にした。
イマモール氏はその直後の演説で選挙管理当局者らを「愚か者」とこき下ろし、検察は4年の実刑判決を求刑。20年に2年7カ月の実刑判決が下り、数千人の抗議デモが起きた。
<法廷闘争>
イマモール氏の法廷闘争は皮肉にも、エルドアン氏自身の法廷闘争を思い起こさせる。エルドアン氏はイスタンブール市長だった1999年、反世俗主義とみなされた詩を朗読したため4カ月間投獄。その2年後に公正発展党(AKP)を立ち上げ、2002年に政権を握った。
ベテランのコラムニストのフィクレット・ビラ氏はハルクTVのウェブサイトで、エルドアン氏が法廷闘争で苦境に陥った後に立ち直った政治家の数少ない一例だと指摘。その上で「たとえ政府がイマモール氏の出馬を阻止したとしても、彼を政界から締め出すことはできない」との見解を示した。
この2年間に、イマモール氏への司法からの攻撃は加速した。2014-19年にかけ、イマモール氏がイスタンブール市ベイリクドゥズ区長を務めていた期間に関連する入札談合事件で裁判所は23年6月、イマモール氏に対する審理を開始した。
新たな法廷闘争が勃発したにもかかわらず、イマモール氏は24年3月の市長選で再選された。
昨年終盤にはイマモール氏をはじめとする多くの野党幹部が広範な法的弾圧を受け、数人は地位を失っている。
イマモール氏は今年初め、野党が首長を務める自治体を相手取った訴訟について批判したことを巡り、司法に介入しようとしたとの罪を否認した。
検察当局は2月、イスタンブール市の検察官を批判したとしてイマモール氏を起訴し、公務員を侮辱したとして7年の懲役刑を求刑した。
さらに警察は今月19日、イマモール氏を汚職とテロリストのグループをほう助した容疑で拘束。裁判所が23日に刑務所への収監を決めた。
●エマージング
ロシアとウクライナはそれぞれ、エネルギーインフラへの攻撃禁止を履行するメカニズムの策定と、黒海での停戦に合意したと米ホワイトハウスが発表した。
また、ホワイトハウスは25日に別の声明で、サウジアラビアでの3日間に及ぶロシア、ウクライナとの実務者協議で黒海の「安全な航行を確保する」合意が生まれたと主張。ロシア、ウクライナは商船を軍事目的に利用しないことにも合意したと説明した。
この声明によると、米国は「肥料と農業製品の輸出市場に対するロシアのアクセス回復と海上保険料の引き下げ、港湾へのアクセス拡大、この種の取引の決済を支援」する。
ウクライナのゼレンスキー大統領は部分停戦を即時で履行すると表明。米国とウクライナの次回協議は間もなく始まる可能性があるとも述べた。
ロシア大統領府も同日遅くに発表した声明で、黒海の安全な航行について合意があったことを確認した。ただ、その履行は農業製品輸出に関連する銀行や企業の制裁緩和が条件になるとくぎを刺した。
この声明によると、食料品や肥料の取引に関わるロシア農業銀行(ロスセリホズバンク)の国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」への再接続が認められるなど制裁が緩和されれば、部分停戦は実現する。
米国側と合意した停戦対象となるエネルギー施設は、製油所や石油・ガスパイプライン、貯蔵施設、原発やダムを含む電力関連施設だとロシア大統領府は発表文で明らかにした。
ロシアは世界最大の小麦輸出国で、世界全体の取引の20%余りを占める。ウクライナも依然として世界有数の穀物輸出国で、国連を介した黒海経由の穀物輸送合意をロシアが2023年に失効させたにもかかわらず、なお黒海から大規模な量の穀物を輸送している。
ウクライナのウメロフ国防相は合意発表後、黒海東部の外にロシア軍の艦船が動けば、安全な航行を確保する約束への違反で、ウクライナの国家安全保障の脅威と見なすとフェイスブックに投稿した。
ホワイトハウスによると、ウクライナとロシアはエネルギーインフラに対する攻撃停止を発効させるための措置で米国と協力することに合意した。ロシア大統領府は声明で、この攻撃停止は3月18日から30日間有効だと説明した。
ブルームバーグがこれまでに報じたところによると、トランプ政権当局者は早ければ4月20日の完全停戦成立を目指している。ただ、この日程は野心的過ぎると、ウクライナと欧州の当局者はみている。
25日発表された声明に、トランプ米大統領とプーチン露大統領の今後の首脳会談に関する言及はない。
ロシア大統領府は同日これより先、サウジアラビアの首都リヤドで12時間にわたり続いた米国側との会談について詳細を公表することはないと発表していた。一方、米国とウクライナは23日に続き、25日にも会談。ウメロフ氏は「実り多く集中した」会合だったと表現した。
ホワイトハウスは声明で、米国は「戦争捕虜の交換と拘束されている民間人の解放、強制的に連れ去られたウクライナ人児童の帰還の実現支援に引き続きコミットする」と約束した。
ロシア側交渉チームを共同で率いたカラシン上院国際問題委員長は25日、米国側との対話は難しかったが建設的で、多くの問題が議論されたと発言。交渉は継続し、他国や国連も関与するだろうと述べた。発言は国営タス通信が報じた。
悪い合意よりも戦争継続-米分析
米国家情報長官は25日明らかにした最新の報告で、ロシア、ウクライナとも完全な解決を急ぐよりは、戦争を継続する誘因の方が大きいかもしれないとの判断を示した。
この報告は、米国の安全保障に対する世界的な脅威についての上院情報委員会の年次公聴会に提出された。ロシア、ウクライナとも部分停戦に前向きな意思を示しているが、「両国の首脳は恐らく、満足のいかない解決策を選ぶよりも戦争を継続するリスクの方が小さいとみているだろう」と報告書で分析。
プーチン氏は「戦況が前向きなトレンドであるため、一定の戦略的な辛抱ができる。ウクライナにとっては、西側から実質的な安全保障の確約がなく領土の割譲や中立国化を受け入れれば、国内の反発や将来の不安を生みかねない」と指摘した。
インドネシアの中央銀行は25日、通貨ルピアを防衛するため、外国為替市場に介入した。政局、政府支出、資本逃避に対する懸念の高まりから、ルピアは一時、アジア金融危機以来の安値水準に下落した。
ルピアは午前の取引で0.54%下落、1ドル=1万6640ルピアを付けた。世界市場の不透明感や、インドネシアの財政健全性と成長見通しを巡る懸念を受けて下げ幅を拡大した。
中銀関係者がロイターに語ったところでは、ルピアが25年ぶりの安値へと下げる中、中銀はスポット通貨、債券、国内ノン・デリバラブル・フォワード(NDF)市場に介入した。
LSEGのデータによると、ルピアの史上最安値はアジア金融危機のさなかの1998年6月に記録した1万6800ルピア。
中銀の金融・証券資産運用担当ディレクター、フィトラ・ジュスディマン氏は「トランプ米大統領の関税政策や地政学的な混乱の影響、すなわち貿易戦争が中国やアジア新興国に与える影響を背景に、世界的になお不透明感が強い」と指摘した。
ルピアはその後下げ幅を縮小し、0515GMT(日本時間午後2時15分)現在、1ドル=1万6590ルピアで取引されている。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
- **為替市場**: ドルは円に対して0.58%下落(149.81円)、ユーロに対してはほぼ横ばい(1.0798ドル)。ポンドは0.19%上昇(1.2943ドル)。  
- **債券市場**: 米国の消費者信頼感指数が4年ぶりの低水準(92.9)となり、米国債利回りが低下。2年債入札は好調。  
- **株式市場**: トランプ政権の関税政策の柔軟化期待で続伸。アップルは1.4%上昇、テスラは3.5%上昇、エヌビディアは0.6%下落。  
- **金先物**: 米関税政策の不確実性で安全資産としての需要が高まり、反発(1オンス=3025.90ドル)。  
- **原油先物**: ウクライナ情勢の影響が和らぎ、WTI原油は0.16%下落(69.00ドル)。
- **ロンドン株式市場**: 上昇。トランプ大統領の関税懸念が和らぎ、コモディティー・建設関連株が上昇。FTSE250指数は0.30%高。  
  - 貴金属・鉱業株指数は金価格上昇を受け1.2~1.4%上昇。  
  - 石油・ガス株は原油価格上昇を受け1.14%高。シェルは1.5%上昇。  
  - 住宅建設株は英政府の住宅建設支援策を受け0.50%上昇。  
  - 小売株は3月の売上減少を受け1.84%下落。  
- **欧州株式市場**: 4営業日ぶりに反発。関税懸念後退と銀行株上昇が支え。  
  - IBEX指数(スペイン)1.21%高、DAX指数(ドイツ)1.13%高。  
  - 投資家心理が改善し、ユーロSTOXX50ボラティリティ指数は1カ月ぶり低水準。  
  - ドイツIFO業況指数の改善で景気回復期待。  
- **ユーロ圏債券市場**: 国債利回り上昇。リスク資産への投資意欲が高まる。  
  - ドイツ10年債利回りは2.79%(+2bp)、一時1週間ぶり高水準の2.831%。  
  - ECBの金利見通しに敏感なドイツ2年債利回りは2.14%(+1.5bp)。  
  - UBSは米関税10%でユーロ圏GDP成長率が0.1~0.3%、25%なら0.3~0.7%押し下げると試算。  
  - 市場は2025年末のECB預金金利を約2%と予測。

備忘録(2025/3/24
●海外企業決算
●海外企業
ドイツのソフトウエア大手SAPは、デンマークの医薬品大手ノボノルディスクを抜き、時価総額で欧州最大の上場企業となった。
クラウドベースのソフトを巡って投資家の楽観的な見方が広がっており、その追い風を受けるSAPの株価は24日に1.6%上昇。時価総額は約3140億ユーロ(約51兆円)に達した。一方、ノボは肥満症の次世代薬「カグリセマ」の治験結果が期待に届かず、株価は年初来で16%下落している。
SAPの株価はここ1年で42%上昇。顧客が従来のオンサイトサーバーからクラウド上のITインフラへと軸足を移す動きを加速させていることが要因だ。こうしたプロセスにより、同社は人工知能(AI)機能をまとめた収益性の高い製品を販売できるようになり、売上高の伸びを後押ししている。
アナリスト予想平均では、SAPの今年の売上高は12%増と見込まれている。実際にそうなれば、過去10年で最も高い年間の増収率となる。昨年1月に発表したリストラ策によって、営業利益はさらに加速する見通しだ。
●日本企業
日本製鉄の今井正社長は24日、米鉄鋼大手USスチール買収を巡る米政府との交渉について「米国の鉄鋼業界や製造業を強くすることに資する案件だという点については、米政府との認識は擦り合ってきていると感じている」と述べた。
今井氏は、記者団に対し、出資の条件や将来の投資計画について合意点を見いだせるよう、USスチールや米当局との交渉を続けているとした。具体的内容への言及は避けた。
●先進国政治動向
トランプ米大統領がホワイトハウスに復帰して以来の権力行使は、18世紀に確立された米国の憲法上のチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)体制を試練にさらしている。トランプ氏と同じ共和党が多数を占める議会はおおむね同氏の政策に同調しているため、次々と繰り出される大統領令を抑え込む唯一の存在として浮上しているのが、連邦裁判所の判事らだ。
トランプ氏による対外援助や連邦支出の削減、政府職員の解雇、1798年の「敵性外国人法」に基づく強制送還などについて裁判所は実行を阻む命令を下している。連邦裁判所判事らは、政権が命令をどこまで順守するのかを厳しく精査している。
連邦地裁判事は、ベネズエラの犯罪組織メンバーの迅速な強制送還を停止するよう命じた。トランプ氏は前週、この件について議会での弾劾を要求したが、ロバーツ最高裁長官は同氏の発言を非難した。
米国の建国の父らは憲法で三権分立を確立し、行政、立法、司法の各機関が互いの権力をチェックし合うよう設計した。
ジョージタウン大のデービッド・スーパー教授(法学)は、トランプ氏が「他の2つの政府部門を明らかに犠牲にし、大統領権限を拡大するために非常に積極的に動いている」と話す。
アメリカン大ワシントン法科大学院のエリザベス・ベスケ教授は、トランプ政権による憲法上の秩序の再構築は「段階的に進んでいる」と指摘した。
トランプ政権は、行き過ぎているのは大統領ではなく司法だと主張している。トランプ氏は20日、最高裁に対し、連邦判事らが政権による全国的な措置に差し止め命令を出す権限を制限するよう求めた。
トランプ氏はソーシャルメディアに「手遅れになる前に、全国的な差し止め命令を今すぐやめよ。ロバーツ最高裁長官と最高裁が、この有害で前例のない状況を直ちに正さなければ、わが国は非常に深刻な事態に陥る!」と投稿した。
<単一執行府論>
法律の専門家によると、トランプ氏は監察官や各種機関の長官を解任するなど、行政機関内のチェック機能を弱体化させることも狙っている。これらの職は、大統領の管理からある程度独立性を持たせる狙いで議会が導入したポストだ。
トランプ氏の広範な権力行使の一部は、いわゆる「単一執行府」論に沿っている。この保守的な法的見解では、大統領は行政部門に対して広大な権限を有しているとされる。独立機関の長官が不当に解雇されることがないよう議会が制限を課そうとした場合でさえだ。
単一執行府論を提唱するカリフォルニア大バークレー校法学部のジョン・ユー教授によると、トランプ氏は大統領権限を、ウォーターゲート事件の後に実施された改革以前の水準に戻そうとしている。同事件でニクソン大統領(当時)は1974年に辞任したが、この際の改革は大統領の権限を犠牲にして議会の権限を増大させたとユー氏は主張する。
ユー氏は「トランプ氏の行動の多くは、ウォーターゲート事件後の改革を覆し、行政機関に対する大統領の完全な支配権を復活させる試みだと理解できる」と語った。
にもかかわらず、共和党主導の現議会はトランプ氏にほとんど反発していない。ハーバード大公共政策大学院(ケネディ・スクール)のベンジャミン・シュニアー教授(公共政策学)によると、これは米国で2大政党間の不信感が深まる中、「三権分立」から「政党分立」へと向かってきた数十年来の傾向とほぼ一致している。
トランプ氏の返り咲き以来、議会が行政のチェック機能をほとんど放棄したことで、こうした力学は増幅されているとして「これが今、私たちが生きている新しい世界だ」と語った。
ブッシュ元大統領に任命された元連邦高裁判事、トーマス・グリフィス氏は討論会で「議会は大統領権限を制限することに特に関心がないようだ。そのため、大統領による権限行使に異議を唱える訴訟が起こされている」と説明した。
トランプ氏が権限を行使して次々と行政機関高官らを解任した問題が、裁判で争われている。うち連邦高裁はトランプ氏によるデリンジャー特別検察官局(OSC)局長の解任を認め、トランプ氏が勝利を収めた。
<トランプ氏に逆風の判決>
現在、トランプ氏および政権の政策に異議を唱える100件以上の訴訟が連邦裁判所で審理されている。 これまでに、米国で生まれた子どもに自動的に国籍を与える出生地主義制度の制限、連邦政府支出の凍結、さまざまな政府役人の解任、トランスジェンダー兵士の除隊といったトランプ氏の措置を差し止める判決が数十件下されており、その多くは民主党所属の大統領が任命した判事らによるものだった。ただ、全員というわけではない。
一部の専門家によると、現政権は最近の政権では見られなかったような司法命令への抵抗を示している。
デューク大法学部のマリン・レビー教授は「これはいくら強調しても、し過ぎではない。今に至るまで、現代において政権が裁判所の命令に従うかどうかを疑わなければならなかったことなど一度もなかった」と嘆いた。
FOXニュースの番組で裁判所の命令に逆らうかどうかを問われたトランプ氏は「いや、それはできない」と答えた。だが、続けて「悪い判事がいる。非常に悪い判事がいる。許してはならない判事だ。悪徳判事がいる場合にどうするかを、ある時点で考えなければならないと思う」と話した。
トランプ氏と親しい下院議員らは、トランプ氏に不利な判決を下した裁判官の弾劾手続きを進めようとしている。
最高裁は、大統領2期目でのトランプ氏の措置に対する異議申し立ての法的妥当性について、まだ判断を下していない。つまり、大統領の権限を抑制するために最高裁がどの程度行動を起こすのかは依然として不透明だ。最高裁はこれまでに、手続きに関する2つの判決でトランプ氏に一時的な打撃を与えている。
最高裁は保守派が6対3で多数を占めており、うち3人はトランプ氏が1期目に任命した判事だ。トランプ氏は3月13日、出生地主義制度の見直しを認めるよう最高裁に申し立てている。
シアトルの地裁のジョン・コフナ―判事は、トランプ氏の出生地主権に関する命令は「明らかに違憲だ」と警鐘を鳴らす。
コフナー氏は2月6日の公聴会で「世界の歴史には、人々が振り返って『弁護士はどこにいたのか、裁判官はどこにいたのか』と問う瞬間がある。こうした瞬間において、法の支配は特に脆弱(ぜいじゃく)になる。私は今日、その灯を消させはしない」と語った。
引退した事業主のキャサリン・バード氏は米連邦政府は肥大化していると考えており、こうした政府職員の削減を推進するドナルド・トランプ大統領の取り組みを大いに歓迎している。何万人もの人々が職を失うことについては全く心配していない。
米ジョージア州に住むバード氏は「彼らのことを少しも気の毒に思わない。私はずっと民間部門で働いてきた」と話した。解雇された経験は自身にもあるという。「そういう時はどうするか? 外に出て別の仕事を見つける。見つけられる仕事はたくさんある」
政府効率化省(DOGE)主導による連邦政府職員の大規模な削減とそれに伴う混乱を巡り反発が起きているものの、米国人の中には同情を感じていない人々もいる。多くはあらゆるレベルの政府職員に対して否定的な見方をしており、それは政治的な要因であったり、確定申告を行う際の個人的経験や、郵便局や車両管理局(DMV)での長い待ち時間に関連していたりする。
民間企業ではまれな年金保証などの特典を連邦政府職員は享受しているとの認識も、反感につながっている。
セントルイス地区連銀のデータによると、政府職員全体の解雇率は民間部門の従業員と比べて長年低水準にとどまっており、新型コロナウイルス流行初期などの混乱期にその傾向は特に顕著だった。超党派の議会予算局(CBO)によると、連邦職員は民間の労働者よりも職を失う可能性が低いため、失業期間も短い傾向にある。
「政府の職をクビになる人はどれくらいいるのか? そう多くはない」とランディ・ジョンソン氏(75)は話した。同氏はテネシー州の元数学教師で、大統領選ではトランプ氏に投票した。人員削減については、 「政府の規模を縮小しようとする上で良いこと」かもしれないという点について十分に聞かされていないとも述べた。
政府職員は人々の役に立つ存在ではなく問題の原因であるとの考え方は、右派の論点になってきた。ロナルド・レーガン元大統領が「政府の者です、助けに来ました」という言葉ほど恐ろしいものはないと冗談を飛ばしたことはよく知られている。トランプ氏は、連邦政府は仕事をしない人間であふれているとの見解を示す。世論調査によると、連邦政府に対する国民の信頼は過去70年間で大幅に低下した。
ピュー・リサーチ・センターの近年の調査によると、政府が大きすぎるか小さすぎるかについての米国民の意見はほぼ二分されているが、政党の違いによる大きな分断がある。今年のピューの調査では、連邦政府のキャリア職員を信頼すると回答した割合は共和党支持者の間で38%だったのに対し、民主党支持者では72%だった。
ピュー・リサーチ・センターの政治調査ディレクター、ジョセリン・カイリー氏は「民主党支持者は、問題解決のために多くの役割を担う政府を好む傾向がある。共和党支持者は、政府はやり過ぎだと主張する傾向が強い」と話した。米国はクリントン政権の8年間で40万人以上の連邦政府の職を削減した。
コロンビア大学の政治学教授であるロバート・シャピロ氏は、連邦政府職員に対する国民の支持はさまざまでありばらつきが大きいとし、軍や社会保障、メディケア(高齢者向け公的医療保険)、国立公園などに関連した機関は一般的に好意的に見られていると指摘した。「広範な政府における特定の分野については実際、非常に支持が多い」という。
世論調査では、実業家のイーロン・マスク氏率いるDOGEによる人員削減の取り組みへの見方は複雑であることが示されている。ロイター/イプソスの今月の調査では、政府の縮小を支持する割合は59%だった。一方、キニピアック大学が今月実施した別の調査では、マスク氏とDOGEの連邦政府職員に対するやり方を支持しないと答えた割合は60%だった。
テキサス州サンアントニオの大学教授、メアリー・ディクソン氏(53)は「私たちは落ち着いて、『どこに肥大化した政府があるのか』と問いかける必要がある」と述べた。ただ、経済的保守派を自認し、社会問題では左寄りだというディクソン氏は、政府の職員や機関は厳密な評価なしに削減されていると指摘した。
ディクソン氏は「2000人を解雇すると言うだけで、そのうちの誰が何をしているのか言えないのであれば、それはデータに基づいたものではない」と語った。2024年の大統領選で誰に投票したのかは明かさなかった。「十分な検討と対話、そして透明性があれば本当に良いと思う」
連邦政府職員への国民の評価が上昇傾向にあることを示す指標がある。「米国顧客満足度指数(ACSI)」によると、政府サービスに対する国民の満足度は昨年、2017年以来の高水準に上昇した。また、連邦政府に対する苦情件数は21年から24年にかけて増加したものの、同期間における苦情への対応は改善したとみなされていたことが昨秋発表されたACSIの報告書で示された。
過去1、2年の間に採用されたか昇進した試用期間中の連邦政府職員の解雇を巡っては、判事2人が最近、解雇を差し止めた。こうした職が維持されるかどうかはまだはっきりしない。一方、政府機関は数万人の職員に自主退職を促している。
最近解雇された契約職員のメレディス・ロペス氏(38)は、連邦政府職員に対する「社会全体の冷淡な態度」にがっかりさせられると語った。
「公務に就くことは単なる仕事ではなく、多くの人にとって天職となり得ることが忘れられていると思う」。ロペス氏は対外援助機関の国際開発庁(USAID)でダラス拠点のコミュニケーションスペシャリストとして約1年間働いていた。
「私にとっては、個人レベルで人々やコミュニティーを助けることができるということが本当に大切だ」とロペス氏は述べた。同氏はホンジュラスの河川浄化を支援するリサイクルプログラムを含め、約60カ国でUSAIDのプログラムに取り組んでいた。
ジュディ・キャメロン氏(45)は2月に内国歳入庁(IRS)の職を失う前から、世間からの冷たい視線を感じていた。3月14日のインタビューでは、「人々は私を見て『IRSで働いているの?ああ、なんてこと』と言う」と語っていた。これは、同氏や他の多くの政府職員が裁判所の命令で復職し、無期限の休職扱いとなる前のことだった。同氏は「今までで最高の仕事」としながらも、仕事で人と会うと、まるで疫病神のように避けられると話した。
キャメロン氏はミズーリ州カンザスシティーの事務所で、税務調査事務員として時給19ドル(約2800円)で働いていた。共和党員であり、大統領選ではトランプ氏に投票した。ソーシャルメディアへの自身の投稿に対しては、トランプ氏は「米国のために良いことをしているだけだ」とのコメントが寄せられたという。
テネシー州に住む銀行員で、トランプ氏に投票したダリエン・リゾ氏(35)は、人員削減のスピードはあまりに速く、「優秀な人材」も職を失っており、短期的には一部の連邦サービスに影響が出ると考えていると語った。ただ、必要であれば人員を増やすなど、状況に応じて調整できるはずとの見方を示した。
リゾ氏はDOGEの取り組みは汚職の摘発と納税者の節税につながると考えており、「革命的なことが起きていると思う」と述べた。
カリフォルニア州の賃貸物件オーナー、レイモンド・リード氏(70)はトランプ氏に投票した共和党支持者で、DOGEのファンだ。「支持する?もっとやれと言っているんだ」とし、「どんどん解雇して追い出せばいい」と話した。
カナダのマーク・カーニー新首相(60)は23日、総選挙を4月28日に実施すると発表した。アメリカと貿易戦争に直面し、ドナルド・トランプ米大統領がカナダはアメリカ51番目の州になるべきだと繰り返す状況での選挙なだけに、トランプ政権への対応が最大の焦点になるとみられる。
与党・自由党を率いるカーニー氏は、9日前にジャスティン・トルドー前首相から首相を引き継いだばかり。
総選挙では、野党・保守党のピエール・ポワリエーヴル党首(45)と対決することになる。保守党は世論調査で2023年半ばからリードし続けてきたが、最近は支持率が拮抗(きっこう)している。
カーニー氏は23日にオタワで演説し、トランプ氏に対処するには、国民の明確で積極的な負託が必要だと主張。
「トランプ大統領の不当な貿易政策や主権に対する脅威のせいで、私たちは生涯で最も重大な危機に直面している」、「アメリカが私たちを我が物にできるようにと、(トランプ氏は)私たちをくじけさせようとしている。そんなことはさせない」と訴えた。
トランプ政権発足以前は、自由党は総選挙になれば政権を失うと予想されていたが、ここに来て、4回連続となる政権発足をカーニー氏の下で実現する可能性が出てきた。
カーニー氏は、英イングランド銀行(中央銀行)とカナダ銀行(同)の元総裁。議員の経験はなく、政治的な力量は未知数だ。
カーニー氏は首相就任後、イギリスのキア・スターマー首相やフランスのエマニュエル・マクロン大統領と会談するなど、就任から間もない時間を最大限に活用してきた。カナダの北極圏を訪れ、オーストラリアと共同で新たなレーダー・システムを開発することも発表した。
さらに、保守党から激しく批判されていた、トルドー政権による気候政策の炭素税を終わらせた。
トランプ関税への対応
カナダの有権者らは、緊密な同盟関係を長年保ってきた対米関係の急変や、物価上昇を懸念している。
保守党のポワリエーヴル党首は、総選挙が発表される直前の政治活動で、不人気だったトルドー前首相が率いた自由党と、カーニー氏を結びつけようとした。
ポワリエーヴル氏は、トルドー政権時代を「失われた自由党の10年」と批評。自由党が資源開発を阻止し、軍に資金を提供せず、移民と経済に関して政策を誤り、国を弱体化させたと非難した。
そして、自由党の「グローバリスト思想」が、トランプ氏の貿易戦争に対してカナダを弱くしたと述べた。
トランプ氏によるカナダ製品への関税措置は、カナダで経済の不安定化と不況を招く可能性がある。
トランプ氏は3月初めにカナダ製品に対して25%の関税を発動。その後、部分的に1カ月間停止した。12日には、すべてのアルミニウムと鉄鋼の輸入品に一律25%の関税をかけ、カナダの輸入業者が打撃を受けた。
カナダ総選挙の選挙戦2週目となる4月2日には、トランプ政権は世界的にさらに関税を引き上げる予定。
カナダはこれまで報復措置として、約600億カナダドル(約6兆2700億円)相当のアメリカ製品に関税をかけている。
カーニー氏は追加の報復措置を約束している。ただ、両国の経済規模の違いから、カナダの関税対応には限界があることを認めている。
一方、ポワリエーヴル氏も、カナダがアメリカの脅しに断固とした対応をしなくてはならないと主張。
「私たちは怒りと不安を行動に変えなければならない」、「アメリカに立ち向かうため、強く、自立し、主権をもつ存在にならなくてはならない」と述べた。
今回の総選挙の選挙運動期間は、規定の中で最短の5週間しかない。アメリカとの関係のほか、生活費の上昇などの経済問題が主な焦点となる。
どんな政党が争うのか
カナダの連邦政府では、首相は有権者の直接投票で選ばれず、通例では議員の数が最も多い政党の党首が首相になる。
今回の総選挙は主に、自由党、保守党、新民主党(NDP)、ブロック・ケベコワ(ケベック連合)の4党で争われる。ブロック・ケベコワは、フランス語圏のケベック州でのみ候補者を擁立し、同州の利益に重点を置いている。
これ以外には、緑の党とカナダ人民党も候補者を立てる。
NDPのジャグミート・シン党首は23日、カーニー氏もポワリエーヴル氏もカナダにとって正しい選択ではないと主張。両氏を、一般国民ではなく富裕層を守っていると非難した。
ブロック・ケベコワは、ケベック州での自由党の支持拡大に直面している。イヴ=フランソワ・ブランシェ党首は、トランプ氏が注目している産業を代弁するのは同党だとアピールした。トランプ氏は、ケベック州の重要産業のアルミニウムや酪農、木材などに興味を示している。
緑の党は、共同党首(ジョナサン・ペドノー氏、エリザベス・メイ氏)の態勢で初めて総選挙に臨む。ペドノー氏は23日、「私たちは、国の命運がかかっているかのように投票しなくてはならない。実際、かつてないほどそうだからだ」と話した。
議会下院の解散と総選挙が発表された時点の各党の保有議席は、自由党153、保守党120、ブロック・ケベコワ33、NDP24、緑の党2、となっている。
トランプ米大統領は24日、韓国の現代自動車が米国で大幅な事業拡大を計画していることを称賛した。米国内の雇用創出を促すため、関税を利用して外国メーカーに圧力をかける政策の正しさを証明するものだと主張した。
トランプ氏は現代自動車の幹部やルイジアナ州知事と共にホワイトハウスのイベントに参加し、「米国での製造に58億ドル(約8740億円)を投資するとの現代自動車の発表を報告できることをうれしく思う」と語った。
トランプ氏は、現代自動車がルイジアナ州に建設する工場は年間270万トン強の鉄鋼を生産する予定だとし、「その後も大幅な事業拡大が予定されている」と説明。「資金が流入しており、この状態を維持したい」と述べ、この投資は「関税が極めて効果的に機能していることを明確に示している」と語った。
現代自動車は発表文で、2028年までに米国に約210億ドルを投資し、自動車生産の拡大や他のプロジェクトにより約1万4000人の直接雇用を創出する計画。ブルームバーグ・ニュースの先の報道内容を確認するもので、このうち年間約120万台への増産に90億ドルを投じ、残りの120億ドルはルイジアナ州での製鉄所建設などに充てるという。
現代自動車グループの鄭義宣(チョン·ウィソン)会長は、この投資により米国内の鉄鋼サプライチェーンが強化されると述べた。また同社は米国産液化天然ガス(LNG)の購入に30億ドルを充てるとし、「米国とのパートナーシップが深まり、米国の産業リーダーシップを巡るわれわれの共通のビジョンが強化されるだろう」と語った。
同社は、トランプ氏が製造業者に米国内の雇用創出を迫る貿易戦争を激化させる中、米国での生産拡大に乗り出す最新の外国企業となった。トランプ氏は24日、今後数日以内に自動車関税を発表すると明らかにし、来週発表予定の「相互関税」では一部の国に対して適用除外や軽減措置を講じる可能性があると示唆した。
●先進国中銀、金融当局
欧州中央銀行(ECB)政策委員会メンバーのエスクリバ・スペイン中銀総裁は24日、ユーロ圏の経済予測を巡るリスクは上方よりも下方に傾斜しているとの認識を示した。
マドリードで講演したエスクリバ総裁は、「より破壊的なシナリオは実現していない」としつつも、「不意打ちはあり得ないというわけではない。われわれはこれまで以上に予測修正に備えておく必要があり、そのためには相応の注意が必要だ」と述べた。
また「成長リスクは上振れよりも下振れだ」と指摘。「持続するなら、財政政策など幾つかの上振れリスクがある」が、「上振れリスクよりも下振れリスクの方が明白だ」と語った。
ECBは今月、今年と来年の成長率予測を下方修正し、2025年は0.9%、26年は1.2%にとどまるとした。
一部の当局者は、次回4月会合で0.25%の追加利下げを支持する姿勢を示しているが、市場ではほぼ五分五分と考えられている。トランプ米大統領が4月2日に予定する相互関税発表や、その世界的な影響がまだ予測できないことなどが影響している。
エスクリバ総裁は足元の環境について「極めて不透明」だとし、米政府がその主因だと指摘した。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
コーヒーチェーン各社は昨年、コーヒー相場下落を見込み価格ヘッジを見送った。この見通しは外れ、消費者が代償を支払うことになる。
これらチェーンは通常、価格変動リスク回避のため先物市場を利用している。コーヒー豆価格が昨年上昇し始めた時点で方針を変更。今後もっと有利な取引ができるとみてヘッジを実施しなかった。
ところが供給不足は継続。価格は上昇し続け、JDEピーツ、スターバックスなど業界大手各社は、消費者の負担を増やす以外に選択肢をなくしている。
コーヒー市場の買い手のヘッジ状況を示す指標は11年余りで最低レベルに接近。各社は大幅に上昇したコストを消費者に転嫁する見込みだ。
消費者がコーヒーに支払う金額は、既に過去最大となっている。米労働統計局(BLS)によれば、コーヒー豆1ポンドの平均価格は2月、過去最高の7.25ドル(約1100円)に達した。
JDEピーツの最高経営責任者(CEO)ラファエル・オリベイラ氏は2月の決算会見で「大幅な値上げは避けられないのが現実だ」と発言した。
スターバックスのレイチェル・ルゲリ最高財務責任者(CFO)は1月、スーパーマーケットで販売される同社製品についてその他の事業分野よりも大きな影響を受けると説明している。
オリベイラ氏、ルゲリ氏ともに、価格上昇が小売りの販売量への圧力になるとの見通しを示している。
コーヒー豆価格は、世界最大の生産国ブラジルの干ばつが収穫への打撃となり、今年最高値を記録した。
欧州大陸の旅行代理店5社によると、欧州全体で米国への旅行計画を見直す顧客が増えている。背景にはトランプ米大統領やバンス副大統領の欧州に対する厳しい姿勢があるとみられる。
トランプ氏は就任から2カ月で米国と欧州の長年にわたる同盟関係を弱体化させ、デンマークの自治領であるグリーンランドの買収を提案し、世界的な貿易戦争を開始した。
デンマーク出身のケネット・ブラスクさんは2年前のフロリダへの釣り旅行を楽しみ、今年再訪する予定だった。しかし、ホワイトハウスでトランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領が口論になった会談の様子を見て中止を決めたという。
ブラスクさんは「あの会談を見て、トランプ氏が大統領である限り米国に行かないと決めた。トランプ氏の態度はあまりにも失礼だった」と語った。代わりにメキシコを訪れる予定という。
米商務省旅行・観光局(NTTO)が発表した2月の西欧から米国への渡航者数(速報値)は、前年同月比1%減少した。昨年2月は14%増だったがマイナスに転じた。デンマークから米国への渡航者数は6%減少した。昨年2月は7%増だった。
欧州連合(EU)の統計によると、欧州の旅行者は2023年に米国への旅行に1550億ドルを支出した。
欧州の旅行代理店や旅行データ会社によると、米国への旅行に関する検索数は減少しており、他の地域への広告に重点を置いているという。
ドル高や欧州経済の低迷も米国旅行を控える要因となっている可能性があるが、旅行代理店は政治的混乱が最も大きな影響を与えていると指摘している。
観光データを提供するデータ・アピール・カンパニーのミルコ・ラリ最高経営責任者(CEO)は、フランス、イタリア、スペインで米国行きの航空券のネット検索数が今月急減したと明らかにした。ただ、英国からの需要は依然として堅調だという。
アルバトロス・トラベル(コペンハーゲン)のシニア・プロダクト・マネジャー、スティーン・アルブレヒトセン氏は「顧客の反応の鈍さと現在の状況、特にデンマークとグリーンランドに対する(米国の)姿勢を踏まえ、米国へのツアーの販売促進には1セントも使わないことに決めた」と語った。
<カナダへの関心>
ドイツの旅行代理店アメリカ・アンリミテッドのティモ・コーレンバーグCEOは、米国ではなくカナダに目を向ける顧客が増えていると話す。同氏は「前例のないカナダブームが起きている」と語った。
一方、データ分析会社キー・データによると、カナダからの欧州の貸別荘など短期宿泊施設の6─8月の予約は前年比32%増加した。カナダ人が米国への渡航を避けている可能性がある。
欧州最大の旅行会社TUIなどは米国市場は依然として堅調であり、特に都市観光旅行やキャンピングカー旅行は底堅いとの見方を示している。
TUIの広報担当者は「米国で休暇を過ごすドイツ人旅行者は24年から増加すると見込んでいる」と述べた。
NTTOによると、2月のドイツから米国への渡航者は前年同期比9%減少した。昨年2月は18%増だった。
トランプ米政権の政策が世界的な貿易戦争を引き起こし、経済成長を損なう恐れがあるとして、アナリストらは今年第1・四半期の米国企業利益に対してより慎重な見方を示している。
LSEGのシニアリサーチアナリスト、タジンダー・ディロン氏によると、アップル、テスラ、フォード・モーターといった企業がこのほど下方修正された四半期見通しの主因。今年初めのカリフォルニア州山火事を受けて一部保険会社の業績予想も打撃を受けた。
2025年第1・四半期のS&P500企業利益見通しは今年に入ってから4.5%ポイント低下しており、23年第4・四半期以来最大の下方修正だという。
21日のLSEGデータによると、S&P500企業利益の伸びは前年比7.7%と見込まれているが、これは23年第3・四半期以来最も低く、24年第4・四半期の17.1%からは大幅な低下となる。
S&P500指数は13日、 終値ベースで2月19日の過去最高値から10%以上下落し、調整局面にあることを確認した。
ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのグローバル市場担当シニアストラテジスト、サミール・サマナ氏は「関税などを心配している人は多いが、企業にとって対処が非常に難しいのは、実のところ広範な経済減速だ」と語った。
LSEGのデータによると、S&P500指数の予想株価収益率(予想PER)は21倍。10年間平均は約18倍だ。
カナダ生まれのキース・モファットさんは、オランダに住み、アイルランドのパスポートを持つ。しかし最近まで、彼の株式ポートフォリオは(ほぼ)米国株のみで構成されていた。
米国株の比率が約90%を占めている時期もあった。モファットさんはこの数週間に米国株を全て売却し、欧州などの国際企業の株式に投資する上場投資信託(ETF)と欧州の防衛関連株に資金を振り向けた。米国株は割高だと彼は言う。だが、ドナルド・トランプ米大統領がカナダを「51番目の州」と呼んだことも心証を害した。
「それが決定打だった」とモファットさんは話す。「米国で起きていることに怒っている欧州の投資家は多い。そんなところに投資する理由などあるだろうか」
米金融大手JPモルガン・チェースが、2025年は米国例外主義が「広範で支配的な」投資テーマになると宣言してからわずか2カ月で、世界中の個人投資家が他の市場に目を向け始めている。彼らは米国株のアウトパフォーマンスの波に乗る代わりに、関税戦争や米外交政策の大きな転換が及ぼす潜在的な影響を見極めようとしている。そして、この値動きの荒い期間の大半で、中国株と欧州株が予想を上回るパフォーマンスを示した。
欧州株投資の根拠は先週21日に勢いを増した。ドイツ政府が、最大1兆ユーロ(約161兆円)を国内経済に注入する計画を承認したのだ。その資金の大部分は国防増強に充てられる。ドイツのDAX指数は年初来約15%高と急伸しており、大規模な財政支出によって同国が不況から脱するのではないかという一部投資家の期待を映す。米国が孤立主義的な外交政策姿勢を強める中、欧州各国は防衛支出を拡大している。その結果、域内の防衛関連企業の株価が急騰している。
スロバキア出身でマイアミを拠点とするトレーダーのリア・ホルムグレンさんは、トレーディング・マインドセット・アンド・データの共同創設者で、ソーシャルメディアで新米投資家を指導している。彼女によれば、欧州は何年も「ほぼ睡眠状態」だった。しかし最近、DAX指数と欧州の銀行銘柄に有望な兆しが見られるという。トランプ氏の米国第一政策を受け、欧州企業はより積極的にならざるを得ないとの見立てだ。ホルムグレンさんは2月、短期資産の一部を米企業から欧州の防衛関連企業に入れ替えた。
「誰もが米国株に投資している」とホルムグレンさんは言う。「世界最高の企業群だが、バリュエーションは法外だ。それらの企業の将来はどうなるのか、(米半導体大手)エヌビディア(の株価)はまた10倍になれるのか、といった疑問がある。だから人々は他の場所に逃避しているのだろう」
モーニングスターによると、主に欧州株に投資する米国ETFは今年1~2月、20億ドル以上の流入超過となった。2024年下半期は85億ドル以上の流出超過だった。一方、今年1~2月の米国株ETFへの資金流入ペースは昨年11~12月から鈍化した。
今年はこれまでのところ、S&P500種指数が3.6%安であるのに対し、ストックス欧州600指数は8.3%高となっている。
米国株への強気姿勢を崩さない投資家は、依然としてファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を信じている。つまり、米企業の見通しは明るく、長期的には世界市場を支配する態勢が整っており、AI(人工知能)の成長が大きな追い風になる、という見方だ。
ただ、そうした投資家も「ほころび」に気付き始めている。例えば、消費者信頼感指数は急低下しており、インフレは根強く、消費者はあらゆる種類の購入を控えている。投資家からは、米国株一辺倒はもはや得策ではないかもしれないと懸念する声も上がる。
しかも投資家は、米市場以外のほぼ全ての市場で割安株を見つけている。米市場と比べた世界各国市場の割安さは、過去最高に迫るほどだ。ダウ・ジョーンズ・マーケット・データによると、ストックス欧州600の過去1年間の株価収益率(PER)は約18.7倍だが、S&P500種指数は24.6倍だ。香港のハンセン指数は13倍に満たない。
米国外在住の一部の投資家は、少なくとも保有資産の一部を米国から移す理由として、トランプ政権と欧州の関係がさらに悪化する可能性も挙げている。
ドイツ在住の米国人ピーター・スターンさん(41)は以前、ポートフォリオの約70%が米国資産だった。米国のハイテク企業で働いているため、欧米間の政策対立が悪化すれば、職を失い、貯蓄も引き出せなくなるのではないかと懸念している。
「稼ぐのも使うのもユーロなのに、私のお金は全て米国に閉じ込められている」とスターンさんは言う。「もはや自分のお金を米国に置いておくのは安全だと感じない。少なくとも全てを置いておくのは」
スターンさんは、保有する米国債を売却して欧州の株式・債券に再投資している。欧州の安保強化資金を提供したいとの考えからだ。しかし、欧米間の資本の移動には多額の税金がかかるため、米国株は保有し続けている。
多くの投資家にとって、米国株は手放すには惜しすぎる存在だ。豪クイーンズランド州在住のアンドリュー・バーネットさんは、米国の最新の政策が経済成長に与える影響を懸念するようになった。ポートフォリオの半分以上を、仏高級ブランドグループのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンや中国の電子商取引最大手アリババグループなどの非米国株と入れ替えたという。
それでも彼は、米国には世界最高の人材と最も成功した企業が集まっていると考えており、米国例外主義を諦めてはいない。
「欧州連合(EU)には27の国があり、27の異なる文化と言語、退職年齢が存在する。米国は常に欧州をアウトパフォームすると思う。ただ、現在のような特定の期間には、チャンスのある小さな一角を見いだせるだろう」
米連邦住宅金融局(FHFA)のウィリアム・パルト局長は、就任後最初の1週間で同局が監督する政府系住宅金融機関(GSE)の連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の取締役10人余りを解任した。
また、2公社の取締役会長に自ら就任し、新たな取締役を据えた(その1人のクリストファー・スタンレー氏は米実業家イーロン・マスク氏の側近だが、就任後1日で辞任した)。パルト氏が解任した幹部には、フレディマックで最高経営責任者(CEO)を務めていたダイアナ・リード氏も含まれた。
パルト氏は取締役の交代が実施された前日の今月16日にX(旧ツイッター)への投稿で、「これらの事業には本当に優秀な人々が集まっており、彼らにとってはさらに稼いで成長する昇進のチャンスが多くある」と述べた。FHFAはそれ以上のコメントは控えた。
全米財務職員組合(NTEU)によると、FHFAでは少なくとも数十人が休職処分を受けているという。事情に詳しい関係者は、一部の職員が古い食堂に行くように言われ、そこで無期限の休職を言い渡されたと述べた。FHFAは2024年時点で、700人余りの職員を擁していた。
しかし、これよりもはるかに大きな改革も議論されている。トランプ政権当局者は、第1次政権で成し遂げられなかったファニーメイとフレディマックの民営化に取り組むとしている。
事情に詳しい関係者によると、トランプ氏の側近は先週、2公社の管轄を現在の財務省からトランプ氏が創設を公言している政府系投資ファンドに移す方法を提示したという。
スコット・ベッセント米財務長官は先週、2公社を政府系ファンドに活用する可能性をポッドキャストで示唆したが、詳細は明らかにしなかった。
一般的に政府系ファンドの資金には余剰歳入が充てられる。しかし、米国は毎年大幅な財政赤字を計上している。
08年に政府の管理下に置かれた2公社を民営化すれば、政府に利益をもたらす可能性がある。ここ数カ月で浮上した提案では、2公社が民営化された場合の企業価値は3300億ドル超となり、政府の持ち分は2500億ドル余りと見積もられている。
お気に入りの銘柄に2倍のレバレッジをかけるファンドに資金をつぎ込んだ投資家は、米国株が過去最高値をつけたことで報われた。だが最近は下落局面に見舞われている。
人気の高いレバレッジ型上場投資信託(ETF)のいくつかは、借り入れた資金を使って単一または複数の資産に対する賭けを倍加させるが、ここ数週間でその価値の多くが打ち消された。特にパフォーマンスが悪いのは、ソフトウエア企業からビットコイン保有企業に変貌し、ミーム株(はやり株)となったマイクロストラテジーの株式に対し2倍のエクスポージャーを提供するファンドで、昨年11月の高値から83%下落。テスラ株に同様のレバレッジをかける別のETFも80%下落している。
「文字通り胃がずっと痛い」。オンライン掲示板レディットの投資フォーラムに、あるユーザーはこう書き込んだ。マイクロストラテジー株のレバレッジ型ETFが11月の高値をつけた日に、1口200ドル(約3万円)で200口購入したという。今月19日、同ETFは29ドル80セントで取引を終えた。
レバレッジ型ETFは昨年、ウォール街屈指の人気を誇る高ボラティリティー(変動性)商品に浮上した。投資家が株高局面でより積極的にリスクをとる方法を追い求め、資産運用会社がこうした需要に応える新ファンドを相次ぎ立ち上げていた。モーニングスターによると、レバレッジ型ETFの運用資産は1月31日までの12カ月間に51%増の1340億ドル(約20兆円)に膨れ上がった。
株価指数にレバレッジをかけるETFは10年余り前から米国で運用されているが、マイクロストラテジー株やテスラ株などの値動きに連動することを目指すレバレッジ型の「単一銘柄ETF」は2022年に初めて規制当局の承認を得た。 投資会社によると、これらのファンドは短期トレーダー用に設定されており、長期保有には向かないという。
例えば、レバレッジ型ETFで最大の運用資産220億ドルの「プロシェアーズ・ウルトラプロQQQ」を見てみよう。同ETFは上昇局面でも下落局面でも、投資結果がナスダック100指数の日次運用実績の3倍となることを目指す。ナスダック100指数は19日に1.3%上昇し、レバレッジ型ETFは3.9%上昇した。狙い通り、上げ幅は約3倍となっている。
だが1日を超える期間では、リターンは大きく違ってくる。ナスダック100指数は21年末以降約20%上昇しているが、同指数の日次運用実績にレバレッジをかけるタイプのETFでは25%超の下落となった。これは22年にナスダックの弱気相場でレバレッジ型ETFが80%余り下落した大損失から、まだ元通りに回復していないためだ。
モーニングスターのアナリスト、ジェフリー・プターク氏は、レバレッジ型ETFの運用実績がいかに急速に、あるいは大幅にコースを外れる場合があるかを、全ての投資家が十分認識しているわけではないことを懸念する。「これらの商品はあまりにも大人気で、心配になる程だ」と同氏は言う。
レバレッジ型単一銘柄ETFという比較的新しい資産クラスは、投資家をさらに激しい波乱に巻き込んでいる。単一銘柄ETFで最大規模の3本は、エヌビディア株、テスラ株、マイクロストラテジー株という、デイトレーダーに特に人気の3銘柄に対するレバレッジ型の投資を提供する。
マイクロストラテジー株を対象にした単一銘柄ETFは、富が生み出され、やがて失われるスピード感を、同種のファンドの中で最も顕著に示している。昨年8月と9月にディファイアンスETFとタトル・キャピタル・マネジメントが競合する商品を発売し、たちまち両商品とも大ヒットした。目玉が飛び出るようなリターンを達成し、投資家の手元資金を何十億ドルもかき集めた。
初期投資家は9月から11月の間に両ETFの価格が10倍余りに上昇するのを目撃した。この間にマイクロストラテジー株も急騰した。
だがその後、両ETFの価格は急落。設定以来では依然プラスだが、平均的な投資家は大幅下落に直面している。資金流入のタイミングを考慮したモーニングスターの分析によると、2本のETFは7カ月前の設定以来、投資家に推定17億ドルの損失を被らせている。
「脱穀機のようなものだ」とモーニングスターのプターク氏は話す。「お金はのみ込まれるが出てこない」
今のところ、投資家は尻込みすることなく、押し目買いを選択している。
ファクトセットによると、マイクロストラテジー株の単一銘柄ETFで最大の「T-Rex・2倍ロング・マイクロストラテジー株・デイリーターゲットETF」(ティッカーシンボル:MSTU)は、年初来で約5億ドルの資金が流入。このうち過去1カ月に3億1200万ドルの流入があった。
住友生命保険相互会社の高田幸徳社長はロイターとのインタビューで、日本国債への投資について、足元で金利が急速に上昇している10年物を買い増す方針を示した。これまでの購入は超長期債が中心で長期債はわずかだったが、新規制導入に向けたデュレーションマッチがほぼ完了していることもあり、10年程度の債券に軸足を移していく。長期で確実にリターンが得られる保険商品の提供も積極化する。
金融庁は今年、国内の保険会社に対し、財務状況の透明性を高める新たな資本規制を適用する。長期の保険契約を持つ保険会社は、年限差による金利変動リスクを受けて健全性の指標が振れやすくなるのを抑制するため、資産と負債の平均残存期間の年限差を縮める(デュレーションマッチ)必要がある。今まで以上に財務の健全性の確保が求められる中、住友生命によると、規制導入に備え数千億円分の超長期債を買い増してきた。
高田氏は「デュレーションマッチは、ほぼ完成形に近い、良い形になってきた」とした上で、今後は「20年、30年の超長期ではなく、10年辺りの足元で金利が高くなってきた年限のものを、タイミングを見て購入していく」と述べた。
超長期金利も上昇しているため利回り動向をみながら判断していくことにはなるが、指標となる新発10年物国債利回り(長期金利)が一時1.575%と2008年以来の高水準を付けるなど「10年債の方が現実的に投資しやすい」と指摘。基本的にはミドルリスク・ミドルリターンを狙いながら、新発・既発債含め年限10年程度の買い入れを増やしていくという。
外貨建て資産は金利低下が予想されることから、「円建てクレジットに資金を投入し、シフトしていく」とも話した。円建ての事業債はほとんどないため、海外の事業会社が外貨建てで発行した債券に通貨スワップを組み合わせた「通貨スワップ付外貨建事業債」に投資する。為替リスクを抑制し、円ベースで安定したキャッシュフローを受け取ることでリターンを狙うという。
<長期で確実なリターン得る商品提供>
政府が資産運用立国の推進を掲げる中、個人の資産形成への関心は高まっている。住友生命は10日、投資未経験者の若年層を対象に、投資よりもリスクが少なく、貯金よりも資産が増える保険商品を発売した。いつ解約しても払込保険料を上回る返戻金を受け取れる上、満期(10年)の返戻率は106.1%と大手銀行の預金より高い。
営業職員を介さずデジタルでスマホで簡単に申し込みが完結するため、販売に人手を介すことでかさむ経費を省き、それを還元するという。
高田氏は、投資には不慣れだが「『貯金よりはもうちょっと』という若い世代を掘り起こしたい」とし、今後も「あくまで保険商品として長期の安定運用、長期で確実なリターンが得られる商品を提供していく」との方針を示した。
※インタビューは10日に実施しました。
ピックアップトラックほど米国らしいものはない。その大きな理由の一つが「チキン税」だ。
米国は1963年以来、輸入トラックに25%の関税をかけている。これは米国産の鶏肉に対する欧州による課税への報復措置で、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺から2週間足らずの間にリンドン・ジョンソン大統領が発動した。
トランプ政権は現在、新たな関税を次々と打ち出している。ピックアップトラックに対する長期に及ぶ課税は、数十年にわたって世界の貿易、競争、産業に大きな変化をもたらす高関税の威力を物語る。関税は当初の目的をはるかに上回る大きな影響をもたらした。
「チキン戦争」として知られるようになった当時の対立は米国を取り巻く現在の状況と同様に、貿易赤字への懸念や保護主義に対する批判、そして欧州の防衛における米国の支援後退といった脅しなどを特徴とした。
ただ当時、米政府は関税引き下げが好ましいとみており、1年以上にわたる外交努力が実を結ばなかったためチキン税導入に踏み切った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は当時、ジョンソン政権の通商代表が「関税引き上げは必ずしも恒久的なものではなく」、欧州が鶏肉への関税を引き下げれば直ちに「中止される可能性があると強調した」と報じた。
ドナルド・トランプ氏は大統領就任後、鉄鋼とアルミニウムを対象に25%の関税を導入した。メキシコとカナダからの輸入品の多くには25%の関税を課し、中国の輸入品には20%の追加関税をかけた。
1960年代の自動車関税から得られた教訓は、現在の米政権の「米国第一主義」の方針と重なるものもあれば、そうでないものもある。
米国で販売されているピックアップトラックのほぼ全てが主にチキン税の影響によって北米で生産されており、大半が米国ブランドによるものだ。昨年の米国の小型トラック販売台数のうち、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ピックアップトラック「ラム」ブランドを展開するステランティスのデトロイト自動車大手3社が占める割合は80%に上った。広告キャンペーンの影響で、トラック購入者の間では米国ブランドへの忠誠心が高まった。
一方、輸入車に対する関税が2.5%の米自動車市場全体では、外国の製品・ブランドが大きな地位を占める。昨年は米国には欧州やアジアなどから約400万台の乗用車とスポーツタイプ多目的車(SUV)が輸入され、国内販売の4分の1近くを占めた。
だが、ほぼ誰もチキン税を払っていない。トランプ氏は関税を減税の財源になると宣伝しているものの、関税が国内生産を促せば、連邦政府が直接得られる税収は少なくなる。
ピックアップトラックを含む関税区分で、主に25%の関税が適用される「貨物輸送用自動車」輸入からの徴収額は昨年は1億400万ドル(約155億円)に過ぎないことが公式データで示されている。2.5%の関税がかかる乗用車輸入では、推計額は36億ドルに上る。
25%という高関税は、企業に回避の方法を探す強いインセンティブを与える。チキン税を巡ってはそうした取り組みのさまざまな歴史がある。
スバルは1980年代、「Bi-drive Recreational All-terrain Transporterk(BRAT=ブラット)」と呼ばれる小型ピックアップトラックを米国に販売していた。ところが、荷台に後ろ向きの座席二つが固定されていたため、課税対象のトラックとはみなされなかった。
ドイツの高級車大手メルセデス・ベンツグループはかつて、米国市場向けのバン「スプリンター」をドイツで製造し、その後部分的に解体して米サウスカロライナ州に出荷し、現地で再組み立てしていた。同社は2018年、スプリンターの販売が順調に伸びていることから、サウスカロライナ工場を拡張し、最終組み立ての一貫体制を整えた。
チキン税の恩恵を受けるはずの米国企業でさえ回避策を講じようとした。フォードはかつて、トルコから「トランジット・コネクト」を輸入する際、税関を通過する際に後部座席を取り外し、同社が「乗用ワゴン」と呼ぶこの車を貨物バンに変身させていた。
米税関・国境取締局(CBP)は2013年、フォードはチキン税を払わなければならないとの判断を示した。数年にわたる法的争いに発展し、2024年になってようやく決着がついた。関税回避を指摘する司法省との和解金として、同社は責任を認めることなく3億6500万ドルを支払うことで合意した。
1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効して以来、メキシコとカナダはチキン税を回避する合法的な手段を提供してきた。現在、米国で販売される一部のピックアップトラックは国境を越えて組み立てが行われている。ただ、多くの部品は米国製だ。トランプ氏はこうした仕組みに疑問を投げかけ、最近になって両国からの輸入品ほぼ全てに25%の関税を課すことを決めた。ただし、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠する製品については1カ月の猶予期間を設けた。
大半の経済学者は関税を嫌う。保護された市場は多くの場合、消費者価格上昇を招き、選択肢や競争、技術革新を制限するためだ。チキン税の歴史は、こうした批判の一部を裏付けている。
米国の消費者は、本来あるべき以上にピックアップトラックの選択肢が少ない可能性が高い。米国外でも人気の高い中型セグメントにおいて特にそれが当てはまる。韓国の起亜は最近、同社初のピックアップトラック「タスマン」を発売したものの、米国での販売予定はない。三菱は米国ではピックアップトラックを販売していないが、米国外では大きな存在感を示す。
乗用車とSUVの場合、米国市場に参入するアジアの自動車メーカーはまず本国から少量のモデルを出荷し、市場をテストするという段階を踏んだ。その後、消費者の需要が十分高まってから現地生産開始に向けた投資を行った。トラックについては、チキン税の影響でこうしたアプローチは困難で、トヨタ自動車など一部の大手ブランドのみが参入に踏み切った。
しかしデトロイトの大手ブランド同士が収益性の高いピックアップトラック市場で激しく競争していることから、米国人が本当に損をしているかどうかということについては、アナリストの間で議論がある。
米国ではトラックの価格が高いという不満が聞かれるが、同等の車種は米国外ではもっと高いことが多い。米国で最低価格約3万3000ドルのフォードの2025年型「レンジャーXL」の価格はオーストラリアでは3万4000ドル程度、英国では3万7000ドル程度となっている。
イノベーションに関しては、米電気自動車(EV)大手テスラの「サイバートラック」や米新興EVメーカーのリビアン・オートモーティブの「R1T」が近年、最先端技術を米国のトラック市場にもたらした。
1950年代のミニバンとピックアップトラックがチキン税の当初の標的だった独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)でさえ、歴史ある「スカウト」ブランドで現地生産の電動ピックアップトラックを投入し、市場に復帰する計画を示す。同社は昨年、サウスカロライナ州で20億ドルの工場建設に着手し、2027年に納車を開始する予定となっている。
調査会社JDパワーのデータ分析担当バイスプレジデント、タイソン・ジョミニー氏は、表面的には保護された市場のように見えても、「実際には水面下でさまざまな製品開発や活動がピックアップトラック分野に流れ込んでいる」と述べた。
チキン税導入につながった貿易紛争は1962年夏に始まった。欧州での共通農業政策(CAP)の創設により、西ドイツが鶏肉に対する関税を引き上げたことが引き金だった。それまで急増していた米国の農家から西ドイツへの出荷量は、63年の上半期に半分以上減少した。
当時も現在も、貿易摩擦は欧州の安全保障に対する米国の資金負担が過大であるという懸念と結びついていた。当時の西ドイツ首相、コンラート・アデナウアー氏は回顧録で、米上院議員らがドイツのある閣僚に対し、ドイツが米国の鶏肉を買わないのであれば、なぜ米軍をドイツに駐留させる必要があるのか理解できないと語ったことに触れた。
最終的な米国の対抗策は意図的に限定的なものになった。対象にしたのは、ブランデーや片栗粉、貨物自動車など、現在の価値に換算してわずか3億ドル相当の商品だった。だが、結果的にデトロイトの自動車産業に大きな影響を与えることになった。1980年代と90年代にアジアのブランドが広範な市場で成長し、ガソリン価格が下落する中、デトロイトは収益性の高いトラックというニッチな分野へと徐々に後退していった。
こうした避難先は当初は有益だった。調査会社データトレック・リサーチの共同設立者で元自動車アナリストのニック・コラス氏はそう指摘する。小型自動車分野でアジア企業の競争力に対抗するという難題をデトロイトは回避できたためだという。
現在に通じる教訓は何だろうか。コラス氏は「ささいに思えるようなことでも、非常に長期的な影響を及ぼすことがある」とし、「良いこともあれば悪いこともある。最初は良くても後で悪くなることもある。われわれには分からない」と述べた。
2017年にアルゼンチンの100年物ドル建て国債を購入した投資家は、デフォルト(債務不履行)を繰り返す国の超長期債を買うなんて世間知らずも甚だしいと笑われた。案の定、わずか3年後に同国は利払いを停止した。
ところが、アルゼンチンにこだわり続けた投資家が最後は笑うことになった。これらの投資家がデフォルト後に受け取った債券と、当初の100年債の高いクーポン(利息)を合わせると、現在では当初の投資額を上回る価値がある。それだけでない。「安全な」米国債に投資した場合よりもはるかに高い価値となっているのだ。
アルゼンチン債が好転したのは、選挙戦でチェーンソーを振り回していたハビエル・ミレイ大統領が、肥大化した同国政府の縮小に取り組みながら支持率を維持することに成功したからだ。
最終的な利益は高利回りによるところも大きい。投資家が受け取るクーポンは、債券価格の下落分(約25%)を十分に補っている。クーポンを同じ債券に再投資していれば、投資家は50%を大きく上回るリターンを得ていたはずだ。一方、米国の30年債のリターンはマイナス10%程度、米国債指数はわずかなプラスにとどまっている。
最も愚かとされた投資先で得られた利益は、三つの重要な教訓を思い出させてくれる。「リスクが明白な場合、十分な報酬が得られることが多い」、「リスクが見えにくい場合でも、リスクは存在する」、そして「急進的な政治変化は予測が難しい」の三つだ。それぞれについて見ていこう。
アルゼンチンほどリスクが明白なものはない。1816年にスペインからの独立を宣言してからわずか11年で最初のデフォルトを起こし、それ以降は平均して数十年ごとに計9回デフォルトしている。そんな国になぜお金を貸す人がいるのか、と疑問に思うのは当然だ。投資家は学習しないのだろうか。その答えは、問題のある借り手全てに当てはまる。つまり、サブプライム(信用度の低い借り手)はカネになるのだ。十分に高い金利を課せば、デフォルトしてもその損失を補うことができる。
これがいかにうまく機能するかは学術研究によって証明されている。独キール世界経済研究所のジョセフィン・マイヤー氏とクリストフ・トレベッシュ氏、米ハーバード大学のカーメン・ラインハート氏は数年前、1816年以降、ほぼ全ての高リスク国債券が、頻繁にデフォルトしているにもかかわらず、長期的には米国や英国の債券を上回るリターンを示したことを明らかにした。株式やジャンク債と同様、リスクを取ることによる報酬があり、平均リターンは、最も安全な資産とされる米国債を上回る。
ここでは「平均」が重要な役割を果たしている。投資家は株式の個別銘柄と同様に、特定の債券で大きな痛み(時には非常に大きな痛み)を受ける覚悟が必要だ。損失は巨額になる可能性がある。例えば、アルゼンチンの100年債が最安値を付けた2020年、価格は75%下落した。同じように、多くの投資が同時に損失を被り、ポートフォリオが長期間赤字になる可能性もある。しかし、十分な数の高利回り資産に分散投資し、それらを長期保有すれば、価格の変動が激しくても、高利回りがリスクを帳消しにしてきた。
投資家にとって本当に問題なのは、隠れリスクだ。2007年の金融危機前のギリシャのように、リスクが見えにくいこともある。ギリシャは自国でコントロールできない通貨(ユーロ)建てで巨額の債務を抱えていたが、ギリシャ国債は他のユーロ圏加盟国の国債と同様に扱われていた。支払い不能に陥ったギリシャへの金融支援を欧州中央銀行(ECB)がしぶった時、それは悪い結果に終わった(ただしデフォルト後、ECBの政策転換と数年間の厳しい緊縮財政を経て、ギリシャの格付けは投資適格級を取り戻した)。
利回りがゼロに達したり、マイナスにさえなったりした際に、安全資産は特にリスクの高いものとなった。投資家は米国・日本・欧州諸国への長期融資をほぼ無報酬で行うことをいとわなかったため、新型コロナウイルス流行後のインフレ再来で債券利回りがより正常な水準に上昇すると、債券価格は大きく下落した。
日本国債の40年債利回りが2019年に最低水準を付けた時から同債を保有していた投資家は、わずかなクーポンを再投資した場合でも、投資資金の価値は半分になった。円安によって損失がさらにかさ上げされたため、ドル建てでのリターンはマイナス65%となった。英国の50年物国債の状況はもっと厳しい。米国の30年物国債のリターンは、利回りがコロナ下での最低水準を付けた時点からマイナス45%となっている。
最悪なのは、2019年に発行されたオーストリアの100年物ゼロクーポン債で、過去5年間に90%超下落している。デフォルトに対して「安全」であることは、損失に対して安全であることを意味しない。
政治は投資家にとって地雷原だ。政治を理解することは難しく、理解している人でも予測はできないことが多い。ミレイ氏は、どの国でも不可能に思えたこと、ましてや長年左翼ポピュリズムに支配されてきた国では到底不可能に思えたことを成し遂げた。ミレイ氏が歳出削減でインフレを押さえ込もうとし、景気後退(リセッション)に陥る中でも、有権者は同氏を支持し続けた。アルゼンチンは近いうちに再び債券発行が可能になるかもしれない。
「(アルゼンチンが)年内に市場へのアクセスを回復することは十分に可能であり、それが状況を大きく変えるだろう」。バンク・オブ・アメリカの中南米債券戦略責任者、ルーカス・マーティン氏はそう話す。「(国際通貨基金=IMFに頼らず)自力で債務の一部をロールオーバー(借り換え)できれば、財政的制約が緩和される」
ミレイ氏の取り組みによってアルゼンチンが債務拡大とデフォルトのサイクルから永遠に抜け出せると予測する人はほぼ皆無だろう。しかし、少なくとも投資家は全てを承知の上で参入している。先進国が急進的な政治変化を経験する場合、より高い債券利回りという形のクッション(衝撃吸収剤)はない。なぜなら、投資家はそのようなリスクが先進国には当てはまらないと考えているからだ。
GAMインベストメンツの新興国債券ファンドマネジャー、ポール・マクナマラ氏は「ガバナンスの質、法の執行の失敗、財政能力の欠如は、米国債投資家が詳しく知りたいと思うようなことかもしれない」と述べた。
トランプ政権関係者の一部はすでに、「マールアラーゴ」合意の一環として、外国政府が保有する米国債に「利用料」を課すこと(デフォルトと見なされる可能性が高い)や、低利率の100年債と交換するよう圧力をかけることを議論している。アルゼンチンから得られる教訓は、アルゼンチンだけのものではない。
ドイツ銀行の調査によると、米国が景気後退に向かう可能性は約43%だ。
これにより、米国経済の方向性についてさらなる疑問が生じている。
米国は、国内造船業の復興を支援するため、中国製のコンテナ船に高額の罰金を課すことを検討している。
世界の海運会社から米国の農家に至るまで、ビジネス界は経済的な影響が壊滅的になると警告している。
世界海運協議会は、米国通商代表部が検討している規則は、まもなく米国の港に寄港する定期船の98%に適用されると推定している。
●中東情勢
●エマージング
中国の首都北京の郊外にある荒れ果てた倉庫で、中古厨房機器の販売業を手がけるアン・ダウェイさん(38)は飲食店向けの巨大な冷蔵庫と業務用コンロ、パン焼きオーブンの列を点検していた。
こうした機材一つ一つの背景に、倒産した飲食店の存在がある。アンさんは「一般人が飲食店を開くことは、ほとんど失敗が約束されたようなものだ」と話した。
新型コロナウイルス禍後のV字型の景気回復に賭けていた人たちは、中国の景気減速と消費者の外食離れを目の当たりにしている。その結果、1杯のコーヒーが9.9元(約200円)、4人前の定食が99元といった価格競争が起きている。
中国の指導部は内需拡大を今年の最優先事項としており、それによって米国による中国からの輸入品の関税引き上げと、長引く不動産危機の影響を相殺しようとしている。
しかし、2月の中国の消費者物価指数(CPI)は昨年1月以来のマイナスとなり、デフレスパイラルへの懸念を呼び起こした。
昨年、アンさんらのチームは24年に毎月200軒の飲食店を解体し、前年と比べて3.7倍のペースとなった。中国の企業情報サイト、企査査のデータによると、24年に廃業した宅配企業は300万件弱と過去最高になった。
アンさんは「北京、上海、広州、深センのような一線都市では飲食店の毎月の閉店率が10%を超え、15%を超える時もある」と指摘する。
北京のあちこちで、アンさんらのチームは閉店した飲食店からいすやオーブン、保管庫、調理用の台車を積み上げ、フォークリフトを使って一部を車両に積んで運び出した。現場の1つでは、購入者がテーブルを運び出した。
アンさんは24年の売上高が前年より2割超減ったと説明する。ドリンクショップやベーカリーといった設備投資が少なくて済むような小規模で、経費のかからない店舗が開店する割合が高まったからだ。
北京の五輪公園近くの閑散としたモールで、パン店チェーンのフランチャイズ店の元経営者は1年2カ月で店を畳むことになった理由は月5万元(6900ドル)という高い賃料と、人通りの少なさのせいだったと嘆く。
元経営者は「隣に似たような商品を扱う店があり、味は劣るものの10元安い。通常の人たちは基本的に安い方を買う」とし、「みんなお金がないんです。あるいはあったとしても、以前のようにお金を使いたがらない」と語った。
<悪循環>
アナリストらによると、中国の飲食店の「平均寿命」はわずか500日程度で、北京では1年に過ぎない。自治体の統計によると、北京の飲食店の2024年上半期の利益は前年同期より88%減った。
アンさんは激烈な価格競争と、飽きた顧客を引き付けるためにメニューを絶えず変えないといけない中で、多くの店が生き残りに苦労していると指摘。多くの店が客1人当たり約70―80元にまでコストを削減せざるを得なくなっていると明らかにした。
中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が3月に開かれ、過当競争を取り締まるとの方針を確認した。飲食店業界は過当競争の問題が最も目につく分野の1つだ。
24年には多くの飲食店が廃業し、中国の飲食業界の売上高は前年比5.3%増と、伸び率が前年の20.4%から大幅に鈍化した。生き残った飲食店は、事業継続のために利益率を大幅に切り詰めなければならなかった。
アンさんは価格競争が激化した理由について、中国が新型コロナ禍の規制を解除した23年にさかのぼるとした。不動産や教育、金融、ハイテクなどの業界が従業員を大量に解雇し、外食産業への新規参入として流れ込んだと解説した。
アンさんは競争の悪循環が最終的に消費者に跳ね返るとし、その要因として「(飲食店は)赤字を出せない状況に追い込まれると、利益を上げる方法を見つけ出すことになる。その方法は原材料の質を低下させるしかない」と語った。
中国は強力な深海ケーブル切断装置を開発したと明らかにした。香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が報じた。こうした装置の保有を公表したのは世界で中国が初めてだという。
小型ながら通信回線も切断可能な同装置は水深最大4000メートルまで作動可能で、中国の高性能有人・無人潜水艇での使用を想定して設計されている。2月24日に中国の機械工学学術誌に掲載された査読付き論文を引用してSCMPが伝えた。
海底ケーブルは世界の各国・地域が緊張の高まりや紛争に直面した際に攻撃されやすい弱点の一つに浮上している。
SCMPによると、中国船舶科学研究センター(CSSRC)などが開発した同装置はデータ通信用ケーブルとして世界的に多く使われているいわゆる「装甲ケーブル」を切断する。同紙は、民間の引き揚げ作業や海底採掘作業で使用するためにこの装置は開発されたが、別の用途に諸外国が警戒心を募らせる恐れがあると指摘した。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
・**為替市場**:ドルは米PMI上昇やトランプ大統領の関税発言を受けて円・ユーロに対し数週間ぶりの高値を記録。円は150.75円、ユーロは1.078ドルまで下落。  
・**債券市場**:米10年債利回りは6日ぶりの高水準(4.337%)。PMIの予想上振れや株価上昇に伴い、安全資産としての国債需要が低下。  
・**株式市場**:S&P500が2週間超ぶりの高値。エヌビディアやテスラなどハイテク株が買われ、関税に対する楽観的な見方が支えに。  
・**原油市場**:米政権がベネズエラ産エネルギーに関税を課す方針を発表し、供給懸念からWTI原油先物は約3週間ぶりの高値(69.11ドル)。  
・**金市場**:米長期金利の上昇とドル高を受け、金先物は続落(3015.60ドル)。  
市場はトランプ政権の関税政策を巡る動向に注目しつつ、ボラティリティの高い状況が続いている。
ロンドン株式市場はまちまちの動きとなり、FTSE100指数は小幅続落、FTSE250指数はほぼ横ばい。米政権の関税措置に対する不透明感から慎重な姿勢が広がった。鉱業株は銅価格の上昇やJPモルガンの投資判断引き上げに支えられ上昇。一方、製薬・バイオ株は下落し、アストラゼネカは1.3%安。ボーダフォンはBofAの投資判断引き下げにより4.4%下落。
欧州株式市場もほぼ横ばい。米関税措置が想定より強くないとの期待がある一方で慎重な姿勢が続いた。食品・飲料株や通信株が下落し、バイエルは訴訟リスクで6.9%安。一方、資源株は上昇し、サーブはUBSの投資判断引き上げで4.5%高。
ユーロ圏債券市場では、3月の総合PMIが7カ月ぶりの高水準となり、域内国債利回りが小幅上昇。トランプ政権の関税措置の動向やドイツの財政出動を巡る期待が影響した。

備忘録(2025/3/21-23
●海外企業決算
●海外企業
米マイクロソフトのある幹部は2000年、登山家で物理学教授のチェタン・ナヤック氏(53)に魅力的な提案をした。ワシントン州レドモンドにある同社に加わって、近くのレーニア山に一緒に登り、そして量子コンピューターを作ろうというものだった。
ナヤック氏はそれから2年以内に同州最高峰のレーニア山に登頂した。しかし実用的な量子デバイス開発への道のりは、現在も続いている。
ほぼ全てのテック大手が量子コンピューターの実用化に向けた開発に取り組んでおり、暗号化や医療などの分野で飛躍的な進歩が可能になることを期待している。従来のコンピューター(古典コンピューター)のビット(情報の最小単位)が0か1のどちらかであるのに対し、量子コンピューティングでは量子ビット(キュービット)と呼ばれるビットを使用し、0と1の状態が同時に存在することができる。これによりキュービットは今日のコンピューターよりも多くの情報を処理し、特定の計算を指数関数的に高速実行することが可能になる。
ナヤック氏は、マイクロソフトで約20年間にわたって量子コンピューター開発に取り組んできた数百人の化学者・エンジニア・数学者で構成されるチームを率いている。「ステーションQ」と呼ばれるこのチームは、アルファベット傘下のグーグルなどのライバル企業が採用している方式よりもリスクが高く、それほど広く受け入れられていない方式を用いている。
開発に成功すれば、マイクロソフトは業界の最前線に躍り出て、ハイテク業界や科学界の多くの懐疑論者の見方を覆すことができるだろう。
マイクロソフトは2月、幻の粒子と言われる「マヨラナ」と呼ばれる粒子を生み出せる量子チップを開発したと発表した。実用的な量子コンピューターの基礎と成り得るもので、この画期的な成果により量子デバイスの実現が数十年ではなく数年に短縮される可能性があるという。
一部の物理学者はマイクロソフトの主張がさまざまな精査に耐えられるかどうか疑問を呈したが、サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、世界に示すものができたことに興奮しているようだった。事情に詳しい関係者によると、マイクロソフトは年間約3億ドル(約450億円)を量子関連の研究に費やしている。人工知能(AI)などのプロジェクトへの投資に比べれば微々たるものだが、同社の量子技術への取り組みにかかる費用は20年間で積み重ねられてきたものの、今まではほとんど成果を示せていなかった。
このような進展は7年前とは大きく異なる。当時ナデラ氏が送ったメールを見た人物によると、同氏は量子技術への社内の取り組みを商業的可能性のない研究だとして退けていた。
ナヤック氏は自身の量子研究について、長年に及ぶ段階的な進歩であり、量子チップに関する発表のような世界の注目を集める画期的な瞬間が点在すると説明する。画期的な瞬間の後は、また地道な作業に戻るのだという。「われわれが正しい道筋を進んでいると言う以外に、うまく説明するのは非常に難しい」
ナヤック氏は、カリフォルニア州サンタバーバラの研究施設のほか、レドモンドや欧州の拠点にいる同僚と毎日連絡を取り合っている。彼らは競争のさなかにいることを強く意識している。グーグルは昨年12月、マイクロソフトとは異なる方式を用いた量子コンピューティングで進展があったと報告し、Dウェーブ・クオンタムという企業も今月、同様の発表を行った。
量子に魅了されて
ナヤック氏は早くから量子物理学に魅せられた。科学教育に重点を置くニューヨーク市マンハッタンにあるスタイベサント高校の3年生の時、教師が伝説的な物理学者、リチャード・ファインマンの講義集を渡したのがきっかけだった。
量子物理学は20世紀初頭に始まった。粒子が複数の状態を同時に持ち、広大な距離を隔てても瞬時に相互に影響を与えることができると考えることで、現実に対する従来の捉え方に挑戦している。 マイクロソフトや他のテクノロジー企業の幹部の中には、キュービットを搭載した実用的な量子コンピューターが今後数年以内に商業的に利用可能になると、少なくとも10年前から予測している人もいる。
問題は信頼性だ。全てのコンピューターチップはエラーを起こすが、今日のパソコンやスマートフォンに搭載されているチップではエラー率は最小限に抑えられている。一方キュービットでは、わずかな乱れでも連鎖的に一連のミスを引き起こす可能性がある。
ナヤック氏の下、マイクロソフトは「トポロジカル超伝導体」を用いてこの問題に取り組んでいる。これは、一つの電子が絶対零度近くまで冷却された極小ワイヤに広がっているものだ。その電子を広げることでマヨラナ粒子が形成され、キュービットの作成に利用できる特性を持つ。
マイクロソフトは先月、科学誌ネイチャーに掲載された論文で、マヨラナ粒子を特定し、その中の情報を測定したと主張した。
キュービットを巡る論争
量子物理学界の批判的な人々は、マイクロソフトの研究者らがマヨラナ粒子を観測したとの主張は幻想だと指摘する。
ピッツバーグ大学の量子研究者、セルゲイ・フロロフ氏は「チェタン・ナヤック氏はマイクロソフト内で詐欺的なプロジェクトを運営している」と述べた。フロロフ氏は、公表されたデータに多数の不一致があるとし、これによってマイクロソフトの主張がもたらす結論が大きく変わる可能性があると指摘した。
ステーションQを監督するマイクロソフトの幹部、ジェーソン・ザンダー氏は、ナヤック氏の科学的主張の妥当性を確信していると述べた。マイクロソフトはネイチャー誌に掲載された論文のフォローアップを発表する予定で、独立した研究者らがそれを査読中だ。広報担当者は、同社が最高水準の倫理基準を保持していると述べた。
2021年、マヨラナ粒子生成に関する研究に基づく2本の論文が、研究の妥当性に疑問が生じたためネイチャー誌から撤回された。この研究はマイクロソフトが資金の一部を提供していた。同社幹部らは、この研究はステーションQによるものではなく、同社が関係を持つオランダの研究施設によって行われたと説明した。
マイクロソフトがマヨラナに関する発表を行った今、ナヤック氏はキュービットの信頼性をさらに高め、より多くのキュービットをチップに追加することに注力している。
ナヤック氏は、70代になってもマイクロソフトで安定したキュービットチップの開発に取り組んでいたくはないと述べている。また、3人の子どもたちからの冷やかしにもようやく終止符を打てるかもしれない。一番上の子どもは同氏がマイクロソフトに加わったころに生まれた。
「(子どもたちに)部屋の掃除をしていないと言うたびに、『でも、まだ量子コンピューターを作っていないじゃない』と言い返される」とナヤック氏は話した。
●日本企業
●先進国政治動向
イーロン・マスク氏が主導する政府支出削減への取り組みで首都ワシントンの連邦機関が大幅に縮小される中、同氏の側近の一人は2000マイル(約3200キロメートル)以上離れた小規模な政治の舞台に目を向けていた。
マスク氏の政治ストラテジストで「政府効率化省(DOGE)」の上級顧問も務めるクリス・ヤング氏は前週、ネバダ州の政治コンサルタントとビデオ通話を行い、マスク氏が設立したスーパーPAC(特別政治活動委員会)「アメリカPAC」がネバダ州のクラーク郡委員会(7議席)を共和党寄りにし、同州の政治情勢の形成をどう支援できるかについて話し合った。通話の内容を知る関係者が明らかにした。
ドナルド・トランプ氏の米大統領選挙戦を支援するため数億ドルを費やしたアメリカPACは現在、地方選挙に注目している。全米各地の共和党候補者らは、2026年の中間選挙やその他の政治活動への支援を求めてアメリカPACに働きかけている。関係者によると、ジョージア州では州知事候補らが同団体に州知事選への関与を要請した。アリゾナ州を含む他の26年の激戦州でも、上院議員候補らが同団体に接触している。
マスク氏の地方に対する影響力の最初の試金石となるのが、4月1日にウィスコンシン州で行われる最高裁判事選挙だ。アメリカPACとマスク氏に関連する別の非営利の政治団体は、共和党が支持するブラッド・シメル候補を支援するため、広告や数十万件の戸別訪問を通じて1200万ドル(約18億円)以上を投じている。
アメリカPACは20日、ウィスコンシン州の登録有権者に対し、「活動家判事の行動を拒否する」嘆願書に署名、または他の人に署名を紹介すれば100ドルを提供すると発表した。マスク氏は昨秋の大統領選前にも激戦州でほぼ同様の配布を行っていた。
マスク氏は、ウィスコンシン州の選挙で自身を中心的な存在として位置付けようとしている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した戸別訪問員向けの手順をまとめた資料のコピーには、マスク氏の名前に言及するよう繰り返し促す内容が記載されている。
資料には「トランプ大統領とイーロン・マスク氏はあなたがブラッド・シメル氏に投票することを期待できますか?」とのフレーズが記されている。また早期の投票を促し、「急進的な判事が米国を台無しにし、アメリカ・ファースト(米国第一)政策を阻止するのを防ぐ」よう呼びかけている。
シメル氏の対立候補であるスーザン・クロフォード氏も、今回の選挙におけるマスク氏の役割について指摘している。クロフォード氏の広告の一つには「イーロン・マスク氏はシメル氏に最高裁判事の席を買い与えようとしている」と書かれている。
ヤング氏は広報担当を通じてコメントを控えた。マスク氏はコメント要請に応じなかった。アメリカPACの広報担当もコメントを控えた。
ビジネス上の利害関係
マスク氏の企業は、同氏の団体がターゲットにしている選挙でビジネス上の利害関係も持っている。
マスク氏のトンネル掘削会社ボーリング・カンパニーは最近、クラーク郡の当局者と地元プロジェクトの許可を巡って対立した。クラーク郡にはラスベガスとネバダ州人口の4分の3が含まれる。事情に詳しい関係者によると、ヤング氏の会合ではボーリングへの言及はなかった。
クラーク郡委員会は「ベガス・ループ」と呼ばれるこのプロジェクトの強力な支持者だ。同プロジェクトはラスベガスで約110キロメートルのトンネルを建設し、地下を通じてテスラ車で乗客を運ぶ計画だ。しかし許可に関する書類によると、郡はここ数カ月、主要ホテル街周辺に位置するトンネルで追加の防火安全措置を求めている。こうした措置を巡る協議により、建設作業はボーリングが望むよりも遅いペースで進んでいると関係者は述べた。
ボーリングはコメント要請に応じなかった。
ウィスコンシン州でも、州最高裁判事選挙への関与を通じてマスク氏の企業が恩恵を受ける可能性がある。
ウィスコンシン州は、テスラを含む自動車メーカーが消費者に直接車両を販売することを制限している多くの州の一つだ。昨年、判事はテスラが州内に販売店4カ所を開設する請願を却下した。テスラは不服申し立てを行っており、この案件は州最高裁判所で審理される可能性がある。
米共和党のベテラン議員が19日、米国の後退と受け取れるような、国外での米軍の再編を行わないようドナルド・トランプ大統領に警告した。彼らのこうした行動は身を隠すのをやめて姿を見せたという点で称賛に値するし、米国の最高司令官の利益になる。
米下院軍事委員会の委員長を務めるマイク・ロジャース議員(共和、アラバマ州)と上院軍事委員会の委員長であるロジャー・ウィッカー議員(共和、ミシシッピ州)は声明で「ホワイトハウスと議会との調整なしに海外に駐留する米兵を大幅に削減するといった主な戦略に関する問題で、国防総省が一方的な変更を検討していると主張する報道について」懸念していると述べた。
両議員は「われわれの戦闘構造に対する大幅な変更」が一方的に押し付けられることを議会は「受け入れない」と述べた。それは抑止力を低下させ、「米国の敵対勢力との交渉でわれわれの立場」を損なう可能性があると主張した。
この声明は今週のメディア報道に言及している。経費節減を表向きの理由とした米軍の変革案が浮上しているという内容だった。その一つが、11の統合軍の再編成だ。統合軍の多くは世界の各地域をカバーする。統合軍はリソースを得るために競争し、官僚主義を生み出すかもしれないが、トランプ氏の取り巻きがアフリカ軍を欧州軍に統合させたいのであれば、彼らはまず、影響力拡大に向けた中国の取り組みやロシアの雇い兵、イスラム主義テロリストの活動といったアフリカで勢いを増している状況に対応するための計画を説明できるだろう。
特に懸念されるのは、米国が在日米軍の態勢強化を撤回する可能性があることだ。そうなった場合、短期的にも長期的にも中国を利することになるだろう。トランプ氏のアドバイザーの多くは採用選考で、米国は太平洋地域の軍事バランスを改善するために迅速に行動する必要があると主張した。その思いは、どうなってしまったのだろうか。
国防総省はまた、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官のポストを欧州に譲り渡すことも検討しているという。ドワイト・アイゼンハワー大統領の時代から米国人が務めてきたポストだ。トランプ政権は欧州を退廃的だと見なしており、そんな欧州を米国が防衛することにもううんざりだと主張している。だからといって、なぜ最高司令官のポストを明け渡すのか。フランス人の司令官を相手にすることになれば、トランプ氏は欧州諸国との同盟関係にさらに嫌気がさすことになるだろう。
トランプ氏はこうした提案を知ってさえいないかもしれない。だがこれらの提案は、トランプ政権に入り込んだ未熟な戦略家たちがもたらすリスクを如実に示している。共和党議員は鉢植えの植物のような存在になるために選挙で選ばれたのではない。彼らがはっきりと意見を表明したのは正しい行動だ。
●先進国中銀、金融当局
米連邦準備理事会(FRB)が19日までの連邦公開市場委員会(FOMC)後に示した「様子見モード」の姿勢は、投資家をある程度安心させる効果があった。
トランプ大統領が就任以来、矢継ぎ早に打ち出した関税政策は株安を通じて企業や消費者のマインドを冷やしてしまった。最近のロイターによるエコノミスト調査では、米経済の景気後退リスクが増大したとの見方が支配的。何人かの政権幹部でさえ、関税などの政策が少なくとも短期的に傷みを伴う可能性があると本音を漏らしている。
投資家も政権が今後減税や規制緩和に動くといった期待要素と、関税に伴う貿易戦争と景気後退リスクのどちらに目を向けるべきか軸足を定められないままだ。
こうした中でFRBは経済成長とインフレの双方に対するリスクが高まっていると認めたものの、持続的な物価上昇が起きる、あるいはトランプ政権の通商政策によって経済が重大な打撃を受ける、といういずれのシナリオも政策運営に織り込むのをなおためらっている。
パウエル議長が発した「米経済は不確実性が高く、FRBは事態がずっと明確になるのを待っているところだ」とのメッセージは市場の共感を呼んだ。
ウィルシャーのジョシュ・エマニュエル最高投資責任者は「FRBはさまざまな経済リスクに感度を合わせている。今は非常に大きい不確実性が存在する局面で、大統領の政策がどうなるか分からない中、重大な金融政策の変更を示唆するのは無責任だというはっきりした認識があるのだと思う」と述べた。
イーグル・アセット・マネジメントの戦略インカム担当マネジングディレクター、ジェームズ・キャンプ氏は、トランプ政権の政策を巡る不確実性に起因する消費と設備投資の手控え姿勢がいつまで続くのかまだ判明していないと指摘。「FRBの考えが根本的に変わってきたと信じるに足る話は何も聞かなかった」と語り、顧客には運用資産構成をむやみに変更しないよう助言したと明かした。
インサイト・インベストメントの北米債券責任者を務めるブレンダン・マーフィー氏は、米国債と社債に資金を振り向ける方針を維持していると話す。足元で4.25%の10年国債利回りは、成長減速観測を背景に向こう1年で3.9%まで低下する見通しだという。
今回のFOMCで投資家にとってやや明るい材料と受け止められたのは、バランスシート縮小(量的引き締め=QT)を4月からペースダウンするとの発表だった。政府の借り入れ上限引き上げを巡る問題で、市場流動性の評価が難しくなりかねないためとみられている。
エンジェル・オーク・キャピタルの公共戦略ポートフォリオ管理を統括するクレイトン・トリック氏は「FRBが市場安定を確実に維持しようとしているのは間違いない」と述べた。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
フランスは、米国のトランプ大統領が関税を不当に利用して政策変更を迫る場合、フランスは欧州連合(EU)に対し、最も強力な報復措置を検討するよう求めている。
事情に詳しい関係者によると、フランスが検討を求めているのは、EUの「反威圧措置」(ACI)と呼ばれる、貿易などを通じて経済的威圧をかける国に対して反撃するためのツールだ。発動されたことはない。望ましい手段ではないものの、フランスのほかにも、検討を求める加盟国が少数だがあるという。
報道後ユーロは一時1.08ドルを下回り、2週間ぶりの安値を付けた。
米国は4月2日にも、世界中の貿易相手国に対し、広範囲にわたる「相互関税」を課す方針だ。トランプ大統領は、関税は国内規制やEUの付加価値税(VAT)のような税金など、「不公平」だとする非関税障壁を是正するものだとしている。EU側は、VATは公平で差別のない税であり、国内製品と輸入品に平等に適用されると主張している。
ACIは多くの条件と段階を経る必要があるが、EUは対象国の貿易やサービス、特定の知的財産権、外国直接投資、公共調達へのアクセスなど、幅広い範囲での報復措置を展開できるようになる。
トランプ氏は今月、鉄鋼とアルミニウムの輸入品に25%の関税を課し、これに対しEUは、米国製品260億ユーロ(約4兆2000億円)相当に報復関税を課すと発表した。4月の相互関税は、米国企業が受けるとされる不利益を相殺するため、貿易相手国ごとに調整される可能性があり、鉄鋼・アルミニウム関税を上回る規模になり得る。
別の関係者は、EUの執行機関、欧州委員会が今のところはACIを検討していないと述べた。まず4月2日に米国がどのような関税を発表するのか、ACIが適用可能なのかを見極める必要があるため、同措置の使用に関する議論はまだ先のことだという。
ACIは、EUまたは加盟国の主権的な政策選択を圧迫する手段として、貿易措置を用いる第三国による意図的な措置を阻み、必要に応じて対応することを目的に設計された。 対抗措置はあくまで最後の手段としてのみ想定されており、受けた損害のレベルに見合ったものでなければならない。
トランプ政権の一期目に、EU製品に追加関税が課されたことを受け、EUは貿易防衛策を強化に取り組み、ACI規則の制定につながった。台湾がリトアニアに貿易事務所を開設したことに対し、中国がリトアニア製品に輸入制限を課す決定を下したことも、導入のきっかけとなった。
欧州委員会はACIの使用を提案できるものの、実際に経済的威圧を受けた事例があるか、また、その対抗措置が必要か、加盟国が判断することになる。EUは、の措置全体を通じ、威圧的措置を取る当事国と協議して解決策を見いだすことを目指し、また、同様の圧力に直面している、価値観を共有する国々と協力することもある。
今年の春闘は大企業の力強い賃上げの継続に加え、中小企業の健闘も目立つ。好調な滑り出しとなる一方、企業規模や地域、世代間の格差という課題も浮き彫りとなっている。石破茂政権は政策総動員で後続企業の賃上げを後押しする構えだが、食料品など身近な商品の価格が高止まり、少なくとも年前半は消費の低迷が続く可能性も指摘される。
連合が21日に発表した春闘の2次集計によると、ベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は加重平均で5.40%。1991年の5.66%(最終集計)以来34年ぶりの高水準を維持し、芳野友子会長も「企業規模にかかわらず高水準を維持しており、新たなステージの定着に向けて着実に前進している」との認識を示す。
自動車総連が20日に公表した直近の回答状況は、傘下組合の7割を占める300人未満の中小組合の賃金改善(ベア相当)が3.8%で、大手の3.9%と遜色のないものとなった。金子晃浩会長(連合副会長)は「絶対額こそ大手に及ばないが、その差自体は前年と比べて縮まってきている」と指摘。「これまでの規模間格差の拡大にいかに歯止めをかけるかを主眼に取り組んできたが、それをしっかり具現化できている」と評価した。
<中小企業のばらつき>
賃金動向について、これまでは大企業と中小企業の格差に目が行きがちだったが、ある経済官庁幹部は「これからは中小企業の中でのばらつきも意識することになる」と指摘する。
「今年5%の賃上げができるという企業もあれば、それは厳しいという企業もある。もともと中小企業の間にはばらつきがあったが、賃金と物価が動き始めたことで、その差がより鮮明になった」という。
帝国データバンクによると、24年に従業員の退職が原因で経営破たんする「従業員退職型」の倒産が過去最多の87件に達した。中小企業にも継続的な賃上げを検討する動きが広がってきた一方、収益力が乏しい企業も多く、25年も人材流出による「賃上げ難倒産」が増加する可能性が高まっているという。
日本商工会議所の小林健会頭は12日の政労使会議後、「中小企業と一口に言っても、その規模はさまざまだ」と指摘。「地方は95%が小規模事業者で、このへんの賃上げが進まなければ、地方の経済活力が低下する可能性がある」と懸念を示した。
<世代間の格差>
厚労省が17日発表した24年の賃金構造基本統計で年齢別の賃金増減率をみると、15─19歳の前年比4.9%増、20─24歳の3.5%増に対し、50─54歳は2.5%増と見劣りする。若手の採用意欲が高まる中、賃金の原資が若手に向かったとみられている。
春闘は基本的に労働組合の活動で若年層が中心になっていることもあり、中高年層を含めた全体の賃上げ動向は現段階で明確にみえないが、4月入社の新卒社員の初任給を前年度から引き上げると表明している企業も引き続き多い。
日商の小林会頭は「一番消費をする、あるいは必要に迫られて消費をしなければならない中高年層が非組合員になってなかなか(給料が)膨らんでこないという現実がある」と指摘。「初任給の引き上げもさることながら中高年の中間管理職にも手厚い賃上げをすべきだ」と強調した。
<即効性ある処方箋なく>
赤沢亮正・賃金向上担当相は18日の参院予算委員会で「現時点で賃上げが十分とは思っていない」との認識を示し、企業の生産性向上、適性な価格転嫁、事業承継やM&A(買収・合併)などの支援を通じて賃上げ原資確保の環境整備を行うと改めて説明した。
中小企業政策を所管する武藤容治経産相も、省力化投資や生産性向上支援策の活用・促進、公正取引委員会と連携した下請法改正など、さまざまなメニューを用意していると指摘。後続企業が賃上げを検討するタイミングを考慮し、3月末から4月にかけて業界団体に適正取引を要請するという。
とはいえ、これらの政策は、中小企業の賃上げへの即効性はあまり期待できなさそうだ。SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは「省力化やデジタル化などの設備投資は人手不足の解消に貢献するが、この瞬間の賃上げに寄与するのは難しい」と指摘する。
この日発表された2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、コアCPI)は前年比3.0%上昇と、3カ月連続で3%台。生鮮食品を除く食料が一段と伸び率を拡大した もっと見る 。
SBI新生銀の森氏は「期待を上回る賃上げとなった23年、24年も物価高の影響で消費が上向かなかったことを踏まえれば、25年も消費は楽観できない」と指摘。少なくとも25年前半は食品価格の高止まりがみえており、賃上げ効果が消費に波及するのは物価が落ち着いてくる25年後半にならないと難しいのではないか、と話す。
アメリカで卵の値段がかつてないほど高騰している事態を受け、トランプ政権はトルコと韓国から卵を輸入しようとしているほか、他の国々とも協議をしている。当局が認めた。
「短期的には、数億個単位の話をしている」とブルック・ロリンズ農務長官はホワイトハウスで記者団に話した。
ロリンズ長官は、卵を確保するため、トルコと韓国のほかにも複数の国と協議中だと述べたが、具体的には明らかにしなかった。
「鶏の個体数が回復し、卵産業ができれば数カ月以内に復活すれば、国内の業者に戻り、国内産の卵を店先に並べることになる」と、長官は話した。
AFP通信によると、ポーランドとリトアニアの養鶏協会は21日、卵の輸出の可能性についてアメリカ大使館から接触があったと明らかにした。
「2月にワルシャワのアメリカ大使館が、ポーランドがアメリカ市場への卵輸出に関心があるかどうか、私たちに訪ねてきた」とポーランド国立養鶏飼料生産者会議所のカタルジナ・ガヴロンスカ理事長は、AFPに話した。
アメリカでは鳥インフルエンザの感染拡大のため、養鶏業者が数千万羽の鶏の殺処分に追い込まれた。政府は、感染対策として10億ドル規模の計画を発表しており、卵の大量輸入もその一環の措置。
米農務省は2月、卵の価格対策に向け、総額10億ドルの5項目計画を発表した。この計画では、病原体に対する安全対策に5億ドル、ワクチン研究開発に約1億ドル、農家への財政支援プログラムに4億ドルの予算が充てられている。
トランプ政権は、商業用鶏卵農場に成功事例の説明やコンサルティングを無料で提供し、鳥インフルエンザの対策費用の最大75%を負担すると発表した。
「鶏卵会社が鶏舎を安全に管理できるよう、農務省として支援するため、全国的な監査に多額の資金を投じる事業」を開始したとロリンズ長官は説明。「開始以来、鳥インフルエンザが大幅に減少しているのが最近わかった」とも述べた。
鳥インフルエンザ(H5N1)はかねてアメリカの家禽(かきん)の間で流行していたものの、2022年に流行が始まり、農家は壊滅的な被害を受けた。1億5600万羽以上の鳥が死亡し、卵の価格が急騰した。
昨年の大統領選では、生活必需品の価格高騰に対する有権者の不満を利用しようとしたドナルド・トランプ氏は、卵の価格を重要争点にして取り上げた。
トランプ氏は大統領選の最中に、卵の価格を下げると公約した。しかし、卵の価格は過去1年間で65%以上急騰しており、 2025年には41%上昇すると予測されている。
トランプ大統領は今月初めの連邦議会演説で、 「ジョー・バイデンは特に、卵の価格を制御不能にしてしまった。我々は価格を下げるために懸命に取り組んでいる」と述べるなど、卵価格の高騰をバイデン前大統領のせいだと主張した。
バイデン政権は鳥インフルエンザの発生を受け、産卵鶏数百万羽の殺処分を指示した。これによって卵の価格は上昇したが、トランプ政権になっても価格は上昇を続けている。
閉鎖されたミシガン州のパリセーズ原子力発電所は、米国史上初めて、永久閉鎖後に再稼働する原子炉となることを目指している。
パリセーズの再開プロジェクトは、米国の他の閉鎖された原子力発電所が再開を目指す中、前例となるだろう。
しかし、検査の結果、パリセーズの蒸気発生器の管には大幅な修理が必要であることが判明した。この管は放射能の放出から一般市民を守る重要な部品である。
2カ月前にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムは欧州を巡る悲観的なムードに覆われていた。欧州の経済と市場は何年にもわたり米国に後れを取っていた。就任したばかりのドナルド・トランプ米大統領は、関税で欧州に打撃を与える一方で国内では減税や規制緩和、安価なエネルギーで経済成長を後押しする姿勢を鮮明にしていた。
いつものように、ダボス会議のコンセンサスは間違っていた。会議以降、大西洋を挟んだ両側のムードは入れ替わった。欧州株は好調に推移する一方、米国株は調整局面(10%下落)を迎えた。米連邦準備制度理事会(FRB)当局者は19日、インフレ見通しを上方修正し、経済成長見通しは下方修正した。トランプ氏の大統領選勝利を受けて急騰したドルは下降に転じた。
見方を整理する必要がある。欧米の市場逆転は遅すぎたくらいだった。欧州株と米国株の評価の差は不合理なほど拡大していた。米国の今年の経済成長率は修正後でも欧州連合(EU)と英国を上回る可能性が高い。欧州の企業活動指標は依然として弱い。
両地域の見通しについて根本的な再評価が必要かもしれない。それはトランプ氏と大いに関係がある。ただし、大方の予想していたのとは異なる形でだ。
トランプ氏の就任以降、米国の経済成長見通しは低下している。1月時点で、エコノミストは1-3月期の年率換算の成長率を2.2%と予想していた。現在、予想は1〜1.5%程度となっている。FRB当局者は19日、今年の成長率見通しを2.1%から1.7%へと引き下げた。
米国の成長率見通し引き下げの正確な理由は明確ではない。1-3月期の景気減速は、トランプ氏の就任後1カ月が経過する前のデータを反映している。とはいえ、同氏の貿易戦争は企業や消費者の景況感に打撃を与えている。
さらに、関税によってインフレ率がFRBの目標である2%を上回る状態が続くリスクがあるため、FRBは現在、政策金利を4.25~4.5%に据え置いている。ただし、将来の利下げの可能性は排除していない。
欧州の成長見通しは大きく変わっていない。実際、関税の脅威を受けて欧州中央銀行(ECB)は今月、ユーロ圏の今年の成長率予想をわずか0.9%に引き下げた。
ただ、いくつかのプラス要因が逆の方向に働いている。欧州の指導者らは、ウクライナを巡りトランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と和平合意を急いでいることに神経をとがらせているものの、和平の見通しは欧州の天然ガス価格の下落を招いている。
また、欧州の基調的なインフレ率は米国より低く、ECBは年初から2回の利下げを行い、政策金利は2.5%となった。さらなる利下げも予想されており、消費者にとって追い風となるだろう。
一方、欧州の指導者らは停滞する経済に対して行動を起こそうとしている。その動きが最も顕著なドイツでは今週、実質的に無制限の国防支出を可能にするため、憲法上の「債務ブレーキ」を改正する法案を連邦議会下院が可決した。投資銀行のエバーコアISIは、国内総生産(GDP)の3%に相当する国防費とインフラ支出の増加が見込まれると試算している。米国で同等の規模となれば、年間約1兆ドル(約150兆円)に相当する。
2月のドイツ総選挙で勝利を収め、債務ブレーキの改正(改正案は21日に上院で採決予定)を主導する保守陣営は18日のメモで、「われわれは開かれた社会と自由に対する攻撃から自らを守る。同時に、ドイツの投資機会を前例のない規模で強化する」とした。
EUの執行機関である欧州委員会も同じ方向に動いており、財政赤字の上限に関するルールから防衛支出を除外することを提案している。19日には1500億ユーロ(約24兆2000億円)の防衛基金を提案した。米国がEUと安全保障協定を結ばない限り、米国の武器供給業者の参加は制限される。
ユーライゾンSLJキャピタルのスティーブン・ジェン氏とファティ・イルマズ氏は今週、「第2次世界大戦が米国を大恐慌から脱出させたように、欧州の再軍備は欧州の景気循環見通しに素晴らしい効果をもたらすだろう」との見方を示した。
数字以上に重要なのは考え方の変化だ。ドイツは2009年に債務ブレーキを制定した。当時の指導者らは、過剰債務が欧州の近隣諸国にもたらした不安定な状況を回避しようと決意していた。
それは成功したものの、代償は大きかった。借り入れを嫌うあまり、ドイツの需要は低迷した。貿易黒字は高水準で推移する一方、軍事と社会インフラは資金不足に陥った。債務ブレーキを巡る18日の採決を前にボリス・ピストリウス国防相が「財政の現状よりも脅威の現状が優先される」と語ったことは、考え方の転換を示す。
成長重視の政策が再び注目されているのはドイツだけではない。英国のキア・スターマー首相は住宅やインフラ、原子力発電所の建設を加速させるため、許認可制度の改革を打ち出している。レイチェル・リーブス財務相は今週、企業合併に関する規制を緩和する考えを表明した。
一方でフランスは、2022年時点で520億ユーロの費用がかかると見積もられた6基の新規原子炉の建設向け融資を承認する見通しを示した。
こうした措置が成果を上げるまでには数年かかる可能性があり、狙い通りに実行される保証もない。それでも、政治指導者がそうした狙いを明らかにしたことは注目に値する。なぜ今なのか。欧州が望むような形ではないが、ある程度はトランプ氏の功績といえる。同氏のロシアへの接近、北大西洋条約機構(NATO)に対するあいまいな態度、関税引き上げの公約などによって、欧州では再軍備を巡り、また、投資や技術革新に対する内部障壁の撤廃を巡り、緊急性が高まった。
ドイツの保守陣営を率い、次期首相になるとみられているキリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首は先月、トランプ氏が「欧州の運命をあまり気にかけていない」ことは明らかだとし、「私の絶対的な優先事項は、できるだけ早く欧州を強化し、段階を踏みながら米国からの真の独立を達成することだ」と述べた。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は先月、原子力発電を推進する自身の政策をアピールする際、トランプ氏のスローガン「ドリル、ベイビー、ドリル(掘って、掘って、掘りまくれ)」の一部を「プラグ(コンセントに差し込むこと)」に置き換え、「ここでは掘る必要はない。プラグ、ベイビー、プラグだ」と語った。
トランプ氏は欧州において政策に関する考え方に変化を与えているだけではない。同氏の関税政策によって、中国は財政出動による景気刺激策に傾いている。ガベカル・リサーチのアンドリュー・バトソン氏は、中国では財政赤字が今年はGDP比10.9%と過去最大に達し、GDP比2.4%に相当する追加刺激策が実施されると予想している。
こうした数字は「中国では根深い財政保守主義が景気減速への適切な対応を妨げているという一般的な見方に反している」とバトソン氏は述べた。
ここには皮肉がある。欧州と中国が内部成長エンジンの活性化に成功すれば、ドル安と相まって対米貿易黒字が縮小する可能性がある。関税によってトランプ氏の目標である貿易赤字削減が達成されるかもしれないが、同氏の想定とは違う形でそうなるだろう。
北米最古の企業とされるカナダの百貨店大手ハドソンズベイは、同国内の96店舗のうち9割超にあたる90店の清算手続きを開始する。経営不振が深刻化しており、オンタリオ州の裁判所から部分清算の許可が下りた。複数の同国メディアが報じた。
同社はオンライン通販やディスカウント店との競争激化で顧客離れが続いていた。債権者と再建策を協議していたが打開策が見つからず、14日に店舗ごとに資産を清算する計画を裁判所に申請していた。
裁判所は21日付で、最大都市トロントの旗艦店とショッピングモールに入居する店舗など計6カ所を除き、清算に移行する許可を出した。
ハドソンズベイは、英国が17世紀にカナダの開拓や毛皮交易のために勅許で設立した「ハドソン湾会社(HBC)」を起源に持つ。19世紀に小売業主体へ事業を転換した。現在の従業員数は約9000人。
●中東情勢
トルコの司法当局は23日、最大都市インスタンブールのイマモール市長を汚職容疑で逮捕した。NTVが伝えた。
エルドアン大統領の最大の政敵で、次期大統領選の有力候補とされるイマモール市長が逮捕されたことで、当局の専制的な手法への抗議が激化し、通貨トルコ・リラや株式相場が一段の下押し圧力にさらされる恐れがある。
国政野党の世俗主義政党、共和人民党(CHP)に所属するイマモール市長は、全ての嫌疑を否定している。逮捕の決定は公表されていない。別のテロ関連容疑での逮捕は認められなかったという。
一方、トルコ中央銀行の当局者は、イマモール市長の19日の拘束が引き金となった資産価格の急落を検証し、協調の可能性を話し合うため、23日午後に市中銀行の経営幹部らと会合を持つ。非公開情報を理由に事情を直接知る複数の関係者が匿名を条件に明らかにした。
市長の拘束が先週伝えられると、トルコ経済政策の方向転換のリスクが投資家の間で意識され、通貨と債券、株式が「トリプル安」となった。
トルコの主要野党指導者で、次の大統領選で有力候補になるとみられているイスタンブールの市長を当局が拘束したことに抗議し、同市内で抗議が続いている。そうした中、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は21日、政府は「公共の秩序の乱れは容認しない」 と抗議行動を非難。「破壊行為」や「街頭テロ」に政府は「屈服」しないと主張した。
トルコ当局は19日、主要都市イスタンブールのエクレム・イマムオール市長を汚職とテロ組織支援の容疑で拘束した。市長は、大統領候補に選出される目前だった。
イスタンブール県ではデモが禁止されているものの、大勢がこの拘束に抗議しデモに参加。20日のデモでは53人が逮捕されたと政府が発表したが、21日にも抗議は続いた。
イマムオール氏は、世俗主義政党の野党・共和人民党(CHP)に所属し、エルドアン大統領の最も強力な政敵の一人とみなされている。拘束された日の数日後には、2028年の大統領選挙の候補者として発表される予定だった。
トルコ政府は19日、イマムオール市長を含む100人余りに汚職などの容疑で拘束命令が出されたと発表した。拘束された中には、政治家のほか、ジャーナリストや実業家ンも含まれる。
イスタンブールでは21日、数千人が抗議集会に集まった。機動隊は大勢のデモ参加者と衝突し、ゴム弾や催涙ガスを発射したとされている。西岸の主要都市イズミルでも衝突があったと言われている。
CHPのオズギュル・オゼル党首は、現地時間21日午後8時半にイスタンブール市庁舎前で3回目の夜間抗議行動を行うよう呼びかけ、エルドアン大統領は抗議行動を恐れていると述べた。
オゼル氏はさらに、トルコ国内のほかの場所でも同じ時間に平和的なデモを行うよう、国民に呼びかけた。
「警察を傷つけずにバリケードを倒し、街頭や広場に出て行動しよう」と、オゼル氏は促した。
当局は19日の市長拘束直後、イスタンブール市を含むイスタンブール県であらゆる集会を4日間禁止すると発表し、街頭デモを抑え込もうとした。
トルコ全土で抗議行動が広がり数万人が集まる中、警察はデモ禁止命令を首都アンカラと西岸イズミルにも拡大した。
21日の抗議に先立ち、エルドアン大統領を支持するイスタンブール県知事は、金角湾の河口から市庁舎まで続くガラタ橋とアタチュルク橋の閉鎖を命じた。
政府のアリ・イェルリカヤ内相も同様にデモを批判し、野党側は「無責任」だと述べた。 さらに、オンライン投稿によって「公衆に憎悪と敵意を煽動する」法律に違反したとして54人が逮捕されたと、内相は明らかにした 。
イェルリカヤ内相はこのほか、デモで警察官16人が負傷したと付け加えた。
イマムオール市長らの逮捕は、野党政治家やジャーナリスト、芸能界関係者を標的としたここ数カ月の全国的な大規模取り締まりを受けてのもの。 野党関係者は、逮捕は政治的動機によるものだと述べている。しかし法務省は、エルドアン大統領と逮捕を結びつける人々を批判し、司法の独立性を主張している。
CHPは昨年4月の統一地方選の際、イスタンブールとアンカラの市長選で圧勝した。イマムオール氏はこの時、イスタンブール市長に再選された。
エルドアン氏が政権に就いて以来、同氏の公正発展党(AKP)が全国的に選挙で敗れたのはこれが初めてだった。エルドアン氏はイスタンブールで生まれ育ち、その市長を経て大統領になった。
エルドアン氏は過去22年間、トルコの首相と大統領を歴任してきた。任期制限があるため、憲法を改正しない限り、2028年に再選されることはできない。
CHPの大統領候補選出は23日に予定されている。党員150万人が投票するものの、立候補者はイマムオール氏のみとなっている。 同党はまた、拘束された市長への支持を示すためにトルコ全土の各地区に投票箱を設置し、国民に象徴的な行為として投票をするよう呼びかけている。
イスラエルがパレスチナ自治区ガザでの戦闘を再開した。しかし相次ぐ政治的混乱で政府への信頼が急低下する中、明確な国民の支持は得られていない。
現在の状況は、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによる攻撃を受けてイスラエルがハマスとの戦闘を開始した17カ月前とは大きく異なる。当時イスラエル国民は、デモ参加者が街頭を埋め尽くすほどだった激しい国内の政治的対立を脇に置き、戦闘遂行に向けて結束した。
国民はハマスの処罰と無力化を望んで一致団結していた。しかしハマスが大きな打撃を受けた今、多くのイスラエル人は、右派の一部でさえ、ガザでまだ生存している人質の解放により関心を示しており、交渉を通じた戦争の解決のみが人質を取り戻せると感じている。
世論の変化は、過去2カ月間に解放された20人以上のイスラエル人人質の姿がきっかけとなった。多くは健康状態が悪く、負傷していたり、明らかに栄養失調状態だったりした。国民は衝撃を受け、残りの人質59人に対する懸念が高まった。イスラエルは、そのうち24人が生存している可能性があると考えている。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は司法制度に対する自身の支配力を強化する法案に再び取り組むことで、過去の論争を再燃させている。同法案を巡っては、ハマスとの戦闘が開始する前の1年間、大規模な抗議デモを引き起こした。首相はまた、人口が急増している超正統派ユダヤ教徒の兵役免除を維持しようとしている。さらには停戦を支持した治安機関幹部を追放し、信頼を失ったとして国内治安機関シャバク(シンベト)のロネン・バー長官を解任した。
エルサレムに拠点を置くシンクタンク、イスラエル民主主義研究所が3月9日に発表した世論調査によると、国民の73%が、残りの人質解放と引き換えに、戦闘終結とイスラエル軍のガザ撤退についてハマスと交渉することを支持している。特筆すべきは、右派の国民の56%が停戦合意を支持すると答えたことだ。ネタニヤフ首相率いる与党リクードの支持者も62%が同様の回答をした。
イスラエルの主要都市では18日と19日に抗議デモが行われ、政府に新たな合意を確保するよう求めた。
人質解放をもたらす合意を望む多くのイスラエル国民は、ハマスを完全に打倒しガザから追放することを依然として支持しているが、その目標を先送りすることに前向きだ。こうした違いは、予備役に大きく依存するイスラエルの戦闘への取り組みを損なう可能性がある。
元イスラエル軍幹部のアモス・ヤドリン氏は「イスラエル国民はハマスの壊滅を望んでいる。しかし、まず人質の帰還を求めている」と述べた。「そしてこれは、予備役兵士たちが次の戦闘に向かう意欲を低下させる可能性がある」
2023年10月とは対照的に、ネタニヤフ首相は現在、彼を権力の座から引きずり下ろそうと決意した野党勢力に直面している。
野党のヤイル・ラピド党首は「われわれの英雄的な戦闘員たちには、国の安全と人質の命運にのみ関心があると信じられる首相が必要だ」と述べた。「現在の状況はそうではない」
ガザでの戦闘継続中に40人以上の人質が死亡した。イスラエルは、少なくとも14人が空爆を含む軍事活動を受けて死亡したことを認めている。さらに6人は昨年8月下旬、イスラエル軍が接近する中、ハマスに殺害された。
人質の家族の大半を代表する団体「人質・行方不明家族フォーラム」は18日、「家族、人質、そしてイスラエル国民が最も恐れていたことが現実のものとなった」とし、政府に交渉の場に戻るよう要求した。
イスラエルは、ハマスに人質解放に応じさせるために圧力を強めていく計画に従っている。今月に入り人道支援物資の供給と電力供給を停止し、18日に空爆を再開。19日にはガザの中部と南部に地上部隊を投入したと発表した。
イスラエルは1月に段階的な停戦に合意した。第1段階は、33人のイスラエル人人質(うち8人は死亡)と5人のタイ人人質の解放と引き換えに、1700人以上のパレスチナ人囚人を釈放し、ガザへの支援を大幅に増加させるという内容だった。
残りの人質解放と引き換えに戦闘を恒久的に終結させるという、次の段階に移行するための交渉は行き詰まった。イスラエルがハマスへの攻撃継続を断念することを拒否し、一方でハマス側が停戦延長と引き換えにさらに人質を解放するという条件の受け入れを拒んだためだ。
戦闘再開は大半のイスラエル国民にとって不人気ではあるものの、ハマスからさらなる譲歩を引き出すことなく停戦を維持することも同様に不人気だった。
戦闘再開は、超正統派ユダヤ教徒の兵役免除や予算案に関する採決を前に、ネタニヤフ首相の極右勢力との連携強化も可能にした。予算案が可決されなければ総選挙が行われることになる。
ネタニヤフ首相は18日、極右政党「ユダヤの力」とイタマル・ベングビール党首を連立に復帰させることでベングビール氏と合意し、政府は速やかにこれを承認した。同氏は1月の停戦発効時に連立を離脱し、復帰の条件として戦争の再開を要求していた。
エルサレムを拠点とする保守系シンクタンク、コヘレト政策フォーラムの政治学者アブラハム・ディスキン氏は、イスラエル国内の分断が前例のないレベルに達している時期に、政府はハマスを権力の座から排除するという重要な目標を達成するため、人質問題でリスクを取る決断をしたと述べた。
「おそらくイスラエル建国以来、最悪で最も危険な分断だ」とディスキン氏は語った。「まさにわれわれの存在そのものを危うくしている」
●エマージング
高級ファッション市場の低迷により、グッチやシャネル、ディオールといったトップブランドではデザイナーの顔触れを刷新する動きが出ている。富裕層の顧客を混乱させかねない過激なリセットを避けつつ、ブランドの活力を取り戻そうという狙いだ。
グローバル高級品市場の規模は3630億ユーロ(約58兆6100億円)だが、中国の景気後退やそれ以外の国でのインフレ加速により、富裕層の消費者も高額出費に消極的になっており、ここ数年で最悪の鈍化に悩まされている。
英高級百貨店リバティーでグループ全体のバイヤー及びマーチャンダイジング部門のディレクターを務めるリディア・キング氏は、「創造性と商業的成功をバランスさせ、しかも変化の絶えない市場で存在感を保っていくというプレッシャーは、各ブランドともこれまで以上に強まっている」と語る。
ケリング(PRTP.PA), opens new tab傘下のグッチとシャネルは、はるかに規模の小さいブランドから新進デザイナーを登用するという賭けに出ている。LVMH(LVMH.PA), opens new tab傘下のディオールも近々これに続く可能性が高い。だが新たに起用されるデザイナーを待ち受けるのは、過不足ないリニューアルを実現するという難しい任務だ。投資家たちは結果を出すまでの猶予をほとんど与えてくれない。
グッチは先週、バレンシアガのデザイナーであるデムナ・ヴァザリア氏(43)をデザインチームのトップに任命したが、これを受けてケリングの株価は10%以上下落し、同グループの株式時価総額は約30億ユーロも低下した。
コンサルタント会社DLGのジャック・ロワザン氏によれば、現代は「スーパースター級」のクリエイティブ・ディレクターの時代であり、ブランドのアイデンティティはデザイナーによって左右され、これまでの伝統にも影響を及ぼすという。
グッチはここ2年間、クラシック色の濃いデザインにより高級市場志向を強めてきたが、アナリストのあいだではもっと大胆なファッションを期待する声が高まっていた。だが投資家たちは、デムナ氏はラグジュアリーストリートと呼ばれるスタイルを武器にケリング傘下のもっと小規模なブランドを盛り上げてきた人物で、グッチにはふさわしくないのではないかと懸念している。
ロワザン氏は、クリエイティブ・ディレクターが変われば、「デザインの方向性だけでなく、ブランドの位置付けや顧客層まで」再定義することになる、と語る。
中国経済の低迷が続く中で、高級ブランドが今年期待をかけているのは米国市場だ。ただしここでも経済の先行きが不透明になる兆しが見られる。
非公開企業であるシャネルは、ケリング傘下のボッテガ・ヴェネタで成功を収めたマチュー・ブラジー氏(40)を起用した。何十年もカール・ラガーフェルド氏の指揮下にあり、2019年の同氏の死後は長年の盟友であるヴィルジニー・ヴィアール氏が引き継いだ同ブランドに新たなデザイン手法を持ち込むのは、容易ではない大仕事だ。
GAMで高級ブランド投資戦略マネジャーを務めるフラビオ・セレダ氏は、クリエイティブ・ディレクターの重要性はブランドによって異なる場合がある、と語る。
ヴィアール氏が昨年突然離脱した後、シャネルはブランドの象徴を強調してきた。ショーの会場にはラガーフェルド氏がお気に入りだったパリのグラン・パレを使い、ランウェイはCを組み合わせたシャネルのロゴをかたどり、そこを歩くモデルは黒いボウをあしらった服を身にまとっていた。
<業界全体にわたる変化>
LVMHでは、1月にメンズ担当デザイナーのキム・ジョーンズ氏がディオールを離脱した後、新たなクリエイティブ・ディレクターを公式発表していないが、まもなく新たなデザイナーと契約する可能性が高く、ジョナサン・アンダーソン氏が有力視されている。アンダーソン氏のロエベ離脱は17日に発表されたが、LVMHは同氏の今後の役割についてはコメントを控えている。
LVMH傘下のセリーヌやジバンシーなど規模の小さなブランドの多くでも、新たな顔触れが登場している。またヴェルサーチを30年近く率いたドナテラ・ヴェルサーチ氏は、ミュウミュウのダリオ・ヴィターレ氏に道を譲った。
「これだけ激しい椅子取りゲームが起きてしまえば、クライアントはどのショップに行けばいいのか途方に暮れる」と語るのは、最高級ファッションブランドのいくつかが本店を構えるパリのモンテーニュ通りで主要欧州ブランドの販売アシスタントを務めるヤニス・ウゼーヌ氏。
ファッション産業、高級品産業に特化したアドバイザーを務めるアチム・バーグ氏も、「高級ブランド業界で、トップデザイナーがこれだけ激しく動いた例は記憶にない」と言う。
デザインスタジオやマーチャンダイジングチーム、マーケティング部門やデザインチームにも変化は広がっていくだろうが、時間はかかるだろうし、目に見える影響が出てくるのは来年になるだろう、とバーグ氏は続ける。
コンサルタント会社ベインのシニアパートナーであるフェデリカ・レバト氏は、「ブランドのデザイン手法をあまりにも急激な変化させることで」ファンを困惑させないように配慮する必要がある、と指摘する。
ロワザン氏は、中国の購入客にとっては、ブランドの「今ここ」のデザインが、その歴史的な文脈よりも重要だが、西側の購入は「ブランドのアイデンティティの継続性に大きな価値」を見出していると言う。
デザイナーの名前で購入を決めるわけではない、という人もいる。
パリを訪れた米国人観光客ステファニー・ゴールドさんは、「デザイナーが誰かなど気にしない」と言う。先日、人目を惹くディオールの眼鏡を購入した。「誰もが持っているようなものは買いたくない」
高級品セクター全体では、2019年から2023年にかけて年平均10%の成長を示したが、UBSでは、2025年の成長率は4%前後になると予想している。グローバル成長の3分の1以上は米国向け販売によるもので、中国市場での売上高が1%減となるのに対して、米国市場は7%増と見られる。
アリックス・パートナーズでコンサルタントを務めるオリビエ・アブタン氏は、各ブランドは、再編にあまり時間をかけすぎないよう注意しなければならない、と指摘する。
市場ではグループ主力であるルイ・ヴィトンよりも後になったディオールのデザイナー変更は遅きに失したのではないかという声もある。
アブタン氏は、「ブランドが成長鈍化を察知したら、すぐさま」改革に踏み切る必要があると言う。
中国政府はトランプ1次政権時に、1980年代の日本のように米国の貿易圧力には屈しないことを決意していた。だが中国国内の景気が低迷し、2期目のトランプ政権からさらに大きな経済的攻撃に直面する中、同国が当時の日本の戦略を一部踏襲する可能性も生じている。
中国政府のアドバイザーらによれば、中国は数十年前の日本と同様に、米国への特定商品の輸出量を自主的に制限することで、米国のさらなる関税引き上げやその他の貿易障壁を回避しようと検討。日本は1980年代に輸出自主規制(VER)に基づき、対米自動車輸出を制限することで、米国の高関税賦課を回避した。
米国は電気自動車(EV)やバッテリーなどといった分野で中国政府に懸念を示しており、中国がこれらの輸出を自主規制すれば、「経済的不均衡」に対する米国などからの批判を和らげることができる。米国を含む各国は、政府の手厚い補助金を受けた中国企業が薄利多売で世界市場を席巻し、他国のメーカーに打撃を与えていることで経済的不均衡が生じていると指摘している。
トランプ氏はすでに中国に対し、1期目に課した関税に加えて累計20%の新たな関税を課している。またこれらの関税は、バイデン前政権によってもほぼ維持されてきた。米中間の交渉はまだ行われていないが、スコット・ベッセント財務長官は先月末、習近平国家主席の側近で対米貿易交渉の責任者となる見通しの何立峰副首相との初めての電話会談で、市場をねじ曲げる中国政府の慣行への懸念を表明していた。
中国政府のアドバイザーらによると、経済当局者らがこの問題に関する日本のアプローチの一部を踏襲しようとしている背景には、米国からの潜在的な圧力などがある。習氏が率いる政府指導部も、さらなる貿易攻撃を回避するためにトランプ政権と取引をする意向を示している。
日本は1981年に初めて自動車輸出の制限に同意。その結果、輸出は前年比約8%減少した。ダートマス大学の経済学教授のダグ・アーウィン氏は、この規制が特に1980年代半ばには徹底されたと言及。だが1990年代初頭までには、日本企業が米国市場向けの自動車を現地の工場で生産するようになったこともあり、VERは不要となった。
アーウィン氏は日本が輸出制限に前向きだった理由の一つとして、販売台数が減っても1台あたりの価格を引き上げられることができたからだと指摘。日本車の平均価格は約1000ドル(現在の価値で約3500ドル、約52万円)上昇し、規制の結果として日本はより大型で高品質な車を輸出し始めたという。
中国政府のアドバイザーらは当時の日本と同様に、EVやバッテリーの輸出規制を交渉する代わりに、これらの分野での対米投資機会を求めることを検討するかもしれないとした。一部のアドバイザーらは、これがトランプ氏にとっても魅力的な提案だと言及。トランプ政権内では反発もあるものの、トランプ氏は中国からの対米投資拡大に前向きな姿勢を示している。
アーウィン氏は「トランプ政権が貿易政策の手段として関税を使用することに固執しているため、中国は輸出自主規制に前向きになるかもしれない」と説明。ただし同氏やその他のエコノミストらは、中国の対米貿易黒字が2950億ドルに達し、米国の貿易相手国の中で最大となっている点に触れ、VERを通じて米中貿易の全てを再均衡させることは事実上不可能だとも指摘している。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
ドルは対ユーロでやや上昇。ユーロは利益確定の動きとドイツの財政規律緩和案が影響し、軟調に。トランプ大統領が相互関税を導入予定で警戒感が広がったが、米FRBは利下げを急がない姿勢を示し、市場に安心感が広がった。ドル円は0.3%高、英ポンドは0.3%安。米国の株式市場は小反発し、トランプ大統領の関税に関する柔軟な対応発言が影響。債券利回りは上昇し、10年国債利回りは4.25%に。金は反落、原油は需給引き締まりを背景に上昇。
ロンドン株式市場は続落。米政権の関税措置による経済影響への懸念が重荷となった。FTSE100種指数は週間で0.17%高。FTSE250種指数は0.93%下落。ヒースロー空港の火災による閉鎖で航空株が売られ、IAGは1.9%安。欧州株式市場も続落し、航空・資源関連株が下落。一方、ドイツの財政規律緩和案承認を受け、防衛関連銘柄は上昇基調。ユーロ圏債券市場では、米関税発動や経済減速懸念で国債利回りが低下。ドイツ10年債利回りは2.767%、2年債は2.12%に下落。

備忘録(2025/3/20
●海外企業決算
●海外企業
●日本企業
ソフトバンクグループは20日、半導体設計を手掛けるアンペア・コンピューティングを買収することで合意したと発表した。人工知能(AI)インフラへの進出を拡大する。
発表資料によると、ソフトバンクGは、カリフォルニア州サンタクララに本拠を置くアンペアを65億ドル(約9700億円)と評価し、全額現金取引で買収する。
アンペアにはオラクルやプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社カーライル・グループなどが初期から出資している。ブルームバーグ・ニュースは2月、ソフトバンクGがアンペアの買収に向けて最終段階の交渉を進めていると報じていた。
オラクルとカーライルは今回の取引の一環としてアンペアの株式を売却する。買収は2025年後半に完了する見通し。アンペアはソフトバンクGの完全子会社として運営され、社名とサンタクララの本社はそのまま維持される。
アーム・ホールディングスの技術を活用してデータセンター設備用プロセッサーを製造するアンペアは、2021年にソフトバンクGによる少数株投資の提案で80億ドル強と評価されたと、ブルームバーグ・ニュースが当時、報じていた。
●先進国政治動向
トランプ米大統領は19日夜(日本時間20日午前)、米金融当局に対し利下げすべきだとの認識を示した。パウエル連邦準制度理事会(FRB)議長率いる金融当局はトランプ氏の関税措置がもたらす経済的コストについて評価を行っている。
トランプ氏は自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に、「米国の関税が経済に移行(緩和!)し始めたら、連邦準備制度は金利を引き下げた方がずっといい」と投稿。貿易相手国・地域への相互関税などの発表を予定している4月初めを念頭に、「正しいことをしよう。4月2日は米国の解放記念日だ!」とコメントした。
米金融当局は19日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、主要政策金利のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを4.25-4.5%に据え置くことを2会合連続で決めた。
トランプ氏はこれまで米金融当局の政策について、利下げを求めたり、言及を控えたり、まちまちなメッセージを発信している。一方、ホワイトハウスのハセット国家経済会議(NEC)委員長は19日、大統領と政権高官は「連邦準備制度の独立性を大いに尊重する」と記者団に強調していた。
●先進国中銀、金融当局
イングランド銀行(英中央銀行)は20日、政策金利を4.5%に据え置くと発表した。市場の予想通りだった。
ベイリー総裁率いる金融政策委員会(MPC)は8人が据え置きを支持、1人は0.25ポイント利下げを主張した。ハト派寄りとみられた3人の政策委員も利下げ見送りに姿勢を転じた。
8対1の決定は、慎重なアプローチを支持する当局者がエコノミスト予想よりも多かったことを意味する。MPCは全体的によりタカ派的な方向にシフトした。
過去3回の会合で利下げを主張してきたラムズデン副総裁とテイラー委員に加え、2月に大幅な0.5ポイント利下げを主張して市場を驚かせたマン氏も据え置きに票を投じた。
最もハト派的なディングラ氏は0.25ポイント利下げを主張したが、前回とは異なり0.5ポイント利下げは求めなかった。
RSMUKのエコノミスト、トーマス・ピュー氏は「先月の投票結果と比べ、明らかにタカ派寄りに傾いた」と指摘。「賃金の力強い伸びが続き、企業が増大するコストを想定以上に積極的に転嫁するリスクが明らかにある。そうなれば、利下げ回数は減るだろう」との見方を示した。
議事録は「今後数回の会合において金融政策があらかじめ定められた道筋をたどるという想定はない」としており、5月の利下げは確実ではないことを示唆している。
英中銀は昨年8月以来、四半期に1回のペースで利下げを実施しているが、トレーダーの間で、次の利下げが5月になるだろうという見方はここ数週間で後退している。短期金融市場が織り込む5月利下げの確率は、今回の政策発表後に70%から65%前後に低下。英国債は上昇し、利回りは全年限で低下した。
それでもガイダンスによると、世界経済の悪化で英中銀の「段階的かつ慎重な」緩和に狂いはまだ生じていないとの見解が示された。
ベイリー総裁は議事録に添えられた声明で「現時点では経済の先行きに不透明感が多いが、われわれは依然として金利が緩やかに低下する道筋にあると考えている」と説明。「世界経済と国内経済の動向を注意深く見守っていく」と付け加えた。
中銀はインフレ率が今年中に目標の2倍に近い3.75%に達するという予測を再確認した。物価高騰は一時的な要因によるものだと当局者らは考えているが、議事録では消費者と企業双方のインフレ期待の高まりに対する懸念が示された。
来週の春季財政報告を前にリーブス財務相は「生活費の緩和に向け、まだすべきことがある」と認めていた。
20日午前に発表された英雇用統計によると、賃金上昇率は9カ月ぶりの高水準で、雇用も増加し、労働需要の底堅さを示した。
議事録によると、こうした好調な賃金データは重大視されなかったものの、今後数カ月の賃金交渉については将来の決定の「重要な要因」となるため、当局は注意深く見守るとしている。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
(サマリー)ノルウェーの1兆8000億ドルの政府系ファンドは木曜日、ロンドンの象徴的なコヴェントガーデンの不動産ポートフォリオの4分の1を購入する契約を締結したと発表した。
ノルウェー銀行投資管理局(NBIM)は、ロンドンの不動産ポートフォリオの25%の株式を取得するためにシャフツベリー・キャピタルに5億7000万ポンド(7億3900万ドル)を支払うと発表した。
これは、1月に国営の富裕基金がウェストミンスター公爵のグロブナー邸の25%を取得するために3億600万ポンドを投資したことに続くものである。
(サマリー)オリバー・ブルクハルト最高経営責任者(CEO)は、ドイツの「債務ブレーキ」改革は「防衛予算に関しては、もはやほぼ制限がない」ことを示していると述べた。
ティッセンクルップ マリン システムズ(TKMS)は、ドイツの産業エンジニアリング複合企業ティッセンクルップの軍艦部門であり、海軍艦艇や潜水艦を製造しています。
ブルクハルト氏は、TKMSの親会社ティッセンクルップからのスピンオフは今年中に完了する予定だと明らかにした。
経済協力開発機構(OECD)は20日、2024年の政府と企業による国債や社債といった債務の残高が世界全体で100兆ドルを超えたとする報告書を発表した。高金利政策の影響もあり、OECD加盟国における利払い費の政府支出は国内総生産(GDP)の3.3%に達し、国防費を上回る水準になっているとした。
複数の中央銀行が利下げ局面にあるものの、借入コストは22年に利上げに転じる以前の水準と比べ、依然として高い。
ドル建て債券の利回りは、20年の約4%から24年には6%以上に上昇。よりリスクの高い国の債券は8%以上まで上昇し、こうした国は貯蓄率が低いことなどから国外からの資金に依存しているのが現状だ。
低利の債務が金利の高い債務に置き換わっていくことから、利払い費は上昇を続ける可能性が高い。OECDは「利払い費の増加と債務額の増加の組み合わせは、投資のニーズがかつてなく高まっているタイミングで、将来の借り入れ能力を制限するリスクがある」と指摘した。
OECD諸国の政府債務の半分以上と、新興国の政府債務の約3分の1の金利は依然として市場金利を下回っている。高格付け社債の3分の2近く、リスクが比較的高い社債の4分の3近くも同様の状況だ。
ただ、加盟国と新興国の国債の半分近くと、社債の約3分の1は、27年までに満期を迎える予定となっている。特に低所得諸国は、3年以内に債務の半分以上が満期を迎える予定で、借り換えを巡ってより大きなリスクに直面する見通しだ。
OECDの資本市場・金融機関部門の責任者は、政府や企業は借り入れが長期的な成長と生産性向上につながるものにする必要がある、と指摘した。
森に囲まれた広大な工場で、欧州の再武装とウクライナ向け兵器補給を支えるミサイルが組み立てられている。
冷戦終結後の米軍事力への依存から欧州が脱却できるかどうかは、フランス中部にあるこのMBDA工場のような施設と、長らく緊急の案件ではなくなっていた生産の早期拡大にかかっている。
問題は、同社や欧州が生産能力を十分に拡大できるかどうかだ。
ドナルド・トランプ米大統領は欧州各国に防衛費の増額を求めてきた。米国がウクライナへの武器供給を一時的に停止したことで、欧州にとっても人ごとではないとの危機感が強まり、主体的に兵器を確保すべきとの認識が高まっている。
ロシアのウクライナ侵攻開始以降、欧州各国は軍事支出を拡大し、域内の防衛関連企業は受注が伸びている。だが各社は需要に追いつくのに苦戦し、欧州は依然として米国からの輸入に頼っている。
欧州ミサイル生産大手MBDAのエリック・ベランジェ最高経営責任者(CEO)は、「今は時間と量とスピードが重要だ」と述べた。「われわれは歴史的瞬間を体験している」
同社は製造基盤の強化を急ぐ。17日には生産拡大に向けて2023~28年に27億ドル(約4000億円)を投じると発表。受注残は約400億ドルに上る。
ベランジェ氏は、新型ミサイルの生産量が年末までに23年比で2倍に増えるとの見通しを明らかにした。
MBDAほど欧州の窮状を象徴する企業はめったにない。同社は欧州航空機大手エアバス、英防衛大手BAEシステムズ、伊航空・防衛大手レオナルドが共同所有している。
MBDAが製造するミサイルは世界的に需要が大きい。「アスター」は昨年中東で、弾道ミサイルやイエメンの親イラン武装組織フーシ派のドローン(無人機)を撃墜するのに使われた。「ストームシャドー」はウクライナで使用されている兵器の中でも特に高性能だ。
だが、冷戦が終結してから欧州のミサイル生産ペースは落ちている。防衛予算が縮小し、受注が大きく落ち込んだためだ。フランス政府は昨年、MBDAのミサイル生産ペースが改善しなければ、生産の一部を国営化する可能性をちらつかせた。
MBDAと欧州が後れを取っている能力がある。同社はまだ極超音速ミサイルを製造しておらず、同社の長距離防空システムも、米国のパトリオットシステムには匹敵しないとされている。
MBDAの製造能力はすでに拡大している。短距離ミサイル「ミストラル」は現在、月に40発製造できる。ロシアのウクライナ侵攻前は10発だった。対戦車誘導ミサイル「アケロン」は月40発と、2倍に増えた。次に目指すのは、防空ミサイル「アスター」の生産量を26年までに22年比50%増やし、製造期間を半分未満に短縮することだ。
生産拡大を目指す兵器業界の悩みの種は、熟練工の確保と安定したサプライチェーン(供給網)の構築だ。
MBDAは昨年、英国、フランス、イタリアで合計2500人を採用し、今年はさらに2600人増やす計画だ。フランス中部では公共職業安定所と組んで募集と職業訓練を行っている。給与も周辺の企業より高水準だ。
サプライチェーンにも力を入れており、特殊鋼の在庫を80トン保有。ウクライナ戦争開始前は約5トンだった。また、ミサイル数千発分のチタンも保有している。
MBDAの幹部は、他の防衛関連企業と同様、ロシアによるウクライナ侵攻後の需要急増には備えていなかったと述べている。
アスターは冷戦終結後に開発されたもので、当時は生産の緊急性が低かった。欧州の防衛予算は削減され、一部の兵器システムは製造が終了または縮小された。
一方、防衛予算が世界最大の米国では、企業が兵器の生産を続けていた。そのため、欧州各国の政府は必要になると米企業に頼ることが多く、域内メーカーは受注減に直面した。
「需要が少ない時でも、米国のメーカーは生産ラインを維持できるだけの受注を確保していた」。オスロ大学の博士課程リサーチフェローでミサイル技術が専門のファビアン・レネ・ホフマン氏はこう指摘した。
米企業は今でも欧州企業より兵器の生産量が多い。アナリストによると、MBDAの巡航ミサイル生産量はおそらく年間数十発程度で、数百発ではない。かたや米ロッキード・マーチンは、巡航ミサイルを年間約720発生産しており、約1100発に増やす計画だ。
シンクタンクのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国が24年までの5年間に輸入した武器の約3分の2は米国からだった。
MBDAにはミサイルの増産と生産加速以外にも課題がある。
長距離防空システムには強い需要があるにもかかわらず、MBDAの「SAMP/T」はあまり普及していない。これまでに購入したのはわずか3カ国で、このうちフランスとイタリアは生産に関わっている。
米国のパトリオットシステムは19カ国が使用しており、このうち9カ国が欧州だ。
SAMP/Tはウクライナに届けられたがソフトウエアに問題があり、弾道ミサイルの迎撃に失敗したと、事情に詳しい関係者は話した。
SAMP/Tを製造している企業連合「ユーロサム」の広報担当者は、ウクライナでの有効性について肯定的な反応を得ていると述べた。
欧州はまた、音速の5倍以上の速さで飛行し、標的まで誘導できる極超音速ミサイルの開発でも、米国や中国、ロシアに後れを取っている。
極超音速ミサイルに対応できるMBDA主導の防衛システムは、運用開始があと10年ほど先になる。
●中東情勢
エルドアン大統領の政敵拘束で19日は大混乱に陥ったトルコ市場だが、一夜明けて売りは緩和した。当局はボラティリティーを抑制する措置を発表した。
トルコ中央銀行は為替変動を抑え、市場の流動性の均衡を保つ目的で、トルコ・リラ決済の先渡し取引の販売を開始すると明らかにした。この発表を受け、リラは対ドルで下げを一時解消した。
一方、市場監督当局が発表した自社株買いの規則緩和が好感され、代表的な株価指数は上昇。イスタンブール100種指数は一時3%高を付けた。前日は98.7%安に沈み、約100億ドル(約1兆4900億円)の時価総額が失われていた。
エルドアン氏の市場に友好的な経済政策や金融政策の引き締めが政治混乱の影響を受けることはないと、投資家は見込んでいる。外国人投資家による一段の売り圧力は「限定的である公算が大きい」と、ゴールドマン・サックスのエコノミスト、クレメンス・グラフ氏は予想。
ただ、「市場に対する政治リスクは高いとの判断はとどまるだろう。従って、ロングポジションが急いで再構築されるようになる公算も小さい」と分析した。
トルコの長期国債も上昇し、10年物利回りは121ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下して29.53%。
トルコ中央銀行は20日の緊急会合で、翌日物貸出金利を2ポイント引き上げた。リラを支え、通貨下落がインフレに及ぼす影響を緩和するのが狙い。
エルドアン大統領の主な政敵の拘束をきっかけに金融市場で混乱が広がり、トルコ・リラは19日に一時11%下落した。
トルコ中銀はウェブサイトに掲載した声明で、「こうした状況がインフレ見通しに及ぼし得るリスクを評価し、金融政策の引き締めスタンスを支えるべく措置を講じた」と説明。「インフレが著しくかつ持続的に悪化すると見込まれる場合には、金融政策スタンスを引き締めていく」と続けた。
同中銀は政策金利である1週間物レポ金利は42.5%を据え置いたが、翌日物金利は46%に引き上げた。これにより銀行が資金を調達する際の平均コストが押し上げられ、金融環境のさらなる引き締めにつながる。
エルドアン氏の主要な対立者候補であるイマモール・イスタンブール市長の拘束を受け、19日の金融市場でトルコ資産は売りを浴びた。ただ、政治的に混乱が見られても従来からの経済政策の転換にはつながらないとの見方から、20日には持ち直した兆候が示された。
ジェネラリ・インベストメンツの新興国市場ストラテジスト、ギヨーム・トレスカ氏は「これは中銀に対する信頼性の裏付けであり、前日の出来事は2023年から実施されている従来からの政策の変更というより、政治的なものだ」と述べた。
事情を直接知る中銀当局者がブルームバーグに語ったところによると、国内金融機関は19日に80億-90億ドル(約1兆2000億円-1兆3400億円)を売却し、リラ相場の変動を抑えた。H
●エマージング
中国国家統計局が20日発表した2月の16─24歳(学生を除く)の都市部若年失業率は16.9%と、1月の16.1%から上昇した。上昇は2カ月連続となった。
25─29歳の失業率も6.9%から7.3%へと上昇。30─59歳の失業率も4.0%から4.3%に上昇した。
統計局が17日に発表したデータによると、2月の全体の都市部失業率は5.4%に上昇し、2年ぶりの高水準だった。
若年失業率が23年6月に過去最高の21.3%を記録したのを受け、中国は若年層のデータ公表を中止。同年12月に学生を除外する方法に変更して公表を再開した。
失業率は、職探しを諦めた求職者を考慮しておらず、農村部の失業も含まれていない。
コンゴ民主共和国の大統領が米国のドナルド・トランプ大統領に秘密の取引を持ちかけていたことが分かった。米国のハイテク企業が必要としている鉱物と引き換えに、手ごわい反政府軍との戦いに支援を求める内容だ。
コンゴ民主共和国のフェリックス・チセケディ大統領は、トランプ氏宛ての2月8日付の書簡で、トランプ氏が立ち上げたばかりの政府系ファンドに採掘の機会を申し出た。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は書簡を確認した。
「あなたの(大統領)選出で、米国にとって黄金時代の幕が開けた」。チセケディ大統領は書簡の中でそう述べた。「両国の協力により、米国はコバルト、リチウム、銅、タンタルなどの重要鉱物をコンゴ民主共和国から確保し、戦略的優位を手に入れるだろう」
その見返りとしてチセケディ氏はトランプ氏に対し、反政府勢力「M23」の打倒を支援する「正式な安全保障協定」を求めた。隣国ルワンダの支援を受けているM23は最近、コンゴ政府軍や国連軍、民間の雇い兵を破り、鉱物資源が豊富なコンゴ東部の主要都市を制圧した。
チセケディ氏の書簡には、米国からどのような種類の軍事支援を望んでいるかは具体的に記されていなかった。ホワイトハウス当局者は、大統領への私信に関する詳細は明らかにしないと述べた。
チセケディ大統領は、トランプ氏に近いエリック・プリンス氏とも交渉している。プリンス氏は、かつてブラックウォーターとして知られた民間軍事会社を創設した人物だ。コンゴや西側の当局者によると、交渉が成立すれば、プリンス氏は採掘事業からの徴税を支援するという。
コンゴの大統領による提案は、トランプ氏の取引重視の外交姿勢と、米国のテクノロジー企業や自動車メーカーが使う天然資源の世界的な獲得競争の両方に乗じたものだ。チセケディ氏は書簡の中で、コンゴと手を組めば、航空宇宙、自動車、データセンター、人工知能(AI)の分野で米国の国際競争力が高まるとの見方を示した。
コルタンという鉱物から抽出されるタンタルと、コバルトは、スマートフォンやノートパソコンの重要な原料で、アップルやHP、インテルなどの米国企業が使用している。リチウムは電気自動車(EV)用電池の主要原料だ。米EV大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は昨年、リチウムを「新たな石油」と呼んだ。
チセケディ大統領の報道担当者は、トランプ氏宛ての書簡が本物であることを認め、コンゴの天然資源の利用を巡る協議が米国との間で行われていると述べた。「アップルやテスラなどの米国企業がコンゴ民主共和国の供給源から鉱物を直接購入し、全世界のためにコンゴの鉱物資源というエンジンを解き放つことは、両国の国益にかなう」
事情に詳しい関係者によれば、チセケディ氏の書簡は、非公式の仲介者――コンゴの採掘企業に助言する銀行関係者――がトランプ氏の事務所に送付し、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)に転送された。NSCはその後、仲介者に提案についての説明を求めたという。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場:**  
ドルが幅広く上昇。FRBは関税の不確実性を理由に、年内の追加利下げを急がない姿勢を示した。スイス中銀は政策金利を0.25%に引き下げ、スイスフランは対ドルで0.5%下落。ドル/円は148.79円、ポンド/ドルは0.3%安の1.29665ドル。  
**債券市場:**  
米国債利回りは低下。FRBの金利据え置き決定を受け、10年債利回りは4.237%、2年債利回りは3.959%となった。  
**株式市場:**  
小反落。関税懸念が続く中、S&P500は前日1%以上上昇したが、情報技術株が下落。一方、エネルギー株は、米国のイラン制裁による原油価格上昇を背景に堅調だった。  
**貴金属:**  
金先物は8営業日続伸し、史上最高値を更新。4月限は1オンス=3043.80ドル。  
**原油:**  
米国の対イラン制裁を受けた供給懸念で続伸。WTI原油4月限は1.64%高の68.26ドル。
ロンドン株式市場は反落し、FTSE100は0.05%安、FTSE250は0.12%下落した。イングランド銀行は政策金利を4.5%に据え置き、米国の関税政策による不確実性を指摘。FRBのパウエル議長は利下げを急がない姿勢を示した。銀行株指数は1.48%下落し、HSBCは2.2%安。航空宇宙・防衛株指数も1.84%下落した。  
欧州株式市場も5営業日ぶりに反落し、利益確定売りが見られた。スイス中銀は0.25%の利下げを実施し、欧州株はまちまちの動き。ECBのラガルド総裁は、米国の関税措置がユーロ圏成長を0.3~0.5%押し下げる可能性を指摘した。  
ユーロ圏債券市場では国債利回りが小幅低下。FRBと英中銀の金利据え置き決定を受け、英2年債利回りは4.257%、10年債利回りは4.642%となった。ドイツ10年債利回りは2.781%に低下。市場はECBの利下げを予想し、12月の預金金利は2%以上と見込まれている。

備忘録(2025/3/19
●海外企業決算
●海外企業
医薬品のギリアド・サイエンシズ<GILD>が下落。米保健社会福祉省(HHS)が米国内のHIV治療に対する連邦政府の助成金を削減する計画を検討していると報じられた。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が伝えた。
ただ、アナリストらは、このニュースは同社にとってネガティブなものだが、削減の可能性があっても、これらの医薬品へのアクセスには影響しない。そのため、それほど大きな打撃はないだろうと述べている。
計画は早ければ本日中にも発表される可能性があるが、まだ最終決定はされておらず、撤回または調整される可能性があるという。
【企業概要】
HIV・ウイルス性肝炎・新型コロナウイルス感染症・癌などの生命を脅かす病気の予防と治療のための革新的な医薬品の発見・開発に取り組むバイオ医薬品会社。HIV治療における初の単剤レジメン、COVID-19治療薬などのほか、B型・D型肝炎や炎症性腸疾患などの治療薬の開発を進める。
ドイツの産業機器・システム大手シーメンスは18日、ファクトリーオートメーション(FA)を手掛けるデジタル・インダストリーズ部門で5600人を削減すると発表した。
削減数は、同部門が全世界で雇用する従業員6万8000人の8%強に相当する。ドイツと中国の市場環境が低迷する中、シーメンスは生産能力を調整している。
削減規模は2017年以来最大で、このうち2600人はドイツ国内の従業員。
デジタル・インダストリーズ部門は最近までシーメンスの「宝」とされ、中でも制御装置や工場用ソフトウエアの利益率が高かった。
しかし、主に主要市場の中国とドイツにおける需要鈍化と、競争圧力の高まりが相まって、同部門の受注と売上高は過去2年間で大幅に減少した。
デジタル・インダストリーズ部門の直近四半期の利益は30%超減少していた。
ドイツの高級車メーカーは、米国の輸入関税発動に伴うコストの増加に対処するため、関税分の販売価格への転嫁や生産拠点の移転といった長期戦略を検討している。
フォルクスワーゲン(VW)傘下のアウディは18日、「関税の少なくとも一部を値上げの形で顧客へどの程度転嫁するか」を検討しており、値上げと生産調整の「最適な水準」を探っていると明らかにした。
アウディは現在、米国内に工場がなく、米国で最も売れ筋の車種「Q5」をメキシコで生産している。トランプ米大統領はメキシコも関税政策の対象としている。
同社は、米国市場向け主力車種の生産をどこで始めるかについて、今年内に発表する方針だ。
メルセデス・ベンツの生産責任者は、同社がメキシコの合弁事業で生産しているクロスオーバー「GLB」の米国への輸出を続けるかどうかについて、競合他社が米国での現地生産によって関税に対応するかどうかにも左右されると説明。米国の輸入関税の対象から外れている南アフリカからの輸入も、有力な選択肢だと付け加えた。
一方でBMWの経営陣は、米国の輸入関税を巡る不確実性がいつ解消されるのかを見極めようとしている。同社は米国のディーラーに対し、向こう数週間は関税に伴うコストを負担すると伝えている。
米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は19日、複雑な答えを導き出す新しい人工知能(AI)モデルは、演算インフラへの需要をさらに高めることにつながるとの考えを述べた。カリフォルニア州サンノゼで行われた同社の年次開発者会議「GTC」で発言した。
中国のAIスタートアップDeepSeek(ディープシーク)は今年初め、AIモデル「R1」を発表し、少ない費用で強力なテクノロジーを生産できると述べた。このため、将来的にこうしたモデルには半導体や強力なサーバーはさほど必要ではなくなるとの懸念が広がったが、フアン氏はこうした認識は誤りだったとしている。同氏は「R1に対する理解は完全に間違っていた。コンピューティングへの需要は非常に高い」と述べた。
エヌビディアの株価は19日のニューヨーク市場で一時2.4%上昇した。同社の株価は今年に入って14%下落していた。
同社は、AI技術による経済的な利益が目前に迫っているとして、さまざまな業界に対し、AI設備への投資についての説得を試みている。過去2年間の急速な成長により、エヌビディアは世界で最も市場価値の高い半導体メーカーとなったものの、今年はより多くの投資家の厳しい監視にさらされている。主な懸念は、同社の顧客がAIインフラへの支出を維持するかどうかだ。
エヌビディアの大きな顧客らは、AIモデルを巡る懸念が出た後も、支出計画を維持している。また、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)による今週の分析では、大規模なデータセンター運営者らによる支出は、実際には予想よりも速いペースで増加していることが分かった。
●日本企業
●先進国政治動向
トランプ米政権が政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」や「ラジオ自由アジア(RFA)」などの解体を進めていることについて、国内の議員や人権活動家から、中国が勢力圏を拡大する中、これまで米国が築き上げてきたソフトパワーが大きく揺らぐことになるとの批判が出ている。
VOAはナチスドイツの宣伝工作に対抗する目的で設立。40以上の言語でオンライン、ラジオ、テレビを通じて米国のニュースを配信してきた。連邦政府予算削減の一環で今月15日に職員1300人以上が休職扱いとなった。
また、ロシアやウクライナを含め東欧向けに放送を行う「ラジオ自由欧州・ラジオ自由(RFE・RL)」や、中国や北朝鮮などアジア向けの放送を行うRFAへの資金拠出も打ち切られた。
人権活動家は、VOAやRFAの多言語を話すレポーターが何十年にもわたって、中国など権威主義国による人権侵害を明るみに出し、ウイグル族など抑圧された少数民族の窮状を伝えてきたと主張。
米下院中国特別委員会のラジャ・クリシュナムルティ民主党筆頭委員もロイターに「この件を喜んでいるのは、世界中の敵対国や権威主義国だけだ。中国や北朝鮮のような報道の自由が存在しない国々では、特にそうだ」と述べた。
米下院東アジア・太平洋特別委員会のヤング・キム委員長(共和党)も、解体に向けた動きを批判。共和党のマイケル・マコール元下院外交委員長も、RFAの透明性の高い報道と中国共産党のプロパガンダへの対抗を称賛した。
中国共産党機関紙・人民日報傘下の「環球時報」は17日の社説でVOAの閉鎖を歓迎。VOAは「うその工場」だったと批判した。
カンボジアで長年にわたり強権的な体制を維持してきたフン・セン前首相も、政府系メディアを解体するトランプ氏を称賛。「フェイクニュース、デマ、うそ、歪曲、扇動、世界中の混乱を排除する大きな貢献」と述べた。同国では2017年にRFAの記者2人が逮捕され、スパイ罪で起訴されている。
一方、クーデターや報道規制、検閲に直面し米国の報道機関に頼ってきたミャンマー、ベトナム、カンボジア、ラオスの記者や活動家からは、米政府系メディアの解体を惜しむ声が出ている。
ミャンマーのジャーナリストのモン・モン・ミャット氏は「こうしたニュース番組は独裁政権下で暮らす人々に情報を提供するためにつくられた。番組を中止すれば、独裁政権や軍事政権の拡大を助けるだけだ」と語った。
ドナルド・トランプ大統領は自らの政策目標を追求するため、法律の限界に挑む姿勢をエスカレートさせた。17日にトランプ氏は前任者の恩赦を無効だと断言し、一方で政権メンバーは他の問題で裁判所の命令や連邦法の規定をはねつけた。

トランプ氏が2期目に見せる司法判断を意に介さぬ態度は、同氏の最優先課題の二つ、すなわち移民問題と政敵への報復行為で新たな高みに達した。連邦地裁が15日に差し止めの判断を下したにもかかわらず、トランプ政権は一歩も譲らずにベネズエラのギャングとされる数百人の強制送還を行った。ホワイトハウスは、強制送還対象者を乗せたフライトを米国に引き返させることは連邦地裁判事にはできないと反論した。
トランプ氏は18日、ソーシャルメディアへの投稿で「私は有権者が望んだことを実行しているだけだ」と述べ、当該判事の弾劾も要求した。
トランプ氏はこれとは別に、ジョー・バイデン前大統領が退任前に与えた自身の家族やトランプ氏の捜査を担当した当局者を守るための一連の予防的な恩赦を、無効にすると宣言した。
トランプ氏はソーシャルメディアへの投稿で、これらの恩赦がオートペン(自動署名機)で署名されたものであり、バイデン氏に適切な説明がなされなかったため「無効だ」と主張した。専門家によると、この策略は前例のないものであり、法的根拠がほとんどないという。
「私の決めることではない。裁判所が判断することだが、私に言わせれば無効だろう」とトランプ氏は記者団に語った。
行政権と司法権の衝突が、数週間以内に最高裁に持ち込まれるのはほぼ間違いなく、トランプ政権発足後の数カ月は将来、合衆国憲法の重大な分岐点に位置づけられるだろう。
親が永住権を持たなくても米国で生まれた子どもに市民権を付与する「出生地主義」を巡っては、この制度を廃止するトランプ氏の大統領令に対し、下級裁判所で差し止め命令が相次いでおり、米司法省は既にこれを認めるよう最高裁に申し立てた。これに反対する趣意書は来月までに提出される。
無党派の米国憲法センターのジェフリー・ローゼン所長は、トランプ氏が「行政権についてマキシマリストの立場を取り、行政権の性質を(1期目に取り組んだ時よりも)はるかに強固に変えようとしている」と指摘した。
現政権の行動は、トランプ氏が立法府と司法府による「チェック・アンド・バランス(抑制と均衡)」を重視せず、自身の権限の範囲をぎりぎりまで拡大するという非正統的な米国政府に関する考え方を映し出す。共和党が上下両院を支配しているため、連邦議会はトランプ氏の支持する法案を受け入れる可能性が高く、状況によってはホワイトハウスが一方的な行動を選択してきた。
トランプ氏の行動の一部は、連邦法で想定されていなかった。自身の政敵のために働いた特定の弁護士や法律事務所に制裁を加えるといったこともそうだ。
トランプ氏は14日、敵対的と考える弁護士らへの攻撃をエスカレートさせた。マーク・ポメランツ弁護士と彼が以前在籍した大手のポール・ワイス法律事務所に懲罰的措置を科す大統領令に署名した。「私への起訴をでっち上げるためだけに」ポメランツ氏がマンハッタン地区検事局に加わり、「彼の同僚らによると、倫理に反する手段で私を巻き込む方向に証人たちを誘導した」からだという。
トランプ氏は先週、首都ワシントンの連邦地裁判事から同様の大統領令を巡って非難を浴びた。それにもかかわらず、この大統領令に署名した。非難とは、2016年大統領選でヒラリー・クリントン陣営の代理人を務めた民主党に近いパーキンス・クイ法律事務所の権利を奪う内容の大統領令に対するものだ。ベリル・ハウエル判事はトランプ氏の大統領令の一部を差し止め、報復的である上、憲法の保護を侵害する可能性が高いと断じた。
それ以外にも、例えば理由なく委員会メンバーを解任するなど、議会を通過した法律を無視する行動が見られる。政権はそれらが今ある判例と一致しないことを認めている。彼らの目的は新たなテストケースを上級審まで持ち込むことだ。
別の分野の決定では、長年にわたる法律解釈を捨て去り、トランプ氏が好む解釈を適用している。憲法修正第14条に書かれた出生地主義の規定や、18世紀に制定された「敵性外国人法」がこれにあたる。敵性外国人法は歴史上3回、戦時中に発動されたのみだが、トランプ氏は先週、ギャング組織メンバーとされる移民の強制送還を迅速に行うためにこれを発動した。同法は米国に対し「侵略または略奪目的の襲撃」を試みる敵対国の国民の即時追放を可能にするものだ。
ワシントンの連邦地裁のジェームズ・ボースバーグ判事は先週末、強制送還を当面差し止める命令を出した。トランプ氏が法律を不適切に発動したとの法的主張を検討するためだ。17日の審理で、同判事はトランプ政権が裁判所に従っていないのではないかと疑義を表明し、司法省に強制送還のフライトについてより詳しい説明を、宣誓の下で書面にして提出するよう指示した。政府の弁護士に懲罰を与えるかどうかの判断材料になるという。
17日にFOXニュースが行ったインタビューで、トランプ政権の国境担当責任者トム・ホーマン氏は、同判事の差し止め命令が出た後にフライトを帰還させなかった政府の決定を擁護し、既に国境を越えていたと述べた。「やめるつもりはない」と彼は述べた。「判事たちがどう考えるか、左派がどう思うかを私は気にしない」
これは戦時中でさえ、米国の慣行から逸脱する行為だった。例えば2004年にジョージ・W・ブッシュ政権はグアンタナモ海軍基地での軍事委員会の手続きを差し止める連邦判事の命令に従った。国外で拘束された敵性外国人戦闘員に対して裁判所は管轄権を持たないと、ホワイトハウスが考えていたにもかかわらずだ。
移民弁護士らは、米政府が移民の退去を急ぐあまり、移民判事が審理する前に、信ぴょう性のある保護申請を求める人々を送還するなどの間違いを犯していると指摘する。
トランプ氏は恩赦に関するコメントで、バイデン氏に絶対的な法的保護を与えられた一部の人々、特に2021年1月6日のトランプ支持者による米議会議事堂襲撃事件を調査した下院委員会のメンバーとスタッフは「最高レベルの調査対象となる」と述べた。
バイデン氏は当時、恩赦を実施したのはトランプ氏の復讐(ふくしゅう)から守るためだと述べていた。裁判所は恩赦を絶対的な権限として扱っている。そして前任者が与えた寛大な措置を無効にしようとした大統領はこれまでにいなかった。
司法省はトランプ氏の発言についてコメントの求めに応じなかった。
●先進国中銀、金融当局
米連邦準備理事会(FRB)は18─19日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.25─4.50%に据え置くと決定した。
パウエルFRB議長がFOMC後に行った会見の内容は以下の通り。
*経済は好調
*労働市場の状況は堅調
*インフレは依然としてやや高い
*FRBはバランスシートの減少ペースを緩めるために技術的な決定を下した
*最近の兆候は消費者支出の鈍化を示唆している
*不確実性が見通しにどのような影響を与えるかはまだ分からない
*労働市場の状況は概ね均衡している
*労働市場はインフレ圧力の源ではない
*個人消費支出(PCE)価格指数は12月に2.5%上昇と予想
*コアPCE価格指数は2.8%上昇と予想
*インフレ期待は最近上昇、関税が要因
*長期的なインフレ期待は2%目標と一致する
*新政権は重要な政策変更を実施中、重要なのはその実質的な効果
*政策変更と経済効果を巡る不確実性は高い
*信号とノイズを分離することに焦点を当てる
*急ぐ必要はない。より明確な状況になるまで待つのが賢明だ
*今日の不確実性は異常に高まっており、政策は予定通りに進んでいない
*経済が好調を維持すれば、政策抑制をより長期間維持できる
*労働市場が弱まれば、必要に応じて緩和できる
*金融市場の引き締めが強まっている兆候が見られる
*関税によるインフレがどの程度になるかは分からない
*モノのインフレは上昇したが、それを関税引き上げまで遡って追跡するのは困難
*関税インフレの影響を見通すのが適切かどうか判断するのは時期尚早
*関税インフレが速やかに収束し、インフレ期待がしっかりと安定していることが条件
*基本シナリオには関税による政策シグナルはないが、それが何なのかは分からない
*長期的なインフレ期待はほぼ安定している
*インフレ期待を非常に注意深く見守る
*関税の影響もあり、インフレは上昇し始めている
*今年のインフレ鎮静化のさらなる進展は遅れる可能性あり
*調査データは不確実性と下振れリスクの大幅な高まりを示している
*調査データと実際の経済データの関係はそれほど密接ではない
*実データに弱さの兆候がないか注意深く見守る
*政策は良い方向にある
*より明確な答えが出るまで待つのが正しい。待つコストは非常に低い
*物価安定に近づいていた
*関税インフレの到来で鎮静化のさらなる進展は遅れる
*政策は必要な方向に動くことができる
*雇用率と解雇率はともに低い。解雇が大幅に増加すれば、すぐに失業につながる可能性が高い
*ここ2カ月のモノのインフレの強さが持続するなら、それは関税と関係があるに違いない。数カ月以内に分かるだろう
*インフレの急な動きが自然に消えるのであれば、金融引き締めは正しいことではない
*リアルタイムで判断するのは難しい。過去の事例とは状況も時期も違う
*FRBの目標を互いにバランスさせるのは困難だが、現状はそうではない
*景気後退見通しがいくらか高まっているが、高いわけではない
*米ミシガン大学調査でインフレ期待の高まり示唆、この数字は例外だが注目している
*今後数カ月から1年かけて明確化され、それに応じて政策を調整していくことになるだろう
*インフレの特定の部分が関税によって引き起こされたか、そうでなかったかの直接的な証拠を探している
*住宅サービスインフレの鎮静化は順調に推移しており、良い方向にある
*人々は物価上昇に不満を抱いている。それは間違いではない
*大まかに言えば、成長の鈍化とインフレの上昇が予測されている。それぞれ異なる対応が必要
*センチメントは落ち込んでいるが、経済は健全なようだ
*センチメントの低下は、政権による政策の大幅変更に一部関係している
*今年のコアインフレ率のFRB予測が横ばいとなっているのは関税によるところが大きい
*TGA(財務省一般口座)の流出入を受けバランスシート縮小について考えるようになった
*バランスシートの縮小を減速するには良い時期だった
*バランスシート縮小のペースを落とせば、削減はより緩やかに、期間は長くなる
*関税は成長を抑制し、インフレを押し上げる傾向がある
*短期的なインフレ期待の上昇を否定するわけではないが、長期的な期待の上昇については何も語っていない
*住宅ローン担保証券(MBS)の削減を段階的に縮小する計画はない、MBSがFRBのバランスシートから外れるのを強く望んでいる
*明らかに制約な金融政策スタンスを維持するか、利下げできる状況にある
*(5月に利下げの可能性があるかとの質問に対し)利下げに関して急ぐつもりはない
*FOMC声明からリスクについて「ほぼ均衡している」という文言を削除したことは特定のシグナルを伝えるものではない
*当局者はFRBの目標に対するリスク予想を広範に引き上げた
*1970年代の状況が再現されていると考える理由は見当たらない」
*インフレ率は関税による押し上げを伴いながらも、なお2%台で推移している
米連邦準備理事会(FRB)は18─19日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、市場の予想通り、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.25─4.50%に据え置いた。FRB当局者は年内2回の利下げ見通しを維持したものの、パウエルFRB議長は政策変更を「急いでいない」とし、トランプ政権が打ち出す一連の政策がさらに明確となるまで待つ姿勢を鮮明にした。
パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見で、不確実性が「異常なほど高まっている」と指摘した上で、「われわれは行動を急ぐつもりはない」と述べた。
現在の金融政策スタンスは「われわれが直面しているリスクと不確実性に対処する上で十分」とし、「状況がより明確となるまで待つ」ことが現時点で適切だと述べた。経済は堅調で、労働市場の状況は均衡していることにも言及した。
また、トランプ大統領の関税の影響が一因となり、インフレが上昇し始めているとし、インフレ抑制に向けた「進展が年内鈍る可能性がある」とした。
最近のインフレと消費の高まりが関税と関連する可能性は高く、関税発動前に商品を購入する動きによって押し上げられた可能性があるという認識を示した。
同時に、米関税がインフレに与える影響を精査すべきかどうかを判断するのは時期尚早で、物価上昇のどの程度が関税に起因するのかを判断するのは難しいと述べた。
パウエル氏は、すでに発動されている関税措置がどの程度、消費者物価に反映されるかや、これらの関税あるいは他国の報復措置がより持続的な物価上昇圧力を引き起こしているかどうか、さらに最も重要な点として、これら全てが家庭や企業のインフレ期待に影響を与え始めているかどうかを見極めるため、今後数カ月の状況を注視していくと述べた。
トランプ政権発足後の数週間でインフレ期待の指標の一部は上昇したものの、FRBが政策目標を達成する上で最も重要と見なす長期的な指標は「あまり動いていない」と語った。
FRBは成長の鈍化が失業率の上昇につながるかどうかも注視しており、パウエル氏は、インフレがより持続的と判明した場合の政策引き締め、失業率が上昇し始めた場合の政策緩和というどちらも場合にもFRBは行動する用意があると改めて強調した。
現時点でFRBの2つの責務は衝突しておらず、今後の金利決定にある程度の余地があると述べた。
パウエル議長はまた、ミシガン大消費者信頼感データを注視していると述べた。3月速報値では、消費者の5年先の期待インフレ率は関税を巡る懸念などから1993年以来の水準に急上昇した。
消費者心理の急激な悪化の一部は政治情勢の大きな変化を反映している可能性があるとしつつも、「経済に対する根本的な不満は物価水準によるところが大きい」という認識を示した。
FRBはまた、「量的引き締め(QT)」であるバランスシートの縮小ペースを4月から減速させる方針を示した。ウォラー理事は金利据え置きは支持したものの、バランスシート縮小ペースの減速には反対した。
<成長鈍化、物価上振れ見通し>
声明ではトランプ大統領が打ち出す関税について直接言及していないものの、同日公表された最新の経済・金利見通しでは関税による影響をにらみ、2025年の個人消費支出(PCE)価格指数見通しを2.7%と、前回12月時点の2.5%から上方修正した。同時に成長率見通しは前回の2.1%から1.7%に引き下げた。
政策金利については、当局者19人中9人が、25年末時点で3.75─4.00%の範囲になると予想した。年内1回の利下げが適切だとした当局者と、利下げすべきでないとした当局者はそれぞれ4人。2人は3回の利下げが適切との認識を示した。
FRB当局者はリスクが高まる中、年内の見通しは不透明という見解でおおむね一致。声明は「見通しを巡る不確実性は強まっている」とした。
インフレーション・インサイツのオマール・シャリフ氏は、FRBがトランプ政権による「経済政策の変化」を把握しようと苦難していると指摘。最新の経済見通しは「不確実性の高まり」を顕著に浮き彫りにしていると述べた。
LSEGによると、市場が織り込む年内の利下げ幅予想は0.5%強。6月利下げの確率は62.1%で、FOMC声明発表前の57%から上昇した。
日銀の植田和男総裁は19日、金融政策決定会合後の会見で、利上げを決めた1月会合時に比べて国内の賃金や物価は「やや強め」だが、世界経済の不確実性は増していると指摘した。政策判断に当たっては、国内・海外双方のバランスを見極めて行う考えを示した。
日銀はこの日、金融政策の現状維持を全員一致で決めた。声明文では、トランプ米政権の関税政策と各国の対抗措置が海外の経済・物価に及ぼす影響などをリスク要因に挙げ、日本の経済・物価を巡る不確実性は「引き続き高い」と指摘した
植田総裁は会見で「現在の実質金利は極めて低い水準にある」との認識を示し、今後も日銀の経済・物価見通しが実現していけば、政策金利を引き上げて金融緩和度合いを調整していくと改めて述べた。
米政権が4月2日に発動する方針を示している相互関税を念頭に「4月初めに一定のところが出てくるかもしれないので、次回会合や展望リポートの中では消化できる」と指摘。その上で、経済・物価がどういった姿になるかはかなり先にならないとわからないとしつつも「政策がどう動くかなど、マインドの変化はある程度早めにわかる部分もある」話し、「手遅れにならないように配慮して進めていきたい」と述べた。
米国の関税政策がもたらすマインド面への影響については、日本の家計や企業マインドへの影響は4月初めに発表される政策の影響が大きいが、米国ではすでに消費者マインドに影響が出てきており「4月時点で非連続的に話が変わるわけでは必ずしもない」との見方を示した。
トランプ米大統領の円安批判についてはコメントを控えた。
<食料品の価格高騰、基調物価に「影響及ぼし得る」>
植田総裁は、足元の強い物価の伸びが「国民生活にマイナスの影響を与えていることは十分に認識している」と指摘。「コメを含む食料品などの価格上昇が、家計のマインドや予想物価上昇率の変化を通じて基調的な物価上昇率に影響を及ぼし得る点は認識しておく必要がある」と語った。総裁によると、決定会合で一部の委員から物価上振れリスクに注意したい旨の発言があったという。
基調的な物価上昇率については「徐々に高まってきているが、なお2%下回っているとの認識に変わりはない」とした。
連合が14日に発表した春闘の1次集計の賃上げ率は加重平均で5.46%と、1991年以来34年ぶりの高水準となった。植田総裁はこの結果について「1月会合時点の想定におおむね沿ったもの」と評価。中小企業の動向も含めて丁寧に確認していく必要があるとの認識を示した。
<長期金利、引き続き動向を注視>
足元の長期金利の上昇傾向については、最近のインフレや実質国内総生産(GDP)のデータ、直近の賃金に関する動き、ドイツの金利上昇などに反応しているというのが市場での見方と理解している、と語った。
長期金利は市場で形成されるものだが、通常の価格形成と異なる形で急上昇する例外的な場合には機動的なオペを実施することもあり得ると改めて述べ、「現状はそうした状況ではない」としつつ引き続き市場動向を注視していきたいとした。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
欧州連合(EU)欧州委員会のセジュルネ副委員長(産業戦略担当)は19日、鉄鋼の貿易制限措置を厳格化し、現行のセーフガードの対象となる輸入割当量を4月から減らすことで、流入量を15%程度抑える方針だと明らかにした。
欧州委は同日、新たな欧州鉄鋼・金属行動計画の一環として、一連の貿易関連措置を提案。トランプ米政権が鉄鋼、アルミニウムに25%の関税措置を発動したことを受け、安価な鉄鋼製品が欧州市場にあふれるのを防ぐのが狙い。
欧州委は、世界貿易機関(WTO)の規定上、2026年6月末に期限を迎える現行のセーフガードに代わる新たな措置を25年9月末までに策定する予定だ。今週ロイターが確認した計画草案によると、EUはアルミニウム生産者とも協議し、セーフガードのための迅速な調査を開始するかどうかを検討することが示されている。
セジュルネ氏はロイターに「WTOのルールが尊重されず、誰もが国家安全保障に言及している時に、EUだけが産業を崩壊させる大陸であってはならない」と強調した。業界からの要望を踏まえ、新たな措置ははるかに厳格なものになるとも述べた。ウクライナを巡る戦闘終結後を見据え、欧州が防衛力強化を目指す上で欠かせない鉄鋼製品を輸入には依存できないとの考えも示した。
セジュルネ氏は、米政権による25%の関税措置を背景に、カナダやインド、中国の鉄鋼メーカーから欧州市場への流入が増えると予想している。欧州の鉄鋼大手ティッセンクルップ(TKAG.DE), opens new tabのトップも19日、米国は2024年に約2300万トンの鉄鋼を輸入しており、トランプ政権の関税強化を受けて代替地として欧州など他の市場に向かうとの見方を示した。
米財務省が19日発表した2025年1月の対米証券投資統計によると、海外勢の米国債保有額は8兆5260億ドルで、前月から変わらずとなった。前年比では7.2%増加した。米国債需要が依然として健在であることを示唆している。
日本は引き続き米国以外で最大の国債保有国であり、1月の保有額は1兆0790億ドルと12月から約200億ドル増加した。
中国の国債保有高も12月の7590億ドルから1月には7608億ドルに増加した。
以前は転職して損はなかったが、今はそうではない。
最新の連邦政府のデータによると、同じ仕事にとどまった人と転職した人の賃金の差がこの10年で最も小さくなった。
1月と2月の賃金上昇率は、同じ仕事にとどまった人が約4.6%、転職者はそれをわずかに上回る4.8%だった。転職者の賃金上昇率が平均7.7%、非転職者が5.5%だった2023年の初め以降、その差は大幅に縮小している。
「米国がリセッション(景気後退)入りしていないことは明らかだが、以前ほど状況はよくない」。セントルイス・ワシントン大学のヨンソク・シン経済学教授はこう話す。「人々は同じ仕事にとどまることで対応している」
キース・シムズさんはインディアナポリスで人材あっせん会社インテグリティ・リソース・マネジメントを経営し、パナソニックなど大手企業のソフトウエア実装に5~40人のチームをあっせんしている。最近の求人の多くは提示される賃金が安い。
「大抵、賃金は予想から乖離(かいり)している」とシムズさんは言う。
年間約150万~600万円少ない提示
少し前まで労働者が転職して大幅昇給を容易に手に入れていたテクノロジー業界でさえ、今の仕事にとどまる人が増えている。
テクノロジー業界が大幅昇給をけん引したコロナ禍に賃金を交渉した労働者、特に高成長のハイテク企業で賃金交渉を経験した人は、今以上の賃金で新たな仕事は見つかりそうにない。
「こうした人たちにとっては、新しい仕事を探す誘因はほとんどない」。給与データを提供するプラットフォーム、レベルズ.fyiの共同創業者、ズハイヤ・ムーサ氏はこう指摘する。
レベルズ.fyiのデータによると、2024年後半はソフトウエアエンジニア、プロダクトデザイナー、テクニカルプログラムマネジャーなど一部の仕事で賃金の中央値が1~2%減少した。賃金が上昇したのは、ハードウエアエンジニアやデータサイエンティストなど需要が高い一部の職種にとどまった。
「この市場には、AI(人工知能)分野にいるかいないかという二つの側面がある」とムーサ氏は言う。
米国の幹部職やホワイトカラー労働者の報酬情報を追跡する人材派遣会社バーチ・ワークスのマイケル・バッツ最高経営責任者(CEO)によると、テクノロジー業界の上中級レベルのリーダー職の賃金減が最も著しく、減少幅は年間で1万~4万ドル(約150万~600万円)になるという。
AI分野でも、企業はリーダー職より実務者の採用に力を入れており、機械学習チームの統括マネジャーの報酬は年間で1万~2万ドル減少している。
交渉の余地なし
キム・バンドリラさん(42)は大手消費者ブランドでクリエーティブディレクターとして働いていたが、昨秋に解雇された。当時は20万ドル以上を稼いでいた。しかし就職活動をしてみると、同じ仕事が14万~16万ドルで募集されている。
「しかもこれが上限だ」とバンドリラさんは言う。「私が初めてクリエーティブディレクターの仕事に就いたときの給料は17万5000ドルだった。2017年の話だ」
ジョシュ・ボーゲルさんは昨年10月に解雇されたとき、ゴルフシミュレーターを製造する会社のカスタマーサクセス担当ディレクターだった。職探しに5カ月を費やし、AIを使って応募欄にデータを入力し、2500の仕事に応募した。ボーゲルさんは面接を受ける中で、求められる条件を全て満たすいわゆる完璧な候補を企業が探しているらしいことに気が付いた。
「コロナ禍の最中はキャリアが急成長するのを何度も経験した」とボーゲルさんは言う。「それが軌道修正されているようだ」
賃金交渉の余地もなくなった。求人広告に10万ドルと出ていたら、それが支払われる賃金だ。ボーゲルさんは最近、福利厚生テクノロジー企業のカスタマーサクセスマネジャーの仕事を受け入れた。年収は12万ドルで、以前の仕事より5万ドル少ない。以前の仕事で支払われていた年間ボーナスを考慮すると、報酬の合計はさらに少なくなる。
「どこも以前のような賃金は払っていない」とボーゲルさんは言う。「自分がその仕事を断っても、会社がすぐに電話をかけられる人が自分の後ろに50人いる」
「状況は急変することがある」
高給の仕事がさらに減り、解雇が続く中で退職者が減少している。連邦政府のデータによると、2024年に退職した米国の労働者の数は20年以降で最も少なく、今年はさらに減ると予想するエコノミストもいる。
「解雇がまだ続いている。企業が後任の給与に多額の予算を投入するか分からない」。組織コンサルティング会社コーン・フェリーのシニアバイスプレジデント、デービッド・エリス氏はこう話す。
一方、同じ職場で仕事が変わっても、結局は「ドライプロモーション」――肩書が上がって責任は増えても、それに見合う昇給はない昇進――に終わるケースが多い。企業が昇給のための予算を減らしているからだ。企業に助言を行うウィリス・タワーズワトソンによると、同じ仕事にとどまる労働者の今年の平均予想昇給率は3.7%で、昨年の4%、2023年の4.4%を下回っている。
明るい業界もある。金融だ。幹部人材をスカウトするポール・ソーベラ氏がこの半年に扱った上級レベルの求職者のほとんどは、転職時に以前よりも高い給与を獲得することができた。
「一部の銀行は過去最高の業績を達成した。非常に好調だ」。幹部人材あっせん会社アライアンス・コンサルティングの社長を務めるソーベラ氏はこう話した。「銀行はもうけているときは金を使う」
金融業界で経験5年以上の求職者については積極的な採用が行われ、大手銀行の間で健全な競争が起きているという。それでも「ウォール街では、こうした状況が急変することがある」とソーベラ氏は警告した。
米国株がこの数週間に調整局面入りしたことは、景気後退の兆候どころではない。景気後退を引き起こす可能性すらある。
米株式相場は昨年11月の米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利を歓迎したが、足元では安値に沈む。トランプ政権が仕掛ける攻撃的で変化の速い関税戦争が米経済のソフトランディング(軟着陸)を台無しにしかねないとの懸念が広がっているためだ。S&P500種指数は13日、2月の高値から10%超下落して取引を終え、調整局面入りの基準を満たした。14日には下落分の一部を取り戻した。
すでにムードは暗くなっているが、株安は、より多くの二次的被害をもたらす連鎖反応の始まりに過ぎないかもしれない。ハーバード大学の経済学者、ガブリエル・チョドローライシュ氏の推計によると、2025年の株価が20%下落した場合、他の条件が同じなら今年の米経済成長率を最大1ポイント押し下げる可能性がある。S&P500種指数は14日の終値時点で年初来4.1%安だった。
株安は、近年の米国の繁栄を支える二つの主要なエンジン(活発な家計支出と企業の設備投資)の「燃料」を奪う可能性がある。
英資産運用会社ラッファーのアレックス・チャーターズ氏は「米国のような超金融化された経済では、資産価格が経済を左右することもあり得る。その逆の流れだけではない」と語る。「資産市場が下落すれば、実体経済の状況を悪化させかねない」
S&P500種指数は23年と24年の2年間で53%上昇した。米経済の強さを反映するとともに、それを支えた。住宅の値上がりに加え、株高によってさらなる資金を手にした米富裕層は、それを大量消費に振り向けた。格付け会社ムーディーズによると、米国では現在、所得上位10%が全支出に占める割合は約50%で、30年前の36%から上昇している。
米連邦準備制度理事会(FRB)の最近の調査によると、所得上位10%世帯の株式保有額は、22年時点で平均210万ドル程度だった。純資産に占める割合は約32%で、10年の約26%から上昇した。この上位10%の所得層は過去4年間で支出を58%増やしている。
株式に資金を投じているのは富裕層だけではない。資産運用大手のバンガードとフィデリティは、賃金労働者の確定拠出年金(401k)プランへの加入と拠出が記録的な水準にあると報告している。FRBの統計によると、米家計の金融資産に株式が占める割合は昨年末時点で43%と、過去最高を記録した。多くの低所得世帯は株式を所有していないが、所有する割合は上昇し続けている。
そのため一部のエコノミストは、大幅な株安となれば、米国民はあらゆる出費を抑え、旅費から衣服代まで切り詰める可能性があると懸念している。これは逆資産効果と呼ばれるものだ。ドイツ銀行のエコノミストの推計によると、昨年の株価が上昇ではなく単に横ばいで終わっていれば、消費支出の伸びは「2%程度」にとどまり、株高による資産効果などがあった「3%」には届かなかったとみられる。
支出がすでに低迷している兆しもある。デルタ航空、スポーツ用品小売り大手フットロッカー、ウイスキー「ジャックダニエル」で知られる酒類大手ブラウンフォーマンなどの企業からは、消費者がより慎重になっているようだとの声が相次ぐ。1月の米小売売上高は前月比0.9%減と、23年以来の大幅な落ち込みとなった。もっとも、その原因は例年以上の寒さにあったと指摘するエコノミストもいる。
ミシガン大学が14日発表した3月の消費者信頼感指数は22年11月以来の低さとなった。その一因は、個人の財務状況や株式市場に対する期待が低下したことにある。
退職時の資産額について大まかな目標を設定している人は多い。そのため、株安によってその目標達成が難しくなれば、消費者は支出を抑えて、その差を埋めようとする可能性がある。ドイツ銀行の米国担当チーフエコノミスト、マシュー・ルゼッティ氏はそう話す。
ルゼッティ氏は、米経済が非常にダイナミックであるため予測は難しいと断った上で、他の条件がほぼ同じなら、20%の株安は25年の消費支出を1.2ポイント押し下げる可能性があると述べた。消費は米国内総生産(GDP)の約70%を占めるため、これは成長率を約0.8ポイント押し下げる計算になる。ハーバード大のチョドローライシュ氏はルゼッティ氏と異なる手法を採用したが、結果は同様だった。 経済的な苦痛は企業の対応によって増幅される可能性がある。最高経営責任者(CEO)たちは、採用や投資に関する決定を下す際に自社の株価動向をひどく気にすることで有名だ。22年にナスダック総合指数が3割超下落した後、ハイテク企業は人員削減と支出抑制を急いだ。
独立系エコノミストのフィル・サットル氏は、ナスダック総合指数が高値から10%超下落したことを受け、それに動揺した各社の経営陣が、AI(人工知能)関連投資に今後数年間で1兆ドル(約150兆円)を費やす計画から撤退しかねないと懸念している。
サットル氏は「株価は経営陣に『AIに1000億ドル投資するごとに時価総額が何倍かになる』と告げていた」と述べた。そうした流れが停滞し、データセンターや発電所などの新規プロジェクトが中止される可能性があるという。
人々が資産の増加にどのような反応を示すかは、状況次第で異なる。チョドローライシュ氏によると、家計が臨時収入(景気対策の現金給付や宝くじの賞金など)を得た場合は、かなりの割合をすぐに使ってしまう。株式投資で得た利益については、消費に回す割合がもっと小さい。チョドローライシュ氏が同僚2人と21年に行った研究によると、平均的には株式市場の資産が1ドル変化すると家計支出に約0.03ドルの影響を与える。
FRBの統計によると、米家計は昨年末時点で56兆ドル超の株式を(直接、あるいは投資信託などの商品を通じて)保有していたため、「ちりも積もれば山となる」だ。
経済学者のシドニー・ルドビグソン氏とマーティン・レタウ氏は2000年代初頭に資産効果を研究し、着実な株高は時間とともに支出を押し上げるが、人々は通常、市場の短期的な変動に過剰反応しないと結論付けた。
ルドビグソン氏はインタビューで、株価の大きな動きが持続的なものであることが明らかになり、個人消費の方向性を実際に変えることが時折あると述べた。経済学者にとっての課題は、どの上昇・下落が持続的なものになるかは後からになってしか分からないことだという。
●中東情勢
銀行関係者の推計によると、トルコ中央銀行は19日、通貨トルコリラが12%以上下落したことを受け、過去最大規模となる外貨売却を行った。
銀行関係者らは、中銀が少なくとも50億ドル相当の外貨を売却したと述べている。一部では100億ドルに達したとの見方もある。
中銀は為替市場に直接介入していないが、公的銀行を通じた取引は、外貨売却が記録的な水準に達していることを示しているという。
19日の取引でトルコ資産が急落した。エルドアン大統領の主要な対立者候補であるイマモール・イスタンブール市長が同日午前に拘束され、同国の最近の投資家寄りの経済政策が後退するのではないかという懸念が高まった。
拘束が伝わると、トルコの通貨、債券、株式のいずれも売られる「トリプル安」に見舞われた。2年前の入閣時に市場に好感されたシムシェキ財務相は「これまでに導入を進めてきた経済政策は断固として継続する」とX(旧ツイッター)に投稿し、投資家を落ち着かせようとしたが、それでも売りは収まらなかった。
イスタンブール証券取引所の株式取引は2回にわたりサーキットブレーカーが発動され、代表的な株価指数であるイスタンブール100種指数は8.7%安と、1日の下落率として4年ぶりの大きさを記録。ニューヨーク市場ではiシェアーズMSCIトルコETFが12%下げている。
リラ建ての10年物トルコ国債利回りは255ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)急騰し、30.74%に達した。
リラは対ドルで一時11%安まで売られ、過去最安値を更新したが、イスタンブール時間19日午後8時55分時点では3.2%安まで下げを縮小。事情を直接知る中央銀行当局者がブルームバーグに語ったところによると、国内金融機関が80億-90億ドル(約1兆2000億円-1兆3500億円)を売却し、リラ相場の変動を抑えたという。
取り扱いに注意を要する問題だとして匿名を要請した当局者は、「為替市場の動向を注視し、必要と判断した場合には変動に対して介入する」と述べた。
今回の政治危機の深刻さを考えると、相場下落は多くが想定するよりも長引く恐れもあると、インタッチ・キャピタルのストラテジスト、ベルント・ベルク氏は指摘。
「トルコ発のニュースは衝撃的だった。エルドアン大統領が方針を転換しない限り、トルコ資産への激しい売りは数カ月続くだろうと思う」とベルク氏は予想し、「自分には既視感がある。過去10年の間に、トルコ国内の悪材料をきっかけに相場下落が長く続く同様の期間が何度かあった」と語った。
最も人気のある政治家
最大都市イスタンブールの市長で、トルコの政治家として最も支持されているイマモール氏は自宅で拘束された。トルコ資産への投資には不確実性が伴うことがあらためて印象づけられた。
マネックス・ヨーロッパのマクロリサーチ責任者、ニック・リース氏は「これはシステムにとって少々ショックだ。少なくとも最近では、経済であれ政治であれ、より安定に向かう傾向があった」とトルコについて述べた。
「しかし、野党の政治指導者の大量逮捕はその傾向に逆行するものだ。市場はどんどん楽観的になっていたが、魔法が解け、トルコの政治リスクプレミアムがトレーダーによって再評価されたことで劇的な結果になった」と続けた。
トルコ当局は野党関係者に対する取り締まりを拡大させており、不正行為、収賄、犯罪組織運営などの容疑で拘束された人は100人以上に上る。反対派に対する強権的な手法を強めるエルドアン氏は、憲法上の制限である2期10年を満了してなお3期目に出馬するためには議会の支持基盤を広げる必要もある。
エルドアン氏は「選挙手続きと自身の任期期限を常に尊重すると言ってきた。だが、今週の展開はそれに根本的な疑問を投げ掛ける」と、アンブロジア・キャピタルの債券アナリスト、リチャード・シーガル氏は指摘。「それを踏まえると、市場の地合い悪化が続いているというよりも、水準訂正が進行している公算が大きい。従来型の経済政策が維持されるべきだ」と語った。
前日にはイマモール氏(54)の大学の学位が取り消され、次期大統領選で現職のエルドアン大統領に挑戦することができなくなる恐れが浮上した。
昨年のイスタンブール市長選では、エルドアン氏が推す候補を破っており、23日には主要野党・共和人民党(CHP)の次期大統領候補に指名される方向にもなっていた。
イマモール氏は自宅で治安部隊の捜索を受けたとし、当局が政治目的で警察を利用していると非難した。自身のチームによって共有されたボイスメッセージで明らかにした。
イスタンブール知事府はデモや抗議活動を4日間禁止し、イマモール氏が連行される可能性が高い警察署周辺の複数の道路を閉鎖した。この制限により、22日に予定されていた野党の集会が実施されるかどうかは疑わしい。イマモール氏はそこで大統領選出馬の足場を固める予定だった。
次期大統領選は2028年に予定されている。エルドアン氏が議会の十分な支持を得て憲法を改正することが必要で、同氏自身は3期目を目指す考えはないと繰り返し表明してきた。だが、与党議員ら支持者らは、同氏が大統領を続けるべきだと主張している。
トルコの検察当局は19日、エルドアン大統領の最大の政敵であるイマモール・イスタンブール市長を汚職やテロ組織への資金提供などの容疑で拘束した。
主要野党の共和人民党(CHP)は20年以上にわたり権力の座に就くエルドアン氏への対抗馬として、イマモール氏を次期大統領選候補に近く選ぶ予定だった。CHPは「次期大統領へのクーデター」だと反発している。
ニュースを受けてトルコリラは12%急落し、対ドルで過去最安値を付けた。
イスタンブール市長を2期務めるイマモール氏を巡っては、犯罪組織への関与、贈収賄、入札不正などの容疑で2つの捜査が行われていた。同氏はXで公開した動画で、圧力に屈することなく諦めないと述べた。
イスタンブール検察は声明で、市当局の入札に絡む犯罪に関与した容疑者がジャーナリストや実業家など計100人に上ると発表。また別の捜査で、イマモール氏とその他6人がトルコと西側同盟国にテロ組織と指定される武装組織クルド労働者党(PKK)への支援容疑で起訴されたと発表した。
イスタンブール大学は18日、イマモール氏の学位を不正行為を理由に抹消したと発表。トルコでは大学の学位がなければ大統領選に立候補できない。
<一部世論調査でエルドアン氏をリード>
イマモール氏は54歳。イスタンブール市長として人気が高く、一部の世論調査では支持率でエルドアン氏をリードしている。
同国では野党関係者に対する法的な取り締まりが全土で強化されており、野党を封じ込める政治的な意図があるとの批判が出ている。
エルドアン政権は裁判所への政治的圧力を否定し、司法は独立していると主張している。 もっと見る
エルドアン大統領は現在2期目。次回の大統領選は2028年に行われるが、3選は禁止されている。エルドアン氏が出馬を望む場合は、大統領選を前倒しして2期目の任期を全うしていないと主張するか、憲法を改正する必要がある。
エルドアン氏率いる国政与党は昨年、CHPが主要都市を席巻した統一地方選挙で惨敗を喫した。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、イマモール市長に対する容疑は「政治的な動機によるでっち上げ」だとして、即時釈放を求めた。
●エマージング
ドナルド・トランプ米大統領は19日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談で、米国がウクライナ国内の複数の発電所(原子力施設を含む)を所有することを提案し、「インフラの最善の保護措置になる」と説明した。米国は近く停戦協議を再開する見込みだ。
トランプ氏の提案は和平努力に新たな展開をもたらすものだ。ウクライナの数千億ドル相当のレアアース(希土類)鉱物資源の権益を米国に譲渡する協定は、まだ署名にこぎ着けていない。
トランプ氏は、ロシア政府とウクライナ政府の広範な和平合意の仲介に取り組んでいる。両国は今週、エネルギーインフラ施設を保護する部分停戦に合意した。
18日に行われた米ロ首脳の電話会談で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はエネルギーインフラへの攻撃を30日間停止することに同意した。だが、それからわずか数時間後、ロシアとウクライナは双方がエネルギー施設や石油施設を攻撃したと非難し合い、部分停戦は厳しいスタートを切った。
ホワイトハウスによると、ゼレンスキー氏も発電所やエネルギー施設を攻撃しない部分停戦に同意した。米政権が公表した電話会談の声明によると、両首脳は「ウクライナの電力供給と原子力発電所」について協議した。
「米国は電力・公益事業の専門知識を有しており、これらの発電所の運営に非常に役立つ可能性がある。米国が発電所を所有することは、ウクライナのエネルギーインフラを保護し、支援する最善の措置となる」と記した。
ゼレンスキー氏は19日、発電施設への投資の可能性を巡るトランプ氏との協議は、ロシア軍に占拠されて稼働停止中のザポロジエ原発についてだったと述べた。トランプ氏は米国が投資して改修することは可能かと尋ね、ゼレンスキー氏はその考えに反対ではないと答えたという。
米国は数日以内にサウジアラビアで停戦協議を再開する予定だ。
トランプ氏は19日、ソーシャルメディアへの投稿で、ゼレンスキー氏と「非常に良好な電話協議」を行ったと書き込んだ。
ゼレンスキー氏もソーシャルメディアへの投稿で、トランプ氏との電話会談を前向きに評価した。ウクライナはインフラ施設を対象とする停戦を直ちに実施する用意があり、より広範な停戦に向けて進展することを望んでいると述べた。
「米国と一緒に、トランプ大統領と共に、そして米国のリーダーシップの下で、恒久的な和平を年内に達成できる」とし、「ウクライナ国民は平和を望んでいる」と記した。
これに先立ち、ゼレンスキー氏は19日午前、ロシアが前夜にドローン(無人機)145機、巡航ミサイル4発、弾道ミサイル2発を発射したと明らかにしていた。ウクライナの病院2カ所や「エネルギーインフラなどが標的」になったという。
その上で「プーチンの言葉は現実と食い違っている」と断じていた。
一方、ロシア国防省は、ウクライナが夜間にロシア南部クラスノダール州の石油インフラを攻撃したと発表。ロシア国営通信社の報道によると、大統領府はこの攻撃が米ロ首脳による和平への取り組みを損なうものだとの見方を示した。
ロシア大統領府とウクライナ国防省はいずれも、コメントの要請に応じていない。
トランプ氏はゼレンスキー氏との19日の電話会談で、ウクライナの民間人保護のため、米国製の防空システムの供与を求めるゼレンスキー氏の要請に応えるよう努めると約束した。 国務省が公表した電話会談の要旨によると、「トランプ大統領は、特に欧州で使用可能なものを見つける方向で協力することに同意した」。
トランプ米大統領は19日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行った。両首脳は約1時間の協議で、ロシアとウクライナの紛争終結に向けて協力することで合意した。
また、ホワイトハウスの声明によると、トランプ大統領はウクライナの原子力発電所の運営を支援し、場合によっては米国が所有する可能性を示唆した。
ロシア軍が占拠するウクライナ南部のザポロジェ原子力発電所に言及しているとみられる。
トランプ大統領とゼレンスキー大統領の協議は、2月29日のホワイトハウスで激しい口論となった直接会談以来初めて。
トランプ氏は自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」に「ゼレンスキー氏との非常に良い電話会談を終えた。われわれは順調に進んでいる」と投稿。「議論の多くは、ロシアとウクライナの要求とニーズを一致させるために、昨日プーチン大統領と行った電話会談に基づいていた」とした。
ホワイトハウスによると、トランプ大統領はゼレンスキー大統領に対し、プーチン大統領との電話会談の概要を説明。ゼレンスキー大統領はトランプ大統領に米国の支援に謝意を示した上で、ロシアの攻撃から民間人を守るために追加的な防空支援を要請。トランプ大統領はこれに対し、欧州で防空関連の装備を確保することに協力すると伝えた。
ゼレンスキー大統領は、トランプ大統領と「非常に実質的かつ率直な」電話会談を行い、ウクライナはロシアのエネルギーインフラへの攻撃を停止する用意があることを確認したと述べた。ウクライナの防空強化の可能性についても話し合ったという。 ゼレンスキー氏は「われわれはお互いのチームに対し、部分的停戦の実施と拡大に関連する技術的問題を解決するよう指示した。ウクライナと米国のチームは今後数日中にサウジアラビアで会合し、和平に向けた調整を継続する用意がある」とした。 また、戦況やロシアの攻撃の影響についてトランプ氏に報告したという。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
- **為替市場:**  
  - ドルはユーロに対して上昇幅を縮小。  
  - 米連邦公開市場委員会(FOMC)は金利を据え置き、年内後半に25bpの利下げを2回実施する可能性を示唆。  
  - ドル/円は148.85円(0.3%下落)、ユーロ/ドルは1.0912ドル(0.3%下落)。  
  - トルコリラはイスタンブール市長の汚職容疑による拘束報道を受け、対ドルで一時12%下落。  
- **債券市場:**  
  - 米10年国債利回りは4.252%(2.9bp低下)、2年債利回りは3.983%(5.9bp低下)。  
  - FRBは利下げ予測を維持するも、一部政策担当者は利下げ回数減少を示唆。  
- **株式市場:**  
  - FRBの金利据え置き決定後、米株式市場は反発。S&P500構成の全11業種が上昇。  
  - ボーイングが6.84%上昇、ゼネラル・ミルズが2.05%下落。  
- **コモディティ:**  
  - 金先物は7営業日続伸し、史上最高値を更新(1オンス=3041.20ドル)。  
  - 原油先物はガソリン・留出油在庫減少を受け上昇(WTI=67.16ドル)。  
- **仮想通貨:**  
  - ビットコインは4.6%上昇し、8万5802ドルに達した。
- **ロンドン株式市場:**  
  - FTSE100指数は0.02%高と横ばい、FTSE250指数は0.12%上昇。  
  - 原油価格上昇を受け、石油・ガス株指数は1.45%高。  
  - イングランド銀行(英中銀)は金利据え置きの見通し。  
- **欧州株式市場:**  
  - 4営業日続伸。工業株や石油・ガス株が上昇。  
  - STOXX欧州600種指数の工業株指数は0.41%高、石油・ガス株指数は1.63%高。  
  - ドイツDAX指数は0.40%下落。  
  - 欧州中央銀行(ECB)の利下げ懸念が和らぐ。  
- **ユーロ圏債券市場:**  
  - ドイツ10年債利回りは2bp低下の2.796%。  
  - ECBの利下げ見通しにより、4月に25bpの利下げが行われる確率は約55%。  
  - ドイツ議会が財政規律を緩和する憲法改正案を可決し、債券発行増加の見通し。

備忘録(2025/3/18
●海外企業決算
●海外企業
半導体大手の米エヌビディアは18日、自動車の運転支援技術でゼネラル・モーターズ(GM)と協力すると明らかにした。また次世代通信規格の6Gで通信各社と協力する方針も示した。
これらの取り組みは、ジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)が年次開発者会議「GTC」の基調講演で発表した。同会議は以前はあまり有名ではなかったが、エヌビディアが人工知能(AI)分野で中心的な役割を担うようになってからは注目度の高いイベントとなった。テクノロジー業界やウォール街は特にフアンCEOのプレゼンから今後の手掛かりを得ようとしている。
フアン氏によると、エヌビディアは次世代自動車や工場、ロボットにAIを利用するためにGMと協力している。無線通信プロジェクトにはTモバイルUSAやシスコ・システムズが参加しているという。エヌビディアは6Gネットワーク用に「AIネイティブ」な無線ネットワーク・ハードウエアを作り出す支援を行うとしている。
米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は18日、世界は高度な人工知能(AI)に向け、1年前に必要と考えられていた量の100倍のコンピューティングパワーが必要になるだろうと述べた。AIブームに関する投資家らの懸念を和らげることが狙いとみられる。
満員のホッケー用アリーナで開催された「AIのスーパーボウル」と呼ばれるイベントに参加したフアン氏は、推論モデルやAIエージェントの構築には、はるかに大きな計算能力が必要になると言及。「この1年間、ほぼ世界中がこの点で間違っていた」と付け加えた。
エヌビディア株は1月にディープシークがリリースされて以降、変動が激しくなっている。中国のAI新興企業ディープシークは同モデルについて、より少ないエヌビディア製チップで機能する高度なAIモデルだと主張。これにより一部の投資家は、今後のAIシステムがトレーニングや日常業務を行う際、より少ない数のチップが必要になる可能性に懸念を示していた。
いわゆる推論モデルでは、回答を提供する前に問題について「考える」時間をより多く費やす。これらのモデルは各プロンプトを複数の段階に分解するが、このプロセスは複雑な問題に最適だとこれらのモデルを構築している企業は主張している。
一方で推論モデルでは非常に多くのデータを生成するため、ユーザーのためにこれを迅速に処理するには計算速度を上げる必要がある。フアン氏はユーザーが10倍のデータに依存する回答を得るのに、10倍の時間を待ちたくないだろうと指摘した。
同氏はまた、人間のために飛行機の予約やディナーの予約などのタスクを完了するように設計されたAIエージェントにも言及。推論モデルに依存することが多いエージェントは、はるかに多くの計算能力を必要とし、これはエヌビディアのチップに対する需要が持続またはさらに高まることを意味するとした。
●日本企業
カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールが、セブン&アイ・ホールディングスの一部株主と面談したことが分かった。関係者が明らかにした。クシュタールは、買収に関する協議が膠着(こうちゃく)している状況を打開するため、セブンへの圧力を強めている。
複数の関係者によると、クシュタール創業者で会長のアラン・ブシャール氏が一部のセブン株主と面談し、買収に同意すべき理由について説明したという。面談の詳細が公開されていないとして、この関係者は匿名を希望した。セブンに圧力をかけるよう明確に促した訳ではないが、買収の利点を強調し、特にセブン-イレブンの日本での存在感や成長の可能性などについて語ったと、関係者の1人は明らかにした。
クシュタールは先週都内で記者会見を開き、ブシャール氏らが登壇した。デューデリジェンス(資産査定)で財務状況を把握できるようになれば、その結果を基に買収提案を強化できる可能性があると主張。敵対的手法は考えていないとも述べ、買収提案に対する世間や利害関係者の理解を得ようと試みていた。
クシュタールの広報担当者はコメントを控えた。セブンの広報担当者は、クシュタールとの協議を続けており、機関投資家とも直接対話していると述べた。個別の株主に関するコメントは控えるとした。
昨年8月に明らかになったクシュタールの巨額買収提案に対して、セブン側はクシュタールと米国内で両社の店舗網が重複していることから、米の独占禁止法に抵触する可能性がある点について懸念を示してきた。ただ、事実上の対抗措置だったセブン創業家主導の経営陣が参加する買収(MBO)計画が破談。セブンに対する外圧は増している。
「急ぐべきことではないが、もし1年後にまだクシュタールの提案を受け入れるか迷っているようなら、何かがおかしい」。M&Gインベストメンツのアジア太平洋地域株式運用責任者であるカール・バイン氏はこう話す。ブルームバーグの集計データによると、同社はセブン株を約1440万株(0.55%)保有する。バイン氏は「会社のオーナーシップの問題で長期間にわたって気を取られるのは、ビジネスにとって有益ではない」との見方を示す。
またM&Gはクシュタールとの面談には参加していないという。
クシュタール株とセブン株をそれぞれ約1%保有するアーチザン・パートナーズ・アセット・マネジメントは積極的な行動を取っている。セブンに対してクシュタールと「より深く」関わるよう圧力をかけた。また他の株主に向けて、セブンの取締役が相次ぎ辞任したことに関連し、経営陣の責任を追及すべきだと主張した。ブシャール氏と面談したかは不明だ。
親和性も
セブンが懸念している米独禁法抵触リスクへの対応として、クシュタールは米国内の一部店舗の売却に向けて買い手候補と予備的な協議をしていると7日に明らかにしていた。
また同社はデューデリジェンス(資産査定)に必要なデータにアクセスできていないと繰り返し主張している。13日の会見でも秘密保持契約を結んでデューデリジェンスができるよう、セブン側に求めた。
M&Gのバイン氏は、セブンが米国市場における最大の競合他社に財務データを開示することについて慎重になるのは当然だと理解を示し、規制上の懸念が払拭された後に、より深い議論が行われるのは理にかなっていると話す。
ただ、合併・買収(M&A)では企業文化の相性が重要で、「両社の企業文化では共通点の方が相違点よりも多い」と、セブンとクシュタールに親和性がある可能性を指摘した。
投資材料に乏しい
またセブンの株主は、クシュタールによる完全な買収を求めている訳でもなさそうだ。M&Gのバイン氏は「完全買収が唯一の道ではない」として、単独での成長や、クシュタールとの一部協業でも、企業価値の向上は可能との見方も示した。
「クシュタールと資本業務提携を行うなどして、アジアなどでの利益成長を目指してほしい」。約115万株(0.04%)を保有するコモンズ投信の伊井哲朗社長はこう話す。日本市場は成熟し、米国は独占禁止法の制限を受けるとみているためだ。コモンズ投信はクシュタールとの面談に出席していないとした。
いずれにせよ、セブンの企業価値は現在の時価総額より高いというのが株主の共通見解だ。セブン株が長期低迷から抜け出せないのは、明確な成長戦略を見当たらないことでもある。
コモンズ投信の伊井氏は「セブンもクシュタールも、投資家が納得できるような中長期的な成長戦略を提示していない」と指摘。投資判断の材料となる情報に乏しく、「もっと事業成長にフォーカスした話をしてほしい」と述べた。
●先進国政治動向
トランプ米大統領は、ロシアとウクライナとの停戦合意に向け、米ロが「資産」分割について既に協議していると明らかにした。プーチン大統領との18日の電話会談で、ウクライナの利益を犠牲にする構えを暗示する新たな兆しとも受け取れる。
トランプ大統領が提案し、ウクライナが受け入れた30日間停戦へのプーチン大統領の同意取り付けが、今回の電話会談の目的の一つと考えられる。プーチン氏はこれまでのところ、大筋では賛成としながらも、一定の条件を満たすことが条件と難色を示した。
トランプ氏は17日夜、「明朝、ウクライナでの戦争についてプーチン大統領と話をする。最終合意の多くの要素で合意しているが、やるべきこともたくさん残っている」とソーシャルメディアに投稿した。
16日夜には大統領専用機で記者団に対し、「特定の資産の分割」方法を両者が既に話し合っており、その中には発電所も含まれると語った。これはウクライナ南部ザポリージャ州でロシアが占拠する原子力発電所を指している。
「われわれは発電所について協議する。それは大きな問題だが、ウクライナとロシアとの間で、その多くが既に十分議論されたと思う」とトランプ氏は述べた。
これらを考え併せると、ウクライナが関与しようとしまいと、多くの決定が既に行われた可能性がうかがえる。
ホワイトハウスは、クレムリン(ロシア大統領府)との関係再構築を目指しており、2期目のトランプ政権発足後で2回目となるプーチン氏との電話会談では、より幅広い商業的利益や両首脳の直接会談の可能性も話し合われることになりそうだ。
先週の米国との高官協議でウクライナが受け入れた30日間停戦の提案にプーチン大統領は公に同意していないが、トランプ氏と政権チームは、1200マイル(約1930キロ)に及ぶ国境沿いの戦闘を終わらせる停戦の実現に楽観的だ。
ホワイトハウス復帰前の選挙戦で、短期間で戦争を終わらせると公約してきたトランプ氏が、ウクライナの同意なしにロシアに譲歩案を提示し、ウクライナのゼレンスキー大統領を危険な立場に追い込むのではないかと、これまでの状況から判断し、トランプ氏に批判的な人々は不安を募らせる。
ランド研究所のロシア・軍事問題の政策研究員アン・マリー・デイリー氏は「ウクライナにとって最悪のシナリオは、トランプ氏がプーチン大統領に説得される形で、ロシア側の主張が正当かつ容認できると納得し、ウクライナに受け入れを迫る圧力をかけることだろう」と分析した。
デイリー氏は「第一の目標は戦闘を終わらせることだけであり、和平実現のためウクライナに領土や経済・産業施設へのアクセスを一部断念するよう働き掛けることは大いにあり得ると思う」と見解を示した。
ウクライナと欧州の同盟国は、トランプ政権がロシア側の条件での合意を強要する結果、ウクライナが弱体化し、将来的にロシアに対し脆弱(ぜいじゃく)になるのではないかと危惧している。
欧州の指導者らは、トランプ氏がプーチン氏との1対1のやりとりで、ウクライナと欧州の安全保障を無力化しかねない譲歩を行わないか不安を隠さない。
ウクライナでのロシア軍占領地の確保、ウクライナ軍の規模の制限、西側諸国からの軍事支援の抑制などをロシアは要求。さらにウクライナが北大西洋条約機構(NATO)への最終的な加盟を望むことはレッドライン(超えてはならない一線)との立場を示唆し、トランプ大統領もそれを支持している。そのような要求をどのように合意に盛り込めるか見通せない。
ドナルド・トランプ米大統領が相互関税を導入し、関税率を他国と同水準にすると公約する中、政権当局者は実施方法を巡り議論を交わしている。トランプ氏の側近らは、同氏が設けた4月2日の期限までに計画を取りまとめようと奔走している。
事情に詳しい関係者らによれば、当局者らは米国の貿易相手である数百カ国に新たな関税率を設定する複雑な作業を簡素化するため、各国を3段階の関税区分に分類することを検討していたという。ただ複数の関係者によれば状況はまだ流動的で、今後数週間以内に変更される可能性もある。
また関係者の1人は、この簡素化案は後に却下されたとしたうえで、トランプ氏の側近らが国ごとの個別の税率を設定する方法を模索していると明らかにした。
ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官は、「多くの計画が議論されており、大統領が発表の準備が整った時点で、国民に直接伝えるだろう」としている。
トランプ氏は相互関税について、「彼らがわれわれに課す関税と同じものを、われわれも課す」と繰り返し言及。だがこれは途方もない作業となり、世界中の数百カ国・地域との貿易に対して個別の関税率を設定することを意味する。
また、他国の関税と同水準にする計画は、合成麻薬フェンタニルの密輸を背景とするメキシコとカナダからの輸入品への25%関税や、鉄鋼・アルミニウムなど特定セクターへの関税など、他の関税に加えて実施される。
低税率、中税率、高税率の3段階に簡素化された相互関税案を巡っては、13日の会合で協議された。この会合にはスージー・ワイルズ首席補佐官、ハワード・ラトニック商務長官、スコット・ベッセント財務長官、ジェミソン・グリア通商代表部(USTR)代表、スティーブン・ミラー大統領次席補佐官(政策担当)、ラッセル・ボート行政管理予算局(OMB)局長、そしてピーター・ナバロ大統領上級顧問(通商・製造業担当)が出席したという。
当局者らは会合で、3段階のアプローチを含むいくつかの案を議論。だが関係者によると、14日に当局者らが再び計画について協議した際、段階的な関税案は却下され、個別アプローチが採用された。現在は関税率の決定方法が議論の対象となっているという。
JD・バンス副大統領はここ数週間、トランプ氏の通商政策の議題でより大きな役割を担うようになり、一部の政策協議を主導したと複数の関係者が述べている。トランプ氏の側近らは数時間に及ぶ会合を何度か行っており、首都ワシントンにある副大統領公邸でも長時間の会合を開催。トランプ氏の目標を達成しつつ、より柔軟性のある包括的な関税政策の策定に焦点が当てられているという。
協議に関与している当局者の1人は、相互関税は実現に向けて前進し、現在の目標は関税の仕組みと法的異議に耐える方法を見いだすことだと述べた。
相互関税計画は4月2日に発表される予定で、自動車、半導体、医薬品などの一部産業に対する25%の追加関税と併せて導入される見通しとなっている。
今年のような波乱万丈の年でさえ、最も目立った危機が必ずしも最も重大なものとは限らない。ウクライナでの戦争や関税を巡る応酬、そして中東で続く混乱が見出しをにぎわしている。しかし将来の歴史家たちは、この時代で最も重要な出来事は他の場所で起きていたと語るだろう。
バラク・オバマ米大統領の1期目にヒラリー・クリントン氏が国務長官を務めて以来、米国はアジアに軸足を移すことの重要性について語ってきた。21世紀を動かすのはインド太平洋地域だという考えは、超党派の決まり文句だ。だが社会として、欧州を中心とする考え方から心理的にシフトするのが難しいとわれわれは感じている。
この文化的盲点の最も大きな恩恵を受けているのは、中国の習近平国家主席だ。西側が主にウクライナと中東での出来事に注目する中で、中国は自国の長期目標へと着実に向かっている。
台湾への圧力は高まる一方だ。台湾当局は最近、南西沖で戦略的に重要な海底通信ケーブルを切断した疑いがあるとして、中国人船員の乗った貨物船を拿捕(だほ)した。さらに不穏な兆候として、中国は兵員や戦闘装備を揚陸させることのできるはしけの船団を築こうとしているようだ。これは1944年のノルマンディー上陸作戦で使われた仮設港マルベリーハーバーのような施設に利用される。中国軍が上陸訓練をしている状況を考えれば、台湾へのメッセージはこれ以上ないほど明確だ。
圧力を感じているのは台湾だけではない。オーストラリア政府は先月、南シナ海で中国人民解放軍の戦闘機から「危険でプロフェッショナルではない行為」を受けたと報告した。さらに離れた場所では、中国軍の艦船が豪州とニュージーランド間の海域で実弾演習を行った。これは中国政府の海軍力に抱く野心とそれが及ぶ範囲を示す前例のない行動と言える。
インド政府は、中国の調査船2隻がインド洋周辺の安全保障上の懸念がある場所で詳細な調査活動を行っていることに反発している。また、中国は太平洋の島国クック諸島と包括的パートナーシップを結んだと発表した。これは中国の権益を大いに高めるものだ。一方、中国海軍はオマーン湾周辺でイラン、ロシアの海軍と合同軍事演習を行った。
陸上では、中国は窮地に立つミャンマー軍事政権への支援を強化している。ミャンマーはロシアに労働者を送り込み、複数の産業でウクライナ戦争による人員不足を補っており、東南アジアの重要な国の一つが、中国とその同盟諸国へと決定的に傾いている。
タイでも同じような雰囲気が漂う。新疆ウイグル自治区からの亡命希望者40人を中国に送還し、彼らは中国政府が下す懲罰を受けることになる。米国の外交官は長い間、彼らの身柄を中国に戻さないようタイ政府を説得しようとしてきたが、同政府内では現在、米国よりも中国の声が重要になっている。
中国では、自国の革新的な人工知能(AI)企業ディープシークが、シリコンバレーのライバルより速く、かつはるかに少ない資金でAI開発の最先端に躍り出ることができたとの主張が聞かれる。この成功を追い風に、中国はハイテク分野の支配的地位へと突き進んでいる。自国の主要ハイテク企業への支援を強化する一方で、そうした企業が共産党のそばから離れないよう注意を払っている。最も優秀な人材が流出することを心配する中国は、ハイテク分野に携わる企業幹部や研究者に対し、米国に渡航しないよう命じている。中国企業は、米国の制裁と輸出制限を回避できていることを公然と自慢している。
これほどの中国の動きが、西側からのより強い対応や関心を引き起こしていないことは、習氏にとって朗報だ。かつて鄧小平が「韜光養晦(とうこうようかい)」戦略を取っていた時代、より小さく弱い存在だった中国は、野心のない外交政策を追求することで、国際社会による敵対的な監視を避けようとしていた。近隣国への脅しを目立たないようにし、領有権を巡る紛争を解決するために共に努力すると述べ、日本や米国などの国々に反対する発言を控えていた。
しかし現在の中国は、何でも思い通りにできる。世界があまりにも混乱し、米国など他国の政策立案者が差し迫った問題への対応で手一杯になっているため、中国は鄧小平の時代なら国際危機につながったであろう大胆な措置を取ることが可能だ。現在の西側諸国は、そうした中国の動きにほとんど気付かないと思われる。
トランプ米政権の外交政策にとって、それは何を意味するのだろうか。答えは簡単で、中国が好ましくない行動を取るというものだ。中国の立場から見ると、米国の力は急速に減退している。米国の同盟関係はほころびを見せ、米社会の結束力は弱まっている。そして中国の見方に従えば、ドナルド・トランプ大統領の衝動的に見える指導者としての姿勢は、時として不快なサプライズを与え得るが、素人のようでうまく機能しない可能性が高い。
トランプ政権は、イランを威嚇し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を懐柔することで、中国、ロシア、イランの連携を壊したいと考えている。これに対し中国は、利用可能な全ての手段を使ってこの3カ国の枢軸の団結を維持し、米国の国際的地位に対抗する仲間の修正主義者たちの行動を継続させようとするだろう。インド太平洋地域における主要目標の達成に向けた中国の着実な前進は、米国の力の限界をロシアとイランに再認識させ、世界各地の修正主義者たちに引き続き行動の継続を促すだろう。
デトロイトとデンバーにある米退役軍人省の施設では、職員が削減された影響で医療プログラムが中止されたり、ホームレスの退役軍人の住まいを斡旋(あっせん)する専任コーディネーターが不在になったりしている。
アラバマ州では、教育省の人員が削減された結果、障害のある子どもを学校に通えるようにする取り組みに遅れが出ている。
さらにカリフォルニア州では、ヨセミテ国立公園が500カ所以上のキャンプ場について、ピークシーズンの夏季の新規予約を一時停止した。必要な人員を配置できるか不透明だからだという。
連邦政府職員の削減に向けた前例のない取り組みが全米の政府施設での業務を妨げ、米国民が頼りにする公共サービスに予期せぬ影響を及ぼしている。
米政府は、1月時点で240万人(郵便サービスを除く)の文民労働者を抱えていた国内最大の雇用主だ。トランプ政権は、イーロン・マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)が推進する計画を通じて、2025会計年度(24年10月~25年9月)の政府支出を前年比約15%、金額にして1兆ドル(約150兆円)削減することを目指し、数万人規模の人員削減に着手した。その対象の多くは、ドナルド・トランプ大統領が「仕事をしていない」と指摘した人たちだ。調査会社オックスフォード・エコノミクスは、25年末までに連邦政府職員が20万人減ると予測している。
雇用問題を専門とする弁護士によると、民間部門では大手企業が大規模な人員削減を行う場合、事前に従業員の業績・職位・技能を数カ月かけて分析する。また、労働組合の規則を精査し、解雇された従業員が失業給付申請を円滑に行えるようにする。このような事前の検討は、残った従業員が仕事を継続できるようにするために重要だという。
トランプ政権はこれまでのところ、これらの規範をほとんど守っていない。 管理職らは、不可欠な人員が解雇されている上、トランプ政権は大規模な人員削減を実施する際の詳細な規則に従っていないと指摘する。政府機関は数万人に早期退職を認め、試用期間中の職員(過去1~2年に雇用された人、または昇格した人)を解雇し、今後数カ月でさらなる大幅削減を計画している。これまでのところ、従業員の業績やその役割の必要性を考慮せずに削減しているケースが多い。
カリフォルニア州とメリーランド州の連邦地裁は13日、農務省、エネルギー省、退役軍人省などの機関での試用期間職員の解雇を差し止めた。試用期間職員は解雇に対する保護が少ない。それでも、解雇は適切な法的手続きを経る必要があると、カリフォルニア州連邦地裁のウィリアム・アルスップ判事は述べた。
ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官は同判事の命令について、トランプ政権として直ちに異議申し立てを行うと述べた。これらの判決を受け、一部の試用期間職員は職場に戻ることが予想されるが、法廷闘争が続いている上、政府機関のさらなる人員削減も計画されているため、そうした職員が職を維持できるかどうかは不透明なままだ。
トランプ氏は今月、大統領執務室で記者団に対し、「働いていない、出勤していない、そして多くの問題を抱えている人々」を解雇したいとし、政府は「これまで誰も見たことのない肥大化」を経験していると述べていた。
60人を超える現・元連邦政府職員への取材によると、広範囲にわたる人員削減により、公共サービスが悪化し、医療改善やエネルギー料金引き下げなどの分野で働く残りの職員の業務に支障が出ている。さらに、優秀な人材が連邦政府での職を敬遠するようになっている。
学校からキャンプ場まで
人員削減の影響で、医療、教育、さらには気象予報などの分野で公共サービスが縮小または遅延している。
米議会の民主・共和両党から長年にわたり批判を受けてきた厚生省は昨年末、臓器移植を規制する制度の改善策実施を後押しするため、1人の移植外科医を雇用した。
アラバマ大学バーミンガム校の職を辞して連邦政府の仕事に就いたジェイム・ロック医師は最近、試用期間職員として解雇された。移植の専門家らは、ロック氏が改善策を単に研究するだけでなく、それを実施する新時代を主導することを期待していた。ロック氏はコメントを控えた。厚生省はコメント要請に応じなかった。
気温・湿度・風に関する情報を収集する気象観測気球は、国立気象局(NWS)の人員不足により、ニューヨーク州オールバニやメーン州グレーでは定期的に上がっておらず、アラスカ州コツェビューでは打ち上げが完全に停止している。
国立公園などの連邦公有地はビジターセンターの開所時間を短縮している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した監督者宛ての電子メールによれば、700人以上の国立公園局(NPS)職員が政府の退職勧奨に応じた。非営利の支援団体である全米公園保護協会によると、約1000人の試用期間者が解雇された。
内務省の報道担当者は人事に関する数字についてコメントを控えたが、同省として財政責任と効率性を改善していると述べた。ヨセミテ国立公園は来週、一部のキャンプ場の夏季予約受付を開始する。公式アカウントの14日の投稿によると、運営能力に余裕があれば、さらに予約枠が増える可能性がある。予約開始が遅れたのは人員をどれだけ配置できるか見通せなかったからだと、事情に詳しい関係者らは言う。予約に関する詳細は公園側から後日発表されると、内務省の報道担当者は述べた。
土地管理局(BLM)が管理する海岸地域である、オレゴン州のヤキナ・ヘッド特別自然地区は、開所時間を短縮し、灯台ツアーを中止した。また、常勤職員が7人から4人に減ったため、黒い石で知られるコブルビーチが閉鎖される可能性がある。解雇された試用期間職員の1人、サブリナ・ゴーニーさん(24)はそう話す。
「ヤキナ・ヘッドを訪れた人は、ごく一部のサービスしか受けられないことに気付くでしょう」とゴーニーさんは言う。彼女は季節労働者として働き、昨年8月に時給21.50ドルの常勤職に昇格していた。
WSJが確認したゴーニーさんの解雇通知書には、彼女の能力が部署のニーズを満たしていないと記されていた。彼女は1年足らずで三つの業績賞を受賞していた。
ビクトリア・デラノさん(52)は教育省公民権局(OCR)の平等機会専門官として働いていた。アラバマ州バーミンガムを拠点に、米南東部の学校に対する差別申し立てを処理していた。
彼女が解雇されてから約1カ月後、教育省が職員の約半数を削減したため、サンフランシスコ、フィラデルフィア、ボストン、シカゴ、クリーブランド、ダラス、ニューヨークのOCR事務所が廃止された。
デラノさんによると、苦情申立書が山積し、すでに過重労働だった事務所で、障害のある子どもを学校に通えるようにする取り組みに遅れが出ている。「態勢が整うまで、子どもが今すぐに学校に行けない状況」だという。彼女は労働組合「米連邦政府職員連盟(AFGE)」を通じて人員削減に反対する活動を行っている。 公民権局の報道担当者は、同局では障害関連の苦情やその他のハラスメント苦情に対処するため、より多くの調停を活用し、案件の処理を迅速化していく計画だと述べた。
「安全」ではない
トランプ政権による人員削減は、同氏が守ると約束したサービスや支持層に打撃を与えている。
特に影響が大きいのが退役軍人省で、約7万人の削減を計画し、すでに数千人を解雇した。同省の職員は約47万人だ。
2人の現職員によると、退役軍人が軍務中の負傷や精神的健康状態の治療を受けるための申請を処理する職員が減少している。これにより、すでにノーステキサスで退役軍人の治療待ち期間が長くなっていると、現職員の1人は言う。
デンバーにある退役軍人省コミュニティーリソースセンターでは、ホームレスの退役軍人15人のアパート探しやデポジット(保証金)確保を担当していたブレット・テイラーさんが解雇された。残された職員はすでに過重労働状態にあるとテイラーさんは言う。 デトロイトの退役軍人病院では、試用期間職員を解雇した後、患者の安定性と可動域を改善するためのプログラムを中止した。参加者の健康・進捗(しんちょく)状況を観察していた海軍退役軍人のカラ・オリバーさん(33)も解雇された。
オリバーさんの年間給与は約4万8650ドルだった。2月25日にオフィスでコンピューターにアクセスできなかった時、解雇されたことに気付いた。失業給付を申請するのに必要な解雇通知書は3月5日まで受け取れなかったという。
「担当した退役軍人の方々のためにそこにとどまりたい」とオリバーさんは言う。しかし、連邦政府の職は不安定なため、将来的にそうした仕事に就くか確信が持てずにいる。「どうしても安全だと感じられない」
退役軍人省のピート・カスペロウィッツ報道官は、広報担当者、インテリアデザイナー、DEI(多様性・公平性・包摂性)担当官などのポストで2400人の試用期間職員を解雇したと述べた。これらのポストは同省の職員全体の0.5%に相当するという。
「これらの解雇が省全体に問題を引き起こしているという見方は誤りだ」とカスペロウィッツ氏は述べた。
業績評価
トランプ政権は発足以来、あらゆる機関・チーム・職種を解体し、後に一部を復活させている。当初の標的は国際開発局(USAID)と消費者金融保護局(CFPB)で、両局の業務を縮小し、多くの職員を解雇しようとした。
CFPB消費者対応室のマシュー・パフ室長は裁判で、同室が数週間の業務停止を命じられた際、1万6000件を超える苦情申立書が山積みになったと述べた。これほどの量は記憶にないという。
人員削減も業務に影響を与えた。解雇されたCFPB職員の中には、ミロ・チャンさん(22歳)もいた。彼のチームは昨年、離婚後や配偶者の死後、より高い金利で住宅ローンの借り換えを迫られた人々からの苦情対応に当たっていた。13日の判決を受け、再雇用されることを16日に知らされたが、今後どうなるかは分からないままだとチャンさんは言う。
他の機関では、試用期間職員の業績評価を行っていないにもかかわらず、業績を理由にそうした職員を解雇している。
内国歳入庁(IRS)の人事担当官、トレーシー・ディマティーニさんは裁判所への宣誓供述書で、試用期間職員6700人の業績を評価するには数週間から数カ月かかったはずだと述べた。
そうした業績評価は行われなかった。「この事実は会議で公然と議論された」とディマティーニさんは述べた。
宣誓供述書によると、ディマティーニさんが解雇通知書への署名を拒否すると、「DOGE職員に対して不従順で非協力的だった」ことを理由に休職処分となった。IRSはコメント要請に応じなかった。
さらなる削減
今後数カ月でさらなる削減が予想される。各機関が縮小の次の段階、いわゆる人員削減(RIF)プロセスを開始するためだ。これは政府ではめったに使われない、厳しく規制されたプロセスだ。
各機関は13日までに、自然減、解雇、トランプ氏が命じた採用凍結、各機関の機能廃止案を通じて、どれだけのポストを削減するか概要を示すよう指示された。
ある元政府高官はこのプロセスを20段階の指示書に基づくケーキ作りのようだと表現し、幹部たちは何度も規則を読まなければならないと述べた。解雇の際には、職員の在職期間、退役軍人の地位、業績を考慮しなければならない。
人事管理局(OPM)は12日に各機関に対し、職員を解雇する権利を「過度に妨げる」団体協約条項は法的強制力を持たないと通知し、労働組合からの情報要求には必ずしも応じる必要はないと伝えた。
元当局者によると、エネルギー省の各チームは2月、公共の安全・環境・医療などの重要任務分野に不可欠な試用期間職員を特定した。
それにもかかわらず、最終的に解雇された試用期間職員の中には、核施設に不可欠な人材もいたという。一部は復職したが、エネルギー省は今後、より多くの請負業者に頼ることになる。
同省の報道担当者アンドリア・ウッズ氏は、同省は「米国のエネルギー支配力を解き放ち、エネルギー安全保障を強化する」という使命を果たしながら、効率性を最大化する方法を見いだそうとしていると述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、ロシアのエネルギー施設に対する攻撃を停止するという米国の提案を支持すると表明した。ただ、ロシアが新たな要求をすることで米国主導の交渉を遅らせ、ウクライナを弱体化しようとしていると警告した。
米ホワイトハウスはこの日、トランプ大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談し、ウクライナのエネルギー施設やインフラに対する攻撃を30日間停止することで合意したと発表した。 もっと見る
ゼレンスキー氏は記者会見で「われわれはこれを支持する」と述べた。
ロシアは侵攻当初からミサイルやドローン(無人機)でウクライナの発電所などを攻撃し、大規模な停電を引き起こしてきたほか、最近では天然ガス生産施設も標的にしている。ウクライナははるかに大規模な軍事力を持つロシアに反撃するため、長距離戦闘用ドローンでロシアの製油所など石油インフラを攻撃してきた。
ゼレンスキー氏は「安定的かつ公正な平和」につながるあらゆる提案を支持すると述べた。
プーチン氏は電話会談で、米国が求めていた無条件の30日間全面停戦には応じなかった。ウクライナは米当局者と先週サウジで行った協議で同案を受け入れている。
ゼレンスキー氏はロシアがこの提案に反対しているのは明らかだと指摘。サウジでの協議後にロシアがウクライナに対し誘導爆弾1300発超、ミサイル8発、長距離攻撃用ドローン600機近くを発射したと述べた。
同氏は米ロ首脳の電話会談後にマクロン仏大統領とショルツ独首相と電話協議したことも明らかにした。
「トランプ大統領と対話し、ロシアが米国に何を提案したか、米国がロシアに何を提案したかを詳細に把握することが適切だ」という認識を示した。
プーチン氏が恒久的な和平の条件として、西側がウクライナへの軍事支援と情報提供を完全に停止する必要性を強調したことについて記者団から問われたのに対し、パートナー国が軍事支援を打ち切らないことを期待するとも述べた。
「われわれは常に連絡を取り合っている。パートナーの裏切りはなく、支援が継続されると確信している」と語った。
その上で、西側の軍事支援停止やウクライナにおける動員の抑制を求めるプーチン氏の要求はウクライナの弱体化が狙いだとの見方を示した。
トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領は18日、電話会談を行い、ウクライナのエネルギー施設やインフラに対する攻撃を30日間停止することで合意した。プーチン大統領は米国が提示する広範な停戦案は受け入れず、米ホワイトハウスは広範な和平計画に向けた協議が「直ちに」開始されると発表した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は米ロの合意を受け、限定的な停戦案を前向きに検討すると表明。同時に、欧州の安全保障は欧州と共に決定されなければならないとし、欧州もウクライナ和平協議に参加する必要があるとの考えを改めて示した。
エネルギー施設やインフラへの攻撃の一時停止で合意が得られたものの、プーチン氏は広範な停戦案について、ウクライナの再軍備を防ぐという点で問題があると指摘。西側によるウクライナに対する「軍事支援や情報提供の完全な停止」が恒久的な和平合意の条件になると強調した。有識者の間で、ロシア軍がウクライナ東部で前進を続ける中、プーチン大統領は時間稼ぎを図っている可能性があるとの指摘も出ている。
<「永続的な平和」必要との認識で一致>
ホワイトハウスによると、両首脳はロシアとウクライナの戦争を「永続的な平和」で終結させる必要があるとの認識で一致。黒海の海上停戦のほか、包括的な停戦と恒久的な和平合意に関する交渉が「中東で」直ちに開始されると表明した。ただ、ウクライナが同交渉に参加するかについては言及しなかった。
ロシア大統領府(クレムリン)によると、プーチン大統領はトランプ大統領が提案したロシアとウクライナによる相互のエネルギーインフラへの攻撃を30日間停止する案に合意し、ロシア軍に対応を命令した。
トランプ大統領は自身のソーシャルメディアへの投稿で、「非常に良好で生産的な」電話会談だったとし、ウクライナ和平合意に向けた多くの要素について協議したと明らかにした。
さらに「全面的な停戦と、ロシア・ウクライナ間の非常に恐ろしい紛争の終結に向けて迅速に取り組むという理解のもと、全てのエネルギー施設とインフラに関する即時停戦で合意した」とした。
この日はイスラエルがパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスを標的に大規模攻撃を再開。ホワイトハウスによると、トランプ氏とプーチン氏は中東紛争を予防する手段についても協議し、「イランは決してイスラエルを破壊できる立場に立つべきではない」との見解で一致した。
<トランプ氏のロシア寄り姿勢に懸念も>
戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアフェロー、マリア・スネゴバヤ氏は、エネルギー施設とインフラのみを対象とした限定的な停戦合意について、ウクライナ軍がロシアの石油精製所などを効果的に攻撃していることを踏まえると、ロシアに有利になる可能性があるとの見方を示した。
デューク大学サンフォード公共政策大学院の欧州安全保障問題専門家、スーザン・コルバーン氏は、同合意はトランプ氏のロシアとの関係正常化に向けた意欲を反映すると同時に、プーチン氏が時間稼ぎをしている可能性を示唆していると指摘。「ロシアが隣国を侵攻しているにもかかわらず、トランプ氏がロシアに譲歩をほとんど求めていないことは注目に値する」と述べた。
ベッセント米財務長官は18日、トランプ政権は4月2日に貿易相手国に対し、各国の税率や非関税貿易障壁などの要素に基づく関税率案を提示すると改めて言明した。同時に、「関税の壁」を回避するための交渉の機会を与えるとの考えも示した。
ベッセント氏はFOXビジネス・ネットワークのインタビューで、4月2日に米国が示すとされる関税率案について、「一部の国にとっては非常に低いかもしれないし、非常に高いかもしれない」と説明。
貿易相手国が非関税障壁や通貨操作、不当な補助金提供などをやめれば、関税の壁を作らないと言うつもりだとした上で、貿易障壁の削減に失敗した国はより厳しい関税に直面することになると述べた。
トランプ大統領は17日、4月2日に相互関税と分野別関税を課す意向を改めて表明。ベッセント氏の発言は、同措置の発動前に交渉期間が設けられる可能性を示唆したものといえる。 もっと見る
(サマリー)ドイツ連邦議会は火曜日、大規模な財政改革案を賛成513票、反対207票で可決した。
改革には、長年続いている債務ブレーキ規則の変更と、5000億ユーロ(5480億ドル)のインフラ・気候基金が含まれる。
この法案は憲法改正を伴うため、可決には議会と各州を代表する連邦参議院の3分の2以上の賛成が必要となる。
●先進国中銀、金融当局
欧州中央銀行(ECB)の高官2人は18日のブログ投稿で、ユーロ圏の銀行は銀行システムにおける過剰流動性の継続的な減少に備え、ECBから資金を調達する習慣を身に付ける必要があるとの考えを示した。
銀行システムには過去10年間でECBがつくり出した約3兆ユーロの過剰流動性があり、ECBの週次・日次定例オペを通じた借り入れは事実上存在しない。
しかし、ECBは現在、バランスシートを縮小することでこの過剰流動性を削減。政策当局者は中銀からの借り入れにスティグマ(負の烙印)がつきまとうことを懸念しており、こうした見方の変化を求めている。
シュナーベル専務理事とブッフ銀行監督委員長は投稿で「ニューノーマル(新常態)下で、標準的なリファイナンス・オペレーションは各行の日々の流動性管理において決まりきった不可欠な要素と見なされる」として、慣行の調整が必要との認識を示した。
ただ、ECBはオペレーションの枠組み見直しを2026年まで先送りしており、年内に流動性が問題視されることはないとみられる。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
BNPパリバは18日、ドイツの10年債利回りが今後3年で4%に上昇し、2008年以来の高水準になる可能性があるとの見方を示した。ドイツ政府が防衛・インフラ歳出の大幅な増額を計画していることが背景。
同社の金利・為替・コモディティー戦略責任者、サム・リントン・ブラウン氏がメディアとの会見で述べた。
独10年債利回りは、短期的には2.5─3%のレンジで推移し、国債増発と景気拡大を背景に、その後上昇する見通しという。
直近の10年債利回りは2.85%。今月50ベーシスポイント(bp)近く上昇している。
欧州中央銀行(ECB)は今年利下げを継続する可能性が高いが、歳出増が成長とインフレを押し上げるため、今年以降に再び利上げを実施する可能性があるとし、ユーロは現在の1.095ドルから1.20ドルまで上昇する可能性があると指摘した。
ブラウン氏は「2カ月は10年債利回りが2%近辺に維持されていると考えていた。現在は3%で程度で維持されると考える必要があるみられ、3年後の水準は4%まで上昇する可能性がある」と述べた。
日経平均が心理的な壁の3万8000円を巡る攻防を続ける中、政局不安をにらんで一部には「高市トレード」とみられる動きが出ている。値動きの良い中小型株で利益を稼ごうと局所的に過熱感もみられる。あたかも石破茂首相の退陣を織り込むような動きになっているが、現時点では思惑先行で逆回転への警戒感も聞かれる。
石破首相の商品券配布は、問題が報じられてから日本株市場でも材料視されている。前回の自民総裁選で党員投票トップだった高市早苗前経済安保相を次期総裁の有力候補として関連銘柄の物色が活発化している。
足元で値動きが目立つのは核融合の分野だ。高市氏がエネルギー安全保障、産業政策の両面から重要視する分野と目されている。研究機関向けの核融合関連製品を手掛ける助川電気工業(7711.T), opens new tabは、商品券問題が伝わって以降、株価が約12%上昇した。
同社株は咋秋の総裁選時、高市氏の勝利への思惑から「高市トレード」が盛り上がる中、告示日から投開票日までの期間に50%上昇した経緯があった。三木証券の北沢淳商品部投資情報グループ次長は「前回の総裁選の際に値動きの大きかった銘柄に物色が向かったようだ」とみている。
国内主要メディアの世論調査では、石破政権の支持率低下が報じられている。朝日新聞社が15─16日に実施した調査での支持率は26%で、前回2月調査の40%から大幅に下落した。商品券配布については75%が問題視したという。
商品券報道に先立つ形で、自民党の西田昌司参院議員が参議院議員総会で総裁の選び直しを主張し、記者団に対して前回総裁選で高市氏が党員投票で1位だったことに言及したことが伝わっており、市場の「高市銘柄」への思惑に拍車を掛けたとみられている。トランプ関税や米景気悪化への警戒感がくすぶる中、影響が及びにくい銘柄群との見方もある。
核融合関連では、スタートアップと提携するジェイテックコーポレーションも関連株の一角とされる。同社株は2日間で3.8%上昇した。総裁選時には13%上昇していた。きょうは助川電気が利益確定売りに押されている一方、東洋炭素や日揮ホールディングスが上値を伸ばしている。
高市氏が実用化を急ぐ立場の量子コンピューター関連の値動きも大きい。14-17日にユビキタスAIは7.5%高(総裁選時11%高)、フィックスターズは8.3%高(同11%高)、エヌエフホールディングスは10%高(同5%高)となった。エヌエフHDはその後も上値を伸ばしている。
もっとも、これまでのところは思惑先行に過ぎないとみられている。内藤証券の浅井陽造シニアアナリストは「全体相場の手掛かりに乏しい中、時価総額が相対的に小さい銘柄で仕掛け的な買いが入ると値動きが大きくなりやすい」と指摘する。
例えば助川電気は25日移動平均線からの乖離率が10%を超え、買われすぎとされる5%を大きく上回った。一方、出来高は、総裁選相場のピーク時の220万株に対し、17日は17万株にとどまった。
「(出来高の)迫力を欠く上昇であり、幕間つなぎにすぎないだろう」と内藤証券の浅井氏はみている。三木証券の北沢氏は、政治動向は読みにくいと指摘し「思惑が途切れてくると、逆の動きになりやすいため注意が必要」と話している。
実際、石破首相の早期退陣シナリオはまだ、見えていない。上記の朝日新聞の調査で石破氏の辞任を巡っては60%が「その必要はない」と回答している。
18-19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、委員会メンバーによる最新の経済・物価見通しが公表される。トランプ米政権の経済・貿易政策による経済への影響を米連邦準備理事会(FRB)がどう見ているかを知る上で注目度が高い。
昨年12月のFOMCで示された経済物価の予想中央値は、2025年の米経済成長率が2.1%、失業率がわずかに上昇して4.3%、個人消費支出(PCE)物価指数で見た年末のインフレ率が2.5%となっていた。
しかし、これらはトランプ大統領の具体的な経済政策や関税率が明らかになる前に出された予想だ。その後の政策を見て、民間エコノミストは今年の成長率見通しを下方修正し、景気後退に陥る確率が高まったと判断する一方、インフレ率見通しを上方修正している。
今回のFOMCに先立つFRB幹部らの発言からは、3つのシナリオが進行中であることが読み取れる。(1)インフレもしくは景気が減速して追加利下げが可能になる(2)インフレ率がFRB目標の2%を上回り続け、引き締め的な金融政策が長引く(3)インフレ率は望ましい水準に比べて高止まりするが、景気は減速する――の3つだ。
最後のシナリオが現実化した場合、FRBはジレンマに陥り、物価安定と雇用最大化という2つの責務のどちらを優先するかの選択を迫られるかもしれない。
ドイツ銀行のエコノミストらは最近の分析で、FRBがいくつかの難しい判断に直面すると指摘。例えば、関税による物価への影響のうち、どれが自然消滅してどれが根強く残るかなどを見極めるのは難しいと説明した。
米国担当チーフエコノミストのマシュー・ルッゼッテイ氏らのチームは「景気が底堅く推移してインフレ率が上昇するためFRBはおおむね現状の政策を維持するのか、あるいは政府の人員削減に加え、貿易の不透明感に起因する民間の採用停滞が労働市場の急激な悪化を招き、より急速な利下げパスが必要になるのか。いずれの道が正しいか予測するのは容易ではない」と記している。
ドイツ銀の基本シナリオは前者だが、景気後退リスクの高まりも視野に入ってきたという。
S&Pグローバル・レーテイングスの首席米・カナダ・エコノミスト、サティヤム・パンダイ氏はリポートで「関税によるサプライサイド・ショックと移民増加ペースの減速、そして連邦政府職員の削減により長期にわたるマイナスの循環が生まれ、総需要を圧迫する」と予想。1年以内に米国が景気後退に陥る確率は通常時の2倍の25%だとしている。
ただ、足元の経済データはなおしっかりしており、トランプ政権の経済政策は流動的なため、19日に公表されるFRBの経済・物価見通しには民間エコノミストが指摘している点がまだ反映されず、12月の見通しと比べて大きな変化はないかもしれない。
EYのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は、FRBによる政策金利の予想中央値は12月時点と変わらず、0.25%ポイントの利下げが年内に2回あるという見通しになると予想。経済成長率見通しはわずかに下方修正、失業率見通しはわずかに上方修正され、年末のインフレ率見通しは2.5%で前回と変わらないとみている。
一方、今回のFOMCは政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.25―4.50%に据え置くと予想されている。
日本銀行が18、19日に開く金融政策決定会合では、金融政策の維持が決まる見通しだ。日銀が目標とする2%を上回る物価上昇率と好調な賃上げが続く一方、世界経済の先行き不確実性は増している。難しい政策運営の中で、植田和男総裁の記者会見に注目が集まる。
複数の関係者によると、トランプ政権による関税措置などの政策が、米国をはじめとした世界経済や日本の経済・物価、金融市場に及ぼすリスクはこれまでよりも高まっていると日銀は認識している。前回の1月会合で決めた利上げの影響を点検する段階にあり、会合では政策金利を0.5%程度に据え置くことが決まる公算が大きい。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、植田総裁会見について「不確実性が高いことを指摘した上で、今後も経済・物価が想定通りに推移していけば、徐々に利上げを進めていくという従来の方針を繰り返す」と予想する。利上げは半年に1回程度という市場のコンセンサスを崩すものにはならず、ペースの加速を示唆することもないとみている。
ブルームバーグが4-10日に実施したエコノミスト調査では、今週会合での追加利上げ予想はゼロだった。利上げのタイミングは7月の48%が最多で、次いで6月が15%、5月と9月が13%。一部で時期を前倒しする動きはあるものの、引き続き半年に1回程度の利上げペースが想定されている。
一方、連合が14日に公表した今春闘の第1回回答集計の平均賃上げ率は5.46%と前年の初回集計の5.28%を上回り、1991年の最終集計の5.66%以来の高水準となった。日銀の想定内だが、利上げ路線をサポートする内容と言える。世界経済の不透明感が強まる中で、日銀が重視する基調的な物価上昇率への影響や変化も注目される。
長期金利の上昇
堅調な賃金・物価のデータや日銀政策委員の情報発信などを踏まえ、市場が想定する今利上げ局面での政策金利の最終到達点(ターミナルレート)は徐々に切り上がっており、先の調査では1.25%に上昇した。こうした動きを踏まえて長期金利も上昇基調にあり、足元では約16年ぶりの1.5%超での取引となっている。
三井住友信託銀行の岩橋淳樹シニアエコノミストは、急ピッチな長期金利の上昇を日銀も注視していると考えられるとし、今会合では「植田総裁から長期金利の上昇に関するコメントがあるか注目している」という。
植田総裁は12日の国会で、将来の短期金利に対する市場予想を反映して長期金利が変動することは「自然な姿」と発言。その上で「通常の市場の動きとは異なる形で、長期金利が急激に上昇するといった例外的な状況」になれば、機動的に国債買い入れの増額を臨時に実施すると語った。
複数の関係者によると、日銀は最近の長期金利について、堅調な賃金・物価に関する指標や情報、それに基づく日銀の金融政策に対する見通しの変化、米欧金利の変動などを反映した動きで、国債買い入れの増額などで直ちに対応する必要性は乏しいと認識している。もっとも、急激な変動で景気や金融面に悪影響が出ないか引き続き注視していく方針だという。
商品券配布問題を受けて石破茂政権の支持率が急落しており、今夏の参院選を控えて政局流動化への懸念が高まっている。みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは17日付リポートで、支持率低下を踏まえて「内外の政治動向の不確実性から、日銀が追加利上げ時期を半年に 1度程度のペースから速める意欲が徐々に弱まりつつあるのかもしれない」と指摘した。
他のポイント
日銀は引き続き、見通しに沿って経済・物価が推移していると認識。見通しが実現していけば、引き続き利上げで金融緩和の度合いを調整していく方針も維持
5月1日に公表する新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)に向けて経済・物価・金融情勢を入念に点検。今回から展望リポートを議論する会合以外を含めて全会合に金融機構局が出席
生鮮食品の価格高騰が続く中、消費者物価は総合指数の伸びが生鮮食品を除くコア指数を上回る状況が続いている。コメ価格も高止まりしており、物価の基調を重視する日銀のコミュニケーションは一段と難しくなっている
巨額に上るドイツの防衛支出では、同国のティッセンクルップや英BAEシステムズ、中小のドローン製造業者など欧州の兵器メーカーが最も恩恵を受ける。事情に詳しい関係者が明らかにした。トランプ米大統領の言動で、欧州に対する米国の協力には疑問が生じている。
購買計画は非公表だとして匿名を条件に語った関係者によると、ドイツ政府が最優先で購入を計画しているのは、ティッセンクルップ・マリン・システムズ製の次世代フリゲート艦「F127」6隻、BAEとそのパートナー企業が製造する戦闘機「ユーロファイター」20機の追加だという。「F127」6隻の価格は150億ユーロ(約2兆4500億円)、「ユーロファイター」20機は約30億ユーロ。
18日の取引では欧州の防衛関連株が買われ、ティッセンクルップは一時7%、BAEは同1.3%、ユーロファイター製造を支援するエアバスは同0.6%、ラインメタルは4.5%、それぞれ上昇した。
今回は欧州製兵器の購入に力点が置かれ、2022年にドイツが前回まとめた1000億ユーロの防衛支出とは様相が異なる。当時は「バイ・アメリカン」が強く打ち出され、米防衛大手ロッキード・マーチンなどが開発した戦闘機「F35」を35機、ボーイングが製造する輸送ヘリコプター「チヌーク」60機、地対空ミサイルシステム「パトリオット」などを発注した。
関係者によると、ドイツ国防省はティッセンクルップ・マリンと次世代フリゲート艦の交渉を始める意向。取引は今年下期に議員らの承認を得る公算が大きいという。
国防省報道官はコメントを控えた。
欧州全域に及ぶ大規模な軍備増強は、各国政府が長年果たせなかったことを成し遂げるかもしれない。すなわち停滞する経済を活性化し、新たなイノベーションの種をまき、新産業を創出することだ。
英国をはじめドイツ、デンマークなどはロシアの脅威に対抗するため、軍事支出の大幅増額を発表している。その一方で米国は欧州に対し、米国による保護を当然だと受け止めるべきではないと警告している。
一部の経済専門家は、圧力にさらされる製造セクターを支え、新たな成長や輸出のエンジンを全開にさせるため、これはまさに欧州が必要とするものかもしれないと見ている。ただ、その過程では、高技能人材の不足といった数々のハードルに遭遇するだろうし、報酬の分配が均等にならない可能性もある、と彼らは警告する。
欧州の軍備増強は、一部の分野で犠牲を強いる可能性がある。欧州が冷戦終結以降、享受してきた「平和の配当」が解消されるためだ。だが最近の経済研究で、主に福祉国家の拡充を支える資金源となった平和の配当の利点が誇張されていた可能性が示唆されている。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は今月、軍事支出に約8000億ユーロ(約130兆円)の資金を確保することを目指す「欧州再軍備計画」を発表した。ドイツでは、次期首相に就任する見込みの保守派のフリードリヒ・メルツ氏が、同国の厳格な自主的債務制限から軍事支出を除外する案を提起している。デンマークは先月、今後2年間で国防予算を国内総生産(GDP)の3%超に引き上げると発表し、英国は2027年までに軍事支出をGDP比2.5%に引き上げる計画を明らかにした。
欧州委員会のウルズラ・フォンデライエン委員長は9日、これらの投資が「重要な産業に強力な追い風をもたらす」可能性があると述べた。人工知能(AI)や量子コンピューター、安全な通信、衛星ネットワーク、自動運転車、ロボット工学などが全て恩恵を受けられる状況にあるという。
軍事支出は、時に矛盾するさまざまな方法で経済に影響を及ぼす。短期的には、就業していない労働力や遊休資本を活用できるほか、民間企業や家計に支出と投資を促す効果がある。その一方で、国家の資金をもっと生産的になり得る用途から転用させ、借り入れコストを押し上げ、一部の民間投資を締め出す可能性がある。
長期的には、軍事支出が経済全般の効率性を高めるかもしれないとの調査結果がある。経済学者らは、政府が結ぶ防衛契約が規模の経済を促進し、民間産業のイノベーションを後押しする可能性があると指摘する。例えばインターネットは米国防総省で使われていた通信プロトコルを基に構築された。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のイーサン・イルゼツキ准教授は、「防衛力増強に呼応して(GDPが)実際に拡大することで意見が一致しているのは明白だ。パイ(の大きさ)は固定されているわけではない」と述べた。
確かに、弾薬や弾頭の生産は、工場の機械やインフラへの投資と同じ経済効果をもたらすわけではない。武器は生産のスピード化や移動時間の短縮を目的に使用されるのではなく、備蓄したり破壊したりすることを意図している。
だがイルゼツキ氏の試算によると、欧州の軍事支出をGDPの2%から3.5%に引き上げると、域内GDPが0.9~1.5%増える可能性がある。この推計は、キール世界経済研究所の依頼で同氏がまとめ、先月公表した経済文献の広範な研究に基づいている。
逆に、軍事支出の減少と景気減速が同時に起きることもある。イルゼツキ氏によると、米GDPの年間成長率は1960年代の約4%から最近は3%を切るまでに低下したが、同じ期間に軍事支出はGDP比8%から4%未満に縮小している。EUでは1960年代以降、GDP成長率が半減する一方、軍事支出は3分の2減少している。
理由の一つは、戦時や軍備増強時には盛んな最先端の研究への公共投資が、平時には失われることだ。軍事支出が一時的にGDPの1%分増加すると、長期的な生産性を0.25%高める可能性があるとイルゼツキ氏は明らかにした。経済学者のエンリコ・モレッティ、クラウディア・シュタインベンダー、ジョン・ファン・リーネン各氏が2019年に行った調査によると、政府が資金援助する軍事関連の研究開発(R&D)が10%増えると、民間R&Dを4%超押し上げる可能性がある。
「恐らく軍事支出を必要とせずに(最先端の研究を支援する)方法もあるはずだが、今のところ、そうした例はほとんど見られない」とイルゼツキ氏は述べた。「第2次世界大戦中のR&D活動がなければ、原子力がこれほど早期に現れることは想像しがたい。あるいは米航空宇宙局(NASA)がなければ、1960年代の宇宙探査技術の進展は考えられない」
欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ前総裁が2024年に発表した欧州の経済競争力に関する報告書によると、米国の軍事R&D支出は現在、欧州の12倍の規模がある。バークレイズの推計によると、ユーロ圏の政府防衛R&D支出のGDP比を米国並みに引き上げれば、防衛産業のR&Dが350~420%拡大するとみられる。
軍事支出は、現在働いていないが適切なスキルを持つ労働者に職を提供することにもなる。例えば、ドイツの自動車メーカーは、同国製の車に対する世界的需要が軟化したのを受け、数万人の人員削減を行っている。
「創出される職の種類は、まさに所得分布の中央付近で空洞化した雇用だ。高い学歴を必要としない、やや高給の仕事だ」とイルゼツキ氏は言う。
大西洋の両岸において戦争は産業発展の起爆剤となってきた。米国の南北戦争は、最初の大陸横断電信線や鉄道拡張などインフラ投資を刺激し、北部の工業化を促したように見える。
欧州では1870年の普仏戦争が、その結果統一されたドイツで芽生えた産業基盤を支え、クルップやBASF、シーメンスなどを巨大企業に押し上げたと考えられる。20世紀にはリチャード・ニクソン米大統領が米軍を朝鮮半島から撤退させる可能性を示唆し、それが韓国の軍需産業に対する政府支援の動機となった。オックスフォード大学の経済学者ネイサン・レーン氏の研究によると、1960年代終盤から80年代半ばにかけて同国の軍需産業はほぼ2倍に拡大した。
だがこれには、ただし書きが必要だ。軍事支出拡大の恩恵を最大限にするために、欧州は域外から軍事装備品を調達するのではなく、域内での製造を増やす必要がある。
現状はそうなっていない。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国による武器輸入は、2020~24年にその前の5年間と比べて2倍余りに増加。米国がそれらの武器の64%を供給した。
歴史的にみると、欧州は防衛装備品のはるかに大きな部分を域内で調達していた。ゴールドマン・サックスによると、2005~22年の間、フランスは約90%、ドイツは80%を域内で購入した。
他にも課題がある。高齢化が進む欧州では、十分な数の高技能労働者を見つけることが難しくなるだろう。またフランスやイタリアのような重債務国が軍備増強の費用を借り入れるには限界がある。
これらを含めた理由から、ドイツは大半の国々よりも恩恵を受ける可能性が高い。同国は大規模で活用の余地がある産業基盤を持ち、公的債務が比較的低水準にある。
欧州での競争激化を投資家が予想する中、ドイツのラインメタルやイタリアのレオナルドといった欧州防衛大手の株価は今年に入って急騰する一方、事業規模で上回る米国の同業ロッキード・マーティンなどの株価は低迷している。
「欧州は軍事輸出で手ごわい勢力になるだろう」。ピーターソン国際経済研究所のジェイコブ・カークガード上席研究員はこう述べた。
(サマリー)今週の会合でFRB当局者は金利を据え置くと予想されているが、経済や金利の将来的な動向についての見解を調整する可能性がある。
委員会は2回の利下げ見通しを維持するか、1回または両方を撤回するか、あるいは、ありそうにないが、景気減速の可能性に対する懸念表明としてさらに利下げを追加するか、あらゆる可能性が検討されているようだ。
ジェローム・パウエル議長とその同僚たちはここ数週間、何かを急ぐ必要のない忍耐強いアプローチを主張してきた。
(サマリー)ファンドマネージャー、ストラテジスト、アナリストを対象にしたCNBC連銀調査によると、景気後退の確率は1月の23%から36%に上昇した。
2025年の平均GDP予測は2.4%から1.7%に低下し、関税がインフレに代わって米国経済に対する最大の脅威とみられている。
回答者の4分の3は、今年2回以上の0.25ポイントの利下げを予想している。
●中東情勢
●エマージング
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
ドイツ連邦議会が財政規律を緩和する憲法改正案を可決したことで、ユーロが対ドルで上昇し、ドルは軟化。しかし、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を控え、為替相場の動きは限定的だった。  
米国債市場では、FOMC後のパウエル議長の発言がハト派寄りになるとの見方から、債券利回りが低下。10年国債利回りは4.274%、2年債利回りは4.034%となった。  
米株式市場は下落し、成長株が特に売られた。アルファベットはサイバーセキュリティ企業ウィズを約320億ドルで買収すると発表し、株価は2.2%下落。エヌビディアも3.35%下落した。  
金先物は中東情勢の緊迫化で安全資産としての需要が高まり、過去最高値を更新。一方、米原油先物は供給懸念の後退で3営業日ぶりに下落した。
ロンドン株式市場は続伸し、銀行株と貴金属株の上昇が相場を押し上げた。FTSE 250種指数は0.35%高、HSBCは1.9%上昇。金価格の最高値更新を背景に貴金属株も1.84%上昇した。イングランド銀行と米FRBは金利据え置きを決定する見通しで、年内に2回の利下げが予想されている。  
欧州株式市場もドイツの財政規律緩和による軍事支出拡大の影響で続伸。DAX指数は0.98%高、銀行株指数は2.48%高と2011年以来の高値に。シーメンスは人員削減計画が評価され1.2%上昇した。  
ユーロ圏債券市場では、ドイツ債利回りが国債発行増の見通しから上昇。ドイツ10年債利回りは2.815%に達し、今後3年で4%に上昇する可能性が指摘されている。

備忘録(2025/3/17
●海外企業決算
●海外企業
●日本企業
●先進国政治動向
●先進国中銀、金融当局
欧州中央銀行(ECB)は17日に公表した経済ブレティンで、ユーロ圏の住宅市場は最近の低迷からすでに回復しており価格は一段と上昇する可能性が高いとの見方を示した。
インフレ急伸、エネルギーや金利の上昇などで2022年以降、住宅価格は低迷。しかしECBは、ピークから底まで1年半の下落率は3%で、5%近く下落した世界金融危機や債務危機の時よりも下落幅は小さいと指摘した。
「住宅価格の水準は高止まりしている。このため金融引き締め度の縮小にもかかわらず、住宅の値ごろ感に悪影響を及ぼしている」と指摘。「供給制限と需要ファンダメンタルズが引き続き健全な点を考慮すると、住宅価格の上昇は続く可能性がある。これは経済全体にとって健全な見通しではない」との見方を示した。
ECBはまた、ユーロ圏20カ国中12カ国の景気が下振れしているとし、過去は周縁国が中心だったが今回はドイツが主導しているとした。
●先進国経済指標
全米住宅建設業者協会(NAHB)が17日発表した3月のNAHB/ウエルズ・ファーゴ住宅建設業者指数は39と、前月から3ポイント低下し、2024年8月以来7カ月ぶりの低水準を付けた。
トランプ米政権が打ち出している関税措置の影響で建設コストが押し上げられたことが背景。ロイターがまとめたエコノミスト予想は42だった。
3月の指数の低下で、昨年11月の米大統領選でトランプ氏が当選した後の上昇分が全て帳消しになった。消費者信頼感などの信頼度を示す他の指標も同様に低下している。
NAHBの主任エコノミスト、ロバート・ディーツ氏は「建設業者は関税措置による追加的なコスト圧力に直面している」と指摘。「建設業者は関税措置による全般的なコスト面の影響は、住宅1戸当たり9200ドルになると見積もっている」とし、「開発業者と住宅購入者の双方に、政策の不確実性によるマイナスの影響が及んでいる」と述べた。
現在の販売状況を示す指数は43と、前月から3ポイント低下し、23年12月以来の低水準を付けた。向こう6カ月間の販売予測を示す指数は47と、前月から横ばいだった。
ニューヨーク連銀が17日発表した3月のニューヨーク州製造業業況指数はマイナス20.0となった。前月のプラス5.7から悪化し、2023年5月以来の大幅な落ち込みとなった。市場予想はマイナス1.5だった。
報告書は新規受注と出荷の減少を指摘。「投入価格は2年超ぶりのペースで急上昇し、販売価格の上昇も引き続き加速。見通しに対する楽観論は2カ月連続で大幅に後退した」と述べた。
トランプ米大統領が打ち出す関税措置に対応するため、製造業が苦悩している状況を反映しているとみられる。
トランプ大統領は17日、鉄鋼とアルミニウムに対する関税に例外を設けるつもりはなく、4月2日に相互関税と分野別関税を課すとの意向を改めて示した。
米商務省が17日発表した2月の小売売上高(季節調整済み)は前月比0.2%増と、前月の1.2%減(下方改定)からプラスに転じた。関税や連邦政府職員の大量解雇などが景況感を圧迫する中、伸びは市場予想の0.6%を下回った。
経済成長は緩やかに続いているものの、レストランやバーの売上高が減少するなど、消費者が裁量的支出を控え慎重になっている姿が浮き彫りになった。
パンテオン・マクロエコノミクスのチーフ・エコノミスト、サミュエル・トムズ氏は「この報告は、経済がすでに縮小しているという懸念を和らげるだろう。しかし雇用の安定に対する懸念から、消費者が貯蓄のバッファーを再構築しようとするため、成長率が大幅に低下するリスクが高まっている」と指摘した。
2月は前年同月比では3.1%増となった。
月次では、オンラインストアの売上高が2.4%増加したことが押し上げ要因となった。健康・パーソナルケア専門店は1.7%増、建材・園芸用品店は0.2%増加した。
一方、自動車販売店の売上高は0.4%減少した。1は3.7%減少だった。家具は横ばいだったが、衣料品は0.6%減、家電量販店は0.3%減だった。
サービス部門として小売統計に唯一含まれる飲食店は1.5%減少となった。1月は横ばいだった。エコノミストは外食を家計の重要な指標と見なしている。
ガソリン価格の下落により、ガソリンスタンドの売上高は1.0%減少した。
自動車、ガソリン、建築資材、食品サービスを除く小売売上高は1%増。1月の1%減(下方改定)から回復し、市場予想の0.3%増を上回った。
●金融市場、先進国トピックス
昨年秋の米大統領選の翌日、米国株は急騰した。そうならないはずがなかった。投資家はドナルド・トランプ氏の大統領2期目は1期目と同様に、減税や規制緩和、経済成長が優先されるはずだと考えた。関税は十分な時間をかけた議論の後に導入され、トランプ氏は株式市場をリアルタイムの成績表とみなすはずだった。
トランプ氏の顧問らの見解もそうした想定を後押しした。投票日から数日後、現在は財務長官を務めるスコット・ベッセント氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)への寄稿で「『トランプ2.0』の経済ビジョンに対する市場の明確な支持」を歓迎し、トランプ氏が「貿易が自由で公正であることを確実にする」との見通しを示した。
当時の企業や投資家、そしてトランプ氏の多くの顧問が同氏の意図を読み誤っていたことが今や明らかになった。トランプ氏の優先事項は彼らのものとは異なっていた。ここ数週間、同氏は株式市場の調整や、インフレと成長鈍化に対する警告を無視し、一つの目標を追求する姿勢を鮮明にしている。つまり、輸入品の生産を国内工場に回帰させるほどの高関税を課すことであり、これは数十年かけて構築されたサプライチェーン(供給網)の破壊につながる。
トランプ氏の発言はより冷静で挑戦的なものに変化した。米国の「黄金時代」が始まると就任演説で宣言した大統領は、今では米国がリセッション(景気後退)に陥る可能性を排除していない。かつて株式市場について執拗(しつよう)にツイートしていた大統領は、今では気にも留めない態度だ。
国民に対しては、長期的な視点を持つよう促している。トランプ氏は9日に放送されたFOXニュースのインタビューで、「中国を見れば、彼らは100年の視点を持っている」と語った。
だがトランプ氏自身は、100年先を見通すというより、思い付きのように政策を発表し、数日後に変更することで知られている。直近の関税もいつ撤回するか、あるいは強化するか予想がつかない。
ただ方向性は明確で、金融界にとっては厳しい現実となる。トランプ氏が大統領1期目退任後の4年間に(新自由主義の経済学者)ミルトン・フリードマンの信奉者になったとは誰も思っていなかった。1期目では、主流派の顧問らがトランプ氏の過激な衝動を抑えていた。ほとんどが主流派の2期目の経済チームでも同様のことになると多くが考えていた。新政権での顔ぶれは財務長官のベッセント氏、商務長官のハワード・ラトニック氏、国家経済会議(NEC)委員長のケビン・ハセット氏らだ。
ベッセント氏は1年前、金融業界の顧客に対して「関税はインフレ要因」との見方を示し、「関税という銃は常に装填(そうてん)されテーブルの上に置かれているが、めったに発射されることはない」と述べていた。ラトニック氏は9月、関税は他国に関税を引き下げさせるための「交渉材料」だとし、米国が生産していないものには課されないだろうと話していた。今月9日にハセット氏は、米国はカナダに対して「麻薬戦争を開始したのであって、貿易戦争ではない」と主張した。
だが2期目のトランプ氏は、顧問らや議会、あるいは歯止めとして機能するはずのその他を尊重する態度をほとんど見せていない。米調査機関タックス・ファンデーションによると、トランプ氏が「関税銃」を発射し続けた結果、新たな関税の対象となる輸入品はすでに1兆ドル(約150兆円)規模に上り、まもなく1.4兆ドルに達する見込みとなっている。これは1期目の総額の約4倍になる。
トランプ氏は、米国が生産していないものを関税の対象外にはしていない。他国に関税を引き下げさせるために関税を使う、ということも少なくとも今のところはしていない。そして、カナダに貿易戦争を仕掛けているのは表向きの理由である合成麻薬「フェンタニル」とは何の関係もなく、カナダの貿易黒字やカナダによる米国の銀行や乳製品に対する扱い、また、あくまで独立した国であるとするカナダの主張などに関係していると思われる。
米政権当局者は4月2日に「相互関税」の実現可能性について報告する予定となっているが、世界は準備ができていないかもしれない。相互関税は当初、米国の関税を他国から課される関税と同水準にすることを意味し、したがって引き上げと引き下げのどちらもあり得ると考えられた。これは、全ての国と全ての品目に対する一律的な関税よりも穏やかな選択肢となるはずだった。
だがトランプ氏は、付加価値税を含め、不公正な貿易障壁とみなすあらゆるものを、相互関税を課す理由にする姿勢を示している。これは単に関税を大幅に引き上げるための別の口実になる可能性が高い。
貿易に関してトランプ氏の意図を読み誤った企業や投資家は、税金と規制緩和については同氏を正しく理解できるだろうか。おそらくできるだろうが、どちらに関しても、彼らではなくトランプ氏の優先事項が反映されるであろう、というただし書きがつく。
議会の共和党は、2017年に制定した減税措置を全て延長する方針を示す。また、企業にとって重要な、設備投資や研究開発に関する期限切れの税制措置の一部を復活させることも検討している。
ただ、単に過去の減税を延長したり復活させたりするだけでは、初めて減税を導入する場合ほどの景気刺激効果はない。さらに言えば、2017年の税制改革は主に、投資活性化と米国の競争力向上を優先事項とみなす共和党議員によって設計された。このための措置である法人税率の35%から21%への引き下げと、海外利益への課税負担の大幅軽減はいずれも恒久的なものだ。
これに対し、新たな減税はトランプ氏の優先事項を反映したものになるだろう。チップ、残業手当、社会保障給付への減税だが、これらは投資活性化にはほとんど効果がない。トランプ氏は15%の法人税率を提案しているものの、対象を米国内での生産に限定している。これは2017年に共和党が廃止した税制優遇措置をまねている。コストが高いことや、管理が難しく効果が低いことが廃止の理由だった。
規制緩和については、企業やアナリストは強気の見方を維持している。トランプ氏はバイデン前政権時代の規則を撤廃し、消費者金融保護局(CFPB)などさまざまな政府機関の執行担当者を解雇する動きを加速している。
ここでも注意すべき点がある。トランプ氏は政治的な敵対者を罰する狙いでも規制権力を行使している。米娯楽・メディア大手パラマウント・グローバルと米映画製作会社スカイダンス・メディアの合併実現を危ぶむ声があるのもこのためだ。トランプ氏は、大統領選で民主党候補だったカマラ・ハリス氏が報道番組「60ミニッツ」のインタビューに出演した際にどのような編集がなされたのかを問題視し、パラマウント傘下のCBSを提訴している。民主党とつながりがある米大手法律事務所パーキンス・クイに対してトランプ氏が機密情報へのアクセス権や政府との契約、連邦建物へのアクセス権を剝奪する命令を出したことも、企業幹部らが注目するところとなった。
企業経営者は実業界を代表する立場ではトランプ氏の大統領復帰を歓迎しているものの、個人レベルでは多くが懸念を抱いている。
トランプ氏の恣意(しい)的で個人的な政策決定は、企業が求める予測可能性とは相反する。トランプ氏は、(一部の顧問が試みたように)一貫性のある政策課題を提示し、憲法が規定するように議会に新たな関税を法制化するよう求めるなど、その実施プロセスを明確にすることで経営者らの不安を和らげることができるだろう。
ただ、それはトランプ氏のやり方ではない。同氏は関税やその他の措置を発動したり撤回したりする裁量権はディール(取引)に不可欠なものだと考えている。
結果として、経済政策の不確実性は現在、2001年の米同時多発テロ、2008~09年の世界金融危機、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行開始といった過去の衝撃に匹敵するほどの水準に達している。これらは全て米国がコントロールできない出来事によって引き起こされた。今回は人為的なものであり、その人物の言動によって不確実性は高まったり低下したりするだろう。
関税、政府機関の人員削減、拠出金の削減、移民取り締まり――。ちまたではリセッション(景気後退)が話題に上っている。
これらはいずれも、少なくとも一時的には米経済にとっていくらか重しになる可能性がある。もしも同時に起きれば、即座に全方位に作用し、経済が大きな打撃を受けかねない。
ホワイトハウス高官は、経済には「デトックス(解毒)期間」(スコット・ベッセント財務長官)が必要かもしれないと警告している。一方で、ドナルド・トランプ大統領が約束した規制緩和や大型減税などは多くの企業にとって恩恵で、投資や雇用の拡大を促す可能性がある。
主な経済指標には、トランプ政権の影響はまだ十分に表れ始めていない。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はその他の指標に注目し、米国が景気後退を回避できるのか、それとも景気後退入りするのかを考察した。以下は企業、消費者、労働者に焦点を当てた指標だ。
企業幹部は「ソフトランディング」と言わなくなった
過熱した経済を冷ましつつ景気後退を回避するプロセスを指す「ソフトランディング(軟着陸)」という言葉は、アルファセンスのデータによると、2024年10-12月期の米国企業の説明会のうち61回で言及された。だが25年に入ると7回に減少した。
企業幹部は公の場でトランプ政権の政策を批判することを控えている。だが、「チーフ・エクゼクティブ」誌が3月4・5日にCEO220人に実施した調査では、12カ月後の業況見通しは12年11月以来の低水準に落ち込んだ。
代わりに関税が話題に上っている。ファクトセットによると、1-3月期はこれまでに、S&P1500種指数構成企業の決算資料に「関税」が683回登場している。前年同期は49回だった。
米自営業者連盟(NFIB)が11日発表した2月の中小企業楽観度指数は低下したものの、平均は上回った。一方、不確実性指数は過去2番目の水準に上昇した。このデータは中小企業509社への調査に基づく。
米国のニュース記事に基づく「政策不確実性指数」は大きく上昇した。足元では、データをさかのぼることができる1985年以降で2番目の高水準に達した。唯一これを上回ったのは新型コロナウイルス流行初期だ。
ホワイトハウスの規制緩和を歓迎している企業にとってさえ、不確実性は問題を招きかねない。どの製品に何%の関税が課されるかが分からなければ、効果的な計画や投資、採用は難しい。ダラス地区連銀の2月の製造業調査では、ある化学工場が「関税の脅威と不確実性は極めて破壊的」と回答した。
あらゆる所得層の消費者があらゆる種類の購入を控えている
米国民は経済に対する懸念を強めている。ミシガン大学が14日発表した3月の消費者信頼感指数(速報値)は、2022年11月以来の低水準に落ち込んだ。「年齢、学歴、所得、資産、支持政党、地域を問わず、全ての層で一貫して低下が見られた」という。
消費者は給油のためにガソリンスタンドに立ち寄っても、ついでに併設店でライスケーキ(コメでできたポン菓子)やジャーキーなどを買うのを控えるようになった。ウォルマートでは、顧客の懐が寂しくなる月末は少量サイズの商品が売れる。
酒類は小瓶入りが人気だ。ウイスキーやテキーラのメーカーによると、50ミリリットルや標準サイズの半分の375ミリリットル入りの売り上げが伸びている。
ウイスキーの「ジャックダニエル」で知られる米酒類大手ブラウンフォーマンのローソン・ホワイティング最高経営責任者(CEO)は、「消費者は苦しんでいる」と述べた。
米カジュアル衣料小売り大手のアメリカン・イーグル・アウトフィッターズのジェイ・ショッテンシュタイン最高経営責任者(CEO)は12日、先が読めないことへの恐れが顧客の重荷になっていると指摘。「人々は自分にどんな影響が及ぶかが分からない」とし、「自分が何を分かっていないかが分からないと、人は非常に保守的になる」と述べた。高級ブランド店も売れ行きは落ちている。
とりわけ航空券は需要が鈍っている。米デルタ航空のエド・バスティアンCEOは先週の投資家向け説明会で、「景況感や消費者信頼感に何かが起きている」と述べた。
駆け込みの予約はとりわけ不振だ。企業は出張に慎重になり、価格に敏感な国内のレジャー客は目先の旅行を控えている。
移民が多い地区の中小企業は、トランプ氏の大統領就任後に消費が減ったと指摘する。強制送還への懸念が背景にあるという。
影響は大企業にも及ぶ可能性がある。米日用品大手コルゲート・パルモリーブの投資家向け広報責任者ジョン・フォーチャー氏は「ここ数カ月」で消費者需要が幅広く減速したことに懸念を示し、「ヒスパニック系の客足が落ちている」と述べた。
不安募らす労働者
多くの指標が労働市場はまだ堅調であることを示唆している。2月の失業率は4.1%と歴史的に見て低水準にあり、就業者数は15万1000人増加した。
それでも、人員削減のニュースを聞いたり、雇用主が支出を抑えていると感じると、自分の仕事が危険にさらされているとの危機感を覚えるかもしれない。結果的に倹約するようになれば、経済問題は雪だるま式に悪化しかねない。
実際、労働市場を巡る懸念は突如高まった。ニューヨーク連銀の消費者調査では、1年後に失業率が上昇するとの予想確率は1月に34%と、21年6月以来の低水準だったが、2月には39.4%に跳ね上がり、23年9月以来の高水準となった。
米求人情報サービス大手グラスドアの指標は、さらに急激な見通しの変化を示している。勤務先に対する今後6カ月間の見通しが肯定的だった従業員の割合は2月に44.4%に低下し、データをさかのぼれる16年以降で最も低い水準を記録した。
米民間雇用調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが証券当局への提出文書やニュース報道、州当局の報告書を基に算出したところ、米国の雇用主が計画している人員削減は2月に17万2017人に上った。これは月間では20年7月以来の高水準で、24年のほぼ3倍のペースだ。政府部門の人員削減の急増が増加の一因だが、民間部門も2倍以上に増えた。
新規失業保険申請件数はおそらく、労働市場に問題が起きていることを最も早い段階で示す指標だ。これが急増したらいよいよだ。
良いニュースもある。米労働省が13日発表した3月8日までの週の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は22万件と、前週の22万2000件からわずかに減少し、ここ数年続いている低水準にとどまった。
だが、失業してから失業保険を申請するまでには多少時間がかかる。退職金を受け取っていたらすぐには申請できない。そのため、申請件数が低水準なのは安心材料とはいえ、完全に安心できるわけではない。さらに、首都ワシントン一帯では労働市場が悪化している。ワシントン、バージニア州、メリーランド州の先々週の申請件数は、季節調整前で前年同期比49%増加した。
この数字には連邦政府職員は含まれていない。連邦政府職員の支出に依存している企業や、それ以上にトランプ氏が削減した米国際開発局(USAID)などの政府プログラムの支出に依存している企業の二次的被害は反映されている。
別の区分である連邦政府職員の新規失業保険申請件数は増加した。直近週は1066件で、前週の1580件から減少したものの、大統領就任式の前週の494件からは増えた。
米国人は給油のためにガソリンスタンドを訪れても、ついでに併設店でスナックやたばこを買わなくなっている。
こうした行動の変化は、米国でよく食べられるスナック菓子「ドリトス」やスポンジケーキ菓子「トゥインキー」、チョコレート菓子「ヒース」、そしてたばこの「ニューポート」の売れ行きに影を落としている。
市場調査会社サカーナによると、米国のコンビニエンスストアでは物価上昇の中で、2月23日までの1年間に販売数量が4.3%減少した。これらの店舗で購入されるスナックでは、ライスケーキ(玄米でできたポン菓子)が最も大幅に落ち込み、次いでディップ(チップスなどをつけるソース)やナッツ、ジャーキーなどが続いた。サカーナのデータによると、冷蔵・冷凍商品の販売数量は約7%減少し、チョコレート菓子は6%減少した。
シカゴ郊外のサークルKの店舗では、店員のデービッド・グエリーノさんが、子ども連れの大人の顧客はおやつを買わされる前に足早に店を出ていくと話す。アイスクリームやシガリロ(小さい葉巻)など幅広い分野で、購入する商品数が減っているという。この店に置いているチップスの大袋は現在7ドル(約1000円)だ。
「もう手が届かなくなっている」とグエリーノさんは言う。「必需品でもなければ、以前ほど簡単に買おうとはしない」
米国の2月の消費者信頼感指数は大きく低下した。ドナルド・トランプ大統領の主導する貿易戦争が今後物価を押し上げるとの懸念を反映している。
「消費者は目下、多くの商品を見て『うわ、こんなに高かったことは記憶にない』と言っている」。全米コンビニエンスストア協会の調査・教育担当バイスプレジデント、ローリー・バス・スティルマン氏はこう述べた。
BNPパリバ・エグザンのアナリスト、マックス・ガンポート氏は、健康的な食事に対する関心が高まり、スナックをつまむことに以前ほど寛大でないことも、コンビニエンスストアの販売不振の原因になっていると指摘した。
米飲料品・スナック大手ペプシコのラモン・ラグアータ最高経営責任者(CEO)は、ガソリンスタンドで給油後に併設店に入ることもしないドライバーが多いと話す。全米たばこ販売店協会によると、喫煙者の中にはいつもはカートンで購入するが、最近は1箱ずつ買っている人もいる。
コンビニエンスストアに客を呼び込むため、ペプシコは例えばドリトスに温かいナチョスチーズソースやトッピングを組み合わせるなどの軽食メニューを開発している。米食品大手JMスマッカーは、セブン―イレブンで限定版チェリー味トゥインキーを発売した。たばこ大手レイノルズ・アメリカンは、より手頃な価格のニューポートを発売し、価格に敏感な喫煙者にアピールしたい考えだ。
販売低迷は、JMスマッカーが最近買収したトゥインキーの製造元、ホステス・ブランズにも影響を及ぼしている。
「ガソリン価格が高騰しており、自由に使える小銭がどうしても減ってしまう」とJMスマッカーのマーク・スマッカーCEOは述べた。
JMスマッカーは2023年にホステスを50億ドルで買収し、コンビニエンスストア市場への足場を築いた。そこでサンドイッチ商品「アンクラスタブルズ」などの販売を伸ばす狙いがあった。JMスマッカーは2月、ホステスを含む甘い焼き菓子部門の2024年11月-25年1月期(第3四半期)の売上高が7%減少したと明らかにし、同事業に関連して2件の減損費用を計上した。合計10億ドル余りになる。
JMスマッカーは、物価高と裁量的支出の減少に直面した消費者がさまざまな種類の店で支出を抑えていると指摘。ホステスの業績を復活させるため、同社は販路を拡大し、同ブランドの包装を刷新し、新製品を投入すると述べた。
一方、菓子大手のハーシーは、チョコレート商品の需要低迷に苦しんでいる。同社によると、コンビニエンスストアでの販売が不振で、消費者がコンビニでの買い物を減らし、1ドルショップやウォルマートなどの大型小売店にシフトしていることが一因だという。
ハーシーはコンビニ顧客の少なくとも40%をターゲットに「ゴールド・スタンダード・プラノグラム」を用いて販売を伸ばしたい考えだ。これはデータに基づき、所定の店舗に並べるチョコレート菓子の特大サイズと標準サイズの最適比率などを決める手法だ。同社はコンビニエンス向け主力ブランドのマーケティングも強化していると述べた。
サークルKの店員グエリーノさんは、コンビニエンスストアに来る顧客が依然として夢中になっている商品が一つあると話す。それは宝くじだ。
「宝くじの売れ行きが落ちることは絶対にない」と彼は言う。
(サマリー)「主要分野での戦略的自立性の構築は、現在、欧州全体で緊急の課題として認識されている」とエアバス、ダッソー・システムズなどの書簡は述べている。
署名者は90社を超える欧州企業およびロビー団体。
「欧州は主導権を取り戻し、論理インフラ(アプリケーション、プラットフォーム、メディア、AIフレームワーク、モデル)から物理インフラ(チップ、コンピューティング、ストレージ、接続性)まで、重要なデジタルインフラのすべての層で技術的に自立する必要がある」と書簡は付け加えた。
ドナルド・トランプ米大統領は、数十年にわたって続いてきた地政学的秩序に前例のない挑戦を仕掛けた。その犠牲になりそうなものの一つが、米ドルだ。
わずか数週間のうちに、関税の大幅引き上げと貿易を巡る不確実性により米国の経済成長が鈍化する、との懸念が高まった。同時に、米外交政策の急転換を受けて欧州経済に対する楽観論が強まった。その結果、ドルはユーロに対して急落し、欧州株は過去最高値を更新、ドイツ国債利回りは「ベルリンの壁崩壊」直後以来の大幅上昇となった。
主要16通貨のバスケットに対するドルの価値を示すウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ドル指数は過去9週のうち7週で下落し、昨年11月5日の米大統領選以降の上昇分をほぼ帳消しにした。
こうした金融市場の混乱が続けば、世界の投資フローから欧米間の観光客の流れに至るまで、あらゆる面に影響を及ぼす可能性がある。
米国の政治指導者は何世代にもわたり、ドルの世界金融システムにおける優位性を概して受け入れてきた。政府の借り入れコストを抑えられるなどのメリットがあったからだ。米国の国防支出はドルの優位性向上に一役買った。国防費は財政赤字を押し上げ、その大部分を外国人投資家が賄ってきた。外国人投資家は米国債の約3分の1を保有している。
しかし今、トランプ氏とその顧問の一部は、同盟国の防衛に費やすリソースを減らしたいと明言している。また、米国内の製造業を後押しするため、ドル安を望む考えも示している。ドル安になれば、外国の買い手にとって米国製品が割安になるためだ。
ゴールドマン・サックスの最高経営責任者(CEO)を務めたロイド・ブランクファイン氏は「これらの政策をマクロ的に見ると、そこには方法論がある」と指摘する。「市場にとってのリスクは短期的な混乱だ。しかし、自動車の価格が今より数千ドル高くなっても、モノを作ることができ、自分たちが作ったものを買える労働力が備わるなら、米国はもっと良くなると思う」
しかし、市場関係者の多くは、こうした変化のマイナス面を懸念している。ドル安は輸入品を割高にし、インフレを押し上げ、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを困難にする。米国資産からの資金流出はドル安を引き起こすだけでなく、株価を押し下げ、米国の借り入れコストを上昇させる可能性もある。
ドル相場が近いうちに急落するとの声は少ない。その理由の一つは、先進国の中で米国よりも金利が高い国はほぼなく、外国から米国への投資が続くと見込まれるためだ。
それでも「ここ数週間の出来事はゲームチェンジャー(流れを一変させる要因)となるかもしれない」と、ノーザン・トラスト・ウェルス・マネジメントのケイティ・ニクソン最高投資責任者(CIO)は言う。
このところのドル安は投資家の意表を突く形となった。多くの投資家は長らく、トランプ氏が総じて、共和党の伝統である減税と規制緩和を重視した政権運営を行うと考えていた。
トランプ氏の当選後、関税引き上げが小幅にとどまり米経済成長が加速するとの見方から、当初は株価とドルが上昇した。
投資家は今、そうした想定を見直している。トランプ氏はすでに米国の主要貿易相手国からの輸入品に大幅な関税を課し、さらなる関税を示唆している。これに対し、カナダと中国は即座に報復措置を取った。トランプ政権は数千人の連邦政府職員の解雇に動いている。「減税」はすっかり脇に追いやられている。
これら全てが米国の経済成長期待を押し下げている。投資家は、消費者物価を押し上げるのが確実な関税そのものと同じくらい、関税を巡る不確実性を懸念している。
対照的に、欧州への期待は急激に高まっている。これは良好な経済指標が相次いだことが一因だが、2月下旬にトランプ氏とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が公の場で激しい口論となった後、欧州が軍事支出を増やす動きを見せたためでもある。
口論の数日後、ドイツの指導者らは米国がもはやドイツの利益を守るのを助けてくれないかもしれないと懸念し、軍事力増強のための借り入れを数十年ぶりに解禁すると発表した。欧州連合(EU)も数千億ユーロの防衛費調達計画と加盟国レベルでの財政ルール緩和について概要を示した。
投資家にとって重要だったのは、これらの発表が持続的な投資を約束したことだった。
過去数十年を振り返ると、ユーロがドルに対して一時的に上昇したことは何度かあった。しかし、今回のユーロ高・ドル安は持続する可能性がある。なぜなら、欧州が約束しているのは「新型コロナウイルス禍を受けた景気刺激策のような1回限りのものではない」からだと、投資助言会社カーソン・グループのグローバル市場ストラテジスト、ソヌ・バルギース氏は述べる。
これまでのところドル安はそれほど進行しておらず、米国の輸出業者に大きな違いをもたらすほどではない。
それでもドル安は市場関係者の注目を集めている。トランプ氏が長年目指してきたことと合致するからだ。トランプ氏はドル高是正を頻繁に訴え、昨年には「(ドル高は)製造業にとって大惨事」だと述べていた。
米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長として最近承認されたスティーブン・ミラン氏は昨年の論文で、トランプ氏がドル安実現のために取り得る方法として、いくつかの非伝統的な方法を示した。その一つは、外国人の米国債購入者に利用料を課すことだった。
市場関係者の一部はこうした構想を真剣に受け止めている。足元のドル安の一因は、投資家がトランプ政権の目標を知っていることにあると、ボヤ・インベストメント・マネジメントの投資責任者エリック・スタイン氏は言う。
だが、トランプ氏の政策が思惑通りに進むのかは疑わしいとの声もある。
一つには、トランプ氏の減税へのこだわりは、連邦財政赤字の高止まりを意味する可能性が高い。米外交問題評議会のブラッド・セッツァー上級研究員はそう話す。赤字を賄うためにさらなる借り入れが必要になれば、米国債利回りは高水準にとどまり、高利回り資産を求めるグローバル投資家の需要を背景に、ドルに上昇圧力がかかるはずだ。
別のシナリオでは、ドル安が続き、トランプ氏が米国の貿易赤字を縮小するという目標を達成する可能性もあるが、それはあくまで米経済が苦境に陥った結果に過ぎないと、セッツァー氏は述べる。
外国人投資家は米国以外の資産に資金を移したくなるかもしれない。しかし、米国の代わりとなる投資先にも問題があり、欧州もそれは同じだ。
「これら全てが不確実性を生み出している」。ゴールドマン・サックスの元共同会長で、クリントン政権で財務長官を務めたロバート・ルービン氏はそう語る。「一方で、外国企業や投資家は他にどこに行けばいいのだろうか」
●中東情勢
●エマージング
中国の1─2月の発電量は前年同期を下回った。発電量が前年を下回るのは、新型コロナウイルスの流行が本格化した2020年、世界金融危機後の09年を除くと1998年以来となる。最大の電源で、石炭を主体とする火力発電の減少が主な要因。暖冬も影響した。
中国国家統計局によると、1─2月の発電量は前年比1.3%減の1兆4900億キロワット時(kWh)。
火力発電は5.8%減の1兆0200億kWh。火力発電は、ほとんどが石炭を熱源とし、天然ガスの比率はわずかだ。24年は1.5%増加と、コロナ禍を除いて9年ぶりの低い伸びにとどまった。
第2位の電源の水力発電は4.5%増の1461億kWh。
再生可能エネルギーの太陽光発電と風力発電はそれぞれ27%、10%増加した。ただ、国家統計局のデータは、分散して設置される小規模な太陽光発電の発電を完全に盛り込んでいないため、実際はさらに多い可能性がある。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場**  
ドルはユーロに対し5カ月ぶりの安値付近で推移。トランプ政権の保護主義政策への懸念が影響し、投資家は慎重姿勢を維持。ユーロはドイツの財政拡張期待で上昇。ドル/円は149.16円と、先週の安値146.52円に近い水準。  
**米債券市場**  
2月の米小売売上高の「コア」部分が予想を上回り、国債利回りが上昇。10年債利回りは4.31%、2年債利回りは4.055%まで上昇。  
**米株式市場**  
主要指数は続伸。ナスダックやS&P500が4週連続下落後、割安感から買いが入る。テスラは目標株価引き下げで4.79%下落。一方、量子コンピューター関連株が急騰。  
**金・原油市場**  
金は米FRBの政策決定を前に続伸し、1オンス=3006.10ドルで最高値を更新。原油は地政学的リスクや中国の景気刺激策期待で上昇し、WTI先物は1バレル=67.58ドル。
ロンドン株式市場は続伸し、石油や貴金属株の上昇が相場をけん引。米国の対フーシ派攻撃継続表明を受け、石油価格が上昇し、シェル株が1.6%上昇。貴金属株指数も2.92%高。保険大手フェニックス・グループは通期業績が予想を上回り10.7%急伸。  
 欧州株式市場も続伸し、エネルギー株やヘルスケア株が上昇。ドイツDAX指数は0.73%高で、年初来の上昇率は15%超。ロシア・ウクライナ紛争の終結期待が影響。米FRBや英中銀の金融政策会合を控え、金利据え置きが予想される。  
ユーロ圏債券市場では、ドイツ国債利回りが低下。ドイツ財政拡張案の議会採決や主要中銀の政策決定を控え、債券市場は慎重な動き。フィッチがフランスの格付けを据え置き、独仏10年債利回り格差は67bpsにとどまった。

備忘録(2025/3/14-16
●海外企業決算
世界の主要半導体企業10社の2024年10〜12月期の合計純利益は、前年同期比69%増の517億ドル(約7兆6000億円)だった。過去最高を3年ぶりに更新した。生成AI(人工知能)を運用するデータセンター向けの需要が急拡大し、米エヌビディアが8割増益となった。一方で電気自動車(EV)や産業機器向けは需要が低迷した。
QUICK・ファクトセットで各社のドルベースの決算データ(一部は9〜11月期、11〜1月期)を取得し集計した。最終損益は10社のうち6社が改善、4社が悪化と明暗が分かれた。
利益が大きく伸びたのはエヌビディアだ。純利益は80%増の220億ドルで全体の4割を占めた。AI向けの新型半導体「ブラックウェル」の量産が始まり、同社売上高の約3分の1を稼いだ。ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は決算会見で「ブラックウェルの需要は並外れている」と語った。同チップの価格は500万円超とされる。
エヌビディアは半導体の設計を担い、同社による製造委託は受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)がほぼ独占する。TSMCの純利益は55%増の115億ドルに膨らみ、四半期として過去最高だった。
AI半導体に搭載されデータの転送速度に優れる広帯域メモリー(HBM)の引き合いも強まった。韓国SKハイニックスは57億ドルの黒字(前年同期は10億ドルの赤字)に転換し、最高益だった。韓国サムスン電子も損益が改善した。パソコンやスマートフォン向けの需要の弱さをAI半導体の成長が埋めている。
一方で米インテル、米テキサス・インスツルメンツ(TI)は損益が悪化した。インテルは1億2600万ドルの赤字(同26億ドルの黒字)と2年ぶりに赤字に転落した。半導体開発で競合に出遅れ、生成AI用データセンター向けの需要を取り込めていない。インテルは21年に参入した受託生産事業も顧客の獲得が進んでいない。
英ロイター通信によると、TSMCが複数の米半導体大手に対し、インテルの工場運営会社に共同出資する案を持ちかけた。
安定成長が期待されていたEV向けの需要も低調だ。
TIは車載と産業機器の両方で販売が減り、純利益は11億ドルと12%減った。ハビブ・イランCEOは1月下旬の決算会見で「自動車は中国以外の市場がかなり低迷している」と語った。需要回復を見越して生産を拡大したが、あてが外れた。24年10〜12月期の在庫回転日数は約100日と前年同期から10日強伸びた。
STマイクロエレクトロニクスも68%の減益だった。同社は米テスラなどに電圧制御用のパワー半導体を供給している。米国が中国向けの半導体の輸出規制を強めたことに対応し、中国は半導体を内製化。供給拡大で価格競争が激しくなったことも響いた。
米ボストン・コンサルティング・グループの小柴優一マネージング・ディレクターは車載や産業機器向けの半導体について「需要の回復ペースは緩やかで、本格回復は26年以降になりそうだ」と指摘する。
今年1月には中国の新興企業、DeepSeek(ディープシーク)が米オープンAIに匹敵するAIモデルを開発したと主張した。性能を落としたAI半導体で開発を実現したとされ、エヌビディアなどの高性能なAI半導体の今後の需要見通しに対する不透明要因の一つとなっている。
もっとも当面はAI半導体関連企業の成長は続くとの見方が強い。市場予想では半導体主要10社の25年1〜3月期の合計純利益は441億ドルと前年同期比約3割増える。米オムディアによれば、25年はGAFAMと呼ばれる米巨大テック企業などによるデータセンターへの投資額が前年に比べ5割増える見通しだ。
●海外企業
米半導体大手インテルの最高経営責任者(CEO)に来週就任するリップブー・タン氏(65)は半導体業界のベテランだが、ハイテク分野の投資家、とりわけ中国企業への投資家としての経歴はもっと長い。
タン氏はインテルの元取締役でもある。かつて尊敬を集めたインテルは、人工知能(AI)ブームによって業界の需要が変化し、同社の中央演算処理用半導体から離れていく中で、衰退の運命をたどっている。
以下にタン氏とインテルについて知っておくべき五つのことを挙げる。
半導体業界の大物
タン氏は半導体業界の立役者となり、2022年には米半導体工業会(SIA)から最高の栄誉を受けた。
タン氏が名声を得たのは2009~21年にケイデンス・デザイン・システムズのトップを務めていたときだ。同社は半導体やその他の中核技術を開発するためのソフトウエアおよびサービスを提供している。タン氏はインテルが言うところの顧客中心のイノベーションに重点的に取り組み、ケイデンスの経営立て直しに寄与した。その結果、売上高の倍増と利益率の拡大をもたらした。
ファウンドリー(半導体受託製造)最大手の台湾積体電路製造(TSMC)のモリス・チャン会長(当時)は2016年、タン氏に贈った賛辞の中で、「ケイデンスは(2009年に)かなり大きな問題を抱えていた」とし、「リップブーが先導し、ケイデンスを窮地から脱却させた」と話していた。
ウォルデン創業
ケイデンスを率いる前のタン氏は、ベンチャー投資家として広く知られていた。
マサチューセッツ工科大学(MIT)で原子力工学の修士号、サンフランシスコ大学で経営学修士号(MBA)を取得したタン氏は、1987年にベンチャーキャピタル「ウォルデン・インターナショナル」を設立。アジアのスタートアップ企業に重点を置いた。米誌ビジネスウィークの2004年の記事によると、社名はタン氏が米作家ヘンリー・デービッド・ソローの「逆の思考」に魅せられていたことに由来する。ソローにはマサチューセッツ州ウォールデン池のほとりで暮らした日々の思索に関する著書がある。
ウォルデンは中国の半導体受託製造大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)の初期の投資家で、最終的に5000万ドル(現在の為替レートで約74億円)以上を投資した。タン氏は同社と中微半導体設備(AMEC)で取締役を務めた。また、同氏は中米半導体協会(Chinese American Semiconductor Professional Association, CASPA)がシリコンバレーで主催するイベントの常連だった。
タン氏はソフトバンクグループの取締役を2年間務めた。ソフトバンクのビジョン・ファンドは近年、シリコンバレーで極めて大きな存在感を示している。
ウォルデンと中国
広範囲に及ぶ中国とのつながりから、タン氏は米政府の調査対象にされた。ウォルデンは、半導体やAIなど重要ハイテク分野の中国企業を支援していた。
米下院の「米国と中国共産党の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委)」は2023年、半導体や量子コンピューティング、AIなどの分野における中国企業へのウォルデンの投資に対する「深刻な懸念」を伝える書簡をタン氏に送った。これら中国企業の一部は、人権侵害や技術の軍事利用への関与を理由に米商務省のブラックリストに掲載されていた。中国特別委の報告書によると、ウォルデンは社内文書で、中国政府が半導体産業の育成を優先していたことを、この分野への投資理由に挙げていた。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の2021年の記事によれば、ウォルデンが2017~20年に行った中国の半導体関連企業への投資は少なくとも25件に上った。これは、同期間に米ベンチャーキャピタルが関わった中国半導体分野への投資案件の4割以上に相当する。
インテル分割の動き
インテルの株価は12日の時間外取引で10%超上昇した。株価は過去12カ月間低迷してきたが、同社が製品部門と製造部門を切り離して別会社にするのではないかとの観測が株価を支えた。
WSJは先月、TSMCとブロードコムがインテルの一部事業について予備的な協議を行っており、TSMCはインテルの半導体工場の運営に関心を持っていると報じた。インテル幹部は製造部門に別の取締役会を設置する方針を示しており、一部アナリストはこれを分割につながる可能性のある動きだとみている。
レイモンド・ジェームズのアナリスト、スリニ・パジュリ氏は「重要な問題は、リップブーが製品事業とファウンドリー事業の両方を一体として維持するのか、それとも分割に踏み切るのかという点だ」と指摘した。
ブロードコムのCEOは今週、現在はいかなる買収も目指していないと述べた。
カリフォルニアとのつながり
タン氏は12日、従業員へのメッセージの中で「負けることが何よりも嫌いだ」と述べた。大学時代、アスリートとしてチームメートを信頼することを学んだという。
現在のマレーシアで生まれ、シンガポールで育ったタン氏は、カリフォルニア大学やサンフランシスコ・ヘルス・システムの執行委員会、フラー神学大学院、カーネギーメロン大学など、カリフォルニア州の多くのコミュニティーや運営組織に携わってきた。
タン氏はまた、バークレー第一長老教会で長老を務め、非営利団体「トランスフォーミング・ザ・ベイ・ウィズ・キリスト(TBC)」ではインテル前CEOのパット・ゲルシンガー氏と共に「キャビネットメンバー」を務めている。
アーリーステージのベンチャー投資会社としてタン氏が設立したウォルデン・カタリストが掲載する同氏のプロフィル欄には「水泳、スキー、フライフィッシング、ハイキング、家族との時間や教会での時間を楽しんでいる」と書かれている。
●日本企業
●先進国政治動向
米連邦控訴裁判所は14日、ドナルド・トランプ政権が連邦政府と契約を結ぶ企業や政府機関に対してDEI(多様性・公平性・包摂性)の取り組みを禁止することを認めた。
バージニア州リッチモンドの第4巡回区連邦控訴裁の3人の判事で構成されるパネルは同日遅くに示した判断で、DEIプログラムを標的とするトランプ氏の二つの大統領令執行を停止していた下級審の差し止め命令を解除した。
メリーランド州ボルティモア市と三つの権利擁護団体が起こした訴訟で下された今回の判断は、大統領令が合法かどうかの最終判断ではなく、訴訟が進行する間、トランプ政権が大統領令を執行することを認めるものだ。控訴裁は、主張を聞くために迅速な審理日程を設定すると述べたが、判断にはなお数カ月かかる可能性がある。
トランプ氏はホワイトハウス復帰直後、訴訟の争点となっている二つの大統領令に署名した。
●先進国中銀、金融当局
●先進国経済指標
米ミシガン大学が14日発表した3月の消費者信頼感指数(速報値)は57.9と、約2年半ぶりの低水準を付けた。トランプ米大統領の関税措置で貿易戦争が引き起こされ、物価上昇と経済の弱体化につながるとの懸念から、5年先の期待インフレ率は1993年以来の水準に上昇した。
3月の消費者信頼感指数は前月の64.7から大幅に悪化し、2022年11月以来の水準に低下。トランプ大統領が勝利した昨年11月の大統領選以降の上昇分は全て失われた。ロイターがまとめたエコノミスト予想は63.1だった。
1年先期待インフレ率は4.9%に上昇。5年先は3.9%と1993年2月以来の高水準となった。前月はそれぞれ4.3%、3.5%だった。
消費者信頼感指数と期待インフレ率の悪化は支持政党を問わず見られた。
FWDBONDSのチーフエコノミスト、クリストファー・ラプキー氏は、貿易関税は経済にとって良いことだと米政権は主張しているが、「消費者は不安を感じており、今後さらに大幅な物価上昇が起こるとみている」とし、「トランプ第2次政権の政策は、米経済と米国の将来的な繁栄を阻害している」と述べた。
コメリカバンクのチーフエコノミスト、ビル・アダムス氏は「信頼感の低下は消費支出に対する現実的な脅威になりつつある」とし、「景気悪化を懸念する人は新車や住宅を購入せず、外食や旅行も控える」と指摘。
ウェルズ・ファーゴのシニアエコノミスト、ティム・クインラン氏は「新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)の際は、物価高は短期的なものとおおむね理解されていたが、現在は消費者が価格圧力を長期的なものとみていることが経済指標で明らかになりつつある」と述べた。
●金融市場、先進国トピックス
ドイツが国内工業の回復を急ぐのであれば、新政権は思い切った公共投資拡大策だけでなく、官僚主義的な手続きを劇的に減らす必要がある、と企業関係者は主張している。
ロイターが自動車、エネルギー、物流といった産業を代表する業界団体のトップ幹部らにインタビューを行ったところ、ドイツの官僚主義的な手続きのコストや手間のせいで、本来であれば事業の現代化に投資すべきリソースが食い潰されている、という声が上がった。
自動車メーカーなど産業界のクライアント向けにボルト・リベット類を製造する従業員450人のメーカー、メカニンドゥス・フォーゲルサングを率いるウルリッヒ・フラトケン氏もその1人だ。
フラトケン氏は、自社の倉庫施設の一部を自動化する計画をあきらめた。新たな設備について最新の防火基準をクリアするためにはコストがかかりすぎ、投資を回収できないことが分かったからだ。
フラトケン氏は、アルゼンチンや米国が進める連邦政府の官僚機構の大幅な縮小に触れ、「両国のやり方がいいと思っているわけではない。あれは明らかにやりすぎだ」と言いつつ、「とはいえ、気持ちは分かる。何かしら意味があるとも思えずに、届け出の書式に記入を続けているのは本当にうんざりする」
ここ数カ月、欧州連合に対して規制枠組みの緩和・簡素化を求める企業幹部からの声が高まっている。米国市場の閉鎖性が強まり中国企業が海外事業を拡大する中で、どのように競争していくべきか企業が模索しているからだ。
ドイツでは先週、銀行業界のトップが、インフラや国防の分野で予定されている大規模な歳出計画が十分に効果を発揮するには、並行して官僚主義的な煩雑さを解消する必要がある、と釘をさした。
ドイツ企業5000社が加盟する鉄鋼産業の業界団体WSMのクリスチャン・ビートマイヤー代表は、欧州最大の経済大国ドイツでは、規制面での負担によりイノベーションが阻害されていると指摘する。
欧州委員会は2月、サステナビリティー報告基準の一部を緩和し、2029年までに報告義務を25%、中小企業に関しては35%縮小すると宣言した。管理コストに換算して375億ユーロ(400億ドル)の削減に相当する。
先日のドイツ総選挙で最多得票を得た保守派のキリスト教民主同盟(CDU)は連立政権の発足に向けて協議を進めているが、優先すべき政策課題15項目のうち、2番目に官僚主義の解消を挙げている。
だが現実には、企業幹部らはこうした公約に対して半信半疑で、政府が単に新たな要件を課すことになるのではないかと危ぶんでいる。
実際、世界経済フォーラムが2023年に行った調査によれば、EU諸国のうち、政府規制の遵守がそれ以前の4年間に比べてより複雑になったのは3カ国だけで、その1つがドイツだった。
ドイツのIFO経済研究所は許認可の取得や納税申告の提出、商品の取引といった業務に要するコストを測定する指数をまとめているが、2024年のデータによれば、他の欧州諸国、OECD加盟国ではここ数年負担が軽減されている一方で、ドイツでは2006年以来、官僚主義スコアが横ばい状態であることが分かった。
アディダスのビヨルン・グルデン最高経営責任者(CEO)は、規制要件が過剰になってしまったと話す。
グルデンCEOは3月、「我が社のESG報告書は245ページもある。実際の事業よりも資料作成にはるかに多くの時間を費やしている」と述べた。「官僚主義のせいでビジネスが停止してしまう」
<「検査、検査で何もできない」>
ニーダーザクセン州でアルミニウム鋳造工場を保有するゲルト・ローデルス氏は、企業幹部がリスク回避志向になる恐れもある、と語る。
ローデルス氏の企業は従業員数168人。法律上、資格を有するハシゴ検査担当者を1人確保し、毎年、製造するハシゴの安全性を検査し報告書を作成する義務を負う。ハシゴの仕様に関する独自の資料も添えなければならない。
こうした制度は、手間がかかる一方で、何か問題が生じた場合に企業幹部を守ってもいる、とローデルス氏は言う。
「検査担当者や検査証、証拠資料を廃止して、何かあった場合には企業オーナーがすべて責任を負うことにしてもいい。だが、そのためには社会の考え方を変える必要がある」
「この種の検査担当者は非常に多くて、検査、検査で何もできない。これぞ官僚主義だが、私の立場を守ることにもなっている」
ドイツはこれまで官僚主義の解消に向けて多くの法律を制定してきた。その1つが今年施行されるもので、納税通知書のデジタル化や、企業の領収証保管年数を10年から8年に短縮することなどにより、9億4400万ユーロの節約を謳っている。
CDUのマニフェストでは、報告義務を縮小し、中小企業については検査担当者の任命義務を免除する旨の単年度法案を提案している。
またCDUは、「サプライチェーン法」の廃止を望んでいる。これは従業員数1000人以上の企業に対し、サプライチェーン内での人権・環境関連のリスク低減への取り組みを報告するよう義務付けるものだが、結局はより小規模なサプライヤーに説明義務を転嫁することになり、またEU全体を対象とした類似の法律と重複している。
ドイツ緑の党や社会民主党、さらには複数の非政府組織(NGO)は、こうした報告義務を緩和すれば企業の説明責任が軽減され、サステナビリティー面で苦労の末に獲得した成果が帳消しにされてしまうのではないかという懸念を表明している。
だが企業側は、もっと簡素なシステムが切実に求められている、と主張する。
自動車セクターのサプライヤーであるABICORグループのフィリップ・ローリグ最高業務責任者(COO)は、「(報告義務があるからといって)今まで分からなかったことが表に出るわけではない」と指摘する。ABICORの取引先である大企業はサプライチェーン法の対象となっており、同社に長々しい様式への記入を求めてくるという。
「我が社にとっての付加価値はゼロだ」
米消費者は今年に入り、めまぐるしい関税の応酬や根強いインフレ、より最近では景気後退(リセッション)懸念の再燃など、さまざまな心配事に頭を悩ませている。これらの懸念は生活必需品から高級品に至るあらゆる分野で、富裕層にも貧困層にも一様に支出への打撃となっているようだ。
低所得層の消費者については、2月末にシカゴ経済クラブで行われたインタビューで、米小売り大手ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)が「予算の厳しい」顧客は節約を強いられていると述べた。彼らは「1カ月が終わる前に生活資金を使い果たす」ため、月末になると少量パックの商品を購入するのだという。ファストフードチェーン大手のマクドナルドは直近の決算説明会で、同業界は今年「低調なスタート」を切っているとし、低所得層の消費者による需要低迷を一因に挙げた。マクドナルドによると、2024年10-12月期の米ファストフード業界全体の低所得層の来店客による売上高は、前年同期比の減少率が2桁に達したという。
ディスカウント小売り大手ダラー・ゼネラルは13日の決算説明会で、顧客は基本的な生活必需品を購入する以外には金銭的余裕がないと話しており、必需品でさえ犠牲にしている顧客もいる、と述べた。同社は今年、経済環境の改善を予想しておらず、政府の給付金プログラムが変更されるかどうかを注視している。ダラーの店舗は政府のフードスタンプ(低所得者向けの食料費補助)に頼る傾向が強いが、これは歳出削減の対象になる可能性が出てきている。
高所得層の状況がそれよりずっとましなわけでもない。シティが自社のクレジットカード取引データを分析したところ、高級百貨店やネット通販を含む米消費者の高級品市場での支出は、2月に前年同月比9.3%減少し、1月の5.9%減から悪化した。
会員制倉庫型量販店のコストコ・ホールセールは、会費を払って利用するため顧客に比較的高所得の層が多い。だが同社は先週、牛ひき肉や鶏肉などの安価なタンパク質に需要がシフトしていると述べた。ゲーリー・ミラーチップ最高財務責任者(CFO)は会員が依然支出を続けているものの、何に使うかを「極めて慎重に選んでいる」と指摘。関税でインフレが加速すれば、消費者はさらにえり好みするかもしれないと述べた。ダラー・ゼネラルは13日、高所得世帯に対する売上高がここ数週間で加速したと述べた。高所得者世帯は最近、より安価な選択肢を求めているという。
大手百貨店でも同様にあらゆる面で倹約傾向が見られる。コールズのアシュリー・ブキャナンCEOは、年収5万ドル(約740万円)未満の消費者にとって裁量的支出は「かなり制約がある」とした上で、年収10万ドル未満の消費者にとっても「かなり厳しい」と述べた。同社はウォール街の予想を大きく下回る通期売上高見通しを示した。これを受け、11日の株価は24%の大幅安となった。メーシーズのトニー・スプリングCEOは先週、「メーシーズで買い物をする裕福な顧客も同じように今起きていることに確信が持てず、混乱し、懸念している」と述べた。
賃金の伸びは全所得層で 鈍化している
所得四分位階級でみた時給の伸び (前年同月比、中央値の12カ月移動平均)
出所:アトランタ地区連銀
米経済は近年、ところどころ弱い部分はあっても、これほど弱さが広範囲になることはなかった。新型コロナウイルス収束後の期間は一部で「リッチセッション(富裕層中心の景気後退)」と呼ばれた。高所得層の賃金の伸びが、売り手市場だったブルーカラー労働者に後れをとったためだ。だが、低所得世帯のリードはその後逆転されている。2023年からはコロナ下で導入されたフードスタンプの増額が打ち切られた。アトランタ地区連銀のデータによると、2024年秋には最低所得層の賃金上昇率がより高所得の層の賃金上昇率を下回るようになった。数年続いているインフレは、食品などの生活必需品や家賃、光熱費を中心に、米国の貧困層を直撃している。一方、富裕層は人工知能(AI)ブームを追い風に好調な株式市場のおかげで支出を続けた。
だが今や、誰もが以前より慎重姿勢を強めているようだ。支出の抑制は複数のカテゴリーに及んでいる。例えば、消費者は空の旅を控えている節がある。航空大手のデルタ航空やアメリカン航空、格安航空のジェットブルーは今週、1-3月期の業績予想をいずれも下方修正した。デルタ航空のエド・バスティアンCEOは11日に開かれた航空業界の会議で「経済センチメントに何かが起きている、消費者信頼感に何かが起きている」と述べた。
シティの米国クレジットカードデータの分析によると、小売りの大半のカテゴリーで支出が落ち込んでいる。1-3月期の現在までの累計で、衣料品とスポーツシューズへの支出は前年同期比でそれぞれ12%と22%減少した。一方、食品やアフターマーケット(純正ではない)自動車部品、ペット用品など、裁量的とは言えない分野でも緩やかな減少がみられる。
ディスカウント大手ターゲットやスポーツ用品大手フットロッカー、ホームセンター大手ロウズはいずれも、2月は需要が弱かったことを明らかにした。ターゲットのブライアン・コーネルCEOは先週、消費者が関税の潜在的影響やそれが自分たちに何を意味するのかを思案中だと述べた。フットロッカーは先週、消費者が2月は「慎重かつ敏感」だったとし、若者の多い顧客層が「全体的な生活費や、それに加えて関税を巡る不透明感について考えている」と述べた。
今週だけでも、消費者には消化すべき新たな出来事が目白押しだった。トランプ大統領は9日、経済政策の結果として米国が景気後退入りする可能性を排除しなかった。これを受けて株価は急落した。それに続き、関税発動と相手国からの報復関税が発表され、さらにそれらを撤回するという急展開があった。12日発表の米消費者物価指数(CPI)は2月に物価の伸びがわずかに鈍化したことを示したが、トランプ氏の関税の影響はまだ反映されておらず、わずかな慰めにとどまった。
だがこの状況は、関税に対する懸念や広範な不確実性だけでは片づけられない。多くの人々の手元現金も減っている。バンク・オブ・アメリカ・インスティテュートが集計しているカードデータによると、当座預金と普通預金の残高は2月までの12カ月間に全ての所得層で減少し、インフレ調整後の2019年の水準に近づきつつある。アトランタ地区連銀のデータによると、賃金の伸びは過去1年間に全ての所得層で鈍化している。米国人のインフレ調整後の債務残高はコロナ前の水準を超え始めている。
ちょうど不確実性が高まりつつあるさなかに、衝撃を吸収する能力が消費者全般で低下しているということだ。だから消費者が慎重になるとしても責められない。たとえ経済に悪影響があるとしても。
●中東情勢
●エマージング
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
#### **為替市場**  
- **ユーロ/ドルは上昇**(+0.27%の1.0876ドル)。  
  - ドイツの財政拡張案が進展したことが材料。  
- **ドルは対ユーロで下落**したが、**対スイスフラン(+0.35%)、対円(+0.48%)で上昇**。  
- **ポンドは対ドルで0.15%安**(1.2931ドル)。英国GDPの予想外の縮小が影響。  
- **ドル指数は0.08%安の103.75**。2週連続下落。  
- **カナダドルは対米ドルで0.51%上昇**(1米ドル=1.44カナダドル)。  
#### **債券市場**  
- **米国債利回りが上昇**。  
  - **10年債:+3.4bpの4.31%**  
  - **2年債:+6.2bpの4.015%**  
  - ドイツ国債利回り上昇が影響。  
- **ミシガン大学の消費者信頼感指数は57.9と約2年半ぶり低水準**。  
- **FRBはFOMCで金利据え置きの見通し**。市場は6月の利下げを予想。  
#### **米国株式市場**  
- **主要指数が反発**(割安感による買い)。  
  - **S&P500とナスダックは11月6日以来の大幅上昇**。  
  - **テクノロジー株が3.0%上昇**。  
  - **テスラ(+3.9%)、エヌビディア(+5.3%)が上昇**。  
- ただし、**週足ではS&P500とナスダックは4週連続下落**。  
- **市場はトランプ大統領の関税政策に翻弄**。  
#### **商品市場**  
- **金先物は4日続伸し、史上初の3,000ドル超え**(1オンス=3,001.10ドル)。  
  - **トランプ政権の関税政策による不透明感で安全資産として買われる**。  
- **原油先物は反発**(WTI4月物は+0.95%の67.18ドル)。  
  - **ロシア・ウクライナの停戦交渉を巡る不透明感が影響**。
**ロンドン株式市場**は上昇して取引を終え、**航空・防衛関連や鉱業株**が相場をけん引。しかし、週間では**FTSE100が0.55%下落**し、慎重な投資姿勢も見られた。  
- **FTSE250種指数**は1.56%上昇したが、週間では0.66%安と4週連続下落。  
- **防衛関連株指数**は英政府の軍需支出拡大を受け3.77%上昇。  
- **貴金属・鉱業株**は金価格上昇を背景にそれぞれ1.84%、2.30%上昇。  
- 1月の**英GDP**は前月比0.1%減と市場予想に反しマイナス成長。  
**欧州株式市場**は反発し、ドイツDAX指数が1.86%上昇。一方で、**週間ではSTOXX600が1.22%下落**。  
- **防衛関連・工業株・銀行株**が上昇。  
- フランスの高級ブランド**ケリングは10.7%急落**。  
**ユーロ圏債券市場**では国債利回りが上昇。ドイツのメルツCDU党首が**財政拡張案で合意**した影響で、**ドイツ10年債利回りは2.87%に上昇**し、30年債は2023年10月以来の高水準に。イタリアやフランスの国債利回りも上昇した。

備忘録(2025/3/13
●海外企業決算
ディスカウントストアのダラー・ゼネラル<DG>が上昇。取引開始前に11-1月期決算(第4四半期)を発表し、既存店売上高が予想を上回った一方、1株利益は予想を下回った。通期のガイダンスも公表し、こちらは予想を下回る見通しを示した。
株価はポジティブな反応を示している。アナリストは「第4四半期の基調トレンドが予想を上回った」と指摘。加えて、「今期は経営陣が不採算店舗の閉鎖に必要な措置を講じるとともに、既存店舗基盤の立て直しに注力するために新規出店のペースを落としていることが示され、勇気づけられた」と述べている。
「通期の見通しも弱気派が懸念していたよりも良いもので、長期ガイダンスは経営陣の再建への自信を反映している」と述べた。
依然として、ショー・ミー・ストーリーではあるとしながらも、低い期待値に対するリスク・リワードは好ましいとも語った。
●海外企業
ドイツ銀行は13日、国内景気低迷にも関わらず、投資銀行とその他3つの主要事業部門で今年の増収見通しを示した。
年次報告書で、ボーナスプールは2024年に約25%増の25億ユーロに達したと指摘。投資銀行部門の収入が15%増加したことが寄与したという。
クリスティアン・ゼービング最高経営責任者(CEO)の24年推定報酬は975万ユーロ(1061万ドル)。23年は875万ユーロだったが、ボーナスの計算方法が変更されたため、直接比較できなくなっている。
米国経済が若干減速する一方、ユーロ圏の成長は加速する可能性があると予想。一方で「ドイツは遅れを取るだろう」とした。
これまで主要リスクに挙げていた商業用不動産セクターについては安定に向かっているとの見方を示した。一方で自動車部門を主要リスクと位置付け、サプライヤーも含めたポートフォリオのリスクが増大しているとし、注視しているとした。また、米国の関税、厳しい経済状況、電気自動車への移行の遅れ、中国との競争なども挙げた。
●日本企業
●先進国政治動向
ベッセント米財務長官は最近の市場でドルが下落しているのは自然な「調整」だと述べ、懸念していないとの考えを明らかにした。新たな経済シグナルと政策が相次ぐ中、トレーダーらが様子見の姿勢を取っていると指摘した。
「トランプ大統領の当選と共和党の大勝利を受けて、ドルは多くのことを織り込んだ」とベッセント長官は13日、経済専門局CNBCとのインタビューで発言。「調整されるのは自然なことだ」と述べた。
ドルは昨年11月5日の選挙結果を受けて上昇したが、背景には規制緩和と減税延長による成長加速への期待があった。しかし1月にトランプ氏が大統領に就任すると、ドルは主要通貨の大半に対して下落に転じた。投資家は下落要因として、相次ぐ関税引き上げによる成長減速懸念と、米利下げ観測を挙げた。
ベッセント長官はトランプ政権の成長推進政策に向けて「市場は様子見姿勢に入った」と指摘。「ドルがここまで大きく上昇した後とあり、他の通貨が好調になる可能性があるのは自然なことだ」と述べた。
同長官はまた、12日のビジネス・ラウンドテーブルで出席者らに政府が減税パッケージと規制緩和に取り組んでいると説明したことを明らかにした。「経済的な確実性をもたらす」ことが目的だという。米政府機関の閉鎖は「信じがたいほどの波乱」を引き起こすだろうと述べ、政府は2017年に第一次トランプ政権が成立させた減税の延長を「今年の夏」までに実現することを目指していると話した。
長官は「この先はデトックスの期間になる」とした先週の発言について、リセッション(景気後退)が迫っているという警告ではないと指摘。政府支出が増額された状態の経済から、民間セクターの活動に対する依存度を高めた経済へ「円滑な移行」を政府は望んでいると述べた。
ドナルド・トランプ米大統領の通商政策が一貫性を欠き、経済関連の発言にも揺らぎが見えたため、側近の一部が動揺し、ホワイトハウス内で緊張が高まる事態となっている。共和党議員や企業幹部からも不安の声が出ている。
スージー・ワイルズ大統領首席補佐官などの政権幹部らは、パニック状態の最高経営責任者(CEO)やロビイストからの電話を受けている。彼らは政府に対し、今後の展開をもっと予測しやすい関税政策を示すことで、不安定な市場を落ち着かせるよう要請していると、協議内容に詳しい複数の関係者は述べた。実業界では、トランプ氏に通商政策の転換を求めることは諦め、代わりに政権に同氏のアプローチを明確にするよう訴える人が多いという。
トランプ氏と側近らは10日、ホワイトハウスのルーズベルトルームで、IBMやクアルコム、HPなどのハイテク企業のCEOと会談した。この会合に出席した関係者によると、複数のCEOがトランプ氏の関税に懸念を示し、業界に打撃を与えかねないと警告した。トランプ氏は記者団に対し、出席者らは米国内での投資について話したと語っていた。
トランプ氏と側近らの発するメッセージに統一性がないため、一部の共和党議員からトランプ氏の経済計画は一貫性を欠くと懸念する声が出ている。
スコット・ベッセント財務長官は先週、米経済は「デトックス(解毒)」が必要だと述べた。トランプ氏は関税が消費者に経済的打撃をもたらし得ることを認めており、9日のインタビューでは景気後退の可能性を否定しなかった。これを受けて10日の米株式相場は急落し、主要株価指数は昨年11月の大統領選投票日以降の上昇分を全て帳消しにした。トランプ氏は11日、景気後退は予想していないと述べたが、幅広い関税を賦課していく考えを強調した。
その間、トランプ氏と側近らは通商政策を頻繁に調整し、土壇場での適用除外や方針転換を発表している。
「経済政策チームにとっては恐怖のスタートだった」。米議会予算局(CBO)の元局長で、現在は保守系シンクタンクのアメリカン・アクション・フォーラムを率いるダグラス・ホルツイーキン氏はそう話す。
トランプ氏の関税攻勢は、国家経済会議(NEC)のスタッフといった、トランプ政権の経済政策担当者を不安にさせている。彼らは、通商政策の不確実性と関税が、株式市場の急落や、エネルギーから建設資材に至る全面的な価格上昇を引き起こしていることを懸念していると、事情に詳しい関係者らは述べた。トランプ氏の経済顧問らは、関税が市場と経済成長に打撃を与える可能性があると警告しているが、トランプ氏はほとんど動じていないという。
ホワイトハウスは、トランプ氏の経済顧問らの意見が割れているわけではないと述べた。「トランプ政権の全てのメンバーが同じ戦略、すなわちトランプ大統領の戦略に従って、関税・減税・規制緩和・米国のエネルギー解放という米国第一政策を実行している」とホワイトハウスのクシュ・デサイ副報道官は説明した。
デサイ氏は、政権幹部が企業経営者からの電話を受けていることを認め、ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長が過去2日間で12人程度のCEOと話をしたことを明らかにした。
一連の関税宣言とそれに伴う経済的混乱を受け、トランプ氏の経済チーム内で以前からくすぶっていた緊張関係が表面化した。
金融サービス会社キャンターフィッツジェラルドのCEO時代の強引な手法で知られるハワード・ラトニック商務長官は、トランプ氏の広範な通商政策の監督者であり、定期的にケーブルテレビに出演してこの件について語っている。ラトニック氏はトランプ氏の他の経済顧問――ハセット氏やジェミソン・グリア米通商代表部(USTR)代表、大統領経済諮問委員会(CEA)スタッフなど――に十分な情報を提供しないことがあると、事情に詳しい関係者らは明かしている。
先週の一例では、ラトニック氏がFOXニュースに出演し、カナダとメキシコは間もなく米国との交渉が妥結し、トランプ氏が合成麻薬フェンタニルの密輸に関して課した25%の関税の一部を回避できる可能性があると発表した。これに驚いたグリア氏とCEAスタッフは急いで解決策を考え出し、最終的にトランプ氏を説得して、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を順守した製品への関税を1カ月間猶予することになったと、関係者らは言う。
事情に詳しい関係者らによると、ベッセント氏はトランプ氏の側近らに対し、政権全体の経済政策を発信する中心人物になりたいとの意向を明確にしている。
デサイ氏は「ラトニック長官は民間セクターで長年にわたり非常に優れたキャリアを築いた人物であり、トランプ政権の通商・経済チームに欠かせない存在だ」と述べ、具体的な功績として、製造業の雇用拡大や、アップルおよび台湾積体電路製造(TSMC)などの企業からの投資表明を挙げた。
11日夜のCBSニュースで、ラトニック氏はトランプ政権の通商政策の進め方を正当化し、「混乱しているわけではない。混乱していると思っているのは、愚かな人だけだ」と述べた。
トランプ氏は大統領就任から約2カ月が経過した今、方針転換を求める圧力が高まっているにもかかわらず、広範な関税政策を実行する決意をこれまで以上に固めている。側近らはそう話す。
元政権幹部らによると、第1次トランプ政権では、同氏はほぼ毎時、市場の動きを確認していた。相場が一時的に下げただけで政策を変更することもあったという。2期目も市場動向に関心があるものの、関税計画を断行する決意は1期目よりも固いと、政権関係者は述べた。
第1次トランプ政権でNEC委員長を務めたゲーリー・コーン氏らは当時、トランプ氏の関税案に反対していた。第2次政権では、同氏に関税発動を思いとどまらせようとする側近はほとんどいないと、関係者らは言う。側近の大半は、主要セクターを対象外とする、より的を絞った関税を提案している。
例えば、協議内容に詳しい複数の関係者によると、ハセット氏らは次のような案をトランプ氏にのませることに成功した。米国の全ての貿易相手国に一律関税を課すという選挙公約を放棄し、代わりに、より低い関税の適用に向けて他国が米国と交渉する余地を残す相互的な通商措置を選択する、というものだ。
トランプ氏の相互関税措置は、他国が課している関税・非関税障壁と米国の関税を同等にすることを目指しており、4月に発表される予定だ。だが、これを完全に実施するには6カ月以上かかる可能性がある。同政策に詳しい関係者らは以前、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)にそう語っていた。
関税政策の不透明性は米議会のトランプ派の一部もいら立たせており、関税の経済的影響を懸念する議員が増えている。
マイク・ラウンズ上院議員(共和、サウスダコタ州)は「(関税政策が)明日はどうなるか分からない」とし、関税政策が同州の農家や企業に押し付けている不確実性に「非常に不満を感じている」と述べた。トム・ティリス上院議員(共和、ノースカロライナ州)は、二転三転する関税政策の方針が一因で、株式市場は下落し、企業計画の策定も難しくなっているとし、「ビジネスは不確実性を嫌う」と語った。
トランプ氏の側近で、政権1期目に駐日大使を務めたビル・ハガティ上院議員(共和、テネシー州)は、関税に関するホワイトハウスからのメッセージを市場が「消化しようとしている」ことを認めたが、今後は不確実性が解消されていくのではないかと期待を示した。
「これらの(関税)発表が終わり、それが実際に何を意味するかを市場が理解できれば、状況が落ち着くのではないかと願っている」と同氏は述べた。
トランプ氏は11日、米主要企業の経営者で構成される団体「ビジネス・ラウンドテーブル」で演説した。同イベントの企画に詳しい関係者によると、複数のCEOが出席を見送った。
米石油大手シェブロンのマイク・ワースCEOは10日、ヒューストンでのエネルギー会議で、「極端から極端へと振れることは正しい政策アプローチではない」と述べた。「われわれは何十年も先を見越して資本を配分しているので、一貫性があり持続可能な政策が本当に必要だ」
米国のトランプ大統領は13日、欧州産のワイン、シャンパン、その他のアルコール飲料に200%の関税を課す方針を自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で明らかにした。米国と欧州連合(EU)間の貿易戦争がさらに激化しそうだ。
トランプ氏は投稿で、EUが米国産ウイスキーへの課税に踏み切れば、輸入関税を課すと述べた。EUは12日、米国が鉄鋼・アルミニウムの輸入に関税を発動したことに対抗し、バーボンなどを含む260億ユーロ(約4兆2000億円)相当の米国製品に関税を課す計画を発表した。
トランプ氏は「関税が直ちに撤回されないのであれば、米国は近く、フランス産および他のEU加盟国産の全てのワイン、シャンパン、アルコール製品に200%の関税を賦課する」と表明。「これは米国のワイン、シャンパン業界にとって素晴らしいことだ」と投稿した。
投稿を受け、欧州のワインメーカーの間で株安が広がった。ワインとスピリッツ部門を持つLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは1.1%、コニャックメーカーのレミー・コアントローは4.7%、スピリッツメーカーのペルノ・リカールは4%、それぞれ下落して引けた。
フランスのサンマルタン貿易担当相は、トランプ氏は「自ら引き起こした貿易戦争をエスカレートさせている」とX(旧ツイッター)に投稿し、「われわれは脅しには屈せず、常に自国の産業を守る」と述べた。
この投稿後にトランプ氏はホワイトハウスで、今週導入した鉄鋼・アルミニウム関税を撤回するつもりはなく、世界の貿易相手国に対して4月2日にも発動する包括的な報復関税について譲歩する気もないと明言。「われわれは長年、かもにされてきた。もう、かもにはされない」と語った。
トランプ氏が再び関税を示唆したことで、米国株の売りが再開。S&P500種指数は一時1.3%下げ、このまま引ければ高値からの下げが10%に達し調整入りとなる。
ラトニック米商務長官は同日、ブルームバーグテレビジョンのインタビューで、「トランプ大統領は欧州の対応に強い不快感を感じている」と述べ、「大統領は米国を気にかけ、米国民に尽くしたいと考えている。欧州はなぜ、ケンタッキーのバーボンやハーレーダビッドソンのオートバイに目を付ける理由があるのか」と続けた。
ラトニック氏は、トランプ政権1期目にEUが発動した米国の象徴的な製品に対する関税措置に言及。この対米関税は、バイデン政権時には発効が停止されたが、その停止措置も3月31日で期限を迎える。新たな合意あるいは停止措置の延長がなければ、EUはこうした米国製品への関税を復活させるだけでなく、さらに高い税率を課すことになる。
ラトニック氏はEU当局者と13日中に話す予定で、「彼らはこうした措置を取り下げるべきだと気づくはずだ」と発言した。EUの報道官は電話会談が予定されていることを確認した。
●先進国中銀、金融当局
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
ウォール街では過去20年にわたって、相場が下げれば押し目の好機というムードがほぼ常態化していた。しかしこの常態は数週間前から、トランプ米大統領によって打ち消された。
代わりに台頭してきたのは、利益を確定して、トランプ氏の貿易戦争がもたらす混沌(こんとん)が経済見通しを一変させるのをじっと見守ろうという声だ。新しい時代に入った株式市場で誰が勝ち組になるのか、不確実性が高まっている。
「今押し目で買いを入れるのは、誰が演奏するのか分からないコンサートのチケットを割引価格で買うようなものだ」と話すのは、ラウンドヒル・インベストメンツのデーブ・マッツァ最高経営責任者(CEO)だ。「最近まで押し目買いは信頼できる戦略だったが、今では関税と貿易政策による不確実性の高まりで、投資家は大もうけするか大損を被るかのどちらかになりかねない」と述べた。
このセンチメントからうかがわれるのは、ウォール街でかつて主流だった強気の信頼感をトランプ氏が揺さぶっている現状だ。数十年前から世界経済を強力に推し進めてきたグローバル化をトランプ政権は巻き戻し、国内経済を着実に刺激する政府支出に大なたを振るっている。
政策自体はかつてのトランプ式ではあるが、発動しては取り消し、また発動するという場当たり的なやり方が投資家をきりきり舞いさせている。株価は12日の市場で浮揚したが、そうした相場の持ち直し期待はボラティリティー(変動性)の上昇に打ち消された。
NFJインベストメント・グループのシニア・ポートフォリオ・マネジャー、バーンズ・マッキニー氏は「不確実性は恐らくしばらくは続くだろう」と述べた。
米株式市場は1990年代に見られたインターネットバブル以来の強力な強気相場だったが、それをこの不確実性が押し下げた。強気相場を支えたのは、米企業利益の急増と人工知能(AI)革命を米ハイテク大手がリードするという観測だった。これを背景にナスダック100指数は2023年に54%、24年には25%上昇した。
バリュエーションが高過ぎる可能性が指摘されながらも、上昇相場は押し目買いのメンタリティーを支援してきた。S&P500種株価指数は昨年7月下旬までの356営業日、一度も2%を超える下げを記録していない。ブルームバーグ・インテリジェンスのデータによれば、ここまで長い上昇局面は世界金融危機の後にはなかった。
S&P500種株価指数は2月中旬から下落局面にあり、過去最高値からの距離を広げてきた。
調整入り
12日の市場で3日ぶりにS&P500種が上昇したように、下落局面を反転させようとする試みはあるものの、同指数は2月に最高値を付けた後は一度も続伸していない。12日の反発もすでに帳消しされ、13日の市場でS&P500種は2月に記録した最高値を10%下回る調整領域で引けた。堅調な経済データを受けてやや勢いを取り戻した場面もあったものの、トランプ大統領が欧州連合(EU)からの酒類に関税を発動すると脅したことが株価を押し下げた。
ナスダック100指数も過去最高値を記録した後は、一度も続伸していない。同指数は3月上旬に調整局面に入った。
「新年を迎えた当時、株式相場は10%余り過大評価されているように見えた」とNFJのマッキニー氏は振り返る。しかし「だからといって、突然急降下するという意味ではない」と続けた。
その理由として、相場が持ち直しに向かっていることを示す一般的な兆候が見られないとの指摘がある。「降参」と呼ばれる一斉売りがそれに相当する。センチメントが悪化し過ぎて、もう反転するしかないような状況だ。
実際のところバンク・オブ・アメリカ(BofA)のデータは、同行の顧客が先週までの6週間連続で株式を買ったことを示している。
それでも投資家は本来、市場のタイミングを計ろうとするものであり、そのためには常に注意が必要だ。株式にとって指数の調整は健全なサイクルと言えるが、センチメントが慎重から恐怖に変化するのはあっという間であり、そうなればさらに大規模な一斉売りを招きかねない。
「底入れのタイミングを見極めるのは難しい」とブルームバーグ・インテリジェンスのチーフ・グローバル・デリバティブ・ストラテジスト、タンビール・サンドゥ氏は話す。「落ちてくるナイフをつかもうとするのは、決して良いことではない」と述べた。
●中東情勢
●エマージング
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、米国が提示しウクライナが受け入れた30日間の停戦案について、ロシアのプーチン大統領は拒否しようとしている可能性があるとの見方を示した。
ゼレンスキー氏は恒例の夕方の演説で、ロシアは停戦の実施を遅らせるか、全く実現させないために条件を設定しようとしていると指摘。プーチン大統領はこの戦争を継続したいため、米国が提示した停戦案を拒否する構えでいるとの見方を示した。
ゼレンスキー氏は、米国は停戦の管理と検証を調整する用意があると表明したと明らかにし、停戦を実現することで、長期的な安全保障と真の和平を巡るあらゆる問題に対する答えを準備し、戦争終結の計画を策定する時間が得られると述べた。
プーチン大統領はこの日、ロシアはウクライナとの停戦に向けた米国の提案に同意するとしながらも、いかなる停戦も紛争の根源的な要因を排除した上で恒久的な平和につなげる必要があるとし、多くの事項で詳細を詰めなければならないとの見解を示した。
ポーランドのドゥダ大統領は、米国に対し、ロシアに対する抑止力として核兵器をポーランド領土に移送するよう求めた。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が13日報じた。
ドゥダ大統領はFT紙とのインタビューで、トランプ米政権のウクライナ・ロシア担当特使ケロッグ氏とこの提案について話し合ったと語った。
ポーランドは以前から、核兵器共有プログラムの下で米国の兵器を受け入れる用意があると述べているほか、フランスのマクロン大統領が提案した、核の傘を欧州の同盟国に拡大するという構想にも関心を示している。
ドゥダ大統領は「NATO(北大西洋条約機構)の国境は1999年に東に移動した。それから26年が経過し、NATOのインフラも東に移転してもいいはずだ」とし、もしそうした兵器がすでにポーランド国内にあればより安全だとした。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの停戦案についてトランプ米大統領との話し合いを望んだ上で、停戦するのであれば戦争の長期解決につながる必要があると警告した。
プーチン氏は13日、モスクワでの記者会見で「考え自体は正しいものであり、われわれが支持しているのも確かだが、話し合うべき問題がある」と述べ、「この件については米国およびパートナー諸国と協議する必要がある。おそらくトランプ大統領と電話で話し合うべきだろう。われわれは平和的な手段でこの対立を終結させるという考えを支持する」と言明した。
同氏の曖昧な発言に対し、トランプ氏は楽観的な見方だ。ルッテ北大西洋条約機構(NATO)事務総長の訪問に際して米ホワイトハウスで記者団に対しトランプ氏は、「ロシアでは順調に事が運んでいるという情報を得ている」と語った。その上で、「最終的な結果を聞かなければ、何の意味もない」として、ロシアが停戦案に合意しなければ「世界にとって非常に残念な瞬間となるだろう」とも述べた。
米国はウクライナと最終的な合意の輪郭を話し始めた、ともトランプ氏は主張。これには維持する領土と失う領土、大規模な発電所をどちらが維持するのかなども含まれるとし、「簡単なプロセスではない」と語った。この発電所が何を指すのかトランプ氏は明示しなかったが、欧州最大の原子力発電所であるザポリージャ原発をロシア軍は戦争開始当初から占領している。
プーチン氏は、13日に予定されている米国のウィットコフ中東担当特使との協議に先立ち発言した。ウクライナが受け入れ可能とする30日間の停戦案について、米国はロシアも合意するよう説得したい考えだ。
プーチン氏は「われわれは敵対行為を停止する提案には同意するが、停戦は長期的な平和と、この危機の原因除去につながるものでなければならないとの考えが出発点になる」と述べ、停戦なら約2000キロに及ぶ前線の「監視と確認を巡る問題が生じるだろう」との考えを示した。
ロシア国営タス通信によると、ロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交政策担当)は、プーチン、トランプ両氏の電話会談は13日には予定されていないと述べた。
●プロファイ、インフラ、自然災害
エネルギー関連のシンクタンクである英エンバーの分析によると、米国では昨年、風力と太陽光による発電量が初めて石炭火力による発電量を上回った。この二つの再生可能エネルギー源が米国の電力構成の17%を占め、石炭の割合は15%に低下した。
エンバーが米エネルギー情報局(EIA)のデータを分析したところ、最も急速に成長したエネルギー源は太陽光発電で、前年比27%増加した。風力発電は7%増加した。
エンバーのチーフアナリストのデーブ・ジョーンズ氏は「新たなパラダイムに入った」とし、「昨年の電力需要増に対応したのは天然ガスよりも太陽光発電だった。これは現在の議論や将来の予想とは相反している。議論の多くは天然ガス発電所の増設へと移行している」と述べた。
この分析結果は、トランプ政権が天然ガスの生産と輸出の急増に備えている中で発表された。エネルギー長官のクリス・ライト氏は今週テキサス州ヒューストンで開かれたエネルギー会議で、アラスカやニューイングランドなどでの新たなガスパイプライン建設を推進し、天然ガス輸出の許可を与えていると述べた。
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
ドルは主要通貨に対して上昇し、ポジション調整が進みましたが、トランプ米政権の貿易政策への懸念で見通しは不透明です。ドル指数は0.2%上昇し、円は0.39%高の147.84円となりました。ユーロは対ドルで0.28%安となり、5カ月ぶり高値で推移しています。
米国の国債利回りは低下し、貿易戦争による経済成長の鈍化懸念から、安全資産として米国債が買われました。トランプ大統領は、EUが米国産ウイスキーへの課税撤廃しない場合、アルコール製品に200%の関税を課すと発表。米株式市場は主要株価指数が大幅に下落し、特にS&P500は調整局面入りとなりました。ナスダック総合指数も2%近く下落しました。
金先物は続伸し、安全資産としての需要から最高値を更新。原油先物は貿易摩擦による需給緩和の懸念で反落しました。
ロンドン株式市場はまちまちの動きで取引を終え、FTSE 100はほぼ横ばい、FTSE 250は1%安となりました。米政権の関税措置に対する警戒感が広がる中、トランプ大統領がEUに対し、米国産ウイスキーへの課税撤廃を要求し、撤廃しなければ200%の関税を課すと発表。特に英住宅市場の低調やナットウエスト銀行の株価下落が影響し、FTSE 350種住宅建設株指数は2.1%下落しました。一方、金価格の上昇を受けて貴金属株指数は1.64%上昇。
欧州株式市場は小幅に反落し、貿易戦争の懸念が影響。特に自動車・部品株は大きく下落し、ペルノ・リカールやLVMHも下落しました。ヘルスケア株指数は0.47%上昇し、ノボノルディスクが好調でした。
ユーロ圏のドイツ債は小幅低下し、依然として高水準にあり、ドイツ議会の財政拡大議論が材料視されています。トランプ大統領の関税政策も引き続き注目されています。

備忘録(2025/3/12
●海外企業決算
●海外企業
米半導体メーカーのインテルは12日、次期最高経営責任者(CEO)に元同社取締役会メンバーで、米ソフトウエア会社ケイデンス・デザイン・システムズのCEOや会長を務めたリップブー・タン氏を起用すると発表した。
インテルの発表文によれば、タン氏(65)は今月18日に就任の予定で、2024年8月にメンバーを退任した同社取締役会に再び加わる。半導体業界のベテランである同氏は、かつて業界のパイオニアでありながら、現在は競合他社に後れを取っている同社立て直しを託される。
市場シェア縮小や業績低迷に見舞われているインテルは債務負担を抱え、最近には約1万5000人の削減を余儀なくされた。
タン氏はインテル従業員へのメモで、事業再建は可能であると自信を表明。「それが容易だと言うわけではない」としつつも、「勝つために必要なものをわれわれは持っていると全身全霊で信じているからこそ、私は加わる。インテルは米国と世界のテクノロジー・エコシステムにおいて不可欠な役割を果たしている」と指摘した。
インテルの株価は12日の通常取引を4.6%高で終えた後、タン氏起用の発表を受けた時間外取引では一時11%余り上昇した。
米小売り大手ウォルマートが全米に展開する数千の店舗は、10年前はオンラインショッピング時代の恐竜のように思われた。同社は現在、ネット通販における米アマゾン・ドット・コムの牙城を脅かす数少ない存在となっており、そうした店舗がウォルマートの戦略の中核を担っている。
昨年はウォルマートが注文当日に配達した商品が50億点に上り、2023年の2倍になった。肉、卵、牛乳を含め、同社の主要業態である「スーパーセンター」で扱う12万品目の商品の大半は現在、米国の93%の世帯に当日、時には数時間で配達できるようになっている。
アマゾンは当日配達について、正確に比較できる数字を公表していない。ただ、ウォルマートの広範な配送ネットワークは一部の地域ではアマゾンよりもスピードで勝っており、数年前には想像できなかったような飛躍を示している。
ウォルマートの米国部門最高経営責任者(CEO)を務めるジョン・ファーナー氏はインタビューで、「迅速配送の拠点としても機能する店舗が約4700カ所もあることは非常にありがたい」とし、「おそらく数年前には、われわれが大規模に配送できるとは誰も予想していなかったかもしれない」と述べた。
こうした迅速な配達でウォルマートが頼るのが、自社で開発した「スパーク(Spark)」と呼ばれるシステムを使う数千人規模のフリーランスのドライバーだ。スパークはアプリを通じてオンライン注文と実店舗の橋渡しをする。
米国では電子商取引(EC)の売り上げ全体の約41%がアマゾンを経由しており、シェアはウォルマートの9%を大きく上回っている。アマゾンは今年、売上高でウォルマートを抜いて米国最大の企業になる可能性がある。ウォルマートの2024年の売上高は6810億ドル(約100兆円)、アマゾンは6380億ドルだった。
ウォルマートは長年にわたる試行錯誤や失敗を経て一つのニッチな領域を切り開いた。それは安い食料品に加え、衣料品やインテリア雑貨、電池、処方薬など実店舗で販売する他の商品を含んだオンライン注文商品を迅速に配達することだ。こうした分野ではアマゾンが追いつこうと努力している。
アマゾンの広報担当者は、当日配送を受けられる米国世帯の割合を明かすことを控えた上で、米国内3500以上の都市で消費者は何らかの形でアマゾンを通じて食料品の配送を利用でき、同社は数百万品目の商品を当日配送できると述べた。同社は昨年米国で、洗剤やペーパータオルなど「日常の必需品」に分類される商品20億点以上を当日または翌日に配送したという。こうした数字には生鮮食品は含まれていないものの、当日配送を扱う倉庫にこうした商品を追加しようとしていると広報担当者は述べた。
EC関連の調査を行うイーマーケターのアナリスト、ブレイク・ドローシュ氏は「ウォルマートがオンラインにおけるアマゾンの規模に追いつくことは到底できないだろう」とした上で、「ただウォルマートは、有効な対抗策を講じるだけの資本と戦略を備えた数少ない小売業者だ」と語った。
ウォルマートは事業全体では黒字であるものの、売上高の18%を占めるEC事業は赤字だ。経営陣はEC事業が黒字化に近づいているとするが、達成が見込める具体的な時期を示していない。同社は伝統的な小売り事業以外にも、広告など収益性の高い事業を展開している。
投資家は心配していないようだ。ウォルマートの株価はこの2年間で2倍になり、過去最高値も更新した。時価総額は7370億ドル近くに達している。アマゾンの時価総額は2兆1000億ドルを超えている。
ファーナー氏は、和牛など質の高い商品を「ウォルマート価格で、非常に便利な迅速配達サービスを通じて」提供できれば、勝算が高まると語った。
ウォルマート経営陣はこの10年の間に、食料品事業を活用してアマゾンの拡大に対抗する必要があるとの認識を強めた。米国での売上高のうち、50%以上は肉、卵、レタスといった食料品が占める。同社は規模を生かしてこうした商品の価格を引き下げており、安値は顧客が頻繁に店舗を訪れる要因になっている。
ウォルマートが想定するのは、買い物客は低価格商品に加え、相対的に利益率の高い衣料品やインテリア雑貨、小型家電なども一緒に購入するということだ。経営陣は同様のことがネット通販でも期待できると考えた。つまり、食料品をてこにして競合他社からネット通販の顧客を奪い、収益性の高い商品の販売につなげて利益を上げるという戦略だ。
ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは就任して間もない
2014年、「ひときわ難しい部分は終わったと思っている」と述べ、「他の企業が構築しなければならない物理的な世界における店舗、従業員、専門知識をわれわれは持っている」とした。
マクミロン氏の就任当時、ウォルマートはコロラド州デンバーでサービス導入の小規模な実験を行っていた。買い物客がオンラインで食料品を購入し、店舗の駐車場で受け取ることができるというサービスだった。店舗受け取りサービスと配達の両方を手がける少数の店舗で開始した。
マクミロン氏の下で同社は、店舗受け取りサービスを利用してオンライン事業の規模拡大と収益性向上を目指した。このサービスは社内で「オンライン・グローサリー・ピックアップ(OGP)」と名付けられ、対応店舗数は2017年までに米国内4600店舗のうち1000程度に達した。
経営陣は短時間での食料品配達は顧客の需要が大きいことを認識していた。ウォルマートは2016年までにウーバーやリフトといった配車サービス会社と提携し、駐車場での受け取りサービスに配達を追加した。こうした提携は双方にとって複雑でコストがかかることが判明し、ウォルマートは提携企業を次々と変更することになった。
ウォルマートは結局、「スパーク」と名付けた独自のシステムを構築することになった。2018年、食料品配達の範囲を拡大するため、独立したドライバーのネットワークを試験的に運用すると発表した。当時は、米国世帯の約40%が配達対象になっていた。現在、ウォルマートの従業員ではなく配達1件ごとに報酬を受け取る数万人のスパーク・ドライバーが当日配達サービスの大部分を担っている。
スパーク・ドライバーは、注文された商品を店舗で働くウォルマート従業員から受け取ったり、店内で商品をピックアップしたりする。ウォルマートはチップを除き約10ドルを支払う。一つの注文に含まれる商品数が多い場合や配達距離が長い場合は、支払額が増える。
宵越しの「バドライト」
サマンサ・アトキンソンさん(43)は昨年、小規模なオンライン化粧品会社の経営で得られる収入を補うためにスパーク・ドライバーになった。週に5日、午前中の4時間程度を使って、アイダホ州南東部で日産「ムラーノ」に乗り、ウォルマートの食料品を配達して回る。
3人の若い成人の娘を持つアトキンソンさんは、日の出とともに配達の仕事を始めるのが好きだと話す。前夜にスパークのアプリにアップロードされた注文が残っており、良い稼ぎとなる可能性があるからだ。ウォルマートは未配達の注文をドライバーに引き受けてもらうために、そうした注文については支払額を徐々に増やす仕組みにしている。
深夜に入った注文で未配達のものには、ビールや風邪薬が含まれていることが珍しくない。配達先を「起こすことがよくある」と話すアトキンソンさんは、「こんにちは。『バドライト』をお持ちしましたよ!』という感じだ」と話した。
アトキンソンさんが1日に稼ぐ金額は100ドル程度のことが多く、そこからガソリン代などの経費を支払う。店舗の駐車場から3、4件の注文の商品を一度に集める。距離がさほど遠くない基本的な配達で少なくとも15ドル稼ぐことを目標にしているという。この金額にはウォルマートからの支払いとチップが含まれる。
化粧品ビジネスでは、スクリーンの前で一人でいる時間も多く、アトキンソンさんはウォルマートの配達をすることで、「奇妙で思いがけない方法で人々とつながることができる」と話した。
配達距離を拡大
ウォルマートの当日配達サービスの対象は、2年前は米国世帯の約76%だったが、現在では93%に拡大している。ウォルマートの技術担当幹部のパルベス・ムサニ氏によると、配達範囲を拡大するために同社は長年にわたり、食品を腐らせたり配達員の不満を高めたりすることなく、どこまで配達サービスを広げることができるかを正確に予測できる技術の開発に取り組んできた。
ウォルマートのジョン・デービッド・レイニー最高財務責任者(CFO)は2月の決算電話会議で、同社のオンライン顧客のうち、注文から数時間以内に商品を受け取ることができるのであれば、通常の配送料に追加で料金を支払うことをいとわない割合は3分の1以上だと述べた。会員プログラムの「ウォルマート+(プラス)」に加入していない顧客の場合、1回の配送料は平均約10ドルで、これにチップが加わる。
アマゾンは急速な拡大を続けている。米国内に1000カ所以上の配送施設を持つほか、食品スーパー「ホールフーズ」を所有し、世界全体では2億人以上が会員制サービス「プライム」に加入している。同様のサービスであるウォルマートプラスでは、35ドルを超える注文であれば配送は無料になる。
生鮮食品の配達事業に関しては、アマゾンは優位に立てずにいる。生鮮食品配送サービス「アマゾン・フレッシュ」やレジなしコンビニエンスストア「アマゾンゴー」といった取り組みの一部は設計変更や規模縮小を余儀なくされた。同社はホールフーズやアマゾン・フレッシュを通じた複数の配達モデルを試してきた。
アマゾンは配達サービスよって食料品事業で優位に立つことができるのか、あるいはさらに数百店舗が必要なのか、幹部の間ではまだ議論が続いていると事情に詳しい関係者は語った。
アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは昨年春の決算電話会議で、大規模な食料品配達サービスを提供するには「生鮮食品事業と広範な実店舗網が必要だ」とアナリストらに語った。
ソフトウエアエンジニアのラムチャンドラ・アプテさん(23)は最近、シカゴからニューヨーク市近郊のニュージャージー州のアパートに引っ越した。ウォルマートプラスと、配達のサブスクリプション(定額課金)サービス「InHome(インホーム)」を対象にした割引をウォルマートが提供した際には利用することを決めた。ウォルマートの店舗よりもアパートから近い場所にホールフーズの店舗があるにもかかわらずだ。
車を持っていないアプテさんは、ホールフーズは「値段が高いし、食料品を全部自分で運ばなければならない。面倒だ」と話した。
アプテさん食料品以外の商品はアマゾンで注文しているものの、食料品についてはウォルマートの配達の方が少し速いと感じているという。「十分な収入はある」というアプテさんは「主に時間を節約したいというのが大きい。使うお金に見合う価値も得たいと思っている」と話した。
米欧の酒造業界団体は12日、バーボンウイスキーなど米製蒸留酒に影響を与える欧州連合(EU)の関税は、業界にとって「壊滅的な結果」をもたらすとの見解を表明した。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は同日、鉄鋼とアルミニウムを巡る米国の関税に対抗し、4月から260億ユーロ(283億1000万ドル)相当の米国製品に関税を課すと表明した。
業界団体spiritsEurope(スピリッツ・ヨーロッパ)のウルリッヒ・アダム事務局長によると、この措置で、一時停止されていたバーボンウイスキーへの関税が復活して税率が50%と倍増する。
この業界団体は、酒造大手のディアジオやジャックダニエルを抱えるブラウンフォーマンなど、米国と欧州の大手蒸留酒メーカーが加盟する。テキーラやジンなども新たな関税の対象となる可能性がある。
米国で蒸留酒を製造する欧州企業が打撃を受ける可能性があり、米欧いずれの企業にも壊滅的となると強調した。
アダム氏は「市場は非常に低迷している」と、高インフレや経済低迷、家計収入の伸び悩みを挙げた上で、関税措置により「大打撃になる」と指摘した。
一方、米国蒸留酒協会は、米製ウイスキーの最大の輸出市場からの「状況を悪化させる関税」は成長のさらなる抑制につながり、米国の蒸留業者や農家に打撃となるだろうと述べた。業界関係者からは、EUの関税が発動する前に、問題が解決されることを望むとの声も出ている。
●日本企業
●先進国政治動向
トランプ米大統領は9日の米FOXニュースとのインタビューで、自分ほどロシアに対して厳しい態度を取る者はいないと語った。そして米国とウクライナの当局者が今週、サウジアラビアで会合を開く準備を進めていた中、筆者はその主張を検証することが有益ではないかと考えた。
トランプ氏は1期目の2018年に、37基の対戦車ミサイル「ジャベリン」を210発のミサイルと共にウクライナに送った。非殺傷性の支援のみを提供するオバマ政権の方針を覆すものであり、ジャベリンは少数ながらも、22年2月から3月にかけてロシアがウクライナの首都キーウの制圧を試みた際には防衛で重要な役割を果たした。
トランプ氏は1期目に対ロシア制裁も科した。米ブルッキングス研究所によれば、トランプ氏が1期目に講じた対ロ措置は52件。同氏のロシアに対する好意的な発言とは相反する多さだった。
しかし、それはトランプ政権の1期目でのことだ。重要なのは、トランプ氏はプーチン大統領との関係を強化したように見えることだ。ボブ・ウッドワード氏の著書「WAR(ウォー) 3つの戦争」によると、トランプ氏は1期目の退任から2期目が始まるまで、7回も電話で話している。ブロマンスという言葉は、この2人の関係を表すには漠然とし過ぎており、軽薄な響きがある。むしろ、トランプ氏が以前から抱いていたプーチンへの尊敬の念と、米民主党や欧州のリベラル派に対する苦悩を分かち合う新たな、深い絆が混ざり合ったものと言えるだろう。
筆者は、米国とウクライナの関係が崩れた2月28日の記者会見を何度も見直した。ここで幾つかのことに気づいた。まず、一部で主張されているようなトランプ氏が事前に仕組んだ罠ではないということだ。
この会談を台無しにしたのはバンス米副大統領だ。バンス氏の「口撃」によって、トランプ氏はその場を取り仕切らざるを得なかった。トランプ氏が心から話しているように見えたのは、ゼレンスキー氏がプーチン氏を残酷な殺人者と表現したことに対して、プーチン氏を擁護した場面だけだった。
トランプ氏の発言はこうだった。「ちょっと待て、私と同じくプーチン氏はとんでもない経験をした。ロシア、ロシア、ロシアと利用され、でっち上げの魔女狩りに巻き込まれた。彼が経験したのは民主党のペテンで、それを切り抜けた。われわれは戦争にならなかったし、プーチン氏はそれを経験した」。
ソ連の元スパイであるプーチン氏に共感し、それを同氏が破壊しようとしている国の元首への攻撃に使う神経がどのようなものか、筆者には考えもつかない。だが、トランプ氏がプーチン氏との個人的なつながりを感じ、1期目の後でそれを強めたのは明白に思われる。
疑いの余地がないのは、ホワイトハウスに復帰してからのトランプ氏のロシアに対する強硬さは大きく変化したように見えることだ。プーチン氏はウクライナ侵攻の停戦協議の条件をいくつも挙げている。中核となるのは、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)非加盟、領土併合の容認、さらにウクライナ国内に分断の種をまき、ゼレンスキー氏を政権から追い落とすことを目的とした違法な選挙の実施などだ。トランプ氏はいずれの条件も容認あるいは強く要求している。一方でゼレンスキー氏がホワイトハウスで、将来的な侵攻に対する安全保障の確約という自らの条件を主張しようとすると、トランプ氏はウクライナへの軍事的・情報提供の支援をすべて取りやめた。
この結果は、ウクライナ軍の犠牲という形で直ちに跳ね返った。さらにウクライナの防空システムを突破するロシアのミサイルも増えた。トランプ氏はFOXに対し、窮地に立たされたウクライナは生き残れないかもしれないとあらためて語ったが、気にしていないという態度は明らかだった。
これこそ、プーチン氏が明言するロシア側の最終的なゴールだ。つまり、独立した主権国家としてのウクライナの終わりだ。また、欧州と接する新たな長大な国境に沿ってロシア軍の兵士やミサイルが大規模に展開することになり、欧州にとっても悪夢だ。
一方のトランプ氏は、プーチン氏を熱烈に称賛している。ロシアに対して公に圧力がかけられたのは、プーチン氏が停戦協議に応じない場合、さらなる制裁を課すという脅しだけだ。ウクライナへの対応とは対照的だ。制裁を一段と厳しくしたところで、昨年の米ロ貿易は35億ドル(約5200億円)しかなく、影響は微々たるものだ。
もしウクライナの当局者がサウジアラビアでの交渉で、トランプ氏は自分たちを見捨てただけでなく、敵に寝返ったのではないかと心配しているとすれば、その懸念はもっともだ。楽観的に考えれば、こうした展開の背後にあるのは、有能なビジネスマンとしての交渉術を駆使し、自分がその場において最も賢い戦略を持っていると信じるトランプ氏の思い込みだ。ゼレンスキー氏は話が通じず、排除すべき障害となっているという考え方だ。しかし、不動産と地政学は同じではない。ビジネスは勝つか負けるかだ。会社は倒産するかもしれないが、また別の会社を立ち上げればいい。
国際情勢では人が死に、国が崩壊する。予期せぬ展開が多く、ほとんどのディール(取引)は本当の意味で完結することはない。
これ以上に極めて悪いシナリオは、トランプ氏が自分のゲームを理解している場合だ。つまり、同氏は意図的に東欧を勢力圏としてロシアに譲り渡し、経済的・イデオロギー的なライバルとみなす西欧を弱体化させ、カナダやグリーンランド、メキシコ、パナマに対する米国の支配力強化につながる新たな国際規範を打ち立てようとする展開だ。どちらのシナリオかは、すぐに分かるだろう。
●先進国中銀、金融当局
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は12日、ユーロ圏経済は貿易、防衛、気候問題に起因するショックに直面しており、これらがインフレ率の変動を増幅させ、物価の伸びがより粘着性を持つリスクを高めていると述べた。
ECBが2%のインフレ目標を維持し、さまざまなショックへの対応方法を説明することが不可欠とした。
フランクフルトで講演し、「ここ数年、特にここ数週間、われわれの期待は見事に裏切られている」と発言。「ほんの数カ月前には考えられなかったような政治的決定を目の当たりにしている」と述べた。
貿易の分断はより大規模で破壊的な価格変動につながり、防衛費の増額と同様、基本的にインフレ率の上昇につながる可能性があるものの、そうしたショックが互いに弱め合うことで物価上昇圧力を消滅させるリスクも同様にあると主張した。
ラガルド総裁は、ECBには何ができて何ができないかを明確にしなければならないと表明。ショックが政策にどのような影響を与えるかを企業や家計が常に把握できるよう、「われわれは反応関数、特に状況の変化によってどのような影響を受ける可能性があるか、どのようなデータに注目するかを明確にすることができる」と語った。
●先進国経済指標
米労働省が12日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は前年比2.8%上昇した。伸びは1月の3.0%から鈍化し、市場予想の2.9%を下回った。来週会合を開く米連邦準備理事会(FRB)の金利据え置きの余地が広がるとみられるものの、トランプ米大統領による関税の影響はまだ反映されておらず、一時的な安心感にとどまる可能性もある。
瞬間風速を示す前月比では0.2%上昇と、昨年10月以来の小幅な伸びにとどまり、市場予想の0.3%上昇を下回った。1月は0.5%上昇だった。
FHNフィナンシャルのチーフエコノミスト、クリス・ロー氏は「貿易戦争を受け、今後のインフレ指標では物価上昇が示されるだろう」とし、「物価を巡る不確実性を踏まえ、FRBは現在様子見姿勢を維持しているが、関税の応酬を巡る状況が落ち着けば、年内に追加利下げする可能性は高まった」と述べた。
内訳では、ホテルの宿泊代を含む住居費が前月比0.3%上昇し、2月のCPI上昇のほぼ半分を占めた。1月は0.4%上昇していた。
一方、航空運賃は4.0%下落。企業や消費者が支出を減らし、需要が鈍化している兆候を示唆した。
ガソリンも1.0%下落。世界的な原油需要の減速を反映した。
食品は0.2%上昇。1月は0.4%上昇だった。
問題となっている卵の価格は10.4%高騰し、上昇トレンドが継続。前年比では58.8%急騰した。
バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズの米国エコノミスト、スティーブン・ジュノー氏は、関税などの一時的な要因によるものであっても、インフレがFRBの目標を上回る期間が長引けば、インフレ期待の上振れリスクが高まると指摘。「そうなれば、FRBにとって物価安定の回復はさらに困難になるだろう」と述べた。
変動の激しい食品とエネルギーを除くコア指数は前年比3.1%上昇し、2021年4月以来の小幅な伸びとなった。市場予想は3.2%、1月は3.3%上昇だった。
前月比では0.2%上昇。予想は0.3%上昇、1月は0.4%上昇だった。
●金融市場、先進国トピックス
三井住友フィナンシャルグループ(FG)で市場事業部門長を務める小池正道副社長は、日本銀行の金融政策について、来年以降に政策金利が2%に達する可能性があるとの認識を示した。実現すれば1993年以来の水準となる。
小池氏はインタビューで「日本の物価上昇率は2%に定着すると考えている。日銀は緩やかに利上げを継続するだろう」と説明。その上で「今年、政策金利が1%まで利上げされることはあり得る。来年以降、景気次第では2%まで上げていくことはある」と述べた。
日銀は昨年3月に17年ぶりの利上げに踏み切り、その後の追加利上げで足元の政策金利は0.5%となった。2%を超えていたのはバブル景気の余韻が残る時代にまでさかのぼる。「金利のある世界」が到来する中、マーケットにも大きな影響を与える日銀の利上げ時期やペースに対する市場の関心は高い。
ブルームバーグがまとめたエコノミストの予測平均では、政策金利は2027年4-6月期までに1.2%までの上昇が見込まれている。
小池氏は「インフレの芽を大事に育てていくという意味で、日銀は丁寧に利上げをしていくと思う」と言及し、米国のような急激な利上げに見舞われる可能性は低いとの認識も示した。
インフレヘッジで株式購入
長期金利は上昇傾向にあり、10日には2008年以来の高水準となる1.575%を付けた。もう一段の上昇について「可能性は当然ある」とみており、10年国債など日本国債の投資方針については「拙速に買って運用のポートフォリオを構築するのは早過ぎる」と話した。
日本は「失われた30年」を経験し、長期の不景気で物価上昇を伴わない経済環境を経てきた。小池氏は、こうした時代の銀行の市場運用は「債券の運用でよかった」と振り返るが、金利のある世界となった現在では「過去30年とは運用の中身を変えないといけない時代になった」と指摘する。
具体的な取り組みとしては「インフレヘッジの意味合いも含め、株をポートフォリオに入れていく」と説明。日本株や外国株のインデックスファンドを購入していると述べた。
米金融政策の行方については、同国の景気悪化は見込んでいないとして、今年中の利下げはないとの見立てだ。政策金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は4.25-4.5%。「政策金利は3%台が定着してくると思っている。トランプ政権でインフレが急速に起こるとは思っておらず、利上げも利下げもしづらい環境が続くだろう」と見通した。
トランプ氏の政策については「行き当たりばったりではなく、すべて戦略的に計画されている」と分析。「確かに不透明なことはあるが、トランプ氏の思い描くゴールに向けて交渉事が行われ、きちんと進んでいるのが今の状況だ」とも付け加えた。
ヘッジファンドにも勝てる
小池氏は1987年に旧太陽神戸銀行(現三井住友銀行)に入行し、89年に自ら市場部門の門をたたいた後、マーケット一筋のキャリアを歩んできた。93年から5年間、ニューヨークでの勤務も経験。市場が何度か危機に見舞われた際、的確な判断で銀行を支えてきた。
今年4月1日付で35年以上身を置いた市場部門の最前線から退く。三井住友FGと三井住友銀の副会長として後進にアドバイスを続ける予定だ。
久方ぶりに訪れた金利のある世界で、市場部門が果たす役割はより大きくなる。小池氏はニュースの本質を読み解く力が重要だと語る。市場関連だけでなく、企業の不祥事や国の紛争に至るあらゆるテーマについて考え、「その後どう動くのかを見抜き、読み解く力があれば、ヘッジファンドにも勝てる」と話した。
欧州のしきたりが崩壊しつつある。先週は、防衛や財政政策の運営に関する長年信じられてきた前提が覆された。
その劇的な動きのさなかに欧州中央銀行(ECB)は政策金利を0.25ポイント引き下げ、声明で金融政策による「景気抑制の度合いが有意に低下しつつある」との認識を示した。
ECB声明の文言変更は、欧州の激動に比べると退屈なものには違いない。それでも変化は起こっている。ECBが欧州の地殻変動と向き合うのはもうすぐだ。
ECBはこれまで、政策を「景気抑制的」だとしてきたため、これは転換ではある。しかし方向転換というよりも、ラガルド総裁が「進化」と呼ぶような変化だ。
景気抑制的でなくなれば、ECBが利下げをやめることができる地点に近づくことになる。しかし、依然として抑制的ではあるため、利下げのバイアスは残っている。
これは市場の期待にも反映されており、追加緩和の可能性は依然として高いものの、年末の金利は2.0%と予測されている。
次に何が起こるかが問題だ。今後2週間の間に予想外の政治的大問題が発生しない限り、ドイツの財政政策は数世代ぶりに緩和されることになる。
欧州連合(EU)は大規模な防衛支出について激しい議論を交わしている。EUは米国による関税導入が迫っていることについても考慮しなければならない。関税は成長にとって直接的にマイナスとなるが、報復措置はインフレ押し上げ圧力となる。
ECB政策委員会での利下げの決定は、1人の棄権を除き全会一致だった。ユーロ圏経済は低迷しており、防衛支出や関税はまだ推測の域を出ない。利下げは理にかなっていた。
しかし、ブルームバーグの同僚が指摘したように、4月の次回会合では対立が起こる可能性が高い。
関連記事:ECB、利下げ最終局面に突入-スムーズな合意は3月が最後にも
拡張的な財政政策に対して、金融引き締めで対抗すべきだろうか。既にECB政策委でタカ派とされるシュナーベル理事が、独紙ハンデルスブラットで自身の見解を披露している。
収縮的でも拡張的でもない中立金利である「r*」がどの水準にあるのかは明確ではないが、タカ派は今後大規模な財政支出が行われれば、r*は上昇するはずだと主張できる。つまり、利下げ幅は縮小するということだ。
途方もない特権
もう一つの変数として、長期金利を左右する債券市場がある。ドイツの新たな財政政策の幕開けは、10年物ドイツ国債の利回りを1週間で50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇させた。トレーダーらが国債増発に伴うプレミアムを求めたからだ。
大幅な利回り上昇は金融環境を逼迫(ひっぱく)させる。しかし、これがドイツの「リズ・トラス事件」となる恐れはほとんどない。
トラス氏が英首相就任直後に急進的な財政政策を打ち出して市場を驚かせた際には、債券市場の反乱に遭い、減税断念と辞任に追い込まれた。 
ドイツ国債の利回りは、2010年のユーロ圏債務危機発生以来の高水準ではあるものの、当時よりもはるかに低い。
市場は事実上、ドイツ政府に対して「もっと借り入れをしても構わない」と伝えている。 ドイツは倹約し過ぎであり、借り入れを増やした方が債務返済に有利だという考え方が広まっている。
確かに、ユーロ圏の構造がドイツに「途方もない特権」を与えており、ドイツはこれまでその特権を行使することを拒んできたという見方もある。
途方もない特権というのは、米国がドルの基軸通貨としての地位から得る利益を指して使われた言葉だ。
ユーロ圏の場合は、投資家が欧州債を購入したい時、ドイツ国債は他のどの国よりも安全であるためどこよりも低い金利で借り入れられるというのがドイツの特権だ。
ドイツの借り入れが増えると、他のユーロ参加国の借り入れが圧迫されるリスクがある。
欧州全域を対象とした特別な債券を発行して防衛費を調達すれば、さらに安全な債券となり、ユーロ圏各国が自国の債務により高い金利を支払わざるを得なくなる傾向も強まる。
現在、他の欧州債のドイツ債に対するスプレッドはかなり狭いものの、フランス債のスプレッド拡大は不安材料だ。
ドイツがその特権を行使し、欧州が独自の防衛費調達を開始しようとしている今、一部のユーロ参加国が借り入れコストの大幅な上昇に直面するリスクがある。この問題について、ECBも考え始めるべきだろう。
米大手投資会社ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)は12日、トランプ米大統領の関税などの通商政策に関し、「最終的には米国の製造業の活動の大幅な増加につながる」と述べ、景気を促進するとして、支持する見解を示した。結果として「世界にとって良い」とも言及した。
シュワルツマン氏は、インド・ムンバイでの自社イベントで記者団に対し、インドのモディ首相とトランプ氏の2月の会談を受け、インドと米国の関税交渉は他国と比べて比較的順調に進むとの見方を示した。
トランプ氏の1月の大統領就任以降、関税を巡る動きは世界の投資家や消費者、企業に不安をもたらしている。米国の景気後退や世界経済への悪影響を懸念する声も出ている。
ブラックストーンのアジアプライベートエクイティ(PE)部門を率いるアミット・ディクシット氏は、今後数年でインドでの運用資産を現在の500億ドル以上から倍増させる計画だと述べた。インドのデータセンター、通信塔、再生可能エネルギー、空港、港湾といったインフラ分野に投資を展開する意向も示した。
ブラックストーンはインドを主要市場の1つと位置付け、オフィスビルやショッピングモール、物流施設などを持つ。病院を展開するほか、ITサービスや電気自動車(EV)部品の企業にも投資している。
米国市場では11日の取引終盤、投資適格社債と国債の利回り差(信用スプレッド)が昨年9月以来の高水準に拡大した。景気後退(リセッション)と世界貿易戦争を巡る投資家の懸念の高まりを示唆した。
ICE BofAコーポレート・インデックス(.MERC0A0), opens new tabによると、信用スプレッドは11日時点で94ベーシスポイント(bp)と、昨年9月18日以来の水準まで拡大。ジャンク社債全体の米国債に対するスプレッドも広がり、ICE BofAハイイールド・インデックス(.MERH0A0), opens new tabによると、322bpと同じく昨年9月18日以来の高水準となった。
米国の消費者とクレジットカードは米経済が幾多の混乱期を乗り切る支えとなってきた。そうした役割はリセッション(景気後退)の懸念が再浮上している現在、限界に達しているのではないかと不安視する声も聞かれる。
米株式相場の最近の急落は広範囲に及ぶ。下げは一部のセクターで特にきつく、その代表は消費者向け金融サービス業者だ。融資やクレジットカードを手がけるアメリカン・エキスプレス、キャピタル・ワン・ファイナンシャル、ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズ、シンクロニー・ファイナンシャルは10日の取引で下落率が4%を超えた。この4社は年初から平均で約12%値下がりしている。S&P500種指数は4.5%下落した。
景気に対する懸念が消費者向け金融サービス業者の株価を直撃するのは今回が初めてではない。支払いの遅延や銀行による消費者ローン償却額の急増を受けてこうした企業の株価が急落する場面は、ここ数年の間にも見られた。現在大きな懸念となっているのは、債務の返済が滞れば消費者はこれまでのような支出ができなくなり、経済の重要な柱が失われかねないことだ。
ここ数年のケースは誤ったシグナルであることが多かった。延滞率の上昇は特定の借り手に集中する傾向があり、2021年と22年の場合は多額の新規債務を抱えた人々がそうした一群だった。当時、多くの消費者は通常よりも多くの額を借り入れることができた。新型コロナウイルスの流行に伴い、景気刺激策の給付金で潤った上、ロックダウン(都市封鎖)の影響で貯蓄が膨らんだためだ。多くの銀行はやがてクレジットカードの条件を厳格化した。
そうした不良債権は現在、ようやく消化され、処理されつつある。米格付け会社ムーディーズ・レーティングスは、自動車ローンとクレジットカードローンの貸し倒れ償却率が今年後半にはわずかながら低下すると予想している。
だが投資家は新たな懸念を抱いている。一つは、消費者の債務水準がインフレ調整後の1世帯当たりでコロナ前の水準を超えてさらに膨らみ始めていることだ。消費者金融サイトのウォレットハブがまとめたデータによると、2024年10-12月期時点で平均的な世帯のクレジットカード債務は、インフレ調整後で2009年以来初めて1万ドル(約150万円)を超えた。
景気が悪化する、あるいは景気後退に陥るリスクが高まっていることも懸念されている。ドナルド・トランプ大統領の関税政策による悪影響を投資家が不安視しているのは明らかだ。市場の警戒レベルは10日にさらに高まった。政権幹部やトランプ氏自身が、長期的目標を達成するためには市場や経済の短期的な痛みを受け入れる必要があるとの認識を示したことが背景となった。スコット・ベッセント財務長官は、政府支出への依存度を下げるためには、経済は「デトックス期間」が必要かもしれないと述べた。
金融業者は、信用モデルにおける最も重要な要素は雇用だと話す。経済成長や株価がどうであれ、人々は働いている限りは支払いを続ける可能性が高い。そのため貸し手は失業に敏感になりやすい。たとえ失業が連邦政府職員や輸入品に依存するセクターで働く人々に集中していたとしてもだ。
また、消費者の債務返済の優先順位の変化がクレジットカードや自動車ローンに影響を与える可能性もある。住宅価格の上昇に加え、コロナ流行時に借り入れた住宅ローンの金利が極めて低かったことで、家を手放したくないと思う気持ちがこれまで以上に強くなっていることが考えられ、予算配分において住宅ローンの支払いが優先されるかもしれない。ニューヨーク連銀が最近発表した消費者調査では、住宅ローン債務の優先順位が今世紀のどの時期よりも高くなっていることが示された。
消費者向け金融サービス大手の業績は、米国の消費者経済の一部を示すに過ぎない。政府給付金の受給者など、経済的に弱い立場にある人々はクレジットカードを持っていないかもしれず、また自動車ローンについては、小規模で自動車ローンに特化した金融業者に頼っているかもしれない。こうした消費者は、自動車部品などの輸入品のコスト上昇による家計への打撃が大きくなる可能性が高い。
経済的に余裕のないこのような消費者は、裁量的な支出の対象となる商品やサービス部門での存在感は小さい。市場全体にとって特に懸念されるのは、高所得者層で延滞率が上昇することだろう。
大手信用情報機関3社の合弁企業バンテージスコアが開発した指標「クレジットゲージ」によると、2023年1月から25年1月にかけて、年収15万ドル以上の人々のうち負債返済が60~89日遅れている割合は2倍以上になった。全体の債務残高に占める割合としては0.16%に過ぎず、他の所得層と比べてまだはるかに低い。ただ、延滞の増加は中所得層や低所得層を大きく上回っている。
バンテージスコアのチーフストラテジーオフィサー兼チーフエコノミストのリカード・バンデボ氏は「高所得層の中で信用ストレスが高まっている」と語った。持ち家や多額の投資ポートフォリオといった大きな資産を持たない消費者ほど、信用ストレスが大きいという。「2025年は、支出増と実質収入のバランスに苦労する消費者が増えると思われる」と同氏は述べた。
こうした消費者は所得から必需品の支出に振り向ける割合が少なく、裁量的支出の割合が大きい。つまり、貯蓄を増やす余地が最も大きいということであり、経済全体を支える役割を担う可能性がある。 
米国の消費者にはまだ余裕がある。2025年を迎えるにあたり、米国人全体の家計のバランスシートは健全な状態だった。例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると、24年7-9月期の時点で、家計の債務返済額は可処分所得の約11%であり、コロナ前の標準を下回る水準だった。
ただ、消費者の行動は手元にある金額だけで決まるわけではない。将来見込める金額も影響する。FRBが2月に実施した消費者調査では、今後3カ月間に最低限必要な債務返済の一つを行えなくなる確率は回答者の予想平均で14.6%となった。これは2020年4月以来の高水準だった。
景気が悪化に転じ、消費の急激な落ち込みを招くリスクが意識されている。そのため、消費者向け金融サービス業者は注視すべき重要なストレスポイントとなっている。
米国では春休みの旅行をあきらめた世帯もある。
旅行費用が高騰する中、春や夏の旅行の予約を先送りする人の割合が増えている。消費者心理は低下し始めており、関税の脅威や根強いインフレ、官民セクターの人員削減が重しとなっている。
全米産業審議会(コンファレンスボード)が2月に発表した消費者信頼感指数によると、休暇を計画している人は2021年以来の最低水準に落ち込んだ。
市場調査会社フューチャー・パートナーズが1月に米国の旅行者4000人を対象に実施した調査によると、旅行をしない理由として自身の経済状況や費用全般を挙げた人の割合は12カ月ぶりの高水準に達した。
だが誰もが旅行を取りやめているわけではない。富裕層は引き続き遠方の外国への旅行に多額の支出をしている。フューチャー・パートナーズの調査では、今後3カ月間の高額予算の優先事項として旅行を挙げた回答者が半数を超えた。
航空会社はここ数カ月、運賃を値上げしている。昨年は一部路線で座席供給量を大幅に増やし、それを埋めるために大幅な割引を余儀なくされた。その後、減便して供給が減ったため、価格は上昇している。
全米自動車協会(AAA)の予約データによると、3月中旬から4月中旬までの春休み期間中の往復航空券の平均価格は、国内線が820ドル(約12万2000円)で前年比7%上昇、国際線が1440ドルで前年比2%上昇している。
ジュリー・ドレイクさん(40)はこれまで春休みはたいてい夫と子どもたちと旅行していたが、今年は家で過ごす予定だ。イリノイ州ロックフォード在住で看護コンサルタントをしているドレイクさんは、ディズニークルーズの割引を利用したいと考え、昨年プランを練り始めた。だが、シカゴからサンディエゴまたはマイアミへの航空運賃は4人分で平均約3000ドルだった。
車でミルウォーキーかデトロイトまで行き、そこから飛行機に乗ることも考えたが、節約にはならないことが分かった。春休み期間中の4人分の往復航空券とクルーズチケットの費用は合計1万ドルと出た。家族にとって一緒に旅行して思い出をつくるのは大切なことだが、納得できる価格ではないという。
「この国の今の不透明感を考えると、将来がどうなるか分からない状況で多額の出費は怖い」とドレイクさんは話した。
航空各社は需要縮小を懸念していないという。
米航空大手ユナイテッド航空のマイク・レスキネン最高財務責任者(CFO)は、「短期にせよ通年にせよ、先行きについて失望すべきことは何もない」と述べた。ドル高のおかげで仕事とレジャーいずれも国外旅行の需要が高まっている。だが、価格に敏感な顧客が多い国内レジャーはそれほど活況ではない。
予算に納まるよう工夫して国内を旅行する家族もいる。
ニューメキシコ州の非営利団体で弁護士を務めるエマ・オサリバンさんは昨夏、幼い子ども2人を含む家族4人で2週間かけて、列車で国内を横断した。ニューメキシコ州アルバカーキからイリノイ州シカゴへ行き、その後ニューヨーク州バファロー、それからマサチューセッツ州ボストンまで列車で移動し、家族に会いに行った。3区間の普通席の運賃は4人分で1000ドルを切り、車で移動して途中でホテル泊するより安かったという。
今年の夏はおそらくそれほど遠出せず、家族のいるロサンゼルスへ行くか、グランドキャニオンへ小旅行をすることになりそうだ。
オサリバンさんにとって、「価格が手頃かつ快適な方法で、それでも大切な人たちとつながることができる」計画を考えるのは、時間をかけるだけの価値がある。
一部アナリストは、経済的ストレスが低所得の消費者により大きな萎縮効果を及ぼしている可能性を指摘する。
ライマン・ホスピタリティ・プロパティーズのマーク・フィオラバンティ最高経営責任者(CEO)は、決算説明会で価格感応度に言及した。同社のクリスマスイベントの来場者数は前年を上回ったものの、顧客は同社の想定より価格に敏感で、宿泊者数は2023年を下回ったという。同社はグランド・オール・オプリー(カントリーミュージックの劇場でライブ放送も行う)などを所有している。
トランプ米政権の混沌(こんとん)とした関税政策が経済に与える影響は、どれほど深刻なものになるのか。大統領がダメージを食い止めないのであれば、米連邦準備制度が何とかするだろうと市場は考えている節がある。それは楽観的過ぎると筆者は考える。
トランプ大統領がカナダと中国、メキシコに課しているような関税の引き上げは、インフレと成長の両方に影響を及ぼす。輸入品の価格が上昇すると、国内生産者はそれを良いことに値上げに踏み切る。価格高騰は個人消費を圧迫し、関税の水準や継続期間、報復措置に関する不確実性は、企業が雇用や投資を先延ばしにする原因となる。
今のところ市場では、経済成長への影響が支配的だと考えられているようだ。株価が大幅に下落する中で米利下げ期待は高まっており、関税政策が物価上昇を招いても米金融当局の動きが妨げられることはないとの見方を示唆している。米当局はインフレを一時的なものと判断し、利下げで経済を支えるだろうという論理だ。
残念ながら、このシナリオは2つの重要な点で不完全だ。まず成長が鈍化しても、労働市場には予想ほどのスラック(たるみ)や賃金の押し下げ圧力は生じない。不法移民が激減し、トランプ政権が国外退去者を大幅に増やす計画を立て、米国生まれの働き盛りの労働者が非常に緩やかなペースでしか増加しないことを踏まえると、失業率を安定させるには、近年必要とされている毎月15万-20万人の雇用者増加に対し、同5万人程度で十分だ。
次に、関税に関連した価格上昇がインフレ期待を押し上げる場合、米金融当局がそれを無視することは難しい。トランプ氏の政策がこれほど極端ではなく、インフレ率も米連邦公開市場委員会(FOMC)の目標である2%を下回っていた1期目、これは問題ではなかった。今回は関税引き上げの規模が何倍も大きい。さらに悪いことに、FOMCが長く掲げてきた2%インフレ率の達成は、関税政策によってさらに遅れる可能性がある。インフレ期待値は既に上昇している。2月の米ミシガン大学消費者マインド指数で5-10年先のインフレ期待は3.5%と、1995年以来の高水準だった。
潜在成長率の低下と物価およびインフレ期待の上昇という組み合わせは、市場にとって好ましいものではない。成長鈍化は収益を圧迫し、株価を下落させる。利下げを渋る米当局の姿勢は債券下落につながる。不確実性とリスクの高まりはその両方に打撃を与える。
筆者は来週のFOMC会合後に発表される経済予測に、こうした好ましくない見通しが反映されるとみている。国内総生産(GDP)予想は下方修正され、インフレ見通しは引き上げられるだろう。ただ失業率の予測はさほど変化しないだろう。雇用と共に労働力人口の伸びも減速するからだ。2025年に0.25ポイント利下げを2回想定する予測中央値は維持されるだろう。年内わずか1回の利下げに後退させるには、多くの当局者が見方を変える必要がある。不確実性が高く、政治的に微妙な時期にそれはありそうにない。
米国株はドナルド・トランプ大統領の第1次政権の間、高値で推移した。トランプ氏は株安を招くような政策は必ず撤回するとの確信が投資家にはあったからだ。現在、トランプ政権は以前よりもはるかに強硬な主張を行っている。関税や予算削減が一時的な混乱を引き起こしたとしても、その先には思いがけない利益が待っているというものだ。
だが問題は、政権の見解を投資家に信じ込ませるだけの根拠があまりないことだ。そうした見方は実際のところ、歴史的にレッセフェール(自由放任主義)経済学者が主張してきた「清算主義」的アプローチに近い。このアプローチが悪名高いのは、経済を崩壊するに任せるよう進言したハーバート・フーバー大統領時代の財務長官と関連付けられることが多いためだ。
S&P500種指数は過去1カ月間で7.5%下落し、ハイテク株の比重が高いナスダック総合指数は10.2%下げた。両指数の下落が今週特に大きいのは、米国が今年リセッション(景気後退)に陥る可能性をトランプ氏が否定しなかったことが影響している。自動車メーカーや小売企業、ホテルチェーンなど景気に敏感に反応しやすい業種を含むS&P500種の業種別指数「一般消費財」は同期間に13.1%下落した。
一方、欧州株―特にドイツ株―は、当局者が緊縮政策をやめ、インフラや防衛向けの支出を大幅に増やそうとしていることが押し上げ材料になっている。
対照的に、トランプ氏と顧問らは2024年に国内総生産(GDP)比6%超に達した巨額の財政赤字を縮小する狙いで、連邦政府職員の削減と歳出削減に焦点を当てている。スコット・ベッセント財務長官は米経済について、財政出動による刺激策からの「デトックス期間」に耐える必要があると語った。
トランプ政権はまた、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に高関税を課し、さらに多くのものに関税を課すと脅している。
こうした動きは、8年前のトランプ氏の関税政策とは明らかに一線を画している。当時の関税は、経済成長を支えた大規模な減税の後に、徐々に導入された。この間、トランプ氏は市場の下落を招いた対中貿易摩擦を緩和するため、中国とのディール(取引)に意欲的だと思われていた。
トランプ氏は市場を株価下落から守ろうとしているという見方が多くの間で説得力を持つようになり、トレーダーらはこれを「トランプ・プット」と呼び始めた。相場の下落による損失からトレーダーを守ることができるオプション契約にちなむものだった。
ところがベッセント氏は米CNBCとの最近のインタビューで、株式投資家は「トランプ・プット」について考えるのをやめ、代わりに「トランプ・コール」を念頭に置くべきだと語った。これはつまり、経済における不適切な配分がシステムから一掃されれば株価が急騰するという見方だ。
この理論については、ウォール街で支持する声もある。モルガン・スタンレーのエコノミストらは10日に送信された顧客向け調査メモで、公的支出から民間支出へのシフトに伴い、一握りの巨大テクノロジー企業に過度に依存しない広範な相場上昇が促されるため、株式市場の短期的な痛みは今年末から来年にかけての長期的な利益で相殺される可能性があるとした。
米国の企業利益率が最近は歴史的高水準近くまで上昇しているのは、政府の影響が大きい。公式統計の分析では、2022年から24年7-9月期にかけて生み出された企業利益の約60%が公共部門の支出と投資によるものであることが示されている。
民間部門全体が利益を上げるためには、経済の中で誰かが収入以上に支出する必要がある。個人が貯蓄を取り崩すことでこれは可能になるとはいえ、めったに起こらない。通常は家計が所得を全て使い切ることはなく、そのため利益の足を引っ張ることになる。純支出がもたらされる要因としては企業投資があるが、2000年代に入ってからは構造的に弱くなっている。また純輸出も要因としてあるものの、米国は大幅な貿易赤字を抱えている。最近の米国でこうした余剰需要の主な源泉となっているのは政府の赤字だ。
だが実際、最近の政府への依存度は第2次世界大戦後の平均水準よりも低い。ロナルド・レーガン大統領が減税、規制緩和、国防強化といった政策を実施した1980年代を例に取ると、当時企業が稼いだ利益のほぼ全てが財政赤字の拡大によって説明できることが国民所得統計で示されている。
確かに、経済には他の原動力もある。1990年代には、企業がコンピューター機器への積極的な投資に動いたことが利益を大きく押し上げた。2000年代には、家計は住宅ローンの条件や消費者信用環境の緩和により、収入以上の支出を行った。ただこうした経済は「均衡」しておらず、ドットコムバブルや世界金融危機につながった。
政府支出の削減という痛みを伴う措置は、それ自体では他の分野での支出を促すことにはならないだろう。巨大テック企業の潤沢な資金に守られていない分野ではなおさらだ。
トランプ政権は生産の国内回帰を目指す取り組みを通じて、持続的な国内投資活性化を実現することができるだろうか。特に、巨額の米貿易赤字が縮小した場合はどうか。可能性はあるが、二転三転する関税政策はこれまでのところそのための有効な手段となっておらず、不透明感が高まることで投資意欲は鈍っている。
経済政策としてうまくいかなかったのは、大恐慌後の清算主義的政策だけではない。ユーロ危機後のギリシャや多くの欧州諸国での緊縮政策も失敗した。拡大する景気を急停止させることで達成できるのはせいぜいインフレのスパイラルから国を脱却させることであり、これはアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が試みたことでもある。しかし現在、インフレをあおる危険があるのはトランプ氏の関税政策であり、このため米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げによって経済への打撃を緩和することが難しくなっている。
投資家が清算主義的政策への転換に心を動かされていないのは明白だ。トランプ政権のコールオプションが無価値のまま期日を迎えると考えても無理はない。
●中東情勢
●エマージング
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
2月の米国消費者物価指数(CPI)の伸びが鈍化し、ドルは円やユーロに対してやや上昇。しかし、トランプ政権の関税政策への懸念がドル相場に影響を与えている。米ドルはカナダドルに対して下落し、ドル/円はやや上昇。カナダ銀行は政策金利を7回連続で引き下げた。
米国の国債利回りは上昇。消費者物価指数がインフレ鈍化を示唆する中、貿易戦争への懸念が相殺。米国政府は鉄鋼・アルミニウム関税を発効し、報復関税が発表された。
株式市場では、インフレ指標が予想以上に鈍化し、S&P500が反発。ハイテク株が上昇し、ナスダックは1%以上上昇。金先物は続伸し、安全資産としての需要が高まった。原油先物も需給引き締まりを背景に続伸した。
ロンドン株式市場は反発し、ウクライナの一時停戦への期待と米国の関税政策が注目された。ウクライナは30日間の暫定停戦を受け入れる意向を示し、米国はウクライナへの軍事支援を再開。金価格の上昇を受けて、貴金属株やバルフォア・ビーティが上昇した。欧州委員会は米国製品への関税を発表し、英国首相は報復措置を検討すると表明。
欧州株式市場も反発し、ウクライナの停戦期待や米国のCPIの鈍化がリスク回避姿勢を和らげた。銀行株や工業株が上昇し、シェラン・ファーマとロシュの提携発表が好感された。
ユーロ圏のドイツ10年債利回りは上昇し、欧州中央銀行(ECB)の金利見通しに敏感な市場が反応。米国のインフレ鈍化が示唆される中、ECBの利下げ期待が高まっている。

備忘録(2025/3/11
●海外企業決算
●海外企業
世界的な保険市場ロイズ・オブ・ロンドン(ロイズ保険組合)は10日、米西部カリフォルニア州ロサンゼル近郊で1月に発生した大規模な山火事による純損失を23億ドルとする見通しを示した。
ドイツのミュンヘン再保険は同山火事の被害による保険金請求額を約12億ユーロ(13億ドル)と予想。ハノーバー再保険は自社への請求額を7億ユーロと見込んでいる。フランスのアクサは税引き前で1億ユーロ程度の影響を受けると想定している。
ロイズの最高財務責任者は、LA山火事による最終的な影響は依然として推計中だと説明した。
ロイズが10日発表した2024年の本業のもうけを示す保険引受利益は53億ポンドとなり、23年の59億ポンドから10%減少した。
(サマリー)ヒエロニムス氏は、ロレアルが米国で販売する商品の大半を北米で生産しているため、ホワイトハウスの関税がロレアルに及ぼす影響については「あまり心配していない」と述べた。
それでも、香水など化粧品大手の高級品の一部はヨーロッパから輸出されている。
「現在、この分野には関税はかかっていない」と同氏は語った。「関税を課すべきか? まあ、我々はそれを回避するつもりだ。価格決定力があるし、通貨の影響もある。ドルは強くなっている」
(サマリー)マイクロソフトのエネルギー担当副社長ボビー・ホリス氏は、同社がデータセンターの電力ソリューションとして炭素回収機能付き天然ガスを検討すると述べた。
シェブロンとエクソンは最近、データセンター向けの天然ガスソリューションを開発していると発表した。
テクノロジー業界はこれまで再生可能エネルギーに大きく依存してきたが、データセンターの電力消費が増加するにつれて、業界は代替電源に目を向けるようになっている。
●日本企業
●先進国政治動向
イーロン・マスク氏が運営を任された米政府の新組織「政府効率化省(DOGE)」は、プライベートエクイティー(PE、未公開株)とファイナンスの経験を持つベテラン3人を社会保障庁に送り込んだ。社会保険プログラムの無駄遣いと不正の根絶を重視するトランプ大統領の意向を反映した人選と受け取れる。
事情に詳しい関係者が匿名を条件に語ったところでは、マスク氏が最高経営責任者(CEO)を務めるテスラの取締役で、宇宙開発企業スペースXの初期投資家でもあるアントニオ・グラシアス氏(バロー・エクイティー・パートナーズ)と元ローン・パイン・キャピタルのスコット・コールター氏、元シフト4のマイケル・ラッソ氏らが選任された。
政府機関や裁判所の文書でも氏名が確認されており、政府コスト削減の足掛かりとして社会保障庁が持つ重要性をうかがわせる。
トランプ大統領は先月、中間レベルの不正対策スペシャリスト、リーランド・ドゥーデック氏を社会保障庁の長官代行に抜てきした。同氏の昇格に伴い退任したティファニー・フリック氏によれば、2月3日に着任したラッソ氏は、自分がDOGEの担当者だと職員らに何度も自己紹介した。
ラッソ氏は社会保障データ分析のため、ピーター・ティール氏のパランティア・テクノロジーズでインターンとして勤務したアーカシュ・ボバ氏を社会保障庁に配置した。
トランプ米大統領は11日、関税政策が米経済を低迷させるとの懸念から株式相場が急落したことを重大視しない考えを示し、米国がリセッション(景気後退)に陥るとは予想していないと述べた。
トランプ氏はホワイトハウスで、リセッションを「全く予想していない。この国は好景気になろう」とコメント。相場は上昇したり下落したりするが、「われわれは国を再建しなければならない」と付け加えた。
金融市場は3週間にわたり不安定な展開が続き、11日の取引では、米最大の貿易相手国カナダに対する新たな関税賦課の可能性を大統領がちらつかせたのを受け、株価が下落。S&P500種株価指数は一時、2月の高値から10%下落する場面もあったが、買い注文が入り下げ渋った。その後、トランプ大統領がカナダに対する50%の鉄鋼・アルミニウム関税を緩和する意向を示したことで下げ幅縮小につながったものの、S&P500種はなお前日比マイナス圏で取引を終えた。
最近の相場急落の背景には、関税導入や連邦政府の支出・職員の大幅削減で米経済が厳しい局面を迎える可能性があるとの大統領や政府高官の警告があった。トランプ氏は9日にFOXニュースが放送したインタビューでリセッションの可能性を否定しなかった。
トランプ大統領は長らく市場を、自身の経済政策の正当性を映す尺度とみなしてきたが、ここ数週間はそれを重要視せず、11日も引き続きそうしたスタンスを維持した。
市場の不安定さについて問われたトランプ氏は「いや、気にしていない」と答え、「株式や債券など、あらゆるものを買うことで、一部の人々が大きな利益を得ることになると思う。偽りの経済ではなく、真の経済が生まれるだろう」と述べた。
トランプ米大統領は11日午後、カナダから米国に輸入される物品に対する関税を「おそらく」引き下げるつもりだと述べた。カナダ・オンタリオ州のフォード首相が電力輸出に対する追加料金の徴収を停止したことを受けた。
フォード首相は、米国への電力輸出に25%の追加料金を課す計画を一時停止し、トランプ政権と協議するため13日にワシントンを訪問すると述べた。
フォード首相はこれより数時間前、トランプ大統領がカナダからの輸入品に関税を課すという脅しを撤回しなければ全ての電力輸出を停止する用意があると米メディアに語っていたため、この発表は驚きだった。
「双方の緊張が高まっているため、これを和らげる必要がある」とフォード氏は記者団に語り、ラトニック米商務長官から連絡を受けたことを明らかにした。
一方トランプ氏は、ホワイトハウスで記者団に対し、関税引き上げの決定について「そうせざるを得なかった」と語った。
またトランプ氏は、市場は時間の経過とともに上下に振れるだろうと述べ、株価急落につながった懸念を否定。関税は米国の雇用を回復し、工場を再開させるために必要だと述べた。
トランプ氏は同日午前、全ての鉄鋼とアルミニウムに追加的に25%の関税を課すよう商務長官に指示したと明らかにしていた。そうなれば合計の関税率は50%になる。
カナダのオンタリオ州が今月10日、米国の関税措置への報復として、ニューヨーク、ミシガン、ミネソタの3州に供給する電力に25%の追加料金を課すと発表したことを受けた措置とした。
トランプ氏は自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、商務長官に追加的に25%の関税を対象製品に課すよう指示したとし、12日の朝に発効するとしていた。
その上で「カナダは米国の乳製品に課している250%から390%の関税を直ちに撤廃する必要がある。これは長い間、不当なものと見なされてきた」とし、「脅威にさらされている地域の電力に関する国家非常事態をまもなく宣言する」と表明。
カナダが「他の悪質で長期にわたる関税」を撤廃しなければ、米国がカナダから輸入する自動車に対する関税を4月2日に「大幅に引き上げる」と警告した。
トランプ大統領の発言を受け、米市場ではアルミ現物価格が1トン当たり990ドルを突破し、最高値を更新した。
また、ホワイトハウスのレビット報道官は、カナダは米国への電力供給を停止しない方が賢明とした上で、トランプ大統領は米国内の電力への依存を確実にすることを決意していると述べた。
また、カナダのカーニー次期首相は11日、トランプ米大統領による鉄鋼とアルミニウムに対する新たな関税はカナダの労働者、家庭、企業に対する「攻撃」と非難した。
トランプ米大統領は11日、主要企業の最高経営責任者(CEO)らに対し、新たな関税は25%を上回る可能性があると語った。
ビジネス・ラウンドテーブルで、「関税は極めてプラスの影響を与えている」と述べ、株式市場の反応を一蹴。関税は25%を超える可能性があるとし、「高ければ高いほど、米国内で製造する可能性は高くなる」と語った。
また、政府効率化省(DOGE)を率いる実業家イーロン・マスク氏を擁護し、「いくつかの小さな問題はあったが、大きな問題ではない。われわれは莫大な資金を節約した」と述べた。
国際決済銀行(BIS)は、トランプ米大統領の関税措置は非常に高い不確実性と市場の不安定化を招いていると指摘する報告書を公表した。世界経済は景気後退(リセッション)を避けられるとの見方は維持した。
米国の安全保障政策の転換を受けて欧州が防衛費を増額する計画を打ち出したことには市場が好意的に反応しているとして、債務増加に関する懸念は表明しなかった。
米国の債券利回りやドル、株式相場は、米経済が減速の兆しが見られることから、ここ数週間はいずれも下落している。一方、ドイツが債務上限を見直すという大きな転換となる計画を打ち出したことで、ドイツの債券利回りは急上昇した。
BISの調査部門を率いるシン・ヒョンソン氏は記者会見で関税以外での政策見直しにも言及した上で「政策変更を招くような関税は、二重の意味で助けにならない」と述べた。関税は消費者と企業の意欲をそぐほか、インフレをあおって中央銀行の金融政策運営を難しくする可能性があると指摘した。ただ、BISの基本シナリオは、世界経済の「ソフトランディング(軟着陸)」を想定していると述べた。
米国株式市場の投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX)(.VIX), opens new tabなども、新型コロナウイルス禍や世界金融危機の水準を大きく下回っているとし、ドイツや欧州の国債利回りの上昇は、今年はじめに急上昇した時よりもはるかに前向きに受け止められており、経済成長への期待があるとの見方を示した。
米国はウクライナと11日にサウジアラビアで実施した高官協議で、ウクライナへの軍事支援と情報共有を直ちに再開することで合意した。両国が発表した共同声明によると、ウクライナはロシアと30日間の暫定停戦を巡る米国の提案を受け入れる用意があると表明した。
サウジアラビア西部のジッダで実施された協議には、米国からルビオ国務長官とウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ウクライナからイェルマーク大統領府長官やシビハ外相らが参加。協議は8時間に及んだ。 もっと見る
ルビオ長官は共同声明発表後に記者団に対し「ボールは今やロシア側にある」とし、「トランプ米大統領はこの戦争がすでに終わっていることを望んでいた。ロシアができるだけ早く『イエス』と答え、実質的な交渉という次の段階に進めることを望んでいる」と述べた。
その上で、米国はロシアとウクライナが「可能な限りに早期に」合意することを望んでいるとした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナにはこの提案を受け入れる用意がある。これを前向きな一歩と見なし、実行する準備ができている。ロシアにも同様の行動を取るよう説得するのは米国次第だ」とXに投稿。30日間の暫定停戦は、ロシアが受け入れれば直ちに発効するとの見解を示した。
ゼレンスキー氏はサウジアラビアに滞在していたが、協議には参加しなかった。
ロシアがどう反応するかは定かではない。
トランプ大統領は、米とウクライナの当局者が作成した停戦計画にロシアが同意することを期待しており、週内にプーチン大統領と協議する考えを示した。
ルビオ長官によると、停戦に向けた計画は複数の経路を通じロシア側に伝えられる。ウォルツ補佐官は、数日中にロシア側と協議する予定とした。
ロシア国営通信RIAによると、ロシア外務省は今後数日中に米国の代表と接触する可能性を排除しないと明らかにした。 もっと見る
共同声明によると、ウクライナはロシアによる受諾と実施を条件に、双方が合意すれば延長が可能で、即時かつ暫定的な30日間の停戦に関する米国の提案を受け入れる意思があると表明した。
共同声明は「米国はロシアに対し、相互に対応することが平和達成の鍵になると伝える」と記述。「米国は(ウクライナに対する)情報共有の一時停止を直ちに解除し、ウクライナへの軍事支援を再開する」とも明記した。
米国とウクライナは、ウクライナの重要鉱物資源開発に関する包括的合意を可能な限り早期に締結することでも合意。米国務省によると、両国の代表団はそれぞれの交渉チームを指名し、ウクライナの長期的な安全保障の確保につながる永続的な和平に向けた交渉を直ちに開始する。
ゼレンスキー氏は米国との鉱物資源協定について、両国は合意の最終化に向けて取り組むと表明した。
ゼレンスキー大統領の側近によると、今回の高官協議でウクライナに対する安全保証の選択肢も議題として取り上げられた。ただ、どのような選択肢が提示されたか詳細は明らかにしなかった。
欧州連合(EU)のコスタ大統領と欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、停戦合意の提案を含む米国とウクライナの高官協議の結果を歓迎すると表明。「クライナにとって包括的で公正かつ永続的な平和への一歩となる前向きな進展で、ボールは今やロシア側にある」とし、EUはパートナーと共に今後の和平交渉で十分な役割を果たす用意があると述べた。
●先進国中銀、金融当局
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
米株から中国株に乗り替え、円とユーロの買いなど、トレーダーはリスク回避に走っている。米市場のメルトダウンが世界にどのような影響を及ぼすだろうかと不安を募らせている。
このところの米国株の下落基調は10日、パニック売りに転じた。リセッション(景気後退)の懸念がウォール街全体に広がった。
リスク回避の動きはアジアにも波及し、米国例外主義が終わったという確信が強まるにつれ、相対的に安全な円やオーストラリア国債、オフショア人民元への逃避が加速した。
長年にわたる米ハイテク株上昇とドル高に慣れていた投資家にとって、目まぐるしい展開となった。ハイテク株中心のナスダック100指数は10日に1兆1000億ドル(約162兆円)を失った。
トランプ米大統領の「米国第一主義」政策が、逆に米資産からのシフトを加速させている。ユーロは2月の安値から約7%上昇し、香港の中国株指数は今年に入って20%近く上昇した。
ヘッジファンド、ブルー・エッジ・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー、カルビン・ヤオ氏(シンガポール在勤)は「現在の市場は、五輪レベルのテニスのようだ。私たちトレーダーがボールだ」と語った。
同氏は長期の米国債を選好し米国株には弱気で、変動の激しい市場で「ほどほどの投資」をしている。
11日のアジア市場では、米国債が上昇する一方で、ブルームバーグ・ドル指数は下落した。米連邦準備制度が景気浮揚のために利下げを再開せざるを得ないという観測が強まった。
欧州では、ドイツの歴史的な防衛支出計画がユーロ高を後押しする中、ユーロ弱気派は方針転換を余儀なくされている。
シュローダーのマネーマネジャー、ケリー・ウッド氏は「米国例外主義は徐々に消滅しつつつつある。このような環境では誰もが資産を保全したいと思うだろう」と述べた。同社ファンドは先月、ドル買いから円とユーロ買いに転換し、短期米国債とオーストラリア国債に強気だという。
中国オーバーウエート
株式市場では米景気減速への懸念から10日にナスダック100指数が3.8%急落したが、経済データは懸念を裏付けるものだ。米失業率は2月に4.1%に上昇し、1月の個人消費支出はほぼ4年ぶりの大幅減少となった。
トランプ米大統領が米経済は「過渡期にある」と述べ、ベッセント財務長官が政府支出への依存を断ち切るための経済の「デトックス」が必要だと発言したことも、トレーダーが米国へのエクスポージャーを減らす理由になっている。
ストラテジストや資金運用担当者は戦略を練り直している。
フィデリティ・インターナショナルのポートフォリオマネジャー、ジョージ・エフスタソプロス氏は10日遅く、ドイツの中型株を買い増した。同国の財政刺激策が産業部門を後押しするとみている。
シティグループは米国株の投資判断を「オーバーウエーイト」から「ニュートラル」に引き下げる一方、中国株を「オーバーウエート」に引き上げた。
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントは東南アジアの企業や国を、ティー・ロウ・プライス・グループは欧州株を選好している。
北京億鯤私募基金管理のファンドマネジャー、リー・ミンホン氏は、米国株のバリュエーション上昇の多くは「泡」であり、オフショア中国株の方が価値があると確信している。
日銀は11日、2025年度の金融機関に対する考査の実施方針を公表した。昨年3月に異次元の金融緩和を終了し、段階的な利上げで「金利のある世界」が現実のものとなる中で、金融機関の預貸ビジネスを重点的に検証していく方針を示した。
金融機関の収益力の点で、預貸金の金利追随率や残高の実現可能性について、収益シミュレーションなどで確認し、対応策の妥当性を議論していく。有価証券評価損やリスク量を踏まえた経営体力の管理状況も検証する。
人口減に直面し、業績の悪化した地方銀行などでは預金残高が減少するケースも出てきた。日銀は流動性リスクの観点から、預金が減少したり増勢が鈍化している金融機関では預金動向の分析や対応方針を検証するほか、店舗網縮小や店舗の少人数化を踏まえた緊急時対応の実効性を見ていく。金利上昇などを踏まえた預金の粘着性分析やインターネット経由の預金流出リスクへの対応も確認する方針。
また、市場の急変に備え、経営陣を含めて行動計画が検討されているか見ていくほか、損失限度枠の管理や有価証券評価損の処理方針についても実効性を点検する。
風力・太陽光発電最大手の米ネクステラ・エナジーのジョン・ケッチャム最高経営責任者(CEO)は10日、ヒューストンで開催されたエネルギー業界の国際会議「CERAWeek (セラウィーク)」で、今後20年の電力需要が過去20年と比較して55%増加するとの予想を示した。
需要の伸びの17%は、電力を大量消費するデータセンターの需要を大幅に伸ばしている人工知能(AI)ブームに起因するという。
ケッチャム氏は、需要の急増でガス火力発電コストが3倍以上に上昇しており、現在は再生可能エネルギーがより安価で入手しやすくなっていると指摘。「再生可能エネルギーも、ガスも、原子力も、全部必要になる」と述べた。
また公共料金が上昇する中、電力価格の面で危機状況になる可能性も指摘した。
米国の経済政策当局者はこの1年間、インフレを抑えながら景気後退は回避する「ソフトランディング(軟着陸)」の実現に専念してきた。だが、今では新たな操縦士のチームが針路修正を検討している。彼らはそれが米経済を「ハードランディング(強行着陸)」に向かわせる可能性があることを自ら認めている。
ドナルド・トランプ大統領と側近たちはここ数日、貿易を巡る不確実性が民間部門の投資を冷え込ませるリスクが高まっているにもかかわらず、それを意に介さない考えを示している。彼らは支出と雇用の「デトックス(解毒)」が必要かもしれないと主張し、株価下落は大きな懸念材料ではなく、インフレは一時的に上昇する可能性があると述べている。
トランプ氏はFOXニュースが9日放送したインタビューで、景気後退に陥る可能性についての質問をかわした。「われわれが行っていることは非常に大きいので、移行期間がある」とし、「強い国を作ることが私の仕事だ。株式市場を見ているわけにはいかない」と述べた。
トランプ氏はその日遅く、この一連のコメントについて説明する機会を大統領専用機「エアフォースワン」内で得たが、そこでも記者団に同じ発言を繰り返した。「関税はわが国が今までに行った中で最も素晴らしいものになる。わが国を再び豊かにする」と述べた。
トランプ氏のコメントは10日の米株式市場を混乱させた。ダウ工業株30種平均は前週末比2.1%安、S&P500種指数は2.7%安となった。ハイテク株の比率が高いナスダック総合指数は4%下落し、2022年以来の大幅な下げとなった。3指数はいずれも昨年11月の大統領選投票日の水準を下回っている。
10日の取引終了後、デルタ航空は国内需要の鈍化を理由に1-3月期(第1四半期)の1株利益・売上高見通しを下方修正した。同社のエド・バスチャン最高経営責任者(CEO)はCNBCの番組で、2月に「かなり大きな」センチメントの変化があり、「消費者の支出が停滞し始めた」と述べた。
トランプ氏が、安定的に成長している経済と高値圏の株式市場を引き継いだのは確かだが、住宅セクターの停滞と労働市場の冷え込みという脆弱(ぜいじゃく)性も継承した。
投資家は年初、新政権が経済成長の加速に焦点を当てると予想していたため、これらのマイナス面に無関心だった。株価は昨年11月のトランプ氏の当選後に急騰し、投資家は第1次トランプ政権初年の2017年に起きたような減税と規制緩和の強気な組み合わせを予想した。
英市場調査会社グローバルデータTSロンバードのエコノミスト、ダリオ・パーキンス氏は「人々はトランプ氏が約束したことの良い面しか見ていなかった。それはほぼ消え去り、今やわれわれは景気後退に陥らないか監視する作業に戻っている」と話す。
アナリストたちは、トランプ氏とその側近のトーンがここ数日の間に変わったことを特に重要視している。トランプ政権は当初、インフレ高進が米国債利回りを上昇させるリスクを一蹴することや、成長鈍化の責任をバイデン前政権に押しつけて予防線を張ることに焦点を当てているように見えた。
トランプ氏が、安定的に成長している経済と高値圏の株式市場を引き継いだのは確かだが、住宅セクターの停滞と労働市場の冷え込みという脆弱(ぜいじゃく)性も継承した。
投資家は年初、新政権が経済成長の加速に焦点を当てると予想していたため、これらのマイナス面に無関心だった。株価は昨年11月のトランプ氏の当選後に急騰し、投資家は第1次トランプ政権初年の2017年に起きたような減税と規制緩和の強気な組み合わせを予想した。
英市場調査会社グローバルデータTSロンバードのエコノミスト、ダリオ・パーキンス氏は「人々はトランプ氏が約束したことの良い面しか見ていなかった。それはほぼ消え去り、今やわれわれは景気後退に陥らないか監視する作業に戻っている」と話す。
アナリストたちは、トランプ氏とその側近のトーンがここ数日の間に変わったことを特に重要視している。トランプ政権は当初、インフレ高進が米国債利回りを上昇させるリスクを一蹴することや、成長鈍化の責任をバイデン前政権に押しつけて予防線を張ることに焦点を当てているように見えた。
「トランプ政権は米経済が関税引き上げを許容できる境界線を試そうとしているようだ。そして、その境界線がどこにあるのかよく分かっていない」とストレイン氏は述べた。
輸入品価格がどれだけ変動するかを予測するのは難しいため、投資支出は「1-3月期に完全に停滞する可能性がある」と同氏は述べた。
リスクは山積している。例えば、連邦政府職員を削減しつつ失業率の持続的な上昇を回避しようとすれば、解雇された労働者の吸収を民間部門に頼ることになる。しかし、輸入する商品や材料に対する関税がどの程度上昇するか分からない状況で、民間企業にそれを行う準備はできているだろうか。トランプ政権は複数の政策実験を同時に行うことで、新型コロナウイルス禍後の経済を特徴づけてきた、「雇用と解雇に慎重」という危うい均衡を覆すリスクがある。
ストレイン氏は、不安を抱える労働者(連邦政府に直接雇用されている人々や、連邦政府の資金・契約に依存する何百万人もの人々)の買い控えが消費支出に及ぼす影響を懸念していると述べた。ハーバード大学は10日、採用凍結を発表した。
一部のアナリストはトランプ氏のメッセージについて、貿易相手国との交渉における米国の立場を有利にし、債券投資家と米連邦準備制度理事会(FRB)に金利低下バイアスを維持するよう促す戦略的な取り組みの一環かもしれないと警鐘を鳴らす。トランプ氏の貿易・安全保障面での衝撃的な行動を受けて、中国・欧州当局はすでに経済刺激策と防衛への支出拡大措置を講じている。
アナリストらは過去2週間について、トランプ氏が株価急落に基づいて方針を変更する可能性が低いことが示されたため、ウォール街の期待値を再設定するのに役立ったと述べた。米投資銀行パイパー・サンドラーの米国政策調査責任者、アンディ・ラペリエール氏は「彼は自分の行い全てについて、真剣なのだとわれわれに伝えている。関税について、彼は骨の髄まで信じている」と述べた。
ラペリエール氏は、経済成長が落ち込む中で政策が穏健化せず、混沌(こんとん)に向かう可能性があることを、投資家が懸念するのは当然だと述べた。同氏は「景気が低迷すれば、トランプ氏は政策目標を再考するよりも、経済を混乱させる他の政策を検討する可能性の方がはるかに高い」とし、FRBに利下げを迫るなどのもっと攻撃的な試みに出るだろうと述べた。
関税は少なくとも一時的には物価を押し上げる可能性が高いため、FRB関係者は、今よりも金利が高くインフレが着実に低下していた昨年よりも、成長への潜在的な脅威から経済を守るために動くのが遅くなる可能性が高い。
「金融政策対応が速やかに取られ、その潜在的なフィードバックのループを断ち切れるか確信が持てない。そうした不安がある」とパーキンス氏は述べた。
景気後退(リセッション)への懸念が市場を混乱させている。ハイテク株やダウ工業株30種平均は10日に再び急落した。株価はしばらく割高な水準にあり、これは単なる市場の調整かもしれない。しかし景気減速の兆候も複数出ており、トランプ政権は警戒すべきだ。
トランプ氏が9日、FOXニュースの司会者マリア・バーティロモ氏とのインタビューで、年内のリセッション入りを想定しているかと問われた際に用心深い答えをしたことは、ムードの改善につながらなかった。「そういったことを予想するのは嫌いだ」とトランプ氏は答え、「われわれが行っていることは非常に大きいので、移行期間がある」と述べた。
9日のインタビュー後にリセッションの可能性を否定しようとしなかったことについて聞かれると、トランプ氏は再び回答をためらい、「そのようなことを聞かれれば、誰だって答えをちゅうちょする。誰にも分からない」と語った。同氏がいつになく曖昧な回答をしたことは市場を動揺させた。先週の施政方針演説で述べていた「多少の混乱」が市場に起きても、彼は気にしないのかもしれないとの印象を与えたからだ。数週間の混乱の後、株価はトランプ氏の大統領選勝利後の上昇分を全て失い、さらに下げ幅を拡大した。
トランプ氏は、大統領が短期的な投資家の反応に気を取られて、長期的な成長を促進する経済政策に集中できないようであってはならないと指摘した点で正しかった。しかし、米国の景気が減速していることを示すサインが点滅している。
7日発表の雇用統計を例に取ろう。それによると、2月に非農業部門就業者数は前月比15万1000人増加した。これは昨年11月と12月の半分だ。レジャー・接客部門の雇用は過去2カ月間減少しており、消費者が裁量支出を抑えている可能性を示唆している。
労働参加率も低下し、前月より0.2ポイント低い62.4%となった。これは男性の労働参加率が下がったことが要因だった。2月の製造業の就業者数は1万人増加した。ただ、フルタイム雇用を希望しながらやむなくパートタイムで働く労働者の数は46万人増の490万人で、2021年春以来の高水準となった。
米供給管理協会(ISM)が発表した2月の製造業購買担当者景況指数(PMI)は景況拡大を示したが、これはインフレがピークに達した2022年夏以来の高水準まで物価が急上昇したことの影響によるものだ。調査回答者からのコメントは、トランプ氏が場当たり的に課す関税を巡る不透明感が企業心理の重荷になっていることを示した。
ある輸送機器メーカーは「関税に関する不透明感から、顧客は新規の注文を一時的に停止しつつある」と述べた。ある機械メーカーは「今後発動される関税は自社製品の値上げにつながる」とコメントした。「サプライヤーから全面的な値上げの流れが来ている」という。関税によって鉄鋼価格が上がれば、鉄鋼を使用する企業は価格を引き上げる。サービス業も影響を受けている。ある宿泊・飲食サービス業者は「関税を巡る動きが情報と価格設定の判断に混乱を引き起こしている」と報告した。
関税に関する不透明感と同時に、消費者の不安感も生じている。昨年秋には上昇傾向にあった全米産業審議会(コンファレンスボード)の消費者信頼感指数は、2月にはインフレ期待の高まりを背景に低下した。調査回答者の多くは関税の影響を指摘した。
消費者は過去4年間のインフレで打撃を受けており、自動車ローンとクレジットカード債務の返済不履行・滞納は、2008~09年のリセッション直後以来の高水準に近づいている。また、株式市場の調整は実体経済に悪影響を及ぼす可能性もある。消費支出を支えてきた、いわゆる資産効果が逆転する恐れがあるからだ。上位10%の高所得者は消費支出の約半分を占める。政府支出の削減は、民間投資の余地を拡大する上で必要だが、短期的には国内総生産(GDP)の押し下げ要因になるかもしれない。
たとえ米経済がリセッション入りを回避できたとしても、これら全ての状況は、成長の鈍化を示唆している。トランプ氏が主導する規制緩和と2017年の税制改革の延長は、長期的には企業投資を活性化させるはずだ。しかし、トランプ氏の関税に伴うコスト上昇と先行き不透明感は現在、米経済に打撃を与えている。トランプ氏がリセッションを警戒する声を鎮めたいのであれば、関税計画を棚上げにするのが賢明だろう。
25年前の今週、米株式市場でナスダック総合指数はドットコムバブル期のピークを記録した。それまでの5年間で500%を超える急騰を遂げていた。その後のバブル崩壊は急激かつ残酷だった。
インターネットという有望で新たなテクノロジーに魅了された小口投資家は莫大(ばくだい)な損失を被った。景気は落ち込んだ。急成長していたペッツ・ドット・コム(Pets.com)、ザグローブ・ドットコム(TheGlobe.com)、ウェブバン(Webvan)といった企業が経営破綻した。
そして今、一部の投資家は人工知能(AI)に関して同じサイクルが繰り返されるのではないかと懸念している。もしそうだとしても――これは大きな「もし」だが――ドットコムバブル崩壊から投資家が学べる重要な教訓がある。つまり、インターネットに関する当初の熱狂は結局のところ正しかったのだ。
ドットコムブームとの連想で恐れを抱くのも無理はない。AI関連の主要企業は市場で数百億ドルから数千億ドル規模の評価を受けており、その中にはしっかりとした売り上げを生み出す見込みがほとんどない企業もある。投資家は、こうした企業が新たな巨大データセンター向けにさらに大規模なAIチップのクラスターを構築できるよう、競うように資金を供給し、株価を押し上げている。
ただ、ITブームとその崩壊は、野心的な技術への大規模な賭けが長期的には報われる可能性があることを示した。世界の上場企業で時価総額上位5社(そして上位7社のうち6社)は、当時から続くテクノロジー企業か、当時まかれたタネから成長した企業だ。
言い換えれば、ドットコムバブルには、革新的な技術の急速な普及を促進するような、一部の投資家が「良いバブル」と呼ぶ要素があった。対照的に「悪いバブル」では、人々は経済の生産性向上に役立たない資産、例えばチューリップの球根、ぬいぐるみの 「ビーニーベイビーズ」、アリゾナ砂漠の住宅などを対象に投機的な取引を行う。
25年前の今週、米株式市場でナスダック総合指数はドットコムバブル期のピークを記録した。それまでの5年間で500%を超える急騰を遂げていた。その後のバブル崩壊は急激かつ残酷だった。
インターネットという有望で新たなテクノロジーに魅了された小口投資家は莫大(ばくだい)な損失を被った。景気は落ち込んだ。急成長していたペッツ・ドット・コム(Pets.com)、ザグローブ・ドットコム(TheGlobe.com)、ウェブバン(Webvan)といった企業が経営破綻した。
そして今、一部の投資家は人工知能(AI)に関して同じサイクルが繰り返されるのではないかと懸念している。もしそうだとしても――これは大きな「もし」だが――ドットコムバブル崩壊から投資家が学べる重要な教訓がある。つまり、インターネットに関する当初の熱狂は結局のところ正しかったのだ。
ドットコムブームとの連想で恐れを抱くのも無理はない。AI関連の主要企業は市場で数百億ドルから数千億ドル規模の評価を受けており、その中にはしっかりとした売り上げを生み出す見込みがほとんどない企業もある。投資家は、こうした企業が新たな巨大データセンター向けにさらに大規模なAIチップのクラスターを構築できるよう、競うように資金を供給し、株価を押し上げている。
ただ、ITブームとその崩壊は、野心的な技術への大規模な賭けが長期的には報われる可能性があることを示した。世界の上場企業で時価総額上位5社(そして上位7社のうち6社)は、当時から続くテクノロジー企業か、当時まかれたタネから成長した企業だ。
言い換えれば、ドットコムバブルには、革新的な技術の急速な普及を促進するような、一部の投資家が「良いバブル」と呼ぶ要素があった。対照的に「悪いバブル」では、人々は経済の生産性向上に役立たない資産、例えばチューリップの球根、ぬいぐるみの 「ビーニーベイビーズ」、アリゾナ砂漠の住宅などを対象に投機的な取引を行う。
話題を集めるAI新興企業の多くは消えていくかもしれない。しかし、その中には他社に引き継がれる優れたアイデアを持つ企業もあるだろう。
スマートフォンの初期バージョンは、ゼネラル・マジックという会社によって1994年にリリースされた。共同創業者のマーク・ポラット氏はデジタルタッチスクリーン携帯電話を構想していたが、同氏のデバイスの登場にはまだ時代が追いついていなかった。当時、デジタル携帯ネットワークはなく、わずかしかなかったデジタルコンテンツを取り込むには、ダイヤルアップモデムに接続する必要があったとポラット氏は回想する。
2007年に米アップルのスティーブ・ジョブズ氏が初代「iPhone(アイフォーン)」を発表した頃には、携帯電話とインターネットは広く普及し、フラッシュメモリーは安価になり、コンピューターチップは小型化・高速化し、反応の速いタッチスクリーンが発明されていた。
そしてスマートフォン革命が到来した際、その実現に貢献したのが、かつてゼネラル・マジックで働いていたトニー・ファデル氏とアンディ・ルービン氏だった。ファデル氏はアップルで「iPod(アイポッド)」とiPhoneの開発に携わり、ルービン氏は世界最大のモバイル基本ソフト(OS)「アンドロイド」を生み出したスタートアップのアンドロイド社を創業した。
AIに何千億ドルもの資金が注ぎ込まれる中、これもバブルだと指摘する声もある。それが真実かどうかはともかく、最初の送電線が蒸気動力に取って代わった時と同様に、AIが生産性を押し上げるとペレス氏は予測している。
ゼネラル・マジックは2002年に倒産した。同社のデバイスは時代をあまりにも先取りしすぎていたため、購入する消費者はほとんどいなかった。同社が取り組んでいたもう一つの先見性あるアイデアもまた、時代が追いつくのを待つ必要があるだろう。それは、人間の代わりにタスクをこなすAIエージェントだ。このプロジェクトに携わっていたエンジニア、ジョン・ジャンナンドレア氏は現在、アップルでAIに関する取り組みを率いている。
●中東情勢
●エマージング
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場:**  
ウクライナがロシアとの30日間の暫定停戦案を受け入れる意向を示したことを受け、ユーロが対ドルで5カ月ぶりの高値となる1.0947ドルまで上昇。対円でも161.78円と1月以来の高値を記録した。ドル/円は147.72円と小幅高だが、月初からは下落傾向。  
**債券市場:**  
世界的なリスク回避姿勢の後退により、米国債利回りが上昇。米2年債利回りは3.891%、10年債利回りは4.244%となった。米国の債務上限問題の懸念から、短期クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が上昇。  
**株式市場:**  
米株式市場は続落。トランプ政権の新たな関税措置が景気後退懸念を高めたが、ウクライナ情勢の進展が下げ幅を縮小。百貨店大手コールズは予想以上の売上減少を受け24.1%急落。  
**金先物:**  
米政権の関税政策による景気減速懸念から安全資産としての金需要が高まり、3営業日ぶりに反発し、1オンス=2920.90ドルに上昇。  
**原油市場:**  
貿易摩擦への懸念があるものの、ドル安による割安感からWTI原油は小幅反発し、1バレル=66.25ドルとなった。
ロンドン株式市場は続落し、FTSE100種指数は6営業日連続で下落。米政権の関税措置に対する警戒感から投資家のリスク回避姿勢が強まり、旅行関連株が特に売られた。対ドルでのポンド高も輸出企業の重荷となった。FTSE250種指数は0.53%安、旅行・娯楽関連株指数は3.11%安で、ブリティッシュ・エアウェイズの親会社IAGが6.1%下落。米デルタ航空が業績見通しを引き下げた影響も大きかった。
欧州株式市場も4営業日続落し、自動車・部品株指数が1.91%安。トランプ米大統領がEUからの輸入品に25%の関税を課す方針を示し、市場の不安が高まった。旅行・娯楽関連株指数は3.51%安、IAGは6.1%、ルフトハンザは5.3%下落した。ドイツの日用品メーカー、ヘンケルは通期売上高見通しが期待を下回り、10.4%急落した。
ユーロ圏債券市場では、ドイツ10年国債利回りが5bp上昇し2.87%。ドイツの政治情勢と財政支出計画が注目される中、米国の関税に対する懸念が引き続き意識された。

備忘録(2025/3/10
●海外企業決算
●海外企業
自動車メーカーのフォルクスワーゲンとステランティス
北米で生産された自社の車両は、ドナルド・トランプ大統領が新たに導入した25%の関税から免除されることを確認したが、BMW
欧州の自動車メーカーが新たな貿易ルールに取り組む中、関税に直面することになるだろうと述べている。
新たにホワイトハウスに復帰したトランプ大統領は、カナダ、メキシコ、EUを含む米国の主要貿易相手国に関税を課すと長らく警告してきた。先週、メキシコ、カナダ、中国からの製品に対する新たな関税が発効した。
欧州では、自動車と機械が欧州連合(EU)の対米輸出品目として最大であることから、輸入関税の脅威に警鐘が鳴らされている。2023年、EUは米国との機械・自動車貿易黒字が1020億ユーロ(1106億ドル)に達し、この分野は対米輸出の41%を占めた。
しかし、この地域の自動車大手の中には、少なくとも一時的には新関税を回避できる企業もあるかもしれない。先週、ホワイトハウスは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)( 3カ国間の貿易協定)に準拠した自動車を製造する自動車メーカーに対し、 1か月の関税延期を認めた。同協定の規定では、自動車部品の少なくとも75%が北米産であれば、カナダとメキシコからの輸入品に課せられる新関税を免除される。
「北米で組み立てられた当社のVWブランド車はUSMCAの原産地規則を満たしており、25%の関税が免除されている」とフォルクスワーゲンの広報担当者は電子メールによる声明で述べた。
「世界的な自動車メーカーとして、当社は北米の動向を非常に注意深く監視しており、米国、カナダ、メキシコ、欧州連合に発表された関税の結果として自動車業界と当社に及ぼす可能性のある影響を評価しています。」
フォルクスワーゲンは、主力ブランドの他に、シュコダ、アウディ、ベントレーなど、さまざまな主要自動車ブランドを所有しています。
「労働者、企業、消費者の経済的機会を維持しながら、米国の産業を支援する解決策を見つけるために政策立案者と協力する用意がある」と、この自動車大手はCNBCに語った。
一方、ジープやダッジの自動車で知られるステランティスは、金曜日の声明でトランプ大統領がUSMCAの免除を認めたことに感謝し、米国事業の拡大を約束した。同社は、いわゆる相互関税が4月2日に発効する前に、 1か月間の関税免除を与えられた大手企業の1つである。
「当社は、より多くのアメリカ車を生産し、永続的なアメリカの雇用を創出するという大統領の目標を共有しています」と同社は当時述べた。「大統領と彼のチームと協力することを楽しみにしています。」
メキシコに複数の工場を持つステランティスの株価は、トランプ大統領が先週、自動車メーカーへの免除を発表したことを受けて急騰した。ロンドン市場では月曜午後、株価が2%以上上昇した。
「不安定で複雑な」状況
一方、ドイツの自動車大手BMWは、USMCAの規制が存続すれば課税対象となると述べた。
「北米における輸入関税導入に関する現状は非常に不安定かつ複雑だ」とBMWは電子メールによる声明で述べた。「輸入関税とUSMCA規則の遵守との関連は最新の発表だ。この規制が引き続き有効であれば、BMWグループは影響を受ける企業の一つとなるだろう」
「当社の立場は変わりません。BMWグループが常に指針としてきた自由貿易は、世界中で極めて重要です」と同社は付け加えた。「自由貿易は成長と進歩の最も重要な原動力の一つです。一方、関税は自由貿易を妨げ、イノベーションを遅らせ、負のスパイラルを引き起こします。結局、関税は顧客に不利益をもたらし、製品の価格を高くし、革新性を低下させます。」
UBSのアナリストは金曜日の顧客向けメモで、BMWの米国での販売台数の10%が、主に同社の2シリーズと3シリーズのモデルで、かなり低価格でメキシコから輸入されたと推定した。
「BMWの米国向けメキシコからの輸入車は、すでに関税の対象となっていたことは強調しておく価値がある」と彼らは述べた。「他の条件が同じであれば、追加関税はEBITに約4億ユーロ(値上げ前)の影響をもたらすはずで、グループ全体から見れば比較的小さい(4%)。BMWや他のドイツOEMにとってより大きな潜在的脅威は、4月2日に期限を迎えるEU製自動車への潜在的な関税だ。」
トランプ大統領がカナダとメキシコ(世界の自動車メーカーの多くが生産工場を置いている)を標的とした関税の導入と撤回を発表したことで、同地域の自動車株の取引が不安定になっている。先月、大統領が関税の30日間延期を発表すると、世界の市場で自動車株の大規模な売りが起こり、株価は急落した。
●日本企業
●先進国政治動向
ドナルド・トランプ米大統領に反対する人たちは、彼がもたらしている大混乱に批判の声を上げ、共和党の一部も不安を募らせている。そんな中、同大統領は自身を批判する人たちに恐れをなすどころか、勇気づけられており、混乱に拍車をかけることを決意しているように見える。
ある特定の観点から見れば、世界が崩壊しつつあるように感じられるかもしれない。米連邦政府の官僚機構は解体されつつあり、大西洋をまたぐ同盟関係は緊張状態にある。また、関税の脅威が一進一退する中で株式市場は揺れ動いている。1週間足らずのうちに政府機関の閉鎖が起きる可能性もある。しかし、非常に多くの機関に激震をもたらしているにもかかわらず、トランプ氏の人気がこれまでのところわずかしか傷ついていないのは、同氏の支配的立場の証しと言える。そして、共和党も民主党も同様に結果がどうなるか身構えているため、異常で緊迫した政治的ダイナミズムが生み出されている。
「人々は行動を好む。彼(トランプ氏)が行動していること、そしてその勢い、スピードを高く評価している」。ホワイトハウスに近い共和党ロビイストのデービッド・アーバン氏はこう語る。アーバン氏は、ペンシルベニア州西部にある故郷の友人や、米陸軍士官学校時代の級友たちは皆、彼らが目の当たりにしているものを気に入っていると語った。それは、政治的な勇気を持ち、長年にわたる問題についに対処している大統領の姿だ。「短期的な混乱はあるが、米国民は混乱を見たがっていた。だからトランプ氏を大統領にしたのだ。彼らは余りにも非効率で無力な政府にうんざりしている」
トランプ氏が4日、議会の上下両院合同会議で演説し、米国民に「信じられないような未来に備えよ。米国の黄金時代は始まったばかりなのだから」と熱心に説いたとき、そのダイナミズムは明らかになった。2時間近い演説の間ずっと下院の議場の共和党側からは騒がしい歓声が沸き起こったのに対し、反対側に座っていた民主党議員たちは不機嫌な様子で、ほとんど歓声を上げようとしなかった。
トランプ氏の支持者たちにとって、この演説は同氏の決断力と強さをはっきりと示した勝利だった。「それは権力の絶頂にある大統領が、すべてがうまくいく、すべて良い結果になる。私を信じてほしいという自信がにじみ出た演説だった」とアーバン氏は語った。同氏によると、米国民は今起きている良いことに熱狂している。それは国境を越えてくる人の大幅な減少や、外資による大規模投資の発表といったようなことだという。
トランプ反対派は、彼への反感が強まっており、共和党が今後の選挙でその代償を払うことになる可能性があると考えている。元共和党下院議員のチャーリー・デント氏は「無秩序と混乱が人々を本当に困惑させている」と話す。同氏は2018年までペンシルベニア州の激戦区を代表する議員で、昨年11月の大統領選では民主党のカマラ・ハリス候補を支持した。デント氏はトランプ氏について「自らがやっていることや進めようとしていることすべてを加速させ、自身の意思決定への政治的影響を考慮していないように見える」と指摘。とりわけ、トランプ氏が何十年にもわたって維持されてきた地政学的秩序を壊そうとしていることと、権力分立を踏みにじろうとしていることにデント氏は動揺していると言う。
世論調査によると、有権者の新政権に対する評価はまあまあだ。これはトランプ氏に世論を二分させる性質があることや、国の分断が固定化していることを反映している。任期開始時点のトランプ氏の支持率は他の近代の大統領ほど高くなく、通常は政党に関係なく支持が集まるハネムーン期間の恩恵をほとんど受けていない。2021年1月6日の議会襲撃事件の暴徒らに恩赦を与えるなど、彼が講じた個々の措置の多くは不人気だ。最近の幾つかの調査では、有権者はトランプ氏が経済に十分焦点を当てていないとみていることが分かった。それでも、彼がもたらしている混乱は支持率の急落につながっていない。政治アナリストのネート・シルバー氏によると、先ごろ発表された世論調査の平均からは、トランプ氏の支持率と不支持率が48%ずつで拮抗(きっこう)していることが分かった。多くの有権者は今後の行方を見守ろうとしているようだ。
一部の共和党関係者は有権者の不満の兆候について、公私を問わず不安をあらわにしている。連邦議会議員の電話は何週間にもわたって鳴りやまない状態で、議事堂の電話システムで対処できないほどになっている。苦悩に満ちた選挙区民は、リベラル派団体に促され、議員が地元で開催する集会に大挙して訪れるようになっている。このため、共和党指導部は対面のタウンホール集会を開催しないよう議員らに助言した。マイク・ジョンソン下院議長は記者団に対し、「彼らはカメラに映りたいがために、それを行っている。今は彼らの術中にはまらないようにすることが賢明だと思う」と語った。
多くの共和党員は、政府職員の解雇と、トランプ氏が関税で脅しをかけ、その後に修正を繰り返していることを受けて、米景気の悪化が続くことを恐れている。7日発表された2月の米雇用統計は落ち着いた内容ではあったが、非農業部門就業者数が予想をやや下回り、失業率はわずかに上昇した。インフレ率は上昇し、消費者の景気信頼感は低下している。米政府当局者らはこうした状況について、米経済のより良い未来に向けた短期的な調整だと指摘。関税や規制緩和、エネルギー生産などによって企業の活動が促進され、米民間部門の雇用が拡大するとの見方を示している。
トランプ氏が要求している矛盾の多い法案への対応に米議会が苦慮する中で、今後の同氏の議会対応は一層難しくなるとみられる。トランプ氏は、自身が主導して2017年に導入した各種の減税措置の恒久化に加え、チップや社会保障給付金への課税廃止などの新たな減税策も求めている。その一方で同氏は、メディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険制度)やメディケイド(低所得者向け公的医療保険制度)、社会保障などの支出は削減できないと主張している。専門家によると、トランプ氏が早期に実現すると約束している予算の均衡化は、共和党議員が誰一人支持していない大規模な新規増税がない限り実現不可能であり、財政赤字と政府債務が増え続けるとみられる。民主党は、国民が頼りにしているさまざまなプログラムの予算削減が避けられないと非難している。また、議会でつなぎ予算が可決されなければ、14日に政府機関が閉鎖される恐れがあるが、議会幹部らの協議は行き詰まっている。
トランプ氏が誇らしげに主張する大規模な変革の多くが、見かけ倒しであることは確かだ。不法移民の国外追放のペースは、ジョー・バイデン前大統領の政権下と比べて大きく加速していない。政府効率化省(DOGE)が達成したと主張する財政支出の削減はしばしば幻想に終わっており、連邦政府予算の丸めた数字の誤差程度にとどまっている。批判的な人の中には、トランプ政権が本質的には劇場型なのではないかと考えをめぐらす人もいる。有権者が求める大規模な変革を進めているとの印象を与えるだけで、実際には変化は限定的だと。トランプ氏は、何らかの一時的な苦痛があってもそれは前進の代償に過ぎないとの認識を一般市民に植え付けるために、大統領としての強い公権力を行使してきた。
4日のトランプ氏の演説に対する民主党の反応は、同党の混乱をよく表していた。アル・グリーン下院議員(テキサス州)は、トランプ氏にやじを飛ばすために立ち上がり、つえを振りながら、大統領に「メディケイドを削減する権限はない」と叫んで、議場から退出させられた。一部の民主党議員は、明らかに女性への支持を示すメッセージとしてピンク色の服を着用していた。また、「Musk Steals(マスクは盗む)」「Protect Veterans(退役軍人を守れ)」といったスローガンが書かれた、オークションで使われるような黒色のパドルを振る人たちもいた。出席を拒否したり、演説が長引くにつれて退席したりする人が複数出て、共和党が議場を支配する空気は少しずつ強まる一方だった。
その後、エリッサ・スロトキン上院議員(ミシガン州)が民主党としての公式な反対演説を行い、米国旗を背に良識ある中道主義を訴えた。民主党の支持基盤の多くはトランプ氏の行動に激怒している。しかし民主党はこのような混乱した状況とは大いに異なる従来の正常なやり方が自党に求められているのか、それともアブノーマルな状況にあってはそのような手段で応じることが求められているのか、明らかに決めかねている。
「このような状況は今までに見たことがない。民主党の行動は明らかに不十分だ」とタラ・セトマイヤー氏は語った。同氏は、トランプ氏を巡って離党した元共和党関係者で、現在はスーパーPAC(特別政治活動委員会)の運営者だ。同氏のスーパーPACは、トランプ氏が退役軍人を裏切り、米国の敵の側についていると批判する広告を出している。
おそらく、4日夜のトランプ氏の演説が始まる前の、ほとんど気付かれなかったある出来事ほど、現在の政治状況をよく捉えた瞬間はないだろう。メラニー・スタンスベリー下院議員(民主、ニューメキシコ州)は、トランプ氏が議場に入る際に中央の通路に無言で立ち、「これは正常ではない(This is NOT Normal.)」と書かれた紙を持って深刻な表情を浮かべていた。
トランプ氏がスタンスベリー氏の横を通り過ぎる際、スタンスベリー氏は、通路の反対側の席で熱狂する共和党議員らに取り囲まれた。その共和党議員の中の一人、ランス・グーデン下院議員(テキサス州)が大統領の背後で手を伸ばし、スタンスベリー氏の手からその紙を奪い取って、放り投げた。紙が床に舞い落ちると、グーデン氏は拍手を再開した。トランプは知らん顔で、そのまま歩いていった。
ドナルド・トランプ米大統領は9日、米国経済が今年縮小してリセッション(景気後退)入りするか問われた際、その可能性を排除しなかった。そのうえで自身の包括的な経済政策が短期的な混乱を引き起こすことは考えられるとし、それが将来の繁栄につながるだろうと述べた。
米FOXニュースの「サンデー・モーニング・フューチャーズ」に出演したトランプ氏は、年内のリセッション入りを想定しているか聞かれ、「そういったことを予想するのは嫌いだ。われわれが行っていることは非常に大きいので、移行期間がある」と答えた。
トランプ政権は新たな関税や移民制限、規制緩和、そして政府雇用と税金の削減に焦点を当てた政策を打ち出し、経済の抜本的な改革を推進。また多くの連邦プログラムで、支出削減を目指している。多くの企業が同氏の幅広い政策を歓迎している一方で、メキシコやカナダなどの主要貿易相手国に対する関税を巡っては不確実性が生じ、市場に動揺も見られる。トランプ氏はここ数カ月だけでも、関税の導入提案と延期を何度も繰り返している。
またトランプ氏の政策は、力強い成長と低失業率を維持してきた米経済の回復力を試しているものの、消費支出の落ち込みやインフレへの懸念が企業に重くのしかかるなど、緊張の初期の兆候が見られる。
米株式市場は2024年終盤には、トランプ氏の政策への投資家の期待感を背景に上昇したが、ここ数週間は低迷。ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数はいずれも7日の終値が1月20日のトランプ氏就任時の水準を下回った。
トランプ氏は9日に放送されたインタビューで、関税についてより明確な説明を求める企業を安心させられることができるか尋ねられた際に返事をしぶり、「そう思う」と回答。「関税は時間とともに上がる可能性がある」と語った。
さらに同氏は1期目には株式市場のパフォーマンスを頻繁に自慢していたが、2期目の政策では株式市場はあまり重視しない姿勢を示し、「強い国を作ることがわたしの仕事だ。株式市場を見ているわけにはいかない。中国を見てほしい、彼らは100年の視点を持っている」と述べた。
スコット・ベッセント財務長官も、経済移行期間中に米経済が厳しい局面を迎える可能性があると発言。CNBCの「スクワーク・ボックス」に出演した同氏は、「政府支出に依存するようになってしまい、解毒期間が必要になる」と述べた。
一方でハワード・ラトニック商務長官は9日、NBCニュースの「ミート・ザ・プレス」に出演し、「米国でリセッションは起こらない」と発言して経済縮小の可能性を否定した。
J・D・バンス氏は、従来の米国の副大統領像とは異なる存在だ。
ワシントンの裏側で暗躍するマキャベリ的な権謀家、ディック・チェイニー氏のようでもなければ、ジョージ・H・W・ブッシュ氏やジョー・バイデン氏のように外交面で信頼できるタイプでもない。
若々しいバンス氏はむしろ、上司であるトランプ大統領がSNSで発する過激なメッセージを体現しているかのようだ。先月末に行われたホワイトハウスでの会談ではウクライナのゼレンスキー大統領を挑発し、外交危機を招いた。安全保障会議が開かれたドイツ・ミュンヘンへの旅を楽しみ欧州の同盟国を侮辱した。さらにウクライナには「30~40年も戦争をしていないどこかの国」が提示するものよりも優れた安全の保証が必要だと言い放ち、英国で新聞の1面を飾った。バンス氏は後になって、英国やフランスに言及したと解釈するのは「極めて不誠実だ」と釈明したが、実際にウクライナへの「平和維持部隊」に名乗りをあげたのは、英仏だけだった。
バンス氏は、共和党内でどちらに風が吹いているかを心得ている。そのため2016年当時はトランプ氏を「米国のヒトラーになる可能性がある」と疑っていたとまで伝えられながらも、その後はトランプ氏への軽蔑を捨てた。トップを崇拝する党内で、副大統領は大統領の「特に熱心な崇拝者」のひとりとなったわけだ。
一方で、バンス氏は興味深い人物でもある。アパラチア地方の厳しい環境で育ち、イエール大学法科大学院を卒業し、非常に頭が切れる。そのため、同氏の政治的立ち位置は打算によるものと受け取られやすい。短期間だがオハイオ州の上院議員を務め、従来型のメディアやワシントンのエリート層を嫌悪している点はトランプ氏のポピュリズムと親和性がある。海兵隊出身でもあるため、対テロ戦争での同盟国の貢献について詳しいはずだ。バンス氏はシリコンバレーでも財をなし、急速に右傾化し2期目のトランプ氏を支持するIT業界の大物らとも親しい。
バンス氏の名を知らしめたのは、自身の回顧録「ヒルビリー・エレジー」だった。幼少期を過ごしたオハイオ州やケンタッキー州の貧困地帯で、産業の空洞化が貧困や薬物依存を広げ、グローバル化した自由貿易政策への政治的反発を引き起こした過程を語ったこの16年の著書は、トランプ氏の第1次政権の支持層を理解するための手引のようでもあった。
そうした経歴を考えれば、バンス氏が「米国第一」を掲げる経済政策の最も雄弁な論客となったのも不思議ではない。40歳の同氏はトランプ氏の後継者になり得るが、先日のFOXニュースのインタビューでトランプ氏は面白おかしくそうした考えを否定した。
バンス氏は、欧州の多くの人々が軽蔑する米国の特徴を象徴しているといえる。それはウクライナに中核となる国益はないとみなす孤立主義的な姿勢だ。無遠慮で自信満々な態度も海外の人々をいら立たせる。ドイツの右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」をはじめとする欧州の極右勢力への支持もそうだ。ホワイトハウスでゼレンスキー氏と衝突する前日には、言論の自由をめぐり英国のスターマー首相を非難したが、スターマー氏は明確に反論してみせた。
若く、野心的、かつイデオロギー的で、既存の知識階級へ不満を持つバンス氏から想起される副大統領がいる――リチャード・ニクソン氏だ。
1952年にドワイト・アイゼンハワー氏の副大統領候補に選ばれたとき、ニクソン氏の上院議員としての在任期間はバンス氏と同じく短いものだった。そしてバンス氏と同様、新たなタイプの共和党のイデオロギー支持者でもあった。バンス氏がリベラルな「woke(ウォーク、意識の高い人たち)」を批判するように、ニクソン氏は米国内の共産主義者と思われる人々を追い詰めた。そしてバンス氏同様、ニクソン氏も「もっと上」を狙っていた。強い野心と政治の闇への傾倒は、経験豊富なアイゼンハワー氏との間に軋轢(あつれき)をもたらすこともあったが、これはトランプ氏とバンス氏の関係にも起こりえる。
ニクソン氏は8年間の副大統領時代で国際関係を急速に学んだ。68年の大統領選で勝利して以降の成功はそのときの経験による部分が大きい。バンス氏がニクソン氏のように世界を飛び回ることはなさそうなのは、同氏の政治的利益が国内にあるからだ。
バンス氏を侮ってはいけない。同氏は短期間で高みに駆け上がった。しかし傲慢(ごうまん)さによって「太陽に近づきすぎる」危険はないだろうか。
ドナルド・トランプ大統領のホワイトハウス復帰に伴う世界市場の不安定化と地政学的な混乱により、米国経済が景気後退に向かう可能性があるとの警告が出ているが、経済学者らは、景気後退はまだ予想されていないと述べている。
「米国の景気後退について話すことはないと思う。ドナルド・トランプ氏にもかかわらず、米国経済は回復力があると言える」とベレンベルク銀行のチーフエコノミスト、ホルガー・シュミーディング氏は月曜日、 CNBC
「スクワーク・ボックス・ヨーロッパ」で語った。
シュミーディング氏はトランプ大統領を「混沌と混乱の代理人」と呼び、「関税に関する大統領のジグザグな対応は、彼が自らの関税政策の潜在的な結果をほとんど理解していないことを示している」と述べた。
それでも、「米国の消費者はお金を持っており、おそらく使うだろう。米国の労働市場は比較的堅調に推移しており、エネルギー価格が若干下がり、おそらく減税や規制緩和も行われることから、差し迫った景気後退のリスクはないと思う」とシュミーディング氏は言う。
「しかし長期的にはますます明らかになっているのは、トランプ大統領が米国の成長トレンド、つまり2026年以降の成長を損なっているということだ。また、トランプ大統領は米国消費者の価格上昇を支持しており、それは私の見解では、トランプ大統領が大統領となり、混乱と混沌を巻き起こしている限り、FR​​B(連邦準備制度理事会)が金利を引き下げる理由はないことを意味する」と同氏は指摘した。
CNBCはホワイトハウスに返答を求めて連絡を取り、返答を待っている。
トランプ大統領が中国、メキシコ、カナダからの製品に厳しい輸入関税を課すと発表したことで、世界的な貿易戦争を再開させる意図があるのではないかという懸念から、ここ数週間、国際株式市場は大きく動揺している。
大統領が先週金曜日、米国の近隣諸国および最も近い貿易相手国に対する一部の関税を4月2日まで猶予し延期すると発表したため、混乱と不確実性が続いている。
貿易と国際外交に対するトランプ大統領の型破りなアプローチは市場に不評を招き、米国株価指数は乱高下した。一方、ストラテジストらは、トランプ2.0時代においても市場のネガティブな感情は続くだろうと警告した。米国株先物は月曜朝早くに下落し、新しい取引週の始まりに米国市場が再び不安定な展開になることを示唆した。
ビジネスリーダーや経済学者は、関税により米国にさらなるインフレ圧力がかかり、輸入品の価格上昇の矢面に消費者が立たされる可能性が高いと懸念を表明している。
また、消費者が財布の紐を締め、経済の予測不能性と高インフレと高失業率を特徴とする潜在的な「スタグフレーション」の時期を耐え抜くため、投資、雇用、成長が悪化する恐れがあると警告している。
そうなれば、FRBは景気刺激策として現在の政策金利4.25%~4.5%から引き下げるのではなく、金利を据え置くよう圧力を受けることになる。金利が下がれば支出が増え、インフレが進む可能性がある。
連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は金曜日、FRBは金利を再度引き上げる前にトランプ大統領の積極的な政策措置がどのように展開するかを見守ることができると述べた。
「移行期」
2月に消費者信頼感が打撃を受けたことを示す最近の経済データは、トランプ政権にとって考えさせられるものとなるだろう。アトランタ連邦準備銀行の GDPナウ 追跡システムも先週、米国の国内総生産が1月から3月にかけて2.4%減少する可能性があると示唆した。テクニカルリセッションとは、少なくとも2四半期連続でマイナス成長を記録した場合と定義される。
先週の雇用統計は、米国の労働市場が依然として拡大しているものの、弱さの兆候も現れ始めていることを示した。非農業部門雇用者数統計によると、2月の雇用の伸びは予想よりも弱く、雇用の伸びは依然として安定しているが、このデータはトランプ大統領が連邦政府職員の削減に取り組んでいる中で発表された。
労働省労働統計局が金曜日に発表した統計によると、非農業部門雇用者数は季節調整済みで前月比15万1000人増加し、1月の下方修正後の12万5000人増を上回ったが、ダウ・ジョーンズのコンセンサス予想17万人を下回った。失業率はわずかに上昇し4.1%となった。
TSロンバードの米国担当チーフエコノミスト、スティーブン・ブリッツ氏は、最新の雇用統計は「経済が引き続き成長していることを示している」とし、「トランプ大統領の一連の政策によって生じた景気後退リスクの増大」を示唆するものではないと述べた。
しかし、同氏は金曜日のメモで「トランプ大統領の行動の総計は、設備投資の崩壊を含め、経済を何らかの形で歪める可能性がある」と述べた。
「大統領は就任1年目に景気後退を受け入れることで知られていることを心に留めておいてほしい。それは免罪符であり、彼らは前大統領のせいにして景気回復の功績を自分のものにする。私の基本シナリオは依然として成長とFRBの現状維持だ。私の基本的な懸念は資本市場側にある。貿易が崩壊すれば経済を支える資本流入が崩壊する」とブリッツ氏は語った。
トランプ大統領は今年の景気後退の可能性を否定しなかったが、今週末、経済は「移行期」にあると主張した。
フォックスニュースチャンネルの「サンデー・モーニング・フューチャーズ」でアトランタ連銀が経済収縮を警告したことについて質問されたトランプ大統領は、自身の関税計画が米国の成長に影響を及ぼす可能性があることを認めたようだ。
「そのようなことを予測するのは嫌だ」と、日曜放送のインタビューで景気後退の警告が懸念事項かと問われると、同氏は答えた。
「我々がやっていることは非常に大きなことなので、移行期間がある。我々はアメリカに富を戻している。これは大きなことだ」とホワイトハウスのリーダーは付け加えた。「少し時間がかかる。少し時間がかかる」
JPモルガンの米国市場情報部門は先週、関税の予測不可能な性質から、米国経済は「新たな不確実性の時代」に入りつつあると指摘した。アナリストらは、市場のボラティリティが高まり、米国の成長が「急落」する可能性があると予想し、米国株に対して「弱気」の姿勢を取っていると述べた。
「政策や貿易の不確実性が家計と企業の支出に与えた悪影響はすでに確認されているが、今後1か月でさらに大きな影響が出る可能性が高い。失業率、レイオフ、WARN通知などに注意が必要だ。失業率が急上昇し始めら、市場は再び『景気後退シナリオ』に逆戻りする可能性が高い」とJPモルガンは指摘した。
米国の景気後退は同銀行の基本シナリオではなかったが、JPモルガンのアナリストは「関税の期間が未定であることと、貿易戦争で新たな関税が加速する可能性があることから、米国のGDP成長率の予測が引き下げられると株価は下落するだろう」と警告した。
「この緊張の高まりに終止符が打たれる見込みがないことを考えると、この規模の関税はカナダとメキシコ両国を景気後退に追い込むと予想される。米国のGDP成長予想は​​急落し、利益修正は大幅に下方修正され、年末予想の再考を余儀なくされるだろう。これを踏まえ、当社は見通しを戦術的弱気に変更する」と彼らは指摘した。
ドイツの緑の党は、次期首相就任が有力なメルツ・キリスト教民主同盟(CDU)党首が打ち出した数千億ユーロに及ぶ防衛・インフラ支出パッケージを支持しないと表明した。メルツ氏の看板政策が廃案に追い込まれる恐れが出てきた。
先月の選挙で勝利し、連立交渉を進めるメルツ氏だが、この政策の成立には借り入れ制限を緩和する憲法改正を伴うため議員の3分の2の賛成票が必要で、緑の党の支持も欠かせない。トランプ米大統領が欧州安全保障への関与を後退させる中で、5000億ユーロ(約80兆円)に上るメルツ氏の支出計画は欧州の防衛を強化する大きな一歩になるとして、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国から歓迎された。
緑の党の指導者たちは、次期政権の連立協議で蚊帳の外に置かれ、気候変動対策など同党の優先政策が無視されているとして、メルツ氏らを強く非難。同党のブラントナー共同党首は、新政府の「選挙の贈り物」の配給を助ける気はないと述べた。
ただ、さらなる協議の余地は残し、独自の法案を提出する意向を示した。メルツ氏陣営および、連立相手として交渉が進む社会民主党(SPD)は10日遅く、ベルリンで緑の党の議員らと会合を開く。
事情に詳しい関係者によると、緑の党に対するメルツ氏の扱いを巡り、同氏陣営の内部からも批判的な声がある。同氏は長年敵意を抱く緑の党に対して、感情的な知性を欠いていると関係者の1人は述べた。
緑の党の強硬な拒否にメルツ氏陣営は不意を突かれたが、土壇場で合意できる余地はまだあるとみていると、CDU当局者は発言。SPD当局者も、週内の合意は可能だろうとの見方を示し、緑の党は政治的な力を行使して要求を引き上げていると指摘した。関係者は全員、交渉は非公開で進んでいるとして匿名を要請した。
クキース財務相はブリュッセルで記者団に対し、「このような状況で、懸念や要求があるのは完全に普通だ」と述べ、「NATOの欧州の柱として防衛努力を強化し、インフラ支出を増やさなければならないという2つの目標で、最終的には合意が得られると自分は楽観している」と続けた。
緑の党が反対を表明した後、ドイツ国債は上げを広げ、10年物利回りは一時6ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の2.77%を付けたが、引けまでに上げを縮小した。ユーロもドルに対して一時下落したが、前日終値付近で推移している。
●先進国中銀、金融当局
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
米ニューヨーク・マンハッタンのコンドミニアム(分譲マンション)を所有する費用は昨年、さらに上がった。
不動産鑑定会社ミラー・サミュエルによると、昨年10-12月(第4四半期)にマンハッタン区のコンドミニアム所有に要した月当たりのコストは前年同期比8.6%上昇した。これは同期の米インフレ率(2.9%)をはるかに上回る。
このデータはニューヨーク市内の家計が一段と圧迫されていることを示す最新の兆候であり、住宅を所有する余裕のあるニューヨーカーも例外ではない。 コンドミニアムやコープ住宅(住民がアパートの管理・運営に参加する形式)の管理組合が住民に毎月課す光熱費と人件費、基本的な維持管理費はいずれもここ数年、大幅に上昇。 また、この市場が大規模訴訟の影響に対応する中で保険料も値上がりしている。
ミラー・サミュエルのジョナサン・ミラー社長はコンドミニアムのコスト上昇には、2000年代後半から2010年代にかけて完了した再開発プロジェクト関連の減税措置が段階的に廃止されていることも反映されていると指摘。この減税措置は、一部の手頃な価格の住宅を含む物件に適用されたが、一般的に建設完了後10-15年で段階的に廃止される。
ミラー氏は、同社のデータは四半期中に完了した販売の費用を追跡しているため、高額な新築大型物件の取引により市全体の平均はさらに高くなっている可能性が高いと説明した。
コープ住宅に関しては月当たりの所有コストは昨年かなり安定し、10-12月期は前年同期比0.1%上昇にとどまった。
ニューヨーク市の住宅所有コストは向こう1年で一段と上昇する可能性がある。 関税導入がエネルギーコストをさらに押し上げ得るほか、 電力会社コンソリデーテッド・エジソン(コンエド)は26年1月1日から電気料金を11.4%値上げする認可を州に求めている。
日本企業を対象とした合併・買収(M&A)が増える中、社債投資家から予想外の信用力悪化に備えてコベナンツ(財務制限条項)の普及を求める声が強まっている。
日本の社債市場では、会社の経営権が変わった場合に投資家が社債の早期償還を請求できる「チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項」はほとんど活用されていない。だが、セブン&アイ・ホールディングスや日産自動車など定期的に円建て社債を発行する大手企業で支配権の変更につながり得る動きが続いたこともあり、投資家は現状に危機感を覚えるようになっている。
ニッセイアセットマネジメントの宮田浩之債券運用部専門部長は、「COC条項は格付けに関係なく一律に付けることが望ましい」と話す。同条項のない社債への投資はリスクが高まっていると言う。
セブン&アイは企業価値の向上を迫られる中で社債スプレッド(基準金利に対する上乗せ金利)が急拡大。市場調査会社マクロミルと光学機器メーカーのトプコンも、海外のプライベートエクイティー(PE)企業が買収を競う中でスプレッドは記録的な水準に急騰した。
スプレッドの急拡大は、買収などによって会社の経営権が変わり、債務の増加や上場廃止、信用格下げにつながる可能性があるとの市場の懸念を反映したものだ。
SMBC日興証券の原田賢太郎チーフクレジットアナリストは、非上場化などのイベントが増える可能性がある中、社債投資家からそのリスクにどう向き合っていくべきかという問い合わせを多く受けていると明かす。株価収益率(PER)が低いなど買収されるリスクが意識されやすい企業の社債で、適切な保護措置が導入されないものに対しては今後、投資家がより高いプレミアムを要求する可能性があると述べた。
海外の主要な社債市場では、COC条項は主に低格付け債の発行時に付けるのが一般的だ。投資適格債に付与されることもある。これに対して日本での活用が少ないのは、企業が従来、資金調達を銀行からの借り入れに頼ってきたという事情がある。買収のターゲットになりやすいとされる低格付け企業の社債発行も海外と比べて少ない。
しかし、M&A活動が格付けにかかわらず活発になっている今、日本でも投資家保護への注目は日に日に高まっている。PE企業によるレバレッジド・バイアウト(LBO)は社債投資家にとって寝耳に水となりやすく、社債を購入した時点ではその可能性を織り込んでいないことが多い。高格付け企業の社債に投資する場合は特にそうだ。
日本証券業協会は昨年のワーキンググループ会議で、格付けがBBBプラスを下回る社債を対象に、COC条項と、債務不履行(デフォルト)の可能性が高まった場合に投資家への通知を発行体に義務付ける「リポーティングコベナンツ」を柔軟性を保ちながら適用することで合意した。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所の顧問の木村明子氏は、日本では間接金融の比重が大きいとした上で、M&Aの規模が大きくなっていることから資金調達を「銀行のローンだけで全部賄うのは無理なところまできている」と話す。COC条項は投資家からのニーズが強まり、社債発行の可否にも影響するようになれば増えるとみている。
みずほ証券の大橋英敏チーフクレジットストラテジストは、今年は日本企業が買収のターゲットとなるリスクが去年よりさらに高いと指摘。ニッセイ基礎研究所取締役の徳島勝幸金融研究部研究理事は、COC条項を付与することは投資家に安心感をもたらすとし、「発行体や証券会社が積極的に考えるべきテーマだ」と述べた。
米経済成長を巡る懸念からドルが急激に売られた後、ドル強気派は鳴りを潜めているように見える。しかし一部の投資家は、トランプ政権の関税政策にはなおドルを支える力があると考えている。
トランプ大統領が就任した1月20日以降でドルは約5%下落し、4カ月ぶりの安値に沈んだ。一連の関税を巡る報道が米国の成長に対する不安感を生んだほか、ドイツの財政支出拡大見通しで欧州の先行きに明るさが見えたため、経済成長の観点からの資金投入先としてのドルの魅力がさらに低下した。
1月下旬に9年ぶり高水準の352億ドルに膨らんだ通貨先物市場におけるドル買い持ちも足元で153億ドルに圧縮されている。
関税は米国の企業や消費者が負担するコストを押し上げ、供給網を混乱させるとともに、貿易取引縮小につながる、というのがドル売りの根拠だった。
それでも投資家の中には、今はドルの売り場ではないとの見方も聞かれる。
アムンディUSの債券・通貨戦略ディレクター、パレシュ・ウパディアヤ氏は「今の状況がドル弱気一色とは思わない」と話す。
関税は輸入物価押し上げを通じて外国通貨の需要を減らし、ドルを強くするので関税が全面的に発動される間はドルが引き続き上昇してもおかしくないというのが、複数のアナリストの見立てだ。
ウパディアヤ氏は、昨年ドル高をもたらした多くの要素はまだ健在で「ドルは依然として王様だ」と言い切った。
同氏は、実際米国の成長ペースは鈍化の兆しが出ているかもしれないが、なお他の主要国より高いと指摘した。米国の利回りもまだ相対的に高く、世界的な混乱期にはドルが安全な避難先だとの見方も根強い。
実際これまでドル弱気派は時期尚早の売りを仕掛けて手ひどいしっぺ返しを受けてきた。過去2年でドル指数は直近高値から5%前後下落した局面が2回(2023年10-12月と24年4-9月)あったものの、両方ともドルは数カ月で値を戻した。
昨年11月の米大統領選後にドルが5%近く上昇したとはいえ、トランプ政権のさまざまな国に対する関税が長期間発動される展開でドルに吹く追い風を、果たして市場が完全に織り込んだのかどうか疑問は残されている。
INGの外為ストラテジスト、フランチェスコ・ペソーレ氏は「特に欧州を標的とする関税は比較的長く適用されると想定する陣営にわれわれは属している」と語り、ユーロがいずれ対ドルで再び軟化し、足元1.08ドルのユーロ/ドルは年末に1.02ドル前後まで下がると見込んだ。
ニューバーガー・バーマンのシニア・ポートフォリオマネジャー、ウーゴ・ランチオーニ氏は、ドルは既に潜在的な上昇余地の大部分が実現しているとの考えから、ドルの戦術ポジションをやや売り持ちに傾けている。
しかし同氏は、貿易戦争が悪化すればドルが下げ幅を縮小する可能性があると言及。「(貿易戦争の)大規模なエスカレーションは恐らく織り込まれていない」と述べた。
UBSのストラテジスト、バシリー・セレブリアコフ氏も「トランプ氏による関税の脅しがある以上、ドル弱気派になるのは難しい」と認めた。
欧州の成長上向き期待がユーロを4カ月ぶり高値に押し上げたものの、ユーロがそうした堅調地合いを保てるか懐疑的な投資家もいる。
スタンダード・チャータードのG10FX戦略を統括するスティーブン・イングランダー氏は、2020年にも欧州の大規模経済対策発表を好感してユーロが一時上昇したが、その後しばらくしてユーロ/ドルが等価近辺まで下落した点を挙げ、財政拡大の報道に過剰反応したくないと主張した。
2002年に当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領が鉄鋼製品を対象に導入した関税は2年足らずで終了した。しかし、その経済的影響ははるかに長く続いた可能性が高い。
この関税は苦境にあえぎながらも政治的影響力のある米鉄鋼業界を保護するために設計され、自動車部品や金属プレスなどに鉄鋼を使用する企業のコストを引き上げた。翌年に撤廃されたが、影響を受けた企業はその後も自社製品を国外で販売しようとする際の競争力が低下した。ウィスコンシン大学マディソン校のリディア・コックス教授(経済学)はそう話す。
企業は苦しみ、雇用は失われた。
「影響は非常に広範囲に及んだ」とコックス氏は言う。同氏の研究によると、その影響はブッシュ氏の関税撤廃後も約5年間続いた。
ドナルド・トランプ大統領が主要貿易相手国に対して実行している断続的な関税の拡大は、現代史に類を見ない。しかし、過去から学ぶべきことはある。半導体から木材、鶏肉に至るまで、これまでの貿易紛争は時に数十年にわたって続き、国際市場を揺るがし、消費者物価を押し上げてきた。
こうした関税政策を追求した大統領の中で、トランプ氏ほど保護主義を重視した者はいない。対象となる製品はメキシコ産ビール、中国製おもちゃ、カナダ製航空機など多岐にわたる。
経済学者らは、トランプ氏のアプローチが在任期間をはるかに超えて意図せざる結果をもたらす可能性を懸念している。
「これは近年で最大の関税政策の変更だ」とコックス氏は語る。
ダートマス大学のダグラス・アーウィン教授(経済学)によると、米政府が過去に課した関税には特定の目的があった。レーガン時代の日本の半導体に対する関税は、米国のハイテク産業を手ごわい競争相手から守ることを目的としていた。ニクソン大統領は1971年、輸出大国の西ドイツと日本が通貨価値の引き上げに同意した直後に、広範囲にわたる関税を短期間で終了させた。
過去数十年に起きた多くの貿易紛争とは対照的に、トランプ政権は外国製品への関税について相矛盾する根拠を示している。これは今後の貿易戦争が長期化しかねない兆しだ。
「(今日の)問題は、他国に何を求めているのか明確でないことだ」とアーウィン氏は言う。「これは劇的な(問題の)拡大となる」
この不確実性はすでに消費者信頼感を低下させ、インフレ期待を高めている。ボストン地区連銀の研究者らは、トランプ氏の初期の関税により、米国の輸入業者の対応次第でコアインフレ率が0.5~0.8ポイント上昇する可能性があると推定している。
ウォール街では、貿易を巡るトランプ氏の発言を交渉戦術と見なしていた投資家が、この先に限られた出口戦略しかない可能性に直面している。株式市場は過去1カ月間で大きく下落。米政権は6日、カナダとメキシコからの多くの輸入品に対し1カ月の関税免除を発表したが、株価の下落を食い止めることはできなかった。
トランプ氏は時に、カナダとメキシコからの大半の輸入品に対する25%の関税や中国に対する20%の追加関税について、合成麻薬フェンタニルと不法移民の米国内流入を阻止する取り組みの一環だと主張してきた。一方で、政権高官らは関税を国内製造と政府収入を押し上げる措置だと位置付けており、経済学者はこうした目的が互いに相反すると指摘している。
トランプ氏は自身のアプローチを、国際的な供給網(サプライチェーン)と外国投資が急拡大する前の19世紀の概念になぞらえている。4日の施政方針演説では関税について、米国の雇用を保護するとともに「わが国の魂を守る」手段だと述べた。
「多少の混乱はあるだろうが、われわれは大丈夫だ」と付け加えた。「大したことにはならない」
経済学者はおおむね、トランプ政権1期目の貿易政策は、言葉は激しかったが実際の影響はそれほどでもなかったと考えている。とはいえ1次産品や消費財に対する関税は米国の新たな保護主義時代の幕開けとなり、バイデン前政権がその大部分を引き継いだ。
2018年に導入されたアルミニウムや鉄鋼などへの関税は、製造業を国内に呼び戻すことを目的としており、一部は成功した。学術誌アメリカン・エコノミック・レビューに掲載された研究によると、洗濯機に対する関税はサムスンなどの企業で推定1800人の雇用を創出したが、消費者には年間約15億ドル(2200億円)、つまり雇用された労働者1人当たり80万ドル(1億2000万円)以上のコストがかかった。
米国は世界最大の経済大国だが、外国のサプライヤーに関税のコストを負担させられるほど大きくはないと、ジョージ・メイソン大学マルカタスセンターのクリスティン・マクダニエル上級研究員は話す。
「米国はこれらの関税の半分以上を吸収した。われわれは考えられているほど価格決定力を持っているわけではない」
バイデン前政権は、同盟国からの輸入品に対するトランプ時代の関税を一部緩和した。しかし、中国を対象とした多くの関税は維持された。これは「関税を引き上げるのは簡単だが、引き下げるのは難しい」ことを示していると、カンザス大学の貿易戦争ラボを指揮するジャック・ジャン教授(政治学)は述べた。
「保護主義の教訓は、既得権益集団が根付いてしまうこと」で、各国が報復するとその複雑さが増すという。貿易戦争の当事国双方で保護された産業は「関税を維持するために必死に戦うだろう」。
米国の一部の貿易戦争は数十年続いている。いわゆる「チキン税」を例に取ろう。1960年代初頭、欧州諸国が米国産の鶏肉に関税をかけたため、リンドン・ジョンソン大統領は独フォルクスワーゲンなどが製造するピックアップトラックなどに報復関税をかけた。この措置は以来、米国内の自動車製造を支えてきたが、一方で自動車購入者の選択肢を制限し、価格を押し上げたとアナリストらは言う。
波及効果は米国の国境を越えて広がる可能性がある。針葉樹材を巡り40年以上続く紛争では、米国の関税がカナダ産品の価格を非常に高く押し上げることがあったため、米国企業がチリやオーストリアなど遠方からの輸入に転じた。オーバーン大学森林・野生生物・環境学部のダオウェイ・チャン副学部長(研究担当)はそう述べた。
「木材価格が上がるだけではなく、価格変動も劇的に増加した」。その影響は米国の建設会社、リフォーム会社、住宅所有者にまで及んだという。「人々は計画を立てられなくなる」とジャン氏は述べた。
欧州諸国は米国製ジェット戦闘機やミサイルの購入を拡大しており、米国の防衛企業は世界の武器取引における支配力を強めている。
シンクタンクのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が公表した最新データによると、過去5年間の世界の武器総輸出に占める米国の割合は43%と、それ以前の5年間の35%から上昇した。
SIPRIのデータからは、ロシアによるウクライナ侵攻や、ドナルド・トランプ米大統領が欧州に防衛費支出の引き上げを求めていることなどから、米国の兵器産業が欧州諸国の防衛予算拡大による大きな恩恵を受けていることが示されている。
一例として、英国やドイツ、イタリアを含む欧州13カ国は、米国のF35戦闘機を購入あるいは発注している。欧州諸国はまた、パトリオット防空システムや高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)といった米国製装備の購入を進めている。
ただ、トランプ政権がウクライナへの軍事装備や予備部品、情報の提供を一時停止したことで、一部の欧州諸国はいずれ自分たちもそうした状況に陥るとの懸念を抱き始めている。アナリストらや一部の議員は、こうした懸念の広まりは欧州の米国製兵器に対する需要に影響を及ぼす可能性があると指摘している。
ドイツのセバスティアン・シェーファー議員は、「こうした議論は確実に始まっている」と述べた。
SIPRIによると、北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国による武器総輸入は2024年までの5年間で、19年までの5年間に比べて2倍余りに増加した。また、輸入先に占める米国の割合は2分の1強から約3分の2に拡大している。
その一方で、中国は自国での武器生産を拡大しているため、米国からの輸入が64%減少。中国は、伝統的な供給国であったロシアがウクライナとの戦争のため国内で武器を備蓄しているため、同国からの輸入も縮小している。
SIPRIは、1年単位の数字は大規模な納入などによってゆがめられる可能性があるとして、複数年単位の数字に基づいて統計を公表している。
日本ではここ数カ月、2つの異なる出来事が全く違うペースで展開されてきた。
まずは、所得税が生じる「年収の壁」だ。この種の政策論議はどの国でも退屈なものになりがちだが、日本では特にそうだ。少数与党を率いる石破茂首相は、非課税枠の引き上げを看板政策とする国民民主党の支持を必要とし、行ったり来たりの議論に耐えてきた。
衆議院で来年度予算が可決され、石破政権はようやくこの苦境から抜け出せることになった。与野党間の歩み寄りを難しくしていたのは、税収減が7兆ー8兆円に上るのではないかという懸念だった。
そうした中でも訪日観光客は増え続けた。1月には過去最高の370万人を記録。日本国民には世界的に見ても高い税負担が課せられているが、外国人観光客にとっては日本は非常に安い国だ。このギャップは何だろう。海外からやって来る観光客のあまりの多さに住民の不満も高まっている。
私は以前から、インバウンド需要をより有効に活用すべきだと主張してきた。訪日客にもっと多くの税金をどれだけ支払ってもらうようにすれば、こうした財源不足を補うことができるのかという考えも生じる。
無理な話なのは分かっている。政府は2020年代末までに訪日客を年6000万人に増やすという野心的な目標を掲げているが、それでも1人当たり12万円を超える課税を行わなければならないことになる。
しかし、それでもなお、私の思考実験では、もっと多くの驚くほどの税収を捻出することができた。
入国時に課税
まず、日本は訪日客に直接課税する必要がある。19年に始まった「国際観光旅客税」は、日本居住者を含め誰であれ出国時に1000円の税金を支払わなければならないというものだ。報道によると、これが最大5倍に引き上げられる可能性もあるという。
日本政府はさらに踏み込むこともできるはずだ。特に訪日客が到着時に支払う明示的な税金を検討すべきだ。
ニュージーランド(NZ)は19年に「国際観光客保全・観光税」を導入した。税額は最近、100NZドル(約8400円)に引き上げられた。当初35NZドルだった。この税金の使途は年次報告書で国民に伝えられる。
航空会社の燃油サーチャージと同様、訪日客はこうした避けられない課金に甘んじて応じるだろう。ネットフリックスやディズニープラスの定額サービスのようなものだ。かつてはお得感があった。だが、ユーザーが夢中になるにつれ、価格を徐々に引き上げる時が来たのだ。
私は国際観光旅客税を段階的に30年までに9000円に引き上げることを提案する。そうなれば、5400億円の追加税収が見込める。
宿泊税
訪日客の宿泊支出は19年からほぼ倍増しているが、需要には影響していない。これは、まだ需給バランスに余裕があるか、値上げが比較的容易な外資のホテルチェーンなどが訪日客を取り込んでいることを示唆している。
日本各地での宿泊税導入は当然の成り行きだ。東京では02年に初めてこうした制度が採用されたが、それでも1泊当たり最大200円だ。最近のデータによると、東京では客室の半分以上が訪日客によって占められており、増税の潮時だ。
スキーリゾートの聖地ニセコでさえ、宿泊税率はわずか2%だ。一方、北海道全域では1泊当たり500円を上限とする税を26年4月にスタートさせる予定だ。
それでも外国と比べれば、たいしたことはない。ハワイでは18%近い税率が課せられている。バルセロナの宿泊税は倍の15ユーロ(約2400円)に引き上げられた。ローマやパリでは10ユーロ以上の税が課せられている。
住所を証明できる国内居住者は宿泊税を免税されるべきだ。24年のデータを基にし、年6000万人の訪日客で30年のホテル支出が4兆8000億円に上ると推計すると、平均税率10%で4800億円の税収となる。
免税制度見直し
訪日客は現在、同一店舗における1日の購入額が5000円以上で、外国のパスポート(旅券)を提示すれば10%の消費税が免除されている。
その分の消費税を政府に納めなくて済む小売業は歓迎しているが、住民側の評判は良くない。導入されてから35年以上たつ消費税は今でも非常に不人気で、野党は常に消費税の税率引き下げを訴えている。
国内で使えないはずの免税品の転売による不正行為のニュースが報じられていることもあり、居住者はなぜ訪日客が消費税を免除されるのか疑問に思っている。26年には仕組みが変わり、訪日客の消費税払い戻しは、出国時に空港で受けることになる。
ただ、こうした免税措置を完全に廃止するのはリスクが高いようにも思われる。英国は21年に付加価値税(VAT)還付を取りやめたが、今後復活させる可能性もある。
しかし、日本は少なくとも5000円以上の買い物という基準は見直すべきだ。オーストラリアの外国人観光客向けの還付スキームは、300豪ドル(約2万8000円)のショッピングが条件となっている。
消費税免税対象の支出が1兆2000億円との試算もあり、税率10%を適用すると、1200億円の税収が見込める。
不動産購入
理論上は、これで計1兆1400億円の税収が増えるが、それでもまだ穴埋めするには十分ではない。もっと創造性が必要だ。例えば世界遺産への入場料を訪日客に対し高めに設定するなどの施策だ。  
京都のような都市は、民間セクターによる混雑緩和策を検討すべきだ。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では有料の「エクスプレス」パスや需要に応じて料金が変動するダイナミックプライシングなどの金銭的インセンティブを活用して混雑緩和を図っている。
トランプ米大統領は500万ドルを支払う投資家に対し、米国での居住権を付与し、市民権取得への道を開くプログラム「ゴールドカード」を提供する構想を示している。日本でそうした査証(ビザ)に500万ドルを課すことはできないかもしれないが、長期滞在の外国人が負担するコストは安過ぎる。
多くの外国人、特に富裕層の中国人にとって、日本は非常に魅力的な場所になりつつある。これは潜在的な収益源だ。日本での永住許可申請にかかる費用は8000円。豪州や米国ではこの20倍ほどの支払いが必要だ。そして、日本は外国人の帰化申請に手数料を課していない。
関連して、今後さらに大きな議論となる公算が大きいのは、日本がアジアで不動産購入に関する規制が最も緩い国の一つであるという事実だ。シンガポールのように外国人に課税し買いにくくすることもなく、外国人の土地購入に居住要件さえ設けていない。
これが、人気の高い東京都心の地価の一部が法外なほど高額になっている一因であり、賃金の伸び悩みと相まって国民が割を食っているという不満につながっている。
今後は観光のみならず、日本のあらゆる面で外国人が増えることが現実になるだろう。そのため、政策当局は日本が外国人にとって何もかも高い国と考えられ、外国人観光客を呼び込むのに幾つものインセンティブが必要だった時代に抱いてた古い考え方を捨て去る必要がある。
最善を尽くしても、観光収入だけでは日本の歳入不足全てを解消することはできない。しかし、これほど多くのものを提供している国であれば、もう少し高い料金を請求しても妥当だろう。
●中東情勢
イスラエルとトランプ米政権の関係が、めずらしく気まずくなっている。米国人人質の解放という問題も含め、米政府がイスラム組織ハマスと直接交渉したことが原因だ。
米国務省の人質問題担当大統領特使に任命されたアダム・ベーラー氏は先週、ハマスの高官とカタールで会談。この詳細が明らかになるにつれイスラエル政府高官らは、ハマスはテロ組織であってその約束は信用できず、額面通りい受け止めるべきではないとして、不快感をにじませている。
ベーラー氏は9日のテレビインタビューで、イスラエルから「懸念が表明された」ことを認めたが、ハマスの要求と提案に耳を貸すことは有益だとも述べた。「われわれはイスラエルの代理ではない。米国としての利害がある」とCNNで指摘した。
ハマスは米国をはじめ複数の西側諸国・地域からテロ組織に指定されている。ベーラー氏によるハマス接触が引き起こした摩擦は、イスラエルと米国の間で最初に生じた見解の相違だ。トランプ米大統領はイスラエルへの支持を明白にしているものの、同氏の予測不能な行動に当局者らは頭を抱えている。ウクライナの戦争を巡り、トランプ氏がロシアと直接の停戦交渉を開始したのはその一例だ。
イスラエルのディクター農業・地方開発相は10日、イスラエル・ラジオでベーラー氏について公に批判した。
「意図するところは非常に良いが、その実行は非常に悪い。大いに問題がある」とディクター氏。「イスラエル側の認識外で連携せずに行動を起こすことは、非常に危険だ」と述べた。
イスラエル交渉団は10日、カタールに赴き、エジプトとカタール、米国の仲介でハマスとの間接交渉を再開する。米国からはウィットコフ中東担当特使が参加する予定。
●エマージング
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場**  
ドルは対円で0.47%安の146.33円となり、昨年10月以来の安値を記録。米政権の関税政策への不透明感から米景気減速懸念が強まり、米株急落も影響。一方で、一部主要通貨(ユーロ、スイスフラン、ポンド)に対しては利益確定の動きで上昇。  
**債券市場**  
米国債利回りは低下。特に2年債利回りは7.8bp下落し、4.539%。米株急落による安全資産需要の高まりが要因。10年債利回りは10.5bp低下の4.213%。  
**株式市場**  
米株は急落。ダウは890ドル安、ナスダックは約4%安、S&P500は2.7%安。関税問題や米政府機関閉鎖懸念が背景。テスラはCEOの発言や抗議活動の影響で15.4%急落。  
**金先物**  
米インフレ指標発表前の警戒感から利益確定の売りが優勢となり、0.50%安の1オンス=2899.40ドル。  
**原油市場**  
米高関税政策による景気減速懸念で売りが強まり、WTI原油は1.51%安の66.03ドル(4月物)。
ロンドン株式市場は続落。米政権の関税政策に対する不透明感や経済成長への懸念が投資家心理を圧迫した。FTSE250種指数は1.26%下落し、航空宇宙・防衛株は4.49%の大幅安。海運サービスのクラークソンは業績見通しの不安から21.7%急落。英国の労働市場も冷え込み、初任給上昇率が過去4年で最低に。  
欧州株式市場も下落。米景気への懸念からハイテク株が売られ、欧州600種テクノロジー株指数は3.12%安。ドイツの投資計画に不透明感が生じ、銀行株や工業株も下落。デンマークのノボノルディスクは肥満症治療薬の治験データが期待を下回り8.1%安。  
ユーロ圏債券市場では国債利回りが小幅低下。ドイツ10年債利回りは4bp低下の2.8%。トランプ大統領の関税政策発言を受け米10年債利回りが低下し、独米債利回り格差は縮小。イタリア10年債利回りは1bp低下の3.89%。

備忘録(2025/3/7-9
●海外企業決算
●海外企業
●日本企業
セブン&アイ・ホールディングスに買収提案しているカナダの小売大手アリマンタシォン・クシュタール(ATD.TO), opens new tabは、米規制当局の承認を得るための明確な道筋があると考えており、セブン&アイに確実性を与える提案を行ったと明らかにした。広報担当者が述べた。
セブンのスティーブン・ヘイズ・デイカス次期社長は6日の投資家・アナリスト説明会で「基本的なハードルは米規制絡みのところ。クシュタールとは先の道筋を見つけようと話し合いを続けている」と述べていた。
米コンビニ業界でシェア1位と2位が統合することで、複数店舗の売却などが必要となる可能性がある。
クシュタールの広報担当者は「規制当局の承認を得るための明確な道筋があると信じており、私たちのコミットメントについてセブン&アイにしっかりとした提案を行った」と話した。
「買収合意に達した場合に米国での承認を確保するための予備計画の一環として、米国店舗の売却対象候補を特定した」とし「さらなる確約を与えられるよう、売却先候補の特定に向けた第三者との予備的協議を行っている」と述べた。
デイカス氏によると、規制をクリアするために売却が必要な店舗は2000店舗規模になる。こうした店舗を独立して運営し、競争力を維持していける売却先を見付けなければならないという。米スーパーマーケット1位のクローガーと2位のアルバートソンが合併に合意しながらも、2年後に米国連邦取引委員会(FTC)の反対で頓挫したことを例に挙げ「2年間でアルバートソンは競争力を失った。打撃を受け、株主にとってもマイナスの影響となった」と話し、こうしたリスクを下げるべく話し合いを続けていると説明した。
セブン&アイの井阪隆一社長も6日の会見で「米独禁法関連の課題を解決するための具体策が出せていない」と述べ、買収提案当初から同社が示してきた懸念がいまだにクリアできていないことを指摘していた。
●先進国政治動向
米政府は、ロシアがウクライナ紛争の終結に合意した場合に迅速な措置を講じられるよう、ロシアのエネルギー部門に対する制裁を緩和する方法を検討している。関係筋2人が明らかにした。ホワイトハウスは財務省に対し、エネルギー制裁緩和の選択肢を検討するよう要請したという。
ロイターは3日、米国がロシアのオリガルヒ(新興財閥)を含む特定の団体や個人に対する制裁解除の提案を策定していると報じていた。ただ、ロシアの巨大な石油・ガス産業が含まれるかどうかは不明だった。
ロシアは世界有数の産油国。米国はロシアの石油産業を制裁の対象とし、その輸出価格を1バレル=60ドルに制限する多国間努力を主導することで、ロシアの戦争資金を枯渇させようとしてきた。
紛争終結に向け、トランプ大統領とロシアのプーチン大統領の会談が計画されている。
情報筋は、この取り組みにより、和平合意が成立した場合に米国は速やかに制裁を緩和できるようになると説明した。ただ、ロシアの譲歩なしに緩和するわけではないとも明言した。
財務省は、産油国としてのロシアが完全復活することで世界の原油価格がどのような影響を受けるか、欧州市場がロシアから米国の供給へとシフトしている取引の構図にどのような変化があるかについても分析している。
国家安全保障会議(NSC)と財務省はコメントの要請に応じなかった。
米国のルビオ国務長官と、政府効率化省(DOGE)を率いる実業家イーロン・マスク氏が6日の閣議中、トランプ大統領の目の前で衝突したとニューヨーク・タイムズ紙が報じた。ルビオ氏が実施した人員削減の規模を巡り対立したという。
ロイターは、トランプ氏が6日の閣議で、連邦政府の人員配置や政策の最終的な決定権は所管する閣僚が持ち、マスク氏が率いるDOGEは助言的な役割だけを果たすと訴えたことを報じた。今回の対立は、この際の閣議中だった。
NYタイムズによるとマスク氏は、ルビオ国務長官が「誰も」解雇せず、マスク氏の大規模な人員削減の推進に抵抗していると非難した。
これに対しルビオ氏は、国務省職員1500人が早期退職優遇制度を利用していると反論。マスク氏が彼ら全員を再雇用した上で改めて解雇しようと考えているのかと、皮肉を込めて問いただしたもようだ。
トランプ大統領は7日、記者会見で報道内容を否定。質問した記者に対し「衝突などない。私は実際その場にいた。あなたはただのトラブルメーカーだ」と非難し、「マスク氏とルビオ国務長官はとても仲が良く、2人とも素晴らしい仕事をしている」と述べた。
トランプ米大統領は7日、カナダが乳製品と木材に課す関税が極めて高いと非難し、早ければ同日中にカナダ製品に対し相互関税を課す可能性があると表明した。
トランプ大統領は記者団に対し、カナダの木材や乳製品に対する関税によって「われわれは何年もだまし取られてきた」と述べた。その上で「カナダは関税を撤廃しなければ、同じ関税を課されることになる」とし、「われわれは今日にでも関税を課す可能性がある。10、11日まで待つかもしれない」と述べた。
●先進国中銀、金融当局
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は7日、現在進行中の包括的な政策枠組み再検討の一環として、連邦公開市場委員会(FOMC)参加者らの政策金利見通しを図で示す「ドットチャート」を見直す可能性があることを示唆した。ニューヨークで開催された会議で発言した。
「コミュニケーション、特にFOMC後のコミュニケーションのあり方について、SEPを注意深く検証するとともに、世界の中央銀行が行っていることと比較するつもりだ」と述べた。
SEPとはFRBが年4回公表する政策・経済見通しのことで、FOMC参加者がそれぞれ、今後数年間の経済成長率、失業率、インフレ率、政策金利について、各自の見通しを示す。FOMC後に公表され、市場にとっては金融政策の先行きを予想する重要な材料となっている。
2018年にパウエル議長が就任するかなり前から現在の形で公表されており、これまでにもさまざまな改善案が提起されてきた。
この日の会議では、FRBのコーン元副議長が、金利予想の中央値では不確実性やさまざまな代替シナリオを捉えることができないと指摘。金利見通しの前提となる経済状況を明示することなどを提案した。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は7日、トランプ新政権の政策が経済にどのような影響を与えるかがより明確になるまで、FRBは利下げを急ぐつもりはないとの見解を示した。
ニューヨークで開かれたシカゴ大学ブース経営大学院の経済フォーラムでの演説で「新政権は貿易、移民、財政政策、規制という4つの異なる分野で重要な政策変更を実施している。変更とその影響をめぐる不確実性は依然として高い」と指摘。その上で、「FRBは見通しが変化するにつれて、シグナルとノイズを区別することに焦点を当てている。急ぐ必要はない。より明確な見通しが出てくるまで待つ態勢が整っている」と述べた。
経済は「引き続き好調」だと述べたが、経済指標は消費者支出の減速の可能性や企業の経済見通しに関する不確実性の高まりも示唆している。「こうした動きが将来の支出や投資にどのような影響を与えるかはまだ分からない」とした。
それでも、主要指標は堅調に推移し、インフレ鎮静化は不均一ながらも進展しており、雇用も引き続き増加していると述べた。
この日発表された2月雇用統計を受け、パウエル議長は、9月以降、米経済は毎月「堅調に」19万1000人の雇用者を増やしていると指摘した。
FRBが金融政策に関し慎重になるコストは現時点で「非常に低い」としつつも、インフレ期待が圧力にさらされれば、そうしたコストは上昇する恐れがあると述べた。
関税に絡み予想される一時的な物価上昇に対しては、金融政策による対応はしないというのが標準的な考えだが、今回は状況が異なる可能性があると指摘。「一連の事態に発展し、大幅な物価上昇につながれば問題となり、長期インフレ期待にどう影響するかが実際に問題となってくる」と述べた。その上で、「非常に高いインフレからは抜け出したが、持続可能な形での物価2%目標には完全には戻っていないという状況を思い出す必要がある。このため、これら全てを考慮に入れる必要がある」とした。
パウエル氏は、FRBが2019年、第1次トランプ政権による関税とそれに伴う景気減速に対応するために利下げを3回実施したことにも言及。当時の関税はインフレを引き起こすどころか、世界経済の成長を鈍化させ、実際にFRBによる金利引き下げにつながったと指摘し、関税だけでなく、経済政策の幅広い変化による成長への影響やその他の動向も重要になってくるという認識を示した。
また、米政権当局者が国内総生産(GDP)などの主要指標を変更する可能性を示唆したことについて、FRBは懸念しているかという質問に対し、パウエル議長は、政府機関が発表する米経済データはFRBの責務達成にとり極めて重要で、世界の「ゴールドスタンダード(絶対的基準)」と応じた。
ベッセント米財務長官は6日、関税は一時的な価格上昇を引き起こすかもしれないが、永続的なインフレにはならないと主張。「一度限りの価格調整という点では、関税ほど一時的なものはない。インフレについては心配していない」としていた。
パウエル氏とベッセント氏の見解の相違は、トランプ大統領が最終的に大規模な関税を実行に移した場合、FRBと政権の間に対立が生じる可能性があることを示している。
エバーコアISIの副会長クリシュナ・グハ氏はパウエル議長の発言について「不安を抱く市場に成長に関する安心感を与えると同時に、政策の根底にあるややハト派的なトーンを伝えている」と評価。「パウエル議長が19年の例を自ら挙げたことにも意味があると思う。この時FRBは、貿易戦争による成長への影響を理由に3度も利下げした」と述べた。
日本銀行は今月に開催する金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決める公算が大きい。1月に利上げしたばかりであるほか、世界経済の不確実性が増しているとの考えが背景にある。複数の関係者への取材で分かった。
関係者によると、日銀は日本の経済・物価は引き続き見通しに沿った動きと判断しているが、現状は前回の1月会合での追加利上げの影響を点検する段階にある。米トランプ政権による関税措置などの政策が国内外の経済や物価、金融市場に与えるリスクは1月会合時点よりも高まっているという。
一方で消費者物価は日銀目標の2%を上回って推移し、2025年春闘の賃上げ要求が32年ぶりの6%超えとなるなど賃金・物価は想定通りの改善を示しており、引き続き段階的な利上げで金融緩和度合いを調整していく局面にある。日銀は最終判断は下しておらず、18、19日の会合直前までに入手可能なデータを検討する予定だと関係者は述べた。
物価見通しは上振れリスクが大きいものの、少なくとも現時点で日銀が追加利上げのタイミングを早める状況にはないようだ。さらなる利上げは近いとの市場の見方とは対照的と言える。金利スワップ取引から算出される5月までの利上げ確率は約20%となっており、1月の政策決定直後から倍増している。
日銀は1月会合で政策金利の無担保コール翌日物金利の誘導目標を17年ぶりの0.5%程度に引き上げた。その後の良好な経済指標や政策委員からの利上げに前向きな発言などを受けて市場には早期利上げ観測がくすぶるが、内田真一副総裁は5日の講演と記者会見で、利上げは経済・物価の反応を確認しながら進めていけるとし、「毎回利上げしていくようなペースではない」とも語った。
日本最大の労働組合の全国組織である連合は6日、25年春闘の賃上げ要求が6%を超えたと発表した。これが市場の利上げ期待を高め、円相場は同日に一時1ドル=147円32銭と5カ月ぶりの高値を付けた。長期金利は7日に一時09年6月以来の水準となる1.53%まで上昇した。
日銀では、強い要求を背景に今年の賃上げは昨年と同水準になる可能性が高いとみていると、関係者は述べた。これは日銀の予想の範囲内だという。
関係者によると、一部の当局者は物価の上振れリスクの高まりに引き続き警戒感を示しており、4月30日と5月1日の会合での利上げが正当化される可能性がある。
1月会合直後にブルームバーグが実施した調査では、5割超は次の利上げ時期を7月会合と見込み、3月会合を予想したエコノミストはいなかった。
●先進国経済指標
米労働省が7日発表した2月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は15万1000人増加した。伸びは前月から加速したものの、エコノミスト予想の16万人増を下回った。貿易政策を巡る不透明感の高まりや連邦政府の大幅な支出削減により、堅調に推移してきた労働市場に陰りが出始めているもよう。
失業率は4.1%と、1月の4.0%から上昇した。
1月の非農業部門雇用者数は12万5000人増に下方改定された。当初発表は14万3000人増だった。
年初来の雇用者数の伸びは平均で月間13万8000人。昨年第4・四半期の月間の平均は20万9000人だった。
今回の雇用統計は第2次トランプ政権下で初めてとなる。
BMOキャピタル・マーケッツの米国担当チーフエコノミスト、スコット・アンダーソン氏は、これは第1・四半期の労働市場と経済成長の急速な冷え込みを示唆するものの、実際に景気後退(リセッション)が差し迫っている兆候は見られないと述べた。
業種別では、病院や介護施設など医療関連の雇用が5万2000人増、金融が2万1000人増、運輸・倉庫が1万8000人増、社会扶助が1万1000人増。
政府部門は1万1000人増と、過去6カ月平均の3万5000人増を下回った。
郵便局を除く連邦政府では6700人減となった。しかし、実業家イーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」が政府縮小と支出削減の取り組みの一環として、これまで数千人の職員を解雇していることから、これは氷山の一角にすぎないとみられる。
小売は6000人減少した。
建設や製造、レジャー・接客などはほぼ変わらず。
FWDBONDSのチーフエコノミスト、クリストファー・ラプキー氏は「新大統領の下、米経済は緩慢なペースでの滑り出しとなっている」と指摘。「連邦政府職員や政府請け負い業者の大量解雇が、民間部門の雇用の喪失を意味しないと考えることはできない。関税は物価上昇につながり、雇用を含む経済成長へのブレーキとなる」と述べた。
時間当たり平均賃金は前月比0.3%上昇した。1月は0.4%上昇していた。
週平均労働時間は34.1時間と、5年ぶりの低水準で推移しており、一部のエコノミストは冬の異例の寒波が雇用増の妨げになった可能性が高いと述べた。
家計調査によると、経済的な理由でパートタイムで働く人は46万人増の490万人。増加数は2023年6月以来の高さ。
働く意思があるものの就職活動をあきらめた人や、フルタイムの仕事が見つからずパートタイムで働いている人などを含む、より広範な失業率は8.0%に大きく上昇し、21年10月以来の高水準となった。
約38万5000人が労働市場から離脱した。労働力参加率は62.4%と、前月の62.6%から低下し、2年ぶりの低水準となった。
経済の雇用創出能力の尺度とされる就業率は59.9%と、1月の60.1%から低下した。
複数の仕事に就いている人は886万0000人と、前月の876万4000人から大きく増加した。全就業者に占める割合は5.4%と、09年4月以来の高水準を記録した。
金融市場では引き続き、米連邦準備理事会(FRB)が1月に停止した利下げを6月に再開するという見方を織り込んでいる。
●金融市場、先進国トピックス
米国は中国に関連するあらゆる船舶から入港料を徴収する方針で、同盟国にも同様の措置を取るよう求め、応じない場合は報復措置を取ることを計画している。ロイターが6日に確認した2月27日付の大統領令草案で分かった。
トランプ政権は国内の造船業を復活させ、世界の海運業界における中国の影響力を低下させる大統領令を起草している。
草案は米国の港に入港する船舶に対し、「建造地や船籍に関係なく、中国で建造された船舶や中国籍の船舶を含む船隊の一部である場合」に手数料を課すことを提案している。
また、同盟国やパートナーに同様の措置の実施を求めるよう米当局者に指示しており、応じなければ報復措置を講じる可能性に言及している。
草案によると、米国は中国製の貨物取扱設備にも関税を課すことを計画している。
「中国の海運、物流、造船部門における不公正な貿易慣行により、米国の国家安全保障と経済的繁栄が一段と危険にさらされている」と主張している。
米政権と中国政府の当局者からのコメントは現時点で得られていない。
この案は、世界の造船・海運分野での中国の影響力を巡る調査を行った米通商代表部(USTR)が先月示した是正措置案に基づいている。USTRは、米国の港に入港する中国製船舶に最大150万ドルを課すことなどを提案した。
ただ、大統領令の草案には手数料の金額や計算方法などは含まれていない。
この計画が実施された場合、中国遠洋海運(コスコ)、スイスのMSC、デンマークのマースク、ドイツのハパックロイド、台湾の長栄海運(エバーグリーン・マリン)などのコンテナ船大手や、食料、燃料、自動車などを輸送する船舶の運航会社は多大なコスト負担を強いられる可能性がある。
いわゆる「トランプ・プット」は希望的観測に過ぎないことを示す兆候が、これまでで最も明白に表れている。しかも、そのメッセージの発信者はトランプ大統領自身だ。
トランプ氏は6日、米株式相場の急落に関する質問に対し、「私は株式市場に目を向けてすらいない」と答えた。
トランプ氏は、メキシコとカナダに対する関税方針の二転三転がウォール街に広がる不安と関係しているなどといった見方を否定。いつものようにすぐに他の誰かに非難の矛先を向けた(今回は「グローバリスト」の仕業だと主張した。なお、この用語は反ユダヤ主義的な中傷の言葉として使われている)
それでも今週の株価急落は、トランプ氏が勝利した昨年11月の大統領選以降で最も深刻なものであり、ウォール街では2つの相反する懸念が浮上している。
一つは、1期目に株価を成功のリアルタイムのバロメーターとしていたトランプ氏が、少なくとも現時点では米国例外主義の新時代という自身のビジョンを実現するために、株式の強気相場と経済を犠牲にすることをいとわないという懸念だ。
もう一つは、関税に関する48時間での方針転換が景気後退を食い止めるためのもので、貿易や市場に関する強硬な発言もそれだけのものに過ぎないとしても、「大統領はやるのかやらないのか」と投資家が常に疑心暗鬼になり、最悪の事態に備える以外に選択肢がなくなることだ。
「政策レベルと株式市場への影響の両面において、2期目がどのようなものになるかに関するコンセンサスは誤りだった」と、アイオン・マクロ・マネジメントの創業者で最高経営責任者(CEO)のマイケル・ショール氏は述べた。
トランプ大統領の政策転換について「安心できるには限界がある。われわれはチャーリー・ブラウンとルーシーの領域にいるようなものだ。フットボールが置かれたと思ったら蹴る前に奪われてしまう」と述べ、「うんざりする」と付け加えた。
こうした展開は、トランプ大統領が株価を支えるために何でもするだろうという当初の期待を裏切るものだ。11月のトランプ氏勝利以来、投資家は第2次トランプ政権が成長促進策によって経済を後押しするという楽観的な見通しに基づき、テクノロジー大手などの銘柄に資金を投じてきた。
そうした見方は今や揺らいでいる。大統領の断続的な貿易戦争やイーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」主導の政府支出削減は、景気失速やなお高水準にあるインフレへの懸念と相まって、投資家の心理を揺るがしている。
米株式相場は2月19日のピークから6%余り下落しており、激しい動きが続いている。7日発表の米雇用統計も投資家の不安を和らげるにはほとんど効果はなく、S&P500種株価指数は一時1.3%安となった。その後は持ち直しプラスで取引を終えた。
S&P500種が取引時間中に少なくとも1%変動する日は7日連続で続いている。
過去3カ月間に市場をけん引してきたエヌビディアやテスラなどのテクノロジー株が大きな打撃を受けている。これにアップルとマイクロソフト、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コムを加えたいわゆる「マグニフィセント・セブン」7銘柄から成るブルームバーグの指数はこの期間に12%下落し、12月の最高値からは16%下げている。
「プットはない」
ベッセント米財務長官は7日、経済専門局CNBCとのインタビューで、バイデン前政権下での景気拡大は政府支出で人為的に支えられていたと主張。「市場も経済も中毒になっていた。われわれは政府支出に病みつきになっていた」とし、「この先はデトックスの期間になる」と話した。
株式相場を下支えするためにトランプ大統領が政策を転換することはあるのかと問われると、株式アナリストらがいう「トランプ・プット」といったものは存在しないと言明。 「上方向の『トランプ・コール』はあるだろう。良い政策を実施すれば、市場は上昇するものだ」と付け加えた。
ゥルイスト・ファイナンシャルの共同最高投資責任者兼チーフ・マーケット・ストラテジスト、キース・ラーナー氏は、株価が10-15%以上下落し続けるような場合、トランプ・プットは存在しないとは言い切れなくなると考えている。しかし、その同氏もトランプ大統領の優先事項や野望が相場の浮き沈みに対する考慮を超えて拡大しているとみている。
「トランプ・プットはありそうだが、それはおそらく、これまでの認識よりもやや低い水準だろう」と指摘。1期目には高値更新に関心が集中していたが、「今回はより総合的な見方をしていると言える。株式市場だけでなくメインストリートにも関心を向けている」と述べた。
予測不能
トランプ氏が株安に歯止めをかけるため介入する意向だとしても、それがどの程度効果的かは不明だと、トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズのマイケル・パーブスCEOは指摘する。その理由はトランプ氏がどれほど予測不能な人物であるかによる。
「トランプ・プットが発動された場合に実際にそれが機能すると想定することには大きなリスクがある」と指摘。「トランプ氏が突如として貿易面でハト派に転じたり、確実な合意を成立させるために外国にすぐに譲歩したりする姿を想像するのは難しい」と述べた。
いずれにせよ、関税に関する堂々巡りが、ほんの数カ月前にはほとんどの人が予想していなかったほど投資家をうろたえさせていることは明らかだ。
以前は金曜日に「市場がどこで引けるか、かなり正確に予想できていた」とショール氏は話す。最近の目まぐるしい取引を経て、もはや確信が持てなくなっているという。
ドナルド・トランプ米大統領は、米国の新たな「黄金時代」を約束して昨年秋の大統領選に勝利した。米国民は自信を取り戻し、株価は大きく上昇した。
今週、その約束された黄金時代の負の側面が明らかになった。4日にトランプ氏は議会で「米国の勢いが戻ってきた」と誇らしげに語ったが、その同じ日にメキシコとカナダからの輸入品に対する大幅な追加関税を発効させ、1930年代以降で最も激しい貿易戦争になるかもしれない状況を引き起こした。
株式市場は大統領選後の高揚感をほとんどなくし、消費者信頼感はしぼみ、エコノミストたちは低成長ないし成長停滞とインフレ率の上昇が続くスタグフレーションについて語っている。
そうした影響を意識して、トランプ大統領のアドバイザーたちは、関税の発動延期あるいは修正の方策を強く求めている。5日には自動車について関税を30日間免除することが発表され、6日にはハワード・ラトニック商務長官が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠した物品を対象とする適用除外措置の可能性に言及した。その後間もなくトランプ氏は、一部のメキシコ製品に対する関税の適用を4月2日まで延期すると述べた。
だが、何かが根本的に変わると考えてはいけない。トランプ氏の任期は始まったばかりで、自身が率いる共和党と議会を完全に支配しており、信頼回復のために減税に期待している。金利の低下と原油相場の下落は関税による痛みを和らげる可能性がある。こうしたことはすべて、貿易に関して自身に最も深く根付いている直感に身を任せて行動する自由をトランプ氏に与えている。
自身が2018年に交渉した北米自由貿易協定(NAFTA)を事実上否定する判断は、トランプ氏が長年抱き続けている考えから来ている。それは、同盟国および貿易相手国が米国の富と安全を補強するのではなく、それを損なっているたかり屋だという考えだ。対ウクライナ支援を一時停止し、西欧の安全保障への支援を低減することを示唆する彼の判断も、同様の考え方で説明できる。
トランプ氏は関税が米国を豊かにすると主張する。しかし、それが当てはまるのは、相対的な意味でだけだ。
関税が維持されれば、カナダとメキシコはいずれも深刻なリセッション(景気後退)に陥り、その後何年にもわたって米国の巨大市場へのアクセス喪失に伴うつらい調整を強いられるだろう。
米国が受ける影響は、国の規模、豊かさや起業家精神のダイナミズムのおかげでずっと小さくなるだろうが、それでも、マイナスになるだろう。米国は、北米大陸全体の市場が提供してきた効率性とスケールメリットや、隣国との関係を穏やかで予想可能なものに維持してきた信頼関係を失うことになる。
トランプ氏、真の目的は
外部の人々は、トランプ氏の真の目的を見定めるのに苦労している。彼とそのアドバイザーが彼の行動について、複数の矛盾する動機を挙げているからだ。
彼のアドバイザーは彼をディールメーカーと表現し、関税は彼にとって目的を達成するための手段だと述べる。しかし、トランプ氏は自らの行動を通じ、関税が目的であることを示している。
カナダとメキシコへの関税を正当化する理由として挙げられているのは、合成麻薬フェンタニルと不法移民の流入を減らしたいというものだ。資料によると、米南部国境での不法な越境行為はほぼなくなり、メキシコは麻薬カルテルのボス29人の身柄を米国に引き渡した。米国のデータによると、カナダから北部国境を越えて流入し、押収されたフェンタニルの量はすでに少ない状態にあったが、1月に急減した。
それにもかかわらずトランプ氏は、関税措置を実行に移した。そして彼は3日の発言の中で、その動機を明確にした。トランプ氏は「この国をうまく利用して利益を得てきた者たちにとって、その行為のコストはこれから非常に高くなる」と説明。「彼らは、ここに来てわれわれのお金を盗み、われわれの仕事を盗み、われわれの工場を奪い、われわれの企業を奪っておきながら、罰を免れられると期待すべきではない」と語った。
トランプ氏は、薬物、不法移民、さらには貿易赤字をなくそうとしているだけではない。彼は、メキシコとカナダの産業基盤を奪い取ろうとしているのだ。トランプ氏は「彼らがやるべきことは、端的に言うと、米国に自動車工場や他の施設を建てることだ。そうすれば関税を払う必要がなくなる」と述べている。
カナダに関するトランプ氏の目標はもっと野心的で不吉なものだ。彼は、米国の一部になればカナダは関税を回避できると語っている。間もなくカナダ首相の座を去るジャスティン・トルドー氏は4日、「トランプ氏は、カナダ経済が完全崩壊することを望んでいる。そうなればカナダの併合が容易になるからだ」と語った。
トランプ氏、真の目的は
外部の人々は、トランプ氏の真の目的を見定めるのに苦労している。彼とそのアドバイザーが彼の行動について、複数の矛盾する動機を挙げているからだ。
彼のアドバイザーは彼をディールメーカーと表現し、関税は彼にとって目的を達成するための手段だと述べる。しかし、トランプ氏は自らの行動を通じ、関税が目的であることを示している。
カナダとメキシコへの関税を正当化する理由として挙げられているのは、合成麻薬フェンタニルと不法移民の流入を減らしたいというものだ。資料によると、米南部国境での不法な越境行為はほぼなくなり、メキシコは麻薬カルテルのボス29人の身柄を米国に引き渡した。米国のデータによると、カナダから北部国境を越えて流入し、押収されたフェンタニルの量はすでに少ない状態にあったが、1月に急減した。
それにもかかわらずトランプ氏は、関税措置を実行に移した。そして彼は3日の発言の中で、その動機を明確にした。トランプ氏は「この国をうまく利用して利益を得てきた者たちにとって、その行為のコストはこれから非常に高くなる」と説明。「彼らは、ここに来てわれわれのお金を盗み、われわれの仕事を盗み、われわれの工場を奪い、われわれの企業を奪っておきながら、罰を免れられると期待すべきではない」と語った。
トランプ氏は、薬物、不法移民、さらには貿易赤字をなくそうとしているだけではない。彼は、メキシコとカナダの産業基盤を奪い取ろうとしているのだ。トランプ氏は「彼らがやるべきことは、端的に言うと、米国に自動車工場や他の施設を建てることだ。そうすれば関税を払う必要がなくなる」と述べている。
カナダに関するトランプ氏の目標はもっと野心的で不吉なものだ。彼は、米国の一部になればカナダは関税を回避できると語っている。間もなくカナダ首相の座を去るジャスティン・トルドー氏は4日、「トランプ氏は、カナダ経済が完全崩壊することを望んでいる。そうなればカナダの併合が容易になるからだ」と語った。
どんな措置にも反発がある
トランプ氏は、経済的または地政学的な断絶によって被る損失は米国よりも他の国々の方がはるかに大きいため、それらの国々が同氏の要求に応じるはずだとの前提で事を進めている。これまでのところトランプ氏の前提はおおむね正しかった。
だが、メキシコとカナダが関税を交渉ではなく、最終目的だと判断すれば、両国の戦略は、トランプ氏の機嫌をうかがう姿勢から、新政権下で気まぐれで脅威をもたらすようになった隣国に対して守りを固める姿勢へとシフトするだろう。
1990年代まで、米国とメキシコの関係は、不信感と、政治・経済の幅広い問題における協力の欠如という特徴があった。
元駐中国メキシコ大使で、現在はグローバルリスクに関するコンサルティング会社DGAグループに勤めるホルヘ・グアハルド氏は「われわれのDNAはかつて完全に反米だった」と語った。その状態を変えたのが自由貿易だったと同氏は指摘する。その自由貿易がなくなれば、メキシコはまた「北の隣国に完全に不信感を持つ」状態に戻り、犯罪や移民、保健医療、気候問題における協力を減らしていくだろう。
カナダでは、トランプ氏が関税を発動し、カナダ併合という目標に言及していることで、現代では前例がほとんどないほどのナショナリズムの波と怒りが沸き起こっている。
今後行われるカナダ総選挙は、人気のないトルドー氏に対する国民投票から、トランプ氏に対抗するのに最適なのは誰かという争いへと様相を変えている。
カナダ元副首相のジョン・マンリー氏は「カナダが米国を信頼できる経済パートナーとして見なすことは二度とないと思う」とし、「カナダは自国の経済を構築し、米国以外に目を向けるための独自戦略を策定する必要がある」と述べた。
ウォール街は再び成長に対する不安に陥っている。
投資家は2025年を楽観的な気持ちで迎えた。規制の巻き戻しや市場が好む減税を推進する新政権によって、すでに力強い米国経済はさらなる後押しを受けるとの期待があった。ところがここ数週間は、貿易摩擦や経済成長鈍化の兆しが主要株価指数を押し下げている。
今週に入り相場の下げは加速した。ドナルド・トランプ米大統領が主要貿易相手国に25%の関税を課し、投資家は同氏が保護主義的な政策を追求することにどれほど真剣なのかを改めて考えざるを得なくなった。
値下がりは銀行や中小企業など、景気減速に敏感に反応しやすいとされるセクターで特に目立った。ハイテク株が多いナスダック総合指数は2月半ば以降、7.5%下落した。原油価格も下落している。一方、資金の逃避先とみなされる金や米国債は上昇している。
トゥルーイスト・アドバイザリー・サービシズのキース・ラーナー共同最高投資責任者(CIO)は「関税は『はったり』に過ぎないと多くの人が思い込んでいたようだが、今はそれに関して不透明感が高まっている」と述べた。
米国株は昨年、年間上昇率が2年連続で25%近くに達した。投資家は現在、その背景となった状況が大きく悪化しているかどうかを見極めることに苦慮している。米国株が今年も同じような好調さを維持できるとみていたアナリストは極めて少なかったものの、上げ基調は継続すると大半が考えていた。
今回の景気不安については、ここ数年に起こった他のできごとよりも悪いものではないと確信している向きが多い。現在脅威として映っているものをそれほど警戒する必要はないとの見方もある。なぜなら、脅威の原因となっているのは政府の政策であり、それはトランプ氏が過去にそうしたように、一瞬で覆せるためとの理屈だ。
カナダとメキシコからの輸入品に対する新たな関税を巡りホワイトハウスは5日、自動車メーカーは1カ月間対象から除外する発表した。これを受けて同日の米株式相場は週初からの下落分の一部を取り戻した。6日の取引は主要株価指数が再び急落して始まったが、ハワード・ラトニック米商務長官が1カ月の猶予はより幅広い品目に拡大されるとの見通しを示した後、下げは縮小した。
トランプ氏の就任以降、ウォール街では懸念が高まってきた。新政権は予想以上の強硬な姿勢で関税政策や政府職員の解雇を押し進めたためだ。
悪化が目立つ経済指標はこれまでのところ、信頼感調査などのいわゆるソフトデータにおおむね限定されている。
例えば、全米産業審議会(コンファレンスボード)が発表した2月の消費者信頼感指数は2021年以来の大幅な下げを記録した。米供給管理協会(ISM)が3日発表した製造業調査では、新規受注が大幅に低下する一方で仕入価格は上昇した。複数の回答者が関税に対する懸念を示した。ある回答者は「関税の導入によって、当社の製品の価格が上昇している」とし、「インフレ圧力を懸念している」と述べた。
アトランタ地区連銀が公表する予測モデル「GDPナウ」では現在、1-3月期の米経済成長率は年率でマイナス2.8%と予想されている。ただ、他のモデルはまだプラス成長を示している。
エコノミストの間では、経済活動は減速するとの見方が大勢となっている。企業は関税の大幅引き上げによって輸入品に対する支払いの増加を強いられ、そのコストを消費者に転嫁することが予想されるためだ。
ただ大半のエコノミストは、関税引き上げが経済を縮小に追い込むほどの影響を及ぼすとはみていない。ゴールドマン・サックスのエコノミストは最近のリポートで、関税は今年の米経済成長率を0.2%押し下げるにとどまるとの見方を示した。これはカナダなど他国が被ると予想される影響と比べてはるかに小さい。
米株式市場では5日の取引終了時点で、S&P500種指数は2月19日に付けた過去最高値から約5%下落し、週初からは1.9%下落した。小型株で構成するラッセル2000指数は1月下旬から9.4%下落した。
銀行株は特に値下がりが目立つ。ゴールドマン・サックスは2月18日に過去最高値を付けて以降、12%下落した。業種別では、生活必需品が他の業種と比べ健闘している。洗剤の「タイド」や歯磨き粉の「クレスト」を製造する日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は週初から0.4%上昇した。
不安はウォール街を超えて広がっている。オハイオ州ウースター在住で、サービス・広告業を営むトーマス・クーパーさん(34)は毎日、株取引をしている。トランプ氏が大統領選で勝利して以降、相場の急激な変動から資産を守るために金(ゴールド)の購入を増やしたという。「市場は突然、何の根拠もなくアゲインストになる」と話した。
投資家にとって明るい話題の一つは債券相場の上昇だ。ここ数年は、根強いインフレが債券への打撃になっていた。ブルームバーグ米国総合債券指数は4日時点で、値上がり益と利子を含めた年初からのリターンが2.7%となった。
ただアナリストの間では、債券相場の上昇継続はこの先難しくなるとの見方もある。インフレ率は依然として米連邦準備制度理事会(FRB)の目標である2%を上回っており、FRBはこれ以上の大幅な利下げに慎重な姿勢を示している。利下げが予想される状況では、投資家はできるだけ高い利回りを確保しようとするため、既発債に対する需要を押し上げる傾向がある。
アネックス・ウェルス・マネジメントのチーフエコノミスト、ブライアン・ジェイコブセン氏も債券相場の上昇継続に懐疑的な一人だ。
ジェイコブセン氏は、トランプ氏が関税を主に交渉の手段として使うとの見方を変えていないとしながらも、大統領の交渉姿勢は以前予想していたよりも厳しいことがはっきりしてきたと述べた。ジェイコブセン氏は関税について、「発動の前に交渉が行われるものだと思っていた」と話した。「どうやら彼は、先に発動し、交渉は後にするつもりらしい」
ベッセント米財務長官はトランプ政権が成長の基盤を政府から民間セクターにシフトさせる中、米経済には何らかの混乱が生じる可能性があると警告した。
ベッセント氏は7日、経済専門局CNBCとのインタビューで「われわれが受け継いだこの経済が、ややふらつき始める可能性はあるだろうか。それはもちろんある」と発言。「公的支出から脱却するのに伴い、自然な調整は起こる」と述べた。
最近発表された複数の米経済指標は成長の減速を示唆し、2月のISM製造業総合景況指数は停滞の領域に近づいたほか、2月の消費者信頼感指数は2021年8月以来の大幅な落ち込みを記録した。
バイデン前政権下での景気拡大は政府支出で人為的に支えられていたと、ベッセント氏は主張。インタビューは2月の雇用統計が発表される前に収録された。同統計では雇用の伸びが堅調に推移した一方、失業率はわずかに上昇。強弱まちまちの内容は政策の急速な変化に揺れる雇用市場の状況を映している。
ベッセント氏は「市場も経済も中毒になっていた。われわれは政府支出に病みつきになっていた」とし、「この先はデトックスの期間になる」と話した。
株式相場を下支えするためにトランプ大統領が政策を転換することはあるのかと問われると、ベッセント氏は株式アナリストらがいう「トランプ・プット」といったものは存在しないと言明。
「『プット』はない」とし、「上方向の『トランプ・コール』はあるだろう。良い政策を実施すれば、市場は上昇するものだ」と続けた。
関税政策
関税は長期的に維持されるのかとの質問に対しては、「いずれ分かる」と回答。
「トランプ大統領は毎日多くの情報を取り入れており、株式相場はその一部だ」とベッセント氏。「私は全てを見ている」と述べた。
同氏はトランプ氏の経済政策について「必要不可欠な軌道修正だ」とし、「痛みが生じるかどうかはこれから分かる。適正な政策をとれば、非常にスムーズな移行になると私は確信している」と付け加えた。
ベッセント米財務長官は7日、米経済は公共支出から民間支出へと原動力を移行する過程で、鈍化する可能性があるとの見通しを示した。同時に、この過程はより持続可能な均衡に到達するために必要な「調整期間」だとした。
ベッセント氏はCNBCの番組で、「公的支出から民間支出への移行に伴い、自然な調整が起こるだろう」とし、市場と経済が政府支出に依存していた状態から調整期間を迎えつつあるとの見方を示した。
また、トランプ米政権による規制緩和は民間部門の成長促進を目的とするため、民間主導の経済への移行に経済的に大きな痛みが伴うことはないとした。
ミレニアム・マネジメントの2つのチームが今年これまでに約9億ドル(約1330億円)の損失を出したことが、事情に詳しい複数の関係者の話から明らかになった。これらチームは、さまざまな株価指数にどの企業が採用・除外されるかに賭ける「インデックス・リバランシング」と呼ばれる戦略を取っており、最近の世界的な株価急変動で打撃を受けた。
同関係者らによれば、2チームのうち、より規模の大きいSRBLをグレン・シャインバーグ氏が率い、もう一つのチームはドバイ在勤のプラティク・マドバニ氏が管理している。ミレニアムの担当はコメントを控えた。
インデックス・リバランシング戦略は高いレバレッジを効かせることが多い。ミレニアムなどマルチマネジャー型ヘッジファンドにとって利益の大きい戦略となり得る。
ただ、市場の不安定化と取引の集中が重なると、たとえポートフォリオマネジャーが正しい銘柄に賭けていたとしても、大きな損失が発生する可能性もある。
事情に詳しい関係者1人によれば、インデックス・リバランシング取引を専門としていた香港在勤のシニアポートフォリオマネジャー、ジェレミー・マー氏がミレニアムを退社した。マー氏にソーシャルメディアを通じてコメントを求めたが、返答はない。
インデックス・リバランシング戦略は2022年を含め、過去にもリターンを悪化させたことがある。
あるファンドマネジャーは、1998年にはわずか12社がこの取引を行っていたと推定している。その数は近年、少なくとも50社に膨れ上がったが、その後リターンの悪化で一部のトレーダーは離脱した。
ただ、利益を大きく膨らませることもあり得る。シャインバーグ、マドバニ両氏のグループは昨年、いずれも利益を上げていた。
総額約750億ドルの資産を運用するミレニアムは、今回の損失にもかかわらず、今年2月までのリターンは1%未満のマイナスにとどまっている。
●中東情勢
トランプ米大統領は7日、核問題を巡りイランとの交渉を望む意向を示し、5日にイラン首脳宛てに書簡を送ったことを明らかにした。
トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し「イラン側と最終段階に差し掛かっている」とし、「イランを巡り、間もなく何らかの動きがあるだろう。和平合意もあり得るかもしれない」と期待を表明した。
これに先立ち行われたFOXビジネス・ネットワークのインタビューでは「イランにとっても良いことで、交渉に応じることを望むと伝えた」とし、新たな核兵器を許すことはできないと述べた。
書簡はイラン最高指導者のハメネイ師宛てかという質問に対しては、「そうだ」と応じた。
さらに「イランにとっての対応は2つある。軍事的な対応か合意(ディール)かだ。イランを傷つけたくはなく私は合意を好む」と述べた。
トランプ氏は2月には、核兵器開発を阻止するためイランと合意を結びたいと述べていた。
イラン国連代表部は7日、イラン側はトランプ氏の書簡を受け取っていないと述べた。イラン外務省からはトランプ氏の発言についてコメントは得られていない。
イランのヌールニュースは、米政府による「繰り返しの芝居」と一蹴。Xへの投稿で、イランとの対立を望まないとしながら、「最大限の圧力」政策を復活させて制裁を課し、その後に交渉を巡る書簡を送るトランプ氏の外交政策はパターン化されていると指摘した。
トランプ大統領は先月4日、イランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名。イランの核兵器保有を阻止するため、原油輸出を完全に停止させること目指すとした。
●エマージング
リバタリアン(自由至上主義者)として知られるアルゼンチンのミレイ大統領は2023年の大統領就任時に中国を共産主義の「暗殺者」と呼び、対中関係の見直しを示唆していたが、実際にはミレイ政権の1年目にアルゼンチンは大豆やリチウムなどの対中輸出が15%も増加した。
本来は米国の同盟国であるアルゼンチンのこうした実利重視の政策転換は、トランプ米大統領の対南米政策の課題を浮き彫りにしている。豊富な天然資源を抱える南米諸国では近年、コモディティー(1次産品)ブームを追い風に中国の影響力が高まっている。
一方でトランプ政権は脅しや関税をテコに貿易相手国に対して米国の利益になるような条件を飲ませようとしている。既にコロンビア、パナマ、メキシコに譲歩を求めたほか、ブラジルも鉄鋼に対する新たな関税措置の標的となっている。
しかしロイターが取材した政府関係者や外交筋、貿易専門家など6人は、巨大でなお拡大している中国の貿易面での優位性によりトランプ氏の政策は効果がそがれていると指摘した。これは経済上のライバルが世界的に増える中で米国の懲罰的なアプローチが限界に達しつつあることを示している。
ブラジルのルラ大統領に近い高官は、同国経済は米国に依存しておらず、昨年の貿易収支が300億ドルの黒字となった中国の方がはるかに重要だと述べた。また、トランプ氏による関税の脅しは、米国が長年にわたりブラジルを軽視してきた末に打ち出した政策であり、各国はよりリスクの少ない選択肢として中国や欧州、BRICSなどとの関係を模索するとの見方を示した。米国と違い中国は「実利的なパートナー」であり、「ビジネスをしに来ている」とも語った。
ブラジル、チリ、ペルー、アルゼンチンといった資源大国がけん引する形で南米諸国は対中輸出が過去10年間で2倍以上に増加した半面、対米輸出の伸びは小さいことが、ロイターの貿易データ分析で明らかになっている。低成長と高債務に苦しむ南米の指導者にとって中国の巨大市場は極めて重要であり、たとえ政権のイデオロギーが異なろうとも、南米において中国のソフトパワーは強まっている。
<近所のいじめっ子>
ルビオ米国務長官は1月下旬、コロンビアなど南米諸国が中国に接近するリスクについて「馬鹿げている」と一蹴。トランプ政権は短期間で成果を上げたと主張した。トランプ政権は関税をちらつかせてメキシコを交渉の場に引き出して貿易協議に応じさせ、国境警備のための軍隊派遣を約束させた。また、重要な貿易ルートであるパナマ運河を取り戻すと宣言。パナマは中国の「一帯一路」インフラ計画からの離脱を決めた。
ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」のディレクター、ライアン・バーグ氏は、トランプ氏はむしろ中南米を重視しており、スペイン語を話すルビオ氏が初の外遊で同地域を訪問先に選んだと述べた。
米下院中国特別委員会の民主党トップ、ラジャ・クリシュナムルティ議員は、米国は「近所のいじめっ子」にならないよう注意すべきだと語った。「なぜなら、いじめっ子に何が起こるかは明白だからだ。人々はいじめっ子に立ち向かうのだ。それはわれわれの長期的な国家安全保障上の利益にとって極めてマイナスな形を取る可能性がある」と危惧を示した。
<急成長するコモディティー輸出>
中国は南米全体で貿易面の優位性が一段と大きくなっているが、その原動力となっているのが穀物や銅、リチウムといった重要資源だ。米国はこの面で依然として中国をリードしているものの、その差は縮小している。
10年前に銅の主要生産国であるペルーの最大の貿易相手国は米国だったが、今では断トツで中国がトップだ。中国はペルー産の銅を大量に輸入し、両国間の貿易を加速させるためペルー沿岸に巨大な港を建設した。ペルーのアリスタ前経済相は「米国が関税を導入してもペルーにとっての影響は最小限にとどまるだろう」と予想した。
アルゼンチンは米国寄りのミレイ氏が政権を握っているが、やはり中国の影響力は強い。中国はアルゼンチン産の大豆と牛肉の最大の輸出先で、昨年はアルゼンチンのリチウム輸出の約3分の1が中国向けだった。ミレイ大統領の側近は昨年末、「中国と協力することがアルゼンチンの国益に最もかなうのであれば、何の問題もない」と発言している。
コロンビアは米国との貿易関係がはるかに緊密だが、それでも2023年末には中国との外交関係を「戦略的パートナーシップ」へと格上げした。またパナマは2021―23年にかけて中国への輸出額が米国向けを大幅に上回ったものの差は縮小しており、しかもパナマ運河を巡り米国との緊張がくすぶり続けている。
<中国に追い風か>
米国と南米諸国は歴史的に近い関係にあり、文化的にも共通点を持っている。しかしそれにもかかわらず中国は貿易面で本来的に優位性を持っている。
中国と南米の関係は移民の移動や犯罪、麻薬といった問題に左右されず、開発段階の中国では南米産コモディティーの需要が高まることから経済的な相性も良い。
ルビオ米国務長官の中南米歴訪後、中国外務省は珍しく米国の対中南米政策を非難する声明を発表。米国は中国と中南米諸国の間に「不和」を生じさせようとしていると批判し、中南米地域と中国との協力関係の深まりは「不可逆的な流れ」だと強調した。
広東国際戦略研究院のリ・シン教授は、トランプ氏の強硬な外交姿勢は中国にとって有利に働くと指摘。「米国とその同盟国の間に混乱が生じるほど、中国にとって好都合だ」と述べた。
航空業界のデータや専門家によると、中国を拠点とするプライベートジェット機の数が、過去数年で大幅に減少していることが明らかになった。中国経済の低迷や反汚職運動、新型コロナによる影響が背景にある。
ビジネス航空コンサルタント兼ブローカーのアジアン・スカイ・グループによると、昨年末時点で中国本土、香港、マカオを拠点とするプライベートジェット機は、2017年のピーク時の481機と比べて3分の1に減少した。
一方、他のアジア太平洋地域では同時期にインド、オーストラリア、日本などを中心に20%増加している。
中国での減少の多くは、2021年半ばに始まった不動産危機で中国恒大集団などの不動産会社が所有していた航空機を売却したことによるものだ。
また、シンガポールや日本へ航空機が移されたケースもり、近年の富裕層を中心とした中国からの海外流出を反映している。
アジアン・スカイのコンサルティングサービス担当ディレクター、デニス・ラウ氏は、中国は依然としてアジア最大の市場だが、「企業向けビジネスジェット機の利用は明らかに減少している」と語った。
プライベートジェット機の貸し出しを手がけるビスタジェットのチーフ・コマーシャル・オフィサーのイアン・ムーアはビジネスフォーラムの傍らで、中国でのビジネスはコロナ前の水準に戻っていないとの見方を示した。
「5年前や10年前とは異なり、もはや中国をアジアの中心地としてフォーカスしていない。東南アジアや日本など、他の地域も成長してきた」と語った。
アビエーション・ウィーク・インテリジェンス・ネットワークによると、世界のビジネスジェット機保有台数は北米が大半を占める。アジア太平洋地域の割合は7%にとどまるが、今後10年間は年率2.1%で成長し、世界平均の1.4%を上回ると予測されている。
シンガポール、ベトナム、ラオス、インドネシア、タイなどの東南アジア諸国では、低水準ながらも力強い伸びを示している。
業界幹部らによると、中国でプライベートジェット機が減少している背景には、当局による富の誇示に対する取り締まりの強化や、新型コロナ感染対策による移動制限などの政策がある。
しかし、国際企業がサプライチェーンを多様化するために拠点を拡大しているインドやベトナムなどで、新たに富裕層が生まれていることも理由の一つという。インドのプライベートジェット機数は昨年、168機となり2019年から約25%増加した。
ロシアは、一定の条件の下でウクライナとの一時的な停戦を受け入れる用意があることを示唆した。そうした中、トランプ大統領はウクライナに対し、和平合意に向け進むよう圧力をかけ続けている。
ロシアによる3年前の全面侵攻で始まった戦争の終結につながる取引を追求するトランプ氏は、長く続けてきたウクライナへの軍事支援を一時停止し、ロシアに接近している。
トランプ氏は7日、大統領執務室で記者団に対し、「ロシアとは非常にうまくやっている」と語り、「率直に言うと、ウクライナを相手にする方がより難しい」と述べた。
協議に詳しい複数の関係者によると、トランプ氏のアドバイザーらは、対ロシア制裁をどのように緩和するかについて既に概要を練っている。緩和対象にはロシア産石油の価格に設定されている上限などが含まれる。
ウクライナのゼレンスキー大統領とトランプ大統領による2月28日のホワイトハウスでの会談は激しい口論の末、決裂したが、両国の当局者は3月11日にサウジアラビアで会合する準備を進めている。両国関係を改善させ、ゼレンスキー大統領との口論後にトランプ氏が停止した対ウクライナ武器供与と情報共有を再開させることを目指す。
米国家地球空間情報局の報道官は7日、G-EGDシステムからの衛星画像へのウクライナのアクセスを一時的に停止したと明らかにした。これについてはニューヨーク・タイムズ紙が先に報じていた。
トランプ大統領のロシア寄りの姿勢は、ロシアに有利な条件でウクライナをディール(取引)に追い込むのではないかとの懸念をウクライナと欧州の同盟国に抱かせている。
事情に詳しい複数の関係者によれば、ロシア当局者は先月行われた米当局者との協議で、最終的な和平合意に向けて進展がある場合、短期的な停戦を検討する用意があると伝えた。非公式な協議を理由に匿名を条件に語った。
関係者のうち2人は、停戦に合意するためには、最終的な和平協定の原則的な枠組みについて明確な理解が必要になると語った。別の関係者は、ロシアは最終的な平和維持活動の境界を確立することに特にこだわるだろうと述べた。これには具体的にどの国が参加するかについての合意も含まれるという。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はコメントの要請には直ちには応じなかった。
ウクライナ当局者によると、ロシアはウクライナへの空爆を強化しており、数百発のミサイルやドローンによる攻撃を実施した。
トランプ大統領は7日、ロシアのプーチン大統領もディールを望んでいると確信を示したが、これに先立ち、ロシアが協議を進めない場合は、追加制裁と関税を同国に加える考えも示した。
トランプ氏は7日、自身のソーシャルメディアプラットフォームであるトゥルース・ソーシャルで、「現在戦場においてロシアがウクライナを『叩きのめしている』という事実を踏まえ、停戦と最終的な和解合意が締結されるまで、ロシアに対して銀行への大規模な制裁、そして関税を設けることを私は強く検討している」と表明。「ロシアとウクライナには、手遅れにならないよう、今すぐ交渉の席につくよう求める」と付け加えた。
その後の発言ではこうした警告には触れなかった。既に広範囲な制裁が科されていることを踏まえると、どのような追加措置が可能かは不明だ。
ゼレンスキー大統領は夜のビデオ演説で、今回のロシアによる攻撃は、和平実現にはロシアに対する強制措置が必要なことを裏付けていると発言した。
トランプ大統領に対しては融和的な姿勢をあらためて示し、「今日、トランプ大統領のチームとこれまでで最も集中的な作業が、さまざまなレベルで終日行われている」と述べ、「ウクライナは非常に前向きだ」と付け加えた。
ゼレンスキー氏はトランプ政権当局者との協議のため、11日に側近をサウジに派遣する。米国のウィットコフ中東担当特使によれば、会合の目的は「和平合意の枠組みと最初の停戦」にこぎ着けることだ。
ロシアは、ウクライナ領内に北大西洋条約機構(NATO)軍の駐留は認められないと主張しており、「有志連合」が和平合意の監視を支援するとの欧州諸国による提案を拒否した。関係者2人によると、戦争に中立の立場をとってきた中国などがウクライナに軍を派遣することにはロシアは異議を唱えていない。
トランプ氏は先月、プーチン大統領と電話協議し、ウクライナでの戦争を終結させるため首脳会談を行うことで合意したが、日程は設定されていない。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場**  
ドルはユーロと円に対して数カ月ぶりの安値となり、大半の通貨に対して下落。米雇用統計の結果を受けて、利下げ観測が強まり、ドル指数は0.4%安の103.81で週間では3.5%安と2022年11月以来の最悪のパフォーマンス。ユーロは対ドルで0.6%高、ドル円は147.99円で横ばい推移。ビットコインは2.8%安の87,030.54ドル。  
**債券市場**  
10年国債利回りは3.8bp上昇し4.32%。パウエルFRB議長が利下げ時期について慎重な姿勢を示したことで、利回りは上昇。市場では年内の利下げ幅を69bpと見込んでいる。  
**株式市場**  
米株式市場は反発。パウエル議長の「景気は良好」との発言を受け、序盤の下落から回復。しかし、週間ではS&P500が3.1%安、ナスダックが3.45%安、ダウが2.37%安と大幅下落。HPエンタープライズは関税の影響で12%安、コストコは商品コスト増で6%安。一方、ブロードコムは好調な業績見通しで8.6%上昇。  
**商品市場**  
金先物は5営業日ぶりに反落し、1オンス=2,914.10ドル。週間では2.3%上昇。原油先物は増産見送り観測で続伸し、WTI4月物は1.02%高の67.04ドル。週間では3.9%下落。
ロンドン株式市場は下落し、FTSE100指数は0.03%安、週間では1.47%安と年初来最大の下落率を記録。FTSE250指数も0.15%安、週間で0.97%の下落となった。米政権の関税政策の変更が投資家心理に影響し、バーバリー株が6.8%安など高級ブランド株が大きく下落。一方、石油・ガス株は上昇。  
欧州株式市場も下落し、STOXX欧州600種指数は週間で0.69%安。特に中国市場依存度の高い高級品株や工業株、資源株が下落。一方、通信株は上昇。米雇用統計が市場予想を下回ったことが、FRBの利下げ観測を強め、投資家心理をやや改善させた。  
ユーロ圏債券市場では、ドイツ10年債利回りが5.5bp低下し2.83%に。ECBが政策金利を0.25%引き下げたが、声明文の変更を受けて利回りは一時上昇した。イタリア10年債利回りも5.5bp低下し、独伊利回り格差は106bpとなった。

備忘録(2025/3/6
●海外企業決算
●海外企業
小売り大手の米ウォルマートは、一部の中国サプライヤーに大幅な値下げを要請している。トランプ米大統領が課す関税の負担をサプライヤーに転嫁しようとするこの動きに、中国企業は強く反発している。
関係者が匿名を条件に述べたところによると、キッチン用品や衣類のメーカーを含む一部のサプライヤーは、関税が課されるごとに10%の値下げを迫られており、実質的にトランプ大統領の関税の全額を負担することを求められている。交渉は個々のメーカーと行われており、値下げ幅はメーカーによって異なるという。
これまでのところ、ウォルマートの要請に完全に応じたサプライヤーはほとんどない。競争優位を維持するために商品を安く調達するという同社の戦略により、サプライヤーの利益率はすでに極めて薄い状態にあると関係者は述べた。
関係者によれば、2%以上の値下げをすれば赤字になる企業もある。また、別の関係者によると、自社の納入業者から3%を超える値下げを拒否され、一部の部品をベトナムから輸入することを検討せざるを得なくなったメーカーもあるという。
こうした動きが広がれば、低価格化が製品の品質低下を招くのではないかという懸念が高まっていると関係者は指摘した。
ウォルマートを巡る情勢からは、高まる地政学的緊張が世界的なサプライチェーン再構築を迫る中で、既に生活費高騰に見舞われている米国の消費者が最終的にさらなる負担を強いられる可能性が示唆される。
ベッセント米財務長官は関税に関する懸念を軽視し、中国メーカーが追加コストを負担するだろうと述べたが、米小売り大手のターゲットとベスト・バイは、メキシコとカナダも巻き込んだ貿易戦争により、消費者は価格上昇を覚悟すべきだと警告している。
ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)は今回の関税発動以前に、一部の買い物客は次の給料日までに財布が空にならないように商品の小分けパックを購入していると語っていた。
ウォルマートの広報担当者は、同社は今後もサプライヤーと協力し、顧客のために価格を可能な限り低く抑える努力を続けると述べた。値上げから買い物客を守り、米経済の成長を維持するため共通の解決策を見いだすべく、全ての関係者に協力を呼びかけているとしている。
事情に詳しい関係者によると、ウォルマートは従来から中国サプライヤーに対して強い交渉力を持ち、値下げの要請はほぼ受け入れられてきた。しかし、最近の要請の値下げ幅は異例であり、メーカーは長期的な取引関係を維持するためにコストを吸収すべきかどうか悩んでいるという。
関係者によれば、ウォルマートは2月前半にトランプ大統領が中国からの輸入品に10%の関税を課した際にメーカーに値下げを要請し、同月後半にトランプ氏が関税倍増をちらつかせた時に追加の値下げを要求した。
他の大手小売企業も追随する可能性がある。ターゲットのブライアン・コーネルCEOは4日、同社は次のステップについてベンダー側と協議中だと述べた。
●日本企業
●先進国政治動向
ドイツの次期政権樹立に向けて連立交渉中の保守連合キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と中道左派の社会民主党(SPD)は、5000億ユーロ規模のインフラ基金の創設と、借り入れ規制の見直しで合意したが、緑の党が難色を示しており、支持獲得に疑問が生じている。
CDU・CSUとSPDは来週、連邦議会(下院)に法案を提出する方針で、採決は17日に実施される可能性がある。
しかし、現在の議会で改革実施の重要な鍵を握る緑の党は気候変動対策が盛り込まれていないことを疑問視し、支持表明を拒否している。
極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と旧共産党系の流れをくむ左派党は法的措置を取ると警告した。新議会では両党が改革を阻止するのに十分な議席を有することになる。
次期首相への就任が有力視されるメルツCDU党首は、CDU・CSUとSPDの議員連盟が来週、連邦議会に対し、国内総生産(GDP)比1%を超える防衛費を債務ブレーキの対象から外す内容の憲法改正案を提出すると述べた。
これとは別に専門家委員会が、恒久的に投資を促進するために債務ブレーキの近代化案を作成する。
CDU・CSUとSPDは現在の議会会期中の法案通過を目指しているが、見通しは不透明だ
演説は約100分と、現代の一般教書形式のものでは最も長く、そのトーンや範囲、受け止められ方の点で注目に値するものだった。
それはまさにドナルド・トランプ氏そのもので、大胆なアイデア、壮大な考え、辛辣(しんらつ)な批判の傑作だった。
選挙戦からのおなじみのテーマである国境の安全確保や関税、そしてウォークネス(人種差別など社会的不公正の問題に高い意識を持つこと)と多様性・公平性・包括性(DEI)を終わらせることに焦点を合わせた。2月28日に米大統領執務室で行われた会談が完全な失敗に終わったことを遺憾に思うというウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の声明にトランプ氏が言及したことは、注目を集めた。トランプ氏はこれで鉱物資源協定に調印し、和平交渉の場に戻ることができる。
大統領の演説には幾つかの素晴らしい言い回しがあった。民主党は「国境を安全にするのに新たな法律が必要だと言い続けていたが、われわれに必要だったのは新たな大統領だったことが分かった」というのはその一つだ。
一般の米国民を称賛する、心温まる場面もあった。脳腫瘍と闘う13歳の子どもに大統領警護隊(シークレットサービス)名誉隊員の称号が与えられた。昨年7月のトランプ氏の暗殺未遂事件の際に妻と娘を守ろうとして命を落としたコリー・コンペラトーレさんの家族にも敬意が表された。
家族で4代目の軍人になることを願うカリフォルニア州の若い男性は、ニューヨーク州ウェストポイントにある陸軍士官学校への入学を、カメラを通じて大統領に宣言してもらった。また、不法移民に殺害されたレイクン・ライリーさんとジョセリン・ナンガリーさんに哀悼の意が示された。ライリーさんについては、米国に不法入国した凶悪犯罪者を取り締まる法律に彼女の名前を付けた。ナンガリーさんについては、テキサス州にある彼女の自宅近くの野生生物保護区に彼女の名前を付けた。
党派を超えて賛同するに値する言葉に民主党議員が拍手を送ることはほとんどなかった。トランプ氏が米国民の共感を呼ぶ話題に触れたときには、そうした方が賢明だっただろう。彼らがそうしなかった理由の一つには、民主党左派のゆがんだ世界観があった。別の理由には、トランプ氏に対する根深い個人的な嫌悪感、同氏が米国の憲法秩序の脅威になるという懸念、同氏の前任者に対する度重なる攻撃があった(ホワイトハウスに忠告するが、ジョー・バイデン前大統領については攻撃するよりも、忘れた方が良い。バイデン氏への言及は、トランプ氏を小物に見せる)。
大統領として自身が過去最高だと主張する発言の数は尋常ではなかった。トランプ氏は自慢気に「ほとんどの政権が4年または8年かけて達成した以上のことを43日間で成し遂げた」と語った。また、大統領就任後の1カ月間が「米国史上最も成功した」期間だと主張し、これに近いことができたのはジョージ・ワシントンだけだと述べた。ほとんどの米国民は、トランプ氏がこうした大げさな発言をするものだと思っており、多くの人はほとんど無視している。
問題を引き起こす可能性があるのは、トランプ氏の誇張表現や過大な約束だった。これはトランプ氏に直接影響を与えるものではないかもしれない。米国民は同氏の発言には慣れている。また、彼が再び出馬することはない。だが、民主党がしっかりとした行動を取れば、共和党は(中間選挙がある)2026年に苦境に立たされる可能性がある。
トランプ氏は、自らの政権で既に「何千億ドルもの不正」を発見し、回収したと述べた。また、イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」が、生きていれば150歳代になっていると思われる人の社会保障の不正受給事例130万件と、160歳以上になっているはずの人の不正受給事例13万件を突き止めたとトランプ氏は述べた。接戦の上下両院議員選で、賢明な民主党候補者は共和党の対立候補に、訴追や回収した資金の提示を要求するだろう。
いずれの場合も、共和党候補者は苦しい対応を強いられ、DOGEが何百億ドルもの無駄な支出と社会保障給付金の小切手が誤送付された少数の事例を発見した可能性はあるものの、不正は著しく誇張されていたと説明することになるだろう。
そして関税の問題もある。トランプ氏は「若干の混乱が起きるだろうが、それでもわれわれは大丈夫だ」と語ったが、それでは済まないかもしれない。バイデン氏はインフレによって窮地に追い込まれたが、トランプ氏の関税によって物価が上昇すれば、消費者は今後、買い物の際にバイデン政権下と同様の感覚を抱くだろう。また、企業がコスト削減や商品の値上げに踏み切れば、米国民は関税が彼らの勤め先にどんな影響をもたらすのか知ることにもなるだろう。
トランプ氏はまた、関税は「米国の農家のためになる」と語り、その理由は米国の農家が今後「米国内市場に作物を売り込めるようになる」からだと説明した。しかし国内市場だけでは十分とは言えない。米農務省によれば、米国の農家は「農産物の価格と収入を維持する上で、輸出市場に」依存している。2023年の米国の農産物輸出額は1740億ドル(約26兆円)に上っている。これは米国の農産品生産額の20%に相当する。関税戦争によって、米国の貿易相手国が米国以外から農産物を輸入するようになれば、米国の農家はトランプ氏が約束しているような「素晴らしい日々」を過ごすことはできなくなるだろう。
次に「連邦予算を均衡させる」というトランプ氏の約束について考えてみよう。それは実現しない。実現に近づくことさえない。トランプ氏はなぜ共和党への攻撃を招きかねない約束をするのだろうか。民主党は、この財政問題への解決策を持っている。それは富裕層に応分の負担をさせるというものだ。
とはいえ、今回の演説は見事なものだった。堂々としていて熱意にあふれていた。トランプ氏の準備は2017年の時よりも整っていた。4日の演説を見る限り、彼は以前よりも楽しんでいるようだ。
ドナルド・トランプ米大統領が教育省の廃止に向け、早ければ6日にも大統領令を出す見通しとなった。事情に詳しい関係者らが明らかにした。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した大統領令の素案では、リンダ・マクマホン教育長官に対し、「法律で認められる最大限の範囲内で」、教育省の廃止に向け、「あらゆる必要な措置を講じる」よう求めている。
今回の大統領令はトランプ氏が政権移行への準備を進めていた当時から取りまとめていたもので、WSJは2月上旬には、政権が教育省の廃止を検討していると報じていた。
大統領令案は「連邦政府のプログラムと資金を通じて米国の教育を管理するという実験、そしてそれらのプログラムと資金に支えられた説明責任のない官僚らは、子どもたち、教師たち、そして家族たちを失望させてきた」とも言及。WSJが確認した草案には「決定前」と記されており、今後内容が変更される可能性もある。
マクマホン氏は3日夜、上院で承認された直後に職員に送った電子メールで今後の方針に触れ、「教育を州政府に戻す」と述べた。さらにトランプ氏と国民が「教育省の官僚機構の肥大化を解消するという重要な最終任務を、迅速かつ責任を持って遂行するようわれわれに課した」と付け加えていた。
法律専門家らによれば、教育省を完全に解体するには上院で絶対多数となる60人以上の賛成が必要となる。また障害のある学生向け資金や学生ローンなどといった同省が管轄する主要プログラムは法律で定められたものであり、大きな政治的支持基盤がある。大統領令案には、議会への言及は含まれていない。
法律事務所ブルーマン・グループのジュリア・マーティン氏は「法律で定められていない(教育省の)機能など思いつかない。なぜなら、ほとんどの機能は法律で定められているか、もしくはそれらの機能を果たすためのものであるからだ」と述べた。
マクマホン氏は承認公聴会で、トランプ氏は連邦プログラムを削減するのではなく、より効率的にする意向だとした。また教育省の廃止には議会の同意が必要だとも述べていた。
トランプ政権はすでに同省を弱体化させるための一連の措置を講じており、試用期間中の職員を解雇し、他の職員には退職奨励金を提示している。また公民権執行業務の一部を停止し、研究や教師の質に関連する多くの助成金や契約もキャンセルしている。
教育省は昨年の時点で約4500人の職員を抱えており、閣僚級機関の中で最小規模となっている。世論調査ではほとんどの米国民が教育省の廃止に懐疑的で、民主党は反対の姿勢を示している。
トランプ米政権のウィトコフ中東担当特使は6日、ウクライナと和平合意や停戦の枠組みを巡り協議しており、来週サウジアラビアでウクライナ当局者と会談する計画と明らかにした。
ウィトコフ特使はホワイトハウスで記者団に対し「ウクライナとの会談の調整に向け協議を行っている」と明らかにし、「和平合意と初期段階の停戦の枠組みをまとめるのが狙い」という認識を示した。
会談はリヤドかジッダで開催される公算が大きいという。
これに先立ち、FOXニュースとニュースサイトのアクシオスは関係筋の情報として、トランプ米政権の高官が12日にリヤドでウクライナ当局者と会談すると報じた。
報道によると、ウクライナからはゼレンスキー大統領ら、米国からはルビオ国務長官らが出席する見通しという。
トランプ米大統領は6日、カナダとメキシコからの輸入品の大半に対する25%の関税について、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠した製品は4月2日まで延期する大統領令に署名した。米国にとって最大の貿易相手国に大きな時間的猶予を与えることになった。
関税の一時停止は不法移民と合成麻薬フェンタニル追跡に関連するもので、4月2日までとなる。この日には大統領が世界各国に対する相互関税や、特定分野を対象とした関税計画の発表を開始する見込みだ。
トランプ大統領は大統領執務室でメキシコとカナダについて「最近、彼らはかなり懸命に取り組んでいるが、あなた方はそれに気付いているか? 流入してくる人と麻薬に関してだ。われわれは両面で大きく前進した」と述べた。
USMCA要件に合致する自動車・自動車部品は、関税賦課が免除される製品に含まれる。米農業生産者が肥料として大量に使用するカナダ産カリは、10%の低い関税率が適用される見込み。
ホワイトハウスは、カナダからの輸入品の62%はなお関税の対象で、その大半は10%の税率が適用されるエネルギー製品になると想定し、メキシコからの輸入品は5割が対象と推計している。ホワイトハウス当局者は、輸入業者が新規則への対応を急ぐ中で、この割合が変わる可能性があるとした。
トランプ大統領は自動車メーカーへの救済措置については短期にとどまると警告し、さらなる延長に来月署名することはないと明言した。
「私は彼らにこれが最後だ、短期のディールだと伝えた」と述べ、自動車業界幹部に対し再び救済を求めてこないようよう話したと語った。
4日にトランプ氏は1世紀ぶりとなる大規模な関税引き上げを発表していたが、48時間後に方針を撤回したことになる。背景には株価急落や、共和党が経済への影響を巡る懸念を示したことがある。
大統領は「私は市場を見てもない」と述べ、市場の反応を重視しない姿勢を示した。また外国が「米国から金を巻き上げている」と主張し、関税適用で米国はより強固な立場になると指摘した。
「短期的な混乱は常に生じるだろう。大きな混乱にはならないと思う」と語った。
トランプ米大統領は6日、「米国は日本を守らなければならないが、日本はどんなことがあっても米国を守る必要がない」と述べた。日米安全保障条約が片務的と不満を示した形だ。ホワイトハウスで記者団に語った。
「私は日本が大好きだし、日本とは素晴らしい関係にある」と言及したうえで「しかし、日本とは興味深いディール(取引)がある」と日米安全保障条約に触れた。
●先進国中銀、金融当局
欧州中央銀行(ECB)は6日、主要政策金利の預金金利を0.25%引き下げ2.5%とした。利下げは5会合連続で過去9カ月で6回目となる。
声明で「利下げにより企業や家計の借入コストが低下し融資の伸びが加速するなか、金融政策は実質的に制約的ではなくなりつつある」とした。
理事会後のラガルド総裁の記者会見での発言は以下の通り。
<不確実性の増大>
不確実性が増大しており、投資と輸出に対し予想を上回る重しになる可能性が高まっている。ただ、所得の増加と借入コストの低下が経済成長の下支えになるとみられる。
ECBのスタッフ予測では、貿易摩擦がこれ以上激化しない限り、世界的な需要の回復に伴い、輸出は持ち直すとの見方が示されている。
<消費の持ち直し>
家計収入の増加と堅調な労働市場を背景に、消費は緩やかに持ち直している。ただ、消費心理はなお脆弱だ。貯蓄率も高水準で推移している。
●先進国経済指標
米労働省が6日発表した3月1日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は前週比2万1000件減の22万1000件だった。予想以上に減少し、輸入関税や連邦政府支出の大幅削減による混乱はあるものの、労働市場が安定を維持したことが示された。
ロイターがまとめたエコノミスト予想は23万5000件だった。
2月22日までの1週間の継続受給件数は4万2000件増の189万7000件だった。
再就職あっせん会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスがまとめた2月の米国で発表された人員削減数は、245%増の17万2017人となり、コロナ禍で経済が混乱していた2020年7月以来の高水準に達した。2月としては16年前の大不況以来の高い数字だった。
連邦政府職員の解雇、契約キャンセル、貿易戦争への懸念が背景にあるとみられ、トランプ政権が労働市場に与えた打撃が鮮明になった。
2月は連邦政府の17機関が6万2242人の人員削減を発表、全体の削減数のかなりの割合を占めた。政府の人員削減数は今年1─2月は約6万2530人と、前年同期比で4万1311%増となっている。
チャレンジャーのシニアバイスプレジデント、アンディ・チャレンジャー氏は「大量解雇が起こると、残った人も不安や不確実性を感じる傾向がある。自主的な退職者が今後、増える可能性が高い」と述べた。
実業家イーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)が連邦政府職員の解雇を進める中、チャレンジャーはDOGEが関連する削減数(連邦政府職員と請負業者)は6万3583人に上るとしている。
欧州連合(EU)統計局が6日発表したユーロ圏の1月の小売売上高は前月比0.3%減少した。非食品と燃料が減少した。0.1%増の市場予想に反してマイナスとなり、消費主導の景気回復がまだ見通せないことが示された。
小売売上高の伸びはこれで4カ月連続のマイナスもしくはゼロとなった。
国別では、ドイツが小幅増となる一方、フランスとイタリアは減少した。
ユーロ圏の小売売上高は前年同月比1.5%増と、前月の2.2%増から鈍化し、予想の1.9%増も下回った。
欧州中央銀行(ECB)当局者は、利下げ継続もしくは休止を巡り、次回政策金利を決定する4月会合では激しい議論が交わされることを覚悟している。事情に詳しい関係者が明らかにした。
部外秘の内容を話しているとして匿名を条件に述べた同関係者によると、ハト派的な当局者は今のところ、休止の根拠はほぼ見当たらないと考えている。その一方で、よりタカ派的な当局者は地政学的なリスクや欧州での防衛費拡大の影響を見極めるため、休止の方向に傾いているという。
インフレ率が目標の2%へと低下しつつある中、昨年6月から実施した6回の利下げで特に反発はあまり起きなかった。ラガルド総裁は6日の政策声明発表後の記者会見で、利下げには反対がなかったことを明らかにした。オーストリア中銀総裁で政策委員会メンバーのホルツマン総裁だけは棄権した。
当局者らは、政策スタンスに対する「景気抑制の度合いが有意に低下しつつある」との声明の文言を歓迎し、タカ派・ハト派いずれも今後数週間にわたって金利について見解を示す上で役立つとみているという。
ECBの報道官はコメントを避けた。
DWSのシニアエコノミスト、ウルリケ・カステンス氏は「ユーロ圏でより高い成長率とディスインフレプロセスの減速を見込んでいる」と指摘、「これらはいずれも、今後1カ月における追加利下げの余地を引き下げるだろう」と続けた。
●金融市場、先進国トピックス
スタグフレーションが話題に上り始めた。
輸入品への関税を大幅に引き上げるというドナルド・トランプ米大統領の決定により、米国は成長の鈍化または停滞と物価上昇が同時に起こる不快な状況に直面する恐れがある。いわゆるスタグフレーションだ。
米国はメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を課し、中国に対しては先月の10%引き上げに続いてさらに10%を上乗せした。プルーデンシャルのチーフエコノミスト、レイ・ファリス氏は、関税が企業の投資計画に大きな混乱をもたらすとの見方を示し、「インフレを引き起こすため、雇用と賃金の伸びの鈍化によって家計所得の拡大が減速している中で、実質家計所得にショックを与えることになる」と述べた。
トランプ大統領がどれだけの期間関税を維持するつもりなのかはまだ不透明だ。ハワード・ラトニック商務長官は4日午後にFOXビジネスに出演し、関税引き下げが検討されている可能性を示唆した。
一部のエコノミストは、関税が維持されれば景気後退の可能性が大幅に高まるとみている。
アクセス/マクロのチーフエコノミスト、ティム・マヘディー氏は「事態は急速に悪化しかねない。1970年代や80年代ほどの水準ではないが、スタグフレーション、またはミニスタグセッション(小規模なスタグフレーション的景気後退)の兆しがある」と述べた。
ここ数週間の景況感指標や企業関係者のコメントは、物価上昇の脅威に対する信頼感の低下を示している。
米家電販売大手ベストバイのコリー・バリー最高経営責任者(CEO)は4日、アナリストに対し、中国とメキシコが同社で販売される家電製品の調達先の上位2カ国だと指摘。「全商品ラインアップにわたって、当社のベンダーが関税コストの一部を小売業者に転嫁すると予想している。米国の消費者向け価格が上昇する可能性が極めて高い」と語った。株式市場が全体的に下落する中、同社の株価は13%急落した。
ニューヨーク州ロチェスターを拠点とする従業員95人のブラザーズ・インターナショナル・フード・ホールディングスは、メキシコからマンゴーとアボカドを輸入し、食品・飲料メーカーにフルーツジュース、ピューレ、凍結濃縮食品を販売している。同社は顧客に関税引き上げ分を転嫁するか、利益率の低下を受け入れざるを得なくなっている。
同社の顧客の多くは関税発動を見越して1月に出荷を前倒しした。「今後数カ月は販売の軟化に備えている」とジャック・ウィティアー最高執行責任者(COO)は述べた。
トランプ氏と同氏の顧問らは、米国経済の再構築という政権の長期的な目標を達成するためには、短期的な痛みは正当化されるかもしれないと述べている。また、エネルギー生産を後押しする措置が物価上昇を相殺する可能性も指摘している。とはいえ、関税は米連邦準備制度理事会(FRB)にとって対処するのが特に難しい経済的脅威だ。FRBの使命はインフレを低水準に安定させつつ、健全な労働市場を維持することだ。関税は「供給ショック」を意味し、インフレ率を上昇させる(これは利上げを促す)一方で、雇用に悪影響を与える(利下げを促す)。FRBはどちらの問題を重視するかを選択しなければならない。
FRB当局者らは過去18カ月間で経済のソフトランディング(軟着陸)を実現できたかもしれないと考えていた。一部の当局者はスタグフレーションのシナリオを公の場で警告している。
セントルイス地区連銀のアルベルト・ムサレム総裁は3日、ワシントンで開かれた経済会合で「労働市場の悪化とインフレ上昇が同時に起これば、難しい選択を迫られる可能性がある」と語った。
ニューヨーク地区連銀のジョン・ウィリアムズ総裁は4日、ブルームバーグ主催のイベントで、関税により今年のインフレ率が予想以上に上昇すると見込んでいると述べた。消費財への関税は「消費者が支払う価格に比較的早い時期に反映される」とした一方、中間財への関税は価格に反映されるまでに時間がかかるが、その影響は長く続くと指摘した。
変動の大きい食品とエネルギーを除くコアインフレ率は、FRBが重視する指標ではピークだった2022年の5.6%から着実に低下を続けており、1月には2.6%となった。それでもFRBの2%目標をまだ上回っている。
ボストン連銀の調査担当者らは、カナダとメキシコへの関税を25%、中国への関税を10%引き上げると、米国の輸入業者の対応によってはコアインフレ率が0.5~0.8ポイント上昇する可能性があると推定している。この推定では、消費者が安価な国内製品に代替することや、報復措置の導入、為替レートの変動は考慮されていない。
サンフランシスコ連銀に以前勤務していたマヘディー氏は「経済が縮小すれば物価上昇は小幅で済むが、冷え込みもあまり期待できない。これはFRBの足かせとなる」と述べた。金融政策はしばしば過去のデータに基づいて決定されるため、景気減速下でのインフレ懸念は「金融政策の対応が遅れる状況が整っている」ことを意味すると同氏は指摘した。対照的に、19年の貿易戦争時にはFRBが景気後退を先取りして行動したが、これはインフレ率が低かったため可能だった。
インフレの高止まりや長期的なインフレ期待の上昇は、利下げの正当化を難しくする。セントルイス連銀のムサレム総裁は「インフレが目標水準かそれ以下で、消費者や企業が最近高インフレを経験していなかった場合に比べて、潜在的なリスクはより高い」と述べた。
ムサレム総裁は米国で前回スタグフレーションが起きた1970年代に言及した。FRBは当時、インフレ抑制のために金利を引き上げ、その後高い失業率に対処するために金利を引き下げるという「ストップ・ゴー・ストップ」政策を繰り返したが、「インフレも失業も十分に抑制できなかったため、広く失敗とみなされている」と同総裁は語った。
確かに、アナリストらは過去4年間にわたって繰り返しスタグフレーションを警告してきたが、それが現実のものとなることはなかった。サプライチェーン(供給網)の混乱と政府支出の急増を背景に生じた新型コロナウイルス流行時のインフレの特異な性質により、FRBは景気後退を引き起こすことなく、インフレ抑制のために急ピッチで利上げを行うことができた。
FRB当局者らはコロナ禍によるインフレが21年に発生した当初、短期的な供給ショックによるコスト圧力は一時的、つまり自然に解消されるものだとし、大幅な利上げを行うべきではないと判断した。
シカゴ地区連銀のオースタン・グールズビー総裁は、理論的には関税も一時的な供給ショックであるため、同様の議論が現在も行われていると述べた。「『一時的』という言葉が出たらすぐに警戒すべきだ。なぜならその論理は正しくなかったことが分かったからだ」  グールズビー総裁は「コロナ禍での規模に近づく政策ショックが発生した場合」、当時の教訓が特に関連性を持つだろうと語った。
筆者は旧東独の共産党独裁政権が国境を開放した直後に東ベルリンに行き、筆者が生まれてからずっと欧州を分断していた壁から、落書きされたコンクリート片を削り取った。全てが変わった。
この1週間は、1989年にもたらされたのと同じくらい重要な変化の始まりかもしれない。だが、武装した警備隊が守る検問所を大勢の群衆が通過するという印象的な映像はなく、投資家は新たな現実を織り込むのに苦労している。
投資家は三つの大きな問題に対処する必要があり、どれも簡単な答えがない。最も重要なのは、グローバルな同盟関係を作り替える動きと、その長期的な影響だ。最も差し迫った問題は、関税に対する米連邦準備制度理事会(FRB)の反応だ。その中間にあるのは、脱グローバル化と各国間の信頼喪失、金融障壁の可能性だ。
短期的な話から始めよう。カナダとメキシコからの輸入品に対する関税は、中国への10%の追加関税と共に、全米で即時の物価上昇や生産の混乱を招く恐れがある。企業は北米のサプライチェーン(供給網)統合の流れを逆戻りさせようとしている。
関税発動の再延期を見込んでいたゴールドマン・サックスの予測では、カナダとメキシコに対する関税により、食品とエネルギーを除くコアインフレ率が0.6ポイント押し上げられ、対中追加関税の影響でさらに若干押し上げられるという。消費者のインフレ見通しが上昇しており、FRBは難しい立場に置かれている。
中央銀行は伝統的に、関税のような供給ショックを無視しようとする。結果としての値上げは一度限りとの見方からだ。これにより、中銀は経済を支えるための利下げが可能になる。それはまた、株式市場が受けるダメージを軽減させる。
だが、値上げが繰り返されると消費者と企業が考えるなら、そうした予想だけでもインフレ高進につながり得ることをFRBは懸念し、利下げに消極的になるだろう。
現在のところトレーダーらは、FRBが経済の方を重視して利下げするという見通しに賭けている。CMEのFedWatchツールによると、金利先物市場は現在、年内に少なくとも4回の利下げが実施される確率を38%織り込んでいる。1月20日にドナルド・トランプ大統領が就任した直後の4%程度から急上昇した。
しかし、関税によってインフレ率が押し上げられても、FRBは本当に利下げをしようとするだろうか。
長期的に見ると、世界の新たな同盟・協力関係は、ソ連崩壊後の秩序を脅かす。国連でロシアと北朝鮮の側(がわ)に立ち、反ウクライナの立場を取ったトランプ氏の判断は、強力なシンボルだった。それは米大統領執務室におけるウクライナ大統領への対応によっても浮き彫りになった。こうしたメッセージを受け取った欧州の政治家たちは、欧州大陸は自力で防衛する必要があり、もはや北大西洋条約機構(NATO)に頼ることはできないと相次いで警告した。欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会とドイツが話し合っている新たな借り入れによって、軍事費として数千億ユーロもの資金が調達される可能性がある。
われわれはベルリンの壁の崩壊以降、半世紀近くにわたり、軍事よりも経済を優先する世界で暮らしてきた。中国が台頭し、米国がもはや信頼できる同盟国と見なされない中で、軍事が再び優先されることになるだろう。消費を防衛支出に入れ替えるように経済・貿易・税システムを再構築すれば、政治的な論争が巻き起こるとともに、大きな負担が生じるだろう。欧州の軍事関連企業は明らかな勝者となる。敗者になるのは誰だろうか。
世界の同盟・協力関係が流動的になっている中で、この軍事重視への転換は、第2次世界大戦後初めて、世界を多極化へと向かわせる要因ともなりかねない。
米国の友人たちの一部は、トランプ氏の任期が4年だけであり、次の大統領はトランプ氏よりも、米国の従来の約束を守ることに前向きになるはずだと、自らを納得させようとしている。しかし、ドイツの次期首相就任が確実視されるフリードリヒ・メルツ氏を含む熱心な大西洋主義者の一部でさえも、一度壊れた信頼関係をすぐに元に戻すのは不可能だと認識している。そして今週も、信頼関係を壊す出来事が起きた。たとえトランプ氏ないし彼の後継者が率いる米国が再び同盟諸国に友好的になることがあったとしても、同盟諸国は自立できる力を持つ必要がある。
軍備の再増強と、多方面との新たな冷戦勃発の可能性が、世界経済に及ぼす打撃は一体どれほどなのだろうか。どのような同盟・協力関係が新たに構築されるのだろうか。
トランプ氏は、この複合的状況を関税によってさらに流動的にした。トランプ氏の言動を単なる脅しだと考えていた投資家たちは、その考えを改めさせられた。トランプ氏が、米経済と隣国との関係が損なわれるにもかかわらず、これら隣国からの輸入品に高い関税を適用したからだ。貿易障壁が高くなれば、世界の生産性と成長率は低下する。そして、こうした関税に対する報復措置によって、貿易障壁はさらに高くなっていくかもしれない。米国から関税を課された中国とカナダは、すぐに対抗策を打ち出した。
米政府が好き勝手に関税を導入すれば、企業に対する政府の影響力が強まる。企業は、自社が輸入する重要部品の関税免除を求めてロビー活動を行わざるを得なくなる。企業はまた、工場の立地やサプライヤーに関する決定を下す際に、貿易協定の恩恵を当てにできなくなる。その協定が現職大統領と同じ人物がまとめたものであってもだ。2018年の米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)のケースがそれに当てはまる。関税が実際に導入されない場合でも、こうした不透明感はそれ自体、企業活動に悪影響をもたらす。
景気の減速がどれほど深刻になり得るかについて懸念する声も既に出始めている。米国の景気後退(リセッション)について語るのは時期尚早だと筆者は考えるが、この「リ」から始まる言葉が不用意に使われるようになっている。米国債市場では再び「逆イールド」が発生し、10年債利回りが3カ月債利回りを下回っている。ただ、この昔からあるリセッションの警告シグナルは、昨年12月までの2年間点灯していたが、実際にはリセッションに至らなかった。
長期的には、より深刻な問題がある。欧州各国政府は、軍事費の増強を始める前の段階で既に多額の債務を抱えている。米国は、丁重な表現をすれば、「持続不可能な財政軌道」をたどっている。つまり債務は永遠に増え続け、抑制の見込みがない。どの国でも増税は政治的な難題だ。そうかと言って歳出削減が歓迎されることはほとんどなく、成長の妨げにもなる。世界貿易の効率が悪くなれば、債務への対処はさらに難しくなる。
先進国の政府債務が過剰になると、投資家はその国の債券から資金を引き揚げ、利回りが上昇する。これは2010~12年のユーロ圏経済危機の際に欧州で起きたことであり、英国は2022年、短命政権に終わったリズ・トラス首相の下で再びこれを体験した。第2次大戦後、多くの国々にとって解決策は「金融抑圧」だった。金融抑圧とは、金利を人為的に低く抑え、資本規制を用いて自国からの資金流出を防ぐ一方、インフレによって債務価値を減らすことだ。
欧米諸国で資本規制が行われるような状況には程遠い。だが、状況は急速に動いている。事態はどこまで悪化する可能性があるのか。これらのリスクからどのように資産を守るのか。筆者が持ち帰ったあのベルリンの壁のかけらはどこに行ったのだろう。壁の崩壊がもたらした希望が再び見つかれば素晴らしい。
木曜日、世界中で政府の借入コストが上昇し、ドイツ国債は再び売り込まれ、35年前のドイツ再統一以来最大の利回り上昇をもたらした。
債券価格と利回りは反対方向に動きます。つまり、資産価値が下がると利回りは上昇します。
ドイツ国債(ブンデス債とも呼ばれる)の利回りは水曜日に急騰し、10年債の利回りは約30ベーシスポイント上昇した。この売りは、ドイツの次期連立政権を形成すると広く見込まれている政党の議員らが、国防費の増額を可能にするために  歴史的な債務政策ルールを改革する計画に合意したことを受けて起きた。
ドイツ政府の借入コストは木曜日も全般的に上昇を続けた。10年国債の利回りは
ユーロ圏のベンチマークとされる5年国債利回りは、ロンドン時間午後12時28分時点で7ベーシスポイント上昇し、これまでの高値から下落した。
20年国債
それぞれ4ベーシスポイントと6ベーシスポイント上昇した。同時に、ドイツ最大手企業の株価指数であるDAXは過去最高値に達した。
ドイツ銀行の調査ストラテジスト、ジム・リード氏は木曜朝の顧客向けメモで、ドイツの政治のギアシフトが欧州におけるリスク資産への需要拡大につながったと述べた。
「反応の点では、10年国債利回りの上昇は1990年のドイツ再統一以来最大の日次上昇だった」と同氏は述べ、ユーロとドイツのDAX指数が
このニュースを受けて、欧州の資産は急騰した。「市場が一世代に一度の政策体制の転換を織り込んでいることは間違いない。それが欧州資産の大きなリスクオンの動きをもたらした」
「売り圧力の要因として、ドイツ株の好調とインフレ期待の上昇の両方が示すように、財政による需要刺激策への期待が最重要だった」とラボバンクのアナリストらは木曜朝の報告書で述べ、ドイツからの政治ニュースを受けてユーロ圏の10年インフレ・スワップが14ベーシスポイント急騰したことを指摘した。
木曜日には欧州全域で政府への融資意欲が減退し、地域全体の債券利回りが小幅上昇した。
欧州の借入コストの上昇は、欧州中央銀行による最新の金融政策発表を前にも起きている。市場は、中央銀行が木曜遅くに決定を発表する際に0.25ポイントの利下げが行われ、ユーロ圏のコア金利が2.5%に下がると予想している。
午後12時29分までに、ロンドン市場でイタリア10年債利回りは8ベーシスポイント上昇し、フランス10年債利回りは7ベーシスポイント上昇、スイス10年債利回りは午後早い時間帯の取引で約5ベーシスポイント上昇した。
英国10年国債(ギルト債)の利回りは約6ベーシスポイント上昇した。今年初め、英国政府の借入コストは経済不確実性の高まりにより数十年ぶりの高水準に達した。
さらに、債券売りは日本市場にも波及し、日本の10年国債の利回りは
木曜の取引時間中に7ベーシスポイント上昇した。
ロンドンのザイ・キャピタル・マーケッツの最高投資責任者、ナイーム・アスラム氏はCNBCに対し、日本の債券利回りは木曜日に16年ぶりの高値に近づいたこともあり、トレーダーは日本の債券利回りを注視すべきだと語った。
「上限金利にもかかわらず日本が利回りを上昇していることに注目してください。それはより広範な市場の緊張の兆候となる可能性があります」と同氏は電子メールでのコメントで述べた。
米国では、ベンチマークとなる10年国債の利回りは
直近では4ベーシスポイント上昇し、4.311%前後で取引された。
ADMインベスター・サービスのチーフエコノミスト兼グローバルストラテジストのマーク・オストワルド氏は木曜日、世界的な債券売りの背後には2つの主な要因があるとCNBCに語った。
「一つは、トランプ大統領の関税戦争がインフレを招くのではないかという懸念だ」と彼は電子メールでのコメントで述べた。
同氏は、ドイツの次期首相となる可能性が高いフリードリヒ・メルツ氏の欧州防衛に対する「『何でもやる』2.0」アプローチも債券価格に圧力をかけていると付け加えた。
「これは、EUが防衛費を約8000億ユーロ(8640億ドル)増額すると約束したことと相まって、政府の借入額の大幅な増加を意味し、ドイツ国外での債務負担が記録的な水準にある時期に起きている」とオストワルド氏は述べた。
バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチのG10金利・為替戦略部門グローバル責任者ラルフ・プロイサー氏は木曜日、市場は関税、地政学、米国の財政政策という3つの世界的な不確実性に悩まされていると電子メールで語った。
「これらすべての詳細が重要だが、今のところは不確実性のショックの方が大きく、金利市場が価格設定を難しくしている」と同氏は述べた。「インフレリスクを考えると、FRBは迅速な利下げに苦戦するかもしれないし、欧州はもはや米国の財政拡大ではなく自国の財政拡大に資金を提供している。関税や地政学は米国よりも世界の他の国々にとって依然として大きなダメージを与えている」
プロイサー氏は、特に欧州では、ドイツの新たな政治的立場がバンク・オブ・アメリカの見通しに課題をもたらしていると述べた。
「ドイツは財政姿勢のパラダイムシフトを起こしている」と同氏は述べた。「我々はこれに応じて10年国債の利回りが2.75%に達する可能性があると考えている。我々の基本シナリオからのこの大きな逸脱は、2025年に対する我々の想定に対する唯一の課題ではない。米国株式市場の調整と米国の短期金利の上昇は、我々の予測を取り巻くリスクをより広範に再考する必要があるかもしれないことを示唆している。」
UBSインベストメント・バンクの金利ストラテジスト、エマヌイル・カリマリス氏も、市場はドイツの財政改革案や欧州連合(EU)の「欧州再武装化」計画に「明らかに」反応したと述べた。「これらの計画は、欧州の防衛費増額が急務となっているため、発行パターンが大幅に増加していることを示唆している」と同氏は木曜日の電子メールでのコメントで述べた。「その結果、投資家は予想される供給増加を吸収するためにより高いプレミアムを要求する。成長とインフレにも影響があるが、今週は財政ニュースと供給の検討が中心だったとみている」
日本の国債利回りは木曜日に急上昇し、10年国債利回りは2009年6月以来の高水準を記録した。専門家は世界的な国債売り圧力を指摘している。
10年国債の利回りは8ベーシスポイント近く上昇し、2009年以来初めて1.5%を超えた。一方、30年国債は13ベーシスポイント上昇し、2008年以来初めて2.5%を突破した。
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのシニア債券ストラテジスト、マサヒコ・ルー氏は、国債の売りは世界的な利回りの上昇圧力と連動していると述べた。米国の10年国債利回りは5ベーシスポイント上昇し、4.317%となった。
野村の日本FX戦略責任者、後藤雄二郎氏はCNBCに対し、現在、日本国債市場の需給は好調ではないと語り、欧州国債の利回りが急上昇していることも指摘した。
「投資家は現在、EUとドイツ政府が財政支出を増やすと予想しており、それが世界の債券利回りに上昇圧力を加えている」と同氏は述べた。
ドイツの10年債利回りは2023年10月以来の高水準に急上昇し、2.8%に達した。
日本銀行の内田慎一副総裁の発言も売りを助長した。報道によると、内田副総裁は日銀が「金融市場と経済学者の主流の見解に沿ったペースで金利を引き上げる可能性が高い」と述べたという。
ルー氏は、日銀の利上げサイクル継続への期待に加え、日本の銀行などの投資家は3月の会計年度末を前にリスク選好度を低く抑えて様子見姿勢を保っていたと述べた。
先週、内田総裁は、最近の利回り上昇にもかかわらず、日銀は国債購入の規模縮小を続けるだろうとも述べたと報じられている。
日銀は昨年、超金融緩和政策の正常化に踏み切り、国債購入額を四半期ごとに約4000億円削減すると発表した。
バークレイズのアジアFX・金利戦略責任者ミトゥル・コテチャ氏は木曜日、CNBCの「スクワークボックスアジア」で、売り圧力の一因は日本のインフレ上昇にあると語り、「実際のインフレは実際の指標が示すものよりもさらに高いと言っている人が多い。だから、その一因は利回りを押し上げているインフレの動きにあると思う」と語った。
日本の総合インフレ率は日銀の目標である2%を34カ月連続で上回っており、直近の1月の数値は2年ぶりの高水準となる4%を記録した。
日銀が注視している生鮮食品とエネルギー価格を除いたいわゆる「コアコア」インフレ率は1月に2.5%と小幅上昇し、2024年3月以来の高水準となった。
インフレ率が上昇すると日銀によるさらなる利上げへの期待が高まり、債券利回りが上昇する。
米連邦政府の規模を劇的に縮小しようとするトランプ政権の矢継ぎ早の取り組みを受け、エコノミストの間では、2025年も労働市場が堅調に拡大するとの予測を見直す動きが出ている。
ブルームバーグ・エコノミクスは、トランプ大統領就任からの6週間ですでに数万人の連邦政府の雇用が削減されたと推計している。コメリカ・バンク、エバコアISI、バークレイズなどは、年末までに50万人超の雇用が失われる可能性があるとみている。
50万人という数字には民間部門への波及効果も含まれており、2024年の雇用増の4分の1が実質的に消える計算になる。7日発表の2月雇用統計では、連邦政府縮小の影響は限定的なものにとどまるとみられる。しかし、3月と4月の統計では、より顕著な影響が現れることになりそうだ。
再就職あっせん会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスのデータによると、米雇用主が2月に発表した人員削減数は前年比103%増の合計17万2017人と、新型コロナ禍初期に当たる2020年7月以来の高水準に達した。また別の統計では、連邦政府職員による失業保険申請件数は、利用可能な最新データである2月22日終了週で1634件と、前の週(614件)から急増した。
イーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」が各省庁に各種契約の見直しや打ち切りを求めているため、政府機関と取引のある民間企業も人員削減を始めている。
科学的イノベーションや国際開発への連邦政府からの拠出停止の動きは、大学や非営利団体(NPO)での雇用計画を変えつつある。首都ワシントンなど連邦政府職員が多く働く地域では、レストランやホテルなどのサービス業者もおそらく打撃を受けるだろう。
パンテオン・マクロエコノミクスのエコノミスト、サミュエル・トムズ、オリバー・アレン両氏は2月25日のリポートで、民間部門では10月までに10万人分の雇用が影響を受けると予想。「連邦政府の雇用削減による収入減や、DOGEの混乱を招くアプローチが引き起こす不確実性により、支出と雇用の後退が広がる公算が大きい」とした。
州政府には採用の動き
過去2年にわたって米国全体の雇用増の原動力となってきた州政府および地方自治体は、失業した連邦政府職員の採用に積極的だ。
首都ワシントンの玄関口であるユニオン駅では、自由の女神をモチーフにした広告に「DOGEが解雇と言うなら、われわれは採用と言おう」と書かれている。これは、ニューヨーク州が州政府関連の求人7000件への応募を呼び込むために始めたキャンペーンの一環だ。
7日発表の雇用統計は、連邦政府関連の人員削減が本格化する前の2月第2週にデータ収集が行われたため、DOGEが進める措置による影響は限定的だろう。  
しかし、その影響は今後数カ月で顕在化するとみられる。ホワイトハウスは連邦政府機関に対し、3月13日までに「大規模人員削減」の計画を提出するよう命じている。
こうした人員削減の波は失業率の上昇と個人消費の減速を招く恐れがあり、ウォール街にとっては米経済の下振れリスクが増えることを意味する。トランプ大統領の関税政策や移民強制送還も金融市場のセンチメントを支える役割は果たしていない。  
パンテオンのエコノミストは「これまでのDOGEの行動は米経済をリセッション(景気後退)に追い込むほどだとは思わない。しかし、労働市場への打撃はすぐに数字に表れるはずだ」としている。
●中東情勢
●エマージング
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
- **為替市場**:円とスイスフランが上昇し、ドルが下落。トランプ政権の関税政策に対する懸念がリスク回避の動きを強めた。ドル指数は0.3%下落し、一時4カ月ぶりの安値。ユーロはECBの利下げを受けて一時1.0854ドルと4カ月ぶりの高値を記録。
- **債券市場**:長期債利回りが上昇。トランプ政権の関税政策や「政府効率化省」による政府縮小の影響への懸念が広がる中、不安定な相場展開。米10年債利回りは4.28%、30年債は4.576%。米貿易赤字は過去最大。
- **株式市場**:反落。貿易政策の不透明感からナスダックが12月以降の調整局面入り。S&P500は一時200日移動平均線を下回る。半導体株が大幅安となり、フィラデルフィア半導体指数は4.5%下落。
- **商品市場**:金先物はほぼ横ばい(1オンス=2926.60ドル)。米原油先物(WTI)は小幅反発(1バレル=66.36ドル)。
ロンドン株式市場はまちまちの展開となり、FTSE100は続落したが、中型株のFTSE250は0.16%上昇。英国債利回りの上昇や米関税措置への不透明感が重しとなった。銀行株が大きく下落し、不動産関連株も下落。一方、建設・資材株は上昇した。  
欧州株式市場はほぼ横ばいで終了。ECBは市場予想通り利下げを決定したが、長期金利の上昇が重しとなった。銀行株や自動車株は上昇し、フォルクスワーゲンやBMWが特に買われた。  
ユーロ圏債券市場では、ドイツの「債務ブレーキ」改革により国債発行増の見通しが強まり、ドイツ10年債利回りが大幅に上昇。ECBの利下げ発表後も、声明文の変更を受けて利回り上昇が続いた。

備忘録(2025/3/5
●海外企業決算
●海外企業
●日本企業
●先進国政治動向
トランプ米大統領は4日夜、上下両院合同会議で施政方針演説を行った。2017年に自ら成立させた減税を延長するよう議会に訴えたほか、4月2日に相互関税を導入する方針を改めて示した。
演説は100分間に及び、アメリカン・プレジデンシー・プロジェクトによれば大統領の議会演説として米近代史上最長となった。
トランプ氏は民主党のバイデン前大統領を非難し、移民の犯罪者を「野蛮人」と呼び、「トランスジェンダー・イデオロギー」を攻撃。選挙戦中の集会をほうふつとさせた。
「米国は戻ってきた。わが国は、世界が目撃したことのないような、そしておそらく二度と目撃することのないような復活を遂げようとしている」と述べた。
<ゼレンスキー氏から書簡>
トランプ氏によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、両首脳の衝突によって宙に浮いている鉱物資源取引に署名する用意があると書簡で伝えてきたという。
トランプ氏は「われわれがロシアと真剣に話し合ったのと同時に、彼らが和平の準備ができているという強いシグナルを受け取った」と説明。「それは素晴らしいことではないか?」と語った。
ただ、外交政策には数分しか時間を割かず、中東に和平をもたらし、政権1期目に達成したイスラエルと一部アラブ諸国の国交正常化「アブラハム合意」を拡大するとの意欲を繰り返した。
<「国王はいない」>
演説開始直後に民主党議員らのやじで中断され、着席を拒否した同党のアル・グリーン下院議員が退場を命じられる混乱もあった。また、一部の民主党議員は「国王はいない」「これは普通ではない」などと書かれたプラカードを掲げ、開始から1時間も経たないうちに約30人が途中退席した。
グリーン議員の退場後、トランプ氏は「目の前にいる民主党員たちを見ると、彼らを喜ばせたり、立ち上がらせたり、笑わせたり、拍手させたりできる言葉が私には全くないということに気づいた」と語り、与野党の分断があらためて浮き彫りになった。
反論演説に立った民主党の穏健派エリッサ・スロットキン上院議員(ミシガン州選出)は、共和党のレーガン元大統領を引き合いにトランプ氏を批判。「冷戦時代に子どもだった者として、1980年代に大統領だったのがトランプではなくレーガンだったことに感謝している。トランプだったら冷戦でわれわれは敗れていただろう」と述べた。
<マスク氏を称賛>
トランプ氏は1月末の就任から6週間で、外交政策を大転換させ、緊密な同盟国との貿易戦争を引き起こし、連邦政府職員を大幅に削減するなどしている。
施政方針演説では、実業家イーロン・マスク氏と同氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」を称賛し、マスク氏が「数千億ドルの詐欺」を発見したと主張した。
<関税では多くの共和党議員が着席>
トランプ氏は関税政策について「他国は何十年もの間、米国に関税を課してきたが、今度はわれわれが他国に関税を課す番だ」と訴えた。
この点については多くの共和党議員が着席したままで、同氏の関税が党内を二分していることを浮き彫りにした。
トランプ氏は根強い物価高についてはあまり触れず、卵の値段についてバイデン氏を非難し、エネルギー増産によってインフレを引き下げると述べた。
また、大規模な減税法案の可決を議員に求める一方、連邦予算を均衡させると誓った。
トランプ米大統領はカナダとメキシコに対する関税について、米東部時間5日の午後に変更を発表する予定だと、ラトニック商務長官がブルームバーグテレビジョンで話した。大統領は自動車セクターなどを対象に税率の引き下げを検討しているという。
大統領による決定はこの日の午後に想定されていると、ラトニック氏は続けた。トランプ政権の関税政策は4月2日の再評価で品目の範囲を広げ、相互関税が導入されると改めて指摘した。
「関税は発動される。それははっきりさせておきたい。しかし大統領が考えているのは、4月2日までにどのセクターを対象に軽減措置を検討するかということだ」とラトニック氏。「何らかの中間になるだろうと考えている」と述べた。
トランプ政権は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)下での規制を準拠している特定の商品を対象に、関税の税率引き下げによる軽減を検討する。USMCAはトランプ氏が最初の大統領任期中、カナダ、メキシコと締結した貿易協定。
ホワイトハウスは5日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠する自動車について、メキシコとカナダに対する関税の適用を1カ月猶予すると発表した。
キャロライン・レビット大統領報道官は、今回の決定は自動車メーカーのフォード・モーターやゼネラル・モーターズおよびステランティスの経営陣からの要請を受けたものだとし、USMCAに基づいて輸入される自動車が対象になると述べた。
各社からは今のところコメントは得られていない。
関税の猶予は、デトロイトに本拠を置く自動車メーカーの製品だけでなく、貿易協定に準拠する全ての自動車に適用されると政府当局者らは明らかにした。
レビット氏はまた、ドナルド・トランプ大統領がこれらの自動車メーカーに認めたような猶予を追加で付与することにも前向きだと述べた。レビット氏は関税がある程度の経済的混乱を引き起こす可能性があることも認めた。
同氏はトランプ氏が4日夜の議会演説で、関税により経済的混乱が生じる可能性があると述べたことに触れ、「大統領は率直かつ正直に話している」とした。
今回の措置を受け、自動車や部品への高額な関税の影響を緩和しようとしていた業界幹部には数週間の猶予が与えられることになる。ただし政権が示唆した潜在的な関税の脅威が消えたわけではなく、自動車メーカーやサプライヤーの間では数カ月にわたって緊急対策の検討が続いている。
レビット氏は「国民は非常に大きな改革と変革をもたらすためにこの大統領を選んだ。これには国内の製造業基盤の再構築や、何十年もわが国を食い物にしてきた外国に立ち向かうことも含まれる。そのためには多少の混乱が必要だ」と述べた。
レビット氏は、トランプ氏が関税の猶予を検討する可能性のある他の分野については具体的に述べなかった。一方で4月2日に予定されている相互関税の発動など、これからの措置については例外を設けない可能性が高いとした。相互関税は、他国が課している関税や非関税障壁と米国の関税を同等にすることを目的としている。
ドナルド・トランプ米大統領は5日、カナダからの輸入品に対して発動した関税を巡り、いかなる歩み寄りも拒むそぶりを見せた。米国への合成麻薬「フェンタニル」の流入阻止に向けたカナダの対策が不十分だと主張した。
ソーシャルメディアへの投稿で、「カナダのジャスティン・トルドー首相から電話があり、関税について何ができるか尋ねられた。カナダとメキシコの国境から流入したフェンタニルで多くの人が亡くなっており、それが止まったことを確信させるものは何もないと伝えた」と述べた。
その上で、「彼は状況が改善していると話した。だが『それでは十分ではない』と私は言った。電話会談は『多少』友好的に終わった! 彼はカナダ総選挙がいつ実施されるのか教えてくれなかった。これは一体どういうことかと不思議に思った。そして、彼がこの問題を権力の維持に利用しようとしていることに気付いた。頑張れジャスティン!」と書き込んだ。
フランスのマクロン大統領は5日、ロシアは欧州全体にとって脅威であるとし、フランスの核の傘を欧州の同盟諸国に拡大することについて議論する用意があると述べた。国民向けの演説で明らかにした。
欧州の核保有国はフランスとイギリスのみ。
マクロン大統領はロシアとトランプ米政権による国際秩序の転覆に対する国民の懸念を認め、フランスは防衛費を増やす必要があり、ウクライナへの支援を続けると明言。ロシアの脅威を前に「傍観して何もしないのは正気の沙汰ではない」とした。
さらにフランスは核抑止力のおかげで欧州で独自の立場にあると強調し、その防衛力を欧州同盟国に拡大することについて議論する用意があると述べた。核兵器に関する最終決定はフランス大統領の手に委ねられるとした。
防衛支出の増額幅は明らかにしなかった。増額のための増税は行わないが、厳しい選択を迫られるとの見通しを示した。
また、米国が「われわれの側に留まる」と信じたいとしながらも、それが事実でなくなった場合に備えて欧州は備えていなければならないとも述べた。
●先進国中銀、金融当局
ドイツ連邦銀行(中央銀行)は4日、憲法で定められた借り入れ上限(「債務ブレーキ」)の抜本的な改革を提案した。これにより政府は2030年までに、最大2200億ユーロ(2320億ドル)の追加資金を国防と投資に充てることができるとしている。
ドイツの債務ブレーキは財政赤字を対国内総生産(GDP)比0.35%に制限するもので、一部の投資家や政治家からは経済成長を阻害しているとの批判が出ている。
独連銀の提案では、政府債務がGDPの60%未満の場合、財政赤字を対GDP比最大1.4%まで拡大することを認め、このうち0.9%ポイント相当を固定資産形成を中心とする投資に充てるとしている。
債務が60%以上の場合は、財政赤字をGDPの0.9%に制限し、全額を投資に充てることを提案している。
連銀は「(対GDP)債務比率が60%を下回る場合、借り入れ可能額は30年までに現状から合計2200億ユーロ増加する。債務比率が60%以上の場合でも、30年までに現状より1000億ユーロ増加する」と試算した。
ドイツの債務は現在GDPの62%程度で、緩やかなペースで減少する傾向にある。連銀の提案は、経済成長が鈍化しても政府債務はGDPの60%に戻ることを前提としている。
連銀は特別基金を設けて国防費を拡大することも選択肢の一つとしながらも、特別基金には制限があり透明性も低くなるため、債務ブレーキ改革の方が望ましいとの見解を示した。
ナーゲル独連銀総裁は「われわれはより予測しやすい債務ブレーキの抜本的な改革を望んでいるが、同様の財政効果を持つ特別基金も選択肢の一つだ」と述べた。
日銀の植田和男総裁は5日、地政学的緊張が国境を越えた資本フローの急激な反転を引き起こすなど、金融の安定に影響を及ぼす可能性があるとして、国際的な協力を呼びかけた。
植田総裁は都内で開かれた国際通貨基金(IMF)主催のセミナーで、アジア新興市場経済の強靭性が今後、地政学的緊張の高まりによって幾つかの形で試されることになると述べた。
各国間の地政学的緊張の高まりは国境を越えた資本フローの突然の反転を引き起こす可能性があるとし、その影響は先進国よりも新興国の方が大きくなる可能性があるとの見方を示した。
また、世界経済の分断で中銀間の金融政策スタンスの乖離が拡大し、それによって市場のボラティリティーが高まり、為替レートの動きに不安定な影響を及ぼす可能性があるとした。
さらに、世界の金融市場におけるノンバンクの存在感の高まりにより、資本フローの予測可能性が低下する可能性もあると指摘した。
その上で、地政学的緊張の激化がもたらし得るこうした影響を考慮すると、アジアの中央銀行とIMFは引き続き協力を深めていくべきだと述べた。
欧州中央銀行は木曜日の会合で今年2度目の利下げを行うと予想されているが、関税を巡る不確実性や地域の防衛費増額の可能性を背景に、政策担当者間の意見の相違が拡大する可能性がある。
市場は水曜日、3月の会合で0.25ポイントの利下げが行われ、ECBの政策金利は昨年半ばのピーク時の4%から2.5%に引き下げられることを完全に織り込んでいた。年末までにさらに2%に引き下げられることも織り込まれていた。
ユーロ圏の総合インフレ率は一貫して3%を下回り、経済成長も弱いままであることから、過去9か月間、比較的速いペースで金融緩和が行われると予想されてきた。ECB理事会はほぼ常に全会一致で決定を下し、市場の期待を導くために次のステップについて比較的確固とした指針を示してきた。
しかし、中央銀行は今や、政策が経済を刺激も抑制もせず、金利を据え置くことが期待される、激しく議論されている「中立金利」に手が届くところにいるようだ。政策担当者の間では、この水準が正確にどこなのか、また、低成長などの要因に対応して金利をその水準よりさらに引き下げる必要があるかどうかについて意見が分かれている。
ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は1月にCNBCに対し、金利範囲は1.75%から2.25%の間だと考えていると述べ、以前の1.75%から2.5%の間という予想から引き下げたが、ECB自体はそれ以降、より明確な示唆を出していない。
バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチのアナリストらは水曜日のメモで、今週の会合後、政策担当者間の内部対立が激化すると予想していると述べた。
「意見の相違が広がる中、これは我々の見解では最後の『緩やかな』利下げだ」と彼らは述べた。しかし、市場予想に先駆けて、ECBが9月までに政策金利を1.5%に引き下げるという見解を繰り返した。
ゴールドマン・サックスのアナリストらは「ECB政策担当者らの間ではここ数週間議論が活発化している」と指摘し、投票権を持つ理事会は、広範な金融情勢、銀行の貸出状況、事業報告、貸出が金利が依然として引き締め的であることを示しているかどうかに焦点を合わせると予想していると述べた。
支出増加
一方、市場と経済に動揺をもたらす多くの要因により、見通しは不透明となっている。したがって、木曜日に発表されるECBスタッフによるインフレと成長に関するマクロ経済予測は注目されるが、あまり疑ってかかる必要はないだろう。
米国は最大の貿易相手国に関税を課し、自動車を含む世界的産業の減速を引き起こすと予想されているが、関税はまだ引き下げられる可能性がある。ドナルド・トランプ米大統領は、次に高い関税を課すのは欧州連合だと述べているが、交渉の見通しもまだ不明だ。こうした関税の影響も不確実で、貿易の減速は経済活動を圧迫するだけでなく、ユーロにも重くのしかかり、輸入コストを上昇させる可能性がある。
一方、ウクライナ戦争をめぐる米国との関係が悪化する中、欧州各国政府は防衛費の増額に向けて準備を進めている。
ラガルド氏は、今週ドイツで発表された、同国の次期連立政権のパートナー候補との合意が及ぼす潜在的な影響について質問される可能性が高い。ドイツの債務規制改革に関する合意はまだ最終決定されていないが、防衛とインフラへの支出が最大1兆ユーロ増加すると予想されており、水曜日のこのニュースを受けてユーロは急騰した。
ラボバンクのアナリストらは、ユーロ高の要因は「ECBのさらなる利下げ余地がさらに限定されるだろうとの見方が一因」であり、改革と支出増加が「経済成長の上昇を約束している」と述べた。
マッコーリーのグローバル為替・金利ストラテジスト、ティエリー・ウィズマン氏は火曜日、欧州再軍備に向けたより広範な動きは「債務による財政拡大となり、経済活動を刺激し、ある程度のリフレーションを許し、ECBに今後の政策金利引き下げの範囲を再検討させる」ことになるだろうと述べた。
まだ制限がありますか?
こうした不確実性にもかかわらず、一部のアナリストは、ECBが木曜日にガイダンスを大幅に更新するとは予想していない。ECBは1月に、インフレは目標に向かって収束すると予想され、金融政策は引き続き引き締め的であり、中央銀行はデータ依存のアプローチを継続すると強調していた。
特に注目されるのは、政策が「引き締め的」であるというメッセージが変わるかどうか、そして次回4月の会合で金利据え置きが示唆されるかどうかだ。
「進行中の政治的、地政学的展開によって生じた異例の不確実性を考慮すると、ECB理事会は今週、その後の行動について選択肢を最大限に広げたいという思いに駆られると予想される」とシティのアナリストは水曜日に述べた。
「これは、金融政策が引き締め的であるとはもはや主張しない、より慎重なコミュニケーションにつながる可能性があると我々は考えている。しかし、我々はこれを緩和プロセスの一時停止が近づいている兆候と解釈することはないだろう。地政学的な変化は、最終的にはリフレ財政政策を生み出すかもしれないが、短期的には、金融緩和の議論を強める可能性が高いだろう。」
米連邦準備理事会(FRB)が5日に公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、全体的な経済活動は1月中旬以降、ばらつきはあるものの小幅に増加し、雇用はやや増え、物価は緩やかに上昇した。トランプ政権の政策が今後の成長や労働市場、物価に与える影響を巡って不透明感が高まる中でも企業や家計は楽観的な見方を維持した。
報告では経済活動に関して「6地区が変化なし、4地区が緩やかに成長、2地区がやや縮小を報告した」とし、「今後数カ月の経済活動に対する全体的な見通しはわずかに楽観的だ」と記した。
2月24日までの情報を基に作成した今回の報告で、不透明感に関する言及は47カ所と、1月の前回報告での17カ所から増加。関税への言及は倍増した。
トランプ米大統領は今月4日、メキシコとカナダからの輸入品の大半に25%の関税を課し、中国製品への追加関税を20%とした。カナダと中国は米製品への関税で報復するとし、メキシコのシェインバウム大統領も対抗措置を取ると表明した。
米政権は5日、米・メキシコ・カナダの貿易協定を通じて輸入される自動車は1カ月関税免除になると発表。ただ、市場では、新たな関税はインフレ加速と成長鈍化につながる可能性があるとの見方もある。
連銀報告では、インフレ見通しの高まりや企業活動の減速、製造業の新規受注減や原材料の値上がりが示されている。
FRBは3月18─19日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、現行の政策金利4.25─4.50%を据え置く方針を示唆している。FRBの目標2%に向けて徐々に鈍化してきたインフレを抑制する意向で、労働市場は健全に推移しており、利下げによる支援は必要ないとみている。関税措置のほか、減税や移民対策、連邦政府の雇用や歳出の削減など、トランプ政権の政策が今後数カ月、経済に与える影響を見極めたい考えだ。
●先進国経済指標
米供給管理協会(ISM)が5日発表した2月の非製造業総合指数は53.5と、前月の52.8から上昇した。価格指数が上昇し、最近みられる工場での原材料価格の急騰と相まって、今後数カ月でインフレが加速する可能性を示唆した。ロイターがまとめたエコノミスト予想は52.6だった。
新規受注指数は52.2と、前月の51.3から上昇。これを受け、価格指数は62.6と、前月の60.4から上昇した。
トランプ政権によるカナダ・メキシコ・中国製品への関税により、アボカドから自動車まで、あらゆる品目の価格が上昇すると予想される。
ISMが3日発表した2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)では、支払い価格指数が約3年半ぶりの水準に上昇したことが示された。 もっと見る
供給業者の納入を示す指数は53.4と、前月の53.0から上昇。50を超えると納入が遅くなっていることを示す。
雇用指数は53.9と、前月の52.3から上昇した。
調査では、コメントの中で関税について広く言及された。一部の業界は関税が「混乱を引き起こし」、「将来の事業活動に大きな不確実性」をもたらしていると指摘されている。
連邦政府の大幅な支出削減も企業の不安感を高め、今後数カ月で経済活動が鈍化する可能性を示唆している。高インフレと経済成長の鈍化が重なると、米連邦準備理事会(FRB)は難しい立場に追い込まれる可能性がある。
BMOキャピタル・マーケッツのシニアエコノミスト、サル・グアティエリ氏は「新たな関税の導入で経済は勢いを失い、インフレがじりじりと上昇する可能性が高い。FRBは今後数カ月、難しいバランス調整を迫られることになる。最も賢明な選択肢はじっと待つことだ」と述べた。
宿泊・飲食サービス部門の一部は「関税措置により価格設定などに混乱が生じ、購入が急増した後で急減する可能性がある」と報告した。
建設業界でも同様の意見が聞かれた。「関税の導入は、われわれのプロジェクトに多大なコスト影響を与えるだろう」などの指摘があった。
教育サービスでは「連邦政府の支援プログラムによる現在の潜在的な変化をまだ検証中」との声があった。農業、林業、漁業などでは「関税やその他の潜在的な政府措置のリスクにより、将来の事業活動について大きな不確実性がある」との報告があった。
トランプ米政権は4日未明、メキシコとカナダからの輸入品に25%の新たな関税を課したほか、中国製品への追加関税を2倍の20%に引き上げる措置を発動。3カ国と貿易戦争により、価格上昇圧力が一段と高まる可能性がある。
S&Pグローバルがまとめた2月のフランスのHCOBサービス部門購買担当者景気指数(PMI)改定値は45.3と前月の48.2から低下し、2023年10月以来の低水準を記録した。
好不況の分かれ目となる50を6カ月連続で下回った。
2月の落ち込みは新規事業が大幅に減少したことによるもので、企業は事業を維持するために受注残への依存を強めている。
ハンブルグ商業銀行のエコノミスト、タリク・カマル・チョードリー氏は「フランスのサービス部門は苦境に立たされている。需要の減少、全般的な景気低迷、顧客の消極的な姿勢が生産を押し下げている」と分析した。
仕入れ価格、人件費、外部のサービス料の上昇により、投入コストを示す指数は6カ月ぶりの高水準を記録した。しかし、企業はこれらのコストを十分に価格転嫁できず、サービス価格は小幅な上昇にとどまった。
新規事業指数は国内市場の不振を背景に23年11月以来の低水準となった。これを受けて事業見通しは一段と悪化した。
サービス業と製造業を合わせた総合PMIは45.1と1月の47.6から低下し、24年1月以来の低水準となった。これは主にサービス部門によるもので、製造業の落ち込みはやや緩やかだった。
雇用指数は20年8月以来の低水準だった。これは予算の制約と、景気が低迷する中での慎重な雇用方針が背景にある。
S&Pグローバルがまとめた2月のユーロ圏のHCOB総合購買担当者景気指数(PMI)改定値は50.2で、1月および2月速報値から変わらずだった。サービス業が弱い成長を維持する一方、製造業は縮小が和らいだ
全体的な需要の減少が深刻化し、総合新規事業指数は49.3から49.0に低下した。
サービスPMIは51.3から50.6に低下し3カ月ぶりの低水準。
欧州中央銀行(ECB)が注視しているサービスの物価圧力は依然強い。販売価格の指数は53.9から54.7に上昇し10カ月ぶり高水準となった。
ハンブルク商業銀行(HCOB)のチーフエコノミスト、サイラス・デラルビア氏は「次回のECB理事会を前に、賃金主導の投入コスト上昇に注目が集まっている。投入コスト・インフレに沈静化の兆しが見えない中、ECB内で次回会合で利下げ休止を議論したいという声があるのは理解できる」と述べた。
S&Pグローバルがまとめた2月のドイツのHCOBサービス業購買担当者景気指数(PMI)改定値(季節調整後)は51.1だった。
3カ月連続で好不況の分かれ目となる50を上回ったが、需要の低迷で前月の52.5から低下した。
新規受注が6カ月連続で減少。顧客である製造業の減産や予算の制約が響いた。ただ、減少ペースは現在の縮小局面で最低。輸出受注の著しい落ち込みが和らいだ。
受注残の減少ペースは2020年半ば以来の高水準だった。
雇用は2カ月連続で増加したが、増加ペースは前月から鈍化した。一部の企業は特にセールス部門で戦略的な雇用を進めた。
全体では今後1年に対する楽観度が前月から低下。先行きを示す指数は長期的なトレンドを下回った。
新政権樹立後の景気好転を期待する声もあったが、物価高と熟練労働者不足が依然、懸念要因となっている。
●金融市場、先進国トピックス
S&P500種株価指数の下落を受け、短期のヘッジ需要が高まったことで、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)先物のカーブは、期先より期近が高い逆ざや状態となった。
VIX先物の逆ざやについて、ボラティリティーに特化したヘッジファンド運営会社QVRアドバイザーズのパートナー兼ポートフォリオマネジャー、スコット・メイデル氏は「確かに市場のストレスを反映している」と分析した。
新型コロナウイルス禍の2020年は多くの期間を通じて、VIX先物のカーブは逆ざやだったが、過去数年はプレミアムが短期間しか続かなかった。しかし、CBOEのデリバティブ(金融派生商品)市場情報責任者のマンディ・シュ氏によれば、今回は状況が異なる可能性がある。
「経済の不確実性が高まる中で、ボラティリティーが持続する見通しをトレーダーは織り込みつつある。単なる市場への一時的ショックではない」と同氏は指摘した。
トランプ米大統領による度重なる貿易戦争の挑発は、米国にとって1930年代以来最大規模となる保護主義的な政策だ。短期的に米経済の成長にブレーキをかける公算が大きい。
それだけではない。「政府効率化省(DOGE)」のイーロン・マスク氏が進める連邦政府職員の削減や移民締め付けもある。政策の不確実性は、企業投資に潜在的な悪影響をもたらしている。
これらを全て合わせると、世界一の経済大国で経済成長が鈍化するというのがエコノミストらの間でまとまりつつあるコンセンサスだ。
減税などの経済成長を促す計画もあり、米経済が今年、大幅に縮小するリスクはほとんどないと見る向きは多いが、それでも「トランプセッション」、つまりトランプ氏が引き起こすリセッション(景気後退)が到来するのではないかとの懸念は拭いきれない。貿易戦争で報復合戦がエスカレートすれば、その危惧は一段と強まるだろう。
トランプ政権は、数十年にわたる貿易赤字によって空洞化した米国の産業を復興させ、製造セクターで適正な賃金を支払える雇用を国内に取り戻すには抜本的な改革が必要だと主張している。
ベッセント財務長官は関税の影響とそれが引き起こす世界市場の低迷に対する懸念を一蹴しているものの、世界中で株価が下落し、米S&P500種株価指数は昨年の米大統領選後の上昇をほぼ帳消しにした。
同長官は4日、トランプ政権は「経済のリバランス」を図っているとFOXニュースに説明。「中期的にメインストリートが焦点だ。ウォール街は素晴らしい成果を上げており、今後もそうだろう。しかし、中小企業と消費者も焦点だ」と述べた。
ウォール街であれ中小企業あるいは消費者であれ、米国の輸入約1兆5000億ドル(約225兆円)相当に対する新たな課税の影響が及ぶのは間違いない。4日時点で、米国の平均関税率は1940年代以来の高水準に達した。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のメーバ・カズン、ラナ・サジェディ両氏によれば、それだけでもスタグフレーション、すなわち低成長と高インフレの時代に入る可能性がある。「これらの関税は米経済にとってマイナスの供給ショックとして作用する」と2人はリポートで指摘した。
「ある程度の痛み」
トランプ政権発足当初に連邦準備制度が使用したモデルに基づく算出によると、直近の関税ショックで米国の国内総生産(GDP)は1.3%減り、コアインフレ率が0.8%上昇する可能性がある。
エール大学予算研究所のエコノミストは、2025年にはその半分程度の成長ショックが起こると予測しているが、その傷跡は何年も残り得ると警告している。
生産拠点の移転やサプライチェーンの再編が行われたとしても、トランプ氏による直近の関税と他国が講じる報復措置により、長期的にGDPは0.4%減少するとし、「これは、米経済が恒久的に年800億-1100億ドル縮小するのと同等の影響だ」と論じた。
トランプ氏は、米国民が貿易戦争で「ある程度の痛み」を感じるかもしれないと認めているが、自身の政策による長期的な利益は膨大なものになると述べている。政権によれば、議会で審議が始まった関税と規制緩和、減税が相まって投資ブームをけん引するという。
トランプ氏のチームはタカ派的な貿易政策が実を結んでいる証拠として、人工知能(AI)向け半導体製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が米国の工場に1000億ドルの追加投資を行うという最近の発表を挙げている。
政権が打ち出した政策のもう一つの重要な一角は、安価なエネルギーだ。トランプ氏が産油国のサウジアラビアとロシアに対し増産要請に応じるよう説得した兆しがあり、増産が実現すればガソリン価格が下がり、関税で打撃を受けている米国の消費者にいくらかの救済をもたらす可能性もある。
米経済はこれまで繰り返しその強靱(きょうじん)さを示し、リセッション予測を覆してきた。それでも、トランプショックが積み重なっているとウルフ・リサーチのチーフエコノミスト、 ステファニー・ロス氏は言う。「経済にとって本当にネガティブとなるものを設計するとしたら、それがこれだ」と同氏はブルームバーグテレビジョンに語った。
ウォール街の経営幹部や元当局者は、トランプ米大統領が主要貿易相手国に関税を課したことで、市場が不安定になることに対し身構えている。
カーライル・グループのハービー・シュワルツ最高経営責任者(CEO)は4日、ニューヨークで開催されたブルームバーグ・インベスト会議で「われわれは皆、シートベルトを締めるべきだ」と述べた。
カナダとメキシコからの輸入品のほとんどに25%の関税を課し、中国からの輸入品には20%の追加関税が課す措置が4日に発動した。
関税が経済全体の価格にどのような影響を与えるかという疑問の中で、市場は動揺。S&P500種種株価指数は4日に1.2%下げ、昨年11月5日のトランプ氏の選挙勝利以来の上げを失った。
ラザードのレイ・マクガイア社長はブルームバーグの会議で「少なくとも現代において、これほどの高関税は見たことがない」と述べた。
ルービン元米財務長官は、関税は最終的に経済に悪影響を及ぼすだろうと警告。 「関税障壁のある世界が新たな常態となるなら、われわれは皆、生産性と効率性が低下する」と述べ、関税は議会で承認された条約に違反し、成長と生産性を損なうと付け加えた。
ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、2018、19年の関税の最終ラウンドは短期的なインフレの押し上げにつながったが、当時はインフレが低過ぎる状態だったと指摘。高インフレが数年続いた今は「状況は異なっている」と述べた。
IBM副会長のゲーリー・コーン氏は、関税にはさまざまな目的があるが、資金を調達することが目的であるならば、それは富裕層ではない米国民を犠牲にして行われていると指摘した。関税は「本当に逆累進的な」資金調達方法だと述べた。
コーン氏は、トランプ政権1期目で国家経済会議(NEC)委員長を務めたが、鉄鋼とアルミニウムに高額の関税を課す計画について意見が合わず18年に辞任した。
疑問なのは、トランプ政権が一時的に関税を導入しているのか、それとも本格的な貿易戦争にエスカレートさせようとしているのかだとシュワルツ氏は述べた。 一時的な関税は「一時的な価格上昇を加速させるものではあっても持続的なインフレを引き起こすものではない」が、「貿易戦争は持続的なインフレを引き起こす」と指摘した。
政策の方向性を明確に示すとは限らない個々のデータに市場が過度に注目している可能性についても警告し、「関税に関する議論がどこに向かうのか、まだ分からない。時期尚早だ」と語った。
インフレに圧迫された買い物客はまず、有名ブランドの軽食や飲み物をあきらめ、低価格のプライベートブランド(PB)を手に取り始めた。しかし現在、コーヒーや卵、その他の基本的な食料品の価格が高騰する中、消費者はより安い多くの商品への支出も削っている。このため、米最大級のプライベートブランド食品・飲料のメーカー、ツリーハウス・フーズは厳しい状況に置かれている。
ウォルマート、ホールフーズ、トレーダー・ジョーズ、ターゲットなどの小売業者向けにクッキー、クラッカー、コーヒーなどを製造しているツリーハウスは、インフレで買い物客が安い食料品を選ぶようになったことから、ここ数四半期で業績を伸ばした。現在では、売上高の伸びが大幅に鈍化しているため、ツリーハウスは大幅なコスト削減と商品ラインアップの微調整を実行して利益率の維持に努めている。同社は少なくとも当面、買い物客の苦境が続くと予想している。
ツリーハウスのパトリック・オドネル最高財務責任者(CFO)は「消費者のストレスが近い将来軽減されるという見通しを示す有力な指標はない。もしそれが正しくなく、事態が好転するとしても、コスト削減を進めることはいずれにしても恩恵をもたらすと私は思う」と語った
食料雑貨小売業者は通常、自社の名を冠したストアブランド商品の製造をツリーハウスのようなサードパーティーに依存している。ウォルマート、クローガー、アルバートソンズやコストコ・ホールセールなどの大手がストアブランド商品への投資を増やす中、プライベートブランドはナショナルブランドの商品を上回るペースで成長した。その後、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に突入すると、消費者はお金に余裕がある状態で自宅にとどまることを余儀なくされ、なじみのあるナショナルブランドに戻った。ナショナルブランドはまた、一部のプライベートブランド商品よりも入手しやすい場合があった。
低価格のプライベートブランド商品が再び台頭してきたのには、幾つかの理由がある。食料品の価格上昇が買い物客を圧迫している以外に、小売店がストアブランド商品の種類を拡大していることがある。例えば、ウォルマートは「グレートバリュー」ブランドのほか、「ベターグッズ」という高級食料品ブランドの提供を始めた。
最近のツリーハウス幹部の話によると、買い物客は依然としてプライベートブランドのポテトチップス、クッキーやクラッカーを望んでいるものの、その意欲は薄れている。業界全体で見ると、ツリーハウスが商品を販売する分野におけるプライベートブランド商品の販売個数は、昨年12月末までの3カ月間で、前年同期比0.6%増にとどまった。ツリーハウスによれば、昨年1~3月期の販売個数は同4.5%増だった。ツリーハウスが販売する商品にはピクルス、キャンディー、非乳製品クリーマーや店内ベーカリー用製品も含まれる。
オドネル氏は「人々の動きは引き続き、プライベートブランド商品の購入に向かっており、われわれは一定のシェアを獲得しつつある。しかし、今この分野の成長は鈍化している」と指摘。「このためわれわれは、少なくとも短期的には考え方を少し変えつつある。それは『消費者の動向が不透明なので、利益の押し上げを助けるために調整可能な分野で調整する』というものだ」と語った。
これは、サプライチェーン(供給網)に関する支出を幾つかの手段で減らすことを意味する。ツリーハウスは、食品素材や包装材の供給業者とともに、コスト削減策に取り組んでいる。同社はまた、自社工場でのスイーツ、スナック、飲料のケース詰めの自動化といった効率化策によって、生産工程のスピードアップを図っている。ツリーハウスは、2027年までの4年間で、サプライチェーンの総コストを2億5000万ドル(約375億円)削減することを目標に掲げている。
また、消費者の要求に合致するような、さまざまなサイズ、価格帯の商品を取りそろえるため、価格やパッケージングに関しても細かい対応を行っている。こうした対応は、ツリーハウスが提供する商品のリストについても同様だ。
ツリーハウスは、一部分野では事業を拡大している。2023年にはファーマー・ブラザーズからコーヒー事業の一部を約1億ドルで買収。今年1月にはハリス・ティーを約2億0500万ドルで取得した。同社はその一方で、幾つかの事業から手を引いており、直近では、レディー・トゥ・ドリンク(RTD)事業から撤退した。オドネル氏はRTD事業について、「消費者の裁量的購入がほとんどで、ブランド商品がより強い足場を固めている分野」だと述べた。
オドネル氏によると「年内に幾つかの事業から撤退する可能性がある」という。同氏は、この影響が特定の製品にとどまり、カテゴリー全体には及ばない見込みだと述べたが、詳細を明らかにするのは控えた。
アナリストらは、ツリーハウスの事業運営の円滑化を期待している。同社は2023年にブロス(スープ)工場の稼働を保守点検と更新のために停止した後、フル稼働に戻すのに苦戦し、それが売り上げに影響した。ワッフルなどの冷凍グリドル製品の自主回収を行ったこともそれに追い打ちを掛けた。10-12月期の売上高は前年同期比0.6%減となり、5四半期連続の減収となった。
ウィリアム・ブレアのリサーチアナリスト、ジョン・アンダーセン氏は「ツリーハウスは事業運営を改善する必要がある。工場関連の問題もリコールも、これ以上出してはならない」と述べた。
同社が今年、是が非でも売り上げを伸ばそうと焦らず、コスト削減と収益性改善に集中している点は、需要が鈍化している環境では合理的だというのがアナリストらの見方だ。これは成長が鈍化することを意味する。ツリーハウスの今年1-3月期の調整後売上高は前年同期比で約3.5%減になる見通しだ。
だが、アンダーセン氏によると、これは必要であり、一時的な方針転換だ。同氏は「事業環境に応じた経営が必要だ。ツリーハウスが今年行っているのはまさにそれだ」と語った。
人工知能のブーム、データセンター増設の差し迫った必要性、そして特に交通機関におけるエネルギー転換の話題は、いずれも電力需要を刺激しており、既存の電力インフラはそれに追いつくのに苦労している。
専門家らはCNBCに対し、新たな需要地域の出現により電力供給許可申請が前例のないほど増加しているため、企業は老朽化しひっ迫した欧州の電力網への接続に5~8年待たされる状況に直面していると語った。IEAによると、少なくとも1,500ギガワットの世界のクリーンエネルギープロジェクトが送電網接続不足のために停止または遅延しており、各国がグリーン目標を達成するには送電網に約7,000億ドルの投資が必要だという。
マッキンゼーのパートナー、ディエゴ・エルナンデス・ディアス氏は、データセンターはコンピューティング処理用のサーバーを収容し、多くの場合大量の電力を必要とする大規模施設であり、電力網への接続をめぐる競争の激化の「主役」であると述べた。
同氏はCNBCに対し、顧客は送電網への接続に最長8年かかると見積もっていると語った。
「ヨーロッパには、すでに2人、3人、あるいはそれ以上の人々が同時に同じノードに接続しようとしている状況に直面している送電システム事業者が存在します。…誰が最初に接続できるかを競うため、個々の接続ポイント内に文字通りの待ち行列が存在します」と同氏は説明した。
電気集約型産業に注力するヘルナンデス氏は、過去18か月間、ほぼすべての業務がデータセンターに集中していたと述べ、同氏はこの分野が今後6年間で年率20%の成長率で成長すると予想している。テクノロジー大手がAIの覇権を競う中、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングに必要な設備の需要は今後も急増すると予想される。
エネルギー管理会社シュナイダーエレクトリック
1月の報告書では、欧州は電力不足の危機に直面しており、エネルギー制約のある地域では送電網接続に3年から5年の待ち時間があると警告した。
「これは一種の競争です」とシュナイダーエレクトリックのAIおよびデータセンター担当チーフアドボケートのスティーブン・カルリーニ氏はCNBCに語った。「多くの企業が可能な限り多くの容量を展開しようとしています。しかし、それはGPU(グラフィックスプロセッシングユニット)の数、利用可能な電力、許可によって制限されています。」
「一部の国では、年間に[送電網に接続するための]申請が1件か2件だった状況が、1,000件にまで増加しています」とカルリーニ氏は語った。
マッキンゼーのディアス氏は、この問題に対処するには、必要な投資額だけでなく、それを導入するスピードも重要だと述べた。同氏はまた、高圧送電網運用者の業務がますます複雑化していることや、年間400キロメートルの送電線建設を2,000キロメートルに増やす必要があるドイツの例を指摘した。
ディアス氏は、送電網への接続をめぐる競争は2025年には「維持されるか、あるいは激化する」と予想している。
海底ケーブル製造会社ネクサンスのイノベーション担当副社長ジェローム・フルニエ氏は、同社には70億~100億ユーロ(72億8000万~104億ドル)の「膨大な」受注残があると語った。ネクサンスのケーブルは、風力発電所や太陽光発電所で発電された電力を送電し、家庭や企業に電力を供給するために使用されている。
「誰もが考えている。我々の計画にはまだ他のプロジェクトを製造する余地があるだろうか?」と彼は語った。
フルニエ氏はCNBCに対し、ネクサンスのような企業は、洋上風力タービンの相互接続など、小規模なプロジェクトのための枠も確保しておくべきだと語った。「計画の負荷、収益性、そしてこの種の電化の間で適切なバランスを取らなければならない」と同氏は語った。
新たな電力エコシステム
シュナイダーエレクトリックのカルリーニ氏によると、電力制約により、データセンター運営者は独自の「電力バックアップのエコシステム」を開発する必要に迫られているという。
将来的には、データセンターがグリッドエコシステムの中心となることが期待されており、特に小型モジュール炉(電気を生み出す小型原子炉)を使用して独自の電力を生成できるようになると予想されます。
バッテリー貯蔵と戦略的充電もますます重要になってきているとカルリーニ氏は述べた。これらのシステムにより、電力網からのエネルギーを一時的に貯蔵し、追加のバックアップを提供することができる。
電力ソリューションプロバイダーAVKのCEOベン・プリチャード氏は、一部の欧州諸国は、これまでに見たことのない規模の100メガワットの大規模な送電網接続の要請に直面していると語った。
彼は、独立した独立した電力システムであるマイクログリッドの使用など、移行に関連したエネルギーソリューションを提唱しています。
シンクタンク、エンバーの上級エネルギー・気候アナリスト、ベアトリス・ペトロヴィッチ氏は、ノルウェーでは、顧客が一定の条件に基づいて送電網への接続を制限する柔軟な接続契約を試験的に導入していると強調した。これにより、顧客は特定の時間帯の送電網の状況に応じてエネルギー使用量を調整できる。
エンバーはまた、いわゆる「先見的な」送電網投資に関する規則の実施も求めた。これにより、送電網運営者は再生可能エネルギーや蓄電池の成長など、主要技術の市場動向を考慮した将来を見据えた計画を立てることができるようになるとペトロヴィッチ氏は説明した。
AVKのプリチャード氏は、企業が完全に脱炭素化されたエネルギースタックを持つことを可能にする法律の改善を進める国々が「競争の勝者」となり、データセンターの周りにより「優しいエコシステム」を提案するだろうと述べた。
結局のところ、電力網のボトルネックは「人々に違った考え方を促し、違った考え方を促されると、人々は異なる解決策に対してよりオープンになります。それが市場が大きく変化するきっかけになると思います」とプリチャード氏は語った。
EUの緩やかな成長
一部の新興産業や発展途上産業からの電力需要が高まっているにもかかわらず、電力需要の伸びに関しては、ヨーロッパは依然として世界の他の地域に遅れをとっています。高い電気料金と運用コストがこの地域の全体的な需要を妨げ、市場の細分化を招いています。
国際エネルギー機関(IEA)は今月、「電力の新時代」の到来を歓迎し、世界の需要予測を引き上げ、2025~2027年の成長率を3.9%と予測した。これは近年で最も速い成長率だ。
しかし、欧州の予測はもっと控えめだ。エネルギーシンクタンク、エンバーの1月の報告書によると、同地域では電力需要が2年間急激に減少した後、2024年にはわずか1%の増加にとどまる見通しだ。
「2024年は電力需要の転換点となる」と、報告書の執筆者の一人であるエンバーのペトロビッチ氏は述べた。「私たちが目にしたのは、長年の減少後の小さな回復ではあったが、初めての回復であり、それはブロック全体に広がった」
マッキンゼーのディアス氏は、ロシアのウクライナ侵攻とそれに続く制裁によって引き起こされたエネルギー危機以来、電気料金は1メガワット時あたり60~80ユーロ程度に落ち着いていると説明した。しかし、それでも過去20年間の価格より50~100%高い。
その結果、消費者のコストが急騰し、ヒートポンプや電気自動車の需要が減速する兆候が出ていると彼は述べた。
ディアス氏はさらに、ヨーロッパの製造業者にとって、エネルギー要件は「世界の他のどの地域よりも高く、潜在的にコストが高くなるだけでなく、より困難になる可能性もある」とヘルナンデス氏は述べた。
データセンターの「前例のない」成長は「全体の曲線をほんの少し押し上げているが、他のすべてがそれに逆らっている」とヘルナンデス氏は語った。
米金融市場はリセッション(景気後退)のリスクが高まりつつあるとのシグナルを発している。関税に関連した不透明感や景気の弱さを示す経済指標を背景に、ウォール街全体に不安が広がっている。
JPモルガン・チェースのモデルは、市場が示唆する景気下降の確率が4日に31%と、昨年11月末時点の17%から上昇したことを示した。5年債やベースメタルといった主要な指標は、景気縮小の可能性がさらに高くほぼ五分五分であることを示している。基本シナリオからはかけ離れているものの、ゴールドマン・サックス・グループの同様のモデルもリセッションリスクは23%と、1月時点の14%から上昇していることを示す。
資産運用担当者や企業幹部は、トランプ米大統領による関税の警告が引き起こす市場のボラティリティーにうまく対処できていない状況だ。トランプ氏は4日夜の議会演説で、包括的な関税政策の実施に伴い「多少の混乱」が生じる可能性を認めつつも、世界貿易秩序を再構築するという自身の計画を弁護した。
JPモルガンのストラテジスト、ニコラオス・パニグリツグルー氏は「米国の経済活動データは低調で、企業や消費者の信頼感はここ数週間に既に弱くなっている。3月4日に発動されたカナダとメキシコ、中国に対する関税で、企業や消費者の信頼感がこの先さらに大きな打撃を受けるリスクが高まっている」と指摘。「結果として、米リセッションの可能性は高まる。市場は当然ながら確率の上昇を織り込んだ」と述べた。
最近発表された2月のISM製造業総合景況指数は停滞の領域に近づいた。受注と雇用が縮小圏に沈んだ。2月の米消費者信頼感指数は2021年8月以来の大幅な落ち込みを記録した。
JPモルガンはさまざまな資産クラスのリセッション前のピークと景気後退期の底値を比較してリセッションの可能性を算出する。この指標によると、米5年債とベースメタル、小型株の価格はリセッションの確率が約50%であることを示唆している。一方、投資適格級のクレジット市場は同確率が8%と依然低いことを示唆。ただし、昨年11月末時点の事実上のゼロよりは高くなっている。
ゴールドマンのモデルは、信用スプレッドやシカゴ・オプション取引所(Cboe)のボラティリティー指数(VIX)など複数のクロスアセット指標に基づいている。12カ月後のフェデラルファンド(FF)金利に関する先物市場の予想を追跡する指標では、景気後退の確率を46%と示唆している。
ゴールドマンの資産配分調査責任者、クリスチャン・ミューラーグリスマン氏は「米利下げの織り込みと利回りカーブに大きな変化が生じている。これは潜在的なリセッションリスクを示唆する傾向がある」と電子メールで指摘。「VIXも既に上昇している。これはリセッションの周辺で急上昇する傾向があり、どちらかと言えば一致指数だ」と説明した。
●中東情勢
●エマージング
米国との貿易戦争のさなかにもかかわらず、中国の習近平国家主席は5日の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、野心的な成長目標を推進するという決意を示した。アナリストは、トランプ米大統領が関税をさらに引き上げる場合、中国政府は大規模な景気刺激策実施に迫られると指摘する。
中国は2025年の国内総生産(GDP)成長率目標を約5%と発表した。中国政府が3年連続で同じ成長率目標を設定するのは、約10年ぶりだ。成長の下限となるこの目標は、米国が対中関税を一律20%に引き上げてから、1日もたたないうちに発表された。関税はさらに引き上げられる見通しだ。
関税が成長の主要な推進力を損なう恐れがあるため、中国の当局者は、強さをアピールする一方で金融リスクを管理してバランスを取ろうとしている。米国との貿易減少によって生じた穴を埋めるために、大規模な景気刺激策を実施すれば、債務の急増を抑制しようと長年取り組んできた習氏の取り組みを損なうことになる。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降、過去の景気下降期や他の主要経済国とは対照的に、中国政府は「バズーカ」的な景気刺激策を避けてきた。
香港のギャブカル・ドラゴノミクスの中国調査担当副ディレクター、クリストファー・ベダー氏は、大幅な対中関税引き上げがなされた場合、「成長のために払ってもよいとする対価について、政治的な判断が下されることになるだろう」と述べた。
中国がさらなる景気刺激策を回避する一つの方法は、トランプ氏と取引することだ。中国政府がより多くの米国製品を購入することを約束したり、電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)のような国内企業に、米国工場を建設するよう提案したりすることが考えられる。トランプ氏は2月、習氏と会談したい意向を示したが、大統領就任以来、米中の電話会談はまだ実現していない。
マッコーリー・グループの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フー氏によると、トランプ氏が選挙戦中に公約した60%の対中関税が課された場合、中国の今年の成長率は2ポイント押し下げられる可能性がある。
中国政府高官はすでに、さらなる景気下支え策を示唆している。政府活動報告の草案作成を担当するシェン・ダニヤン氏は5日の記者会見で、「実際、マクロ経済政策には代替案があり、政策は状況の変化に先手を打って対応できるよう、動的に調整する」と述べた。
追加措置は、関税の影響を政府関係者が十分把握した上で、発表される可能性が高い。中国は4月中旬、公式な1-3月期(第1四半期)の経済成長率を発表し、その後、党中央政治政治局が経済についての会議を開く予定だ。
選択肢
関税によって生じた損失を埋めるために必要な費用について、アナリストの意見は分かれている。ユニオンバンケールプリヴェ(UBP)のアジア担当シニアエコノミスト、カルロス・カサノバ氏は「数十兆元規模になる」と話す。
オーバーシー・チャイニーズ銀行のアジア・マクロリサーチ部門責任者の謝棟銘氏によると、1兆ー2兆元(約20-41兆円)の追加刺激策を講じれば、成長目標を達成できるという。一方、UBSの中国担当チーフエコノミストの汪濤氏は、財政赤字が2兆元以上増える可能性があるとみている。
マッコーリーのフー氏は「中国では、最も強力なマクロ政策は、金融政策、財政政策、住宅政策の融合、つまり、中央銀行のバランスシートで財政支出を賄うことだ。輸出が大幅に減速した場合、政府はそれを利用するだろう」と予想した。
中国にとってのもう一つの選択肢は、通貨切り下げだ。ロビン・シン氏らモルガン・スタンレーのエコノミストの分析によると、2018、19年の米国との貿易摩擦の際には、人民元は米ドルに対して11.5%下落し、関税引き上げによる影響の約3分の2を相殺した。
今回はそう簡単にはいかなそうだ。人民元はすでに、中国人民銀行が為替変動を許容できる範囲の下限に達しており、そのような動きは資本流出を誘発するリスクがある。
今のところ、トランプ氏の関税に対し、習氏は冷静さを保ち、穏健な対応にとどめている。しかし、関税率が中国の成長軌道を深刻に脅かすとなれば、友好的な関係が保たれる保証はない。
成長目標の発表から数時間後、在米中国大使館はX(旧ツイッター)に「米国が望むのが関税戦争でも、貿易戦争でも、またはその他のいかなる戦争でも、われわれは最後まで戦い抜く覚悟だ」と投稿した。
中国の国家発展改革委員会(発改委)は5日、気候変動対策に関する主要な開発計画を発表した。洋上風力発電所の建設や、砂漠地帯での「新エネルギー基地」の建設加速などが含まれる。
発改委は報告書で、2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量をピークアウトさせ、60年までに実質ゼロを達成するよう積極的かつ慎重に取り組んでいくと表明した。
報告書にはチベットのヤルツァンポ川における水力発電施設の建設が盛り込まれた。このプロジェクトは下流の水流に影響を与える可能性があるとして、インドで懸念が高まっている。
また、チベットと香港、マカオ、広東省を直接結ぶ送電ルートを開発する計画にも言及した。
報告書は石炭火力発電所での低炭素技術の試験や、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を推進するとしながらも、今年は石炭の生産と供給を増やす方針を示した。
昨年は経済成長の単位当たりのCO2排出量を3.4%削減したが、「期待を下回った」とし、エネルギー消費の急速な増加と異常気象が原因と分析した。
グリーンピースの国際政策顧問Yao Zhe氏は「中国では再生可能エネルギーが世界最高のペースで拡大しているにもかかわらず、エネルギー効率がそれほど向上していないというのは不都合な真実だ」と語った。
中国は5日開幕した中国全国人民代表大会(全人代)で、低迷する個人消費の喚起を、技術革新や工業生産よりも重視する姿勢を示した。
李強首相は恒例の政府活動報告で、今年の経済成長率目標を昨年と同じく5%前後に設定するとともに、内需刺激と消費拡大に向けた「特別行動計画」を約束した。
これまで中国当局は、消費者の懐にカネを入れるような政策を取ることをためらってきた。しかし、米中貿易戦争再発の様相を呈する中、自国製品を海外ではなく国内で買ってもらうためにも、そうした政策の重要性は増すとみられている。
国泰君安のアナリストによると、今年の政府活動報告では「消費」が31回出てきて昨年の21回から増加した。「技術」は28回で昨年の26回からわずかに増えた。
昨年は、習近平国家主席が提唱した、先進的な製造業や技術発展への投資を意味する「新たな質の生産力」の発展と産業システムの近代化が最優先課題だった。
中国の家計支出が年間経済生産に占める割合は40%未満で、世界平均を約20ポイント下回る。これに対し投資は20ポイント上回る。
ガベカル・ドラゴノミクスのテクノロジーアナリスト、ティリー・ザン氏は「中国当局は、これまでの供給側の技術刺激策が不均衡を招き、消費者需要とサービス部門が低迷状態だったと認識している」と述べた。
今年の消費拡大策の一つが、昨年から始まり、現在は電気自動車(EV)や家電を対象とする下取り補助制度の大幅な拡充だ。同制度の支援に向けた超長期特別国債の発行計画を3000億元(約412億6000万ドル)とし、昨年より1500億元増額した。
財政省の報告書は「このプログラムをより多くの製品に拡大し、補助金の請求手続きを改正、古い製品のリサイクルシステムを改善することで、高額製品の消費を大幅に拡大させることが可能になる」としている。
子育てや高齢者介護、医療支援の強化も打ち出した。消費者が安心して支出するためには、社会のセーフティネット整備が必要との認識からだ。このほか、デジタル・スマート製品、文化、観光、スポーツへの支出拡大や、消費を刺激するために免税店関連の規則改正も打ち出した。
<技術は依然重点分野>
とはいえ、技術が重点分野であることには変わりない。政府活動報告は「複雑かつ厳しさを増す外部環境は、貿易、科学、技術などの分野で中国により大きな影響を及ぼす可能性がある」と警告。米国について直接言及していないが、プレナム・チャイナ・リサーチのパートナー、ボー・ゼンギュアン氏は「中国に対する米国の技術封じ込め措置がさらに強化されることは明らかだ」と述べた。
政府活動報告は、人工知能(AI)にも何度も言及した。国内新興AI企業ディープシークの台頭を背景に、若手の科学者やエンジニアに強力な支援と「重要な責任」を与える計画とし、「中国は、探求を奨励し、失敗を許容する革新を可能にする環境づくりに努める」と述べた。
バイオ製造、量子技術、エンボディドAI(身体性を持つAI)、第6世代移動通信システム(6G)技術など「未来の産業」を育成する方針も示した。
仮想現実(VR)、高度コンピューティング、オープンソースの半導体設計「RISC─V(リスクファイブ)」において発展の推進を目指し、資金援助を増やし、ベンチャーキャピタル投資の成長を促すとした。
ザン氏は、報告書が「効果的な投資」と強調しているのは、半導体で見られた大規模な国家介入からの脱却、自立に関する当局の姿勢軟化を示唆すると指摘。「当局は、全ての分野で自給自足を達成することは非現実的かもしれないと認識し、既存の地位を守ることよりも将来の技術開発を主導することに重点を置いているようだ」と述べた。
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が5日開幕した。政府活動報告は今年の経済成長率目標を5%前後とし、前年と同じ伸び率に設定した。
李強首相が演説を行い、今年の重要政策を詳しく説明する。
デフレ圧力を回避し、米国の追加関税の影響を緩和するため、昨年よりも財政出動を拡大する方針。財政赤字目標は国内総生産(GDP)比4%とし、昨年の3%から引き上げた。また、消費を刺激するための「特別行動計画」を約束した。
特別国債の発行は1兆3000億元(1790億ドル)を計画。昨年は1兆元だった。
地方政府には4兆4000億元の特別債発行を認める。昨年は3兆9000億元。
ハイテク産業への支援を継続し、投資効率を向上させることも約束した。
国際通貨基金(IMF)の元中国担当ディレクターであるコーネル大学のエスワール・プラサド教授(貿易政策)は「外部環境が悪化し、デフレ圧力が定着しつつある中、国内の家計消費需要を押し上げることが重要な優先事項だ。所得支援とセーフティネット強化に向けた持続的な対策が不可欠となっている」と語った。
財新/S&Pグローバルが5日発表した2月の中国サービス部門購買担当者景気指数(PMI)は51.4と、1月の51.0から上昇した。輸出受注を含む需要の回復ペースが速まった。
PMIは50を上回れば景況拡大を、下回れば悪化を示す。
3カ月ぶりに雇用が増加したほか、1年先の事業見通しを示すサブ指数も3カ月ぶりの高水準となり、企業は需要拡大を楽観視している。
一部原材料価格の下落もあり、投入コストは2020年6月以来初めて低下した。
製造業とサービス業を合わせた総合PMIは前月の51.1から51.5に上昇した。
●プロファイ、インフラ、自然災害
再生可能エネルギー投資から今はリターンを得られない。グリーンエネルギー移行に特化したヘッジファンドの創設者が、ファンド立ち上げ1年未満のタイミングでこうした見方を示している。
ロンドンを拠点とするカノウ・キャピタル創設者兼最高投資責任者(CIO)ニシャント・グプタ氏は、「太陽光や風力、水素、燃料電池などクリーン関連のセクター全体が今は死んだも同然だ」と語った。
米国での政治的逆風や戦争によって悪化するエネルギー危機、金利高止まりといった逆境に直面し、クリーンエネルギー業界の大部分が失速している。S&Pグローバル・クリーン・エネルギー指数は過去1年で20%下げた。これに対しS&P500種株価指数は16%上昇している。
トランプ政権下の米国では気候変動関連の政策が後退しており、グリーン重視の投資家の多くが様子見の姿勢だ。
グプタ氏は、昨年自らのファンドを立ち上げる以前は運用資産約27億ドル(約4000億円)のヘッジファンド、クリーン・エナジー・トランジションで働いていた。「ファンダメンタルズは非常に悪い」と言及した上で、「長期的なことではなく、足元の弱さについて話している」と述べた。
その弱さは数年前から徐々に顕在化してきた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後にグリーン関連資産の価値は最初の大きな打撃を受け、投資戦略の売り込みも難しくなった。この機に乗じ米共和党は、環境・社会重視で投資する戦略を禁止したり訴訟の可能性をちらつかせたりした。
そうした逆風が吹く中でも、クリーンエネルギー移行に向けた長期のニーズは依然存在すると、グプタ氏は指摘。約1億ドルの資産を管理する同氏のヘッジファンドは、需給の力学を通じて必然的に価格が上昇する市場の発掘に集中的に取り組む。
グプタ氏は「エネルギー移行関連の投資は1兆8000億ドル程度から、2030年までに5兆-6兆ドルに増加する見込みだ」と指摘。「そのうち約3分の1がサプライチェーンに費やされるのを踏まえ、サプライチェーンのボトルネックを中核の投資機会として特定するのに重点を置いている」と話す。
同氏が注目する投資機会の一例は、ノースカロライナ州に拠点を置くインガソール・ランド。エア・ガスコンプレッサー、真空システムやポンプといったエネルギーフロー制御機器を製造する。
インガソール・ランド株にはキャピタル・グループやバンガード・グループ、ブラックロックなどが投資しており、過去3年間で約80%上昇。今年は7%下げている。
「コンプレッサーの耐用期間にかかる電気代は購入価格を容易に上回る可能性もあり、効率的な機器や継続的な性能向上への投資が、長期的で大幅な節約につながる可能性がある」とグプタ氏は説明している。
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
**為替市場:**  
ユーロは対ドルで4カ月ぶりの高値を更新。ドイツの「債務ブレーキ」改革が欧州の成長見通しを改善させるとの期待が影響。一方、貿易摩擦やインフレの影響でドルは大半の通貨に対し下落し、ドル/円は0.6%安の148.87円となった。  
**債券市場:**  
米国債利回りは上昇。2月の米雇用統計の鈍化で一時下落するも、ISM非製造業総合指数の好結果を受け上昇。10年債利回りは4.269%、30年債は4.559%。  
**株式市場:**  
米国株は反発。トランプ大統領がカナダ・メキシコへの関税延期を検討しているとの報道で上昇。フォードは5.8%、GMは7.2%上昇。テスラは2.6%高。一方、インテルはトランプ氏のCHIPS法廃止発言を受け2.4%下落。  
**商品市場:**  
- **金:** ドル安を受け、3日続伸し1オンス=2926.00ドル。  
- **原油:** 在庫増加により4営業日続落。WTI4月物は2.86%安の66.31ドルで、約半年ぶりの安値を記録。
ロンドン株式市場はまちまちの動きで、FTSE100は小幅下落、FTSE250は0.89%上昇。英ポンド高が輸出企業に重しとなり、ユニリーバやシェルが下落。一方、貴金属、銀行、航空宇宙・防衛、建設・資材、旅行・娯楽関連株は上昇した。  
欧州株式市場は反発し、ドイツのDAX指数が3.38%高。ドイツの政党間合意(インフラ基金創設・借り入れ規則見直し)が市場に好感された。特に建設・資材株が急伸。ECB理事会での利下げ決定が注目されている。  
ユーロ圏債券市場ではドイツの長期ゾーン国債売りが膨らみ、利回りが大幅上昇。ドイツ10年債利回りは30bp上昇の2.785%、30年債は24bp上昇の3.069%。ECBの金利見通しに敏感な2年債利回りも上昇し、12月の預金金利は2.02%になるとの市場予想が織り込まれた。

備忘録(2025/3/4
●海外企業決算
●海外企業
トランプ米大統領は4日、米国の銀行がカナダで事業展開を認められていない一方で、カナダの銀行は米国で営業していることは公平ではないとの考えを示した。
トランプ氏は「カナダは米国の銀行がカナダで事業を展開することを認めていないが、カナダの銀行は米国であふれている。こうした状況をフェアと言えるだろうか」と自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。
ただ、カナダ銀行協会によると、2月時点で16行の米銀がカナダ国内で事業を展開。企業向け融資のほか、財務サービス、クレジットカード事業、投資銀行業務、住宅ローンなど幅広い金融サービスを手掛けているという。
同協会によると、こうした米銀は国境を越えた事業を行う顧客だけでなく、カナダ国内のリテール市場でもサービスを提供しており、カナダにおける外国銀行資産の半分を米銀が占めている。
●日本企業
セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのアリマンタシォン・クシュタールからの買収提案を拒否するとの一部報道を受け、セブンは4日、そのような事実はないとするコメントを発表した。
株主価値実現のため、クシュタールからの提案を含め、引き続き全ての戦略的選択肢を精査・検討するとセブンは説明。米競争法上の課題に対処できる案を実現できるどうかかを確認するため、セブンの特別委員会はクシュタールと建設的に協議を続けているとした。
複数の関係者によると、セブンは現時点で買収提案の可否について判断を下すのは難しいと見ている。米国で広く事業を展開するセブンをクシュタールが買収する場合の独占禁止法上の懸念に関する調査に時間がかかるとみられるからだ。これに対して、セブンの広報担当者は、競争法上の深刻な課題に対処しうる実行可能な案を実現できるかを確認するため建設的に協議を続けているとコメントした。
クシュタールからの買収提案を拒否し、自力での企業価値向上を目指す方針を固めたと、読売新聞が4日報道。セブン株は同日反落し、一時前日比12%安の1939円を付け、24年8月21日以来の日中安値となった。セブンのコメントを受けて、同社株は下げ幅を縮小した。  
香港のヘッジファンド運営会社オアシス・マネジメントの設立者、セス・フィッシャー最高投資責任者(CIO)は、クシュタールが株主にとって実質的により良い提案をした場合、セブンが最善のガバナンスを遵守することを引き続き期待していると述べた。さらに、クシュタールのデューデリジェンス(資産査定)を可能にし、株主に決定させることが大事だとした。
三井住友フィナンシャルグループ(FG)が、銀行の温室効果ガス排出量削減を促す「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から脱退することを決めたことが4日、分かった。同組織からは米トランプ政権の気候変動政策の後退を背景に、北米金融機関の脱退が続いていた。
三井住友FGの広報担当者が、ブルームバーグの取材に対し電子メールで事実を確認した。グローバルな動向を総合的に踏まえて判断したとしている。同社は2050年に投融資ポートフォリオ全体をネットゼロとする目標を独自に設定し取り組みを進めており、社内体制の整備・高度化も進んできていることから、NZBAへの加盟を継続せずとも独自に対応できる状況にあると説明した。
NZBAは50年までに投融資のポートフォリオにおける温室効果ガス排出量のネットゼロを目指す民間金融機関の連合で、100以上の金融機関が加盟。昨年12月から年明けにかけて、ゴールドマン・サックス・グループやJPモルガン・チェースなど主要米銀の脱退が相次いだ。日本の大手金融機関の脱退方針が明らかになるのは初めて。 
日本の金融機関では三井住友FGの他、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)やみずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングス(HD)など6社がNZBAに加盟している。日本経済新聞電子版は4日、三井住友FGがNZBAからの脱退を決め、野村HDも脱退を検討していると先に報じていた。
野村HDの広報担当者は、同社はネットゼロに関する取り組みを注視していくと電話でコメントした。
●先進国政治動向
トランプ米大統領は4日夜(日本時間5日午前)、上下両院合同会議で施政方針について演説する。テーマは「アメリカンドリームの再生」で、経済やインフレ、関税、ウクライナでの戦争、ロシアとの関係、中東情勢などが主なトピックとなる見通しだ。
政権2期目のトランプ氏は1月20日の就任から1カ月余りで、連邦政府職員の間に混乱を生じさせ、同盟国の間に衝撃を広げている。
トランプ氏は2大貿易相手国のカナダとメキシコに新たに関税を賦課した。一方、同氏のロシア寄りの発言によって、ウクライナでの戦争の解決を巡る見通しに不確実性が高まっている。トランプ氏はウクライナに対する全ての軍事支援の一時停止を命じた。
他方で、米政府当局者はウクライナとの鉱物資源のディール(取引)の復活に急きょ取り組んでいると、複数の関係者が明らかにした。トランプ氏が4日夜の議会演説でウクライナとのディールを発表することを目標にしているという。
国内では、イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」が進める歳出削減・連邦職員の大量解雇に対し全米で抗議活動が行われ、共和党議員の一部は有権者の怒りに直面している。
トランプ氏は米経済を立て直し、インフレを抑制することを公約に掲げてホワイトハウス返り咲きを果たした。だが、CBSニュースとユーガブが共同で実施した世論調査によれば、インフレ対策をトランプ氏が「かなり」優先しているとした回答はわずか29%で、経済についてそうした見方をしたのは36%にとどまった。
トランプ米政権とウクライナは、ウクライナの鉱物資源の権益に関する協定に署名する見通し。関係筋4人が4日明らかにした。トランプ大統領が4日夜の議会演説で合意を発表したいと顧問らに伝えたという。
ただ署名はまだ行われておらず、状況は変わる可能性がある。
トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は2月28日、ホワイトハウスで会談。ウクライナ鉱物資源に関する合意文書に署名する予定だったが、記者団の前でロシアへの対応などを巡り激しい言葉の応酬が相次ぎ、ゼレンスキー氏は合意文書に署名せず、トランプ氏の指示でホワイトハウスを後にした。
ホワイトハウスはコメント要請に応じていない。ウクライナ大統領府や在ワシントンのウクライナ大使館のコメントも得られていない。
関係者によると、米当局者はここ数日間に、先の首脳会談決裂にもかかわらず鉱物資源協定に署名することについてウクライナ当局者と協議した。トランプ氏に公に謝罪するようゼレンスキー氏を説得することを求めたという。
ゼレンスキー氏は4日、先の首脳会談での衝突について「会談が予定通り進まず、このような結果となったことは遺憾だ」とXに投稿。「ウクライナは恒久的な平和の実現に向け、可能な限り早期に交渉の席に着く用意がある」と述べた。
合意に変更が加えられたかどうかは不明だ。先週署名される予定だった合意は、ウクライナに対する明確な安全の保証を含まない一方、ウクライナの鉱物資源から得られる収益へのアクセスを米国に与える内容だった。ウクライナが有する鉱物資源から将来的に得られる収益の50%を、両国が共同管理する復興投資基金に拠出することも想定されていた。
●先進国中銀、金融当局
米短期金融市場は早ければ5月にも米政策金利が引き下げられるとの見方を織り込んでいる。すでに軟化しつつある米経済が、トランプ米大統領の関税引き上げで打撃を受けるとの懸念が背景にある。
この2週間に市場で積み上がってきた懸念は、ここに来て金融市場に著しい見直しを促した。株価は下げ、短期債利回りは低下。トレーダーらは米利下げ再開を織り込み始めた。世界経済の成長をけん引してきた米経済はこれまで、驚異的な底堅さを見せていたものの、トランプ大統領の政策によって失速している。
トランプ大統領がメキシコ、カナダ、中国に対する関税を予定通り発動したことで、世界の経済成長に与える影響が懸念されている。政府職員の大規模な解雇と連邦支出の削減は、米経済成長と消費者信頼感をさらに損なうとみられている。
RJオブライアンのマネジングディレクター、ジョン・ブレイディ氏は「世界の金融市場ではインフレよりも経済成長への懸念が深まっている。関税政策の強化が関係している」と述べた。関税以外では「米政府支出の基本的な反転が、成長と信頼感への不安を高めている」と指摘。さらに米政府は「過去4年続いた浪費型財政は終わったと明白にした」と同氏は続けた。
米国債市場では金融政策の変化に敏感な短期債を中心に相場が上昇。2年債利回りは一時11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下した。30年債は一時10bp上昇した。
スティープ化の動きは欧州でも出ている。ユーロ圏はトランプ関税の次の標的となると見込まれており、欧州中央銀行(ECB)の利下げ観測が高まった。一方、欧州連合(EU)が防衛費を大きく増額する計画であることから、財政赤字の拡大が意識され、長期債利回りを押し上げた。
ジェフリーズの欧州担当チーフエコノミスト兼ストラテジスト、モヒト・クマール氏は「関税はインフレではなく、成長に関する問題だというのが依然として当社の見解だ」と指摘。とりわけ英国とドイツでイールドカーブのスティープ化の動きが加速すると予想している。
市場参加者にとって、トランプ氏が実際に関税発動に踏み切ったことは転換点となる。関税が単なる交渉戦術ではないことが明確になったためだ。カナダとメキシコに対する25%の関税発動に加え、中国への関税が20%に引き上げられたことで、年間およそ1兆5000億ドル(約223兆円)相当の輸入品に影響が及ぶ見通しだ。
XTBのリサーチディレクター、キャスリーン・ブルックス氏は「関税リスクが実体化したことで、市場はそのリスクを再評価する必要がある」と指摘。「7日発表の雇用統計まで、向こう数日は不安定な動きが続くかもしれない」と述べた。
ドル先高観に疑問も
貿易摩擦の激化に伴い、米経済見通しに対する懸念は強まっている。米供給管理協会(ISM)が3日発表した2月の製造業総合景況指数は停滞の領域に近づいたことを示唆しており、米経済の動向を把握する上で雇用統計の重要性がさらに高まった。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)の市場戦略グローバル責任者、ウィン・シン氏は、米経済データの悪化が続けば、「力強い成長、高インフレ、タカ派的な連邦準備制度理事会(FRB)というドル高を支えてきた根拠に疑問が生じる」と話す。
関税に加え、米国による対ウクライナ軍事支援の一時停止、EUの防衛費増額に関するニュースも相次ぎ伝わったことで、市場ではリスク回避の動きが加速。スイス・フランと円への逃避買いが一時膨らんだ。一方、これまで関税を巡る材料で恩恵を受けていたブルームバーグ・ドル・スポット指数は一時0.7%下落した。
INGの為替戦略責任者、クリス・ターナー氏は「今後は不安定な展開になるだろう」と指摘。欧州の防衛費増額計画と米経済見通しを巡る懸念が、足元でドルの重しになっていると続けた。それでも「今年前半はドルが全般的に上昇するとの予想を変えていない」という。
●先進国経済指標
●金融市場、先進国トピックス
ドイツの次期政権が国防支出を大幅に拡大し、同国で冷戦後最大の国防投資ブームが訪れるとの観測が高まっている。
関係筋がロイターに明らかにしたところによると、次期政権樹立に向けて連立交渉中の政党は、防衛とインフラに関してそれぞれ数千億ユーロ規模の特別基金を早急に設置することを検討している。
ドイツの次期政権が国防支出を大幅に拡大し、同国で冷戦後最大の国防投資ブームが訪れるとの観測が高まっている。
関係筋がロイターに明らかにしたところによると、次期政権樹立に向けて連立交渉中の政党は、防衛とインフラに関してそれぞれ数千億ユーロ規模の特別基金を早急に設置することを検討している。
長期にわたる緊縮財政の結果、橋や鉄道などドイツの公共インフラは老朽化が深刻なため、インフラ基金のほうがより大きな効果をもたらす可能性がある。
次期首相が有力視されるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のメルツ党首は特別基金の設置を確認していない。だが、ロイターの報道を受けて、ティッセンクルップ、ヘンソルト、レンク、ラインメタル、BAEシステムズ、レオナルドなどの防衛関連企業の株価は3日午前の取引で2桁の上昇率を記録した。
トランプ米大統領が世界貿易と地政学的な面に緊張をもたらす高関税政策を打ち出したことで、世界貿易の80%を担う国際海運業界は先行き不透明感に覆われている。
 こうした中、今週カリフォルニア州ロングビーチで開催されるS&Pグローバル(SPGI.N), opens new tab主催の「TPMコンテナ海運・サプライチェーン会議」に注目が集まる。毎年、この会議はコンテナ輸送契約交渉シーズンの幕開けを告げるイベントだ。
 会議にはデンマークの海運大手マースクやドイツのハパックロイド、主要荷主の米ウォルマートのほか、大手物流企業のデンマークのDSV、ドイツのDHLなどの担当者が参加する。
いずれの企業も保護主義の高まりに対応せざるを得ない。国際貿易は縮小しかねず、これまで大型コンテナ船所有者として大幅な利益を上げ、価格決定で優位に立っていたものの、今後は持ち前の交渉力が弱まる恐れがある。
ハパックロイドのロルフ・ハベン・ヤンセン最高経営責任者(CEO)は3日、記者団の取材に答え、「世界は極めて予測不可能な状況になった」と警戒感を隠さなかった。同CEOはさらに「高関税や料金割り増しは世界経済に好ましくない」と指摘し、海運業界の成長や、支えてくれる消費者に負担をかけてしまうと懸念を示した。
世界貿易はトランプ政権の高関税政策以前からサプライチェーン(供給網)問題を抱えていた。地球温暖化がもたらす異常気象に加え、中東パレスチナ自治区ガザでの武力衝突を背景にスエズ運河回避の航路選択により、海運コストの急増に直面している。そうした中で起きたのが、世界最大の輸入国である米国が自由貿易主義から保護主義に転換したことだ。
米国のコンテナ輸入は、プラスチック製おもちゃから機械部品に至るまで急増している。これは一部には、関税を回避するための先行購入が影響している。しかし、貿易の専門家は、米政府の高関税に対して相手国が報復関税を発動し、インフレに疲弊した消費者が関税によるコスト上昇の打撃を受けることで、輸入が落ち込む可能性が高いと警鐘を鳴らしている。これは輸送需要や運賃に圧力をかける要因となり得る。
英国の海洋事業調査会社ドリューリーの世界コンテナ指数(WCI)によると、40フィートコンテナのスポット運賃は2月27日時点で2629ドルとなり、新型コロナウイルスのパンデミック中の2021年9月に記録した高値1万0377ドルから75%下落し、24年5月以来の最低水準となった。
米連邦預金保険公社(FDIC)は3日、銀行同士の大型合併の審査を強化したバイデン前政権時代の政策を撤回する案を承認した。
FDICは2024年以前に有効だった合併政策を一時的に復活させるものだと説明した。共和党が主導するこうしたFDICの動きは、銀行の合併をより厳しく審査しようとした民主党前政権の取り組みからの後退となる。
24年に導入された従来方針では、合併を進める大規模な銀行に対してより厳しい監視が課されることになっていた。例えば、資産規模が500億ドルを超えるような合併は公聴会や意見聴取の対象となり、資産規模が1000億ドルを超えるような合併は金融安定化リスクについてより厳しい分析を受けることが義務付けられていた。
こうした方針は、バイデン政権下で産業界の合併をより厳しく監視しようとする動きが広まった中で打ち出されたもので、ビジネス寄りのトランプ政権下では後退するとみられている。
銀行業界はこれまで、合併に関する当局の承認取得プロセスが煩雑で不透明だと批判してきた。
米投資会社カーライル・グループは今年、より多くの投資先企業が新規株式公開(IPO)に踏み切ると予想している。同社の米州プライベートエクイティ(PE)部門を率いるブライアン・バーナセク氏とスティーブ・ワイズ氏がロイターに語った。
カーライルは今年、IPOや既存投資の解消を通じて40億─50億ドル相当の資産を売却すると見込んでいる。昨年はPE部門の投資解消が50億ドルだった。
米国における企業の合併・買収(M&A)は今年、トランプ政権による関税導入を巡る不安もあって静かな滑り出しとなったが、バーナセク氏とワイズ氏は、今後はM&Aの動きが本格的に再開するとの強気の見方を維持している。
バーナセク氏はインタビューで「ここ2四半期の間に状況は改善した。金利を巡っては先行きが大きく明確になり、インフレは米連邦準備理事会(FRB)が目指す水準に合致とまではいかないが、低下してきた」と指摘。「株式相場は非常に高く、バリュエーションは極めて高い。S&P総合500種(.SPX), opens new tabが過去最高値圏にあるのは、経済が成長してきたからだ」と述べた。
ディールロジックのデータによると、今年これまでの世界のM&Aは4417億ドルと、前年同期の5234億ドルを下回った。カーライルは、貿易戦争が起きた場合に投資先企業に及ぶ影響は限定的にとどまると予想。ワイズ氏は「投資先企業の80%余りは関税を巡る交渉の影響を受けない。これらの企業の大半はサービス業だからだ」と説明した。
ドイツ政府は借り入れ制限を緩和する劇的な政策転換により、防衛およびインフラ投資に数千億ユーロを費やす。
メルツ次期首相は4日夜、ドイツは憲法を改正し、国防および安全保障支出を財政支出の制限から除外した上で、国を守るために「あらゆる手段を講じる」と述べた。交通やエネルギー網、住宅などの優先分野に投資する5000億ユーロ(約80兆円)規模のインフラ基金を立ち上げることで主要政党が合意したとも明らかにした。
メルツ氏は「欧州は防衛を強化する必要がある」と述べた。2月23日投開票されたドイツの総選挙では、メルツ氏の所属する保守系野党のキリスト教民主・社会同盟 (CDU・CSU)が第1党となった。「必要な決定、特に連邦予算に関するものは、最近の米国政府の選択を受けて、もはや先延ばしにすることはできない」と語った。
米国が欧州の安全保障でプレゼンスを弱めようとしている現在、欧州各国はロシアの侵略の脅威に対抗するために、防衛費として数兆ユーロの追加資金を動員する必要がある。トランプ米大統領はウクライナへの軍事支援をすべて一時停止するよう命じ、ウクライナの欧州同盟国に大きな負担を強いることになった。
トランプ米政権は4日未明、メキシコとカナダからの輸入品に25%の新たな関税を課した。さらに中国製品への追加関税を2倍の20%に引き上げる措置を発動し、米国と主要貿易相手国3カ国との間で新たな貿易紛争に発展した。
これら関税措置は米国の自動車メーカーや住宅建設業者、小売業、原材料など、幅広いセクターの収益に打撃を与える見通し。
◎自動車メーカー
S&Pグローバルの試算によると、メキシコとカナダに工場を有する米自動車メーカーの年間EBITA(利払い・税引き・償却前利益)は平均10─25%下押しされる見通し。
JPモルガンのアナリストは、関税に絡む直接的なコストの大部分を自動車メーカーが負担すると予想する。ゼネラル・モーターズ(GM)にかかるコストは約140億ドル、フォードは約60億ドルに達する見通し。
◎住宅建設業者
近隣諸国から原材料を輸入する米住宅建設業者もコスト増に直面する公算が大きい。
S&Pグローバルは、メキシコと中国からの家電製品、電子機器、戸棚などの完成品に対する関税によって建設コストがさらに拡大する可能性があると指摘する。
◎航空宇宙関連サプライヤー
航空宇宙産業協会によると、カナダは米国にとって航空宇宙関連製品の最大の輸入国(ドル換算)で、サプライヤーほか、すでに苦境に立たされている航空機大手ボーイングなどのコスト拡大を招く可能性がある。
カナダ製造業者はゼネラル・ダイナミクス子会社やテキストロン向けにエンジン、ボーイングとエアバスに着陸装置なども製造している。
また、メキシコのケレタロとチワワには航空宇宙拠点があり、ハネウェルなどの大手サプライヤーを誘致している。
◎鉄鋼メーカー
米鉄鋼協会の2023年データによると、米国にとりカナダ、ブラジル、メキシコが鉄鋼の最大の供給国。
アルミ大手アルコアは2月、アルミへの関税措置によって、米国で約10万人の雇用が失われる可能性があると警鐘を鳴らした。
米ディスカウントストア大手ターゲットのブライアン・コーネル最高経営責任者(CEO)は4日、トランプ米大統領が同日発動した新たな関税措置を巡る不透明感や消費意欲の鈍化が、第1・四半期の利益の重しとなるとの見方を示した。
コーネル氏はCNBCのインタビューで、米国がメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税、さらに中国製品への追加関税を2倍の20%に引き上げる措置を発動したことについて、アボカドなどの季節の農産物は「かなりの量の供給」をメキシコに依存しているため、「今後数日で」価格が上昇する可能性があると指摘。 もっと見る
価格を守るためにあらゆる取り組みを行うとしつつ、25%の関税が賦課されれば「間違いなく今後1週間で価格は上がる」と述べた。
また、米家電量販大手ベスト・バイは、関税措置の発動は、米消費者にとって物価上昇につながる可能性があるとの見方を示す。
ベスト・バイのコリー・バリー最高経営責任者(CEO)はアナリストとの電話会議で、同社が販売する製品の調達先について、「中国が依然として第1位、メキシコが第2位」であると指摘。また、消費者の必需品以外への支出が抑制傾向にあるとの見方も示した。
スイスのチョコレートメーカーからドイツの自動車部品メーカーまで、欧州企業は4日に明白な現実となった米国の貿易関税に適応するための「プランB」を準備している。来月には特に欧州を標的とした第2弾の集中砲火が予想されるためだ。
トランプ米政権は4日未明、メキシコとカナダからの輸入品に25%の新たな関税を課した。さらに中国製品への追加関税を2倍の20%に引き上げる措置を発動した
欧州企業は今のところ対象外だが、トランプ米大統領は欧州の自動車などに対する25%の「相互関税」を提案しているため、4月には欧州連合を標的とした第2弾の関税集中砲火に直面する可能性がある。
米国内に複数の工場を持つスイスのチョコレートメーカー、リンツ&シュプルングリーは、トランプ関税の影響を避けるため、カナダからの供給を減らし、米工場へのサプライチェーンを欧州に移す可能性がある。アダルベルト・レヒナー最高経営責任者(CEO)は「現在カナダ向けに調達している量は全て欧州に移すことができる」としている。
一方、ドイツのタイヤ・自動車部品メーカー、コンチネンタルAGのオラフ・シック最高財務責任者(CFO)は「この関税問題が生産ラインの移転につながるかどうかはまだ分からない」と述べたが、同社はメキシコに持つ7工場のうち1つの閉鎖を決めている。「われわれは追加関税を吸収することはできないという立場だ。サプライヤーに関しては、通常は現地で調達している」と語った。
欧州企業はまだ関税の直接の標的にはなっていないが、4月初旬に自動車をはじめとする輸出品に関税が課される懸念はますます高まっている。
イタリアの農業ロビー団体CIAのクリスティアーノ・フィニ会長は、欧州に対する関税の可能性はイタリアの食品業界に「数十億ドルの損害」をもたらし、パルマハムからプロセッコ・スパークリングワインに至るまで幅広い生産者に打撃を与える可能性があると述べた。
欧州の首脳らは米国の関税の脅威に対し、団結して強気な姿勢を取る構えだが、アナリストらは、貿易戦争が欧州の経済成長見通しに打撃を与えるのではないかと懸念している。
ドイツのハーベック経済相は「交渉による解決策を見つけるために米国政府と協力するという欧州委員会のアプローチを支持する」としながらも、「欧州連合(EU)は屈服しない。トランプ大統領がEU製品に関税を課すなら、われわれは団結して自信を持って対応するだろう」との立場を示した。
●中東情勢
●エマージング
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
ユーロは対ドルで約3カ月ぶりの高値を更新。ドイツ次期政権の連立交渉で5000億ドルのインフラ基金設立と借り入れ規則の見直しが合意され、欧州通貨も上昇。トランプ政権の関税発動により、米ドル指数は下落。米国債利回りは当初低下したが、ドイツの財政支出計画を受けて上昇。米国株式市場は関税懸念で続落し、特にナスダックが大きく下落。金は安全資産需要で上昇、原油は産油国の減産縮小方針と関税問題で一時下落したが、その後買い戻された。
ロンドン株式市場と欧州株式市場はともに反落。トランプ米政権がメキシコ、カナダ、中国への関税を発動し、貿易摩擦の激化懸念が広がったことが要因。FTSE250指数は2.12%安、欧州STOXX600指数は2.14%超下落し、7カ月ぶりの大幅安となった。  
業種別では、自動車株や旅行・娯楽、石油・ガス関連が特に下落。EUへの関税懸念もあり、欧州の自動車大手が大幅安。一方で、景気の影響を受けにくい製薬・バイオ関連株は上昇。  
債券市場では、貿易摩擦や欧州防衛費増加の影響でユーロ圏国債利回りが低下。ECBは6日の理事会で25bpの利下げを行うと予想され、短期国債の利回りは大きく低下した。

備忘録(2025/3/3
●海外企業決算
●海外企業
半導体受託生産(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、向こう4年で米国の複数の半導体工場に1000億ドル(約15兆円)を投資する計画だ。ドナルド・トランプ米大統領が3日、この計画を発表する見通しとなっている。複数の関係者が明らかにした。
投資資金は先端半導体製造施設に充てられる見込み。米国内の半導体業界の活性化を目指す米政府の長年の目標に沿った動きだ。
TSMCは2020年に米南西部アリゾナ州に半導体工場を建設すると発表。この第1工場は昨年終盤に量産を開始し、同じ敷地内にさらに二つの生産施設の立ち上げを予定している。ただTSMCは最も高度な半導体を地元・台湾だけで生産している。
世界の高級ブランド大手3社が昨年欧州でオープンした店舗は29店にとどまり、2023年から20%減少した。業界の減速をあらためて示唆した。
不動産仲介業者クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、クリスチャン・ディオールやティファニーを傘下に持つLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの店舗のオープン件数は15件。リシュモンは11件、ケリングは3件だった。23年には3社合計で36店をオープンしていた。
この減速は、高級ブランド業界の不安定な回復を反映している。新型コロナウイルス禍後に需要は急増したが、その後は特に中国人消費者などの支出が低迷している。
世界の全ての高級ブランドが昨年に欧州12カ国でオープンした店舗は83店にとどまり、23年の107店から減少。ただ、これは一等地の店舗スペース不足も原因だと、クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドのEMEA(欧州・中東・アフリカ)小売業界責任者ロバート・トラバース氏が指摘した。
パリのシャンゼリゼ通りやロンドンのボンドストリートなど、調査対象となった20の主要な高級ショッピング街で、昨年の店舗の空室率は10%未満。そのうち六つのショッピング街で空室率はゼロだった。高級ブランド店の賃貸料は引き続き上昇しており、24年には平均3.6%上昇した。
●日本企業
●先進国政治動向
ホワイトハウスの大統領執務室で2月28日に実施されたトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談は、険悪になりつつあった雰囲気にバンス米副大統領がとどめを刺した。バンス氏はゼレンスキー氏に対して「大統領、失礼ながらあなたが米大統領執務室にやって来て、米国のメディアの前でこの件を訴えようとするのは無礼だと思う」と訴え、「この紛争に終止符を打とうとしているトランプ氏に感謝すべきだ」と直言した。
この会談ではゼレンスキー氏とトランプ氏の不和が公になると同時に、バンス氏がトランプ氏に代わって相手に食ってかかる「攻撃犬」としての役割を高めていることも示された。
米民主党は、ホワイトハウスがゼレンスキー氏に猛攻撃を仕掛けたと非難した。この会談について詳しい情報筋は、バンス氏の出席は「計画されたものではなかった」と明らかにした。
米中西部オハイオ州選出の元上院議員のバンス氏は、トランプ氏の忠臣として仕えるとともに、鋭い口調でトランプ氏を擁護するという立ち位置も確保した。
ある米政府関係者は「バンス氏が腕を見せつけたということだ。バンス氏は(トランプ氏の側近の)イーロン・マスク氏とは違う。トランプ氏の前に座ってゼレンスキー氏に挑んだことは非常に大きな出来事だった」とし、「バンス氏は大統領に助け船を出した。トランプ氏は普段自分がしているような対決を他の人々が進み出てやってくれるのが好きなのだ」と語った。
ホワイトハウス高官は、会談の雰囲気が変わったのはゼレンスキー氏がバンス氏に反論した瞬間だったと言う。
ロシアのプーチン大統領が2019年の停戦協定を守っていないと訴えたゼレンスキー氏は、バンス氏に対して「JD(バンス)、どのような外交について話しているのか」と問いかけた。
バンス氏はゼレンスキー氏を「大統領」と呼び、「私は、あなたの国の破壊を終わらせるような外交について話しているんだ」と言い返した。トランプ氏が激高し、ゼレンスキー氏が無礼であり、第三次世界大戦を賭けてギャンブルをしていると非難した後、バンス氏は「一度でも『ありがとう』と言ったことがあるのか」と追い打ちを掛けた。さらに、ゼレンスキー氏が24年の米大統領選で民主党候補だったハリス前副大統領の選挙運動をしたと反発した。
ゼレンスキー氏は昨年9月、バイデン前大統領の故郷である米東部ペンシルベニア州スクラントンに予告なしに立ち寄り、軍需工場を訪問していた。
バンス氏が声を荒げたと問題視したゼレンスキー氏に対し、トランプ氏は「バンス氏は声を荒げてはいない」と否定。その上で「君はたくさん話した。君の国は大きな問題を抱えている」と制した。
バンス氏は今年2月にドイツでのミュンヘン安全保障会議でも対決姿勢をあらわにし、欧州の指導者らが言論の自由を検閲し、移民を管理できていないと非難していた。
共和党のストラテジスト、ランス・トローバー氏は「バンス氏は大統領のアジェンダを明確にし、攻撃するのが得意で、それはトランプ氏がバンス氏を(副大統領に)選んだ理由だ」と説明した。
トランプ氏に近いリンゼー・グラハム上院議員(共和党)は「わが国のために立ち上がったバンス氏を非常に誇りに思う」と評価した。
報道陣が大統領執務室から退去させられた際、バンス氏はトランプ氏に近寄って腕をなでた。少なくともカメラの前ではゼレンスキー氏と握手することはなかった。
●先進国中銀、金融当局
欧州中央銀行(ECB)は6日の理事会で再び利下げを実施する見込みだが、投資家が次の措置についてこれほど迷っているのは前例がない。
米国による関税発動リスクに加え、ドイツの新政権、ウクライナ停戦の可能性、国防費急増に伴う影響など、不確実な要素が極めて多い。
ECB当局者の間では、昨年6月以降で5回目の利下げを実施した後、どの程度のペースで利下げを行うかについて意見が分かれている。
チューリヒ・インシュアランス・グループのチーフマーケットストラテジスト、ガイ・ミラー氏は「もはや、会合ごとに利下げを行うような、自動操縦モードではない」と指摘した。
以下は、市場からECBへの5つの質問。
1)ECBは6日に何を決めるのか?
それは簡単だ。主要政策金利をさらに25ベーシスポイント(bp)引き下げ、2.50%にすることだ。
3月以降の金利見通しを示唆する可能性があるため、金融の状況評価も注目される。
INGのグローバルマクロヘッド、カーステン・ブルゼスキ氏は「政策はなお制約的との認識を示すのか、それともより中立的なスタンスにあることを示唆するのか注目される」と述べた。
先週発生した、ユーロ圏の中銀間の決済システム「ターゲット2(T2)」の障害に関するコメントも要注目だ。
2)利下げは3月以降も続くのか?
市場はそう考えているが、そのペースについては一筋縄では行かないかもしれない。
市場では、年末までに90bp弱の利下げが実施されると見ており、2%まであと3回、もしくは1.75%まであと4回の利下げが実施される可能性がある。これは、ECBが1.75─2.25%と見積もっている、成長を刺激も抑制もしない中立金利におおむね一致する。
それでも、トレーダーは4月利下げの可能性を70%程度と予想しており、不確実性が浮き彫りになっている。
多くの当局者は、政策金利の最終的な水準については市場の予想に同調しているようだが、利下げペースに関する議論は白熱している。
例えば、当局者の間ではECBの政策が依然として制約的との見方が一般的だが、タカ派の筆頭とされるシュナーベルECB専務理事はそれを疑問視している。
そのため、スウェーデンの銀行SEBは、当局者の一部は4月会合で利下げの一時停止を主張する可能性があるとみている。
しかし、タカ派が懸念している高いサービスインフレを下支えしてきたと考えられる賃金の伸びは今後、急速に低下する兆候がある。実際、先週末に発表されたデータでは、サービスインフレを含むインフレ見通しが改善していることが示唆された。
ハト派のセンテノ・ポルトガル中銀総裁は、経済が低迷していることを理由に、インフレ率は目標を下回る可能性があると指摘している。
3)ECBはこれまでの関税の影響をどう評価するのか?
現在までのところ、実際に発効したのは米国の対中関税10%だけだ。よって、ECBはまだ関税を政策に織り込まないだろう。
トランプ米大統領は、欧州に対しては、3月12日から鉄鋼とアルミニウムの輸入品に25%の関税を課すと発表した。また、米国からの輸入品に課税している全ての国に対して、相互関税を検討している。
先週には、欧州の自動車やその他の商品に25%の相互関税をかけることを示唆した。
ドイツのキール研究所の試算では、これにより欧州経済は最初の1年で0.4%押し下げられるという。2025年のユーロ圏成長率がわずか0.9%にとどまる見通しであることを考えれば、大きな打撃だ。
一方、関税の脅しが交渉ツールである可能性もある。
INGのブルゼスキ氏は、何が課されるのか、ECBは4月まで待つことになるだろうと話す。
4)ECBにとってウクライナ停戦は何を意味するのか?
投資家は、ウクライナの停戦は経済を下支えし、エネルギー価格を下げるだろうが、それは小幅なものにすぎないと考えている。
ベレンベルクのチーフエコノミスト、ホルガー・シュマイディング氏は、停戦はECBの考え方にわずかな影響しか与えないだろうと述べた。「関税の方が大きな影響を与える」という。
欧州抜きでのウクライナ停戦交渉は、欧州の防衛力強化への圧力を高め、数千億ユーロの公的支出が必要になる可能性がある。
バークレイズは、財政支出が増えれば利下げ幅が小さくなる可能性があるとみる。一方、シティなど他の金融機関は、長期借り入れコストの上昇は利下げ幅の拡大を意味すると考えている。
5)ECBの最新予測では何が示されるか?
24年末の成長率はECBの12月時点の予測を下回った。そのため、成長率予想は3回連続で下方修正されるだろう。
インフレ率については、前回の予想からエネルギー価格が上昇しているため、今年の数値は若干の上方修正が予想される。
三村淳財務官は3日、物価上昇を上回る賃金上昇を実現する上で円安がマイナスの影響を及ぼす可能性があるため、為替動向を注視する必要があるとの見解を示した。都内で開催されたイベントで英語で講演した。
三村財務官は、円安の影響で輸入物価が上昇していることに言及。その上で、実質賃金の上昇実現という観点において、「為替は間違いなく何らかの悪影響を及ぼす。注意すべき点の一つは為替レートの問題だ」と語った。政府は賃上げ促進策に数多く取り組んでおり、今後も努力を続けるとも語った。
●先進国経済指標
米供給管理協会(ISM)が3日発表した2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は低下したものの、拡大・縮小の分岐点となる50を超える水準にとどまった。ただ、支払い価格指数が約3年半ぶりの水準に上昇し、トランプ米政権が掲げる関税措置が近い将来に生産活動の重しになる可能性が示唆された。
製造業PMIは50.3。前月の50.9から低下し、ロイターがまとめた市場予想の50.6も下回った。前月に2022年10月以来初めて50を超えていた。
構成指数では、支払い価格が62.4と、前月の54.9から大きく上昇。22年6月以来の高水準となり、エコノミスト予想の55.8も上回った。
供給業者の納入を示す指数は、54.5と、前月の50.9から上昇。50を超えると納入が遅くなっていることを示す。
先行指標となる新規受注は48.6と、前月の55.1から低下。
雇用は47.6に低下。前月は50.3と、24年5月以来、初めて拡大していた。
米国が3月4日からメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を課し、中国からの輸入品に10%の関税を上乗せする見通しについて、アナリストは、メキシコとカナダで生産した車両を米国で販売する米国の自動車メーカーやその他の企業にとって、経済的打撃となると警告。
ISMの調査でも、トランプ政権が掲げるカナダ、メキシコ、中国などの貿易相手国に課す関税措置により事業環境の先行きが不透明になると多くの企業が指摘するなど、 輸入関税に対する懸念が多く寄せられた。
ISM製造業景況調査委員会のティモシー・フィオーレ委員長は「サプライヤーが困難に直面し始めている初期の兆候が出ている」と指摘。「事業環境の不透明感が高まる中、調査対象企業は引き続き人員削減を進めている」と述べた。
サンタンデール・USキャピタル・マーケッツの米国チーフエコノミスト、スティーブン・スタンレー氏は「関税措置で製造業に及ぶ影響は、経済全体への影響よりも明らかに大きくなる。急激な関税引き上げは明らかに経済にとってマイナスで、先行きが不透明になっていることで状況が一段と悪化している」と指摘。
キャピタル・エコノミクスの北米担当エコノミスト、トーマス・ライアン氏は、支払い価格指数の上昇について「モノの価格上昇で、下半期にコアインフレが再燃するというわれわれの見方が裏付けられた」と述べた
S&Pグローバルがまとめた2月のドイツのHCOB製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値は46.5と、前月の45.0から上昇し2023年1月以来の高水準となった。独製造業の回復の兆しが示された。
生産、新規受注、輸出売上高が小幅な減少にとどまった。新規受注の落ち込みは2022年4月以降で最も小さかった。一方で、雇用は大幅に減少し、人員削減幅ペースは3カ月ぶりの高水準となった。
ハンブルグ商業銀行(HCOB)のチーフエコノミスト、サイラス・デラルビア氏は「最近、雇用削減が急速に進んでいる。しかし生産が安定しつつあることから、企業が徐々に方針を転換する可能性もある」との見方を示した。
2月はサプライチェーン全体の余剰生産能力を背景に、仕入れ価格と販売価格が共に低下した。
今後の生産に対する見通しは明るいが、地政学的緊張と関税に対する懸念から、景況感は3年ぶり高水準だった1月から小幅低下した。
●金融市場、先進国トピックス
ジョンソン米下院議長は2日、現行の予算が14日で期限を迎えることから、9月まで現在の歳出水準を維持するつなぎ予算を可決し、歳出削減策は翌年度予算に盛り込みたいとの考えを示した。
ジョンソン氏は一連のテレビ出演で、実業家イーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」による歳出削減がつなぎ予算に反映されるとの見方を否定した。
NBCの番組で、「政府が運営を継続できるよう、予算を現在の水準で凍結するクリーンなつなぎ予算を可決することを目指している」と説明した。
「われわれは政府を閉鎖しないよう責任を果たすために懸命に努力している。民主党は交渉に協力しなければならない」と訴えた。
これに対し下院民主党のジェフリーズ院内総務は声明で、「トランプ政権からの働きかけは一切なく、下院共和党は交渉のテーブルから離れた」と指摘した。
下院では共和党の議席数は218で、民主党の215議席を上回っているが、党内で可決に必要な支持を集められるかどうかは不透明だ。
ゴンザレス議員は「つなぎ予算には反対だ。議会は仕事をし、保守的な予算を可決する必要がある」とXに投稿した。
ベーコン議員もXに「つなぎ予算は軍に悪影響を及ぼし、国家安全保障を弱体化させる。新たな兵器計画を開始できず、中国、ロシア、イランを抑止するような軍隊を作ることに真剣に取り組んでいないことを意味する」と投稿し、つなぎ予算に反対を表明した。
ジョンソン氏はトランプ政権が進める歳出削減について、10月1日からの2026年度予算に盛り込む意向を示した。
FOXニュースの番組で、DOGEが発見した不正や無駄遣いを廃止することによる節約分や、トランプ政権の政策によってもたらされる他の収入を次年度の財源として組み込むことができるだろうと語った。
トランプ米大統領が表明した欧州連合(EU)からの輸入品に対する25%の関税賦課について、S&Pグローバル・レーティングは実施されれば中欧諸国の経済見通しが悪化し、各国の財政問題が深刻化する可能性が大きいと指摘した。
S&Pグローバルは、トランプ関税で予想される影響に関するロイターの質問に、中東欧諸国の対米直接貿易エクスポージャーは限定的だが、ドイツの自動車セクターを通じて成長見通しが打撃を受ける可能性が高いと指摘。
「これは特にチェコ、ハンガリー、スロバキア、スロベニア、ルーマニアに当てはまる」とし、これらの国は、ドイツ向けの機械・輸送機器輸出が総輸出の1割以上を占めると述べた。
中欧諸国はEUの中で対外貿易への依存度が高い。EU統計局の2023年のデータによると、国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は、スロバキアが92%、チェコは69%で、EUの平均を下回るのはルーマニアの39%のみだ。
中欧最大の経済大国ポーランドは、自動車輸出が依存度が低く、国内市場が相対的に大きいこと、数十億ユーロのEU復興資金を受け取っていることから西欧の景気低迷の影響を受けにくいとみられている。
キャピタル・エコノミクスの欧州新興国アナリスト、ニコラス・ファー氏は、EU製品への25%関税が発動された場合、中欧のGDP伸び率を平均0.5%程度押し下げると指摘した。
S&Pグローバルは、ドイツ車に対する中国の需要の落ち込みは、米国の関税よりも中東欧の成長に大きな影響を与える可能性が高いとも指摘。
「中東欧諸国の成長鈍化は、同地域の主要なリスクとして以前から指摘してきた財政(赤字)問題をさらに深刻化させる可能性がある」と述べた。
生活費の高騰が続く中、消費者の節約意識が強まっている。総務省が21日に発表した1月の全国消費者物価指数では、生鮮食品を含む総合指数が前年同月比4.0%上昇と2023年1月以来の高水準となった。物価上昇に賃金の伸びが追いつかず、切り詰めづらい食費が家計を圧迫することで、消費意欲が減退する懸念も浮上する。
ディスカウントスーパー「オーケー浅草店」で買い物をしていた込山妙美さん(35)は、「生の野菜は高いので、冷凍品を買うようにしている」と話す。夫と2人で暮らす込山さんは、これまで1カ月の食費に4万円を充てていたが、やりくりし切れず今年から5万円に引き上げたという。節約のため外食も控える。いまは専業主婦だが、物価がさらに上がれば、働きに出ることも考え始めた。
昨年の春闘で日本企業も賃上げに動いたが、物価上昇を補うには至っていない。厚生労働省の毎月勤労統計調査(確報)によると、24年の実質賃金は0.3%減だった。値上げ攻勢は今後も続く見通しだ。帝国データバンクは食品分野について、夏にかけて継続的な値上げラッシュが見込まれ、通年で2万品目前後になる可能性があるとしている。
足元で物価を押し上げているのは野菜やコメなどの生活必需品で、支出を絞りづらい。代わりに車・家電の買い換えや、旅行など大型の出費を控えるようになれば、景気の足かせになる可能性もある。オーケー浅草店から出てきた矢野啓子さん(77)は、「もともとぜいたくしている訳ではないからこれ以上の節約はできない」とため息をつく。周りに海外旅行に行っている人は全くいないという。
個人消費に詳しいソニーフィナンシャルグループの宮嶋貴之シニアエコノミストは、消費者の間で「賃金と物価の好循環の実感があるとは言えない」と話す。バレンタインデー関連でお金を使っても、他のところで節約するなど、消費には強弱が見られるという。
死活問題
企業も原材料価格の高騰に苦しむ。ファミリーレストラン「ガスト」などを展開するすかいらーくホールディングスは、インフレ要因で今期(25年12月期)の営業利益が112億円押し下げられると見込む。このうち51億円が食材の原価高騰で、前期の3倍の水準だ。特に割合が大きいのがコメで、22億円と見込む。金谷実社長は2月の決算会見で状況を見ながら値上げのタイミングや上げ幅を検討していく意向を示した。
ディスカウント店「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの吉田直樹社長は2月の決算会見で、「デフレの時とは複雑さが全く違うゲームになっている」と吐露した。仕入れ値や人件費などが上がる中でも価格を実質的に下げていく取り組みが重要だと指摘する。
宮嶋氏は、企業は原材料費の高騰を価格転嫁できなければ収益はマイナスになるものの、値上げをすることで消費マインドが落ち込むことには注意せざるを得ず、頭を抱えていると話す。一部の小売企業などでは低価格帯の商品をそろえる動きや、値上げを踏みとどまる動きも見られるという。
消費者や企業への負担増加は、経済再生のためインフレを強く望んできた政治家たちにとってもやっかいな問題だ。24年の衆議院議員選挙でも、物価高対策が不十分だとして国民は石破茂首相率いる自民党に厳しい審判を下した。
名字のみを明かして取材に答えてくれた東さん(64)は、野菜は安い店を探して買いに行っているという。「賃上げは大企業だけで、物価高に追いついていない」と不安を口にした。
米国経済は悲観論者の予想を何度も覆してきたため、経済を止められるものは何もないと考えたくなるものだ。
ドナルド・トランプ大統領の就任1カ月目の矢継ぎ早の政策攻勢は、経済の回復力を試している。
全体的な経済に亀裂が生じているかどうかを判断するのは時期尚早だ。2024年10-12月期の米経済成長率は前期比年率2.3%と健全な水準だった。1月の失業率は4.0%に低下し、これまでと比較して低水準だ。
しかし商務省の2月28日の発表によると、需要の3分の2以上を占める個人消費支出は1月に0.2%減少した。月間ベースでは4年ぶりの大幅な減少だった。エコノミストは上昇を予想していた。
全米産業審議会(コンファレンスボード)が発表した2月の消費者信頼感指数は、前月比で21年以来最大の下げ幅となり、消費者のインフレ期待は上昇している。ニュース記事に基づく世界の経済政策不確実性指数は、新型コロナウイルス流行時に記録した水準を上回った。
S&P500種指数は昨年11月5日の米大統領選当日から今年2月19日にかけて6%超上昇したが、その後3.1%下落した。米10年債利回りは2月28日時点で4.23%と、1月14日の4.79%から大幅に低下しており、3カ月物国債の利回りを下回っている。債券利回りは経済成長と米連邦準備制度理事会(FRB)の金利政策に対する期待を反映する。長期債利回りが短期債利回りを下回る「逆イールド」と呼ばれる状態は、景気後退(リセッション)を予兆する傾向にある。
エコノミストは信頼感調査や金融指標を「ソフト」データと呼ぶ。こうしたデータは変動が激しく、ニュースの影響を受けやすいことで知られており、実体経済の動向を予測する上で精度が低いことが多い。
一方、所得、労働市場、生産に関するほとんどの「ハード」データは、概して経済が着実に前進していることを示している。1月の消費支出の落ち込みは、南部の寒波やロサンゼルスの山火事が一因だった可能性がある。
さらに、トランプ氏がちらつかせている関税の導入をすべて実行に移すとは限らない。
ノーザン・トラストのチーフエコノミスト、カール・タネンバウム氏は「威嚇と実行の間にはかなりの隔たりがあると考えている」と述べた。一方で議会は財政赤字を拡大する方向で動いており、これは成長を後押しするだろう。「当然ながら政府の一部のコスト削減が消費に与える影響を注視しているが、堅調な労働市場が引き続き家計支出を下支えするというのがわれわれの見方だ」
ハードデータに見られる軟化の兆しの一つは新規失業保険申請件数で、2月22日までの週は前週比2万2000件増の24万2000件だった。過去6カ月で最も高い数字ではないものの、首都ワシントンでの申請件数は昨年同時期の倍に達しており、トランプ政権による連邦政府職員の解雇や請負業者の経費削減の影響を示している可能性が高い。
トランプ氏の政策変更の急激なペースは、それ自体が企業や家計の支出を圧迫しかねない政策の不確実性を生み出している。
KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は「経済の実体を見極めようとノイズをフィルタリングしているが、そのノイズ自体が経済的な影響を及ぼしている」と述べた。
同氏は、トランプ政権の政策の順序付けが一因となり、年内に景気後退に陥る可能性が高まっているとみている。
関税引き上げ、移民制限、連邦職員や契約の削減といった、最も迅速に実行に移されている政策はいずれも、短期的な成長の足かせとなる可能性がある。トランプ氏と共和党議員が目指している減税は、来年まで効果が現れないかもしれない。
INGフィナンシャル・マーケッツのチーフエコノミスト、ジェームズ・ナイトリー氏は「成長にとってプラスとなる減税や規制緩和については進展が見られない。代わりに政権はマイナスをもたらす政策に焦点を当てている」との見解を示した。
ソフトデータの悪化は、選挙後の一時的な高揚感の反動である可能性もある。ゴールドマン・サックスは今後12カ月以内に米国が景気後退に陥る確率を15%に据え置いている。チーフエコノミストのジャン・ハッチウス氏が明らかにした。
調査結果の間にも不一致が見られる。コンファレンスボードによると、1月下旬から2月上旬にかけて調査した最高経営責任者(CEO)の信頼感は3年ぶりの高水準だった一方、S&Pグローバルは2月中旬に調査した購買担当者の今後1年間の見通しに対する楽観度が大幅に低下したと発表した。
しかし、トランプ氏の関税の脅威も消費者のインフレ期待を押し上げているようだ。この現象は複数の調査で数カ月連続して確認できるため、無視するのは難しい。
インフレ期待の上昇は潜在的な問題だ。エコノミストは、インフレ期待が自己実現的になり、経済の勢いが弱まってもFRBが利下げを躊躇(ちゅうちょ)する可能性があると考えている。
高金利に抑制されている建設業界は、トランプ氏の移民取り締まりの影響を大きく受ける。22年半ば以降、下降トレンドにある製造業生産は、新たな貿易戦争によって深刻な混乱に見舞われる可能性がある。
トランプ氏は2月27日、米国が中国からの輸入品に3月4日から追加で10%の関税を課す計画だと述べた。2月初めに発表した10%にさらに上乗せすることになる。また、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課す方針を改めて示した。
EYパルテノンのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は「これは大きな打撃となる可能性がある。国内生産で一夜にしてそれを相殺できるというのは事実ではない。工場を建設するには何年もかかる」と述べた。
ダコ氏は今後12カ月以内に景気後退に陥る確率を35~40%とみており、年初時点から約5ポイント上昇させている。
一方、旺盛な需要を示す兆候の中には、詳しく調べると安心材料とは言えないものもある。商務省の2月27日の発表によると、航空機と国防関連を除く資本財の新規受注は1月に前月比0.8%増加した。エコノミストは、関税引き上げ前の駆け込み発注が反映された可能性を指摘している。在庫積み増しについても、同様の兆候が財の貿易赤字に関する新たなデータから読み取れる。商務省によると財の貿易赤字は1月に過去最高の1533億ドル(約23兆円)に膨らんだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が調査したエコノミストは1月上旬時点で、25年1-3月期の国内総生産(GDP)成長率が前期比年率2.2%拡大すると予想していた。このうち何人かは、ここ数週間で予想に大きな変化はないと述べている。
しかし、貿易赤字の拡大はGDPを押し下げる。米アトランタ連銀が公表するリアルタイムの経済成長予測「GDPナウ」は、1-3月期の成長率予測をプラス2.3%からマイナス1.5%に引き下げた。2月28日にはパイパー・サンドラーのエコノミストが、1-3月期のGDP予想をプラス2%からマイナス2%に下方修正した。
パイパー・サンドラーのチーフエコノミスト、ナンシー・ラザー氏は「これは景気後退の始まりなのか。われわれはそうは考えていない。しかし、この経済的不確実性が不安定な状況を生み出している」と述べた。
先週のドナルド・トランプ米大統領、JD・バンス米副大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談での大惨事は、北大西洋条約機構(NATO)の基盤がますます揺らいでいることを証明した。ウクライナでの戦争を巡る2月12日のトランプ氏とロシアのウラジーミル・プーチン大統領との電話会談から始まり、トランプ氏がゼレンスキー氏を「独裁者」であり、この戦争の扇動者だと呼んだことで事態は悪化した。バンス氏がロシアとの比較分析を示さずに、西欧諸国の民主主義が不十分だとのネオコン(新保守主義)的な不満を述べたことで、プーチン氏の外交的な孤立状態が緩和された。国防費の大幅削減を検討するというピート・ヘグセス米国防長官の計画は、さらに悪い結果の前兆だ。米大統領執務室での敵意に満ちた対決でこの状況は完成し、今やすべてが歴史上最も成功した政治・軍事同盟の崩壊を示している。トランプ氏はNATOから正式に脱退したわけではないが、NATOを極めて著しく弱体化させていることから、離脱しても単に最後の侮辱的な振る舞いになるだけだろう。
危機にひんしている米国の同盟関係はNATOだけではない。トランプ氏は1期目で、現在ほどあからさまにではないものの、NATOへの攻撃と同時に他の同盟国への批判も行っていた。米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国による情報共有パートナーシップ「ファイブアイズ」、豪州向け原子力潜水艦の建造に関する英米豪のコンソーシアム「AUKUS(オーカス)」、そして「ならず者国家」が大量破壊兵器を入手するのを阻止するための輸出管理規則も、すべて危機にひんしている。日本や韓国との2国間関係さえ問題になっている。台湾は強い懸念を抱くべきだ。
イスラエルは当面この危機を免れるかもしれないが、イスラエル人はドイツの神学者マルティン・ニーメラーの警句を思い出すべきだ。「そして彼らが私を追ってきたとき、私のために声を上げる者は誰一人残っていなかった」
ウクライナをロシアから救い、NATOを救い出すためには、二つの補完的な政治的反撃が必要だ。根拠に乏しいが、トランプ氏のアドバイザーの中にはまだ、方向を転換するのに十分な同盟支持者がいるかもしれない。もしそうであれば彼らは、トランプ氏の事実に基づかない発言にただ「はい、かしこまりました」と答えるだけでなく、大統領が何をすべきかを助言する必要がある。
これは他の人々と同様に私自身も経験したことであり、米国とその憲法に忠誠を誓う者にとって不快なことだと証言できる。だが、どこかの時点で、雇用の確保や野心より信条を優先させなくてはならない。辞任が唯一の名誉ある道になる。それぞれのアドバイザーはいずれ自身で決断しなくてはならない。その決断を始める必要がある。
上下両院の共和党議員も、われわれの同盟の解体や国防予算の削減に異議を唱えなければならない。一部の議員はウクライナとNATOへの支持を強く主張しているが、より多くの議員がそれに続く必要がある。民主党議員の中にも支持者は見つかるだろう。一緒になれば、支持者は両院で過半数に達する可能性がある。われわれの同盟の強化と国防費の大幅な増額を議員が声高に支持することはそれ自体が重要であり、同様に感じているトランプ政権当局者を安心させるためにも重要だ。トランプ氏を動かす力として、自身の政治的立場を守りたいという欲求ほど強力なものはない。
同盟の支持者はまた、トランプ氏を説得して、同氏のよく知られた欧州連合(EU)嫌いに気を向けさせることで、NATOへの攻撃が抑制されるようにすべきだ。トランプ氏のEU嫌いは、欧州の弱さと不十分な国防支出や、歴代の米政権が交渉してきた貿易条件への批判を反映している。こうした不満の一部は正当化されるが、より広範な米国の安全保障上の利益を消滅させるほどのことではない。
欧州の人々は、とりわけフランスが支持するEUの教条主義を否定する必要がある。フランスはEU創設前から、欧州は米国から分離すべきだと主張していた。この集団思考は、NATO内の「欧州の柱」を求める声に長らく反映され、NATOの結束をむしばんできた。これは皮肉なことであり、NATOにとって致命的にもなり得るが、仮にフランスの考え方が支配的となり、EU自身がNATOの代わりの役割を果たそうとすることになれば、米国は撤退すべきだというトランプ氏の考えが補強される。すべての欧州諸国がこの類いの考えにとりつかれているわけではない。ドナルド・ラムズフェルド元米国防長官が「新しい欧州」と呼んだ東欧の国々の大半と、英国や北欧のNATO加盟国などの「古い欧州」の一部は、常に大西洋主義を重視してきた。主に問題になるのは、フランスやドイツなどの「古い欧州」だ。
トランプ氏の攻撃に対して欧州が最初に示した反応は――予想通りエマニュエル・マクロン仏大統領が先導したものだが、米国のNATO離れはもはや取り返しがつかないというものだった。だが西側諸国全体の安全保障と高まりつつある世界的脅威への共通の懸念を守るために、大西洋の両側のNATO支持者らはむしろ、トランプ氏の姿勢が変わらないという誤った印象に抵抗しなければならない。真の包括的脅威である中ロの枢軸に、欧州諸国だけで立ち向かえるかどうかは疑わしい。欧州諸国はEUの一部であることよりも、西側諸国の一員であることにずっと大きな価値を見いだし、その考えに基づいて行動すべきだ。残念なことに、ドイツの次期首相になるとみられるフリードリヒ・メルツ氏は総選挙後すぐに、米国の影響からの「独立」を目指す考えを示すという誤った方向に踏み出した。EU幹部のカヤ・カラス氏の「自由世界には新たなリーダーが必要だ」といった発言も、良い影響をもたらさない。
「同盟諸国と共に戦うことよりも悪いことが一つだけある。それは同盟諸国なしに戦うことだ」というウィンストン・チャーチルの洞察を、トランプ氏が重視したことは一度もない。このため、トランプ政権下で米国の国家安全保障上の利益を推進し、不完全だと分かっている同盟関係を崩壊させないためには、優位に立とうとする前に耐え抜くことが必要になる。トランプ氏に対して粘り勝ちを収め、彼の関心をそらし、彼のために新たな標的を見つけることが、一つの答えになるだろう。しかし最も重要な方策は、今すぐ米国民に真実を伝えることだ。
貿易赤字は、ドナルド・トランプ米大統領が公人としての生活を通じて執着してきた問題だ。
それにもかかわらず、大統領としてのトランプ氏の政策は、貿易赤字の縮小とは相いれないものであることが多い。
企業に有利な規制緩和や減税は民間投資を促進し、財政赤字を拡大させる。これは輸入を呼び込み、金利やドル相場を押し上げて輸出を抑制する。一方、関税は輸入を減少させるだけでなく、他の国・地域に打撃を与えたり、報復を招いたりすることで輸出も減少させる可能性がある。
従ってこれらの目標は他に何もしなければ互いに矛盾する。その矛盾を解決できる政策はあるのだろうか。解決策はあるし、共和党にはそれを実行に移す絶好のチャンスがある。その解決策とは、連邦政府の歳出の大幅かつ迅速な削減だ。予算を削減すれば、需要とインフレの抑制を通じて金利やドル相場が押し下げられ、輸入が減り輸出が増える一方で、民間投資の拡大に必要な条件は保たれる。
双子の赤字
貿易赤字は根本的に、一つの国の生産よりも消費の方が多いことに起因する。財政赤字は、税金で減る分より多くの需要を、財政支出を通じて経済に注入することによって、この不均衡の一因となる。こうしたつながりがあるため、この二つの赤字は「双子の赤字」と呼ばれることもある。
この関連性は不変ではない。リセッション(景気後退)によって税収や輸入は減るが、(1990年代終盤のような)民間投資ブームが起きるとそれらは増える。いずれの場合も、貿易赤字と財政赤字は逆方向に動く。
しかし、財政緊縮策を通じて意図的に財政赤字を縮小する、あるいは財政刺激策を通じて意図的に財政赤字を拡大すると、通常、貿易に影響が及ぶ。国際通貨基金(IMF)が2021年に公表した、1978年から2019年までの33カ国を対象とした研究によると、米国のような大国では、1ドルの財政赤字縮小によって、経常収支(財・サービスや投資収益を含む広範な貿易の指標)の赤字が0.30~0.50ドル縮小した。
米国は昨年に1兆8000億ドル(約270兆円)、国内総生産(GDP)比で6.4%の財政赤字を計上した。スコット・ベッセント財務長官は、トランプ氏の任期が終わるまでにそれを3%に減らすことを提案している。前出のIMFの計算に当てはめると、昨年9000億ドルを超えていた財・サービスの貿易赤字は3000億~5000億ドル減る。
関税より良い
貿易赤字は本質的に悪いものではないが、現政権のようにそれに同意できないとしても、被害が最小限になる方法で対応すべきだ。財政緊縮策は、関税よりはるかに少ない巻き添え被害で役目を果たす。インフレ率は上がるのではなく、下がる。貿易相手国が報復してくることはない。特定の利益団体によるロビー活動も起きなければ、誰がどの程度の期間、打撃を受けるのかを巡り、徐々に悪影響を及ぼすような不透明感も生じない。
財政緊縮策の主なマイナス面は、成長を鈍化させることだ。2007年から2009年の金融危機後に財政緊縮策を講じた国々では、高い失業率がさらに上昇し、中央銀行が利下げでそれに対応しようとしたが、金利が既に0%近辺だったためできなかった。
今の米国は、それと逆の状況にある。失業率は低く、インフレ率は連邦準備制度理事会(FRB)が目標としている2%を上回っている。野心的な財政赤字縮小策を講じれば、インフレ率は低下する可能性がある。そうなればFRBは利下げし、財政緊縮策による経済成長面の打撃を相殺するとともに、ドル安にできるかもしれない。その一方で、連邦政府の債務が減れば、国債利回りは低下する。このように、財政赤字の削減は、民間投資と輸出を呼び込む。財政赤字の拡大がそれらを締め出すのと同じ仕組みだ。
これとは対照的に、関税では貿易赤字が減らないことが経験と理論から明らかになっている。1期目のトランプ政権が中国に関税を課した際、米国の輸入品はメキシコ製とベトナム製にシフトした。そして人民元相場の下落が、中国の輸出に対する関税の影響を緩和するのに寄与した。4日から適用される予定のメキシコとカナダに対する25%の関税は、既に両国通貨の相場を下落させている。それに加えて、両国は報復を約束している。これらすべては、米国の輸出品への需要を減退させる。
難しい計算
年間財政赤字の累積額である連邦政府債務残高は、GDP比100%を超えようとしている。このため、財政赤字の削減が不可欠になっている。正しいやり方でそれを実現できれば、貿易赤字を減らすことも可能だ。
それは増税でも実現可能だが、実際には財政支出削減の方がより効果的だ。短期的な計算では、例えば政府の給付金を1ドル減らした場合の消費、輸入の減少幅は、税金を1ドル増やした場合よりも大きい。税金が増えた場合には、一般家庭は貯蓄を取り崩すことで生活を維持しようとするからだ。
長期的に見ると、増税は仕事と投資に悪影響を及ぼし、GDPを減少させる。米議会予算局(CBO)の2022年の調査で、給付金の削減の方が所得税率の引き上げよりも、財政赤字のGDP比率押し下げ効果が大きいと結論付けられたのは、このためだ。
これは偶然にも共和党が優先する政策とも一致する。共和党は、2017年に導入された減税策の延長に加え、新たな減税の実施も求めている。しかし、こうした減税を行った上で、財政赤字削減を実現するのは難しい。
CBOと上下両院税制合同委員会(JCT)の推計によれば、減税を延長した場合、財政赤字のGDP比は2029年度になっても7%の水準に維持される。筆者の計算では、これを3%に引き下げ、その水準を維持するには、今後10年間にわたり財政支出を現状と比べて12兆ドル削減する必要がある。しかし、共和党が多数を占める米連邦議会下院が最近承認した予算決議案で想定されている支出削減額は1兆5000億~2兆ドルにとどまっている(彼らはこれに加えて自分たちの計画がもたらす成長の配当による財政赤字の削減を想定しているが、それは筆者の計算に含まれていない)。
トランプ氏が社会保障やメディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険制度)を削減する可能性を一切否定することによって、この作業はことさら難しくなっている。公的債務の利払い分を含めると、支出の半分には手をつけられない。2029年度時点で財政赤字をGDP比3%にするには、それ以外の、国防、国土安全保障、退役軍人向け手当、メディケイド(低所得者向け公的医療保険制度)、フードスタンプ(低所得者向け食料費補助制度)、生活保護給付など、ありとあらゆる連邦プログラムへの支出を40%削減する必要がある。メディケイドとフードスタンプを廃止し、全職員を解雇したとしてもまだ十分ではない。共和党は既にメディケイド支出の削減には二の足を踏んでいる。
つまり共和党は、社会保障とメディケア、増税を議論のテーブルに載せるか、経済成長に奇跡が起きるのを待つか、さもなければ、ずっと低い赤字削減目標を受け入れるかしかない。
財政緊縮策を使って貿易赤字を削減する場合、もう一つ注意すべき点がある。関税同様、この場合も他国がそろって同じ行動を取れば効果がないということだ。実際、米国の貿易赤字の原因は、米国が消費し過ぎていることだけでなく、他国の消費が少な過ぎることにもある。ドイツと中国は経済構造的に、消費志向ではなく、輸出志向に偏っている。
だが、その状況は変わりつつあるのかもしれない。ドイツの次期連立政権を担うとみられる各党は、減税を実施し、国防や発電、インフラへの支出を拡大する意向だ。中国指導部は、消費の低迷と雇用市場の不振への対応として、景気刺激策の実施を迫られている。ドイツと中国は、トランプ氏の関税が両国の輸出を狙い撃ちしてくるのではないかと懸念している。
では、この場合はどうだろう。ドイツと中国が自国の経済を刺激して輸入を拡大する一方で、米国は財政赤字を縮小し、追加関税を課さないという合意ができた場合だ。
なんと、貿易戦争を起こすことなく貿易赤字の縮小が可能になるではないか。
多くの米国人が物価高騰と根強いインフレに疲弊し節約を余儀なくされている一方で、富裕層は惜しみなく支出している。
年収約25万ドル(約3700万円)以上の世帯である上位10%の所得層は、株式や不動産、その他資産の大幅な値上がりに後押しされ、バカンスからブランドバッグまであらゆるものに大金を費やしている。
ムーディーズ・アナリティックスの分析によると、この消費者層は現在、全支出の49.7%を占めており、1989年にさかのぼるデータの中で過去最高を記録した。30年前は約36%だった。
このことは、経済成長が富裕層の継続的な支出に異常なほど依存していることを意味する。ムーディーズ・アナリティックスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏の推計によると、上位10%の支出だけで国内総生産(GDP)のほぼ3分の1を占める。
2023年9月~24年9月には高所得者層の支出が12%増えたが、労働者階級および中産階級世帯の支出は逆に減った。
分析を監修したザンディ氏は「富裕層の財務状況がこれほど良好だったことはなく、彼らの支出がこれほど堅調で、経済がこの層にこれほど依存したこともない」と述べた。この分析は連邦準備制度理事会(FRB)のデータに基づいており、入手可能な最新データである2024年7-9月期までを対象としている。
全体として見ると、富裕層はインフレ率をはるかに上回るペースで支出を増やしているが、それ以外の層の状況は異なる。下位80%の所得層の支出は4年前と比べて25%増加したが、これは同期間の21%の物価上昇率をわずかに上回るに過ぎない。一方、上位10%の支出は58%増加した。
株価の急落や住宅価値の低下により、上位10%の信頼感が揺らぎ、彼らが消費を抑制すれば、経済に大きな影響を与えるだろう。関税の脅威などを背景に消費者信頼感は全体的に低下し始めており、富裕層でも同様の傾向が見られる。 
ザンディ氏によると、米国の富裕層は年齢層と教育水準がより高い傾向にあり、その購買力を支えているのは、過去数年間の大幅な住宅価格上昇や株高などだ。資産価格の上昇は良好な経済の兆候として称賛されるが、同時に不動産や株式を持つ人とそうでない人との格差を広げている。
インディアナ州インディアナポリスに住むビベック・トリベディさん(38)は新型コロナウイルス流行時に貯蓄し、2022年と23年に同地で3カ所の投資用不動産を購入した。自身の住宅コストは安定している。コロナ流行中の金利が低かった時期に自宅のローンを3%未満で借り換えたためだ。
トリベディさんと妻のプルバさんは共に製薬業界で働いている。2人の年収は合わせて35万ドル以上で、コロナ前と比べて約45%増加した。幼い子どもが2人おり、トリベディさんの両親も同居している。
トリベディさんは「自分たちのキャリアと投資ポートフォリオに戦略的に対応してきた」と述べた。「支出を抑える必要は特になかった」
トリベディさんはロードサイクリングを始め、3000ドルの自転車を購入した。夫婦は食料品の値上がりに気付いたが、自分たちには欠かせないオーガニック製品の購入はやめないという結論に至った。今年は旅行に1万~1万5000ドル程度の予算を立てており、これには母国インドへの旅行計画も含まれる。
コロナ下では、どの層の米国人も貯蓄額が記録的な水準となった。外出自粛で支出が減った上、政府のさまざまな景気刺激策による臨時収入を受け取ったためだ。2022年初めには家計の過剰貯蓄が2兆6000億ドルに達した。
その後インフレが襲い、物価が急騰した。ほとんどの米国人は支払額の増加に対応するために貯蓄を取り崩した。しかし、上位10%の所得層は貯蓄の大半を維持した。
また、富裕層が所有する株式などの資産の価値は突然大幅に上昇した。FRBのデータによると、上位20%の純資産は2019年末以降、35兆ドル以上増加した。伸び率は45%で、これは他の層でも似たような数字だったが、金額に換算すると大きな差があった。下位80%の増加額は14兆ドルだった。
ニューメキシコ州アラモゴードに住むテストパイロット、トム・ショーフさん(61)は、コロナ禍以降、自身の純資産が約40%増加したと推定している。ワイオミング州の牧場から退職口座で保有する株式まで、ほぼ全ての資産の価値が大幅に上昇している。
妻のクリスティさんは作業療法士で、2人の年収は合わせて約50万ドルだ。最近になり、成人した息子2人にそれぞれ、贈与税の非課税枠上限である1万9000ドルの年間贈与を始めた。「コロナ禍で親族が何人か亡くなった。『なぜ待つ必要があるのか』と思った」とショーフさんは語った。
バンク・オブ・アメリカの調査によると、上位3分の1の富裕層顧客のクレジットカードとデビットカードの支出が、下位3分の1の低所得層顧客の支出よりも速いペースで増加していることが分かった。特に大幅な支出がみられたカテゴリーもあり、上位5%の世帯は1年前と比べて米国外での高級品支出が10%以上増えた。
バンク・オブ・アメリカ研究所のシニアエコノミスト、デービッド・ティンズリー氏は「彼らはパリに行き、高級バッグや靴、衣服でスーツケースを一杯にしている」と述べた。
デルタ航空のエド・バスティアン最高経営責任者(CEO)は1月、高級志向の旅行への強い需要が今年の利益を押し上げるとの予想を示した。同社のプレミアム席の売り上げは8%増加したが、エコノミークラスは2%増にとどまった。
クルーズ船運航大手のロイヤル・カリビアン・グループは、過去最高となる5週間の予約期間をここ数カ月で記録したと発表し、より高級志向の顧客に人気のある欧州河川クルーズを開始すると明らかにした。
JPモルガン・チェースのアナリスト、マシュー・ボス氏は、こうした企業と、富裕層以外の顧客を対象とする企業との間には「極端な二極化が見られる」と指摘した。ディスカウントストアチェーンのビッグ・ロッツは昨秋に破産法の適用を申請した。同業のファミリー・ダラーと百貨店チェーンのコールズは店舗閉鎖を進めている。「彼らは皆、減りつつある消費を何とか獲得しようと争っている」とボス氏は述べた。
トランプ米大統領は3日、カナダとメキシコに対する25%の関税を4日に発動すると言明した。北米における貿易戦争への懸念が高まり、金融市場に動揺が広がった。
トランプ氏はホワイトハウスで、カナダとメキシコに関税を課す必要があるとし、「彼らがやらなければならないのは、自動車工場などを米国内に建設することだ。そうすれば関税はかからない」と述べた。
カナダとメキシコが米国への合成麻薬フェンタニル流入抑制で合意すれば関税を回避できるのかという記者団からの質問に対し、「両国に余地は残されていない」と応じた。
同氏の発言を受け、米国株は午後終盤の取引で大きく値を下げ、メキシコペソとカナダドルも下落した。
トランプ政権は関税が米東部時間4日午前0時01分(日本時間午後2時01分)に発効する予定だと確認した。関税率は25%で、カナダからのエネルギー輸入については10%となる。
カナダのジョリー外相は、同国には対応する用意があると表明した。メキシコ当局者は現時点でコメント要請に応じていない。
トランプ氏は中国からの全ての輸入品に対する追加関税をこれまでの10%から20%に引き上げる方針も再確認した。中国が「違法薬物危機を緩和するための十分な措置を講じていない」と述べた。
また、4月2日からは米国製品に関税を課している国に対し「相互関税」を発動すると述べた。
米コーネル大学のグスタボ・フローレスマシアス公共政策教授は、消費者が数日内にも価格上昇に直面する可能性があると指摘。「特に自動車部門はかなりの悪影響を受ける可能性が高い。製造工程が3カ国にまたがるサプライチェーン(供給網)の混乱だけでなく、車両価格の上昇を見込んで需要が減退する可能性があるためだ」と述べた。
3日の米株市場で自動車株は大きく下げ、メキシコで大規模なトラック生産を行っているゼネラル・モーターズ(GM)は約4%下落。フォード・モーターも1.7%安となった。
トランプ米大統領は3日、日本と中国が通貨安政策を取るなら米国は「不当に不利な立場に置かれる」と述べた。この発言を受け、円は対ドルで上昇した。
トランプ氏は中国と日本を例に挙げ、こうした国々に関税を課すと示唆。ホワイトハウスで発言したもので、円は一時1ドル=149円11銭とこの日の高値を付けた。米国株が売られ、安全資産として円の魅力が高まった。
トランプ氏は暗号資産(仮想通貨)の戦略備蓄に関して演説後に記者団の質問に答え、日本が円を押し下げて、中国が元を押し下げれば、「われわれは極めて不当に不利な立場に置かれる」と指摘した。ブルームバーグ・ガバメントが伝えた。
具体的には鉱業・建設機械大手の米キャタピラーに言及し、日本や中国などの国々が自国通貨を押し下げれば、米国でトラクターを製造するのは「とても困難になる」とコメントした。
その上で、中国の習近平国家主席や「日本の指導者」に電話し、米国にとって不公平であることを理由に、「通貨を押し下げ続けることはできないと話した」とし、「関税率をやや引き上げなければならなくなるだろう」と語った。
また、習主席や他国の指導者に何度も電話をかけて、こうした国々が自国通貨を押し下げている点を何度も指摘してきたと主張し、そうする代わりに「これを非常に簡単に解決する方法は関税だ」と述べ、「彼らがそうするなら、われわれは関税で埋め合わせる」と話した。
一方、トランプ氏が中国からの輸入品に対する関税率を現行の2倍の20%とする措置に署名したとのホワイトハウスの発表を受け、中国のオフショア人民元は対ドルで下落し、一時0.2%安の1ドル=7.3067元とこの日の安値を付けた。
このほか、トランプ氏がカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を新たに課す方針をあらためて確認したことを受け、カナダ・ドルとメキシコ・ペソも対米ドルで下落。カナダ・ドルは一時0.5%安の1米ドル=1.453カナダ・ドル、メキシコ・ペソは0.9%安の1米ドル=20.75ペソで取引された。
トランプ米大統領は、「外国産」農産物への関税を4月2日に発動すると明らかにした。輸入品への関税賦課を警告する最新の動きとなる。
「米国の偉大なる農業従事者にメッセージだ。米国内で販売される大量の農産物を生産し始める準備をせよ。外国産の製品に4月2日に関税が賦課される。お楽しみに!」とトランプ氏は3日にソーシャルメディアに投稿した。
トランプ氏はどの製品が対象となるのか、あるいは例外があるのか、一段の詳細は示さなかった。この計画がほぼ全ての貿易相手国にいわゆる「相互」関税を課すという、以前に発表された取り組みの一環になるのかも不明だ。
トランプ氏は既に、鉄鋼・アルミニウムの輸入に25%の関税を賦課しているほか、自動車や医薬品、半導体、木材、銅など幅広い分野に関税を課す意向を示している。米国の産業を保護し、米製造業を活性化させる取り組みだとしている。
CBOEグローバル・マーケッツの最新データによると、オプション取引業者は迫りくる株式市場の暴落に備えている。
月曜日にマーケットウォッチに共有されたCBOEグローバル・マーケッツのマンディ・シューからの報告によると、CBOEボラティリティ指数に連動したディープ・アウト・オブ・ザ・マネーのコールオプションの需要が高まっていることがわかった。 
VIXは先週急上昇した。
需要の急増は、S&P500のような米国の株価指標の上昇と同時期に起きた。 
ダウ・ジョーンズ・マーケット・データによれば、9月以来最悪の2週間の上昇となった。
最近の指数の低迷により、S&P 500に連動するプットオプションの多くがイン・ザ・マネーとなったため、トレーダーらはプットオプションから利益をあげているようだ。これにより、S&P 500プットオプションの「歪み」、つまりアウト・オブ・ザ・マネーの契約に対する需要と、より支払いに近い契約に対する需要を測る指標がいくらか緩和された。
しかし同時に、VIXコールオプション(VIX指数が50を超えた場合に利益が出るVIX連動の強気契約)の需要が急増し、暴落保護の需要がまだ十分にあることを示した。
「実際、木曜日は高権利行使価格(50以上)のVIXコールオプションの購入が過去2番目に多い日となり、ある顧客が5月の55~75権利行使価格のコールオプションを26万件以上購入し、総額1,070万ドルを支払った」と徐氏はマーケットウォッチに共有されたレポートで述べた。
実際、CBOEのデータによると、大幅にアウトオブザマネーとなっているVIXコールの顧客による純購入は25万契約近くに急増し、1日としては2023年5月4日以来の最大の数字となったとCBOEの代表者は述べた。
8月5日の市場前取引では、米国の経済成長不安と日本円の急激な下落により、VIXは一時50を超えた。 
米ドル円
+0.04% キャリートレードは世界市場に打撃を与え、ウォール街の恐怖指数は2020年4月以来初めて日中ベースで65を超えた。
しかし、指数は最終的に38前後でその日を終えた。一部の人は、この早い時期の急上昇はデリバティブ市場全体の流動性問題によって引き起こされた可能性が高いと推測した。
ファクトセットのデータによると、VIXは2020年3月以降50を上回ったことがない。
金曜日の指数は20をわずかに下回る水準で終了したが、これは同指数の長期平均とほぼ同水準だ。ボラティリティ・トレーダーにとって、VIXの20水準は大きな意味を持つ。20を超えると市場は不安定と言われ、それ以下では平静と見なされる。
米供給管理協会(ISM)の最新製造業報告で2月の経済活動が縮小したことが示されたことを受けて、米国株は月曜日に低迷した。これにより、アトランタ連銀のGDPNowによる第1四半期GDP予測はマイナス2.8%となった。これが現実となれば、2022年初め以来初めて米国経済が四半期ベースで縮小することになる。 ドナルド・トランプ大統領がカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税、中国製品に10%の追加関税を火曜日から発効 する ことを確認したことで、月曜日の午後、市場の下落は激化した。
S&P500は104ポイント、1.8%下落し、ナスダック総合指数は497ポイント、2.6%下落した。ダウ工業株30種平均は 
DJIA
CBOEはまた、S&P500指数に連動するいわゆる「ゼロデイ」オプションの取引が2月に過去最高水準まで急増したことも明らかにした。満期間近の契約の取引は先月、S&P500に連動する契約全体の56%を占めた。 
オプション取引では、コールは、原資産または指数が「権利行使価格」と呼ばれる特定のレベルを超えて上昇した場合に利益が出る強気の契約です。一方、プットは、原資産または指数が権利行使価格を下回った場合に利益が出る弱気の賭けまたはヘッジを表します。
VIX に連動した契約の場合、S&P 500 が突然急落した場合には、コールが利益をもたらす可能性が最も高くなります。VIX はボラティリティの指標であるため、市場が混乱しているときには通常急上昇します。
どちらの場合も、契約保有者に支払われたプレミアムを補償するためには、原資産が行使価格を十分な幅で超える必要があります。
●中東情勢
イスラエルが2月にトランプ米政権へ、シリア暫定政権の弱体化と中央集権化の阻止を働きかけていたことが、ロイターの複数の関係者への取材で分かった。
シリア暫定政権の後ろ盾がイスラム主義色の強いトルコ与党を率いるエルドアン大統領のためで、イスラエルはトルコの影響力拡大を防いで国境の脅威を排除したい考えだ。
関係者らによるとイスラエルはこの一環として、トルコに対抗するためロシア軍がシリア領内に持つ2カ所の基地の存続を米国側に求めた。一連の要望のうち主要な論点は「ホワイトペーパー」(政策提言書)として複数の高官に配布された。
イスラエルは、アサド政権打倒をけん引した過激派「シリア解放機構(HTS)」への不信感を公然と表明しており、ネタニヤフ首相は2月23日、シリア南部におけるHTSや暫定政権に関係したいかなる勢力の存在も容認しないと言明し、同地域の非武装化を訴えた。
この発言に先立つ2月上旬にはサール外相が、イランによる親イラン民兵組織ヒズボラの再建活動をトルコが支援していると懸念を表明。さらに、シリア領内のイスラム主義グループがイスラエルに対する新たな戦線を構築していると指摘していた。
一方、エルドアン大統領は昨年、イスラム諸国はイスラエルについて「拡張主義の脅威が高まっている」と指摘し、連携するべきだと表明していた。
今回のイスラエルの米国への働きかけを巡り、ロイターの取材に匿名を条件に応じた関係者は第2次トランプ政権がどの程度イスラエル提案を受け入れるか不明だと語った。
同政権はこれまでシリアに関してほとんど言及しておらず、制裁措置の行方や北東部に展開する米軍についても先行きが不透明となっている。
●エマージング
中国の代表的な「火酒(蒸留酒)」の茅台酒は国内消費市場の動向を測るバロメーターであり、メーカーが拠点を置く貴州省にとって貴重な財源でもある。しかし近年は不景気や消費者の嗜好の変化などを背景に販売が鈍っており、多額の債務を抱える貴州省政府の財政への影響が懸念されている。
春節(旧正月)前の数週間、製品名の由来となった貴州省・茅台村には贈答用に茅台酒を購入しようと観光客が押し寄せるのが通例だが、今年は明らかに人出が少なかった。地元酒店の店主は「以前は北京から飛行機でやってきて3000元(約412ドル)以上もする茅台酒を年に何度もまとめ買いする客がいた。今では価格が1699元に下がったのに、景気が悪すぎて誰も買おうとしない」とぼやいた。
地元メーカーの貴州茅台が製造する茅台酒は、何十年にもわたり結婚式や仕事上の夕食会、国家行事に欠かせない酒だった。しかしここ2年間は消費者や企業の景況感が悪化したことで販売が打撃を受けている。
カリフォルニア大サンディエゴ校のビクター・シー教授(政治学)は、貴州茅台の強力なキャッシュフローは「絶え間なく到来する貴州省政府の債務返済を支援する戦略の重要な一部だ」と指摘。貴州茅台の利益が減少すれば省政府にとって深刻な問題になるとの見方を示した。
上海証券取引所上場の貴州茅台は、親会社である茅台集団が筆頭株主で、茅台集団は中国の省で2番目に負債額の多い貴州省が全額出資している。
貴州茅台の貴州省への貢献は絶大だ。大口の雇用主であるだけでなく、同省が収入を確保し、債務を返済する上でも極めて重要な存在になっている。
しかし景況感の長期低迷で貴州茅台の株価や販売価格は大幅に下落した。同社の株価は2021年の最高値からほぼ半減。看板商品であるアルコール度数53度の「飛天」(500ml)の販売価格も24年初めの2700元(約371ドル)から最大22%下落した。
<逆風は継続か>
貴州茅台は2023年後半に飛天の出荷価格を20%引き上げたため、24年の売上高伸び率が目標を15%上回った。しかし今後も成長を維持できるかは依然として不透明だ。
証券会社や企業幹部の推計によると、貴州茅台は過去10年間に生産した在庫の少なくとも50%が消費に回らず、投資目的で保管されている。これらの在庫が大量に市場に流出すれば製品価格や株価が下落する恐れがある。UBSは「飛天」の販売価格が2025年半ばまでに2000元を大きく割り込む可能性があるとの予測を示している。
価格の下落は茅台酒の高級ブランドとしての評価にも影響しそうだ。北京のプライベートエクイティー企業のマネージャー、ジョージ・リウ氏は「茅台酒を飲むということは、その人が重要で成功した人物であることを示す。価格が下がれば飲む意味がなくなる」と述べた。
一方、上海に拠点を置くチャイナ・マーケット・リサーチ・グループのマネージングディレクター、ベン・キャベンダー氏は茅台酒が人口動態の変化にも直面していると見ている。「アルコール度数の高い蒸留酒は伝統的に年配の男性向けの酒で、35歳以下の消費者の多くは好まない」という。貴州茅台は若年層を取り込むため、カフェラテやアイスクリームとのコラボレーションなど手頃な価格の商品を展開しているが、「目立った効果は出ていない」(キャベンダー氏)という。
さらに貴州茅台は外国での展開を成長戦略の一つとして掲げているが、国内市場の減速を補うには不十分だと見られている。
<揺らぐ貴州省の財政>
貴州茅台の経営不安は貴州省の財政にも暗雲をもたらしている。
赤・白・青の配色の貴州茅台のロゴは貴州省の公共事業の場の至るところで見られる。同社の従業員数は3万人を超え、貴州省の税収の20%、省内総生産(GDP)の5%を占める。省内の高速道路建設会社の救済に動いたほか、道路、鉄道、空港、病院などの公共インフラにも資金を提供してきた。
一方、貴州省は2023年末時点の債務が1兆5000億元に達し、前年末から26%増加。債務の対GDP比は72%に達している。
スイスのザンクトガレン大のグイド・コッツィ教授(マクロ経済)は、貴州茅台の成長鈍化は貴州省の財政支援能力を制限して「最終的に借入コストを押し上げ、同省が債務不履行に陥るリスクが高まるかもしれない」と警鐘を鳴らしている。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
#### **為替市場の動向**
- **ユーロ上昇**:ウクライナ和平合意の期待感や欧州の財政支出拡大の可能性を背景に、ユーロは**0.89%高の1.0468ドル**まで上昇。  
- **カナダドル・メキシコペソ下落**:トランプ前米大統領が**4日から25%の関税を発動**すると発言したことで、両通貨が下落。  
- **ドル指数下落(0.48%安の106.78)**  
- **ビットコイン上昇(1.7%高の85,665.91ドル)、イーサリアム下落(4.74%安の2,119.73ドル)**  
#### **債券市場**
- **米国債利回り低下**:  
  - 10年債利回り:4.168%(12月以来の低水準)  
  - 2年債利回り:3.991%  
- **要因**:  
  - **ISM製造業PMI(2月)50.3**(前月50.9から低下)→ 景気減速懸念  
  - **関税発動の影響**  
#### **株式市場**
- **主要3指数が下落**(S&P500、ナスダック、ダウ)  
  - **ISMの経済指標悪化**と**トランプ氏の関税発言**が影響  
  - **エヌビディア(NVDA)8.7%安、アマゾン(AMZN)3.4%安**  
  - **ディフェンシブ株(ヘルスケア、不動産)は上昇**  
#### **コモディティ市場**
- **金価格上昇(1.85%高の2,901.10ドル)**  
  - **関税政策の不透明感**から安全資産としての需要増  
- **原油下落(WTI 1.99%安の68.37ドル)**  
  - **米景気減速懸念**と**OPECプラスの増産観測**が影響  
### **総括**
- **ユーロ高・ドル安の流れ**、関税問題で**カナダドル・メキシコペソ下落**  
- **景気減速懸念の高まり**(ISM指標の悪化、利回り低下)  
- **株式市場は関税と経済指標の悪化で下落、コモディティ市場はリスク回避の動き**
ロンドン株式市場と欧州株式市場はともに上昇し、防衛関連株が大幅に買われた。FTSE100種は続伸し、終値で最高値を更新。防衛費増額への期待が背景にあり、BAEシステムズは14.6%高、ロールスロイスは4.4%上昇。欧州株式市場でも防衛関連株が上昇し、ラインメタルは13.7%高、レオナルドは16.1%高となった。 

また、欧州首脳は防衛費増額とウクライナ和平案の策定で合意。米ウクライナ首脳会談は決裂した。これを受け、ユーロ圏の国債利回りが上昇。ドイツ10年債利回りは2.497%に上昇し、ユーロ圏の追加利下げ観測も強まった。 


備忘録(2025/2/28-3/2

●海外企業決算
●海外企業
苦境に立たされている半導体メーカーは金曜日、オハイオ州の半導体製造工場の開設を延期すると発表した。
同社は、最初の工場の建設は2030年まで完了せず、同年か翌年に稼働を開始すると述べた。最大1000億ドル規模の複合施設の2番目の工場は、おそらく2031年に完成し、翌年に稼働を開始するだろう。同社は当初、最初の工場の生産を2025年に開始する計画だった。
「米国拠点への投資を継続する中で、当社の事業ニーズとより広範な市場の需要に合わせて工場の生産開始時期を合わせることが重要だ」とインテル・ファウンドリー・マニュファクチャリングの副社長兼グローバルオペレーション責任者のナガ・チャンドラセカラン氏はリリースで述べた。「これは常に当社のアプローチであり、これにより責任を持って資本を管理し、顧客のニーズに適応することができる」
長年世界トップの半導体メーカーだったが近年その地位を失ったインテルは、人工知能ブームの傍観者だったことが主な理由で下降線をたどっている。同社の株価は昨年半分以上下落し、同社は売り上げの減速に対処しつつ、資本集約型の半導体製造事業へのさらなる進出を図っている。
8月、同社が四半期決算で期待外れの業績を発表したことを受けて、株価は過去50年間で最悪の1日下落を記録した  。インテルはまた、従業員の15%を解雇すると発表した。これにより同社は最近、買収の標的になる可能性があり、 12月にはCEOのパット・ゲルシンガーが解雇された。
インテルは、ジョー・バイデン前大統領のCHIPS・科学法事務局の主要受益者だった。政府は最近、米国国内での半導体生産拡大を目指し、11月に同社に約80億ドルの助成金を交付した。
●日本企業
日産自動車は再びスーパーヒーローを探している。今から約26年前、フランスのルノーとカルロス・ゴーン氏という積極的でコスト削減に熱心な経営者が、経営危機にひんしていた日産を救った。
日産は今、内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)を退任させることを視野に調整を進めている。業績悪化に加えてホンダとの共同持ち株会社設立交渉が頓挫したことなどを受けた動きだが、四半世紀前のような明白な救世主はいない。
日産の問題は深刻化している。同社はここ6年間で3度目の年間ベースでの純損失を予測。米国と中国での販売は低迷している。
2026年に債務返済が急増することから、抜本的な対策を迫られる可能性もある。手頃な価格の電気自動車(EV)で日産が築いてきた初期の優位性は比亜迪(BYD)を筆頭とする中国勢により覆された。
トヨタ自動車のハイブリッド戦略は日産をさらに引き離している。内田氏は製品ラインアップの古さや利益率と信頼性の低下という問題に直面しており、時間的余裕はなくなっている。
ブルームバーグは取締役会が内田氏(58)の後継者候補の選定に乗り出したと報じたが、より大きな課題は、長期的な財務および戦略的支援を確保することだ。
筆頭株主のルノーは、中国の浙江吉利控股集団との提携に大きな可能性を見いだしている。米KKRなどのプライベートエクイティー(未公開株、PE)投資会社が関与し抜本的な再編を迫ることも考えられるが、そのためには日産の複雑な提携関係を解きほぐす必要があるだろう。
企業カルチャーや戦略上の違いといった障害は多いものの、ホンダとの協力は依然として選択肢の一つだ。
「日産は的を射た製品ポートフォリオから、全く的外れなポートフォリオへと10年の間に転落した」と、現在業界向けにコンサルティングを行っている元日産最高執行責任者(COO)のアンディ・パーマー氏は指摘。
「内田氏は幾つかの再生計画を実行しようとしたが、うまくいかなかった。恐らく、必要な大きな変化を断行するほどの冷酷さが欠けていたため」だと述べた。
ドラマの始まり
18年以後、日産を巡る物語は裏切りや追放、同盟の変化といった波瀾(はらん)万丈のドラマのような展開を見せている。
その年、ルノーによる日産への侵食を恐れた内部関係者たちが、ゴーン会長(当時)の解任に動いた。逮捕され特別背任などで起訴された元会長は大胆にもベイルートに逃亡。今もなお国際指名手配を受けている。
19年12月にCEOに就任した内田氏は、自動車会社を率いる典型的タイプではない。大学で神学を学んだ同氏は、日商岩井(現在の双日)から日産に移ってきた。
日商岩井は、自動車製造よりも小麦粉や工業部品の取引で知られていた。CEOの座を争った関潤氏とアシュワニ・グプタ氏は、自動車業界での経験が豊富で、19年後半に共同COOに就任した。
だが、関氏はほどなく退社し、日産の工場や製品開発を監督する業務上の全権限をグプタ氏に委ねた。同氏は時に投資家やアナリストにとって好ましい窓口となり、内田氏よりもCEOらしい対応をすることも多かった。 
グプタ氏が23年に不正行為の疑いで事実上解任され、内田氏が単独でトップに立ったことで、両者の権力闘争は決着した。
その間、日産の業績は悪化。取締役会は立て直し計画を命じた。内田氏は昨年3月、利益率の向上や数十の新モデルの投入、3年以内に年100万台の販売増という野心的な戦略を発表した。
それでも投資家は納得しなかった。日産の株価は急落し、それ以来約30%下落し、同社の時価総額は約1兆6000億円にまで落ち込んだ。かつては日本2位の自動車メーカーだった日産は今では時価総額で5位と、トップのトヨタに大きく水をあけられた。
昨年末までに日産の経営難は深刻化。売上高の減少と純利益の94%減という結果に表れた。 従業員9000人削減と生産能力の2割カットを計画する中、内田氏は報酬を半分にすることに同意した。
この業績悪化により、ホンダや鴻海精密工業など、提携先候補の関心を集めることとなった。鴻海は米アップルのスマートフォン「iPhone」の受託生産で知られる台湾企業だ。
交渉決裂
ホンダとの協議については、日本政府、特に経済産業省が慎重に支援し、日産の経営権を国内にとどめ、重要産業である自動車業界を守ることを目指した。 
日産とホンダは昨年、共同持ち株会社設立計画を発表し、世界3位の規模を持つ自動車メーカーの誕生を目指した。しかし、両社の経営陣はすぐに意見が対立した。
ホンダは日産を買収して子会社化することを提案。買収対象となることはあり得ないとしていた日産と、長年の提携先で保有している日産株36%の価値を最大限に高めたいルノーを動揺させた。
ホンダの技術主導の実用主義と日産の独立志向という対立は、乗り越えるにはあまりにも大きなものだった。
業績悪化と交渉決裂により、内田氏のリーダーシップに対する厳しい視線はさらに強まっている。
格付け会社のムーディーズとフィッチは日産をジャンク(投資不適格)級に相次ぎ格下げ。S&Pグローバルは23年以後、日産をジャンク級としている。
日産の取締役会は3月6日に予定されている指名委員会の開催に合わせて、正式に内田氏を退任させる計画を立てているとダイヤモンド・オンラインは報道。最高財務責任者(CFO)に任命されたばかりのジェレミー・パパン氏が暫定CEOに起用される可能性があると伝えた。
パパン氏は社内での評価は高いが、元調査アナリストという経歴には幾つかの問題点もある。ルノー出身のパパン氏は、ゴーン氏退任後の日産社内では一部の派閥から歓迎されない可能性もある。 
現職に昇進する前は、北米地域を担当していたが、日産はラインアップに目新しさがなく、値引きでコストを膨らませた。
次に正式な日産CEOとなる人物は、財務面で救い手を確保するのに苦労するかもしれない。主要な競合他社はほぼ全て、貿易上の脅威に悩まされている。EVの勢いが鈍化し、世界最大の自動車市場である中国での業績が急速に悪化している。
鴻海が日産を手に入れようとすれば、日本の大手企業が中国と密接な関係にある台湾企業の手に渡ることを嫌う経産省の抵抗を乗り越える必要がある。
鴻海は、日産などの従来型の自動車メーカーが生き残るためにはアウトソーシングが必要になるだろうと見込んで、EVの受託生産を手がけることを熱望している。
鴻海のEV事業を監督するのは、他ならぬ内田氏と日産CEOの座を争った関氏だ。
関氏は日産に関する知識を活用し、鴻海がルノーや日本政府にアプローチするよう主導した。鴻海の劉揚偉会長はルノーが保有する日産株の取得に関心を示していることを認めたが、日産の戦略的買収を目指すのではなく、「協力」が優先事項だとしている。
債務返済
統合は失敗に終わったが日産とホンダはEVとバッテリーに焦点を絞った戦略的提携を続けている。特に経営陣が交代すれば、将来的な協議の余地を残している。ダイヤモンドはパパン氏について、日産がホンダの子会社になることにもっとオープンだと報じた。
KKRも日産への潜在的な投資家として浮上しており、株式または負債オプションを見極め、同社の財務強化を検討している。
しかし、KKRは経営権を狙っているというより、需要低迷に苦しむ日産の主要サプライヤーであるマレリホールディングスに投じている26億5000万ドル(約4000億円)を保護しようとしている可能性が高い。
事情に詳しい関係者によると、日産COOだったグプタ氏の退任に一役買った独立社外取締役の永井素夫氏は、日産の次期リーダーの選定と提携交渉において重要な役割を果たしている。永井氏は、指名と報酬、監査の各委員会に所属する唯一の取締役だ。
リーダーシップの課題とは別に、日産の負債は急激に増加する見通しだ。日産とその関連会社は、今年16億ドルの債務償還期限を迎えるが、26年には56億ドルにまで膨らむ方向。これは、ブルームバーグのデータによると、少なくとも1996年以来の高水準だ。
日産は3月中旬までに、より踏み込んだ再建策を提示する予定だ。日産の取締役会は、新しいCEOや新しいパートナー、あるいはその両方を決めるという重要な決断を迫られている。しかし、その選択肢は急速に狭まっている。
英調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエーツの自動車アナリスト、ジュリー・ブート氏によれば、「日産には今、単なるリストラ以上のものが必要」だという。日産は今、「かつてのような会社ではない」との見立てだ。
●先進国政治動向
ベッセント米財務長官は28日、メキシコが米国の対中関税に足並みをそろえることを提案したことを明らかにした。「非常に興味深い」動きだとし、カナダも同様の措置を取るべきだと述べた。
メキシコとカナダの高官は今週、トランプ大統領が両国への関税発動を言明した期日の3月4日を前に、米政権の閣僚らと通商協議を行った。米国は同日からメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を課し、中国からの輸入品に10%の関税を上乗せする見通し。
ベッセント財務長官はブルームバーグテレビとのインタビューで、「カナダも同様の措置を取れば素晴らしい意思表明となり、不公平な中国製品の洪水から北米を要塞化することができる」と述べた。
メキシコとカナダ両政府とも、現時点でベッセント財務長官の発言に反応していない。
ワシントンの中国大使館は、米国による一方的な関税引き上げは世界貿易機関(WTO)のルールに違反し、中国、米国、そして世界の利益を損なうとした。
ブルームバーグは関係者の話として、メキシコが提案する対中関税は自動車と自動車部品に焦点を当てるものと報じた。米国によるメキシコ製品への関税導入を回避するための対応とみられる。
メキシコのシェインバウム政権はここ数カ月、米国とカナダ政府の対中政策を注視しているとの立場を明らかにし、トランプ氏の大統領再選以前から、不公正な中国の貿易慣行に対処するため「足並みをそろえる」ことを検討していたと発信している。
メキシコのレレナス経済副大臣は27日、メキシコは主に中国からの安価な製品に関税をかけてきたが、さらなる措置を取る可能性があると述べた。
カナダとメキシコは、危険な合成麻薬「フェンタニル」の流入を抑えるため、米国との国境の安全確保が進んでいることをトランプ政権に示そうと必死だ。
カナダのマクギンティ公安相は4日間の訪米を終えるにあたり、カナダが国境を守るために迅速に行動していることを米国に伝えたと説明。「われわれは国境に関するいくつかの非常に重大な調整、投資、改善を行ってきた。全日程を会議に費やし、米政権にその成果を伝えた」と語った。
メキシコのエブラルド経済相は、ラトニック米商務長官、グリア米国通商代表部(USTR)代表と「友好的な実務会談」を行ったと説明。米国とメキシコは「共に働く素晴らしい未来がある」とXに投稿したが、米国の関税期限を巡る協議についての詳細は明らかにしなかった。
米国のドナルド・トランプ大統領は、もう一つ質問を受けると言った。これがすべての始まりだった。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアとの3年にわたる戦争を終結させる取り組みの中、米国の継続的支援を確保すべく首都ワシントンを訪れトランプ氏と会談した。当初はおおむね丁重な議論が続いていた。
だが、JD・バンス副大統領がその流れに水を差した。同氏は、トランプ氏とロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係を巡る記者らの質問に異議を唱え、「反論しなければならない」と言った。そして、「アメリカを良い国にしているのは、アメリカの外交努力だ。それこそトランプ大統領がしていることだ」と述べた。
ゼレンスキー氏はこれに反論。プーチン氏が長年にわたりウクライナを占領しようとしてきたことを説明した。
そこから会談は、何百万人もの視聴者の前でテレビカメラに映し出される緊迫した論争へと発展した。両国の高官らに衝撃を与え、戦争終結につながる可能性のあった米ウクライナ間の合意を危うくした。
米国とウクライナの当局者によると、トランプ氏がウクライナは停戦に向けた支援を望んでいないと宣言し、米大統領側がゼレンスキー氏にホワイトハウスを去るよう求めて会談は終わった。
長年、米大統領と世界の指導者たちの間で綿密に演出された交流の舞台となってきた大統領執務室で、公の場での緊張が表面化する珍しい瞬間だった。この会談に先立って同日行われたゼレンスキー氏と超党派の上院議員団との会談は、団結を誓い、笑顔の自撮り写真を撮って終わっていた。
「大統領執務室に来て、米国のメディアの前でこの問題を議論しようとするのは無礼だと思う」と、明らかに怒ったバンス氏は言い、ゼレンスキー氏への叱責を続けた。
「一度でもありがとうと言ったか?」とバンス氏は尋ねた。「感謝している」とゼレンスキー氏は答えた。
ある時点で、ゼレンスキー氏はバンス氏が叫んでいると非難し、「大声で話せば―」と言いかけたが、トランプ氏が遮って「彼は大声で話していない。あなたの国は大変なことになっている」と言った。
「分かっている」とゼレンスキー氏は言った。
「あなたは勝っていない」とトランプ氏は言った。「(この戦争に)勝っていない。我々のおかげで、うまくいく可能性がすごくある」
ゼレンスキー氏とバンス氏の間の椅子に座り身を乗り出したトランプ氏は、話しながらゼレンスキー氏を指差し、同氏の肩に触れることもあった。
この会談は、欧州各国の指導者たちとの1週間にわたる協議の集大成だった。彼らはトランプ氏がウクライナを支援することを期待して、同氏に取り入っていた。
ここ数日、トランプ氏はゼレンスキー氏がレアアースに関する協定に署名し、米国が行ってきたウクライナに対する数十億ドルの支援を償還することになると示唆していた。しかし、記者会見は中止され、トランプ氏がソーシャルメディアでゼレンスキー氏は米国を軽視したと宣言する結果となった。
「和平への用意ができたら戻ってくればいい」とトランプ氏はトゥルース・ソーシャルに書き込んだ。
大統領執務室での激論が展開する中、ウクライナのオクサナ・マルカロワ駐米大使は青いノートに書き込むのをやめ、頭を抱えた。ホワイトハウスのスタッフの1人が「これは大変なことになる」とささやいた。
メディアが大統領執務室を退去した後、ホワイトハウスの記者室に、ゼレンスキー氏との予定されていた残りの行事がすべて中止されるという情報が流れた。ホワイトハウスの当局者らによると、トランプ氏とゼレンスキー氏の昼食会用に準備された食事は、代わりにホワイトハウスのスタッフに提供された。記者たちはホワイトハウスの外に集まり、ゼレンスキー氏の黒いSUVが出発するのを見守った。
世界の指導者たちが米大統領と会談するために米国を訪れる際、通常は大統領執務室に座り、メディアの前で互いについて事前に調整されたコメントを交わす。その後、扉を閉め、意見の相違を話し合う。
今週、トランプ氏がフランスのエマニュエル・マクロン大統領と英国のキア・スターマー首相と会談した際もそうだった。28日もその予定だったが、途中で脱線してしまった。
28日の会談が異例だったことを示す兆候は最初からあった。ロシアの国営タス通信所属だと自認する記者が、ブリーフィングルームで他の記者たちと並び、名前をチェックするホワイトハウスの報道担当者の前を通過した。タス通信は通常、ホワイトハウスの制限付きイベントには許可されていない。ホワイトハウスの当局者によると、タスが承認されたメディアリストに載っておらず、会談が進行する中で部屋から退去させられた。
会談の初めに、米国を拠点とする記者がゼレンスキー氏になぜスーツを着ていないのかと尋ねた。ゼレンスキー氏は、自国が戦争中であることを訴えるため、世界の指導者たちと会う際にカジュアルな軍服風の服装をする習慣がある。彼は、自国が戦争中でなくなったら、その記者が着ている青いスーツよりもおそらくもっと素敵なスーツを着ると答えた。
ソファに座っていたマルコ・ルビオ国務長官は、この質問にバンス氏が笑ったのを見て眉をひそめ、目をそらした。
トランプ氏とゼレンスキー氏の意見の相違は、プーチン氏を信頼できるかどうかとの記者団からの一連の質問に答える中で浮き彫りになり始めた。トランプ氏は、プーチン氏と特に親密な関係にあると述べ、ロシアが自身の選挙に介入したと非難された1期目にその絆が深まったことを示唆した。
トランプ氏がプーチン氏は戦争に関連して結んだ合意を尊重するだろうと言うと、ゼレンスキー氏は頭を横に振って同意しなかった。
それでも、トランプ氏とゼレンスキー氏は最初は意見の相違を覆い隠すようにしていた。ゼレンスキー氏は、プーチン氏とのこれまでのやりとりと、ロシアが幾度となく合意を尊重しなかったことをやんわりと指摘するにとどめていた。
その後、バンス氏がトランプ氏はロシア側に立っているのではとの記者の質問に対して発言したいと述べた。トランプ氏自身は、自分は世界と立場を共にし、平和を見いだしたいと答えていた。
トランプ氏は最初、2人が言い争うのを見ていた。しかし、ゼレンスキー氏がロシアを信頼することの結果を米国もいずれ感じることになるだろうと言った時に割り込んだ。
「我々が何を感じるかをあなたが指図する立場にはない」とトランプ氏は言い、「第3次世界大戦になりかねないギャンブルをしている」と付け加えた。
約50分後、トランプ氏は「十分見ただろうと思う」と言い、報道陣に退出を求めるよう報道担当者に合図した。記者たちが大統領執務室を去る際、トランプ氏は「これは最高のテレビネタになるだろう」と皮肉を込めて言った。
●先進国中銀、金融当局
米連邦準備理事会(FRB)のバランスシート縮小プロセスを巡り、先行き見通しが混乱している。19日公表の1月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨がきっかけだ。保有債券残高を削減するFRBの取り組みについて「さまざまなメンバー」が政府の債務上限問題の動向と絡み合い、影響を受けかねないと懸念を示したからだ。
議事要旨公表の数日前まで、FRBによる米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の残高を削減する「量的引き締め(QT)」について、多くの銀行が終了予想時期を後ろ倒しにしていた。しかし、今では削減プロセス見通しにコンセンサスが存在しなくなっている。
議事要旨で懸念を表明した複数のメンバーは、連邦議会が政府財政の在り方や1月に効力が復活した法定債務上限について対処する中、FRBとしては先行き不透明感のある短期金融市場の状況を乗り切るため、QTの一時停止か減速をする準備があると述べた。
こうした背景には、法定債務上限に達する時期がはっきりしないことがある。財務省は既に「特別措置」を導入し、制限範囲でほとんど通常通りに国債発行を継続しているものの、市場では債務上限到達時期の予想にかなり幅があり、中には初夏までに到達するとの見方もある。
このため上限到達の前後の短期金融市場の様子を想定すると、しばらくの間不安定化する恐れがあり、FRBが流動性を過剰吸収するリスクが高まる。FRBはこうした事態を望んでおらず、QTプロセスの変更につながる可能性がある。
市場の流動性レベルを読み取ることは難しい。アナリストらによると、債務上限が適用されている間も資金調達を続ける措置を財務省が取ることで、金融システムに資金が流れ込み、それまで安定推移だった準備預金の水準が押し上げられる。一方で、債務上限問題が解決されると、今度は急速に市場から流動性が吸収されてしまうことになる。
<停止、減速、それとも継続か>
ライトソンICAPのアナリストは「FOMCはバランスシート縮小ペースを完全に停止するのではなく、『減速』する方向に傾くと考えられる」と話す。完全停止してしまうと、FRBは保有残高を安定させるため、国債買い入れが一定程度必要になる。「QTペース変更だけでも市場との対話に非常に苦労するのに、一時的な新たな資産購入プログラムの導入まで説明するとなれば一層大変なことになる」と指摘する。
バークレイズのアナリストは依然、QTが9月か10月に終了するとの見解を維持している。「例えば3月や5月のFOMCで一時停止を決定し、その後は短期間再開し9月や10月に資産圧縮を終えるのは、合理的ではないかもしれない」と指摘する。
その上で「1月のFOMC議事要旨で示された懸念について、われわれの見方では、準備預金の水準に関しての意味は大きくなく、むしろ8―10月にかけ、水準がどれほど急ピッチに減るかに関するものかもしれない」と話す。
一方で、QTを停止すればFRBが望むよりも早期にQT終了に追い込まれるリスクがあると考えるアナリストもいる。
調査会社LHマイヤーのアナリストは「一時停止後に再開されない場合、完全停止に転じかねない。特に債務上限問題が市場機能への信頼を傷つけたとの見方が強まれば、QT再開は慎重を要するだろう」と推測する。
こうしたことから、債務上限問題が続く間はQTを減速させるべきとの見解につながっている。
<流動性の見極め>
FRBは以前から、政府が財政をやりくりする取り組みによって、流動性が十分かどうかを市場からに明確に読み取ることが難しくなるのではないかと懸念していた。このためFRBは昨年、QTのペースを減速させることで最終段階に向けたアプローチを慎重に進めることにした。
さらに、短期金融市場で過度な変動を引き起こしたり、政策金利のフェデラルファンド金利のコントロールを損なったりすることなく、QTをどこまで進められるかを見極めるのに腐心していた。
ただ、最近までFRB当局者はQT継続の余地があるとの認識を示しており、市場流動性に関する最新のデータでもQT停止が必要となる問題は見られなかった。ただ、1月の議事要旨公表後にQTプロセスを巡るFRBの次の一手が予想しづらくなっている。
トランプ米大統領がワシントンの政府機関をくまなく攻撃する中で、1期目で格好の標的となった連邦準備制度理事会(FRB)は奇しくもこれを逃れている。
もっとも、こうした状況はいつ変わってもおかしくない。トランプ氏は返り咲きを果たして以降、金利の引き下げを求めるとともに、インフレ抑制に失敗したとしてFRBを批判。規制の監督者としてあまり適していないとの見解を示している。だが、かつてトランプ氏がFRB当局者らを「ばか者」呼ばわりしたことを考えると、かなりのトーンダウンだ。
注目すべきは、トランプ氏が1月の金利据え置き決定を「正しい判断」と表現したことだ。1期目で狙ったパウエル議長解任の試みも今のところ封印している。独立機関を従わせるための大統領令でも、金融政策には例外を設けた。ベッセント財務長官はFRBが設定する短期金利ではなく、長期金利の引き下げに焦点を当てたいと考えており、トランプ氏もそれに従っているようだ。
FRBの独立性を損ない、米国市場への信頼を損ないかねないと懸念していた投資家にとって、トランプ氏の「停戦」は歓迎すべきニュースだ。また第2次トランプ政権がまい進する破壊的なアプローチとも一線を画す。
市場ウォッチャーは主に2つ理由があるとみている。1つは、ベッセント氏やハセット国家経済会議(NEC)委員長などの側近らが、金利政策には関与せず、伝統的なホワイトハウスの権限に沿った政策に専念するようトランプ氏を説得し、市場の不安を鎮める役割を果たしているとの見立てだ。
大統領への影響力
ベッセント氏ら政府高官の一部は、歳出削減と減税、積極的な関税の活用、エネルギー生産拡大の相乗効果により、成長を促進するとともに、財政赤字を削減しインフレを抑制するとの見解を提唱する。これにより、企業と家計の借り入れコストは抑えられるという。そして、その成否を測る指標として、FRBの政策金利ではなく、10年債利回りを挙げている。
エバコアISIのクリシュナ・グーハ氏は「ベッセント氏は長期金利に一段と焦点を当てるという点において、上司に多少の影響を与えているかもしれない」とリポートで指摘。「少なくとも目先、これはFRBと新政権の緊張を和らげ」、利回り低下を後押しするとの見方を示す。
近年の米国債市場の動向は、ベッセント氏の主張を幾分裏付ける。FRBが50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)で利下げを開始した2024年後半に、10年債利回りはむしろ反対の方向に向かった。
長期金利は住宅ローンや自動車ローンから法人向け融資に至るまで、実体経済の借り入れコストに最も大きな影響を与えるため、こうした国債市場の動きにより、FRBに介入すれば簡単に解決できるとの考えは損なわれた。
それでも、金融政策見通しは唯一とは言わないまでも、米国債利回りを左右する最大の要因であることに変わりはない。今月に入っての米国債の値上がりで、10年債利回りは4.2%に迫り、1月につけた高水準から0.5ポイント余り下がった。背景には、FRBが景気減速を一段と懸念する方向へと転換するとの読みがある。
また、アナリストの間では、トランプ氏とベッセント氏が進める経済政策が主張通り、実際に借り入れコストの押し下げにつながるか懐疑的な見方が多い。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)の通貨戦略グローバル責任者、ウィン・シン氏は「政権の政策が10年債利回りを低下させることはないだろう」と話す。「関税はインフレを引き起こす。これについては疑う余地がない」とシン氏。共和党が主導する議会が減税の実現を目指しており、「財政刺激策が実施される見通しだ。すでに完全雇用の状態にあるため、これはインフレ圧力を招く」と述べる。
トランプ氏が相対的に控えめな姿勢を見せているもう1つの理由として、低金利を要求することは今や政治的なリスクが大きく、経済的にも理にかなわないとの見方がある。高インフレなど遠い過去の記憶だった1期目から、状況は劇的に変化した。トランプ氏はインフレ抑制を掲げ、新型コロナ禍で物価高騰に苦しめられた有権者の不満を吸収する形で大統領選に勝利した経緯がある。
ドイツ銀行のチーフ米国エコノミスト、マシュー・ルゼッティ氏は「インフレ率は高止まりする一方で、労働市場は力強く経済も堅調だ。市場も好調で、FRBに自由にさせておくことが容易な時期だ」と述べる。
だが、雇用が弱まり、インフレが目標を上回ったままなら、状況は一変する可能性があり、その両面において警戒すべき兆候が出ている。「そうなれば、トランプ政権がFRBに対して再び批判的な姿勢を強めるかもしれない」と、 ルゼッティ氏は指摘した。
ベッセント氏はトランプ氏とは対照的に、金融政策についてコメントしないと明言している。「FRBが利下げするかどうかには注目していない」と、同氏は2月5日にブルームバーグに語った。住宅ローン金利や長期資本形成に影響するとして「10年債こそ注目すべき重要な価格だ」と述べている。 
ベッセント氏は昨年の大統領選でトランプ陣営に加わって以降、この点についてトランプ氏への働きかけを続けてきた。事情に詳しい関係者によると、FRBに対するアプローチでトランプ氏が安定を演出することが自身の利益につながるとベッセント氏は遊説の合間を縫って水面下で伝えていた。
パウエル氏を即座に解任しようとすれば、努力に見合わない市場の動揺と憲法上の危機を引き起こすことになるとベッセント氏は訴え、トランプ氏の説得に成功したという。パウエル氏の任期は2026年半ばに終了するため、FRBをトランプ氏の意向に沿った形にしようとするには十分な時間がある。さらに、FRBの独立性を巡って大きな論争を招けば、有能な候補者が次期議長となることを思いとどまる可能性がある。ベッセント氏はこう主張したもようだ。
トランプ氏はパウエル氏を任期満了まで務めさせるつもりだと言明し、返り咲きを決めた後も改めてその点に言及した。ベッセント氏とパウエル氏は今月、両機関の長年の伝統である週次会合を開始した。財務省はコメントの要請に応じなかった。
究極の歯止め
金融政策決定という中核業務以外では、トランプ大統領による圧力を受けて、FRBがシフトしている兆候もうかがわれる。マイケル・バー氏(民主党)は先月、共和党が同氏の解任に動くのではないかとの臆測が流れる中、2月末をもって監督担当の副議長を退く意向を表明した。規制関連での譲歩ともとれるこうした動きは、金融政策の独立性を巡る論争が激化した場合に備え、FRBは体力を温存しておきたいとの思惑があるかもしれない。
さらにFRBはトランプ大統領の就任式の直前、気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するために2017年に設立された「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」からの脱退を表明した。
パウエル氏は、トランプ政権とうまくやっていけるとの自信を示しており、トランプ大統領の経済政策が政策金利の軌道にどのような影響を与えるかについては総じて発言を控えている。
ポトマック・リバー・キャピタルのマーク・スピンデル最高投資責任者(CIO)は、休戦にほころびが出始めたとしても、トランプ大統領が強硬路線を突き進まないよう抑える重要な要因があると指摘する。トランプ氏が自身の成績表だととらえる金融市場だ。
「金融政策の独立性が損なわれている、あるいは誤った政策が実施されている、もしくは大統領がFRBビルに押し入ってFOMCの席を要求するかのような兆しを金融市場が嗅ぎ取った場合、極めてネガティブな反応を示す恐れがある」とスピンデル氏。「それが究極の歯止めになるだろう」と語った。
●先進国経済指標
INSEEによると、鈍化の原因はエネルギー価格の低下。特に、前年同月に急上昇した電力価格が、大幅に低下したことが背景にある。
また、サービス価格の上昇も鈍化し、製造品やタバコの価格上昇もより緩やかではあるが減速した。食品価格はわずかに加速したという。
引き続き経済の縮小が予想されており、家計はユーロ圏の経済見通しに比較的厳しい見方を維持しているようだ。
変動が激しい食品とエネルギー価格を除いたコア指数は、2.6%上昇。前月の2.9%から伸びが鈍化した。
高止まりが続き、全体のインフレ率の押し上げ要因となっていたサービスインフレ率は3.8%と、2024年10月以来初めて4%を下回った。
エネルギーコストの高騰や依然として高水準の金利、不透明な経済見通しなどを背景に24年のドイツの国内総生産(GDP)は、2年連続のマイナス成長となり、ユーロ圏内で最も景気が低迷した。
独欧州経済センター(ZEW)の専門家、フリードリヒ・ハイネマン氏は、ドイツはスタグフレーションの状態にあると指摘。「産業が深刻な景気後退(リセッション)に直面し、失業率が上昇する中、インフレ率は2%をわずかに上回る水準で高止まりしている」と述べた。
12月は関税導入で輸入品の価格が上昇するとの見方から消費が押し上げられたとみられる。1月はこうした前倒し需要の効果が薄れたことに加え、全米各地が異例の寒波と雪嵐に見舞われたことで消費が抑制された。カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で発生した大規模な山火事も影響した可能性がある。
気象条件に加え、トランプ政権が進める関税措置や大幅な支出削減などの政策も経済活動に影響を及ぼしている可能性がある。
FWDBONDSのチーフエコノミスト、クリストファー・ルプキー氏は「消費者はトランプ政権が打ち出す変化を見極めようと右往左往しており、様子見姿勢を取ることを選んだようだ」と述べた。
1月は飲食店での支出も弱含み、消費者の節約志向が強まっていることが示唆された。
●金融市場、先進国トピックス
ウォール街で由緒あるプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社が、ある企業の売却を望んだ。ゴールドマン・サックス・グループやモルガン・スタンレー、JPモルガン・チェースといった一流の投資銀行が、この取引を支援した。
取引完了からわずか数カ月後、売却された企業の最も重要な利益指標、EBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)が幻影だったことが分かった。
多くの金融専門家は長年にわたり、非上場企業がEBITDAという高度に操作された利益を業績を示す指標として報告していることに警告してきた。
悪夢が現実となったかのような今回の事件は今、刑事捜査と責任のなすり付け合いの渦中にある。
裁判所文書などから問題の詳細が明らかになり、重要な利益指標の背後にある会計上の錬金術について、内部の様子がまれに見るほど詳しく伝えてられている。企業買収に資金を投じようとする投資家が教訓とすべき事例だ。
発端
PE投資会社のリンゼイ・ゴールドバーグが2019年にオーストリアの包装会社シュア・フレキシブルズの売却に乗り出したところ、市場から疑いの目を向けられたことが発端だった。
ゴールドマンによる買い手探しは初期段階で失敗に終わったが、最終的に21年に投資会社B&Cグループに売却された。B&C側のアドバイザーはモルガン・スタンレーとマッキンゼーが務めた。
シュアは売却された後、ほぼ即座に崩壊したが、売り手側は何も間違ったことはしていないと主張している。
B&Cが雇った会計士がシュアの経営陣が資金を不正使用した証拠を発見したことを受け、オーストリアの検察当局がEBITDAとそれが悪用された疑いで捜査に着手した。
PE投資業界は3年間のM&A(企業の合併・買収)低迷期に前例のない水準まで積み上がったポートフォリオ企業の売却を図っている。
その際には、売却される企業の収益性がどの程度改善したかが徹底的に検証される。シュアの例は、収益性の算定を誰が行うかによって結果が異なることを示した。
売却に向けたゴールドマンの最初の取り組みでは、潜在的な買い手であるプラチナム・エクイティー、シンベン、ローンスターがシュアの財務状況について懐疑的な見方を示したことが、ゴールドマンの内部文書から明らかになっている。
買い手候補はシュアの利益急増を分析するのが難しいことに難色を示した。しかし、利益を示す数値が誇張されている可能性があるという指摘は、当時シュアの諮問委員会メンバーだったマイケル・ディーズ氏によって退けられた。同氏はリンゼイのマネジングパートナーだ。
ディーズ氏は昨年12月の宣誓証言で、単なる見解の相違だったと述べている。
ウィーンを本拠とするB&Cは、デューデリジェンス(資産査定)の期間を短縮した後、シュアの企業価値を約9億ユーロ(現在の為替レートで約1400億円)と評価する取引で同社の過半数株式を取得した。 リンゼイは20%の株式を保持した。
暗転
JPモルガンは、新たな債務パッケージの取りまとめを支援。しかし数カ月後、シュアの新オーナーとなったB&Cは、経営陣による浪費や報告された利益を水増しする工夫が施された会計処理の証拠を見つけたと債権者宛ての書簡で訴えた。
シュアに絡む債権の価値は急落。銀行が与信枠を凍結したため、B&Cはアポロ・グローバル・マネジメントが率いる債権者グループにシュアの経営権を譲渡せざるを得なくなった。
シュアは最終的にEBITDAを修正し、20年のEBITDAを3分の1に引き下げた。KPMGから送り込まれた会計士は、それ以前の2年分についてもさらに大幅な修正を勧告した。
この経緯は、当事者がやり取りした社内メールや電子メッセージ、裁判での宣誓証言、その他の記録から明らかになった。
オーストリアの不動産帝国シグナが会計処理に対する批判が原因で破綻し、ドイツの決済会社ワイヤーカードの不正会計を巡る裁判が続く中、欧州の監査業界は再び厳しい目にさらされることになった。
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)はシュアの決算を承認。EY(アーンスト・アンド・ヤング)は買い手のデューデリジェンスを支援した。  
リンゼイの広報担当者によれば、シュアの「財務諸表は、4大会計事務所の1社であるPwCによって監査され、承認された」という。
同担当者は「B&Cはシュアを買収する前に広範なデューデリジェンスを実施し、同社がEBITDAをどのように計算し報告しているかを知り、理解していた。また、迅速な新規株式公開(IPO)による大きな利益を見込んで、シュアの市場価格を上回る評価額を提示した」と主張した。
シュア諮問委の会長だったリンゼイの幹部、トーマス・ウンガー氏の代理人を務める弁護士は、同氏はシュアの会計には関与しておらず、不正支出の疑惑も知らず、横領容疑で捜査されているわけではないと説明。
シュアの元最高経営責任者(CEO)と財務担当取締役の弁護士は、2人はいずれも不正に関与していないと述べた。
ゴールドマンの広報担当者は「シュアの財務アドバイザーを務めていた際には適切に対応しており、不正行為については認識していなかった」としている。
反論
B&Cは買収完了後に初めて実態を知ったとし、「シュアのEBITDAと実際の事業状況は、リンゼイの監督下で著しく誤って報告されていた」と反論。「加害者が法の裁きを受け、B&Cが賠償を受けられると確信している」と付け加えた。
PwCは守秘義務を理由に取材に応じなかった。現在シュアの経営権を握るアポロに加え、モルガン・スタンレーとマッキンゼー、EY、JPモルガンもコメントを控えた。
B&Cはこの事件で大打撃を受けた。約3億ドル(約450億円)のPE投資は1年足らずでゼロになった。その後、保険金で半分ほどを取り戻したが、今はリンゼイに賠償を迫っている。
EBITDAは、企業買収の世界では重要な指標とされており、企業評価や融資条件、経営陣のボーナス額の見極めに寄与する。本業とは見なされない特定の費用を除外することで、買い手企業や銀行、監査法人、貸し手、経営幹部が事業の真の価値を評価するのに役立つ。
しかし、企業側の判断や会計処理によって影響を受け、時には業績を誇張して見せることにもなる。
懐疑的な投資家がEBITDAについて語る場合、企業による仮定に基づく「調整後」の数値を指すことが多い。B&Cによるシュア買収では、報告されたEBITDAで同社が資本支出として除外した費用が焦点となった。
リンゼイの下で、シュアは特定のボーナス支払い、過剰なコンサルティング契約、さらには機械の試験・保守・移設にまで及ぶ膨大な支出を資産として計上し、時間をかけて減価償却していたとされる。 
要するに、一連の経費をすぐに認識せず、提示するEBITAの数値を水増ししていたということだ。
数十年前、著名なバリュー投資家ウォーレン・バフェット氏は、自身の投資・保険会社バークシャー・ハサウェイの株主に、そのような数値を当てにするのは危険だと警告した。
「EBITDAという言葉を見るとぞっとする。経営陣は妖精が資本支出を支払ってくれるとでも思っているのだろうか」と語っていた。同氏は最近、再びこの問題に言及し、EBITDAを「欠陥のあるウォール街の人気指標」と呼んだ。
オーストリアの刑事事件捜査は、シュアの元経営陣だけでなく、リンゼイ欧州部門のマネジングパートナーだった諮問委の元会長にも及んでいる。現時点では誰も起訴されておらず、訴追に至らない可能性もある。
不信感
この事件は、企業を買収し、立て直し、売却するというサイクルを繰り返しながら、投資家に利益を分配しようとするPE投資会社が、投資先企業の行動に対してどの程度の影響力と責任を持つかという問題に帰着する。
19年にシュアを売却しようとしたリンゼイによる最初の試みが失敗に終わったのは、EBITDAに対する懸念があったためだ。
ゴールドマンがPE投資会社にシュア買収を持ちかけた後に各社が示した反応を追った内部文書からは、EBITDAの急上昇に対する懐疑的な見方、または全くの不信感が浮き彫りになる。
シュアの元幹部は昨年12月、EBITDAの数値と関連する資本的支出の間に大きな隔たりがあったため、売却プロセスは失敗に終わったとオーストリアの捜査官に語った。 
リンゼイは21年に売却プロセスを再開し、今度はB&Cに白羽の矢を立てた。B&Cはデューデリジェンスのペース加速に同意し、買収が実現した。
裁判所への提出書類によれば、シュアの幹部は売却契約締結前に収益について活発に議論していた。「利益を上げず、損失を出しているという真実を語るわけにはいかない」と、ある上級幹部が同僚にメッセージを送っている。
ブルームバーグが入手した文書によると、リンゼイはシュアと話し合い、経費を資産として計上するという方法でかさ上げしたEBITDAを報告。EBITDAと実際の損失の差は、「特定の費用の資産計上が主な原因だ」とB&Cに伝えた。
ウィーン経済・経営大学コーポレートガバナンス研究所のアン・ダーシー所長は「シュアの経営陣が実際に行ったのは、費用を貸借対照表に載せることだった。非常に短期的な措置だという点で奇妙な行動だ」と述べ「経営陣が、売却が完了するまでの間、数値を粉飾しようとした」との見方を示した。
シュアの会計処理が実際に違法の域に達していたかどうかは別として、この件は財務実績をぼかしたり、強化したりしようとする場合に会計ルールが柔軟に利用できることを示す一例だ。
そして、時間的制約や買収される企業が提供する情報への依存という状況下で、企業買収には本質的な盲点があることを示し、デューデリジェンスプロセスの欠陥を浮き彫りにしている。
EBITDAの性質を考慮すると、なぜこれほど多くの財務専門家が数値を精査しながら異議を唱えなかったのかという疑問が生じる。
「全てを検証した上で、一体どうして監査法人が異常に気付かなかったのか」と監査法人RSMのリチャード・ガードナー公認会計士は言う。「監査法人はどんな質問をしたのだろうか」。
アトランタ連邦準備銀行の発表によると、2025年第1四半期の初期経済データはマイナス成長を示している。
中央銀行のGDPNowトラッカーは、金曜日の朝に投稿された最新情報によると、1月から3月までの国内総生産(GDP)が1.5%減少するペースにあることを示している。
最新の指標によると、1月の悪天候による消費者支出は予想を下回り、輸出も低迷したため格下げとなった。金曜日の消費者支出報告前、GDPNowは同四半期の成長率を2.3%と示していた。
この指標は変動性が高く、通常は四半期のかなり後になってからより信頼性の高い指標となるが、成長の減速を示している他の指標と一致している。
「アトランタ連銀が維持している非常に高頻度の『ナウキャスト』の本質的な変動性にもかかわらず、これは憂慮すべきことだ」と、アリアンツの首席経済顧問でケンブリッジ大学クイーンズ・カレッジ学長のモハメド・エラリアン氏はソーシャルメディアサイトXへの投稿で述べた。
同指標は2月初めにGDPが3.9%上昇すると示していたが、その後追加データが入るにつれて下落傾向にある。
商務省は金曜日、1月の個人消費が0.2%減少したと発表し、ダウ・ジョーンズの0.1%増加予想を下回った。インフレ調整後の個人消費は0.5%減少した。その結果、GDPナウの計算によると、GDPへの貢献度は1パーセントポイントも減少し、1.3%となった。
同時に、純輸出の寄与度は-0.41パーセントポイントから-3.7パーセントポイントに急落した。
こうしたデータとそれが成長見通しに与える影響は、消費者信頼感の低下とインフレ上昇への懸念を示す調査結果と相まって現れている。商務省はまた、FRBが好むインフレ指標が今月低下し、コア個人消費支出価格指数が12月から0.3パーセントポイント低下して2.6%になったと報告した。
今週は労働市場からも懸念すべきニュースがいくつかもたらされた。新規失業保険申請件数が10月初旬以来の高水準に達したのだ。
さらに、債券市場も成長の鈍化を織り込んでいる。今週、3か月物国債の利回りは10年債の利回りを上回ったが、これは12~18か月先の景気後退を示す歴史的に信頼できる指標である。
経済と政策の不確実性により、株式市場は今年不安定なスタートを切った。不安定なニュースサイクルによる激しい変動の中、ダウ工業株30種平均は2025年に2%上昇する見込みだ。
「資産市場に忍び寄った自己満足感は、今にも崩れ去ろうとしているというのが私の感覚だ」とRSMの米国担当チーフエコノミスト、ジョセフ・ブルスエラス氏は語った。
市場では、FRBが今年、景気減速への対応として複数回の利下げを行うとの見方が強まっている。フェデラルファンド金利先物市場のトレーダーは、金曜日午後の時点で、6月に0.25パーセントポイントの利下げが行われる確率を約80%に引き上げ、年内に合計3回の利下げが行われる可能性も高めた。
●中東情勢
●エマージング
世界最低を記録していた韓国の出生率が、2024年に上昇を見せた。過去9年間で初となる。コロナ禍で先送りしていた結婚に踏み切るカップルが増加し、企業と国民に子育て支援を促す政策努力が成果を生みつつある。
ナム・ヒュンジンさん(35)は昨年8月に2人目の娘を授かったが、社会の変化を実感していると語る。その大きな要因は、政府が子育て支援策を拡大し、その取り組みに参加する企業が増えたことだという。
「最初の子が生まれた5年前に比べて、社会全体が出産を奨励するようになった」とナムさんは言う。
さらに重要な点として、「企業文化が出産を奨励するようになっているのが、とても助かる」とナムさんは指摘する。ナムさんの勤務先である建設会社のブヨングループは昨年から、従業員に対して1億ウォン(約1000万円)の出産祝い金を支給するようになった。
こうした社会の変化は、韓国にとって大きな転機になるかもしれない。韓国では、住宅や育児のコストが高騰したため、女性が結婚や子育てよりもキャリアの向上を重視するようになり、過去10年のあいだに出生率が世界最低の水準まで急落した。
このままでは5100万人の総人口が今世紀末には半減する勢いであり、アジア第4位の規模を誇る経済の成長と社会保障制度の維持にとって、人口危機は最大のリスクとなっている。
だが2024年、暗雲の漂っていた韓国の出生率統計に明るい兆しが見えた。出生率は依然として世界でも過去に類を見ない低さではあるが、23年の0.72に比べ0.75に上昇した。出生率低下に歯止めをかけるべく、韓国は少子化対策に何十億ドルも投じてきたが、それでも出生率は15年の1.24から8年連続で低下していた。
回復の大部分は、コロナ禍に延期されていた結婚が増加したことを反映しているが、それ以外のデータからは、単にコロナ禍からの一時的な反動だけでなく、政府の対策が奏功している兆しも見られる。
四半期データによれば、2024年後半に第1子の出生数が11%増加したのに対し、ナムさんのような第2子の出生数は12%増加している。
<まさに転機>
人口政策担当の大統領秘書官を務めるヨー・ヒェミ氏はロイターに対し、「今後しばらくは(出生率が)さらに上昇する可能性が高く、私たちはまさに転機を迎えている」と語った。
現在、弾劾裁判中の尹錫悦大統領は昨年、「国家的人口危機」への対処に特化した新たな省の設立を提案した。効果に乏しかった従来の給付金中心の支援策から、もっと幅広いアプローチを目指すものだ。
ロイターが先週、政策担当者や関連業界の専門家、エコノミスト、韓国の母親らにインタビューを行ったところ、出生率回復の要因として挙げられたのは、仕事と家庭のバランス、保育、住宅という3分野における政府の支援策と、さらに企業に子育て奨励を呼びかけるキャンペーンだった。
韓国政府は今年、上記3つの重点分野に19兆7000億ウォン(約2兆円)を支出する予定で、これは2024年に比べ22%増となる規模だ。
モルガン・スタンレーで韓国・台湾担当エコノミストを務めるキャスリーン・オー氏は、「韓国が直面している人口推移は、世界でも最も困難なレベルにある。政府は6月に「人口非常事態」を宣言したが、それは決して誇張ではない」と語る。
「リアルな危機感が感じられ、関連当局がその場しのぎの対策ではなく、構造改革に向けて動いているのは朗報だ」
昨年実施された政策転換の1つは、父母双方が育児休暇を取得する場合に給与が全額支給される期間を、それまでの最長3カ月から6カ月に延長したことだ。
さらに、父母双方が取得する場合、育児休暇の最長期間が1年から1年半へと延長された。
父親の育児休暇も、最長10日から20日に延長された。中小企業の従業員については、政府が休暇期間中の給与を肩代わりする。
政府は今年から、上場企業に対し、法令で定められた提出文書に育児関連の統計を記載することを義務付けるとともに、政府の少子化対策プロジェクトに対するインセンティブ、中小企業を対象とする助成金を提供するようになった。
こうした政策は実を結び始めているようだ。
23年の婚姻件数はコロナ禍後の反動で12年ぶりに増加に転じ、さらに2024年には、過去最高のペースで急増した。昨年の政府の調査では韓国民の52.5%が結婚に対して肯定的な見方を示しており、14年以降で最高の数値となった。
翰林大学のシン・キュンア教授(社会学)は、「政府は、制度面で打てる限りの手を打っている。今求められるのは、より多くの企業がこうした少子化対策を取り入れることだ」と語った。
昨年、ブヨングループが出産祝い金制度を発表したところ、同社従業員のあいだで出産が急増した。
ブヨンのキム・ジンソン人事部長は、「結局のところ、企業としてもこれが生き残るための手段だ。我が社はアパートを建てるが、そこで生活する人たちが十分にいなければ、アパートだって売れない」と語った。
<対策は道半ば>
大統領代行を務める崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相は今月、「この勢いを生み出すのは難しかったが、しっかりと維持していかなければならない。そのためには、フリーランスや自営業といった、少子化対策の空白地帯になっている部分を急いで埋めていく必要がある」と語った。
とはいえ、特に若い世代の中には、「この勢い」と無縁の人たちもいる。
学生のキム・ハラムさん(21)は、「手放しで喜べることではないと思う。この韓国社会で結婚して子どもや家庭を持つことは簡単ではないし、お金もたくさんかかる」と語った。
韓国で最後にベビーブームが見られたのは1991年から1996年にかけてのことだった。韓国は2030年までに出生率を1まで上げたいとしているが、それでも人口の安定維持に必要な出生率である2.1には遠く及ばない。
前出のシン教授は、人口動態における課題として、非正規雇用の比率が27.3%と高い点を指摘する。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で2番目に高く、OECD平均は11.3%だ。
シン教授は、「この国では大企業と小企業、正社員と非正規労働者の格差が非常に大きい。少子化対策の制度を万人向けのものにするために、政府にはさらなる工夫が求められる」と語った。
長らく敬遠されてきた中国の不動産関連株を、一部の大手ヘッジファンドや投資家が安値で買い集めている。不動産業界が長引く危機から回復すれば大きなリターンを得られると見込んでいるためだ。
投資家によると、主要都市で住宅が値上がりし、政府が業界トップである万科企業の支援に動くなど不動産業界はこのところ明るい兆しが出ており、今年が転換点になりそうだ。
もっとも、投資家は慎重に銘柄を選別しており、狙いを国有の大手住宅開発会社と最大手のオンライン不動産仲介会社に絞っている。
上海重陽投資管理(運用資産50億ドル)の王慶会長は「当社は最近、一部の大手国有不動産開発会社株を追加で取得した。不動産業界が持ち直していることと、勝者総取りの理屈に基づいた判断だ」と話した。「第一級都市(大都市圏)では土地取引が回復している。われわれが注目しているのは、今も積極的に土地を購入しているのがこうした一部業者だという点だ」と述べ、こうした企業は市場シェアを拡大しているとの見方を示した。
中国の不動産セクターは過去3年余りにわたり、債務危機の影響から空売りの際に筆頭の標的となってきた。とりわけ中国恒大や融創中国など大手民間開発会社の相次ぐ経営破綻によって市場では業界全体に対する不信感が深まっていた。
しかし最近の投資家心理の動向からは、中国政府が昨年9月以降に打ち出した市場安定化策や不動産業界における合従連衡の進展によって投資家が再び同セクターに対する信頼を取り戻しつつある様子が読み取れる。
香港に拠点を置くヘッジファンド、ゴールデン・ネスト・キャピタルも一部の国有不動産会社株を購入し始めている。最高投資責任者(CIO)のスタンリー・タオ氏は「確かに新築住宅の販売量は半減したが、それ以上に開発業者の数が減っている」と指摘。不動産セクターが安定すれば、長年敬遠されてきた銘柄が非常に大きく反発すると予想している。
香港市場に上場する中国本土の不動産株は今月に入って15%余りも急騰し、ハイテク株に次ぐ上昇ぶりとなっている。
<人気集める不動産情報サイト株>
米不動産情報サイト、ジロウの中国版とも称されるオンライン不動産売買プラットフォームの貝殻找房(KEホールディングス), がアジアの有力ヘッジファンドの間で人気を集めている。
香港拠点のヘッジファンド、アスペックス・マネジメントは2024年第4・四半期に、米上場のKEホールディングスの株式651万株を追加で購入した。またWTアセット・マネジメントも昨年第4・四半期にKEホールディングスの株式を4000万ドル強で220万株買い増した。
KEホールディングスは春節(旧正月)後の主要都市での中古住宅販売の好調やハイテク技術の進化が追い風になっていると、シティ・リサーチの不動産アナリスト、グリフィン・チャン氏は今週のリサーチノートで分析した。
資金繰りに苦しんでいた不動産最大手の万科企業が2月初旬に政府の支援策を受けたことも市場心理の大幅な改善につながった。多くの投資家はこの支援が節目となり、他の大手開発会社の債務不履行リスクが大幅に低下すると受け止めた。開発会社の多くは過去3年間に80%以上も株価が下げたが、KEホールディングスなどの株価は2月に入って急反発した。
ピクテ・アセット・マネジメントのアジア部門を率いるジョン・ウィサー氏は「不動産株はそろそろ転換点に近づいていると思う」としつつ、実際にこうした銘柄に投資するかどうかは政府主導による一層の業界再編の有無や不動産価格の動向次第だと慎重な姿勢も見せた。
中国の不動産市況の回復は今のところまだ初期段階にすぎない。小規模都市では売れ残り物件の問題が続いており、今後の見通しを巡って投資家の間で意見が分かれている。
UOBケイ・ヒアン・ウェルス・マネジメントのワン・チー最高投資責任者(CIO)は「これはあくまでトレーディングの機会だ。一過性のものかもしれないが、それでも3-6カ月間は投資のチャンスがあるのではないか。こうした銘柄は極めて割安で、50%の値上がりは普通にあり得る」と、短期売買に期待を寄せた。
ココ・ウェンさん(31)は中国政府の補助金制度を利用し、米アップルのスマートフォン「iPhone」を販売価格の3分の2程度で買い換えた。ただ、同時に他の支出をカットしている。
「自分の誕生日は素敵な食事で祝う習慣だが、今年はスキップする」とウェンさん。新型コロナウイルス禍前に比べて中国人の外国旅行が減ったため、勤務している旅行代理店の給与は以前より減っている。
このため「家族の支出習慣が変わり、必需品しか買わなくなった」と話し、今では外食を控えて自炊している。
中国政府が直近で打ち出した大型の消費刺激策は、電気自動車(EV)や家電、電子機器の買い換え時に補助金を出すというものだ。しかし、他の支出とのトレードオフが起こる。
この制度によって家計は短期的な支出を増やすが、結局は補助金の出ない財やサービスへの支出を減らすことになる。消費者は家電やEVを何年も買い換えない可能性があるため、制度が利用されると将来の支出が減る恐れもある。
ANZのシニア中国ストラテジスト、シン・ジャオペン氏は「5、6年のサイクルで見れば有害かもしれない」と語った。
現在の対策はこうした弱点を持つため、当局は3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人代=国会)で、長期的な効果のある消費拡大策を打ち出すよう迫られている。
米国による関税引き上げに直面しているだけに、消費拡大の重要性は一段と増している。
中国は昨年、5%の経済成長目標を達成するため輸出に大きく頼った。しかし、関税引き上げが浮上する以前から、輸出依存戦略は過剰設備とデフレ圧力を生むとの懸念が語られてきた。
S&Pグローバルの首席アジア・エコノミスト、ルイス・クイジス氏は「中国は深刻な過剰設備問題を抱えている。これは国内で価格と利益を圧迫し、対外的には中国の輸出に対する反発を増幅させている。消費を増やせば非常に有効だろう」と語った。
クイジス氏は消費拡大の観点から、「政府が医療、教育、社会保障における役割と支出を拡大する何らかの計画を打ち出すことを切に願う」と述べ、全人代でそうした政策が浮上するかもしれないとの見方を示した。
<消費拡大の掛け声は大きく>
中国政府が発表する新たな政策はほとんど知られていないが、当局はこれまで、今年は所得、年金、医療補助の引き上げを通じて消費を「力強く」押し上げると約束している。
ただ、問題はその規模だ。
昨年の全人代で、政府は農村部を中心に最低年金を月額20元(2.76ドル)増やして123元とし、約1億7000万人がその恩恵を受けた。しかし年間の増加分は国内総生産(GDP)18兆6000億ドルの0.01%にも満たない。
中国はGDPに占める個人消費の割合が40%未満と、世界平均より約20%ポイント低い。これに対して投資の比率は20%ポイント高い。
この差を縮めるのは大仕事だ。
アナリストによると、それには税制を変更し、所得拡大を犠牲にして資本のリターンを追求する長年のインセンティブを反転させ、企業および政府部門から消費者へと資源を再配分する必要がある。
年金、医療保険、失業保険を拡充してセーフティーネットを強化し、家計が安心して支出できるようにすることも必要だ。
また、農村部と都市部の大きな格差の原因になっているとされる独特の戸籍制度の撤廃を進めれば、農村部から都会に出稼ぎに来ている労働者の購買力が高まるかもしれない。
しかし、こうした政策はどれも、短期的には安定と成長を損なうとの懸念を生じさせる。輸出セクターから資源をシフトさせ、習近平国家主席が技術分野における中国の競争力を高める上で重視する「新質生産力(技術革新)」が後回しになるからだ。
ローディアム・グループのアソシエイトディレクター、カミーユ・ブルノワ氏は「中国政府は国内消費てこ入れの緊急性を認識しているが、これまでの政策対応は、中国の経済モデルを有意に変えるのに必要な構造改革にはほど遠い」と語る。
ローディアムの試算では、消費押し上げに必要な構造的政策改革にはGDPの約30%に相当する資金が必要になる。
<債務拡大>
中国の李強首相は全人代で、2025年の成長率目標を約5%に据え置くと予想されている。短期的に経済を揺るがすような政策変更は間近に迫っていないようだ。
経済発展の新たなエンジンに切り替えることなく高成長を維持するには、債務を増やすしかない。貿易摩擦と不動産危機が続いている今は特にそうだ。
李氏は今年の財政赤字が拡大し、特別国債の発行額が過去最高に達すると発表する見通しだ。ある政策顧問は匿名を条件に「われわれは、外的なショックが経済成長に影響を及ぼすのを防がなければならない。消費拡大は、投資および貿易拡大の取り組みと併せて鍵を握る」と明らかにした。
中国国家統計局が1日発表した2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.2に上昇し、3カ月ぶりの高水準となった。新規受注と購買量の増加により生産活動は堅調に推移し、景況拡大・縮小の分かれ目となる50を上回り、景況拡大に転じた。1月は49.1、ロイターがまとめたアナリスト予想中央値は49.9だった。
サービス業と建設業を含む非製造業PMIは50.4となり、1月の50.2から上昇した。
5日に開幕する全国人民代表大会(全人代=国会)を前に、政府が昨年打ち出した新たな景気刺激策が奏功していることが示された格好だ。
ただ、トランプ米政権との報復関税の応酬で、景況拡大が持続するかどうかはまだ分からない。全人代では経済目標や新たな政策の発表が見込まれているほか、投資家は苦境にある不動産セクターへのさらなる支援があるかにも注目するだろう。
政府は全人代で2025年の成長率目標を約5%に据え置く見込み。だがアナリストらは、とりわけ米国との貿易摩擦激化を踏まえると、政府が低迷する需要をどれだけ早く復活させられるのか不透明だと考えている
保銀投資(ピンポイント・アセット・マネジメント)のチーフエコノミスト、張智威氏は「PMIデータは前月比で算出されるため、1月と2月の旧正月関連の季節要因の影響を受ける可能性がある」と指摘。正確な検証にはさらなるデータを待つ必要があるとしながらも、「製造業のデータは比較的安定している」と述べた。中国の1─2月の貿易統計は7日に発表される。
2月PMIの内訳では、新規輸出受注、出荷価格、雇用の指数が全て50を下回ったが、前月から上昇した。雇用の指数は引き続き22カ月ぶり高水準だった。
●プロファイ、インフラ、自然災害
●その他
●市況(ChatGPTによる要約版)
- **為替市場**: ユーロが下落し、1.0359ドルまで下落。米ウクライナ首脳会談の決裂が影響。ドル指数は0.23%上昇し107.61。FRBの6月利下げ観測は79.1%に上昇。ドル/円は150.59円で上昇。  
- **債券市場**: 10年国債利回りは6.4bp低下し4.216%。トランプ・ゼレンスキー会談決裂で国債利回りがさらに低下。  
- **株式市場**: S&P500は一時下落後、回復して上昇。デルが4.7%下落、エヌビディアとテスラは4%近く上昇。VIX指数は21.26に上昇。  
- **商品市場**: 金先物は1.64%安の2848.50ドル、週間で3.55%下落。原油先物(WTI)は0.84%安の69.76ドル、週間で0.90%下落。
**ロンドン株式市場**はまちまちの結果で終了。  
- **FTSE100種指数**は最高値を更新し、2月は1.57%上昇。  
- **FTSE250種指数**は0.43%下落。  
- 住宅価格の上昇を受けて住宅建設株指数は2.07%上昇。  
- **ライトムーブ(+4.3%)**、**IMI(+5.8%)**、**IAG(+4.0%)**は増収・増配見通しで買われた。  
- **モルガン・アドバンスト・マテリアルズ(-16.2%)**は通期減収見通しで急落。  
**欧州株式市場**はほぼ横ばい。  
- **STOXX欧州600種指数**は週間で0.60%上昇。  
- **テクノロジー株(-1.51%)**、**資源株(-0.69%)**は下落。  
- **ヴァレオ(-11.2%)**は通期業績が低調で急落。  
- トランプ氏の関税措置表明が市場の重荷となる一方、米利下げ期待が投資家心理を支えた。  
**ユーロ圏債券市場**では、ドイツ2年債利回りが一時10週間ぶりの低水準。  
- フランスとドイツのCPI発表を受け、欧州中央銀行(ECB)の利下げ観測が強まる。  
- ECBは来月の理事会で追加利下げを実施する見込み。